「なんじゃこりゃ!?」
急ぎ足で到着した海岸。そこから少し離れた場所には、船だけではなく砂浜に別の乗り物があった。それを見た感想としては長鼻さんの言う通り、まさしくなんじゃこりゃ!? である。
というかこれって……。
「戦車……?」
サイズは小さめだが、形は間違いなく戦車だ。おそらく先程の地響きはこの戦車を船から下ろした音だったのだろう。戦車を初めて見たことに上がりかけたテンションを引き締め直す。いかんいかん、ちゃんと状況を整理しなくては。
こんなものをわざわざ船で運んできたということはただ事ではない。そもそもなんでこんな辿り着きにくい島に…?
「ルフィ!!」
「チョッパー! ロビン!」
突然物騒なものが現れたことに少しの恐怖を感じた時、綺麗な女性と可愛らしいタヌキのような生き物がこちらに走ってきていた。
……え、待って。なに? なんなんだこの可愛い生き物は! ていうか、今喋った? この世界では動物も普通に話すのか……?
やってきた二人はどうやら麦わらさんの仲間らしいが、随分と慌てている様子だ。麦わらさん達のもとに到着した瞬間、タヌキさんが勢いそのままに話し出した。
「大変だルフィ!! さっき偶然聞いちゃったんだ!!」
「どうした!?」
「あそこにいる海賊たちの仲間が、この島の中心にある“何か”を占拠するって!!」
この島の中心にある“何か”って……ポロウ草のことだよな。え、占拠するってまさか……。
「それ本当ですか!?」
聞こえてきた内容があまりに衝撃的すぎて思わず割って入ってしまったが、そんなことを気にしてはいられない。
突然知らない人間が反応したことで、やってきた二人は不思議そうな顔をしている。素直にそんな疑問を口にしたのはタヌキさんだった。
「誰だ?」
「さっき飯屋で店員やってた手品師の用心棒だ!!」
「いや、余計わかんねェだろそれ!!」
俺を紹介してくれた麦わらさんは自信満々にそう言いきったが、長鼻さんみたいにそれに突っ込めるほどの余裕は今の俺にはない。
「本当に海賊たちが島の中心にある“何か”を占拠するって言ってたんですか!?」
「ええ、間違いないわ」
黒髪美女が頷いたのを見た瞬間、俺の脳内が高速に動き始める。
海賊たちが占拠する? ポロウ草のあるあの場所を?
厳重に管理しているとはいえ、100%今の防壁だけで守れるかはわからない。しかもあんな戦車まで持ち出してきたということはただの思い付きというわけではないのだろう。むしろこの島ごと占拠をするつもりなのではないだろうか。でも、なんでそんな大掛かりなことをする必要が……?
疑問が次々と沸き起こるが、理由を考えていても仕方がないことに気付く。まずは本当にあの人たちがこの島を占拠するつもりなのか、そしてあの戦車で一体何をするつもりなのかを確かめなくてはいけない。
そうと決まればやることは1つ。俺はゆっくりと彼らに向かって歩みを進める。
「オイ! どこ行くんだ!?」
後ろで長鼻さんが止めてきたが、それを笑顔で制してそのまま進んだ。
戦車の周りで忙しそうに動きまわっていた海賊たちに近付いた俺は、世間話でもするように声をかけた。
「こんにちは」
「……あァ? 何だオメェ?」
「すごい乗り物ですねぇ。これでどこかにお出掛けですか?」
「何だって聞いてんだよ!」
世間話も許してくれない程気が立っているらしい。ナチュラルに聞いたらいけるかなと思ったのだが、海賊たちもそこまで単純ではなかったようだ。というか、“誰だ”じゃなくて“何だ”って……、まるで俺が人間に見えないみたいな言い方が若干傷つく……。
まだ平和的解決を試みるか考えていると、海賊たちの船の方からある男の声が聞こえた。
「あっ! テメェはさっきの!!」
「え?……あ、さっきお店にいた人」
サムさんのお店でとんでも取引を持ち出してきた男が、船から俺を指差していた。
……あれ? どうやって魔法を解いたんだろう?自然に解けるとしても、今日1日くらいはかかったままだと予想していたのに。同じく魔法をかけていた他の3人もみんな既に解けているようだ。もし自力で解いたのだとしたら、この世界での魔法の効果時間がこれまでとまるで違う可能性が出てきてしまった……。
俺がそんなことを考えているうちに、いつの間にか海賊たちに囲まれていた。あ、やばい。実力行使パターンのやつだ。
ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべた男達はじりじりと逃げ道を塞いでくる。
俺はしっかりと傘に手をかけつつ、あえて怯えた表情で口を開いた。ほら、弱いものには油断しやすいらしいから。
「ひぃっ!! なっ、なんですか!? 俺はただ戦車すごいって言っただけなのに……!!」
「へへ……お前の存在は邪魔だと思ってたからな。ちょうど良かったぜ」
あれ、油断させよう作戦はあまり効果がないっぽい?
