第6話
グランドラインの海の上。
そこには一隻の船が風を受けて進んでいた。可愛らしい羊の船首であるにも関わらず、メインマストには麦わら帽子を被ったドクロという立派な海賊旗がはためいている。
麦わらの一味を乗せたこの船、ゴーイングメリー号は、ロングリングロングランドを出航してから二日目の朝を迎えていた。
海軍大将青キジとの激闘により凍らされてしまったルフィとロビンの容態は、船医であるチョッパーの活躍もあり順調に回復していた。ルフィに至ってはウソップとチョッパーと共に元気に船の上を走り回っている程の全快ぶりである。
穏やかな航海を続けていた麦わらの一味だったが、それは突然破られることになる。
「アァァァ!?」
悲鳴のような声を上げたのは、航海士のナミだった。船中に響き渡ったその声に、クルーたちは何事かと甲板に集まってきた。
「どうしたナミ!?」
全員がナミに視線を向ける中、その張本人は腕を見ながら目を見開いている。
「大変! ログがさっきとは違う場所を指してる!!」
「なにィ!?」
ログ、正式名称はログポース。彼女が腕につけているコンパスこそがそれである。このグランドラインの航海において必要不可欠なこのコンパスは、船乗りたちが進むべき指針となる。ログポースが指し示す場所へ向かえば、そこにはかならず島があるのだ。
先程までログポースの指し示す場所へ舵を切っていたのだが、知らぬうちにログポースは全く別の場所を指していたようだ。
「まさか故障か……?」
ウソップの心配そうな言葉をよそに、ナミは思い出したかのように顔を上げた。
「そういえば……空島の時も急にログが上を指し始めたわよね……」
「確かに……。ってことは、またログが別の島の磁気に書き換えられたってことか?」
「多分ね」
そう言ってログポースをもう一度確認したナミは、ブレのないコンパスの先を見て頷いた。
「うん、安定してる。やっぱりこの先に島があるんだわ」
「まァなんでもいいよ! 島に着けるんなら!」
にししと笑ったルフィの言葉に、クルーたちは呆れたような、でもどこか楽しげな表情を浮かべた。
「いよォーっし、野郎共ォ!! その不思議島に向かって! 全速前進!!!」
船長の一言により、麦わらの一味は早速“不思議島”に向かうことにしたのだった。
それから数時間後、麦わらの一味を乗せたゴーイングメリー号は、漸く一つの島へと辿り着いた。
島のあちこちに港があり、その向こうには街が見える。大小様々な建物が並び、港からでも活気が伝わってくるようだった。
「結構賑わってる島なのね! 物資調達にはちょうど良かったかも!」
「はっ!! オオオイ……あ、あれ見ろ!」
船を港につけて、そこから見える町並みに満足そうな笑みを浮かべたナミとは対照的に、ウソップは蒼白な表情である場所を指差した。
「か、海賊船だ!!」
「一隻だけ……ってわけじゃなさそうだな」
サンジのいう通り、少し離れた港に停泊している船の中に、何隻か髑髏マークがはためいていた。
「私たちみたいに、ログが書き換えられてここに辿り着いたのね……」
どうやらショッピングをするのも一苦労しそうだと、ナミは気を引き締める。
「いい!? みんな良く聞いて! あの船でわかる通り、他にも海賊がいるみたいだから、くれぐれも“無駄な”行動はしないこと!」
「はァい! ナミさァ~ん!!」
「で、ルフィとウソップは私と一緒に来て。この島なら黄金を換金できるかもしれない」
各々目的のために船を降りて行動することになるのだが、ここで新たな事件が起こってしまうことなど、この時はまだ誰も予想していなかった……。
◆
ハルクさん連行未遂事件から1ヶ月以上経ったが、今のところ海軍が戻ってくる気配はない。上手いこと誤魔化せていることを願うばかりだけど、この島の磁気が弱まっていた関係で辿り着けなかった可能性も否めない……。
あの事件があったことで、この島にとってハルクさんは必要な人間だということを島民たちが再確認したようで、次に海軍がきたらハルクさんのことを隠そうという話でまとまったらしい。この島の人たちの団結力は本当にすごいと思う。
当の本人はというと、自分のことについてはあまり心配していないようだ。
