第13話
ポルカポロウ島を出発して2日目の朝。穏やかな気候の中、ゴーイング・メリー号は目的地を目指していた。
割と重大なカミングアウトをしたにも関わらず、みんなが快く迎えてくれたことは本当に嬉しかった。
これまでいろいろと過酷な航海を経験してきた麦わらの一味は、例え動揺するようなことが起こっても適応力がかなり高いらしい。俺としてはありがたい限りだ。
そして現在、目的地に向けて船が進む間、俺はルフィさん、ウソップさん、チョッパーさんに頼まれて魔法を披露している最中である。
「次は!? 次は何だ!?」
先程から見せている魔法は、光る粒子を出して形を作るというものだ。
俺がポルカポロウ島を出たあの日、たまたまポケットに入っていた魔法の花火から、魔法で作られたドラゴンが出てきたあの光景を気に入ってくれたらしい。
同じように傘の先から魔法の粒子を出し、様々なものを形作っている。こんなに盛り上がっているのはこの魔法についてではなく、俺が先程から作り出しているものの方だ。
せっかくならと魔法世界の紹介がわりに魔法生物を披露したところ、思った以上にみんなが楽しんでくれたのだ。
「続きましてはヒッポグリフ!」
傘の先から出た光の粒子はキラキラと輝きながら纏まっていき、やがて形を作る。そこに現れたのは胴体、後脚、尻尾が馬で、前脚、翼、頭部が巨大な鷲の姿をしている魔法動物だ。
「なんだァ!? 馬鳥!?」
「鳥みてェな馬じゃねェか?」
「でけェ!!」
キラキラした瞳で喜んでくれるのが嬉しくて、惜しむことなく魔法生物を作っていく俺。遊んでいるだけのようにも見えるけど、実は中々瞬発力と魔法の精度が必要になってくるので、かなり良い魔法の訓練にもなっている。
「なぁ、これに乗ることはできねェのか?」
自分の周りをくるくると歩く光のヒッポグリフを見ながらそう尋ねてきたウソップさん。俺はそれに首を横にふった。
「今の俺の力じゃ、実体を持たせることができないからなぁ…」
それが出来たら今後の移動がかなり楽になるんだけどな……。自分がまだまだ未熟な証拠である。
あれ、でも待てよ? 元々実体があるものに魔法をかければ、移動道具ができるのでは?
あの時の木馬を思い出してそんな考えに行き着く。ウソップさんは器用だし、頼んだら乗り物っぽいものを作ってくれるかもしれない。あとで聞いてみよう。
そうこうしているとサンジさんがパイユを作ったとのことで、おやつタイムとなった。
サムさんの料理も美味しかったけど、サンジさんの料理もめちゃくちゃ美味しい。船の上でもこんなに美味しいご飯が食べられるなんて最高かよ。
「………………んん?? 何だありゃ……」
「どうしたんです?」
「あれ、見てみろ」
隣で同じくパイユを食べていたゾロさんが、不思議そうに呟く。指の差す方向に目を凝らすと、その部分の海面がばしゃばしゃと跳ねていた。
そしてそのばしゃばしゃの正体は、ルフィさんの一言で判明することとなる。
「カエルだ!! 巨大ガエルだ……!!! クロールで海を渡ってるぞ!!」
そんなバカなと思ったが、なんと本当にカエルがクロールをしていたのだ。というかでかい!!