どうやら俺の存在はさっき魔法をかけた人伝いで話が回っているらしく、油断なんて1ミリもしていない様子だ。ならばわざわざ怯えてるように振る舞う必要はないか。
けど、この人数に囲まれるのはやはり怖いもので、本当は怯えておきたいところだったというのは内緒だ…。なるべくそれが伝わらないように無表情で前を向く。悟られたくないときは“必殺・無表情”に限る。
「ここでお前を止めておければやり易くなるからな!」
「
「……計画……?」
気になる単語に眉根を寄せて小さくそう呟くと、一人の男が笑みを深くした。
「それを知る必要はねェよ」
「テメェが目を覚ました時には、ここはもう
その瞬間男達が一斉に得物を振り上げる。俺は間髪いれずに呪文を唱えた。
「≪エクスパルソ≫!!」
突然爆発したように砂が巻き上がり、男たちは砂が目に入ったり口に入ったりと大混乱だ。そんな中こっそりと砂煙の中を抜け出してしまえばこちらのものである。既に魔法で砂対策はバッチリだ。
混乱に乗じて男達に次々と失神呪文を浴びせていく。先程まであれだけ騒がしかった声はいつの間にか止み、巻き上がった砂煙が落ち着いた頃には何人も砂浜に倒れていた。
とはいえまだまだ連中の仲間がたくさんいるようで、船から蟻のようにわき出てくる。
「やべェ! あの変な術使うヤツが来ちまった!!」
「アイツの武器は回収したんじゃねェのかよ!?」
あ、なるほど? 俺の武器盗もうとした人はあんた達の仲間だったわけね。メイリンさんの店で俺をじっと見てたのは、盗めそうなタイミングを図ってたのか。
もし盗られていたらこの状況で俺は完全に無力。ただ指をくわえて見ているだけにならなかったことに、胸を撫で下ろす。
「合図はまだか!? いつ行ける!?」
「まだです! 他はまだ発射準備が整ってないようで!!」
「ここだけ先にってわけにはいかねェからな!!」
「とにかくアイツを止めろ!」
船の上から他の仲間がわらわらと現れて再び囲まれそうになる中、俺の視界の端で戦車が動いた。
え、動いた……? まさか……この人たち俺を撃とうとしてる!? さすがにそれはまずいでしょ!!
群がってきている奴らは取り敢えず後回しにして、慌てて戦車に向かって高らかに叫ぶ。
「≪コンフリンゴ≫!!」
傘の先から勢いよく飛び出した光はそのまま戦車に当たり、その瞬間大きな音を立てて爆破された。
……うん、思ってた以上の威力になっちゃったけど、結果オーライ。どのみち壊すなら派手でも地味でも同じだ。
突然壊れた戦車に一瞬呆けていた海賊たちだったが、すぐに俺の方に向き直る。
「テメェ何しやがった!!」
怒りを露にした海賊たちが一斉に武器を構え出した。おおっと、逃げなきゃやばい? いや、でもここで止めておかないとどのみち島の皆に被害が及ぶ可能性がある。それだけは絶対に阻止したい。こんな大勢に囲まれたことは今までないけど、きっと頑張ればなんとかなる!……かもしれない。
意気込んで傘を構えると、後ろから声が聞こえた。
「しゃがめ黒手品!!」
反射的にしゃがみこんで顔だけ後ろに向けると、そこにいたのは麦わらさん。黒手品って俺のこと……だよね?そう思ったのも束の間、びっくりする光景を目の当たりにすることとなる。
びよんと麦わらさんの片脚が伸びたのだ。……え? 脚ってあんなに伸びるもんだったっけ……?
そしてそのまま伸びた脚をムチのようにして海賊たちにぶち当てる。
驚いて固まっているうちに、海賊たちの半数以上が海に飛ばされていった。
もしかしてこれが噂の、悪魔の実の力…? 魔法でもなんでもなく、人間の身体がここまで変化するのは初めて見た。ハルクさんが見たら喜びそうだな。てか、なんか助け方が格好良すぎると思うのは気のせい?
