1000 * 1000 ~生まれ変わった井河扇舟、桐生美琴の助手になる~   作:天木武

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第10話 闇の街の探偵

 ◇

 

 私が美琴のところで家政婦のようなことをし始めてから数ヶ月が経っていた。

 

 最初の大掃除こそ大変だったものの、それ以降は炊事、洗濯、買い出し、たまに掃除という程度で、まさしく「家政婦」状態であった。

 多くの暇な時間を鍛錬に割けたため、体の状態は義体のおかげということはあるかもしれないが、心の方はかなり良くなったようにも思える。忍法を併用しての動きにも自信が持てるようになってきていた。

 

 さらにその後、センザキにも赴いて美琴の仕事の手伝い……らしいこともこなしている。

 その時に右手部分が大きく破損したのだが、美琴の手によって既に完全に直してもらっていた。

 

 しかし美琴の助手、というには少し違うような気もしている。それに、ヨミハラではまだ仕事らしい仕事をしていない。静流の依頼を受けに行くことも考えてはいたのだが、まずはヨミハラで主の手伝いをしたいという思いが生まれていた。

 

「ねえ、美琴」

 

 朝食用に焼いたパンとスープとサラダをテーブルに運びながら、私は口を開いた。

 

「うーん、おいしいスープ。……で、何?」

 

 当然のように美琴は私を待たずにスープをすすっている。

 彼女は前日の夜が遅いと朝起きてこないことすらあるのでこうやっているだけでも珍しいのだが、食欲がそこまででもないのでパンはいらないと言われてしまった。

 まあいつものことなのであまり気にはしないし、スープを褒めてくれたからむしろ上機嫌なのだが。

 

「私ってあなたの助手、ってことでいいのよね?」

「ええ、助手よ。だからこうしていつもおいしいご飯作ってくれてるんでしょ?」

「私の料理を褒めてくれるのは嬉しいわ。でも助手、というのはなんだかまだちょっと物足りないような気もしてね……。あ、あとパンは無理でもサラダなら食べられるでしょ? 体のために食べなさい」

 

 ブー、と口を尖らせつつ乱暴にサラダを口に運ぶ美琴。もし子供がいたらこんなやり取りをしていたのだろうかとふと思ってしまう。

 

「じゃあ何、もっと私の助手らしい仕事がしたい、ってこと?」

「まあ、平たく言ってしまえば」

「センザキに行ってくれたじゃないの」

「あれを助手の仕事と考えていいかどうか……。あと、ヨミハラではまだ何もやってないようなものだし」

「この街でやることか。うーん……。まあ無いわけじゃないんだけど……」

 

 どうも言葉の切れが悪い。

 

「なんというか、こう『いかにも助手!』って仕事はないのよね。研究云々はほぼ私が好きでやってることだし、診察関連も私1人で間に合ってしまってる。……まあ私から言わせてもらえば、あなたがそうやって動いてるだけでもデータが取れてるから、それだけで十分助手ではあるんだけど……」

「つまり、私に出来ることは今やってることとか、センザキに行ったみたいに小間使いがせいぜい、ってこと?」

「まあ……。悪い言い方をすればそうね。結局お使いをさせるみたいなことになっちゃうから、期待には沿えられないかなって」

 

 格好良く美琴の手伝いをしたい、というわけではないが、思っていた助手のイメージからはどうしても遠くなってしまいそうだとは思った。

 

「だから静流の店を早くに紹介したのね」

「それはあるかな。でもそれでもいいって言うのなら、さっき言ったお使いになっちゃうけどやってもらいたいことがないわけじゃないわよ。勿論センザキの件ほどハードじゃないし」

 

 美琴にしては珍しく遠慮しがちな言い方だった。もしかすると私に雑用のようなことばかりやらせているのを申し訳なく思っているのかもしれない。

 ……いや、ないか。多分私の考えすぎだろう。

 

「わかった。そういうお使いでも構わない」

「あなた……真面目よね。本当に昔は残忍な女だったの?」

 

 全く、思い出したくない記憶を思い出させようとする。やっぱりさっきのは考えすぎだったと結論づけた。

 

「仮にも命を救われてるんだから、手伝えることがあるならやりたいってだけよ。それに善行ってわけじゃないけど、償い方がわからない以上はそういうことを積み重ねていくしか無いっても思ってるだけ」

「やっぱ真面目だわ。親さえまともならもっといい人生歩めたでしょうに。……まあいいわ。その件に関しては昼前ぐらいにお願いしたいから、これ片付けて一息ついて、あと2時間ぐらいしてからラボに来て。そこで説明するから。じゃあごちそうさま」

