ずっと、いつまでも   作:雪須

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 長く生きることができるみちるは、市長から一つの願いを頼まれる。


これからも、ずっと

農作業ロボットは元の2m角の大きさから、機構を生成して幅4m長さ6m、高さ2mにまで大きさを変え、ジャコンジャコンと麦穂を勢いよく掻き込んでいく。

 

後は数日後に麦畑の入り口にある保存庫から出荷するだけである。

 

「よーし、今日の指示は終わり、短っ♪」

 

私は士郎さんの隣で畑の傍らの畔の上に座り、収穫作業をするロボットを見つめた。

すると士郎さんも私に合わせ畔に座る。そして私と同じくロボットの動きを見つめながら、ポツリと私に尋ねた。

 

「みちるはこの作業をこれからも続けていくのか?」

「うん、そのつもり。と言っても、ほとんどの作業はロボット君(あの子たち)がやってくれるんだけどね」

「うむ、それでもやれることがあることはいいことだ」

 

士郎さんはそういうと少し寂しそうな顔をした。

 

「士郎さん、どうしたの」

「獣人化処方が広まってからもう多くの時間が流れた。獣人か人間かを選択できるようになって、アニマシティはもう生粋の獣人か人間かはどうでもよいことになった。まさに市長が、そしてみちるが成し遂げたかったことが実現されてきている」

 

そう話すと士郎さんは獣化した。そして続ける。

 

「俺は銀狼として獣人を守ってきた。それは昔、獣人を迫害、使い捨てする人間から守るためだった」

 

士郎さんはずっと人間の戦争に巻き込まれた獣人を助けてきた。実際この数世紀の間にも数回、そのうちの一つは文明が二世紀分後退する被害が出るほどの大きな戦争があったが、その時も士郎さんは完全獣化して、獣人を助けるため可能な限り世界を回ったりしている。

 

「しかし、もう前回の大戦では祖先からの獣人だったかどうかを知らない者たちがほとんどになっていた。獣人を守るという意義はもうないように見える。もう俺の使命は終わったということだろうか」

 

士郎さんが獣化したのを見て、私も合わせて獣化した。そのほうが良いと思ったから。

 

「うん、そうかもしれない。今は獣人だからって迫害されることはないもの。だって人間が獣人になれるようになってから世代もだいぶ重ねているしね」

「それよりも今まで士郎さんは自分のことよりも獣人のこと、他人のことをずっと考えてきた。それを考えなくてもよくなったってことじゃないかなって思う。士郎さんが自分のことを考えられるようになった、それが私には獣人と人間との隔たりがなくなったのと同じくらい嬉しい」

 

私の思いに、

「ありがとう。みちる」

士郎さんは謝意を示してくれた。

 

「長い間ご苦労様。ゆっくり休んで。で気が向いたら次の仕事みつけたらいいじゃない。私も一緒に付き合うよ」

 

私はにっこりと微笑んだ。

 

一緒に付き合う、その言葉に私はひとつの思いを込めている。

 

 


 

 

私がずっと生き続けられることが判明したあの時、市長さんは、ある一言を呟いていた。

 

「できるわけがないとあきらめていたけど、もしかして実現できるかも……」

 

その時は、私はその意味が分からなかった。

 

それからさらに長い年月が経ったある日、体調を崩した市長さんは、市長職を勇退し療養生活に入った。

 

ハダカデバネズミの獣人である市長さんは、人間の約十世代分の期間をシティの市長として勤め、アニマシティの発展に尽くしてくれた。その獣性から長い寿命があるだろうと予想はしていたが、市長さん自身、その寿命ももう残り少なくなっていることを感じていたようである。

 

療養ベッドで過ごしていた市長さんは、私を呼び、そして一つの依頼を私にした。

 

「みちるさん、今日はあなたを束縛するとても身勝手なお願いをしたいの。これを受けてくれるかはあなたに任せるわ。とりあえず聞いては貰えるかしら」

「なんでしょうか。私にできることなら」

 

何を頼まれるんだろう、でも私にできることならば。

 

「大神君に、これからもずっと付き添って欲しいの」

「えっ、私がですか?」

 

