ベター・パートナー!   作:鷲野高山

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十一話 初めての対人戦

「――ルールは、一騎打ち」

 

 静けさの広がる施設の中を、低く太い声が響き渡る。

 

「そっちはジェネラルの介入有りだが、ハンデとしてこっちはジェネラルの介入無し。……これで問題ないな?」

 

 そう確認の声を上げるのは、堅一の視線の先にて対峙するプロのソルジャー、縣恭介だ。

 戦闘(シュラハト)のルールを再認した堅一と姫華は、揃って頷く。

 

「堅ちゃーん、姫華ちゃーん、頑張って!」

 

 そんな二人に向けて大きく声援を送るのは、バトルフィールドの外で観戦しているプロのソルジャー、ルアンナ・ブラフィルド。彼女のすぐ側には、恭介と堅一がシュラハト(戦い)をすると知って見学を希望した――主に舞がだが――学園の先輩三人、そしてハンデのため恭介のジェネラルとして参戦しない四十川プロの姿もある。

 

『姫華、アレの天能は知ってるか?』

 

 堅一が、視線をそのままに、後方へ控える姫華へと問いかけた。声に出したのではなく、契約者同士のみが交わすことのできる、意思疎通法でだ。

 

『はい。――縣プロの天能は、お酒を飲めば飲むほど強くなる、というものですよね』

 

 姫華は、頭の中にあった記憶を引き出し、前方にある堅一の背を見ながら即座に返答する。

 

 酒を飲むほど強くなる。

 ニュアンス的に近いものとして、酔えば酔うほどパワーアップという、フィクションなどの酔拳があげられるが、それとは違う。……もっとも、酔拳というのははあくまで酔ったような独特な動作という拳法であり、実際に酔っているわけではないので酒は関係ないのだが。

 

 天能と一口に言えど、堅一の呪いや姫華の回復など、その種類は様々。それは発動条件においても同様であり、自分の意思で発動できるものもあれば、なんらかの条件が発動のキーとなっているものもある。

 例えば堅一の、体力を消費することによって発動、というのもその一つ。

 

 ――アルコールの経口摂取。縣恭介の場合は、それが天能の発動条件となっている。

 つまり、酒を飲めば飲むほどというよりは、アルコールを摂取すればするほどというのが正確であり、酒というのはその一つの手段に過ぎない。

 

 そのため、恭介の腰には常に薄茶色の瓢箪が吊り下げられている。その中身が酒であるというのは、堅一は勿論、縣恭介を少しでも知る人間にとって周知の事実。

 

『ああ。だが、あれは素の状態でも中々の馬鹿力。前ならまだしも、今の俺となると……いやまあ、それを見越してのハンデなんだろうが』

『……前にも戦ったことが?』

『何度か戦い、勝ったことはある』

 

 誇張ではなく、堅一は恭介と過去に何度か対峙し、勝利を収めたことがあった。だが、それはあくまで昔の話だ。

 プロとして活躍する現在の縣恭介は間違いなく過去よりも強く、逆に堅一は確実に過去より弱体化している。徐々に力は取り戻しつつあるが、まだまだだと堅一自身が即答できるレベルだ。

 

『ま、初の対人戦だが、あくまでもただの練習試合だしな。勝ち負けは気にせずやるか』

『はい!』

 

 気負う雰囲気もなく堅一が腰を落とし、両腕を構える。姫華も、堅一の背から対峙する恭介へと視線を移した。

 

「相談は終わったようだな?」

 

 そんな二人を、面白そうにニヤニヤと見据える恭介。

 声に出さずとも、話し合っていたのは傍から見れば筒抜けのよう。だが、それが露見したところで不利になるわけでもないので、二人には欠片も動揺がない。

 

「よっしゃ! そんじゃ、()ろうじゃねぇか」

 

 恭介の言葉が皮切りとなり、対峙する二人がほとんど同時に契約武装を展開させる。

 

