魔法使いが海賊になる話   作:柚村たか

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少し内容修正しました。


第4話

 ハルクさんに捕まっていたせいで、危うくマスターとの約束に遅れそうになってしまった。慌ててハルク家を飛び出してお店へと向かう。

 

 ちなみに「夕方くらいに店に行くからお前の部屋で続きを聞かせてくれ」とハルクさんに一方的に約束を取り付けられてしまった。まぁ俺も聞きたいことがあったのでちょうど良いといえばちょうど良いんだけどね。

 

 

 

「サムさん、こんにちは!」

「おお! 来たか! 待ってたぞフィン!」

 

 昨日のうちに教えていた俺の名前をしっかりと覚えてくれていたマスターことサムさんは、昨日と変わらぬ優しい笑顔で迎えいれてくれた。

 

「うちで使いそうなもんはとりあえず昨日のうちに運び出して置いた。まだいろんなもんが置いてあるが、適当に弄ってくれて構わねェからな」

「ありがとうございます!」

 

 簡単に部屋を説明してくれるというサムさんの後ろについて店を出る。部屋の入り口は店の裏手にある階段を登った先にあった。

 

 鍵を開けて中に入ったサムさんに続き部屋に足を踏み入れると、最初に見えたのはリビングだ。使われていなかっただけあってかなり埃っぽいが、広さは一人暮らしには充分すぎる。奥には対面キッチンがあり、カウンターには元々サムさんが使っていたであろう椅子が置いてある。かなり劣化してしまっているがテーブルやソファーもそのまま置いてあった。

 入って右側のドアはトイレとお風呂、左側には部屋が2つあるようだ。一つは寝室にする予定だが、もう一つはそのまま物置になりそうである。きっとそんなに部屋使わないし。

 

「ソファーはさすがにこのままじゃ使えそうにねェな……。布がボロボロだ。だがテーブルは使えそうだな。ソファーだけでも運び出すか?」

「いえ、大丈夫です。俺クリーニング得意なので」

「そうか? まぁ邪魔になったらいつでも言ってくれ」

 

 そう言って仕事に戻っていったサムさんを見送って、改めてリビングの真ん中に立ってみる。

 ここ、かなり良い部屋だよな。それを用心棒になるっていう条件だけで住むのはなんだか気が引けてしまう。後で他にできることはないか聞いてみよう。

 

「さて! まずは掃除だな!」

 

 マグル式で雑巾使ったり箒使ったりってのもおつで良いのだが、俺には確かめたいことがある。窓には古いながらもカーテンがかかっているし、誰も入ってこれないよう念のため鍵もかけた。これで心置きなく魔法を使えるというものだ。

 

 先ずは床の埃を綺麗にするために杖を構えた。

 

「≪スコージファイ≫」

 

 俺のいつもの感覚では、今のでリビングの床の埃は全て消失するはずだったのだが、綺麗にできたのはなぜか自分の回りから半径1メートルくらいのみだった。

 

 やはりこの世界にきてから魔法について感じていたことは間違っていなかったらしい。どうやら生活系の魔法は、もとの世界にいた時より効果が薄い。それに対し攻撃系の魔法は威力が上がる傾向にあるようだ。

 昨日海賊たちに使用した際に、想像よりかなり攻撃力が高かったので最初は驚いてしまった。まあそのおかげであんなにテンションが上がってしまった訳だが……。

 

 仕方ない、地道にやっていくしかないか。

 こまめに場所を移動して、いろんなものに清めの魔法をかけ続ける。回数が多いせいで、魔力消費も早い気がする。普段なら数分で終わる作業も、1時間近くかかってしまった。

 部屋を綺麗にし、使用しないであろう物は2つあるうちの1つの部屋に収納していく。

 

 もっと金があったら好きな家具買い揃えるんだけどなぁ……。元の世界に戻れる保証もない今、ここで生活をしていかなくてはいけないわけで、そうなるとやはり仕事を探すのは最優先事項になってくる。いっそのこと魔法使ってお金稼げないかな……。