俺と同じように思ったらしいウソップさんが呆れたようにルフィさんに言葉を返す。
「おいルフィ、バカも休み休み言え、カエルがクロールなんか…………しとるー!!!」
みんながクロールガエルを認識すると同時に、ルフィさんの指示でウソップさん、チョッパーさん、ゾロさんが流れるような連携プレーでオールを漕ぎ始めた。どうやらカエルの方に進むらしい。
「こら!! あんた達何勝手に進路変えてんのよ!!」
「それがおい聞いてくれよナミ!!! でっけェ体中ケガしたカエルを見つけたんだ、おれ達は是非それを丸焼きで食いてェんだよ!!」
「食うのかよっ!!!」
ルフィさんの思惑に、ゾロさんとチョッパーさん同様心の中でツッコミを入れる。捕まえてペットにするとかかと思ってたのに、まさか食べるつもりだったとは……。
そんなことを考えていると、どこからかカンカンと不思議な音が聞こえてきた。まるで危険を知らせるような音である。
他の皆もその音に不思議に思いはじめたようだ。……ルフィさん以外は。
「よし!! カエルが止まったぞ!! 一気に追い詰めろーーっ!!!」
ルフィさんがそう叫んだ瞬間、船が何かに乗り上げたのか止まってしまった。
それと同時にナミさんの焦ったような声が耳に届く。
「バックバック!! 180度旋回~~!!」
その指示の意味がわかり慌てて船を旋回した瞬間だった。
「うわあ!!!」
汽笛を鳴らした列車が、俺達の目の前を猛スピードで走っていく。
は!? 海の上を列車が!? そんなの今まで見たことない!!
皆が驚きを隠せない中で、先ほどのクロールガエルがなぜかその列車の前に立ちはだかった。
「あ!!! おいカエル逃げろ!! 何してんだーー!!!」
ルフィさんがカエルに向かって呼び掛けるが、カエルはその場を動こうとしない。しかし、列車はスピードを緩めることもなく……。
ガン!! と大きな音を立ててカエルを轢いてしまった。
轢かれてしまったカエルは宙に飛ばされ海の中へと沈んでしまう。そして列車はそのまままっすぐと進んでいった。
遠くで汽笛の音が鳴ったのを聞きながら、今起こった出来事に皆まだ驚きを隠せないようだ。
「……船がけむり吐いてたぞ」
口をあんぐりあけて呟くようにそう言ったチョッパーさん。……わかる、驚いたよね。列車が海を渡るなんてのを目にしたのは初めてで、そもそも本当に今のは列車だったのかも怪しくなってきた。一体どうなってるんだ……。
いつの間にか灯台のすぐ近くに船が停まっていたようで、俺達の船を見つけたのかその灯台から誰かが出てきた。
「あ!! 大変だ!! ばーちゃんばーちゃん、海賊だよ!!」
「何!? 本当かチムニー!! よーひ、ちょっと待ってりゃ」
海賊と言われたことで全員が警戒を強める。中から出てきた子供とおばあさんは見るからに一般人だ。
そしておばあさんの手には電伝虫が握られている。まずい、どこかに連絡をするつもりだ……!
「あーー……!! もひもひ!? え~~と!!…………!! 何らっけ!? 忘れまひた!! ウィ~~ッ!!」
「酔っぱらいかよっ!!!」
なんか凄い濃いおばあさんだ……。ゾロさんとウソップさんが盛大にツッコミでしまう気持ちもわかる。
というか、この世界で俺は濃い人にしか会ったことないかも……。
いろんな驚きが続いたが、取り敢えずこの人達は大丈夫そうだということで、みんなで灯台にお邪魔することになった。
「あたしはチムニー!! 猫のゴンベと、ココロばーちゃんよ!!」
出迎えてくれたのは目がパッチリとした女の子と、ずっとほろ酔い状態のおばあさん、そして女の子は猫と言っていたがどう見てもウサギの可愛いペットだった。
「おめェら列車強盗じゃね~だろうな、んががが!!」