 堅一の両手に現れるは、姫華にとってももはや見慣れつつある銀の手甲。

 対し、恭介の手に出現したのは。――大人でも並大抵の力がなければ振り回せないような、巨大な茶色の槌だ。

 

「行くぜ、堅坊っ!」

「…………」

 

 試合開始の合図はない。

 しかし、どちらからともなく両者は接敵し――己が武装を振りかぶるのだった。

 

 

 ――――――――

 

 ズガァン! と真上に振りかぶられた巨大な槌が、鈍い音を立てて床に叩きつけられた。

 先制となった恭介の一撃。だが、それに狙われていた堅一の姿は、そこにない。

 

「むっ!?」

 

 いや、振り下ろされた地点どころか、恭介の前方どこにも堅一の姿はなかった。

 あるのは、堅一のジェネラルである、姫華のみ。

 

 刹那、タンッ、と軽やかな足音が、恭介の背後から響く。

 そこには、槌による振り下ろし攻撃を苦も無く躱し、恭介の背後に回り込んだ堅一の姿。

 

「――うらぁっ!」

 

 その姿を視認することなく、咄嗟に背面の気配を感じ取った恭介は、振り向きざまに槌を後方へと薙ぐ。

 

「……っ!」

 

 背後から一撃いれようと拳を振り上げていた堅一はすぐさま攻撃を止め、横に一閃される槌を跳躍することによって回避する。

 

 着地したのは、恭介の背後。つまり堅一が恭介を飛び越え、両者は再び最初の立ち位置へ戻った形だ。

 後方へと薙いだ槌を肩に担ぎ、恭介は堅一と、そしてその後ろに立つ姫華を視界に捉え、不敵に笑う。

 

「てんで腑抜けてるわけでもねぇみたいだな、堅坊」

「…………」

 

 余裕を感じさせる恭介の言葉に対し、堅一は無言のまま表情を緩めずに床を蹴る。それを恭介の槌が迎え撃ち、再開される攻防。

 その一連の流れを見ていた外野が、口を開いた。

 

「いやー、さすが縣プロ。ただの腕力だけで、あの速さに威力。ここから見てるだけでも怖いっすね」

 

 内容に反し、いつもの如く軽い口調で喋るのは、学園の先輩にしてソルジャーの南雲。

 

「バトルフィールド内でなかったら、確実に床が壊れてるでしょうね」

 

 それに追随する形で少々外れた感想を述べる、同じく先輩にしてソルジャーの雨音。

 

「だが、それをあっさりと躱す黒星君も、やはり並ではない」

 

 二人とは違い、堅一へと観点を向けるのは、彼らのジェネラルである舞だ。

 普通の反応であれば、南雲や雨音のようにプロである恭介に目線がいってしまうものだろうが、舞の視線は真っ直ぐに堅一へと向かっている。

 

「そうっすね。縣プロが天能を行使していないとはいえ、それでも速攻沈められる学園の生徒の方が多いんだろうなー」

「でも、そう長くは続かないんじゃない? よく分からない天能を行使できるみたいだけど、黒星は学生だし……4クラスだし」

 

 ぼんやりと学園の生徒と比較する南雲。ボソリと呟き、眉を顰める雨音。

 

「そりゃ、ハンデとか全力じゃないとはいえ、1リーグのプロと渡り合える可能性が僅かでもあるのなんて、各学年1クラス数十人の中でも更に上位少数のヤバい奴ら位のもんでしょ。同じクラスとはいえ、はっきり言ってありゃレベルが違うね。いくら黒星後輩といえどそこまで強くは――」

 

 舞の態度に堅一へと目を向けつつも、しかしあくまで堅一に対して否定的な感想を述べる二人。

 

「――4クラスっていうのは、学園のクラスだったわね? 確か、実力順の?」

 