いざとなったならこの島を出ないという条件で手を貸すなどと言っていたけど、そんな簡単にいくものなのだろうか。まぁハルクさんのことだから、きっと何か考えがあるんだろうけど。
そんなこともありつつ、俺はいつも通りサムさんの店で絶賛皿洗い中である。ここ最近また磁気が強くなってきたおかげで、外からの客が増えているからか今日も大繁盛だ。
「フィン! これ3番テーブルに持って行ってもらえるか?」
「はーい」
コックに頼まれた通り出来上がった料理をテーブルまで運ぶ。テーブルには3名のお客が座っているが、あまり見ない顔ということは外から来た人たちなのだろう。いや、待てよ? 一人はどこかで見たことあるような気がするけど……、そもそもこの島民以外でこっちに俺の知り合いがいるわけがないので、やはり勘違いかもしれない。
「お待たせしましたー」
「うほォー!! うまそー!!」
見たことあるような気がするその麦わら帽子を被った男性がかなり良い笑顔で運んできた料理にがっついている。うんめェー!! とどんどん料理を口にはこんでいく様子はなんとも気持ちが良い。うんうん、うちのご飯は何でも美味しいからな。そこまで喜んで貰えると嬉しいものだ。俺が作ったわけじゃないけども。
自然と溢れた笑顔のまま立ち去ろうとしたら、同じくそのテーブルに座っていた女性に話しかけられた。
「店員さん」
「はい?」
「この島のログはどのくらいでたまるの?」
「3日でたまりますよ。辿り着けた者だけが楽しめる安らぎの場所、“ポルカポロウ”へようこそ! ログがたまるまでのんびりしていってください」
「“辿り着けたものだけが楽しめる”?」
お決まりの歓迎の挨拶に首を傾げたのは、鼻の長い男性だ。
「皆さんは、急にログがこの島を指し始めたからここに辿り着いたのでは?」
「そうなの! 突然進路が変わっちゃって……」
「この島の磁気は特殊で、一定期間だけ強力な磁気を発するんです。それで一時的にログが書き換えられるんですよ。でも、ここでログがたまれば元々指していた場所をまた示すのでご安心ください」
サムさんが説明してくれたことをただ繰り返してるだけなんだけどね。俺はこの島以外知らないので、全部人から聞いたことか本から仕入れた知識のみである。
それではごゆっくりーと笑顔を向けて立ち去ろうとすると、突然入り口のドアが乱暴に開いた。
大きな音を立てて店に入ってきたのは、ガラの悪そうな4人組だ。いかにも“これから悪さします!”みたいな雰囲気を漂わせながら、空いていたテーブル席にどかりと座った。
「オイ、兄ちゃん」
ちょうど近くにいた俺に、顎でこちらに来いというジェスチャーをしてきた男。随分と偉そうである。俺の嫌いなタイプだが、今はまだ客なので大人しくそちらへ向かう。
「いらっしゃいませ、ご注文ですか?」
「あァ、注文だ。おれたちはもうすぐログがたまる。そしたらすぐに出航予定なんだが、そのためにはいろいろ準備が必要だ」
「はあ……」
言われている意味がわからず気の抜けた返事をしてしまったが、男はそのまま続けてきた。
「だからよォ、この店にある食料を全てもらいてェんだが」
「…………」
なに言ってんだこいつ。という言葉を飲み込んだ俺を誰か褒めてほしい。顔には出てしまったかもしれないが……。
なんとか無理やり笑顔を作り、ちゃんと返答することにした。
「この店の食料全てとなるとかなりの額になるのですが、お支払は可能ですか?」
「は? 支払い?……兄ちゃんよォ、おれたちはこれから危険な海に出るわけだよ。生死を彷徨うような海にな。そんなおれたちから金をとろうなんて、とんだ薄情野郎じゃねェか」
いや、そりゃあなた方に対して愛情なんて持ってませんからね。俺には全く関係ないし薄情で結構だ。この人たちがの垂れ死のうが興味がないわけで。しかも海に出ようと決めたのが自分たちならば、それは完全に自己責任だと思う。
吐き出したい溜め息と悪態をグッとこらえて、腰にさしている傘の柄に手をかける。
「えーっと……つまり支払えるお金はお持ちでないと?」
「だから、」
何か良いかけた男の言葉を無視して、俺は口の中だけで呪文を唱えた。すると男の懐に入っていたお金が袋ごと飛び出し、俺の手の中に収まる。なんだ、これしか持ってないのか。よくこれでそんなでかいことを言えたものだ。
「うーん……、確かにこれじゃあ払えませんね」
「……は?」