 

 そんなことを考えながら作業を進めているうちに、家具を含め部屋はかなり綺麗になった。

 ボロボロだったソファーも、買い替えたかのように綺麗である。あとは寝室にベッドさえ運び込めば、すぐにでも生活できそうだ。

 

 ベッド、ベッドなぁ……。買わなきゃだよなぁ、金無いのに……。今日は最悪ソファーで寝ても良いけど、この先ずっとソファーは嫌だな……。

 やはり行き着く先は金なのだ。世知辛い世の中である。

 

 とりあえず一旦休憩しようと、部屋を出てそのまま一階の店に入る。思った以上に魔力を消費してしまったようで、フラフラしながらカウンター席に向かった。

 

「いらっしゃい。あら?」

 

 カウンターの奥にいた綺麗な女性店員が俺を見て顔を綻ばせた。

 

「もしかしてあなた、フィンちゃん?」

「へ? あ、はい、そうです」

「まァ!」

 

 花が咲きそうな笑顔を見せてくれた女性につられて表情が弛む。この際フィン“ちゃん”と呼ばれたことは水に流そう。

 それはそうと、この女性は誰なのだろうか?俺の名前を知っているということは、サムさんかハルクさんの知り合いか?ってことはもしかして……。

 彼女の正体に当たりがついたところで、再び素敵な笑顔を向けてくれた。

 

「初めまして! 私はシシー。昨日は主人がお世話になりました」

「ああ、やっぱりサムさんの! こちらこそこれからお世話になります」

「ふふッ、いいのよそんなこと。なにかあったらいつでも相談してちょうだいね」

「はい! ありがとうございます!」

 

 俺の予想通り、彼女はサムさんの奥さんだったようだ。サムさんの奥さんだけあって、やっぱり良い人だ!俺を和ませにくるところとか、似た者夫婦だなぁ。

 そんな感想を抱いていると、俺のお腹が盛大に鳴ってしまった。おい、空気読めよ、俺の腹……。

 

 恥ずかしさにお腹を抑えて小さくなっている俺に、シシーさんはくすくすと可愛らしく笑った。

 

「はいはい、注文ね。何がいいかしら?」

「……じゃあ、ピラフとチョコレートパフェを……」

「はーい」

 

 注文を伝えるために奥へと向かったシシーさんの足取りが気持ち良いくらい軽やかで、なんだかその姿に和んでしまったせいか一瞬にして恥ずかしさを忘れてしまった。なんだろう? シシーさんてマイナスイオンとか発してるのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 休憩の後はすぐ部屋に戻り、水回りを綺麗にして、漸く全ての掃除を完了することができた。あのボロボロだったソファーがここまで綺麗になっていることにサムさんがかなり驚いていたが、俺の特技とかなんとかいって誤魔化すことに成功した。

 

 夕方には約束通りハルクさんが訪れ、お祝いにと酒を持ってきてくれた。サムさんが気を利かせてつまみにと料理まで作ってくれたおかげで、ちょっとした宴会のようだ。2人しかいないけど。

 

 綺麗になったソファーに腰かけて、魔法のことや、この世界についてなど、お互いの情報を交換し合う。

 

 ちなみにこの部屋も盗聴なんて一切出来ないように簡易結界のようなものを張らせてもらったので、誰かに聞かれる心配はまずないだろう。残念ながら結界範囲は俺の予想より多少狭くなってしまったが、この部屋さえ張られていれば問題ないので気にしないことにする。

 どうやら生活系魔法だけでなく、結界系も効力は薄いらしい。

 

 もしかして防御系も薄かったりするのか……? 用心棒を頼まれた身としてはそれはかなり困る。すぐに確かめなくては……。

 

「ハルクさん、俺に向かってこの紙屑思いっきり投げてみてくれません?」

「ん? おお、いいぞ!」

 