俺の思考が驚きから分析に、そして感想へと移っていく中、その対象である張本人はなぜかとても良い笑顔で俺に顔を向けた。
「お前すっげェなァ!!!」
「へ? いや……すごいのはあなたでは……?」
「だって!! 今のビームじゃん!!!」
「……びーむ」
キラキラとした瞳でそんなことを言われたが、最初は言われている意味が良くわからなかった。びーむって……ビーム? もしかして杖から出た光線のことだろうか。たしかに爆発魔法は対象が爆発するから、ビームに見えないこともない。だからといってそんなにビームに食いつかれるとは思わなかった……。
「お前の武器ビーム出せんのか!! すっげェ!!!」
「………」
目を輝かせてすげェすげェと言ってくる麦わらさんはまるで子供のような無邪気さである。でもごめん、今それどころじゃないと思う。
まだこの場には良からぬことを企む奴らが残っているのだ。
再び騒がしくなってきた方にすぐに向き直ると、清々しいくらいに敵意むき出しで武器を構えていた。
「オイ! あれ麦わらのルフィだ! 1億の首の!」
「何ィ!? そんなヤツがなんでこんなところに!!」
「いや、むしろ好都合だ! ここでアイツを捕まえれば更に金がもらえる!」
さすが麦わらさん。有名人である。でもそのせいで殺気が更に増した気がする……。
「わぁ~……やるきまんまんだぁ……」
「よし、こっちは任せろ!」
そういってまっすぐ敵陣に突っ込んで行く麦わらさんはなんて頼もしいのだろう。バッタバッタと倒していく後ろ姿を眺めながら、俺は残りの残党たちを処理することに専念した。
あっという間に一掃された海賊たちとは反対に、麦わらさんは息ひとつ乱れていない。さすが1億の賞金首、めちゃめちゃ強い。
「重ね重ねありがとうございました!」
「気にすんな!」
にししと笑った笑顔が眩しすぎる!
でもなんで助けてくれたのだろう? そのまま疑問を口にすると「おれアイツら嫌いだ」とシンプルな答えが返ってきた。うん、それは同感。
それにしても、この海賊たちは一体何者なのだろうか。先程の話には気になる点がいくつかあった。
“計画”だの“あの人”だのって、誰かに依頼だか命令だかをされたということだろうか?もしくはこの人たちのボスとか……?
「おーい! 大丈夫か!?」
騒ぎが落ち着いたからだろうか、麦わらさん達の仲間がこちらに近付いてきた。
「あ、みなさんも無事ですか?」
「まァ、おれたちは見てただけだしな」
「それよりこいつら一体なんなの……?」
砂浜に転がる海賊たちを横目にオレンジ髪の女性がそう口にする。それは俺も知りたい。こいつら一体なんなの……?
「…実はさっき計画がどうのとか言ってたんですよね。誰かのためにこの島を占領するっぽいことも……」
「誰かのため?」
「はい、“目を覚ました時にはここはもう
「つまり親玉がいるってことね」
「おそらく……」
プルルルル……
オレンジ髪の女性に小さく頷いた瞬間、ポケットに入れていた子電伝虫が鳴った。ここにかけてくるのはサムさん一家かハルクさんのみ。
もしかしたら早く帰ってこいというサムさんの呼び出しかもしれないと出てみると、予想とは違い子電伝虫の向こうから聞こえてきた声はサムさんのものではなかった。
『オイ! フィンか!! 今どこだ!?』
「……ハルクさん?」
随分と慌てているハルクさんの声にざわりとする。それに気付かないふりをして、敢えて冷静に返した。
「今は西側の海岸にいるけど……そんなに慌ててどうしたの?」
『その海岸付近に怪しいやつらいねェか!?』
「怪しい……ってもしかして、戦車の人たちのこと…?」
『!! やっぱりいやがったか!! そいつらどうした!?』
「えーっと、海の中で意識不明の海水浴してる人たちが半分と、あと半分は砂浜の上でのびてる」
『なに!? 戦車は!?』
「壊した」
『よしっ! よくやった!!』
急に褒められたことは嬉しいが、なぜハルクさんがこいつらのことを知っているのだろうか。俺のその疑問はすぐに解消することとなる。
