1000 * 1000 ~生まれ変わった井河扇舟、桐生美琴の助手になる~   作:天木武

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第7話 犯罪都市・センザキ その2 ~ギャングスター 金崎銃兵衛~

 ◇

 

 エリカが言うセンザキの顔役は闇カジノの管理人、ということだった。

 そんな場所に果たして入れるものかと多少不安はあったのだが、エリカが名を告げると入り口のガードマンはあっさりと通してくれた。やはり彼女は傭兵としてなかなかの存在のようだ。

 

「ちょっと待ってて、ミリオン」

 

 そう言うと、エリカは慣れた調子で近くにいたボーイと何やら話し、すぐに戻ってきた。

 

「手慣れてるのね」

「まあここには何回か来てるし、ここの責任者である銃兵衛(じゅうべえ)とも顔なじみだからね」

 

 得意げにそう言うエリカ。……だったのだが。

 今さっき声をかけたボーイが無線で何やらやり取りをした後、都合が悪そうな顔を浮かべつつこちらに近づいてきた。

 どうにも嫌な予感がする。

 

「申し訳ございません、エリカ様。銃兵衛様に連絡を取ろうと思ったのですが、アポイントメントを取られていないということでして……」

「は!? そんなはずないでしょ! ちゃんと取ったわよ! もう1回確認して!」

「何度確認しても変わりありませんので……。申し訳ございません」

 

 嫌な予感的中。

 こうなってしまってはもう取った取れてないの水掛け論だ。エリカはエリカでヒートアップしてヤスがなだめようとしているが効果は薄そうである。

 と、いうよりも。

 

 改めて考えるとここもまたヨミハラ同様の闇の街だ。つまり傾向としてヨミハラに近いものがあるといえる。

 そもそもここは闇カジノ。刺激を求めて人々が集まる場所である。そこを取り仕切る責任者もまた、同じように刺激を求める存在なのだろう。私はそう仮定しつつ、視線を動かして店内を見渡す。

 

 案の定、こちらに向かって歩いてくる、ガードマンと思われる大男が5人ほど。なるほど、やはりかと私は確信した。

 

「……エリカ」

 エリカとボーイの間に割って入り、男たちに背を向ける形で、私はエリカを真正面から見据える。

 

「何よ! 私はちゃんとアポ取ったからね! それを……」

「下がってて。いい? 何があっても絶対に手を出さないで」

 

 そこまで私が告げたところで、ドンと肩に手を乗せられた。相手は確認するまでもない、さっき見かけた大男だろう。

 

「お客さん、トラブルはご勘弁願いたい。表に出てもらおうか」

 

 有無を言わさない声だった。が、私は落ち着いた姿勢を崩さないまま、エリカに目で下がるように訴えかける。

 彼女は私の意図を汲んでくれた。数歩後ろに下がり、私の周りにスペースが出来る。

 

 これで舞台は整った。

 私は肩に置かれた手に自分の手を重ねる。そして――。

 

「……ハッ!」

 

 自分の重心と一緒に相手のも落としつつ、気合いの声とともに相手の腕ごとひねる。握られた腕を軸に私より高身長の大男の体が宙に舞い、背中から床へと落ちた。さらに追撃で水月に一撃御見舞しておく。

 

「グアッ……!」

「貴様!」

「うわっ! ケンカだ!」

 

 残ったガードマンが戦闘態勢に入る。同時に客たちも異変に気づいたらしい。遠目からざわつきながらこちらに視線が集まってくるのがわかる。

 

 だがそんな客連中にかまっている暇はない。眼の前の相手は完全に臨戦態勢だ。

 まずは先頭にいた相手が右の拳を振り下ろしてきた。

 その軌道を見切る。振り下ろされた右腕を左手で掴んで引き込み、勢いも利用して足を払う。

 対魔殺法・桐壺。それも右手がフリーな状態で放った派生版だ。床に転ばせると同時にその空いた右手で追撃。

 

「ガハッ!」

 

 ガードが出来ない状態、かつ背中から落ちたことで息を吐いた瞬間に腹部に打ち込まれた一撃に大男が悶絶する。これで2人。

 

