魔法使いが海賊になる話   作:柚村たか

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原作が素晴らしすぎて、それに沿わせるって難しいですね……。


第14話

 気絶しているウソップさんを船に運び込み、しっかりとした処置を施していくチョッパーさんの手伝いをする。

 まぁ手伝いという程のことでもなく、指示された物を手渡すくらいだけど。

 

 その間チョッパーさんからこのメリー号のことについて教えてもらった。

 何でもこの船は、ウソップさんが自分の故郷を出る時に知り合いから譲り受けたらしい。

 この船のクルーは全員がメリー号を大事にしていることがわかるが、そんな事情があるのなら、ウソップさんにとったらより思いが強いのだろう。

 

 だからこそこんなにボロボロになってまで、この船を直すためのお金を取り戻そうとしたのかもしれない。

 

 ウソップさんの処置を済ませ、チョッパーさんと小声で話ながら看病を続けて暫く経った頃、漸くウソップさんが目を覚ました。他のみんなにもその旨を伝えると、すぐに船の中に集まってくる。

 

 全員がウソップさんの無事を確認し、ホッと胸を撫で下ろした瞬間だった。

 

 

「面目ねェ!! みんな……!! 大事な金をお゛れ゛は!!!」

「おいおいちょっと待て、落ち着けよ!!」

 

 ゾロさんの脚にしがみつき涙を流しながらそういうウソップさん。ウソップさんの身体を心配してチョッパーさんが止めに入る。なんとかウソップさんを宥めながら、意識を失っていた間の出来事を説明することとなった。

 

 聞いている間ウソップさんの顔がどんどん曇っていくのがわかった。やはり自分を責めているのだろう。

 

「……じゃあやっぱり……金は戻らねェのか……」

「いや、それもフランキーってのが帰って来ねェとわかんねェんだ。もしダメでもまだ1億あるんだからいいよ! 気にすんなよ!!」

 

 ルフィさんのその言葉で少し場が和んだ感はあるが、(ナミさんはお金について諦めていないようだったけど……)それでもウソップさんの表情が晴れることはなく、もう一度小さく謝罪を口にした。

 

「だけど……じゃあ船は……メリー号は1億ありゃなんとか直せるのか!? せっかくこんな一流の造船所で修理できるんだ。この先の海も渡っていける様に今まで以上に強い船に……!!!」

「いや、それがウソップ」

 

 ウソップさんの言葉を遮るようにそういったルフィさん。その次に放たれた言葉は、あれだけ悩んでいたのを隠すように明るく元気な声で紡がれる。

 

「船はよ! 乗り換える事にしたんだ。ゴーイング・メリー号には世話になったけど、この船での航海はここまでだ」

「?」

 

 一瞬空気が固まったのがわかる。ウソップさんは言葉の意味を理解していないのか、それともしたくないのか……口を開いたまま動かない。

 なんだかその様子に若干の緊張が走ったが、それを気にしないようにルフィさんが続けた。

 

「ほんでな、新しく買える船を調べてたんだけど、カタログ見てたらまァ1億あれば中古でも今よりデカイ船が……」

「待てよ待てよ。そんなお前……!! 冗談キツイぞバカバカしい」

 

 焦りながらルフィさんの言葉を止めたウソップさん。眉間の皺を深めながら申し訳なさそうに口を開いた。

 

「……何だやっぱり修理代……足りなくなったってことか!? おれがあの2億奪られちまったから…………!! 金が足りなくなったんだろ!!!」

「違うよ、そうじゃねェ!!」

「じゃ何だよ!! はっきり言え!!」

 

 段々と怒鳴り合いのような状況になってきている2人を慌てて止めに入る俺達だが、言い合いはヒートアップするばかりだ。

 そしてルフィさんはこれまでで一番大きな声で言葉を吐き出した。

 

 

 

「メリー号はもう!!直せねェんだ!!!」

 

 さっきまで熱くなっていたウソップさんの動きが完全に止まり、船の中には数秒の静寂が訪れた。それを壊したのは、やはり船長であるルフィさんだ。

 いつもの明るい声とは違い、振り絞るように言葉を続けた。

 

「どうしても直らねェんだ。じゃなきゃこんな話しねェ!」

 

 呆けるように固まっていたウソップさんは、確認するように船を叩く。

 

