敵の猛攻に受けて傷を負いながらも炭次郎は何とか生き延びていた…。
「ハァハァハァ…」
炭治郎は藤襲山を駆けていた。
ガガガガガガガ
迫りくる銃弾から必死に逃げていた。
あの後、炭治郎は生き残りが居ないか探していたが見つからず、居るのはライフルを始めとした銃器を持った人型の怪物(菌根兵)が山の彼方此方に居るだけだった。
息を殺して慎重に動いていたが落ちていた木の枝を踏みつけてしまいその音で菌根兵に気付かれてしまい有無を言わさず銃を乱射される。
それだけではなくその銃声で周りにいる菌根兵も炭治郎の存在を気付き手にした銃で次々と銃撃を受ける羽目になってしまった。
「あぐ…!」
必死に逃げていた炭治郎だが銃弾が左腕を掠める。
掠めただけだが鋭い痛みが炭治郎を襲い彼はその痛みでバランスを崩して転倒してしまいアチコチに擦り傷が出来てしまう。
痛みに悶える中、背後から多数の菌根兵が迫ってくる事に気づき炭治郎は痛みを押し殺して走り出した。
「い…痛い…だけど何とか撒けたみたいだ…」
息を切らしながら銃声が聞こえない事に安緒する炭治郎。
「もしかして生き残ってる人は俺だけなのかな…?」
あれだけ探しても自分と同じく隊士候補者と隊士達が一人も見当たらない事に炭治郎は不安になる。
自分以外はあの怪物達に殺されてしまったのだろうか…?
「ぐ…体中が痛い…ど…何処かで休まないと…」
炭治郎は自分の体を見やると全身、傷だらけで着物が汗と血でぐっしょりと濡れており、特に銃弾を掠めた腕が痛む…。
一旦治療しなければならない…。炭治郎は悲鳴を上げてる体に鞭打って休める場所を探す事にした。
休める場所を探してしばらく経つ。
途中、またあの銃を持った怪物に遭遇するが気配を殺して何とかやり過ごした。
体が鉛みたいに重くなり、動くのきつくなってきている事に炭治郎は焦燥感を感じる。
「あっ…あれって…洞窟か?」
炭治郎は岩陰にぽっかりと穴がある事に気付く。
大きさもちょうど入りこめそうな大きさだ。
(しめた…! あそこで休もう)
ようやく見つけた休息に使えそうな場所を見つけた炭治郎は周りに敵がいないか見渡しながら小さな洞窟に入っていった。
「ふぅ…ようやく一息付けられそうだ…」
刀を腰から抜いて地面に置き試験が始める時に隊士から渡された荷物から包帯や塗薬を取り出して怪我をした箇所に不器用ながら薬を塗り包帯を巻く。
「これで大丈夫かな?
はぁ…これからどうすればいいんだろう…」
一息ついた炭治郎はこれからの事を思案する。
試験を合格するためには鬼が潜むこの山で七日過ごさなければならない。
しかし山には鬼では無く銃器を武装した異形の怪物達が大勢でうろついておりこちらを攻撃してくるのだ。
それに対してこっちは一人で武器だって師に渡されたこの日輪刀一本だ…。
(刀しかないのに相手は大勢で銃を持ってる…。
戦ったら間違いなくこっちが負けるよな…。)
相手が一人で接近戦ならまだ勝ち目あるかもしれないが…多数では圧倒的に不利で戦えば敗北するのが目に見えていた。
正直にいえば炭治郎はこの試験を乗り越えるのが無理だと思っている。先ほど一体の怪物を倒せたがアレは運が良かっただけで二度は無いだろう
あの双子の言う通り山には鬼しか居なかったらまだ何とかなったかも知れないが、あの怪物達相手に七日間も生き残るのは不可能だ…。
炭治郎は師である鱗滝に鬼相手の戦い方は学んだが銃器を持った相手との闘いは全く教わっていない…。
だけど鱗滝もまさか銃器を持った怪物達が試験の場に殴り込んでくる予想なんか一切していないだろう…。
(傷が良くなったら…
死んだら元も子もないし…鱗滝さんだって事情を話せばきっと許してくれるはずだ…
何より禰豆子を置いていくわけにいかないんだ…!)