 3人目はより警戒度を高めたか、警棒を取り出していた。空気を唸らせそれが振り下ろされる。

 得物の分リーチが長く、今回は間合いに入りれない、と瞬時に判断。大きく飛び退いてやり過ごす。

 

 相手は横薙ぎに切り替えて間合いを詰めてきた。狙われているのは体だ。

 私は空けた間合いの分を今度は踏み込む。射程内と相手が判断して警棒が横に振るわれる瞬間、身をかがめてタックルの要領で右腕を使って軸足を刈った。

 

「はああっ!」

 

 そのまま前に飛び込み、水月に左手の掌を当て、押し込むようにして倒す。タックルの加速と男の体重分の力で床に叩きつけられる瞬間、発勁の要領でインパクトを加えた。これで3人。

 

「シッ!」

 

 が、その攻撃後の隙を突かれ、立ち上がる前に4人目のサッカーボールキックが顔面目掛けて飛んできた。回避は間に合わない。両腕を交差させてガードする。

 とはいえ、大男の体重の乗った蹴りだ。ガードごと威力が伝わってきて思わずぐらついて背中をつけそうになる。

 

「女子の顔を狙うなんて、嫌われるわよ」

「男女平等主義なんでね」

 

 軽口を叩きつつ一旦間合いを空け直して立ち上がったが、相手は攻撃の手を緩めない。一気に踏み込みながら軽く左の突きを2発放ってくる。距離を測るジャブ。だがキレが良い。1発目は頭を動かして回避に成功したが、2発目はそれが難しいと判断。咄嗟に右手で払う。

 それを待っていたかのように、相手は本命の右の突きを放ってきた。ジャブの段階で感じていたが、これまでの3人より明らかに手強い。脇がしまって体重の乗ったいい突きだ、と本能的に悟る。本格的に武道を心得ている相手の動きだ。

 

「対魔殺法……」

 

 よってもう出し惜しみは無しにすることにした。多少のダメージは覚悟してもらう。ここまでは投げてから追い打ちのスタイルできたが、純粋な打撃と、さらには忍法による身体強化を加えることを決めた。

 こういう状況を想定して助手の仕事の空いている時間に鍛錬に打ち込んできた。先日の武装難民との戦闘では忍法までは使わないまでも、思った通りの打撃を放つことが出来た。

 

 だから今回も出来る。自分にそう言い聞かせ、意識を集中して忍法を発動した。

 

 身体が強化されたことで一気に軽くなったように感じる。踏み込みながら右の突きを左手でいなしつつ、そのままカウンターとなる形で水月に掌底を打ち込んだ。

 

雲隠(くもがくれ)ッ!」

 

 ドンッ! という思いっきり床を踏み込んだ音と共に放った掌底を受け、2メートル近くある大男の体が吹っ飛んだ。そして背中から落ち、動かなくなる。

 式武の型の中では異端に属する、純正打撃によるカウンターの一撃。完璧に決まれば肋骨を破壊し、場合によっては心臓へと衝撃を与えて死に至らしめるほどのダメージとなる。

 だが無論、力は調整した。とはいえ、間違いなく気絶、下手をすれば肋骨を何本か折ったかもしれないが、それでも命に別条はないはずだ。

 

 フゥ、と息を吐きつつ残心。さて最後の1人は、と視線を移すと、苦笑いで両手を広げていた。降参の合図だろうか。

 

 そう思うと同時、どこからともなく手を叩く音が聞こえてきた。

 目を移すと派手な金髪を逆立てた青年が笑みを貼り付けながら拍手をしているようだった。

 

「いやーお見事お見事。知り合いが腕の立ちそうな(あね)さんを連れてきたから少しからかってみようとしたら大やけどするところだった。……お客の皆様、お騒がせして悪かった。ちょっとした余興みたいなもんだ。間近で見られてスリルあっただろ? 気にせず皆ゲームを続けてくれや」

 

 「ああ、確かに」という声や、「下手なギャンブルよりドキドキするの見ちゃったわ」などという呑気な声が聞こえてくる。

 とはいえ、兎にも角にもこの男がおそらくこの闇カジノのオーナー、エリカの言うセンザキの顔役ということだろう。

 