 

 そう言うと一方的に会話を打ち切って美琴は立ち上がった。スープは全部飲んだようだが、サラダが微妙に残っている。

 まったく、と思いつつ残ったサラダを口に運んで私も朝食を終わらせると、ごちそうさまでしたと一言呟いてから片付けるために席を立った。

 

 

 ◇

 

 美琴の言う「お使い」とは最近来ていない患者に調子はどうか尋ねてきて欲しい、というものだった。詳しくは文書を用意したので、それを相手に渡してもらえばいいと言われている。

 

「彼女、本当にしょうがない状況にならないと私を頼らないのよ。だから私が行くよりあなたが行くほうが向こうにもよさそうだし。まあよく考えたらこれも十分助手としての仕事になるから、頑張っていってらっしゃい」

 

 どうやら朝はただ調子が乗っていなかっただけらしい。

 エンジンがかかった美琴は普段のように私にそう言ってお使いを任せてきた。確かに美琴の言う通り助手の仕事と言えばそう言えなくもない。とりあえず任された仕事はすませるかと、記してある住所へと向かった。

 

 場所は娼館や安酒場が並ぶ通りの片隅にあった。再度メモを確認してからドアをノックしてみる。

 

「すみません、桐生美琴の使いで来た者だけど……」

 

 美琴の言い方だと、相手は出来れば美琴に関わり合いたくない、というようにも聞こえた。もしかしたら門前払いを食らうかも知れないと思っていたのだが。

 

 私の心配とは裏腹に、ゆっくりとドアが開いた。が、そこに立っていた人物を見て私は言葉を失った。

 

「美琴の使い……? あなた、初めて見る顔だと思うけど、美琴とはどういう関係で、要件は何?」

 

 その言葉はほとんど耳に入らなかった。目の前に現れたその顔から目が離せなかったからだ。

 

「アサギ……!?」

 

 そこに立っていたのは“私”の姪である井河アサギと同じ顔をした女だったのだ。

 しかしよく見ると少し違う。1番目につくのはその両腕。私と同じように機械じかけの義手になっていた。

 

「……そう。あなた、私の“オリジナル”を知ってるのね」

 

 鋭い目が細められ、ポツリとそう呟く声が聞こえた。それでハッと我に返る。

 

 まずい。完全に警戒心を抱かせてしまった。美琴も前もって言っておけばいいのにと思ったが、面白がって黙っていたか、あるいは忘れていたか。帰ったら問い質したほうがいいかもしれない。

 兎にも角にも、まずは怪しまれずにこの場を切り抜けるのが最優先だ。私は美琴に教えてもらっていた、彼女も以前静流に使った「非常時の設定」を思い出す。

 

「あ……。ごめんなさい。昔似ていた人に会ったことがあったみたいで……。ただ、記憶が一部怪しいところがあるから詳しくは思い出せないんだけど……」

 

 これでどう出るか。

 

 目の前の“アサギ”は私を値踏みするように見つめていた。その視線が腕と足に移った時、眉がわずかに動くのがわかった。

 

「……私と同じ機械の腕と脚か」

「これは元々だけど、美琴に助けてもらった時に新しいものに換装してもらったの。重傷を負ってた私を彼女が助けてくれて。でも大怪我のショックで、さっき言ったように記憶が一部あやふやになっていて……」

「あの女が人助け? 随分珍しいこともあると思うけど……。まあ話としては筋が通ってるか」

「人間性は壊れてると思うけど、命の恩人だし感謝はしてる。だから名目上は助手、ってことでこうやって色々手伝ってるのよ」

 

 私の目をじっと見て、観念したかのように彼女はため息をこぼした。

 

「……まあいいわ。これ以上立ち話も何だし、入って頂戴」

 

 ようやく家の中に入ることを許された。が、彼女の前を通ろうとした時に耳打ちするようにそっと囁いてくる。

 

「……私は井河アサギのクローンよ。そのことで悩んだりした時期もあったけど、今は私は私だと思ってる。あなたの記憶のことはわからないけど、あくまで別人だと思って。ちなみに、皆私のことは『探偵』って呼んでるから」

「……ええ、わかったわ、探偵さん」

 

 なるほど、確かにアサギではあるが、よく見ると少し前に五車で戦ったアサギより若く見える。以前のアサギのクローンなのだろう。

 

「お邪魔します」

 

 まだ完全に私を信用したわけではなさそうだが、とりあえずこれで任された仕事はこなせそうだと思う。

 部屋の中には他にも数人が居座っていた。

 

「ん? どうした探偵、客か?」

 

