※サイファーポールについてオリジナル設定が入ります。
海軍の船が到着し海兵達の目に最初に入ったのは、まるで積み上げられているように海岸に倒れている海賊達の姿だった。
元々の目的は、この島にいるはずの科学者について探るためだったが、その海賊達を見張りながら海軍の到着を待っていた島民の「この島が海賊に襲われている!」という話を聞き、すぐにそれどころではなくなったのだ。
海岸に倒れていた海賊達を捕まえわかったことは、彼らがポット海賊団ということだった。船長のイザークは様々な裏商売と繋がりがあるといわれており、これまでも公にはあまり姿を現さず、しかしそこかしこで一般市民を巻き込む厄介者として扱われ、懸賞金もかけられているほどだ。
その船長であるイザーク、そしてポット海賊団のNo.2と言われるコザトも、海岸に意識を失った状態で倒れていた。
海賊達を全員船に連行し、まだ島に残党がいるかもしれないと他の海兵に指示を出す中佐のハーロだったが、彼の耳に気の抜けた声が届く。
「多分これで全部ですよ」
「……君は……」
黒いローブの男、ライに眉間の皺を寄せたハーロ。それとは対照的にライは笑顔を見せた。
「サイファーポールです」
世界政府の諜報機関、サイファーポール。世界中に8つの拠点を持ち諜報活動を行っている。しかしそのサイファーポールでローブを身に付けているのは、その中でも特殊な人間だけである。
特殊な訓練を積み“技”を身に付けた者だけが所属できるとされる特殊なチーム。基本的に暗躍している為、どのように情報を収集しているのかは知られていない。
なぜそんな人物がこの島にいるのかと、ハーロは不思議に思い、その疑問をそのままぶつけた。
「失礼いたしました、ですがなぜサイファーポールの方がこのような場所に?」
「目的地へ向かう途中で何やら騒がしい島を見つけたもので。要はたまたまですが、あなた方がタイミング良く来てくれて助かりました」
細い目が弧を描くのを見つめながら、ハーロは内心舌打ちをしていた。まるでもっと早く来いと言うような圧を感じたからである。
しかしハーロはそれを表には出さず言葉を返した。
「こちらこそ、あなたがたまたまこの島を通ってくださって助かりました」
「いやいや~、俺はこの海賊達をここに纏めるくらいしかしてませんよォ、それもこれも島民の皆さんが頑張ったからこそですけどねェ」
「……なるほど」
果たして本当にそうなのだろうか。ハーロはこのポット海賊団に島民の力だけで勝てたと言う事実には納得がいっていなかった。そんな武力が一体どこにあったのだろうか。
ハーロがそんなことを考えているうちに、ライは乗ってきたらしい小さな舟に乗り込もうとしていた。
「では、俺はもうできることはなさそうなので失礼しますね!」
そう言って小舟を出したライを見送りながらハーロは思う。
やはり不気味な連中だ、と。
その後ハーロに上がってきた報告により、目的であった科学者が海賊達に対抗し戦死したという情報が入り、訃報に心を痛めると同時に、なるほど武力はその科学者の力だったのかと納得したのだった。
◆
海軍から麦わらさん達を守るため、ドームの上にある特定の人物しか動かすことのできないエレベーターで中へと入った俺達。ドームの中心には湖があり、その周りに生い茂るポロウ草。それを見て麦わらさん達は驚くような声を上げていた。
しかし、真の目的地はここではない。
実はこのドームの中から、地下に入ることができるのだ。
ポルカポロウ島にはいくつか地下が作られていて、敵襲があった場合には身を守るためにその地下へと身を隠すことができる。これは島の者しか知ることが出来ない事柄だ。
俺は一応店の用心棒を任されていたので、万が一島民に甚大な被害が及びそうになった時は誘導係もしてほしいということで、この地下の存在を教えて貰っていた。
ありがたいけど、この島の人達は俺のことを信用しすぎのような気もする…。もちろん悪用する気なんてさらさらないけどね。
工場長先導のもと地下通路を歩き、扉の並ぶところへとやってきた。扉の向こうはシェルターとして使用する部屋で、一部屋10人くらいで過ごすことができるらしい。
らしい、というのは、実は俺もシェルターの中に入ったことがないのである。入り口の場所の説明だけされてたんだよね。
中に入ると、話に聞いていた通りそこそこ広く、設備も充実していた。数日間は生活が出きるような環境が整っている。
まずは怪我人の手当てをすべきだと、トナカイさんと工場長の指示でみんなが動き出した。
俺とトナカイさんは麦わらさん達がいる部屋の隣の部屋にハルクさんを運びこむ。安静にしていれば大丈夫だろうと一旦みんなのもとへ戻ることとなった。
