鬼滅の刃 もう一人の鬼の王   作:マルルス

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前回の柱会議から一か月後…
とある場所にある藤襲山で鬼殺隊の最終試験が行われる。




ようやく時間軸が第一話から進みました。


最終選抜

藤襲山。

その山は鬼が忌み嫌う藤の花が一年中周りを囲むように咲いており山には多数の鬼が閉じ込められていた。

何故このような山で鬼を閉じ込めるのか? この藤襲山で育手に育成された隊士候補達は一週間、多数の鬼が潜むこの山で生き延びるという過酷すぎる試練を乗り越えて初めて鬼殺隊の隊士に成れるのだ。

当然ながらその過酷すぎる内容の為に生きて生還出来るのはほんの僅かだ。片手の指で数えられる程である。

 

そして今夜、各地の育手から送られた25人の隊士候補がこの藤襲山にやってきたのだった。

 

(ここが最終試験の場・・・。周りの人達は皆、俺と同じ隊士候補の人達なのか・・・?)

 

辺りを見渡すながら額の痣がある少年、竈門炭治郎は緊張しながらも試験の時を待っていた。

炭治郎は元々、炭を売って生計を立てている一家の六人兄弟の長男として生きてきた。

貧しい生活だったが長男として炭を売って家計を支えながら頑張ってきたがある日、その生活が音もなく壊れた・・・。

炭を売り終えて家に帰る最中、血の匂いを嗅ぎつけ急いで戻ると家は血の海だった…。母と兄妹がズタズタにされて殺されていた。

ただ一人生き残ってたのは妹の竈門禰豆子だけだったがその妹は人食い鬼という怪物になっていた。

炭治郎を見ると食い殺そうと襲い掛かってきたがそこに報告を受けた富岡義勇が駆け付け自分と禰豆子を引き離した。

妹は手遅れだと言い禰豆子を殺そうとするが炭治郎は義勇を説得し禰豆子に子守歌を聞かせると禰豆子は炭治郎に襲い掛かる事はなくなり静かに眠りのついたのだ。

それを見た義勇は炭治郎に鬼殺隊に入れと説いた。鬼殺隊として鬼を狩っていけば妹を戻す方法が見つかるるかもしれないと・・・。

妹以外、家族が失った炭治郎はその言葉に従い義勇に告げられた場所に向かいそこで育手を務める鱗滝左近次に出会い彼の厳しすぎる修行を乗り越えてこの選抜試験に行く許可をもらったのだ。

 

(禰豆子・・・待っててくれ・・・! 俺は必ずお前の元に戻るからな!)

 

左近次の家で昏々と眠り続けている妹を思い炭治郎は気合を入れる。

 

「どうしよう・・・どうしよう・・・どうしよう・・・

俺絶対に死ぬよ…」

 

ふと耳に入ってきたのはガタガタを怯えている黄色の髪で黄色の着物を着込んだ少年を見る。

 

「あの・・・大丈夫ですか…?」

 

「うわ…! きゅ・・・急に話しかけないでくれよ…ビックリしたじゃないか…!」

 

「ご・・・ごめん・・・」

 

あまりの怯えぶりに心配した炭次郎は声をかけると少年はびっくりさせるなと炭治郎を責めた。

 

「爺ちゃんもどうかしてるよ…! 俺なんかが鬼殺隊に入れるわけがないじゃないか…。

あぁ…でも逃げ出したら爺ちゃんに殺される・・・」

 

「えぇと・・・俺、竈門炭治郎(かまどたんじろう)って言うんだけど君は?」

 

ブツブツと弱気の言葉を繰り返す少年に炭治郎はどうしようかと気を紛らわせようと思い自己紹介をしてみる。

 

「えっ? あ・・・俺は我妻善逸(あがつまぜんいつ)

でも・・・どうせ死ぬから覚えなくていいよ…」

 

ネガティブな感情のままに答える善逸に炭治郎はどうしようと悩んでいたときだった。

 

「皆さま。これより最終選抜を始めます。」

 

「!?」

 

声が聞こえた方へと目を向けるといつの間にか綺麗な着物を着込んだ少年・少女が立っており周りには多数の隊士達が守るように囲んでいた。

 

(富岡さんだ! それに周りにいる人達・・・とても強い・・・!)