「この船だぞ……今おれ達が乗ってるこの船だぞ!?」

「そうだ……もう沈むんだこの船は!!」

 

 腕を組みしばらく何かを思案していたウソップさんが漸く口を開く。その声色には少しの怒気が含まれているように感じた。

 

「なに言ってんだお前…………ルフィ」

「本当なんだ、そう言われたんだ!!造船所で!! ……もう次の島にも行き着けねェって!!」

「ハァそうかい……行き着けねェって……今日会ったばかりの他人に説得されて帰ってきたのか」

「何だと!?」

 

 おや……これはどんどんと雲行きが怪しくなってきた。ルフィさんがいろいろ考えて決めたことはわかる。そしてウソップさんが船に思い入れがあるからこそ信じたくないと思う気持ちもわかる。この状況は言葉足らずが生んだすれ違いだ。

 これはまずいと何かフォローをいれるべきか考えた時、それよりも早くウソップさんの声が響く。

 

「一流と言われる船大工達がもうダメだと言っただけで!! 今までずっと一緒に海を旅してきた! どんな波も!! 戦いも!! 一緒に切り抜けてきた大事な仲間を! お前はこんな所で……見殺しにする気かァ!!!」

「!!!」

「この船はお前にとっちゃそれくらいのもんなのかよ!! ルフィ!!!」

 

 興奮したからだろう、口から血を吐いてしまったウソップさんに慌てて駆け寄る。

 

「ウソップだめだそんなに叫んじゃ!!」

「そうですよ、安静にしてなくちゃ……」

 

 俺とチョッパーさんの制止を気にすることなく、ルフィさんを睨み続けるウソップさん。そんな彼に同じくルフィさんも真剣な表情で返す。

 

「じゃあお前に判断できんのかよ!! この船には船大工がいねェから!! だからあいつらにみて貰ったんじゃねェか!!!」

「だったらいいよ!! もうそんな奴らに頼まなきゃいい!!」

 

 身体を引きずりながら船の修理を始めようとするウソップさん。それを再び止めようとした俺の耳にルフィさんの大きな声が飛び込んできた。

 

「お前は船大工じゃねェだろう!!! ウソップ!!!」

「ちょっとルフィ!!」

 

 今度はルフィさんがナミさんに止められるが、一度放たれた言葉がウソップさんに届かないはずがなく……。再び2人の言い合いは激しさを増していく。

 

「おうそうだ!!! それがどうした!!!」

 

 いかに船大工達が無責任な商売をしているか、自分は大事な仲間であるメリー号を見捨てることは絶対にしない、ルフィさんも同じようにまずはこのメリー号の強さを信じたはずだとルフィさんに食って掛かるウソップさんは、ルフィさんの肩をがしりと掴んだ。

 

「見損なったぞルフィ!!!」

 

 それに慌ててナミさんが間に入ろうとするが、すぐにルフィさんに止められてしまう。

 

「これはおれが決めた事だ!! 今更お前が何言ったって意見は変えねェ!!! 船は乗り換える!!! メリー号とはここで別れるんだ!!!」

「フザけんなそんな事は許さねェ!!!」

 

 2人をみかねてサンジさんも止めに入るが、その声は聞こえていないように止まらない2人。

 しまいにはルフィさんがウソップさんを押さえつけるように床に押し付けて今にも殴りかかりそうな勢いである。

 

「いい加減にしろお前ェ!!! お前だけが辛いなんて思うなよ!! 全員気持ちは同じなんだ!!!」

「だったら乗り換えるなんて答えが出るハズがねェ!!」

「…………!! じゃあいいさ!! そんなにおれのやり方が気に入らねェなら、今すぐこの船から……」

「バカ野郎がァ!!」

 

 ルフィさんの言葉の続きを止めるように、サンジさんがルフィさんを蹴りつける。蹴られたルフィさんはそのまま机をなぎ倒して壁に激突した。

 

「ルフィてめェ今何言おうとしたんだ!! 頭冷やせ!!! 滅多な事口にするもんじゃねェぞ!!!」

 

 やり方は暴力的だったが、蹴られたことで少し冷静になったらしいルフィさんが起き上がりながら言葉を返す。

 

「…………あ……ああ……!! 悪かった、今のは……つい」

「いやいいんだルフィ……それがお前の本心だろ」

「!? 何だと……!!」

 