「おれはルフィ、海賊王になる男だ!!」
いや、ココロさんが聞いたのはそう言うことじゃないと思うのだが、そこは流石ルフィさんである。ココロさんもその回答に笑顔を見せてくれた。
そんなボケボケな会話を遮るように、ナミさんがチムニーちゃんに問いかける。
「ねーチムニー、あれは蒸気船でしょ? でもあんな形じゃ、普通航海なんて……」
「見たことないでしょあんなの。世界中探してもここにしかないよ!」
得意気な笑顔でそう答えたチムニーちゃんは、そのまま説明をしてくれた。
「あれは“海列車”パッフィング・トムっていうの」
「煙吹きトム?」
「蒸気機関で外車を回して海の線路を進むの!!」
確かに水面の少し下には線路がはってある。列車は毎日この線路を渡り、島から島へお客や物を運んでいるらしい。
しっかりと線路までの仕切りもあったらしく、勝手に入ったら危ないと怒られてしまった。
「危ねェっつってもよ、カエルはそれわかんねェだろ。吹き飛ばすのはひどいぞお前。おれ達の獲物なのに」
ルフィさんまだ諦めてなかったのか。そんなにカエルが食べたかったのかな……。
チムニーちゃんの話によると、あの巨大ガエルの名前はヨコヅナというらしい。力比べが大好きでいつも海列車に勝とうとしているらしく、シフトステーションの悩みの種なんだとか。しかもかなり頑丈なようで、あれくらいでは死なないということだ。良かった……。
なぜかその話でがんばり屋のカエルは食べないと心に誓ったルフィさんにも少しほっとしつつ、話題は俺達の進路のことへと移る。
この列車で向かえるのは“春の女王の町”セント・ポプラ。“美食の町”プッチ。“カーニバルの町”サンファルド。
しかし俺達の進む先はログの指す場所である。ココロさんの話によると、“ウォーターセブン”というところらしい。
水の都とも呼ばれていて、造船業でのしあがった都市とのことで、その技術は世界一を誇るのだとか。
ルフィさん達は元々船大工を仲間にしたいと思っていたようで、丁度良いと喜んでいた。
ココロさんから簡単な島の地図と造船技師の紹介状を貰い、新たな仲間を引き込むべくそのウォーターセブンへと向かうことになった。
◆
みんながどんな船大工を仲間にしたいかという話し合いを眺めながら、なんか仲間って響きいいよなぁ……とぼんやり考えていると、目的地であるウォーターセブンが見えてきた。
「うわぁ……すごい……!!」
思わずそう呟いてしまうほど、目の前に広がるのは大きく、そして美しい町だった。中央に巨大な噴水があり、まさしく産業都市というにふさわしい。
船で釣りをしていたおじさんに教えてもらい、海賊が正面に船をつけるのはよくないだろうということで裏町の方へ回った俺達。
裏町の方に回ってみると、より町の綺麗さがわかる。元々沈んだ地盤に新たに町を造ったようで、まるで町が水の上に浮いているように見える。水の都とは、まさにここからきている呼び名なのだろう。
また別のおじさんに岬に停めた方が良いというアドバイスを貰い、漸く停められそうなところまでやってきた。
ゾロさんが帆をたたむためロープを引っ張った瞬間、ボキッ!と嫌な音を立ててなぜかマストが折れる。その光景に目を丸くしてしまった。
「うわっ! え!? 折れた!?」
「わーー!! 何やってんだてめーー!!」
ウソップさんが慌ててマストに向かっていく。特に力を入れすぎたというわけではなく、ゾロさんは普通にロープを引いただけらしい。
なるほど、だから船の修繕をしたいという話が出ていたのか。確かにつぎはぎが目立つもんなぁ……。
「ところで、島の人達何で海賊を恐れないの?」
先ほどから親切に教えてくれる町の人達の態度が気になったのだろう、ナミさんがそんな疑問を口にした。