 

炭治郎は恩人である富岡義勇が見て声を掛けようとしたが富岡に近くに居る隊士達の刺すような気配に思いとどまる。

 

「皆さまには今日から七日間、この藤襲山で鬼を狩りながら生き延びてもらいます。」

 

「無事合格された方には隊士として日輪刀が渡されます。

何か質問はある方はいますか?」

 

その言葉に多数の者が手を挙げた。

 

「ちょっと待ってください!

多数の鬼が潜むこの山で七日間も生き残れなんて無茶ですよ!

食料や寝床だってどうするのですか!」

 

「そうだ! もしも鬼に殺されそうになった時とかどうするんだよ!!

何が食べられるのかそんなの教わっていないんだぞ!!」

 

あんまりな試験内容に集まった隊士候補達は不満の声を上げる。

自分達は確かに鬼を倒す術や呼吸法を育手から学んだが山で生き延びる方法なんて教わっていないのだ。

 

そんな状況なのに多数の鬼が潜んでいるこの山で七日間も生き残れだって・・?

無茶苦茶すぎる・・・!

 

「今晩は皆さま、私は鬼殺隊の柱を務めていただいております胡蝶しのぶと申します。

質問内容ですが、まず食料ですがそれぞれに七日分の食料を渡しておきます。寝床についてはそれぞれ安全と判断した場所にしてください

そして山には私を始めとした鬼殺隊の最高戦力である【柱】の方々や経験豊富な隊士達が監視しています。

もし無理だと判断したらすぐに救援を要請するかまたは私達が判断して助けに入ります。ただしそのかわり不合格としますので慎重に判断し動くようにお願いします。

それでも無理だというなら今のこの場で辞退してください。剣士ではなく隠の者として働いてもらいます。」

 

声を出したのは蝶の髪飾りをつけた少女で蟲柱の胡蝶しのぶだった。

食料を渡すが寝床は自分で何とかしろとの事だがそれでもまだ隊士候補達から不満の声が消えなかった。

 

「本当に安全なんですか? この山には弱い鬼しかいないと言ってますがそれも本当なんですか?」

 

「たったの七日分の食料しかないないなんていくら何でも難しいよ…。最低でも三週間分は欲しい・・・。」

 

「やってられねえよ…。合格させる気あんのか?」

 

ザワザワと騒ぎ出す隊士候補達。しかしその隊士候補達の態度に苛立ったのか・・・

 

「貴様ら・・・。黙って聞いておけばグチグチと五月蠅いぞ。

そもそも本来ならこの最終選抜には我々のような試験官もいないし監視役も居ない。こちらも貴様らに構ってる程ヒマではない。

そこの胡蝶が言うように嫌ならさっさと此処から消え失せろ。臆病者や雑魚など必要ない」

 

口元を布で隠した青年、蛇柱の伊黒小芭内は殺気を出し候補者達を威嚇するように語り掛ける。

その伊黒の気迫を当てられた候補者達はピタリと黙り込んでしまう。中には腰が抜けてしまう者もいた。

 

「やめろ伊黒。言い過ぎだ。」

 

「本当の事だろう。鬼殺隊に気概がない者など必要ない。

自分だけが死ぬだけならまだしも周りの者にも被害が及ぶ。鬼殺隊に必要なのは優れた剣士だ。

そうじゃない者は隠になって後片付けをしていればいい」

 

水柱の富岡義勇は言い過ぎだと嗜めるが伊黒はそれがどうしたと気にも留めていない。

 

「本来ならここには50人の候補者達が居たというのに有坂は半数の25人を引き抜いていったと聞いてる・・・!

このままだと改革派が影響力が増して奴と奴の信奉者共がはますます図に乗るぞ・・・! お前はそれが分からないのか?」

 

伊黒が苛立っている原因は知恵柱の有坂勇三郎の事だった。伊黒は有坂を嫌っており同時に有坂を危険視しておりこのままだと鬼殺隊は有坂に乗っ取られると危惧している。

出来るものなら有坂を排除したい、もしくは奴の影響力を下げて好き勝手が出来ない様にしたいと考えてる

 

「お前は何を言ってる…。

確かに有坂は問題行動があるが奴は奴なりに鬼殺隊の事を考えている。

有坂も仲間だぞ・・・! そんな言い方は辞めろ」

 

「お前は奴の態度を見ておきながら本気でそう言ってるのか…!」

 

伊黒は富岡に殺気を出しながら睨んだ。富岡は表情は冷静だが利き手に日輪刀の柄を掴んでいる。

今にも互いに殺し合いを始めようとしてた。

 

「お二人共! いい加減してください!