 くしゃくしゃに丸めた紙を山なりに投げて渡すと、ハルクさんはなぜかノリノリでそれを受け取った。いや、普通はなんでそんなことを?とか疑問に思うところだと思うのだが。

 

 大きく振りかぶったハルクさんに合わせてすぐに防御魔法を展開すると、ハルクさんが紙屑を全力投球してきた。投げられた紙屑はかなりの勢いで俺の方に向かってきたが、展開していた防御魔法によって跳ね返される。防御魔法自体は問題なく展開できることに安心しつつ、あとは効果がどれほどなのかも確かめておく必要がありそうだ。

 

 先ほどの紙屑に硬化呪文をかけて固め、今度はそれをハルクさんに投げてもらったが、これも無事に防御成功。この分なら強度はそこまで問題なさそうだな。

 

「すげェな! それが魔法か!?」

 

 改めて目にする魔法にハルクさんは大興奮である。もう一回! と何度も紙くずを投げてくるのが段々と面倒になってきたので、紙屑を取り上げて魔法で静かにしてもらうことにした。

 だが、今度は自分に魔法がかけられたことが嬉しいらしく、全く声が出ないという状況を楽しみだしてしまった。声が出なくてもうるさいのか、この人は……。

 

 魔法を解除した瞬間にハルクさんの質問責めが始まり、この人の賑やかさは聴覚だけでなく視覚も影響していたんだな……なんてどうでもいい発見をしてしまったのだった。

 

 

 

 

 しばらく続いた魔法披露ショーだったが、このままでは延々と続いてしまいそうだったので、俺の魔力が持ちそうにないということにしてショーは強制終了させてもらった。実際ちょっと疲れてきたし。

 

 ソファーに深く腰かけぼんやりと天井を見つめながら、俺は気になっていたことを口にしてみる。

 

「ねぇ、ハルクさん」

「んあ?」

「俺の魔法って……悪魔の実の力ってことでこの先ずっと押し通せると思います?」

 

 こんな質問をしてみてはいるけど、正直俺は無理だと思っている。

 最初はいけるかとも思っていたが、あの日記がその考えを覆してしまった。ある程度であれば通用するかもしれないが、悪魔の実に詳しい人間であればおそらく誤魔化すことはできないだろう。実際ハルクさんにはすぐに見破られてしまっているという前例もある。まぁ今回は少し特殊ではあったが……。

 俺のその予想は、ハルクさんの一言により確信に変わった。

 

「まァ……無理だろうな」

「ですよねぇ~……」

 

 ソファーにより深く身を預けると、ズルズルと音を立てて少しだけ滑り落ちた。

 

 だからといって魔法を使わないという選択肢はまずあり得ない。用心棒をするなら尚更だ。魔法が使えない俺なんて、ただ本が好きなだけの無能になってしまうわけで。無能状態で海賊と対峙してもワンパンで沈められるのがオチだ。そう考えると、魔法だけに頼っていくわけにもいかないかもしれない……。明日からランニングとかしてみようかな。まぁそれはそれとして……。

 

「気にせずバンバン魔法使うのって、本当は良くないですよね……」

「まァこの街、いやこの島の住人の前なら問題ないんじゃねェか?」

「あ、そう思います? ハルクさんが言うなら間違いなさそうだけど」

 

 頭の良い人間にそう言われると、なんだか大丈夫な気がしてくる。そこまで考えすぎる必要もないのかと思ったのも束の間、ハルクさんは真剣な声色で続けた。

 

「気を付けるべきは外から来た奴らの前でだろうな」

「……外……、海賊とか?」

「まァそれもあるが、用心棒やるってんなら海賊の前で魔法を使わねェってのは無理なんだろ?」

「うん、無理ですね間違いなく。2秒で死ぬ未来しか見えません」

「ならそれは仕方ねェとして……、真に気を付けるべきは、政府の人間だ」

「政府……?」

 

