ずっと、いつまでも   作:雪須

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副次的効果

大学卒業後に私はアニマシティの地方公務員となった。エセ獣人による事件を解決し、職業訓練校の運営支援などをなんとかこなしつつ四十路を迎えた頃の話。

 

私は加齢による体調の低下から思い付きの冗談で17歳の自分に変身したことがあった。

 

それこそ「永遠の17歳にかむばーっく」「んーっ元気とパワーがみなぎってくるー。やっぱり若いっていいわぁ!獣人態になるにも若くてピッチピチでないとねぇ」などと、それはそれは年齢に見合った恥ずかしい限りの言葉を連発した覚えがある。

 

しかしそんな恥ずかしい変身を見た市長さん、なぜか「ちょっ、ちょっとそのままでいてね!」と目を輝かせ、いきなり生体検査の準備をし始めた。

 

何で?何を検査するの?そんなことを考えていたが、検査の結果、

 

「みちるさん、あなた、望めばずっと生き続けることができるわよ」

「へー、そうなんですかぁ……って、えーっと……ええええええええええーっ???」

 

市長さんの言葉に、私は目が点にならざるを得なかった。

 

なんと私の変身後の体や細胞は40歳のそれではなく、アニマシティに来たときに調べた17歳のころと同じだったのだ。

 

市長さんによると、これは私の獣因子が自分の意志に基づいた状態へと遺伝子を書き換えることができる因子をもっているためで、意志で自由に遺伝子上の寿命情報も書き換えることができるからとのこと。

 

で、変身によって遺伝子が書き換えられ年齢情報が変わった細胞は、その後は通常の細胞と同じように通常の細胞分裂は行われるので、その年齢からの加齢は普通に進んでいくそうな。

 

このことから、若返る変身をしてそのまま元に戻らず年齢を重ねて通常の老化をする。年数がたったらまた若返る変身をする。これを繰り返すことで寿命をどんどん先延ばしにできるとか。

 

つまるところ、私には無限コンティニューできる隠しコマンドが備わっていたということだそうだ。

 

わーい、永遠の命げっとー、ってゲームか私は。

 

それに不死ではないため、食事は必要だし、大きなけがや病気で死ぬことはあり得るし。

長く生きるためにはその分長く頑張る必要があるようで、何かあんまし嬉しくないような。

 

ちなみにこの検査結果を見た市長さん、

 

「これはまた他人に知られてはよろしくない現象ね。本当にあなたって子は。秘密の塊みたいな子ね」

 

にこやかな顔で言ってたので、市長さんは冗談のつもりだったんだろうけど、私としては好きでこんな体になったわけじゃないから、

 

「そんなこと言われましてもー」

 

と、ぶーたれた顔でぼやいた。たとえ冗談と分かっていてもね。

いや体自体はとても気に入ってるんだけど……

 

また隠さなければならない事実が増えた。ああ、面倒い……

 

 


 

 

「そんなことがあったんだよね」

「そうだったな。そういえばあの頃、俺もお前のことを人間に隠しておくので大変だったな」

「うん、私も自分の両親を看取るまでは若返りの変身はやらなかったし。それ以降も私の友人知人との矛盾が無いようにって、1回目の若返りをするのは滅茶苦茶気を使ったよ」

 

そう言った私は、麦畑の隅に置かれている金属の立方体の方に視線を移した。

 

「でもそのおかげで、私はこうしてとても長い年月無事にすごせて、今、麦を作ったりしてる」

 

そう言いながら、その立方体へ歩み寄る。

 

麦畑の傍らに置かれていた立方体の機械装置。それは一辺が2mほどで色が薄いグレー、継ぎ目がなく、全頂点に視覚レンズがあり、側面に2桁の緑字のID番号、ところどころに動作を表示しているのかLEDのような表示灯が点滅している。

 

実はこの立方体、遠方の麦畑まで、そこかしこに置かれている。

 

「ということで、作業に入りますか」

 

そう言った私は手首に腕時計状の情報デバイスがあることを確認し、続けて立方体に向かって声をかける。

 

「さぁ、ロボット君たち、今から麦の収穫よろしくね!」

 

私の掛け声に、立方体からヒュイィィィと甲高い音が鳴り始め、上方へ1mほど浮き上がる。

 

滑らかで傷一つない立方体の下3分の1のところにピキピキと音を立てて継ぎ目が入ると、その下の部分にさらに細かく、まるで部品組(アセンブリ)図のように継ぎ目がチキチキと複雑に入っていく。

 

続いてユィィンと超電導機音を立てたかと思うと各継ぎ目が分離、部品組(アセンブリ)図から部品が浮き出るように角柱形状の脚が左右3対形成される。さらに脚の各関節が動き、できあがった脚を蟹のように拡げ、ギシュンっと足先が地面をつかむ。

 

「イエス、マスター、収穫ノ設定ノ指示ヲ」

 

ロボットから音声が出力され、さらに目前に、上空に放たれたドローンから撮影している麦畑の俯瞰図が空中投影される

 

「えーっと、範囲はここからここまでで、分担はあなたたちにまかせるね。収穫後の籾はいつもの保存庫に。作業終わったらみんな車庫に戻って待機してて」

 

私は空中の麦畑の図に、指で収穫範囲と保存庫、車庫の位置を描画指示した。音声と投影図上の指示内容がロボットと手首のデバイスとで共有される。

 

「条件確認、収穫開始シマス。指示完了予定ハ126時間36分後」

 

共有された情報をデバイスから空中投影し、声で伝えた内容と描画指示した内容、その指示に対する応答が全て表示記録されていることを確認。投影を消して士郎さんのところに戻った。

 

麦畑に点々といた農作業ロボットが一斉に動き始める。

 

立方体の一部分に、さきほどと同じようにチキチキと切れ目が入りユィィンと伸長、また新たな継ぎ目が生成されて展開。これを繰り返して前面には刈取機構を、背面には穀物貯留槽(グレンタンク)を生成、展開し、超電導機音を響かせ麦穂の刈取作業を始めた。

 

士郎さんを見ると、ロボットを見つめつつ、なぜか難しい顔をしている。なんだろう……

 

「あの農作業ロボット。シティでの事件でうごめいていたロボットを思い出して、どうも好きになれん」

「士郎さん、あのとき大変だったもんね」

 

士郎さんは、ずっと昔の事件をいまだに引きずっているようだ。

 

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