皆が怖がってますよ!」

 

一瞬即発の危機の中、待ったを掛けたのが怒りを滲ませる胡蝶しのぶだった。

言われてみれば候補者達は酷く怯えていた。

柱階級の隊士二人が殺気を滲ませて互いに睨みつけて居ればそうなって当然だろう。

それを見た二人はバツが悪そうに離れる。

 

「お見苦しい所を見せて申し訳ありません…。

しかし先ほども言いましたがこの試験は大変危険です。生半可な実力では合格するのは不可能です。

ですので自信が無い方は今すぐ辞退してください。辞退してもなじる気は一切ありません。皆さんの判断を尊重します。」

 

真剣な表情で候補者達に語り掛けるしのぶ。

その言葉に決心がついたのか一人また一人と辞退する者が現れた。

 

「しのぶさん・・・!帰して宜しいのですか・・・

今、鬼殺隊が人手不足なのはしのぶさんもご存じのはずです・・・! 」

 

監視役として連れてこられた隊士の一人が異議を申し立てる。

 

「分かっています。

だけど伊黒さんの言う通り実力がない者がこの試験を受けても死ぬだけです・・・。

この試験がどれほど過酷なのかは貴方も知っているはずです。例えが運よく合格しても長くは生きれません」

 

「・・・。」

 

しのぶの言葉に隊士は黙り込む。

何度も言うがこの最終試験は本当に過酷なのだ。鬼を倒すだけでなく餓えとも戦わなければならず運の要素も関わって来るし一つ欠けたらこの試験を乗り越えることが出来ない。

しのぶは数分ほど待つと候補者達からはもう辞退する者が居なかった。

 

「ここに残ってる方々は試験を受ける覚悟があるとみて宜しいでしょうか?

最後にもう一度言います。辞退するなら今ですよ。辞退しても私達は貴方方を責めたりしません」

 

しのぶはもう一度候補者達に語り掛ける。

それでも辞退する者は居なかった。

 

「良いでしょう。では今から試験を始めます。

各自、藤襲山に入って下さい。」

 

その言葉に隊士候補者達は意を決して山に登り始め炭治郎もまた覚悟を決めて藤襲山に入山したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

時間が最終選抜が始まる前に戻る。

 

 

「ふぅん・・・アレが藤襲山か。

成程、山の周りを囲むように藤の花が咲いてやがる。まさに牢獄だな」

 

ハイゼンベルクは鬼殺隊入隊の最終選抜が行われる藤襲山に来ていた。

 

「まだ一年しか経ってないのに何だか懐かしく感じます」

 

ハイゼンベルクと隣に佇む少女、北沢鈴子(きたさわすずこ)は懐かしむように藤襲山を見ていた。

 

北沢鈴子

 

彼女は三か月前にハイゼンベルクがゾルダートの素体集めの際、ただ一人ハイゼンベルクに命乞いをして鬼殺隊を裏切りハイゼンベルク一味の仲間に加わった少女だ。

そんな彼女を藤襲山(此処)に連れてきたのは理由がある。

 

「懐かしむのは良いが・・・分かっているな?

お前が此処にいる理由(ワケ)を」

 

「はい・・・! 承知してます。

私はあの山に行き鬼殺隊隊士を斬れば宜しいのですね」

 

ハイゼンベルクは鈴子を連れてきた理由・・・それは鈴子に本当に自分の忠誠を誓っているのかの試験であり鬼殺隊の決別の意味もある。

 

「覚悟は出来ています。

カナエ様から真実を聞かされた以上、最早未練などありません」

 

ハイゼンベルクの仲間になった鈴子は美麗治村に住む事なりそこで胡蝶カナエに出会った。

最初こそ身構えたがカナエもまた自分と同じく鬼殺隊を抜けた者だと分かり安緒した。そしてカナエから産屋敷一族の秘密と目的を知らされ産屋敷一族を滅する事を決意したのだ。

 

(私の人生はあいつらのせいで狂ったんだ…!

絶対に許さない…! 必ず思い知らせてやる!)