炭治郎は山に下りる事を決断した。
勿論、その決断はこの選抜試験で失格になる、鬼殺隊に入隊する事が出来ないことを意味する。
だが炭治郎はこのままこの山にいても確実に死ぬと直感してた。
なら今回は諦めてもう一度、鱗滝の元で修行をして次の試験に再度挑戦しよう。
無理して死ぬよりはずっと良いだろう…死んだら何もかもが終わりなのだから…。
そう決めた炭治郎は体を休めようと寝転がり休息を取ろうとすると…
カサリ
(!?)
僅かだが草を踏む音が聞こえて炭治郎は起き上がり置いていた日輪刀を手に持つ。
カサリ カサリ
今度はハッキリと聞こえる…!
そしてこれは…!
(間違いない…! こっちに近づいてる音だ!)
あの怪物達だろうか?
連中もこの洞窟を見つけて近づいているのかも知れない…!
炭治郎は日輪刀を僅かにクンと抜き何時でも攻撃出来るようにするが炭治郎はある事に気づいてしまった。
(!? し…しまった!!
銃で狙われたら一巻の終わりだ…!!)
炭治郎は此処で自分の失策に気付いてしまう…。
この洞窟は人間は入れるものの中は思ったより狭いのだ。
刀の長さを考えると縦も横も振れない上に見つかった時、隠れる場所も無いのだ。
相手は銃器を持ってるので外から一方的に攻撃出来る上に狙い撃ちに容易だ…。
(小さい洞窟だから入り口に何か草や木の枝で隠しておくべきだった…!)
敵に見つからない様に偽装ぐらいはするべきだったのにしなかった…。
炭治郎は自分の浅はかさに猛烈に後悔する。
カサリ カサリ
音も先ほどより大きく聞こえる…。向こうは間違いないくこの洞窟を見つけている。
炭治郎は体を小さく丸めて相手から見えない様に今できる事をやり見つからない様にと神に祈る。
「何も居ないな…。良かった…
ここで隠れよう」
聞こえたのは日本語だった。
何者かが洞窟に入って来る。
「小さいけど…贅沢言えないよな…
何でこんな目に合うんだよ…。鬼どころかもっとヤバい奴らが居るし…明るくなったら山を下りて隊士の人達に保護してもらおう…。
爺ちゃんは怒るけど事情を話せば許してくれるよな…?」
ブツブツと独り言喋って荷物から食料を取り出してそれを食べる。
「あ…あの…?」
「なんだよ…今、食べてる最中…」
炭治郎は声を掛けて目の前の人物と目が合う。
「………」
「………」
目が合い互いに沈黙してしまう。
「えっと…」
気まずくなったのか炭治郎は相手に声を掛けるが…
「ぎゃああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
大絶叫だった。
「い…いるなら居るって言ってくれよ…!!
心臓が本当に止まるかと思ったじゃないか!」
「ご…ごめん…って大声を出しちゃだめだと言ったじゃないか…!」
「あっ…ゴメン…」
金髪の少年は両手で口を押えて謝罪する。
あまりの大絶叫だったので炭治郎も度肝を抜かれてしまったが直ぐに黙らせた後、周囲に敵が居ないか確認して洞窟の入り口をそこらから取ってきた草や木の枝で隠す。
互いに落ち着いた後、自己紹介をする。
「あれ…君は確か…我妻善逸さんだっけ…?」
「えっ? どうして俺の名前を…って君はあの時の…?」
先程、大絶叫をした少年、我妻善逸は試験が始まる前に話しかけてきた少年だと気づく。
(確か…竈門炭治郎という名前だっけ?)