麦わらさん達の部屋へと向かうと、工場長が麦わらさんの手当てをしながら何かを話しているところだった。
「ログが貯まるのも後2日はかかるだろうから、是非ここを自由に使ってくれ」
「いいのか!? ありがとうおっさん!!」
工場長の言葉に目を輝かせた麦わらさん。他の仲間の方々も嬉しそうな表情だ。
麦わらさん達は滞在中ここで過ごすらしい。まぁ確かに今は海軍がいるから外には出れないし、ちょうど良いかもしれない。
怪我の手当てをしたり、シェルターの中に何があるか確認したり、のんびりと椅子に座ったり、各々が自由に動き始めたのを見ながら、俺は全員が確認できる位置に移動した。
「あの!」
俺の声に全員の視線がこちらに向いた。もう一度一人一人の顔を確認して、深く頭を下げる。
「ありがとうございました!!」
思った以上に大きな声になってしまったが、ちゃんと気持ちを伝えるにはそのくらいの方がきっと良い。顔を上げてそのまま続ける。
「みなさんが手を貸してくれなかったら、今頃この島はアイツらに乗っ取られていたかもしれません……。だから、本当にありがとう!!!」
もう一度深く頭を下げた俺の耳に、朗らかな声が返ってきた。
「気にすんな!!」
にしし!と笑う麦わらさん。こんなに面倒なことに巻き込んでしまったというのに、そんなことは大したことではないと晴れやかな笑顔を向けてくれる。なんだこの人……。
あらゆる意味でここまで強い人に、俺は今まで会ったことがない。
「そんなことより、本当に飯用意してくれんのか!? おっさん!!」
「あ、ああ……、さっきお願いしておいたから、もうすぐ届くんじゃないか?」
急な話題転換についていけない俺を残して、麦わらさんの頭は既にご飯のことでいっぱいのようだ。
島の人間を救ってくれた恩人は、名声には全くといっていいほど興味がないらしい。なんだかその様子が可笑しくて、思わず笑ってしまった。
この人にはきっと一生かなわないだろう……。
しばらくが各々に過ごしていると、街で作られた料理が運ばれてきた。今はまだ海軍がいろいろと調べているので、盛大におもてなしするのはその後ということになったようだ。街からこのシェルターへの物資運搬用に設置されていた地下のコンベヤから、お店で作られたであろう料理が運ばれてくる。
あ、このパスタは間違いなくサムさんが作ったな。おいしいんだよね、これ。
今は俺も外にはでない方が良いという工場長の助言により、取り敢えず麦わらさん達と一緒に過ごさせて貰うことに。
隣の部屋で寝ているハルクさんのことも気になるしちょうど良かった。
ハルクさんの部屋と麦わらさん達の部屋を行き来しているうちに、麦わらさん達は夕飯タイムに突入していた。いろんなお店の料理が並ぶテーブルを見て、これでもかなり豪華だよな……と心の中で感想を呟いておく。
ついでにいつまでも麦わらさんと呼ぶことが何となく嫌で、皆さんの名前を教えてもらうことに成功した。
「ちょっと、フィン! いい加減手品の種を教えなさいよ!!」
俺も共にご飯を食べている最中にオレンジさん改めナミさんにそんなことを言われてしまう。この人、ずっと手品の種に食いついてるけど、絶対にお金盗むために聞きたがってるよね……。
「……だから無理ですって、これは長年修行を積んだ者にだけ教えられる秘技なんです」
適当なことを言いながら断り続ける俺だが、あまりナミさんは納得してくれない。うーん……、仕方ない。
「わかりました」
「え!? 教えてくれるの!?」
「教えることはできません、できませんけど……これで手を打ってもらえませんか?」
腰につけていた小さいバッグからいくつか布袋を取り出して、どさりと机の上に置いてみる。このサイズのバッグから出てくるには少しおかしい大きさの袋だが、まぁそこはあえて触れないでおいてほしい。拡張魔法でバッグの中身の容量を変えてるもんで……。
もちろん布袋の中身はお金である。ほら、世の中お金で解決できることってあるから。ちなみにこのお金、全て例の海賊達の懐から頂戴したものだ。
人によってはかなり貯めこんでいる者もいたので、結構なお金をゲットすることができた。
ナミさんはその袋の中身がわかったのか、目が一瞬お金のマークになったように見えた。え、すごい……。
それは見なかったふりをしてそのまま続ける。
「迷惑料として海賊達から一応貰っておいたお金です。こちら是非お納めください」
「いいの!?」
「もちろんです、こんなに大変なことに巻き込んでしまったんですから。お礼はやっぱり形でも示しておかないと」
「そうよね! うん、私もそう思う!! 話が早くて助かるわ!!」
すげぇ、お礼をしてこんなに清々しく貰ってくれる人って中々いない気がする。特にお金が関わってくると尚更。海賊ってやっぱりお金には目が無いのかな?