 

鈴子は迷いなど無かった。産屋敷一族に自分の怒りを受けさせる・・・それが鈴子の決意だった。

 

「申し上げます。」

 

ハイゼンベルクと鈴子の前に一匹の鬼が現れる。

 

「現在、隊士候補と思われる少年・少女達が藤襲山に向かっております。

それと鬼殺隊隊士と思われる者達もおります」

 

「そうか。鬼影(おにかげ)、お前は引き続き山を監視しろ。

それが済んだらお前はこの鈴子と共に鬼殺隊を始末しろ。山に居る鬼にはこの菌を吸わせて仲間にしろ。

それでも歯向かうなら始末してもいい」

 

「は!」

 

返事すると鬼影は再び監視へと戻っていった。

 

鬼影

 

この鬼は鈴子と共にハイゼンベルクの仲間となった鬼だ。

彼の血鬼術は己の影を実体化してその視線を同調出来る事だ。実体化した影は戦闘能力こそ無いものの気配は感じ取れず敵に見つかる事がない。例え見つかって攻撃されても本体には一切影響がない。

さらに影がある場所ならどこでも実体化が出来る上に10体まで複製できるので偵察や監視に持ってこいの能力なのだ。

 

「ハイゼンベルク様。

原重殿カラ伝言デス・・・。ゾルダートノ機動準備ガ完了シタトノ事デス」

 

鬼影が去って今度はギンが現れゾルダートの出撃準備が終わった事を報告された。

 

「よし。()()()()は問題は無いか?」

 

「ハッ 投入地点ニハ見張リハイマセン。

鬼殺隊ハ山全域マデハ監視ガ出来テオラズ人手不足ガ影響シテルカト思イマス」

 

「そうか。結構痛みつけてやったからな。補充するのだって一苦労だろう」

 

鬼殺隊は政府非公式の組織なので民間企業みたいに募集が出来ない上に呼吸法の鍛錬もあるから新しい人員を補充するのは難しいのだ。

 

「タダ・・・鬼影ノ情報ニヨレバ50人ノ候補者ガイタソウデスガ半数ノ25人ガ別ノ所ヘト移サレタトノ事デス。」

 

「その話は知っている。何でも知恵柱という奴が半数を持っていたと聞いてるが・・・。」

 

(知恵柱か・・・。原作にはそんな奴など居なかった。カナエによれば他の連中とは考えが違って隊士の生存を重視して必要があれば一般人を見捨てる事もあるそうだが・・・。

原作には居なかった現実主義者というところか?)

 

ハイゼンベルクは知恵柱の有坂勇三郎という人物に警戒を抱いてる。何故なら有坂勇三郎は鬼滅の刃には存在しない人物だ。

カナエが言うには鬼殺隊は改革派という派閥があって有坂はそのトップだという・・・。産屋敷を信奉する派閥である保守派とは折り合いが悪く互いにいがみ合っているそうだ。

有坂も他の柱とは仲が悪いとか・・・。

 

(鬼殺隊は良くも悪くも鬼を殺すためなら自分がどうなっても構わないぶっ飛んだ連中ばかりだったがその有坂って奴は他の連中とは全く違う

組織の戦力を重視して確実に鬼を倒す為に綿密に計画を立てて必要あらば民間人も切り捨てる・・・。厄介な奴だ)

 

原作のキャラとは大きく違う有坂にハイゼンベルクは危険視する。もしかしたら鬼殺隊殲滅に大きく立ちはだかる存在かも知れないからだ。

 

(考えても仕方ないか・・・。今は主人公である()()()()()()()()することに集中しよう)

 

今回の攻撃で一番の目標は竈門炭治郎の抹殺することだ。

炭次郎は主人公として数多くの強敵を倒してあの無惨を追い詰めるほどの実力を手にする。もしかしたら自分にも届く実力になるかもしれない…そうなる前に藤襲山で始末するのだ。

 

「そろそろ時間だ。ギン、原重に伝えてゾルダートと菌根兵を山に送り込め

鈴子、お前も行け」

 

「ハッ」

 

「はい!」

 

ハイゼンベルクの指示に鈴子とギンは動きだした。

 

「炭治郎…お前には恨みが無いがここで退場してもらうぜ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山に入って一時間が経っただろうか?

炭治郎は警戒しながら慎重に前に進む。

 

「鬼がいるって聞いたけど…出くわさないな・・・?もっと奥にいるのかな」

 

山に入ってから何も出くわさない事に炭治郎は不思議に思う。 辺りは真っ暗に覆われ静かなものだった。

 

「だけど何でこうも胸騒ぎがするんだ…? 何か大きな事が起こりそうな感じだ」

 

生まれつき匂いで相手の感情が理解できる炭治郎の感覚が警戒音を鳴らしていた。この静かな山で何が起きるのか?