それにマストを直しながらゾロさんが答える。……マストを折ったことでウソップさんにめちゃくちゃ頭を叩かれているが、それは気にしていないらしい。
「海賊だって“客”だからだろ、造船所の」
「それは間違いないですね、ポルカポロウも海賊だろうと何だろうと客は客だってスタンスでしたし」
「それか、海賊に暴れられても構わないくらいの強い用心棒がいるとか……」
「ああ、なるほど……」
ロビンさんの言葉に確かに、と思う。造船所なんて海賊もたくさん来るだろうし、そういう人がいない方がおかしいくらいだ。その考えはサンジさんも同じだったらしい。
「いるだろうな、それくらい……。これだけの都市だ」
この島のことについて予想を立てながら各々がどう動くかが決まっていく。
ナミさんはルフィさんとウソップさんと共に、ココロさんのくれた紹介状を持って“アイスバーグ”という人を探すらしい。ついでに黄金の換金もして、船の修理の手配をしにいくようだ。
重そうな黄金を持って3人が町に向かった後、ロビンさんとチョッパーさんも同じく町を見てくると船を降りていった。
俺はというと、マストの周りをぐるぐる周りながらつぎはぎだらけのマストを観察してみる。
先程ゾロさんが少し引っ張っただけでボキリと折れたこのマスト。改めて見るとかなりのダメージを負っていることがわかる。
甲板の上で昼寝をしようとしていたゾロさんは、そんな俺の様子が気になったのか話しかけてきた。
「お前は町へ行かねェのか?」
「行きますよ、でもその前にちょっと試してみたいことがあって」
怪訝な顔で俺の様子を見ているゾロさんに一度笑顔を向けてから、傘の先をマストに向けて高らかに呪文を唱えた。
「≪レパロ≫!!」
杖先から飛び出した薄い光はマストに当り、つぎはぎになっていたその一部分は綺麗に直る。……が、やはり直せた範囲が予想以上に狭かった。
ちくしょう、せめてマスト全部くらいなら直せるかと思ったのに……。
「やっぱり無理か……」
「船を直そうとしたのか?」
「はい……、でも何でか魔法の効力が弱くて無理でした……。せっかく皆さんの役に立てるかと思ったのに……」
落ち込む俺にゾロさんは一つ欠伸をしてから返してくれた。
「元々ここで船を修理するつもりだったんだ、お前が落ち込むことはねェよ」
励まし、というよりは事実をそのまま言葉にしてくれたゾロさんは、すぐに眠りについてしまった。この人本当によく寝るな。
……よし、俺も町の方に行ってみよう。
心の中で呟いて、船を降りて町の方へ向かった。
町は想像以上に様々な人が行き交い、とても賑わっている。仮面を被る人をよく見かけるが、どうやらどこかでお祭り? があるらしい。さっきココロさんが言っていたカーニバルの町だろうか? すれ違いざまに話しているのが聞こえてきた。
それにしても流石水の都とでもいうべきか、陸路もあるにはあるが、水路の方が移動も楽そうである。
水路の移動は“ヤガラブル”というのを借りることができるらしい。陸でいうところの馬のような役割の魚で、背中に小舟を乗せて人や荷物を運ぶのだとか。
みんな当たり前のようにヤガラブルに乗って移動している。入り口で進められた時に借りておけばよかったなぁ。後で借りにいってみよう。
のんびりと観光をしながら思う。ここまで栄えてる町だと、魔法関連の書物はなさそうだ……。例え過去にそういうものがあったとしても、既に政府に回収されているだろう。
一応後で調べてみるつもりだが、せっかくなのでもう少し観光を楽しみたい! ポルカポロウ島以外の島にやってくるのは初めてなので、正直かなりはしゃいでいる自覚がある。ということで、もうしばらく町をぶらぶらとすることにした。
「うまっ!! あと2つ追加でください!!」