「おう、お前ら大丈夫か?」

「はい……。すみません、ボス……。情けないところを……」

「気にすんな、完全に相手が悪かった。達人クラスの使い手だよ、こりゃ。とはいえ、それでも所詮は言い訳、ガードマンの仕事しては失格ってことになっちまうけどな。だから鍛錬は欠かすなよ。……おい、そっちの1番ヤバそうなのは?」

「多分大丈夫です。気を失ってるだけっぽいんで……」

「その人だけ一段強いって判断したから少し本気を出すしかなかった。怪我をしたようなら私が謝ってたって伝えておいて」

 

 その言葉を聞いてクックックとボスの男が笑う。

 

「あれで少し本気かよ。底が知れねえ。……おいエリカ、とんでもねえの連れてきやがったな」

「ちょっと銃兵衛! どういうつもりよ! いきなりケンカふっかけてきて……」

「闇の街の挨拶みたいなものでしょ。あなたが見たことのない女を連れてきたからちょっとからかおうって感じの。……別に私は気にしてないわ」

 

 明らかに不自然に断ったボーイと間違いなくアポを取ったというエリカ、そしてここに初めて来る私。この条件から考えるに、ヨミハラ同様見世物としてケンカを仕掛けてくるだろうという予想したわけだが、見事に的中したわけである。

 

「それよりエリカが協力を取り付けてるはずなんだけど、そっちの方は守ってもらえる?」

「ああ、勿論だ。美人の頼みを無碍にはしねえからな。俺のプライベートルームに来てくれ」

「プライベートルームねぇ……。私にそのつもりはないから、って一応断っておくわ」

「おおっと、こいつはキツいねえ。ケケケ」

 

 銃兵衛と呼ばれた男は軽口を叩きつつも顎をしゃくってついてくるよう指示する。エリカに確認すると了解を意味するように頷き、ついていくことになった。

 

 カジノのフロアからスタッフ用の廊下に出たところで銃兵衛は私たちを待っていた。そして私と視線を合わせてニヤッと笑ってから歩き出す。

 

「しかし驚いた。美人の姐さん連れてきたかと思ったら、腕も良けりゃ気っ風(きっぷ)も良い。マジにいい女だ。……エリカから聞いてるかもしれないが俺は金崎(かんざき)銃兵衛。このカジノと、あとはまあ一応この街の顔役みたいなことをやってるギャングスターだ」

 

 そこで指を2本立ててビシッと銃兵衛がポーズを決めた。ちょっとついていけないのでスルーを決め込む。

 

「……ほんとつれねえなあ。まあいいや。で、姐さんの名前は?」

「ミリオンよ。ヨミハラの魔科医、桐生美琴の助手をやってるわ。ここに来たのは、この街の業者から仕入れた荷物が届かなくて苛立ってる美琴の機嫌を直すためよ」

「桐生美琴……『鬼腕の魔科医』か! とんでもねえ奴の付き人だ。そりゃ強いに決まってるわな。……大怪我しない程度に投げからの鳩尾か腹部に一撃で3人、最後の1人だけ少し本気と言ってやはり鳩尾にカウンターで打撃。ケケケ、教科書に載せてもいいような、恐ろしいほどに綺麗な格闘を見ちまったぜ。まああいつらに武器を使わせなかったとはいえ、あれじゃうちのガードマンがまるで歯が立たないわな。とはいえ最後のやつなんてフロアチーフだぞ。格闘技経験も豊富で腕は抜群だったってのによ」

 

 言っている内容こそ文句と捉えられそうだが、銃兵衛の口調はまるでそんなことを感じさせない。私やガードマンへの非難の気配はまるでなく、純粋に「面白いものを見せてもらった」と言いたげだった。

 

 銃兵衛のプライベートルームに着く。

 

「まあ適当にかけてくれや」

 

 そう言い終わらないうちに彼はドカッとソファに腰掛けて足を組んだ。私は立ったままでもよかったのだが、エリカに座るよう促されて並んで座る。結果、ヤスを立たせることになってしまったが、エリカもヤスも何も言ってこないからまあいいだろうと思うことにした。