 と、そこに若干の冷たさを含んだ怜悧な声が挟まれた。

 突然の問いに、堅一から目線を外して揃って声の方へ顔を向ける南雲と雨音。

 すると。

 

 バトルフィールドから一瞬たりとも目を離さず、しかして微かにピリピリとした空気を放つ女性――ルアンナ・ブラフィルドが、そこにはいた。

 

 ピタッ、と二人の口が閉口する。

 しかしそれも数瞬、問われていたと頭が理解し、少しばかり冷や汗をかいた雨音が、おずおずと口を開く。

 

「は、はい……」

 

 イメージとして、クールビューティーという表現が先行、浸透しているのが、ルアンナ・ブラフィルドという人間である。

 だからこそ、堅一に対してのみ豹変したともいえるルアンナの態度に、先程は二人共に内心でたまげていたものだった。戦闘が開始される直前、堅一と姫華に向けて応援していたことも然り。

 だが、今相対している彼女は。先程までのそれと異なり、正しく二人が脳裏に描いていたクールビューティーのイメージそのもの。

 

「はっきりいってそんなもの――区切りは、無意味。たかが数度試験したところで計れるものじゃないわよ、あの子(堅一)は」

 

 ブロンドの髪をかき上げ、チラと南雲と雨音を意味ありげな目で見やるルアンナ。

 

「一番下のクラスになったのは――気持ちの問題か、それとも試験内容との相性が悪かったか、ね」

「相性? ……得手不得手ということではなくてですか?」

 

 ルアンナの言葉に、釈然としない、といった面持ちで雨音が質問する。

 

 競技によって得意、苦手がある人間は少なくない。

 例えば、力、技、速度など、天能の特徴、タイプによるもの。例えば、チームプレイに向いている、向いていないといった個々の性格的な問題。そういった要素が重なりあい、必然として得手不得手が決定する。

 

 どの競技でも常に一定の成果を出せる、という人間がいないわけではないが、そういった万能型の人間の方が珍しい。

 とどのつまり、得手不得手は誰にでも共通することであり、同じ。言い方は違えど、それはルールに対する相性と言えなくもない。そしてその問題に対処し、結果として周囲から評価を得られる者こそ、強者であるといえる。

 要するに、堅一に限ったことではない。学生の雨音ですら理解しているそれを、プロであるルアンナが分からないわけがないのだ。

 

「得意、苦手、確かにそれはあるかもしれないけど、あの子の場合それは瑣末事にすぎない。なぜなら、あの子には他者よりも絶対的に不利な点が存在するから」

「「…………」」

「ゆえに、様々な状況、要因、ルールによってあの子の実力は大幅に変化する。それこそ、場合によっては他者に天と地ほどの差の印象を抱かせるほどにね」

 

 天と地。そのあまりにも大袈裟な表現に、雨音と南雲の二人は絶句する。

 普通であれば、何を馬鹿なと一笑に付すことだろう。だが、相手は名の知れたプロ、それも声に一切のふざけが感じられない、真剣なトーン。

 

 だが、ここで不意にルアンナの目尻が下がり、困り眉となった。

 

「ただ――あの子の力は諸刃の剣。自身の強さであると同時に、身を削る凶器ともなる。その特性は珍しく、強力かつ危険な能力」

 

 数多の天能と相対、目にしてきたであろうプロ選手のルアンナをして、珍しいと言わしめる堅一の天能。

 その詳細を知らない雨音と南雲、そしてどこか知っている節のある舞、更には人伝てで聞いているであろう四十川プロ。

 彼らが、フィールドにて加速する戦いにより一層注目する中。この場の誰よりも堅一を知るルアンナはポツリと漏らす。

 

大人(プロ)との一騎打ち(・・・・)とはいえ、相手は恭介だから、大丈夫だとは思うけど……」

 

 その言葉に、どんな真意が込められているのか。

 

「私では出来なかった――あの子の心を呼び戻した、その手腕。見せてもらうわよ、姫華ちゃん」

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