「はいよ! 毎度あり!」
途中買い食いをしながら町を見て回る。店員さんに進められた水水肉を買って食べてみると、その柔らかさと美味しさに反射的に追加で注文してしまった。
途中ヤガラブルを借りて水上の旅も楽しみつつ、そろそろ何かしらの情報集めを始めようかと思った時だ。
「あ、フィン!!」
「チョッパーさん、とサンジさん」
同じくヤガラブルに乗っていた2人は、俺の姿を見つけるとすぐに近付いてきた。楽しく観光していた俺とは違い、なんだか2人とも浮かない表情をしている。
一体どうしたのかと聞く前に、チョッパーさんが先に口を開いた。
「ロビン見なかったか!?」
「ロビンさん? いや、見てないですけど……チョッパーさんと一緒だったんじゃないんですか?」
「それが……おれが本に夢中になっている間にロビンとはぐれちゃって……」
申し訳なさそうに頭を下げるチョッパーさん。そんなチョッパーさんを励ますようにサンジさんが続けた。
「さっきも言ったがお前が責任を感じる事っちゃねェよ」
「うーん……最後にロビンさんを見たのは?」
「おれは本屋の前で見たきりだ」
「……おれはさっきロビンちゃんが知らねェ仮面男と歩いてるのを見た。最初は人型のチョッパーかと思ってたんだが……」
「チョッパーさんは覚えがないんですか?」
「うん……」
なるほど、つまりロビンさんの居場所は現状わからないということだ。
「……何も起きなきゃいいが……胸騒ぎがする……」
「え……!! 診察しようか?」
「病気じゃねェよ!!」
サンジさんとチョッパーさんの見事なコントが決まったところで、再びサンジさんが神妙な面持ちで呟いた。
「“青キジ”の言葉がよ……頭をよぎるんだ……」
「“青キジ”?」
「海軍の大将だ。おれ達はポルカポロウ島に着く前、青キジと出くわした」
「そこでルフィとロビンが凍らされちゃって大変だったんだ……」
「凍らされた!?……まさか、悪魔の実で……?」
「ああ」
この世界には魔法でもなく人を凍らせることができる人間もいるのか。悪魔の実って本当に恐ろしいな。俺の魔法なんて可愛いもののような気がしてきた……。
「そん時の青キジがよ、ロビンちゃんの過去をつつく様な事言ってたろ。そしておれ達に……いつか後悔すると……」
その内容がどんなものかはわからないが、ふと、海岸で2人で話した時のロビンさんの表情を思い出した。どこか思い詰めたようなあの表情……。確かに胸騒ぎがする。
取り敢えず2人は、ロビンさんが船に帰ってくる可能性も考えて一度船に戻ることにしたらしい。俺も2人にくっついて一緒に船に向かうことにした。
急ぎ気味で船に戻ったはいいが、残念ながらそこにロビンさんの姿はなかった。
その上で、船に留まっていたゾロさんから衝撃の話を聞かされることになったのだ。
どうやら皆が町に出ている間、この島の船大工が船の査定にきたらしい。おそらくルフィさん達からの依頼だろう。
船をみて回った査定の結果、その人から下されたのは「この船は直せない」というものだったらしい。
ゾロさんのその説明に、サンジさんもチョッパーさんも納得がいかないようだ。各言う俺も、さっきまで海を渡ってきていた船が直せないという話はすぐには信じられなかった。
「この船が……!?」
「直せない……!? 金があってもか!? じゃあ…………ど…どうなるんだ?」
サンジさんとチョッパーさんはかなり動揺しているようだが、ゾロさんはいつも通りの調子で答えた。
「さァな、最終的にはルフィ達がどう判断するかだ。造船所にいる3人で何らかの答えを出してくるだろう」
れ、冷静だ……。ゾロさんが冷静すぎて格好いい。まぁ一人で船にいる間気持ちを整理したんだろうけど……。