「良かった…まだ生き残ってる人がいたんだ。」
炭治郎はホッとするように孤独感が薄れていく。
先程までは自分以外は候補者は全滅したと思っていたからだ。
「俺もだよ…。まだ生き残ってる人がいて良かったよ…」
善逸も炭治郎と同じ気持ちだったようだ。
「えっと…我妻さん…貴方以外に生き残りは…?」
「俺の事は善逸で良いよ。俺も君の事を炭治郎と呼ぶからさ。
それで生き残りなんだけど俺も無我夢中で逃げていたから分からないんだ…。
逃げてる最中だったけど殺された候補者や隊士の人達の死体を見たよ…」
「そっか…。」
やはりというか善逸も同じ状況だったようで自分と同じく逃げ回るのが精いっぱいだったようだ。
「本当にどうなってんだよ…! 爺ちゃんが言っていた事と全然違うじゃないか!
あんな銃を持った化け物が居るなんて聞いてないよ!
善逸も頭を抱えて言われていた事と全く違う事に怒り出す。
炭治郎も善逸の気持ちが分かる。自分だって同じこと考えていたのだから…。
だが一つだけ気になる言葉があった。
「なぁ善逸。
今、
俺、この山に入って一度も鬼に出くわさなくててっきり、鬼もあの化け物に殺されたと思ってたけど…」
炭次郎はこの山に入って一度も鬼に出くわせていない。出くわしたのは銃を持った怪物達だけだ。
「えっ? 炭治郎は
善逸はポカンとした表情で炭治郎に聞き返した。
「なにを見てないって…?」
「俺、見たんだよ…。
あの化け物達が鬼に何かするのを…」
善逸はポツリと自分が見た光景を語り出した。
試験が始まりビクビクしながら山に入った善逸はまず何処かで安全で休める場所を探していた。
「あぁ…どうしよう…。七日間も生き残るなんて無理だよ…
俺、絶対に死ぬよ…」
ガチガチと自分の死ぬ未来に恐怖しながら善逸は周囲に鬼が居ないか警戒しながら進んでいく。
「変だな…。多数の鬼が居るって言っていたけど全然出くわさない…。
…その方がいいけどさ…」
山に入ってから一向に鬼に出くわさない事に善逸は不可解に感じていた。
自分の師から「山にいる鬼は人に餓えており入った途端に襲い掛かって来る」と聞いていたからだ。
勿論、鬼に遭遇するのは嫌なので今の状況の方が良い。
「何処か身を隠せそうな…水の調達が出来る場所とかないかな…?
うーん…川とかないか?」
善逸は安全な場所を探しながら川が無いか山を下っていた。
このまま上に登っても水の調達が出来ないと判断したからだ。
「・・・…!!」
「…? 今、何か…」
「…!!」
「! 何か聞こえる…! 話し声…?」
善逸は生まれながら並外れた聴力の持ち主だ。
常人なら聞こえない音も善逸は聞き取れてしまう。
それは遠くから聞こえる。
「何だ…? 叫んでいるのか…?」
もしかしたら他の候補者かもしれない。
(もしかして鬼に襲われている?)
もしそうなら助けに行った方が良いだろう。
しかし…
(で…でも俺が行ってもどうしようもないじゃないか…? 逆に食われるだけじゃないか…)
恐怖で体が硬直してしまう…。
自分の事だけで手一杯だ。他の人達を助ける余裕なんてない…。
(辞めよう…。気の毒だけど運が悪かったんだ…。
俺だって自分の事で精一杯なんだ…)
自分にそう言い聞かせて善逸は叫び声から反対の方へと足を向け速足で動き出した。
(でも…ここで見捨てたら…俺は自分を
再び足を止める善逸。
もしかしたら助けられる命なのかもしれない…。助けられる命だったのにそれを見捨てて自分は何とも思わないのだろうか?