そんなこんなでナミさんにはなんとか手品の種から手を引いて貰ったり、ウソップさんの面白冒険話を聞いたり、ルフィさんの食べっぷりが凄くて感心したり……、みんなと楽しく夕食を過ごした。
まさか海賊と一緒にご飯を食べる日が来るなんて、元の世界に居た時には考えられなかったなぁ。
その後は俺もハルクさんの寝ている部屋で休ませてもらうことにして、備え付けてある簡易ベッドにすぐ横になった。
暗くなった部屋の天井を見つめながら、今日あったことを思い出してみる。時間的にはほんの数時間の出来事だったはずだが、あまりにもいろんなことが一度に起こりすぎて何日も続いていたような気分になる。
島が襲われて、海賊達と戦って、そして魔法使いにも出会った。
……うーん……魔法使いって世界を越えても同じようなもんなのか? そもそも世界を越えるという事実が意味不明だが、実際自分の身に起こっているのでそこはもういいとして。
何となく世界が変われば魔法って力とか定義とか存在する形とかが違うもんなのかなーなんてぼんやり思っていたが、この世界に存在する魔法は、俺の元いた世界とかなり似ている。この世界の魔法道具を俺が使えたというのが良い例だ。
もし魔法そのものの力が違うのなら、あの魔法道具は使えないはずだ。
それに、あのライと名乗った男が俺を“魔法使い”と断定したことも、俺の魔法の力がこの世界の魔法使いの定義に当てはまっているという証拠になる。恐らく俺の行動は監視されていたんだろうけど、その全てを見てもなんの疑いもなく“魔法使い”だと言ったということは、この世界に存在する魔法は俺の知る魔法と同じだということだ。
「……だめだ、わけわからん」
布団を上に引き寄せて目を瞑る。わからないことを一人で考えても、結局それの行き着く先は“わからない”だ。俺には圧倒的に情報が足りない。
……もっと、情報を集める必要がありそうだ。でも、今日はもう無理、眠い……。
思考を停止した俺は、それからすぐ深い眠りについたのだった。
◆
翌朝、ぐっすりと眠っていた俺を起こしたのは、俺の持っていた子電伝虫だった。
電話の主はサムさんで、昨日の夜に海軍が海賊達を連れて帰っていったという報告と、俺を心配してくれている優しい言葉だった。
そういえばとハルクさんの容態を伝えると、あの時のサムさんの様子から薄々感じてはいたが、やはり無事ではなかったという勘違いをしていたようでかなり喜んでいた。
そしてなんと、意図せず海軍の目をそらすことができたのだ。今回海軍がこの島にやってきた目的は、前回同様ハルクさんだったようで、島のみんながハルクさんは戦死したと勘違いしたことにより、海軍にもそう伝わったらしい。
つまり、理由はあまり良くはないが、これでハルクさんが海軍に狙われる事はなくなったというわけだ。
そんな知らないうちに渦中の人になっていたハルクさんは、その日のお昼頃に無事に目を覚ました。
傷は痛そうだが毒の影響は特にないらしく、チョッパーさんの診察を受けつつ経過を見ることとなった。
怪我人とは思えないくらい元気なハルクさんは、「おれが考えた最新移動装置を使うときが来た!」と何だか嬉しそうである。……うん、これでこそハルクさんだ。
もう外に出てもいいだろうということで、シェルターから出た俺達が街へと向かうと、出会う人全員から感謝の言葉をいただいた。
ルフィさん達に感謝するのはわかるど、別に俺対してそんな感謝することもないのになぁ……。
そんな街のみんなはというと、島が救われたことのお祝いということで、海岸で祭りのように料理を並べながら宴会をしようと準備を進めているようだ。
俺も何か手伝いたいと申し出たのだが、今日は主役の一人だからと断られてしまった。なんだ主役って……。
そんなわけでどんどんと準備が進み、ちらほらとご飯を食べたりお酒を飲んだりする人が現れる中、俺はルフィさん達と一緒に既に美味しいご飯をつつかせてもらっていた。
海岸に設置された椅子に座りながらぼんやりと海を眺める。
「……どうしようかなぁ」
「何がだ?」