『よく聞けフィン! 今他の海岸にもそいつらの仲間が戦車やら武器やらを船から下ろし始めてる!!』
「はあ!? 他の海岸にも!?」
『そうだ!! そこを含めて5ヵ所だ!!』
「なんで!?」
『目的はポロウ草と加工工場!! 盗聴してたから間違いねェ!!』
盗聴してたんかこの人。でも今はそれがグッジョッブである。
『時間がねェから詳しくはあとだ! おれはフェオ地区の方に向かって警備を固める!』
「わかった! じゃあ俺はできるだけ戦車を破壊して攻めようとしてる奴らの数を減らす!」
『……すまん、助かる』
急に声のトーンを落としてそんなことを言ってきたハルクさんが意味不明すぎて、思わず笑ってしまった。
「なんで謝るのさ。そこは任せたぞ! 的なこと言ってくれないと盛り上がらないでしょ」
『……あァ……頼んだぞ……。頼んだけど!! ぜっっったいにこの間みたいに無茶だけはすんな!!』
「……はーい」
俺ってハルクさんに全く信用されてないんだなぁ……。まぁ正直なところ、無茶するかどうかは相手次第だよね。でもそんなこと言ってしまったらハルクさんに怒られる未来しか想像できないので、軽めの返事に留めておく。緊急事態だからかハルクさんがその軽い返事を気にすることはなかった。
『それと、海岸に向かう前に島民全員避難するように伝えてくれ! “パターンB”ってな!!』
「了解!」
ガチャリと切れた子電伝虫をポケットに戻してまずは街に向かうために振り返る。
あ、そういえば麦わらさんたちも一緒だったんだっけ。ん? 待てよ、そうか、その手があった!
どうやら俺たちの話を聞いていたらしい麦わらさんを見つめながら、ある考えが浮かぶ。いやでも、こんなことを頼むのはさすがに気が引ける……。いやいやでも……。
一人で脳内会議を繰り広げた結果、ものは試しだと取り敢えず口に出してみることにした。
「あのぉ……今の聞いてましたよね? どうやらこの島今かなりやばいみたいで最悪占拠されちゃいそうな状況で……。俺はこの島にも人にも恩しかないから絶対そんなことにはさせたくないわけでして……まぁ、だから今から全力で止めに行くんですけども……」
俺が急に話し出したことで麦わらさん含めそのお仲間の方々の視線も集めている。だがいつまでもこんなグダグダしているわけにはいかない。意を決して大きく息を吸い込み勢いよく頭を下げた。
「あのっ! こんなことをお願いするのは図々しいってわかってるんですけど!! 俺に手を貸してくれませんか!?」
「おう、いいぞ!」
「……はぁ……やっぱりだめですよね……。いいんです、それが普通だしダメ元だったので……って、え?」
待って、今“いいぞ”って言った……?それとも聞き間違い?
「あいつら止めに行くんだろ?」
「あ……、はい」
「一緒にぶっ飛ばそう!!」
「え……」
いや、自分で頼んでおいてなんだけど、なんの関係もないこの島のために手を貸してくれるなんて、いったいどんな理由なんだろう? ありがたいことこの上ないけど、正直理解はできない。
じゃあ頼むなよって自分でも思うけど、この島を守るためなら手段を選んでいる場合ではないという気持ちの方が勝ったのだ。
「飯もうめェしな! また食いてェんだよあの肉!!」
「…………」
なんだその理由。そんなことでわざわざ助けてくれるなんてことあり得るのか……?
だが、麦わらさんが嘘や冗談を言ってるようには思えなかった。頼んでおきながらどうすれば良いのかわからなくなっている俺に、オレンジ髪の女性が続ける。
「まァ話聞いちゃったしね。このまま何もしないってのも寝覚めが悪いわ」
「援護は任せろっ!」
「そういうわけだ! おれたちも手伝う!!」
この人たち本当に悪党と言われる海賊なのか……?この間の海軍の方がよっぽど悪人に思える。
優しすぎるその行為を無下にするのもなんだか違う気がして、俺は力強く頷いた。
「……ありがとう! お願いします!!」
「おう! 任せろ!!」
同じく力強く頷き返してくれた麦わらさん。こんなに心強い味方ができるなんて、これもまた俺の幸運貯金のおかげだろうか?