少ししか乗っていない俺では皆がこの船でどれだけ凄い航海をしてきたのかは、正直わからない。でも、みんながこのゴーイング・メリー号を大事に思っていることはわかっているつもりだ。
だからこそ、さっきまで乗っていたこの船がもう直せないという事実をすぐには受け入れられないのだろう。
なんだか次々に訪れる変化に、サンジさんがポツリと呟いた。
「メリー号も…………ロビンちゃんも心配……。落ち着かねェ午後だ……」
暗い雰囲気の中、波の音がなぜか大きく感じる。
……俺が魔法でこの船を直せればみんなの心の負担を一つ軽くできるんだけどな。肝心な時に役立たずな自分に段々と腹が立ってくる。
俺の今の体力全部使ってやってみたらいけたりしないかな……。半ばやけくそに思いながら傘を振り上げた時だった。
「! みんなー!!」
「あれ!? ナミが帰ってきたぞ!!」
チョッパーさんのいう通り、ナミさんがケースを抱えて船に向かってきていた。しかし、なぜか一緒にいたはずのルフィさんとウソップさんの姿はない。
焦りを含んだナミさんの表情から、何かがあったことを悟り、一旦やけくそ魔法はやめにしようと傘を腰に戻した。
「大変なの!! ウソップが!!」
ナミさんの話はこうだ。
取り敢えず黄金を換金しケースで持ち歩いていたお金、その額3億ベリー。
その内の2億を管理していたウソップさんが、この町の“解体屋”であるフランキー一家にやられお金を盗られてしまったらしい。
造船所から行方がわからなくなっていたウソップさんは、ここにくる途中にひどい怪我で倒れていたとのこと。この船を修理するにしても新しくするにしても、あのお金は必ず必要になってくる。それをウソップさんもわかっているからか、泣きながら謝っていたそうだ。
だから、フランキー一家のアジトに向かいお金を取り返してほしいと。
「ウソップは怪我が酷かったから休ませてる。まずはウソップの怪我の手当てをお願い! それからフランキー一家からお金を取り返して!!」
ナミさんからウソップさんの居場所とフランキー一家のアジトの場所を教えてもらい、すぐにそちらへ向かうことになった俺達。
ナミさんは船に残ってもらい、船と1億ベリーの番をしてもらうこととなった。
ヤガラブルを走らせ急いでウソップさんがいるという場所へ向かった俺達だが、なぜかのその場所にウソップさんの姿がない。
「ウソップーー!!」
「ウソップさーーん!!」
俺とチョッパーさんが名前を呼んでみるが、案の定返事はなかった。
サンジさんも回りをキョロキョロしながら声を上げる。
「ウソップがいねェ!! ナミさんが言ってたのはこの場所のハズだぞ!!」
「確かか!? 場所間違ってんじゃ……」
「てめェじゃねェんだよ黙ってろ!!」
ゾロさんの言葉に声を荒げたサンジさん。この2人、あんまり仲良いって感じじゃないんだよね。
「見て、血だ」
チョッパーさんが道に垂れていた血を見せてくれる。その先にも血があるのを見て、俺も思わず呟いた。
「向こう側に点々と続いてる……」
「あんにゃろ、勝手に動きやがったな!?」
サンジさんのその言葉に、より一層焦りが生まれる。もしかしてウソップさん……、一人でそのフランキー一家の元に向かったんじゃ……!?
俺と同じ考えにいきついたらしいゾロさんも「まさかあいつ……!!」と焦燥感を滲ませていた。
そんな時だ。どこからか変な音……というか人の声のようなものが聞こえてきたのは。
ああああーーと叫ぶようなその声は段々と近付き、それが人らしいと認識した時には、そのまま上から降ってきた勢いのまま壁にぶつかり、ぶつかった拍子に水の中へと沈んだ。
……え、今のって……。
「たぱスけてぺへ!!!」
「ルフィ!!?」
そう、降ってきたのはルフィさんだ。なぜ空から……?