「ッ…!! あぁもう…俺って本当に馬鹿だな…! 放っておけばいいのに!」
善逸の足は既に先ほど向かおうとした方向へと走っていた。
「ハァハァ…確かこの辺だよな?声が聞こえていたのって…?」
善逸は耳を澄まして周囲の音を細かく拾う。
そして
「ヤメロ…! ハナセ!」
(聞こえた! 向こうの方だ)
まだ小さいが先ほどと違ってはっきりと聞き取れた善逸は声が聞こえた方向と足を進める。
急いで駆け付けると前方60メートル程に人影が見えた。
「あれ…?」
違和感を感じた善逸は足を止めて人影を観察する。
(1~2人…いや、10人以上は居るぞ! それに銃…だよなアレ…?)
よく見れば10人以上が集まって何かをしている。更に銃を所持してる…。
このまま行くのは危険だと感じた善逸は茂みに身を隠して集団を見る。
「や…やめろ…! お…お前らは何なんだ!」
怯えが混じった叫び声を上げる人間…と思いきや、よく見ると…
(え…! アレって鬼なのか…? 爺ちゃんから聞いた通りだと…)
青白い肌に真っ赤に染まった瞳に口から見える鋭い牙…。師匠から聞いた鬼の特徴が揃っていた。
更に鬼は人間を超える怪力に驚異的な再生能力を持つ恐ろしい怪物なのだが…。
(何で鬼が捕まってるんだ…? それにあの銃を持った人達は誰なんだろう?)
恐ろしい怪物である鬼が仰向けに組み伏せられてジタバタと手足を僅かに動かす抵抗しか出来ない。
善逸は鬼を組み伏せてる集団を見る。そして月の光が照らされて暗かった周囲が明るくなる。
月の光に照らされて集団の姿を見えてくると…。
「ヒッ…!」
善逸は口を押えて悲鳴を上げない様にする…。
(な…何だアレ…! アイツら人間じゃない!)
鬼を組み伏せてる者達はドス黒い肌を持って顔には目玉が三つほど付いておりギョロギョロと動かしていた。
「離せ!!」
怪物から逃れようと鬼は抵抗するがガッシリと抑えられるのか僅かに動くことしか出来ないようだ…。
そして一体の
「な…何だソレは! や…やめろ何をする気だ…!!」
怪物の手にはこぶし程の大きさを持つ球根のようなもので多数の触手が生えておりウネウネと動いていた…。
そしてソレを
「ウェ… ぐえぁうううう!!!!」
得体のしれない
そして…
「ガァ…ァ…ァ…」
鬼は苦しむ姿から一転、今度は動かなくなる。
善逸からは見えないが鬼の瞳から
「…」
何も言わずゆっくりと鬼は立ち上がる…。
それを見た
鬼は何も言わず差し出された拳銃を持ち弾薬も受け取る。
(な…何が起きてるんだよ…! アイツら鬼の口に何を突っ込んだよ…!?
なんだがヤバそうだし離れた方がいいかも…)
離れた場所から茂みに隠れていた善逸は一体何が起きてるのか分からなかった。
あんなに暴れていた鬼が大人しくなる事に不気味に感じていた。
嫌な予感がした善逸はこの場から離れようとする。
「…! あそこにいるぞ!!」
「!?」
その場から離れようとした善逸だったが人間の匂いに気付いたのか大人しくなっていた鬼が善逸が隠れてる場所に指を差して叫ぶ。
それを聞いた
「ウアアアアアアアア!!!」
襲い来る銃弾の嵐に善逸は泣きながらその場から逃げ出した。
「ハァハァハァ!…!」
善逸は力の限り走った。だが…
「逃がすな!!」
「撃ち殺せ!!」
「バラバラにしろ!!」
後ろから無数の殺意が背中に刺さり吐き気が沸き上がってるくる中、空気を切り裂く銃声と銃弾が飛んでくる…。
善逸の後ろから銃で武装した多数の鬼が迫っている。
(ど…どうなってんだよ! 爺ちゃんは鬼は群れないと言っていたのに!!)