いきなりお金が飛び出したことに驚いている男は目を丸くしている。その隙に他の3人の懐からも魔法でお金を引き寄せてみる。全員分合わせてもさすがにこの店の食料はあげられそうにないな。
ようやく状況を理解した男達は、とたんに立ち上がって威嚇してきた。
「なに勝手に俺の金とってやがんだ!!!」
「一応確認しないとと思って。こちらもただであげるわけにはいきませんから。あ、お金はお返しします」
そういって持っていたお金を魔法で男たちの懐に返してから、再び笑顔を作ってみせる。
「他にご注文は?」
俺の言葉に完全に頭に血が上った男達は、一斉にわめきながら取り囲んできた。話が通じない人って怖い。俺は等価交換しましょうねって言ってるだけなのに。
突然起こってしまった事態に少しげんなりしつつ、素早く1メートル程距離をとってから、傘を男達に向けた。
「≪ペトリフィカス・トタルス≫」
見事全員に金縛り術をぶち当てると、男達は気をつけの姿勢をとったままばたりと後ろに倒れた。動けないし声も出せないけど思考が止まるわけではないので、きっと本人達は今大混乱中だろう。
そんな彼らを上から覗きこんでみる。
「ダメですよ、急にこんなところで寝ちゃ」
まぁやったのは俺だけど。ずっとこのままはさすがに邪魔なので、まずはこの店から出さなくては。
「サムさん、この人たち寝ちゃったみたいなんでお帰りいただきますね」
「おう、頼む。オイ、誰か手伝ってやれ!」
サムさんも随分とこういう状況に慣れたものだ。サムさんの言葉で手伝いに来てくれた人たちと男達を店の外に出し、通行の邪魔にならないように銅像っぽく立て掛けておいた。魔法は数時間後に解いてあげることにする。その頃には彼らのログもたまってるんじゃないかな。
「あ! フィンいた!」
サムさんの店に戻ろうとしたのだが、街の子供に呼び止められてしまった。
「なに? 俺のこと探してた?」
「探してた! 大変なんだよ! メイリンさんの店で服をただにしろってごねてるヤツがいるんだ!」
「えぇ……また……?」
「メイリンさんがすごく困ってるんだよ! 助けてよフィン!」
「いや、俺サムさんの店専門なんだけど……」
「いいだろ! すぐ近くなんだから! ほら早く!」
俺を引っ張って行こうとする少年を一度宥めて、サムさんに一応断りを入れてからメイリンさんの店に向かうことに。俺っていつからこんな人気者になったんだろう。こういう人気はあんまり嬉しくないけど……。
◆
「すごかったな、さっきのヤツ」
騒動が収まった店の中でも麦わらの一味の3人は変わらず食事を続けていた。この島では黄金が換金できないとわかった3人は、一度船に置いてから街に戻ってきたのだ。たまたま入った店であったが、関係なくとも騒動が起こってしまうのはそういう星のもとに生まれたからなのだろう。
そんななか話題に上がったのは、先程活躍した全身黒い服を纏った男、フィンのことについてである。最初にその話に触れたのはウソップだ。
「どうやってお金を引き寄せたのかしら」
「紐かなんかで操ってたんじゃねェか?」
「へひはひへーはっはは」
「飲み込んでからしゃべれよ……」
思い思いのことを口にする3人の前に、追加で注文した料理が届く。その流れでウソップは店員に話しかけた。
「なァ、おっさん。さっきのヤツはただの店員じゃねェのか?」
「ああ、フィンのことか? アイツはな、この店の雑用兼用心棒なんだよ」
「雑用兼用心棒って……」
随分とおかしな肩書きを疑問に思うウソップだったが、店員であるサムは続けて口を開いた。
「それが変わったヤツでな。数ヵ月前にフラッと現れたんだが、ログも持たずに旅をしてて、たまたまここに辿り着いたらしいんだよ」
「この海でログを持たずに航海!? ありえない!!」
「おれもそう思ったさ。まァ運が良かったんだろうな。だが船が壊れちまったみてェでそれからずっとここに滞在してるんだ。この店の2階を滞在中の住まいとして提供する代わりに、この店の用心棒をやってもらってるってわけよ」
「それがなんで雑用までやってるんだ?」
「部屋を借りるのに、用心棒だけじゃわりにあわねェって言われちまってな。住み込みのアルバイトとしても働いてもらうことになったんだ」