私はもっと複雑な依頼が来るものと思っていたのにシンプルな内容、一瞬とまどってしまった。

 

「彼はこの世界を千数百年生きてきたことは知ってるわね。そしてこれからも生き続けていくことになる。老いることもなく、いつ生命が尽きるのかも分からずに」

「そして大神君と出会い心を通わせられる人が現れても、いずれはいなくなってしまう。それを繰り返してきた彼は誰とも心までは通わせないようにしているわ」

 

私はじっと聞いていた。

 

「私が最後に実現したかったことは、大神君がひとりきりにならないようにすること」

「このままでは大神君はまたひとりきりになってしまう。私はそれを何とかしたかった。私も長く生きられるから長く付き添えると思っていたけど、それももう限界のよう」

「でもみちるさん、そんな中あなたがいてくれた。あなたはずっと生きていける。そして大神君とも通じ合っている。あなたしかいないの、大神君とともに生きていける人は。大神君をお願いできないかしら」

 

字面では一文で話せるほどシンプルな依頼。でも内容はとんでもなく重い依頼。

 

いつのまにか市長さんはベッドから上体を起こし、私をまっすぐに見つめていた。それは限界にきている体から最後の気力を振り絞っているように見えた。

 

私は市長さんがその昔、士郎さんと初めて知り合った頃はナタリアという名前であったと聞いていた。今市長さんは、獣人の将来を案じたロゼとしてではなく、士郎さんの行く末を慮る、士郎さんを心から慕う昔からの自分、ナタリアとして依頼しているんだろう。

 

ナタリアの願いに私は、今まで誰からも言われてきた、思い立ったら後先考えない、その思考パターンで答えようと思った。

 

……いや、そもそもそんな回りくどいことしなくても、答えはもう大分前から持っている。

 

その答えは、もちろん……

 

 


 

 

農作業ロボットが、時々槽内の籾の山を崩すために後脚だけを上下左右に動かして穀物貯留槽(グレンタンク)をゆすっている。それがまた生き物のようで可愛らしい。

 

その動きを見て、私は一つ士郎さんに提案をする。

 

「ねぇ、士郎さん」

「ん?」

「休んでって言ったすぐで何だけど、私といっしょに食糧づくりやらない?」

 

士郎さんは少し上を見上げてだまっていた。そして。

 

「……そうだな、やってみるか」

 

私を見つめて答えた。

 

「えへっ、やったぁ。実はね今度コメ作りをやってみたいんだ。野菜とかも他のところで作ってるんだけど、麦や野菜はもうロボット君(あの子たち)が覚えてくれたんで、あの子たちだけでできるようになったの。で、やっぱり日本人ならコメでしょってね」

「ん?じゃあなんで今までやってなかったんだ?」

「田圃や生育手順とか準備がたくさんあるらしくって大変そうだったから。でもね、士郎さんと一緒ならやってみたいって気持ちになってきたんだ。南の方に今も育てている地方があってね。ロボット君(あの子たち)とも一緒に手順を覚えていこうよ」

 

嬉しそうな表情で私が話すと、士郎さんは少し微笑んだ。

 

「俺にもやることはいろいろとありそうだな」

「うんあるよ。これから食べるもの作っていこうよ。いっしょに!」

「そうだな」

「じゃあ早速家に帰ってコメの育て方の勉強だね!」

 

うん、これからもいっしょにやっていこうよ。

そう思ったところで私は士郎さんにそっと寄り掛かった。

 

「なんだ、寄り掛かって。疲れたのか?」

「うーん、そーでもないけど。何となくかな」

 

とりとめもない話を、士郎さんとこれからも、いつまでも、していける。

それが私には嬉しかった。

 

そして心の中で士郎さんに語り掛ける。

 

士郎さん、これからもずっと、ずっと、いっしょだよ、よろしくね。

 

【挿絵表示】

 

 

 




 こんな続きがあるといいな、と妄想してみました。ただ士郎さん、使命を終えたと察したら昇天して消えてしまうんじゃないのとも思いましたが。
 色々と原作からひねり出してみましたが、隠し設定とかと当たってるとこあったりするかな。
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