俺がそんなことを考えているうちに、麦わらさんたちはテキパキと行動を開始する。
「ゾロとサンジは!?」
「ゾロは船にいると思う! サンジは買い出しに行くって言ってた!」
「わかった! アイツらにも伝えねェと」
「おれが行くよ!」
「頼んだぞチョッパー!」
なんか仲間内でどんどん話が進んでいく。一応一番の関係者なのになんだか蚊帳の外な気分だ……。
主導権を握りかえすべく話に入ってみる。
「まずは散り散りになって戦車のある海岸を探しましょう」
「わかった!」
「では俺は南の方に……」
「うォォ!! 待ってろ戦車ァ!!!」
「は……? え、ちょっとぉ!?!?」
急に走り出した麦わらさんを慌てて止めようとしたが間に合わず……。目的地伝えてないけど、あの人どこに行くつもりなんだろう。
「行ってしまった……」
「まったく!! ほんっと人の話聞かないんだから!! 黒手品くん! 私たちはどこに行けば良いの!?」
「あー……じゃあ北と東に別れて探してもらえますか?」
「わかったわ!」
「俺は南に。あと……できれば黒手品じゃなくてフィンでお願いします」
「ならおれはフィンと一緒に南に!!」
可愛い生き物であるタヌキさんは別の仲間に知らせに行きつつ東へ、美女二人は北へ、そして俺と長鼻さんは南へと向かうこととなった。
長鼻さん改めてウソップさんと南の海岸に向かう道すがら、島民に避難をするように呼び掛け、ハルクさんにも子電伝虫で手伝ってくれるという麦わらさんたちのことを伝えた。
そしてそれぞれが目的地へ向かう前に、麦わらさんの仲間の皆さんには、海賊たちが狙ってきているポロウ草についての説明をしておいた。
ここまで手を貸してくれる人たちだ。本来なら外から来た人に漏らすことはないが、この島が何を守ろうとしているのかはさすがに知っておいてもらうべきだろう。まぁ本当は麦わらさんにも聞いてもらいたかったが、それはもう諦めよう……。
急いでいたということもあり海岸では大雑把な説明しかできなかったので、ウソップさんには走りながら補足で説明する。こんな状況にもかかわらず、しっかりと理解してくれたらしい。
「じゃあ、あいつらはそのポロウ草ってのを狙って島ごと占拠する気なのか!?」
「おそらく! お金のためか別の目的かはわかんないですけどね!」
それにしても、なんで突然こんな大掛かりなことをしてきたのだろう。ポロウ草を狙うために戦車持ち出してくるって、攻撃的過ぎるにも程がある……。海賊たちが言っていた“あの人”の存在も気になるところだ。
どんどんと海岸が近付いてあとは角を曲がれば海岸が見える距離になった時、先に海岸を視界に捉えたウソップさんが声をあげる。
「オイ! あれ見ろ!!」
ウソップさんの指差す方には、今まさに戦車を船から下ろそうとしている連中の姿があった。
よかった、まだ進行準備は出来ていないようだ。しかし奴らもバカではない。連携はとれているようで俺たちのことも既に話が回っているらしい。周囲を警戒していた奴が俺たちを視界に捉えると、すぐに攻撃体勢に入った。
「おい! 奴らが来てるぞ!!」
「撃て撃てェ!!」
「うわっ!!!」
突然の銃弾に驚くウソップさん。だがその銃弾は既に俺が展開していた防御魔法に防がれた。
備えあれば憂いなしである。
「時にウソップさん、防御は得意?」
「は? 防御?」
「銃弾とか弾き返せる人ですか?」
「いや無理だろ普通!!」
麦わらさんなら弾き返しそうだけど……という言葉は飲み込んで、視線は連中に向けたまま続けた。
「ふむ……じゃあ回収しとくか」
「回収?」
首を傾げるウソップさんの気配を感じながら傘を構える。
「≪アクシオ≫!!」
俺がそう唱えると、海賊たちが持っていた銃が奴らの手を離れ俺の元に吸い寄せられるようにやってきた。それをひとつの場所に纏めて傘の先を向ける。
「≪レダクト・マキシマ≫」
爆発したように散らばった銃だったが、次の瞬間には銃の形は跡形もなくなっており、まるで砂のようにサラサラと砂浜に落ちた。これで銃弾が飛んでくることはないだろう。
一連の出来事を目の前で見ていたウソップさんは、目を丸くしている。
「……お前……本当になんなんだ……?」
その様子がなんだか可笑しくて、俺は笑いながらこの数十分でお気に入りとなった言葉を口にした。
「これが俺の
◆
フィンから麦わらの一味が手伝ってくれることになったと連絡を受けたハルクは、フェオ地区の防壁の方へ向かっていた。