 ……ちょっと待ってくれ、これってとんでもなく修羅場というやつなのでは……?本当は魔法を使って無理矢理止めることもできるししたいところだけど、俺はただ船に乗せて貰っているだけの人間だ。ただのすれ違いでは済まされなくなってしまったこの状況に、果たしてそこまで踏み込んでいいのだろうか……。

 一人考えている間にも、話はどんどんと悪い方へと進んでしまっていた。

 

「使えねェ仲間は……次々に切り捨てて進めばいい……!! この船に見切りをつけるんなら……おれにもそうしろよ!!」

「おいウソップ! 下らねェ事言ってんじゃねェぞ!!」

「いや本気だ……前々から考えてた……」

 

 サンジさんの言葉をはね除けたウソップさんは、声を低くして続ける。

 

「正直おれはもうお前らの化け物じみた強さにはついて行けねェと思ってた!! 今日みてェにただの金の番すらろくにできねェ。この先もまたおめェらに迷惑かけるだけだおれは……!!! 弱ェ仲間はいらねェんだろ!!」

 

 そのまま静かに立ち上がったウソップさんは、硬い表情のまま出口へと向かっていく。

 

「意見が食い違ってまで一緒に旅をする事はねェよ!!」

「おいウソップどこ行くんだ!!!」

「どこに行こうとおれの勝手だ」

 

 そのまま船を降りて歩きだしたウソップさんから放たれたのは、聞きたくない最悪の言葉だった。

 

 

「おれは、この一味をやめる」

 

 

 そんなウソップさんにナミさんやチョッパーさん、そしてサンジさんが戻るようにと声をかける。俺も本当は全力で引き留めたいが、そんな資格があるのかと考えると行動を起こすことができない。ただ下唇を噛んで耐えることしかできなかった。

 

 船から少し離れた場所で立ち止まったウソップさんは、低い声のまま言葉を続けた。

 

 

「お前とはもう……やっていけねェ。最後まで迷惑かけたな」

 

 何かを言いかけてやめたルフィさんは、そのままウソップさんの言葉に耳を傾けている。

 

「この船は確かに船長であるお前のもんだ……。だからおれと戦え!!」

「!」

「おれが勝ったらメリー号は貰って行く!!!」

 

 ゆっくりとこちらに振り向いたウソップさんの表情は、今まで見たことのないくらい怖いものだった。これは、覚悟を背負った男の表情だ。

 

 

「モンキー・D・ルフィ!! おれと決闘しろォ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 うぅ……どうしてこんなことになってしまったんだろう……。

 この人達と一緒に旅をしたら楽しいだろうなと言う軽い気持ちで船に乗せてもらったというこの俺が、こんな大事な場面に立ち会ってしまうなんて……。というか、こんな事件がある中で俺はまだこの船に乗っていても良いのだろうか……。

 

 俺はルフィさんの人柄に惹かれてこの船に乗りたいと思ったが、それに加えてこの船のクルー達がみんな優しく、そんな人達に恩をしっかりと返したいと思ったからだ。

 特にウソップさんはポルカポロウ襲撃事件の時に一緒に行動していた時間も長かったし、一番仲良くさせてもらっていたと思う。

 

 それなのに……今はその友人だと思っていたウソップさんと、大恩人であるルフィさんが戦っている……。

 

 

 

 今夜10時にメリー号をかけて決闘しろと言って去っていったウソップさんは、約束通り10時にまたやってきた。

 

 それまでに船の中の雰囲気は重く最悪なものだった。ルフィさんはあまり話してくれないし、サンジさんとゾロさんは言い合いを始めるし、ナミさんとチョッパーさんも目に見えて落ち込んでいるし……。その上ロビンさんが戻ってくる気配もない。

 

 

 そんな中で始まったルフィさんとウソップさんの決闘。正直見ているのが辛い。

 どちらも辛そうに戦っているように見えるのだ。そもそも何でこんなことになってるんだ……? 俺は未だに戸惑いを隠せていない。

 

 最初はウソップさんのペースだったが、やはりそこは船長。ルフィさんの重い一撃を食らったウソップさんは、膝をついて倒れこんだ。

 

「…………勝負あったな」

 

 小さくそう呟くゾロさんは、おそらく今この船に乗るクルーの中で一番冷静だ。

 