鬼は共食いの性質から群れずに単独行動すると聞いていた。
だが実際はどうだ…? 自分を追いかけてる
(や…ヤバいよ…! このままだと追いつかれる!!)
鬼達は強靭な身体能力でグングンと善逸を距離の詰めて来ている。
夜の為に辺りは暗く木々を避けながら走る善逸に対し、長い間この山で過ごしてきた鬼達は辺りの地形を理解しており最短距離で追跡してきている。
善逸は確実に追い詰められていた。
(ど…どうしよう…!! 何処かで隠れないと!)
走りながら追跡から逃れる場所が無いか探す。
「…! 一か八かだ…!」
このままだと追いつかれてお終いだと悟った善逸は一か八かで近くにあった大きい樹木を木登りの要領で軽やかに昇った。
(頼むから見つからないでくれ!!)
太い枝に腰を掛けて天に祈るように善逸は息を殺して身動きも抑える。
ザザザザ
草木を強く踏む音が聞こえる。
「むぅ! 何処に消えた! 」
「近くに居るはずだ! 探せ!」
追ってきた六体の鬼達は消えた善逸を探す。
樹木の上で鬼達が自分を探してる事に善逸は沸き上がる恐怖を必死に抑えながら鬼達は去る事を待つ。
「クソ… 血と腐臭でガキの匂いがよく分からない!」
「散れ! そこら辺に隠れてるはずだ」
消えた善逸を探して鬼達は散らばり捜索を開始する。
(チャンスだ! 他の奴らがもう少し離れたら逃げられる!)
鬼が散り散りになった事に善逸は逃げ出す好機を得た。
ガサ
「! そこか!!」
僅かに草木が揺れた音を聞いた鬼は手にした散弾銃で音がした方向に発砲する。
「ひいいいいい…!!!」
銃声に驚いたのか草木から人影が飛び出す。
「見つけたぞ!」
ドーン
鬼は人影に向かって散弾銃を発砲する。
銃弾が当たったのか飛び出した者は大きく転げだした。
「いぎぃ… あ…足が…だ…誰か助け…」
善逸は下に目をやると足を撃たれて動けなくなった人を見る。
(アレって… ! そうだ最終試験を受けに来てた奴だ…!)
倒れてる人物は自分と同じ最終試験に受けに来てた人物だった。
とは言え、あくまで目にしただけで話した事は全くないが…。
「た…助けて…」
痛みに耐えながら必死に助けを求めてる姿に善逸は助けようと考えるが…
(だ…ダメだ!! 連中が集まってきている! 出ていっても殺されるだけだ…)
鬼が一体だけだったならまだ何とか出来たかも知れないが銃声を聞きつけて先ほど散っていった鬼達が集まってくる音を聞く。
銃を持った多数の鬼が集まってきたらどうしようもない。出ていっても死ぬだけだった。
(ごめんなさい!! ごめんなさい…!! どうしようもないよ!!)