隣でスープをちびちび流し込んでいたハルクさんが、俺が無意識に漏らした小さな声に反応した。先程言っていた椅子型移動装置に乗っているハルクさんは、スープから俺に視線を移した。
「別に、独り言だよ」
「……当ててやろうか?」
ニヤリと笑ったハルクさんは、俺の答えを待たずにそのまま続ける。
「迷ってんだろ? この島を出るかどうか」
「…………なんでわかるの」
驚いて目を丸くしてしまった俺に、ハルクさんがニヤニヤ顔のまま口を開いた。
「前からきっかけさえあればお前は海に出るだろうと思ってたからな。麦わら達に会って確信した。お前はアイツらに着いていくんだろうなってな」
「えぇ……ハルクさんに俺の考えが筒抜けなんて……なんか悔しい」
「ははッ!! そりゃ残念だったな!! 痛てて……」
楽しそうに笑ったかと思えば、どうやら傷が痛んだらしくすぐ顔を歪ませたハルクさん。その様子を頬杖をつきながら眺める。
「俺さ、この島好きなんだよね」
「知ってる」
「でも、今の俺の状況について、何も知らないままなのは嫌なんだ」
「だろうな」
帰ってくる言葉は簡素だが、ハルクさんはしっかりと俺の話を聞いてくれていることはわかっている。だからこそ聞いてみたいと思っていたことを聞いてみることにした。
「……またそのうち、この島に帰ってきてもいいかな?」
俺の言葉に目をぱちぱちとさせているハルクさん。なんだかその反応を見ていたら自分の言ったことが恥ずかしくなってきて、まるで言い訳でもするように付け加える。
「ほ、ほら! 俺にとったらここは第2の故郷みたいなもんだし! あのー……言うなれば始まりの場所? みたいなさ! まぁ俺が勝手に……思ってるだけだけど……」
俺のドキマギする様子に吹き出したハルクさんは、傷口を押さえつつそのまま笑顔で口を開いた。
「そんな理由いくつも並べなくても大丈夫だ。というか、もうお前はこの島の人間だって誰もが思ってるよ」
そう言って優しく微笑んだハルクさん。
「ここはもうお前の故郷同然だよ。いつでも帰ってこい」
ハルクさんにしてはあまりにも優しい声色過ぎて、不覚にも涙腺が緩む。それをグッとこらえて、俺も笑顔を返して見せた。
「うん、ありがとう」
◆
ルフィさん達のお陰で賑やかな宴会となった海岸。夜も更け、砂浜にそのまま寝る人も続出している中、焚き火を囲んで未だに飲んだり食べたりしている麦わら海賊団のみなさん。そこに俺とハルクさんも加わって時間を過ごしていた。
自分のお腹も満たされたタイミングで、デザートを口に運んでいたルフィさんに近付く。
「ルフィさん、お願いがあります」
「なんだ? お願い?」
「あの、しばらく俺も船に乗せてもらえませんか?」
「おう、いいぞ!!」
「……相変わらず決めるの早いですね、ありがたいですけど……」
正直断られるとは思っていなかったが、ここまであっさりと了承されるのも逆に心配になってくる。ほら、他のクルーの皆さんはいいのか?とか。
それを確かめるべく周りを見回してみると、みんなはいつものことらしく動じている様子はなかった。
「よかったじゃねェか、フィン!」
晴れて俺も船に乗せてもらえるということで、嬉しそうにそう言ってくれたハルクさん。なんだかつられて俺も笑顔になってしまう。
しかし、次に起きた出来事で、その笑顔も固まってしまった。
「で、乗せてもらうからには言うのか?お前が、」
“お前が”と言いかけたハルクさんの口が、急に不自然に閉じる。それでも何かを伝えようとモゴモゴしているハルクさんを見て、ルフィさん達が不思議そうにその様子を見つめていた。
「そいつどうしたんだ?」
首をかしげたウソップさんの後に、漸く口を開くことができたらしいハルクさんが俺に向かって呆れたような視線を向けてきた。
「……やりやがったな」
そう、今のは俺の魔法の力だ。ハルクさんに俺が魔法使いだとバレたその日、ハルクさんが俺のことを他の人に話そうとした場合に発動するような魔法をかけていたのだ。まさか本当に発動することになるとは思ってなかったけど……。
周りで寝ている人もいるため万が一に備えて俺達の周りに結界魔法を展開してから、苦笑いを浮かべているハルクさんに言葉を返す。