 倒れこむウソップさんを見ながら、ルフィさんもペタリと座り込む。そして、辛そうな声が聞こえた。

 

「お前がおれに!!! 勝てるわけねェだろうが!!!」

 

 その遠くから聞こえた叫びに、ナミさんは口元を手で押さえながら瞳を潤ませる。

 

「いやだ…………もう……!!」

 

 その呟くような声に、俺の視界も若干歪んだ。

 

「ウソップ~~~~!!!」

「おいっ!! 行くなチョッパー!!!」

 

 たまらず船を飛び出そうとしたチョッパーさんを、すぐにサンジさんが止める。医者だから治療をさせろと言うチョッパーさんを力一杯掴んだサンジさんは、チョッパーさんに言い聞かせるように、そして自分でも何かを抑えるように言葉を続けた。

 

「“決闘”に負けてその上……同情された男が! どれだけみじめな気持ちになるか考えろ!! 不用意な優しさがどれ程“敗者”を苦しめるかを考えろ!!!」

「…………!!」

「あいつはこうなる事を覚悟の上で決闘を挑んだんだ」

 

 ……そうか、だから決闘を申し込んだあの時、あんなに覚悟を決めたような表情をしていたのか。

 

 俺は、“海賊の仲間”というものをしっかりと考えたことがなかった。取り敢えず船に乗せてもらえてはいるが、俺の立場は云わばお客である。

 しかし本来海賊の船に乗り仲間になること、そして逆に一味をやめることは、これ程までに重いことだったのか……。

 

 そりゃそうだよな、ここは只の仲良しグループというわけではないのだから。

 

 

 決闘から戻ってきたルフィさんが、船の近くまでやってきていた。俯いているから表情は見えないが、少しだけ震えているように感じる。

 船の横でピタリと立ち止まったルフィさんは、絞り出すように呟いた。

 

 

「重い……!!」

「それが、船長(キャプテン)だろ……!!」

「!」

 

 ルフィさんに返したのはゾロさんだ。ゾロさんのその言葉は、俺の胸にもしっかりと刻まれる。

 

「迷うな。お前がフラフラしてやがったら、おれ達は誰を信じりゃいいんだよ!!!」

 

 船長を信じる、それは船乗りであれば鉄則ともいえるものなのだろう。

 

「船を明け渡そう。おれ達はもう……この船には、戻れねェから」

 

 

 俺はこの日、“海賊の重み”というものを初めて知った。

 

 そして麦わらの一味は、ゴーイング・メリー号を手離すこととなったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 翌朝、宿の屋上でぼんやりと過ごしていた俺達。やはりみんな口数は少ない。

 ゾロさんとチョッパーさんは静かに風を浴び続け、ルフィさんは隣の塔の屋根の上でぼんやりと座っている。俺は全員が見える位置でこの先のことについて考えていた。

 

 ……俺は本当にこのままこの海賊達と一緒に過ごしていていいのだろうか。

 自分の気持ちとしては一緒に航海ができたら楽しいだろうし、この先も船に乗せてもらいたいと思っている。

 ……が、勢いでお願いをしてただ居座るというのにはあまりに軽すぎないか?

 

 もちろん彼らに恩を返すために出来ることはやるつもりだが、壊れた船を魔法で直せないような俺に、この一味にとっての価値はないのではないだろうか。

 

 そんなことを考えて悶々としていると、ずっと姿が見えなかったサンジさんが屋上へやってきた。やはりみんなと一緒で元気がない。

 どうやらロビンさんが帰ってこないかと、夜中中岩場の岬を見張っていたらしい。

 

 

「どこ行ったんだろうな、何も言わずに……」

 

 呟くようにそう言ったサンジさんは、引き続き町を探しに行くらしい。

 俺とチョッパーさんも同じく町へとロビンさんを探しに行くことに決めた瞬間、屋上の扉が勢い良く開いた。

 

 

「ルフィ!!」

 

 やってきたのはナミさんだ。どうやらひどく慌てた様子である。

 

「大変なの! 今町中この話で持ちきりで……!! ルフィ……!! 昨日の夜、造船所のアイスバーグさんが……!!」

 

 ナミさんの話によると、昨日造船所でお世話になったらしいアイスバーグさんという人が自宅で撃たれたらしいのだ。どうやら意識不明とのこと。

 彼はその造船会社の社長であり、ウォーターセブンの市長なんだとか。

 