善逸は彼を見捨てる選択を取った。そして…
ドーン
「手間を取らせやがって」
動けなくなった候補者を散弾銃で頭部に撃ち込んでトドメを刺した。
「見つけたのか?」
「あぁ…今、始末したところだ」
仲間の鬼は死体を確認する。
「おい…こいつは俺達が追っていた奴じゃあないぞ…」
「はっ?」
「よく見ろ。髪が黄色じゃない。匂いも違うぞ」
「チッ…別にいいだろ。 コイツも鬼狩りなんだ。殺す事には変わりがないさ」
不貞腐れように死体を足で蹴る。
「どうする? もう一度探すか?」
「もう面倒だ…。さっきの奴は諦めよう。どうせ別の連中か菌根兵共が始末するさ」
「それもそうだな。他の獲物を探そう」
探すのが面倒になった鬼達は追っていた人間(善逸)を諦めて他の人間を探す事にしてその場から離れていった。
鬼達の気配を消えた事を確認した善逸は静かに巨木から降りた。
そして先程、鬼に射殺された候補者の遺体に近づく。
「ごめんよ…助けられなくてごめんなさい…」
自分は彼を見捨てた…。
もしかしたら助けられたかも知れなかった。だが彼がこの場所に居なかったら亡骸をここに晒していたのは自分だったかもしれない…
「ゥァ…」
心が罪悪感に塗りつぶされていく…。瞳から涙が溢れていく…
助かるために最善の選択をしたはずだった。
どうしようもない…已む得なかった…。それでも善逸は納得出来なかった。
善逸はただ静かに涙を流し続けた…。
「…その後、鬼に見つからない様にアチコチ逃げ回って此処にたどり着いたんだ…」
話し終えた善逸は膝を手を回して顔を隠す様に埋める。
「善逸…」
彼から悲しみと罪悪感に匂いを感じ取る炭治郎。
善逸は自分自身を強く責めてることが分かってしまう。
「どうしようもなかったんだ。俺だって同じ事をしていたよ…」
自分の身を守る事に手一杯の中、炭治郎も自分も同じ状況だったら同じ事していただろう。
善逸を責めるなんて出来る訳が無い…。
そして善逸の話を聞いた炭治郎はあの銃を持った怪物達の恐怖が大きくなる。
話し通りなら鬼は奴らの仲間になったという事だろうか?
(鬼が協力して俺達を攻撃してる…。
駄目だ…教わった通りにやったら確実に負ける…戦い方を考えないと)
炭治郎は師である鱗滝から教わった鬼への対処法では歯が立たないと実感する。
相手は銃を持って集団で動く敵だ。従来の戦い方では勝てない…。
「!?」
どうしたものかと考えていた矢先だった。
先程からうずくまっていた善逸が勢いよく顔上げた。
「善逸? どうしたんだ…」
「向かって来ている…」
「えっ?」
「この音… !? そうだ…! 銃と弾丸の音だ!
この感じだと… あぁ…マズいよ炭治郎…!
奴らだ! あの銃を持った化け物がこっちに向かって来ている!」
「なっ!」
善逸は青ざめた表情で炭治郎に告げた。
「足跡は向こう側に続いてますな」
「分かるんですか?」
「えぇ…人間の頃に猟師の仕事もこなしてましたからな」
「やるじゃないか。お前にこんな特技あったとはな」
「恐れ入ります」
地面に残った足跡を追跡しているのは鬼影と鈴子、そしてハイゼンベルクと数体の菌根兵だ。
鈴子と鬼影はあの後、山で奮戦している鬼殺隊隊士と候補者達を次々と抹殺し同じく山に登っていたハイゼンベルクと合流したのだった。
「結構な人数の排除したので鬼殺隊は更に弱体化したでしょう」
「まぁな。以前から痛みつけてやったから連中は鬼狩りをやってる場合じゃないのは確かだな」
鈴子の言葉にほくそ笑むハイゼンベルク。
「しかし…ハイゼンベルク様…その…宜しかったのですか?
この山には【柱】階級の隊士が数人いるのですが、それをほっといて
「その痣があるガキが
それと比べれば柱なんざそこらのカスと大して変わらない」
(何しろ原作主人公だからな…。)
竈門炭治郎…
原作の主人公である彼を存在は決して無視は出来ない。
これから炭治郎は鬼殺隊隊士として数多くの死線をくぐり抜けていき、あの無惨相手に食いつけるまでに成長する。
ハイゼンベルクはそんな炭治郎を脅威と見做している。放置していたら手に負えない存在になり自身の生き返りの願いが断ち切られるかも知れないからだ…。
今ならまだ手に負える存在だからこそハイゼンベルクはこの山で炭治郎の抹殺を最優先にしている。
(お前さんには本当に恨みがないが…ここで退場してもらうぞ)
両者の邂逅は近い…。
次回 邂逅