 声をかけてきたのは手元に刀を置いた剣客風の女だった。どうも対魔忍の気配を感じる。

 しかし妙なのはその膝の上に白いワンピース姿の小さな少女を乗せて頭を撫でながら、というところだった。

 

「ええ。美琴の使いらしくて。……そういえばまだ名前も聞いてなかったわね」

「ミリオンよ」

「一応紹介しておくわ。今声をかけてきたそこに座ってるのがふうま亜希(あき)

 

 ふうま、という名字に思わず目を見開きかける。

 

 ふうま一門にとって、前の当主である弾正(だんじょう)の命を実質奪ったと言ってもいい私は憎まれて当然の存在だ。

 しかし亜希という名前は弾正の反乱の際に聞かなかったような気もする。見た目の年齢から考えるに参加していてもおかしくはないはず。少数は中立を貫いた者もいると聞いていたが、それだろうか。

 

「あと彼女の膝の上に乗ってるのがナーサラ。かわいい顔をしてるけど……別次元から来た規格外の存在よ」

「ナーサラ、規格外。でも、かわいい」

「うんうん、ナーサラちゃんはほんとかわいいねぇ」

 

 ふうま亜希が満面の笑みを浮かべながら、膝の上に乗ったままの無表情で片言な少女の頭を撫で回している。

 

 ……既にすごい絵面だ。が、私は視線を動かしてさらに強烈な光景をちらりと見る。

 

「それからそこのソファで寝転がってる鬼族がフランシス」

 

 ビキニでも着てるのかという格好で爆睡している、ギャルとしか言いようのない鬼族が目に入る。ソファの近くには酒瓶が転がっており、鬼族がいることも信じられないが、まだ昼にもなっていないこの時間から酔い潰れて寝ているのも信じられない。

 

「あとは……」

「戻りました、探偵さん。……あら? お客さんですか?」

「……今入ってきたのがユーリよ」

 

 現れたのは目元をアイマスクで覆った、まだ少女とも呼べるような女性だった。

 だがユーリというその名前は聞いたことがある。五車襲撃の際、戦力候補として名前が上がっていた「雪の魔娼(ましょう)」。凄腕の暗殺者だ。

 

 ヤバすぎるところに足を踏み入れてしまったと若干後悔した。

 アサギのクローン、ふうま一族の対魔忍、異世界の生物、力だけなら人間の比ではない鬼族、そして雪の魔娼。下手なマフィア組織なんぞより遥かに高い戦闘力を保持しているのではないかと思えてくる。

 

「奥にもまだいるにはいるけど、今は勉強会中だし後でいいでしょう。それで、すっかり用件が後回しになっちゃったけど、美琴の使いだったわよね? 私とユーリは美琴の患者だし、亜希も世話になったことはあるけど、どういう話?」

「最近来ていない患者の様子を見て来て欲しいという名目で、とにかくこれを渡してくれればわかる、と言われて……」

 

 私はアサギ……いや、探偵に美琴が預かった封書を渡す。それを読み進める彼女の表情が渋くなるのがわかった。

 

「ユーリ」

「はい?」

 

 帰ってきたばかりのユーリを呼び止め、探偵は彼女の前にも私が渡した文書を差し出した。アイマスクの片目部分だけをずらして中身を追った後、こちらも苦い顔になったのがわかった。

 

「……ミリオン、あなたこの中身について把握してる?」

「いえ、美琴には渡せばわかるって言われただけで……」

「そう……。書いてあることはほとんど社交辞令。『何かあったらまたよろしく』ぐらいのレベルよ。あとは一応あなたの紹介があったけど……」

「これ、もしかして美琴さんは……ミリオンさんでしたっけ、あなたの紹介のためにわざわざお使いをお願いしたってことなのでは……」

 

 探偵に続いてユーリの補足を聞いて私は思わずため息をこぼす。

 なるほど、美琴が遠慮がちに頼むわけだ。自分の用事はほぼ形式的、私の顔合わせが目的だったのかもしれない。

 だとするならば、やはりクローンアサギの件は前もって教えておいてもらいたかったとも思ってしまう。

 

 と、その時。

 

「おい探偵、こっちは勉強会中だぞ。来客かもしれないが、もう少し静かに頼みたい」

 

 奥の部屋から少女が顔を出した。衣装こそ女教師、という感じで眼鏡もかけているが、どこをどう見ても女の子だ。

 ……しかしここまでの流れでよくわかっている。この事務所に普通の人がいるわけがないのだ。おそらく強大な力を秘めた存在だとか、実は数百年生きた魔族だとか、そういう存在なのだろう。

 