 

「さて、エリカ。何か俺に協力してほしいんだって?」

「ええ。実は……」

 

 エリカはさっき私が聞いた内容を再び銃兵衛に説明していく。最初こそヘラヘラ笑いつつ「強化外骨格程度なら倒せるだろ」と茶々を入れていた銃兵衛だったが、発信機の行き先が倉庫街だったという話を聞くと顔色が変わった。

 

「……それは間違いないのか?」

「間違いないわよ。ほら」

 

 荷物の中から取り出されたタブレットが机の上に置かれた。センザキの大まかな地図のようだったが、そのうちの一箇所が点滅している。

 それを見て銃兵衛は舌打ちをこぼしながらソファに寄りかかった。それからため息をこぼす。

 

「……悪い。もしかしたら力になれないかもしれねえ」

「ハァ!? どうして!? 場所までわかってるのよ、顔役のあんたならなんとかできるでしょ!」

「それがそうもいかねえんだ。……その倉庫の管轄はこの街でも有力な組織のひとつ、流星会ってところでトップは権堂って奴なんだがな。最近になってトップが兄から弟に代わったんだ」

 

 銃兵衛が言わんとしていることがなんとなく予想が着いた。裏社会ではよくある話だ。

 

「……弟が乗っ取ったのね」

「端的に言っちまえばな。兄弟揃って過激派ではあるんだが、兄貴の方はまだ分別が着いた。俺が睨みを効かせりゃ手を引いたし、やっちゃいけないラインはわきまえていた。だが弟はその辺がわかってないようなやつでな。自分のシマを拡大することしか頭にねえ。どうにも手に負いきれなくて俺も困ってるところなんだ」

「じゃあ丁度いいじゃん、私が持ち込んだこの話を口実に潰しちゃえば?」

 

 とんでもないことをサラッと言うエリカ。

 

「あのなあ、この街はそういうヤバい連中の微妙なバランスでどうにか成り立ってる街なんだぞ? それが崩れたら、最悪の場合この街全部を巻き込んでの抗争なんてことにもなりかねねえんだ。そうじゃなくても連中、何かと周囲を挑発してきて事を荒立てがってやがる。そういう意味で、今大した証拠もなしに下手に踏み込んだりしたら向こうに暴れる口実を与える形になりかねない。だから今回協力できるかわからねえって言ったんだ」

「なるほどね。ヨミハラも似たようなものだからあなたの言わんとしていることはわかるわ。でも申し訳ないけど、うちの美琴にその辺の事情を説明しても全く納得してくれないと思う。多分こう返されるでしょうね。『そっちの事情は関係ない。さっさと私の荷物をよこせ』」

「ククク、とんでもねえ女だ。よくそんなのの助手なんてやってられるな」

「命救われちゃったからね。人間性は壊れてるけど、腕が確かなのは事実だし」

 

 そこまで話すと、私も銃兵衛も思わずため息をこぼしていた。

 

 解決策が見つからない。銃兵衛の後ろ盾があれば、荷物が運び込まれたとされる踏み込むのが困難な場所も調べられると思ったのだが、それも厳しそうな状況。

 

「……わかった。銃兵衛の協力が得られないなら、私ひとりでも行く」

 

 その時。何かを決意したようにエリカがそう切り出した。

 

「あ、姉御!?」

「いや、お前何考えてんだよ? 行って『倉庫の中見せてください』って言ったところで門前払いは当たり前、問答無用で命取りに来る可能性もあるんだぞ?」

「そんなこと言ったってこのままじゃどうしようもないじゃん! 場所はわかってるのに!」

「お前を信用してないってわけじゃないんだが、その発信機しか証拠がないってのもな……。ってかなんでそんな入れ込んでんだ? 荷物見つけたら金を払う、ぐらいは言われてるかもしれないがだとしてもちょっと不自然だ。……そういやお前、さっき運送会社の名前言ってなかったよな? どこだ?」

 

 うっ、と思わずエリカがたじろぐのがわかった。

 それを見て銃兵衛は標的を変えてすかさず畳み掛けに入る。

 