 

パァーン

 

「!? 今のは銃声・・・!」

 

遠くから聞こえる銃声に炭治郎は警戒する。

こんな時間でこの山に猟師が居るわけがない…!

 

ゾワリ・・・

 

「・・・!?」

 

急に悪寒が体中に走った炭治郎は咄嗟に身を屈めた。

 

パァーン

 

今度はそう遠くない所から銃声が響きその弾丸は炭治郎の真上が飛んで行った。

 

「・・・!」

 

炭治郎は息を呑み戦慄する。

もしも咄嗟に屈まなかったら今の弾丸は自分は頭を貫いていた・・・! 間違いなく死んでいただろう。

 

「くっ…!」

 

炭治郎は直ぐにその場から逃げ出した。

背後からビュンと弾丸が横を掠める音が響き銃声が轟く。

 

「ヒィ…」

 

弾丸が空気を切り裂く音に炭治郎の口から小さな悲鳴が漏れた。

とにかく木々を盾にして炭治郎は全力で走った。

鱗滝から刀と鬼の倒し方を学んだが銃を持った相手の戦い方なんて学んでいない…。

どうすればいいのか必死に考える。

 

「アレ…追ってきていない…?」

 

背後から気配が感じず銃弾も飛んでこない。

炭治郎は何とか逃げ切ったのだ。

 

ダダダダダダ

 

「!? まただ!」

 

遠くからまた銃声が響く…。

他の人達も襲われているのか…?

 

「怖がるな…! 立つんだ…!」

 

震える体を喝を入れて炭治郎は立ち上がろうとした時…

 

ザザザザザ

 

何かがこっちに向かってくる! 炭治郎は音が鳴った方へ視線を向けると

 

「うわぁ!!」

 

鋭い銃剣が自分の頬を掠めた!

態勢が崩れて炭治郎は地面に転がってしまう。

 

「な…なんだコイツは…!」

 

月の光が相手を照らすと炭治郎は見た。

 

軍服を着込んでおり手には銃剣がついたライフルを持っており軍人かと思ったがその顔を真っ黒で目玉が三つにありギョロリと自分を見ている。

 

(人間じゃない! それにこの匂いはなんだ?! 鬼でもない…!)

 

直ぐに炭治郎は起き上がり日輪刀を構えが相手はライフルを炭治郎に向けて発砲する。

 

「!!」

 

だが炭治郎は銃口の位置から銃弾が飛ぶ位置を予測していた。相手が発砲する瞬間に動き出し体を低く屈んで尚且つ足の速さを殺さずに素早く突っ込んだ。

ピュンと弾丸が掠める音を聞いて息が止まるが相手の懐に入り日輪刀で胴体を斬り裂いた。

相手は大きくよろけり好機と見た炭治郎は覚えた水の呼吸を使った斬撃で相手の首を斬り落とした。

 

(なんだ? まるで固い草を斬ったみたいだ…)

 

奇妙な感触に不気味に思いながらも首を落とすと相手は静かに倒れる。

 

「やった…」

 

ゼェゼェと息を荒げながら炭治郎はペタリと座り込む。

 

(こ…これが最終試験…? あの女の人(しのぶ)はこんなの言っていなかった…)

 

鬼が潜む山とは聞いているが銃を持った怪物の話なんか一つも言っていない…。

一体何が起きているのか炭治郎は理解出来なかった…。

 

「考えても分からないんだ…。他の人達と合流してみよう」

 

暗闇の中、不安と抱きながら炭治郎は再び動き出した。

 

 

 

 

 

一方、藤襲山の別の場所では。

 

 

ダダダダダダ

 

「ヒィィ!! た…助けて…!」

 

ある候補者は泣きながら這いずり回りながら逃げ回っていた。

 

(どうなってんだよ!! 話が違うじゃないか!!

あんな奴らが居るなんて聞いてない!!!)

 

彼はこの山に居るのは弱い鬼だと聞いていた。

自慢になるが自分は剣の腕はいい線をいっていると自負してた。だから弱い鬼なら倒せるかもしれないと踏んでいた。

ところが実際はどうだ? 突然あちこちから銃撃されて一緒にいた仲間があっという間に死んでしまい自分だけになってしまった。

 

(は…早く逃げよう…!! 鬼狩りなんて無理だよ!!