 

 アイスバーグさんを心配して、ナミさんとルフィさんは彼の元へと行くことにしたらしい。

 

 そしてサンジさんとチョッパーさんはロビンさんを探しに行くことに。

 俺も町へロビンさんを探しに行きたいところだが、少し気になっていたことを解消すべく2人とは後で合流することにして、そのまま屋上に残ることにした。その気になっていることとは、ゾロさんである。成り行きを見ると言ったゾロさんの言葉が妙に気になってしまったのだ。

 

 俺とゾロさんだけになった屋上で、変わらず柱を背にして座り込んでいるゾロさんに控えめに声をかけた。

 

 

「あの……ゾロさんはロビンさんが心配ですか?」

「……どういう意味だ?」

 

 我ながらなんという質問をしているのだろう……。眉根を寄せて俺に視線を向けるゾロさんの訝しげな表情は尤もだが、俺はそのまま続ける。

 

「いや、なんというか……ロビンさんがいなくなった件について、何かずっと考えている感じだったから……」

 

 実は昨日から気になっていたことだ。ゾロさんはロビンさんを心配しているというより、何かを見極めようとしているように感じたのだ。

 俺の「心配しているか」という質問には答えず、ゾロさんは口を開いた。

 

「ロビンは元々“敵”として現れた」

「え?」

「そいつを船に乗せたはいいが、いつ逃げ出してもおかしくない立場だったとも言える」

「…………」

 

 知らなかった……。なるほど、元々敵同士でも仲間になることもあるのか。まぁその辺はルフィさんが寛大なだけかもしれないけど。

 

「あの女を信用して良いのか……それとも……」

 

 そこで言葉を切ったゾロさんの眼光は鋭い。なるほど、そういう理由があったのか。

 そこで思い出されるのはやはりポルカポロウの海岸で話した時のロビンの表情だ。あの時のロビンさんは確かに様子が可笑しかったが、それは逃げ出すというよりむしろ……。いや、憶測で俺が意見していいことでもないし、そんな立場でもないか……。

 

 

「俺もロビンさんを探してきます」

 

 

 ゾロさんにそう宣言してから屋上を後にする。

 まずはロビンさんを見つけなくては話にならない。ここで彼女を見つけて、この不穏な空気が1つでも解消できるに越したことはないのだ。まぁ、ゾロさんの話を聞くとその逆の可能性もあるかもだけど……。

 いや、でもロビンさんはそういう人ではない気がするんだよなぁ。あの時のあの顔は、最近見た表情に似ていたと思ったのだ。ウソップさんが覚悟を決めてルフィさんに決闘を挑んだあの時に……。

 

 

 

 

 取り敢えず町を歩いてみると、昨日とは町の様子が違うことがすぐにわかる。町の人達はみんな市長暗殺の件で落ち着かない様子だ。それだけ慕われていた人だったのだろう。

 

 というか、そもそもこんなに闇雲に探して見つかるものだろうか……? 本当は追跡魔法とかで探したいところだけど、こんなに人が多いところでやるわけにはいかない。俺自身が目立つことは避けたいし。

 

 ……それにしても、何か風が強くなってきたな。俺がそう思ったと同時くらいに、町に設置してあるスピーカーから放送が流れてきた。

 

 

『こちらはウォーターセブン気象予報局ーー只今島全域に“アクア・ラグナ”警報が発令されました』

 

「“アクア・ラグナ”……?」

 

 突然の放送に首をかしげる。町の人達の様子を見ると、皆にとってはお馴染みのことのようだ。

 ちょうど近くにいたおじさんにアクア・ラグナについて聞いてみると、どうやら高潮のことらしい。毎年この時期になると高潮がやってきて町が海に浸かってしまうのだとか。

 なるべく高い場所へ避難した方が良いというアドバイスをもらった。

 

「こんな時に高潮か……」

 

 思わず口からこぼれてしまった独り言。ロビンさんのことも心配だし、ウソップさんのその後も心配だ。その上に高潮が来るとか、いろんなことが重なり過ぎではないだろうか……。

 

「……取り敢えずロビンさんを探すか」

 

 まずは本来の目的を果たさなくては。高潮もすぐに来るわけでは無さそうなので、そのまま探し続けることにした。……はずだった。

 

 

 

「あれあれ~? 手品師くん?」

「…………は?」

 

 

 聞き覚えのある声に振り向くと、そこにはポルカポロウで会った細目の魔法使いの姿が。名前は確か、ライ……とか言ってたような気がする。

 いやいや!! 何でこんなところに!?