「やりやがったなはこっちの台詞。それが発動したってことは、ハルクさんが俺との約束を破ろうとしたわけだけど……それについて説明はしてくれるんだろうね?」
表情を変えることなくハルクさんを見続ける俺と、困ったように俺を見続けるハルクさん。そんな様子をルフィさん達は困惑しつつ黙って見ていた。
最初にその沈黙を破ったのはハルクさんだった。
「……お前はこの先、恐らく政府に狙われる」
その言葉で周りが動揺したのがわかったが、それよりもハルクさんの次に出る言葉の方が気になって視線を外すことは出来ない。
「お前と“同じような”ヤツがいるなら尚更な。つまり、お前のせいでこいつらに危険が訪れる可能性があるってことだ」
それは、一理ある。反論することができずにそのまま耳を傾ける。
「その時にお前の事情を知ってるか知らないかでは、こいつらの状況は全く違うぞ。お前のせいでコイツらを危険に晒すことだってあるかもしれねェからな」
「…………」
全くもってその通り過ぎてぐうの音も出なかった……。降参というようにハルクさんから視線を外した俺は、そのままルフィさんに顔を向ける。
「……あの、船に乗せてもらう話ですけど、俺の話を聞いてからもう一度良く考えてもらえますか?」
そう前置きをしてから、俺は全てを話す。実はこの世界の者ではないこと、手品と言っていたのは魔法で、自分自身は魔法使いであること、そしてどうやらこの世界にも魔法は存在し、政府はその存在を隠したがっているらしいこと……。
話をしている最中、みんなが驚いているのが伝わってくる。ルフィさんは「魔法使い!?」と目を輝かせてくれたけど……。
「……とまぁそんなわけで、俺は元の世界に戻れる情報がほしい。戻れないにしてもその確証がほしいんです。だから、いろんな島を巡りながら情報を集めようと思ってます」
話終えた後、それぞれが思い思いの表情をしていた。そこで改めてルフィさんにお願いをしてみる。
「改めてお願いです、ルフィさん。皆さんに迷惑はできるだけかけないようにします。だから、船に乗せてくれませんか?」
「よし! いいぞ!」
返答は何も変わらなかったが、俺の気持ちはかなり晴れやかだ。全てを知った上で受け入れてくれる存在が増えたことによる心強さたるや……。
「あ、そうだ。もし俺のことを誰かに聞かれても奇妙な手品師とでも伝えてください。しばらくはそれで通そうと思ってるので」
「わかった!」
力強く頷いたルフィさんとは対照的に、ウソップさんが怯えた様子で近付いてきた。
「ももももしかして、魔法について知っちまってるってバレたらやべェんじゃねェか……?」
「え?……あ」
「頼むフィン!! 俺の記憶を消してくれ!!」
すがるようにそう言ったウソップさんには悪いが、どうやらこの世界では忘却術も時間制限があるらしいということを伝えると絶望してしまった。なんかごめん……。
「それより、乗船代として次に海賊達からお金をとったらちゃんとうちに納めなさいよ」
「あ、そうですよね、そこのお礼はちゃんとしないとですね」
相変わらずナミさんはきっちりしている。この人にも敵わなそうな気がする。
「なあ、フィン! 他にどんな魔法があるんだ?」
「確かに。魔法なんてもんは見たことねェから興味あるな」
チョッパーさんとサンジさんが俺の魔法について興味を持ったことで、そこからは俺のマジックショーが始まった。意外と盛り上がり、途中から本当の手品師っぽいことも交えながら自分も楽しんでしまった。
しばらくマジックショーを披露し、騒ぎすぎでみんなが砂浜で寝てしまった中、俺は何故だか全く眠くなくて海岸に設置していた椅子に座りながら海を眺めていた。
満月が暗い海に反射して明るく夜を照らしている。
「隣、いいかしら?」
砂浜を歩く音が近付いてくると思っていたが、どうやらロビンさんだったらしい。どうぞと笑顔を返すと、静かに隣の椅子に腰かけた。
「……昔、」
波の音だけ聴こえていた静けさの中、ロビンさんは海を見つめたまま口を開いた。
「魔法について記述のある本を読んだことがあるわ」