話を聞いてみるとどうやら誰かの真似をして飛びながらウソップさんを探していたらしい。誰だよそんな危険な移動方法ルフィさんに教えたやつは……。
取り敢えずこれでまた戦力が増えた。恐らく一人でフランキー一家にケンカに売りに行ったであろうウソップさんを追うように、俺達もその方向へ向かうことに。
そして……。
「…………ひどいっ……!!」
フランキー一家のアジトの近くで、ひどい怪我で倒れているウソップさんを見つけた。全身打撲や血や砂でかなり汚れている。チョッパーさんの診断によれば、気を失っているが大丈夫とのことだった。それについては一先ず安心だが……。
……フランキー一家、酷すぎないか? 人の金を盗んでおきながら、更にこんなにボロボロになるまで痛め付けるなんて。ウソップさんが何をしたというのだ。
全身の血が頭に上っていくような感覚を覚えながら、涙で濡れているウソップさんの顔を見つめる。
ウソップさんをこんな目に合わせた上に、大切な俺の恩人達からお金を奪った連中には、しっかりと罪を償わせる必要がありそうだ。それはもう、二度とこんなことが出来ない、したくないと思えるくらいの……。
俺と同じように他のみんなの表情もかなり怒りに満ちていた。
「ちょっと待ってろよ、ウソップ」
そのルフィさんの言葉を合図に、俺達はフランキー一家のアジトへと歩き出す。
「あのフザけた家……吹き飛ばして来るからよ……!!」
俺達の視線の先に映るのは、へんてこな形をした家が建っていた。
中からは騒がしい声が聞こえてきている。よくもまぁウソップさんをあんな目に合わせておきながら、楽しそうな声をあげられるものだと、傘を握る手に力が入る。
ちょうど入り口の前に着いた時、扉から巨大は人間が現れた。
その瞬間、ルフィさんが繰り出したパンチでその巨大な男が吹っ飛び、扉を破壊していく。
「ぶわーー!!」
「何だ!?どうしたーー!?」
突然の出来事にフランキー一家の慌てたような声が聞こえてくる。そして、すぐにルフィさんの存在に気がついたようだった。
「あれは……!!“麦わらのルフィ”!!!」
ルフィさんの姿を見つけた男達は、なぜか強気に笑い出した。
「あの
なぜそんなに余裕なのか……。ウソップさんを馬鹿にした言葉、ルフィさんを見下すような言葉……、聞いているだけでどんどんと俺の怒りがたまっていく。
俺の恩人達をそんな風に言うのは、許しがたい事実である。
そしてそこからは、俺達の独壇場となった。全員がその怒りを爆発させるようにフランキー一家に攻撃を仕掛けていく。殴る、蹴る、斬る、そして魔法をぶつける。
逃げようとする奴らを一人も逃がさないように、フランキー一家全員に制裁を加えていった。
ちなみに逃げ出そうとしていた連中には壁の中に埋めて大人しくしてもらったり、蛇を巻き付けたり、失神呪文をぶつけたりしながら逃げだせないようにさせてもらった。
向こうの反撃も全てかわしながら戦い続け、気付けばフランキー一家は全て地面に倒れ、建っていた家もただの木片と成り果てていた。
しかし残念ながら、フランキーというこの一家の長とお金の行方は分からず仕舞いだ。
場も落ち着いたところで、ウソップさんの手当てをするというチョッパーさんを手伝うことにした。
「ウソップさんの怪我は大丈夫そうですか……?」
「取り敢えず今は応急処置だ。船に戻ったらちゃんと見てあげなきゃ」
手際よく処置を済ませたチョッパーさん。ハルクさんを手当てしてもらった時も思ったけど、チョッパーさんってめちゃくちゃ優秀なドクターなのでは?
「よし、運ぶの手伝ってくれ!!」
「はい!」
「おーーい!! ウソップの応急処置終わったぞ!!」
少し離れたところで話をしていたサンジさん達にそう声をかけたチョッパーさん。
ウソップさんに浮遊呪文をかけながら、そちらの方に耳を傾けていると、なぜかじっと遠くを見ながら何かを考えていたらしいルフィさんの声が聞こえてきた。
「船よォ…………」
腕を組ながら海を見つめるルフィさんの声は決して大きくなかったが、なぜかはっきりと聞こえた。
「決めたよ……。ゴーイング・メリー号とは、ここで別れよう」
そのルフィさんの重い決断が、新たな事件の引き金になるとは、この時の俺は全く予想していなかった。