 

 すぐに傘に手を掛けて警戒を強めた俺とは違い、細目男は純粋に驚いているようだった。

 

「何で君がこんなところに? ポルカポロウ島は出たのかい?」

「…………まぁ、あなたこそなぜここに?」

「そりゃ俺は仕事だよ」

「そうですか…………では」

「待って待って!」

 

 流れで誤魔化せるかなと思ったが、やっぱりダメだったか……。

 いや、俺今も悪いことはしてないよ? まぁ海賊の船に乗せてもらってはいるけども。

 とはいえ捕まえる対象にはならないと思いたいけど、この人は言うことがコロコロ変わるので信用は全くしていない。

 

 警戒を強めたまま細目男に向き直ると、ざわざわとしている町の人達を眺めながら話し始めた。

 

「このウォーターセブンの市長が昨夜撃たれたそうだよ。朝からその話題で持ちきりだ」

「そうみたいですね」

「暗殺なんて恐ろしいねェ」

「…………」

 

 なんだか意味ありげなその言い方に違和感を感じつつ、敢えてそれには触れないことにする。関わらない方が良いに決まってるから。

 そんなことを考えていると、急に細い目が俺を捉えた。

 

「そういえば、君はどうやってここまで来たんだい?」

「どうやって……? そりゃ、船で……」

「一人で?」

 

 ……もし、麦わらの一味に乗せてもらいました!なんて言ったら俺は捕まるのだろうか。それに、それを言うことでルフィさん達にも迷惑がかかってしまう可能性がある。

 なるべく平静を装ったまま口を開いた。

 

「ポルカポロウ島から出る商船に乗せてもらったんです」

「ふ~~ん」

 

 あ、これはあまり信じてくれてはいないという反応だ。しかしここで動揺を見せてはいけない。変に説明を付け加えることもせず、そのまま男を見続けた。

 

「……まァ、それはいいや。……これはついさっき聞いた話だけど、市長を襲った犯人って誰だか知ってる?」

「え? いや……」

 

 突然の話題転換に反応が薄くなってしまったが、次に放たれた言葉で思わず固まってしまう。

 

「海賊……麦わらの一味だって話だ」

「!?」

 

 声は出さずとも見るからに反応してしまった俺。細目男はもちろんそれを見逃しはしなかった。

 

「あら~随分と驚くね。やっぱり麦わら達には思い入れがあるからかな?」

「…………」

 

 ニコリと笑ってそう言った男だったが、すぐに真顔に戻る。そして、俺にしか聞こえない声で囁いた。

 

「悪いことは言わない。もし彼らと一緒に行動しているなら、今ここで離れた方がいい」

「!」

 

 これは、元々バレていたってことか……?それとも俺の反応で推測されたのだろうか。

 緊張から身動きできずにいる俺に、男はそのまま続ける。

 

「これから麦わら達はいろいろと面倒なことになる。君が自分を守りたいと思うなら、大人しくポルカポロウに戻った方が良い」

「…………」

 

 俺から少し距離を取った男は、再び笑顔で口を開いた。

 

「これは警告。次に会う時も楽しく話が出来ることを願うよ、手品師くん」

 

 

 そう言ってスタスタと歩いていった男の後ろ姿を眺め、今言われたことを頭の中でもう一度考えてみる。

 

 ルフィさん達に面倒が起こる?だから離れた方が良い?

 それは撃たれたという市長のことなのか、それとも別の何かなのか……。

 

 

「……そんな話聞かされて、助けないわけにはいかはいでしょ」

 

 残念ながらその警告は逆効果だ。俺の恩人に何か起ころうとしているのを、何もせずに見ているという選択肢は俺にはない。

 

「取り敢えず誰かと合流しなきゃ!」

 

 

 まずは市長暗殺の冤罪がかけられていることを伝えなくては。ルフィさんとナミさんは造船所に行くと言っていたから、そこに行けば会えるかもしれない。

 

 今度こそ彼らの力になりたいと意気込んで、俺は造船所に向かって走り出した。

 

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