サムの話を聞く限り聖人のような優しさを持っている人物に思えるが、さっきの行動然り、ログを持たずに旅をすること然り、普通の神経の人間というわけではなさそうである。
「そういや変わった武器持ってたよな。ただの傘ってわけでもなさそうだったしよ」
見た目は黒い和傘のようだったが、フィンがあの傘を向けた瞬間男達がばたりと倒れたのを考えると、あれは武器なのだろうと考えたウソップ。麻酔薬か何かを仕込んでいたのだろうかと考える。それを裏付けるようにサムは続けた。
「なんでも、変わった武器を集めるのが趣味って話だったか……」
店にやってくる客から聞いた話をぼんやりと思い出す。フィンにちゃんと確かめたことはなかったが、彼があまりこの話をしたがらないことに気付いていたサムは、敢えて今後も確かめることはしないだろう。
「まァ気になるなら本人に聞いてみな。この店に来りゃまた会えるだろ」
そう言い残して笑顔で厨房へと戻っていったサムにお礼を言って、再び食事を続ける3人。
その話題に上がった人物と対峙するのはそれから数十分後のことだった。
◆
メイリンさんの店で起こっていたいざこざをさらりと治めた俺は、そのままサムさんの店へと向かっていた。まだやらなくてはいけない雑用は残っている。
一応見回りのようなことをしながら歩いていたからか、速度はかなりゆっくりとなってしまった。だからだろうか。前から歩いてきていた人間に腰にさしていた傘を盗られてしまったのは……。
「……は?」
すれ違いざまにとんでもない早業で傘を盗られたからか、一瞬何が起こっているかわからなかった。急に腰にあった重みが消えてしまったことに違和感を感じたときには、既に傘を盗った犯人は走り出していた。
待て待て! 確かにしっかり固定して無かったとはいえ、そんな手慣れた手付きで盗られるほど緩く装着していたわけでもないんだけど!?
混乱の中で一番最初に起こせたアクションは、ただ大きい声を出すことだけだった。
「ど、ドロボー!!!」
まさか人生の中でこんな言葉を放つ日が来るなんてね……。しかも当事者として。
慌てて犯人を追いかけながら、そんなことを思う。
この距離ならギリギリ取り戻せるか?杖がない状態の魔法はまだかなり不安定だが、そんなことも言ってられないと呪文を唱えようとしたその時だった。
盗人の走る方向にいた人物が、俺のドロボー発言を聞いていたのか、犯人の前に立ちはだかった。
ありがたい! そのままそこでガードしててくれ!
そう思った瞬間、立ちはだかっていた男が、犯人を止めてくれた。殴るというかなり物理的な方法で。
まぁでもありがとう! 助かった!
殴られた拍子に盗人が持っていた傘が宙に舞う。その時にはなんとか魔法が安定しそうな距離まで来ていたので、すかさず呼び寄せ呪文を心の中で唱えた。やっと俺の手に傘が戻ってきたことに安堵する。
「ありがとうございます! 助かりました!」
盗人をぶちのめしてくれた恩人をようやくしっかりと視界にとらえて気付いたが、その人物は先程のサムさんのお店で料理をがっついていた麦わら帽子の男性だった。
「あ、さっき店にいた……」
「あ!手品のやつ!」
「……手品……?」
突然言われた“手品のやつ”発言に、思わず首を傾げてしまう。手品なんてした覚えないですけど…。
「金を引き寄せたり戻したりしてたじゃねェか!」
「ああ……なるほど」
この力を手品と言われたのは初めてだ。でもなるほど、手品ね。この力を手品と思う人がいるということは、案外手品としても通用するのかもしれない。
「あー、そう。そうなんですよ。手品なんです」
「明らかに嘘だろっ!」
ビシッと突っ込みを入れてきたのは長鼻の男性だった。
「いや、まぁ、手品ってことでいいじゃないですか。そんな感じの方がミステリアスだし」
「適当だなオイ」
「なんだァ、手品じゃねェのか」
「いや、手品です」
なぜか手品ではないことに残念そうな麦わらさんに、すかさず手品だと言いきってみる。望まれているなら期待には応えたい。まぁ手品じゃない時点で応えられてないけど。
「まぁそんなことは置いといて、サムさんのお店の料理おいしかったでしょ?本当にあの店の料理……はっ!!」
話している最中に麦わらの人を見て急に思い出したので思わず言葉を止めてしまった。
通りでさっき見たことあると思ったわけだ。この人、最近話題の手配書の人だ!