山に下りて失格になった方が良い!)

 

もう合格なんてどうでもいい! 鬼殺隊に入るのはあきらめよう!

迫りくる死の恐怖に心が折れてしまった…。

見つからない様に静かに動くながら山を下りようとするが…

 

チャキ

 

(!?)

 

コツリと頭部に固い何かが押し付けられる。

だけど直ぐにソレが分かった…銃口だ…。三つの目を持つ怪物がライフルを突き付けていた

 

「ぁ…ぁぁ」

 

終わった…自分は此処で死ぬんだ…。

恐怖と絶望にガチガチと歯を鳴らして強く目を瞑った。

 

「えっ…?」

 

何故か銃弾が発射されなかった。

疑問に思った彼は恐る恐る怪物の方を見るとフラフラと揺れており目を凝らすと怪物の頭部が無かった。

そしてドサリと目の前に怪物の頭部が落ちてきた。

 

「うああぁぁl!!」

 

直ぐに後ずさり何が起きたのか分からなかった。

 

「早く逃げろ。この道を下りていけば隊士達がいる。」

 

腰が抜けてしまった彼に声を掛けたのは水柱の富岡義勇だった。

 

「あ…有難うございます…!!」

 

「礼は良い…早く行け」

 

「は…はい!!」

 

候補者は一目散に義勇に教えられた道を下りていく。

それを見届けた義勇は他にも助けを求めてる者達の為に再び駆ける。

 

 

 

 

 

 

 

蟲柱の胡蝶しのぶもまた藤襲山に起きた異変に戸惑いながらも隊士候補者達の救助に駆け回っていた。

 

試験が始まって間もない頃に突然に山中に軍の兵士の服装をした三つ目の人型の怪物達が現れて隊士候補者達、監視に来ていた鬼殺隊隊士に銃撃をしてきたのだ。

突然の不意打ちに経験が高い隊士達が何人も成すすべもなく射殺されてしまった。しのぶを始めとした富岡と伊黒は柱会議で聞いたハイゼンベルク一味が現れたのだと確信した。

 

(コイツらは一体何なの…! 何が目的で私達を襲うのよ!)

 

例のハイゼンベルク一味は何が目的で自分達を攻撃をするのか…?

それが分からないしのぶはイラつきながら銃撃を加えて来る三つ目の怪物…菌根兵に自ら調合した毒を練り固めた日輪刀を突き刺すが…

 

(やはり駄目ですか…!)

 

しのぶが調合した毒は強靭な肉体を持つ鬼を死に至らしめる程の威力だ。

しかし()()()()()()()()|()()()()()()()()()()()()()()()のか先ほどから決定打が与えられなかった…。

何度も日輪刀で毒を打ち込んでも菌根兵は何事も無かったかのように平然としていた。

 

「師範…私がやります」

 

どうすればいいのか…! 対処を考えるしのぶだったが…だがそこに小柄の少女が現れ菌根兵の頭部を斬り落とした。

グラリと力なく倒れる菌根兵に油断なく見据える少女。

 

「カナヲ…」

 

現れた少女を見るしのぶ。

 

栗花落(つゆり)カナヲ

 

彼女は幼い頃、両親に虐待されていた所を胡蝶カナエに助けられて以降、カナエとしのぶを始め蝶屋敷の者達に育てられた。

そんな彼女だが誰かに教わったと訳でもなく見様見真似でカナエの流派である花の呼吸を使えるという天性の才能の持ち主でもある。

 

「…」

 

しのぶの危機を救ったカナヲだったが何処か後ろめたい気持ちでしのぶを見つめていた。

 

「何故、ここに居るのですかカナヲ…直ぐに山を出るように言ったはずよ」

 

怒りを含んだしのぶの声にカナヲは僅かに後ずさる。しのぶは厳しく冷徹な目でカナヲを睨みつけていた。

実はカナヲはしのぶの継子(弟子)であり師弟関係なのだ。

本来この藤襲山の最終試験は育手、師の許可が必要なのだがカナヲは師範であるしのぶに試験を受ける許可どころか話してもおらず勝手にこの最終試験を受けているのだ。

しのぶがカナヲに気付いたのは試験が始める前だ。彼女(カナヲ)の気配を感じたしのぶは戸惑いながらも気づかない振りをして試験を始めた後、直ぐに隠れている彼女の元に向かい

 

何故ここにいるのか?