「そんなに騒いだつもりはなかったけど……。うるさかったならごめんなさい。ああ、ついでに紹介しておくと、彼女はミリアムよ」

「一見普通の女の子だけど……。彼女も何かワケありでしょ?」

 

 好奇心には勝てなかった。私はそう尋ねてみる。

 するとミリアムと紹介された少女は嬉しそうにその質問に食いついた。

 

「おお!? わかるか! お前はなかなか違いがわかるようだな! そう、私は今でこそ力を封印されてこんな格好になってしまったが、かつては大魔女だったのだ!」

 

 ……本当に予想が当たるとは思わなかった。

 やはり私は今ヨミハラでノマドの次ぐらいに危ないかもしれない場所にいる可能性があると思えてくる。

 

「よし、今来ている弟子も紹介してやろう。ほれ、挨拶」

「あ、えっとこんにち……あれ? 確か……ミリオンさん?」

「グィネヴィア!?」

 

 ここでようやく普通の人間が出てきてくれた。静流の店で見かけたメイドの格好でバイトをしていた少女のグィネヴィアだ。

 

「あなたどうしてここに?」

「私、バイトが休みのときとか空いてる時間はここでミリアム先生から魔術を教わってるんです。そういうミリオンさんは……あ、美琴さんのお手伝いですか?」

「まあ、そんなところ」

「あなたたち知り合いだったの?」

 

 探偵が問いかけてくる。

 

「ええ。静流の店に行ったことがあったから。……でもあの1回だけなのによく私のこと覚えていたわね」

「そりゃ覚えてますよ! オーク相手に2対1なのに相手の攻撃をかわしてババーンって倒しちゃって! すごい美人さんなのに強くてかっこよかったから覚えてるに決まってます!」

 

 寝ている鬼の子以外の視線が一気に私に向けられた。

 

「……少し訂正させて。まずあの時は美琴にケンカを止めてこいって言われて仕方なく止めに入っただけ。そうしたら静流が外に出てケンカしようとしてた2人を相手にしろみたいなこと言い出したから仕方なくやることになって、しかもババーンとは倒してない。ちょっと投げはしたけど、その程度。後はリーナって子が仲裁に入ってくれたからそこで終わり。ほんとそれだけ」

「でもオーク2人を手玉に取ってたのは事実ですよ!」

 

 グィネヴィア、お願いだから話をややこしくしないで……。

 

「謙遜してはいるけど多少なりとも腕は立つ、ということね。まあだから美琴も助手にしてるってこともありそうだけど。……それにしてもあの美琴が手伝いとはいえ人を雇うような真似をするとはね」

「探偵さんの後半部分に同意ですね。私も目の件で助けられてて、腕がいいのは確かですけど癖もかなりですから……。正直なところ、ミリオンさんはよくあの人のもとで助手とかやってるな、って思っちゃいますよ」

「そうだよ。あいつ私のこと2週間も拘束して……」

 

 探偵、ユーリに続いて亜希も何かを言おうとしたが、直後にその場のほぼ全員に「あれはお前が悪い」と突っ込まれて黙ってしまった。

 

 と、亜希の膝の上に乗っていたナーサラが何やら犬のように鼻を鳴らし始めた。

 

「探偵。クッキー、そろそろ」

「ああ、そうだった。ありがとう、ナーサラ」

 

 探偵が部屋の奥へと入っていった。そこからかすかに甘い匂いがしてくる。

 

「クッキー?」

「ええ。探偵さん、料理がお上手なんですよ。お菓子作りも得意みたいで」

「ナーサラちゃんはあいつの作るクッキーが大好きなんだ。このリスさんポシェットにいつも入れてるんだよ。ねぇ、ナーサラちゃん」

「探偵のクッキー、おいしい。食べるの大好き」

 

 へぇ、と思わず感嘆の声を上げる。そういえばお菓子作りに挑戦したことはない。大昔に何度かやったかどうか、というレベルだ。

 

「いい感じにできたわ。ミリオンもよかったら焼き立てどうぞ。ただ、もうすぐお昼だから1人1枚ね」

 

 小皿にクッキーを乗せて探偵が運んできてくれた。グィネヴィアも含め、全員がパッと1枚ずつ取っていく。遠慮しても悪いし、何より興味もあったので、残った最後の1枚を口に運ばせてもらった。

 

「……おいしい!」

 

 思わず声のボリュームが上がってしまった。

 

「うんうん、いつもの味だ」

「探偵、さすが。ナーサラ、とても評価」

「ありがとう」

 

 ここのメンバーからするといつもの味だったようだ。探偵の表情がフッと緩む。その表情に、思わずあっと声をこぼしそうになった。

 