 突然出てきた組織の名前に驚いて目が丸くなる。なんで政府なんてものが出てくるのだろうか。全く意味がわからない。

 

「これはおれの憶測に過ぎないが、おそらく政府は“魔法”の存在に気付いている」

 

 ……おいおい、さらっととんでもない爆弾投下したよこの人……。驚きを通り越して逆に冷静になってしまった俺は、ソファーに座り直して唐揚げを一つ口に放り込んだ。

 いや、やはり冷静にはなれていないようだ。話そうと思ってたタイミングで食べ物口に入れるとかどういう思考回路してんの俺。なんとか唐揚げを飲み込んで続きを促す。

 

「なんでそう思うんですか?」

「おれやお前が見つけたあの日記があるように、“魔法”のことや“別世界”についての情報は他にも存在しているはずだ。例の科学者コミュニティでも、誰かの手記のようなものにあの日記と似たような記述があったと報告があがってきてるからな」

 

 ハルクさんから聞いて思っていたのだが、その科学者コミュニティってなんなの? ちゃんと合法コミュニティなのだろうか。政府が隠そうとしているかもしれない案件を探ろうとするなんて、それこそ政府に目をつけられそうな組織に思えるが、俺には関係ないのであまり突っ込むことはしないでおこう。

 

「でも、それが見つかったからってだけで証拠になりますかね?」

「おれが注目したのはその手記が見つかったことじゃなくて、見つかった場所だ」

「場所って図書館じゃないんですか?」

「手記が見つかったのは、この島と、グランドラインに存在している別の島だ。この2つの島の共通点があるとするならば、磁力が不安定でなかなか狙って辿り着くことができねェってことだ」

 

 俺の図書館発言は見事にスルーされ、真剣な表情でそう言ったハルクさん。なんか俺がすごいバカみたいじゃないか…。まぁスルーされてしまったのに蒸し返すなんて野暮なことはしないでおこう。俺が恥ずかしくなるだけだからね。

 今の発言はなかったことにして、わざと真剣な顔を作って考察してみる。

 

「つまり……回収できそうな島の書物は政府に回収されて、たまたま辿り着くことが難しい島に“魔法”関連の書物が残っていたと」

「多分な。おれはそう考えてる」

 

 お、どうやら当たりっぽい。これで俺のバカっぽいイメージは払拭されたに違いない。そのことに安心して、再び唐揚げを口に放り込んだ。

 

「ってことはつまり、政府は魔法の存在を隠したがってるってことですよね?」

「そうだろうな」

「なんでだろ?」

「さァな、なんとなく予想は出来るが、本来の目的は知らん」

 

 俺はその予想すらできないんだけど……とハルクさんに視線を向けてみたが、どうやらそれについて教えてくれる気はなさそうだ。要するにこれ以上は聞くなということだろう。

 

「だからもしお前が魔法使いだって政府に漏れれば、保護と銘打って連れていかれる可能性があるってことは頭に入れておいた方がいい」

 

 政府に保護か……。一瞬それも悪くないかもしれないとも思ったが、よくよく考えてみると保護された場合は間違いなく自由に行動はできなくなるだろう。隠したがっているのが本当ならば、政府の目の届くところで永遠に暮らすことも考えられる。それは最早保護ではなく監視である。さすがに嫌すぎる……。

 

「だとしたら政府だけには見つかりたくないかも……」

「おれもその方が良いと思うぞ。まァ磁力が強くなる時期でも、海賊は来ても海軍が来るなんてことはまずないから安心しろ!」

 

 ハルクさんのその言葉に少し心は軽くなったが、警戒を怠るわけにはいかない。

 なるべく魔法が魔法っぽく見えない方法を考えるべきなのかもしれないと思いながら、俺は最後の唐揚げを口に放り込んだ。

フィンはホグワーツのどこの寮出身だと思いますか?試しにアンケート使ってみたかったのです。

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