 

誰の許可をもらったのか?

 

カナヲを問いただすと彼女は誰の許可をは貰っていない、自分の意志で藤襲山(ここ)に来たと言った。

 

「カナヲ…貴方は私どころか()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のは許される事ではありません。

今は非常事態だから後にしますが処罰を覚悟しておくように」

 

自分の意志で来た。

その言葉にしのぶは内心、驚くがそれを顔には出さず師範として継子であるカナヲに厳しい言葉をぶつけた。

 

「分かりましたね? 今すぐこの山に離れなさい」

 

そう言ってしのぶは異変が起きてる藤襲山に入っていったのだが…。

 

 

「師範の事が心配で…コインも表が出たから…」

 

カナヲはしのぶにコインを見せる。彼女は幼少期の虐待の影響で自分の意志で決める事や動くこと事が出来なかった。

そこで自分を拾ってくれた胡蝶カナエは彼女に表・裏と書かれた銅貨を与えてその出た結果で動くことにしたのだ。

表が出たから師範であるしのぶの言いつけを破って彼女の加勢に来た。

 

「…仕方がありません…

カナヲ、共に行くことは許可します。ただし二つ約束しなさい

自分の身を第一に考える事ともし危なくなったら私を置いて直ぐに逃げる事です

良いですね?」

 

強引に追い返してもカナヲは自分に着いて来るだろう。そう考えたしのぶは已む得ず同行を許可した。

カナヲもしのぶの約束にコクリと頷く。まだ山中に銃声が響く中、しのぶとカナヲは移動を始める。

 

「ヤット見ツケタゾ」

 

「「!?」」

 

不気味な声に二人は直ぐに日輪刀を構える。

 

「見ツケタゾ…。オ前ガ、柱デアル胡蝶しのぶダナ?

ソッチノ方ハ確カ…栗花落カナヲダッタカ?」

 

現れたのは鬼だった。

しのぶは警戒するが疑問が湧きあがる。

 

「貴方は鬼ですね?

それよりどうして私達の名前を知っているんですか?」

 

目の前の鬼は何故か自分達の名前を知っている。鬼を憎むしのぶにとってはとても不愉快な事だった。

 

「フフ…オ前ラノハ()()()カラ聞イテイル。」

 

「!? 何故姉さんを知っている…!」

 

「仲間ダカラナ。オ前ラノ事ハ良ク話シテクレタゼ

オット自己紹介ガマダダッタナ。俺ハギンダ。ヨロシク」

 

その言葉にしのぶは怒りが沸きあがる。

姉を仲間と言った…つまり

 

「貴方は例のハイゼンベルク一味ですね」

 

「ソノ通リ」

 

「なら姉さんはどこだ…! 姉さんに何をした!!」

 

怒りと憎悪に囚われた表情で前の前の鬼、ギンを睨みつける。

 

「何ヲシタ? ソウダナ…怪我ヲ治シタ事ト()()ヲ教エテヤッタ」

 

「真実…? 何を言ってる…!」

 

「知リタケレバ本人ニ聞クンダナ。

時間ガ惜シイ…始メルトシヨウカ。出テコイ!!」

 

ギンが叫ぶと奥から()()()やって来る…!

 

「紹介シヨウ。

ハイゼンベルク様ノ力ノ一ツデアル鋼ノ軍団ノ兵士、()()()()()ダ!」

 

「なっ…これは…!」

 

「っ…!」

 

奥から現れたゾルダートの軍団にしのぶとカナヲは戦慄する…。

今まで多くの鬼を狩ってきたしのぶすらゾルダートの異形の姿に恐怖してしまう。

 

「クク…カナエカラ聞カサレタソノ実力デゾルダートノ良イ実戦記録ヲ取ラセテクレ。

行ケ!ゾルダート達ヨ! アノ小娘共ヲ八ツ裂キニシロ!!」

 

ギンの言葉にゾルダート達はドリルを唸らし二人へと向かってくる。

 

「カナヲ…約束を覚えてますね?」

 

「…自分を身を優先する。危なくなったら直ぐ逃げる」

 

「結構です」

 

覚悟を決めて二匹の蝶は異形の軍団へと挑む…。

 




次回 死闘

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