 そういえば、彼女と同じ顔を持つ姪っ子のあんな笑った顔を最後に見たのはいつだっただろうか。

 アサギが当主についてからは互いに反目しあい、命を狙い合う間柄だった。母に言われるままに私もアサギを憎んだ。なのに、彼女は最終的に私に温情をかけてくれた。

 

「ミリオンさん……どうしました?」

 

 クッキーを一口食べたまま固まっている私を見て、グィネヴィアが不思議そうに声をかけてくる。

 

「もしかして口に合わなかった?」

「でもさっきおいしいって言ったのを私は確かに聞いたよ」

「あ、えーっと……。おいしくて感心してたの。私は美琴の助手ってことで炊事も担当してるけど、お菓子作りはやったことがなかったから……」

「……なあ探偵、今の口調だと彼女、お菓子作りやってみたいってことじゃないか?」

 

 不意に亜希がそう口を開いた。

 

 正直興味がある。それに邪な考えかもしれないが、姪と一緒にお菓子作りをしてるような感覚になるかもしれない、とも思ってしまった。

 

「……ミリオン、どうなの?」

「作ってみたいのは事実ね。……まあ美琴からお菓子に対する詳細な感想はあまり期待できないけど」

「それは同意。でもまあ……あなたがやってみたいなら、悪くないわね。今度時間がある時、一緒にやってみましょうか」

「あ! 私もお願いしたいです!」

 

 グィネヴィアも乗ってきてくれた。少し心強い。

 

 アサギと同じ顔を持つからかもしれないが、私は彼女に興味がある。一緒にお菓子作りをしたいというのも、もしかしたら姪が相手では叶わなかったことが出来るという下心があってだということも否定しきれない。

 だけど、そうではない気持ちも確かにあると感じていた。

 

「いいわね。多いほうが楽しそうだわ」

「そして私たちは食べる専門、と。ねぇ、ナーサラちゃん」

「食べる専門、役回りとしても、おいしい」

「んー……。何、食べ物の話……? ふぁあ~……お腹減ったー……」

 

 そこで今までずっと眠ったままだった鬼ギャルが目を覚ましたようだった。眠そうに目を擦りつつ、私の方を見つめてくる。

 

「……その人誰?」

「美琴の助手をやってるミリオンよ。私たちの様子を見に来るって名目で、顔合わせにきたの」

「……あ! じゃあさ! 顔合わせなら懇親会ってことでご飯食べいこうよ! 私の腹時計だと丁度お昼のはずだし! 私の紹介はそこで!」

 

 時計を見る。少し早いが、確かに昼時だった。

 

「食事会か……。悪くないかもね」

「でっしょー! 味龍行こうよ、味龍! あそこの料理お酒に合うし!」

「えぇ……。まだ飲むんですか……」

 

 ユーノがフランシスに突っ込むが、半分意識の外でそれを聞いていた。

 

 味龍。そう、私は目を覚ましてから結局行けずにいたのだ。

 1人で行くのが心細かったというのがあるかもしれないし、私が別人になったとはいえあの3人とどう顔を合わせていいかわからない、そういう思いもあったからかもしれない。

 

 だから今、「美琴のお昼の用意をしないといけないから」とかなんとか、適当なことを言ってこの場を去ることも考えた。

 ……のだが。

 

「味龍か、いいわね。ミリオン、あなた味龍に行ったことは?」

「え、えっと……。おいしいと噂は聞いてたけど、行ったことは、まだ……」

 

 探偵に話を振られた時に、拒絶しきれなかった。やはり心の中では行ってみたいという思いがあったのかもしれない。

 それにいつかは行きたいと思っていたところだ。この機会でも悪くないだろう。……美琴には遅めの昼食か栄養食で我慢してもらうことになるけど。

 

「じゃあ決定で! よーし、じゃあ食べて飲むぞー!」

「コラー! まだグィネヴィアとの勉強会が途中なんだ、勝手に話を進めるなー!」

「まあまあミリアムちゃん、腹が減っては戦はできぬだよ。まずはご飯を食べようよ。グィネヴィアちゃんもそれでいいでしょ?」

「えっと……実はお腹すいてて……」

「お腹、空いた。お昼ごはん、楽しみ」

 

 もはや探偵事務所のメンバーの収集はつきそうにない。

 探偵の方へ視線を移すとやれやれと溜息をこぼしているようだった。

 

 美琴も大変だが、このメンバーも全員癖があるし大概だと思う。

 彼女の苦労を思うとどうにも他人事のようには思えないのだった。

 

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