「え!? 本当ですか!?」
「そこに記述されていた魔法使いも、あなたと同じく武器を持って様々な力を使ったとされていたはずよ」
「……もしかして、薄々気付いてました? 俺のこと」
「あのマスクをした男と戦っている時に、少しだけ」
やはり元々魔法に関する何かしらの知識がある鋭い人には、誤魔化しはきかないらしい。
こんなことでは、皆に迷惑をかける未来は意外と近いかもしれない。
「……もし……」
「もし?」
小さく呟くような声だったが、思わず聞き返してしまう。
「……もし科学者さんが言っていた通り、あなたの存在が皆に迷惑となる状況が訪れたら……」
その続きは紡がれなかったが、ロビンさんの瞳からは“どうするのか?”と問いかけられているのがわかった。
ロビンさんから一度視線を外して、海を見つめながらそんな状況を想像してみる。
これだけ恩のある人達が自分のせいで危険なことに巻き込まれてしまうとしたら……うん、絶対に嫌だね。もし俺一人の存在でその危険が回避できるなら、その時は間違いなくその選択肢を選ぶだろう。
「そうですね……、皆に迷惑がかからず俺一人で解決できる方法があるなら、きっとそれを選ぶと思います。まぁ……そんな方法があるのかはわかりませんが、皆さんにはできるだけ迷惑がかからないように努力します」
俺のその言葉にロビンさんの表情に影が差したように見えたがそれも一瞬で、すぐに薄く微笑んだ。
その笑顔に何だか違和感のようなものを感じつつも、口を開こうとしないロビンさんにならって俺も何も言うことはしなかった。
波の音だけが聴こえる海岸で潮の風を感じながら、ただ海を眺め続けた。
◆
ルフィさん達がこの島にやってきてから3日目の朝、彼らのログもしっかり貯まり出航することとなった。
つまり俺もとうとうこの島を旅立つ時が来たのだ。
見送りに来てくれた島の人たちに挨拶をしていく。そして、この島で一番お世話になったと言っても過言ではないサムさんとがっちり握手を交わす。
「フィン! 気を付けるんだぞ!!」
「はい!」
「あの部屋はそのままにしておくから、いつでも帰ってこいよ!」
「ありがとうございます!」
当たり前のようにここを俺の“帰る場所”としてくれていることに心が暖かくなる。ここは間違いなく俺のこの世界での故郷だ。
「元気でやれよ」
「うん、ハルクさんも」
ハルクさんとも握手を交わし、お互いにニヤリと笑い合う。
そして既にルフィさん達が乗り込んでいる船、ゴーイング・メリー号に俺も同じく乗り込んだ。
「いつでも戻ってこいよー!!」
「風邪引かないようにね!!」
「フィンまたなー!!!」
様々な声に見送られながら手を降り続けていると、錨が上げられ船が動き出した。
……あ、そうだ。そういえばバッグに入っていた“あれ”を使うのは今がぴったりなんじゃないか?
鞄からそれを取り出し、魔法で火をつける。そしてそれを海に向かって投げた。
その瞬間、船の中からも港の方からも歓声が上がる。
「なんだこれ!?花火なのか!?」
「これってまさか!!」
「ドラゴンーー!?」
ウソップさん、チョッパーさん、ルフィさんが続けて声を上げたことに満足しながら、目の前の光景を見つめる。
そこには、緑と金のドラゴン型の花火がバンバンと大きな音を出しながら右へ左へ上へ下へと行き来していた。これはもちろん俺の元の世界で買った魔法の花火である。
せっかくの俺の門出だ。これくらい派手でもバチはあたらないだろう。
ぐんぐんと船が進む中、ドラゴンの花火は海の上を泳ぎ続ける。
「それじゃあ!!行ってきます!!!」
そう言って大きく手を振る俺に、港から皆が返してくれる。
少しだけ涙が出そうだが、やはり今日は笑顔のままが良いとグッとこらえた。
段々と港が小さくなるが、それでもまだドラゴンは泳ぎ続けていた。まるでそれは俺の旅立ちを応援してくれているように感じる。
辿り着けた者だけが楽しめる安らぎの場所、“ポルカポロウ”。
ここが俺の始まりの場所だ。
様々な笑顔とドラゴン花火に見送られ、ここから俺の航海が始まったのだった。