「おい、ヤス。どこだ」

「へ、へいっ! ビャクゴク運輸っす!」

「コラ! ヤス! なんで言っちゃうの!」

「だ、だって……。銃兵衛さんに逆らうなんて怖すぎっすよ……」

「なるほどな。金金言うお前にしては珍しいと思ったんだ」

「……ごめんなさい。説明してくれる?」

 

 既に銃兵衛は納得した様子で、エリカは対象的にどこか悔しがっているようだ。……ヤスはエリカに対して申し訳無さそうにしてるが。

 

「こいつが傭兵駆け出しの頃からの付き合いの運送屋なんだよ。そんなでかい会社じゃないんだがな。一応のギャングの後ろ盾こそあるものの、この街じゃ珍しく代々続く老舗でカタギの運送会社なんだよ。で、ずっと世話になってるこいつとしてはなんとかしてやりたいと思ったってところだ。そうだろ?」

「……ええそうよ! 荷物は絶対に守り抜くつもりだった。でも強化外骨格3体とドローン多数が相手なんてさすがに無理。そんな規模で襲われたことなかったし。だったら荷物だけは取り返して、会社の面目だけは保ってあげたいの! これでいい!?」

「ケケケ、オッケーオッケー、素直なのは良いことだ」

 

 小馬鹿にしたように、満足そうに笑う銃兵衛。だがひとしきり笑った後で、その顔からスッと笑みが消えていく。

 

「……しかし、だとすると非常に奇妙なことになる。あそこは流星会のシマだ。自分のシマの運送会社襲って何の得があるかね?」

 

 その銃兵衛の一言で、私は最初にエリカと話した時に抱いた違和感を思い出す。圧倒的戦力差を見せつけて荷物だけ奪った。それが少し引っかかっていた。

 今度はそこに大組織が自分のシマの運送会社を襲った、という条件も加わる。

 

「……自作自演」

「ちょっとミリオン、どういう意味!?」

 

 ポツリと呟いた言葉にエリカが噛みついてきた。説明しようと思ったが、私より先に銃兵衛が口を開く。

 

「俺もそれはあるんじゃねえかって考えた。だがどっちにも得がない。……どうも少しキナ臭いな。エリカ、ミリオンの姐さん、明日まで待っちゃくれねえか? ちょっとばっかしこっちで探りを入れて調べてみる」

 

 ここに来てから初めての進歩な気がする。私としては満足だった。

 

「ええ、わかったわ」

「……しょうがないわね」

「おいエリカ、早まったマネするなよ。ちゃんと調べるのは約束する。あと姐さんに宿でも紹介してやれ」

「はいはい、わかってるわよ。その代わりホント頼むわよ。じゃあ行くよ、ヤス、ミリオン!」

 

 エリカは立ち上がって部屋を後にしようとする。ヤスが慌てて追いかけ、私もそれに続こうとした。

 ふと、思い立って銃兵衛の方を振り返る。最初に見せた軽薄な表情は完全に消え、何かを深刻そうに考え込んでいるようだった。

 

 

 ◇

 

 カジノを出た頃には日は傾き始めており、夕食はエリカたちと一緒にさっき食べ損ねたカンザキ食堂で食べることにした。

 センザキの老舗なだけのことはある。味龍と比べても謙遜のない味で、私は満足だった。一方でエリカは私に鼻の下を伸ばした様子の少年店員にお冠のご様子だったが……。

 

 その後、比較的治安の良い地区の宿を紹介してもらい今夜の寝床も決まった。

 寝るにはまだ早い時間だが、やることもやれることも特に無い。……と思ったのだが、そういえばこっちに来てからまだ美琴に何の連絡も入れていなかったことに気づく。

 現状の報告じゃ満足はしてくれそうにないが、とりあえずしておくのが義務というものだろう。

 

 そう思って連絡を入れて説明をしたまではよかったのだが……。

 反論を許さぬ声色で、美琴は電話口ではっきりと言い切った。

 

『わかった。話がこじれそうだし待ってるだけだとイライラしてしょうがない。だから、私もそっちへ行くわ』

 

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