「あなたは! 懸賞金1億の男!」
「ん?」
言い方は失礼になってしまったが、俺が笑顔だったからかそれについてはあまり気にしていないらしい。
その心の広さにつけこんで、俺はそのまま笑顔で話しかけ続ける。
「おお! 今まで賞金首になってる人とは何度か会ったことあるけど、億クラスの人とは初めて会いました!」
手配書ではめちゃくちゃいい笑顔で写っていたから、まるでただの記念写真のようで全く怖くはなさそうなイメージだったけど、そういう人ほど実際はサイコな人ってのはよくある話である。しかしそんな雰囲気もなく、助けてくれたということはむしろ写真通りの良い人なのだろう。海賊でもそういう人はいるんだなぁ。
突然話し出した俺に戸惑っていた3人だったが、すぐに気を取り直したようでスタイル抜群の女性が話しかけてきた。
「ねぇ、あんた、さっきどうやってお金をとったの?」
「だから手品ですって」
「そのタネを教えてよ」
「え、嫌です」
俺の言葉にケチ、と溢した女性。ケチって……。そもそも教えたところでできるものでもないのだ。魔力がなければ意味がない。
そういえばと、地面でのびている男に視線を移す。俺の傘をとろうなんて一体どんなやつなのか、麦わらさんに食いつきすぎて確認するのを忘れていた。
あ、この人さっきメイリンさんの店にいた人だ。なぜか騒動をじっと見ていたからなんか嫌な感じだなとは思っていたけど、もしかしてごちゃごちゃ言ってた人の仲間だったのだろうか?
俺が傘を向けて騒いでいた奴らをぐるぐる巻きにしたのを見て、この
やはりこの傘が狙われる日が来てしまったか…。もっとちゃんと腰に装着できるやつをハルクさんに頼んでおいて良かった。あとで進捗聞きにいこう。
まずはこの男を海岸にでも置きに行こうと縄を出して魔法で縛り上げる。よし、これで引きずっていけそうだ。
「……やっぱり変わった武器持ってんなー」
長鼻さんが俺の傘をまじまじと見ながらそう呟く。でしょ? と一言だけ返して、縛り上げた人の縄を握り直した。
「では、俺はこの人を海岸に捨て……置いてこなきゃいけないので」
爽やかにそういって、引き摺りながら歩き出した。
……いや、なんでだ。なぜか3人もついてくるんですけど。今完全にここでお別れって雰囲気醸し出したはずなんだけどな。
仕方ない、会話を繋ごう。
「皆さんはこれからどちらへ?」
「一旦船に戻ろうと思って。今日はここに停泊しなくちゃいけなくなったし、みんなに伝えなくちゃ」
「ああ、なるほど」
なんだ、方向が一緒だっただけか。人を一人引き摺った状況じゃなければ、もうちょっと穏やかな散歩になるんだけどなぁ。
「なァ、あの丸いやつなんだ?」
麦わらさんの視線の先には、島の中心であるフェオ地区のポロウ草を守るドーム型の防壁がある。
二重構造の高い防壁から、二重構造のドーム型防壁に変わったのは実はつい最近のことだ。どうやら植物の成長を妨げないように太陽光もしっかり入る構造とかなんとか言っていたが、やはりハルクさんはすごいってことしかわかっていないというのが正直なところである。
そういえば、外から来た人たちにはあんまりポロウ草のことは言わない方が良かったんだっけ。この人たちが悪い人とは思わないけど、島の皆の意向なのだから俺が勝手をするわけにはいかない。
何て言おうか考えながら口を開いた時だった。
ドォーン……
向かっていた海岸から地響きのような音が聞こえてきたのだ。
「なんだァ?」
「なんの音だろ?」
麦わらさんと俺の声が重なる。あんまり聞きなれない音だったが、何かが起きているのは確実だ。
……なんだろう、何だか嫌な予感がする。今日はあちこちでいざこざが多かったからか、神経が過敏になっているだけだと思いたいけど……。
そんなことを考えながら、なるべく急ぎ足で海岸に向かった。