どういう理由で麦わらの一味が手を貸してくれるのかはわからなかったが、人手はあるに越したことはない。
ハルクがこの件についての話を聞いたのは今から少し前のことだった。
いつもより騒がしい街が気になり、島全体を盗聴パトロールしていると、ある男達の会話をキャッチしたのだ。
彼らはどうやらポット海賊団の連中らしい。ポット海賊団は、最近この近辺の海で暴れていると噂されていた海賊である。船長イザークは財力を求める人物で、財を手に入れるためならば手段は厭わず、いろいろな商売にも手を出しているらしい。
そして今回、この島のポロウ草のことを知り、己の財源とすべくこの島を占拠するという計画を思い付いたようだ。
磁気が特殊なこの島であれば、そうそう海軍もやってこないと踏んだのだろう。
甘く見るな、とハルクは心の中で呟く。海軍がめったに来ないということは、この島を自衛するための力があるということだ。そう簡単に落とされるわけがない。こういうこともあろうかと、様々な仕掛けを施しておいたのだ。
そう意気込んでフェオ地区に向かっていたのだが、今のハルクには別の問題が発生していた。
「ゼェ……ハァ……」
体力がなかったのだ。毎日家にこもり研究に没頭する日々。
ポロウ草が狙われていることを知り慌てて飛び出してきたは良いが、まだフェオ地区に辿り着いていないというのに息はかなり上がっている。最初のうちは調子にのって走っていたのだが、あまりにも辛すぎて今は脚を引きずるようにして歩いて向かっている状態である。
急がなくてはいけない……。だが体力がもたない…。
まだフェオ地区に辿り着かないことに半ば絶望しかけていた時だった。
「うぉぉ!! どこだ戦車ァ!!!」
住宅街を抜け雑木林に入った頃、突然そんな声が響いてきた。
騒がしい声と音をたてながら登場したのは、麦わら帽子を被った青年。新聞に挟まっていた手配書で見覚えるのあるその顔は、間違いなくモンキー・D・ルフィであった。
やる気充分というようにやってきたルフィだったが、戦車に向かっていたということはおそらく道がわからなかったのだろう。
しかしこれはむしろ好都合だと、ハルクは息を整えてからすかさず声をかけた。
「お前さん、麦わらのルフィだろ?」
「ん? 誰だお前?」
「フィンの友人でこの島のもんだ。おれたちを手伝ってくれるんだってな。恩に着る!」
深く頭を下げたハルクは、すぐに笑顔で言い放った。
「早速ですまんが、おれをあそこまで運んでくれねェか?」
フェオ地区にあるドーム型の防壁を指差しながらそう言うハルクにルフィは首を傾げたが、付け足すように続けた。
「敵が狙ってんのはあのドームの中にあるもんだからな。おれは先に行って守りを固めたいんだよ。だが、見ろこれを!!」
ハルクが堂々と指を差したのは、自分の脚である。
「ひっさびさに走ったらこの有り様だ! もう疲れすぎて生まれたての小鹿みてェになっちまって!!」
息が整ったお陰で口だけは元気だが、体力が回復したわけでもなく、ハルクの脚はガクガクブルブルと震えが止まらない。正直立っているのがやっとという状態である。
その様子に少し引いているようなルフィだったが、悪い奴ではないと思ったのだろう。ハルクを運んでくれることとなったのだった。
林を抜けて少し開けた場所に位置するドーム型の防壁。ポロウ草を守るために作られた、特殊かつ特別な作りのこの防壁は、ハルクの研究の賜物だ。
侵入できないような造りなのはもちろん、全てを囲ってもポロウ草の成長を妨げることはない。
ルフィに担がれた状態で目的地へとたどり着いたハルクは、まだこの場所に敵がやってきていないことに安堵しつつ、すぐに行動を開始した。
「本当に助かった麦わら! ありがとな!」
「ああ! 気にすんな! もう脚も大丈夫そうだな!」
「おう! お陰でだいぶ体力も回復できた」
震えの止まった脚で防壁の端へと近付いたハルクは、そこにしゃがみこんで砂を払う。
「何やってんだ?」
「まァ見てろって」
ルフィがその様子を覗き込むと、砂を払った場所に現れた小さな鉄板を持ち上げているところだった。
中には硝子の板の様なものが埋め込まれている。
「この島の恐ろしさを教えてやる!」
ニヤリと笑ったハルクは、その硝子の板に片手をつける。地響きの様な音が聞こえたかと思うと、防壁の至るところが開き始めた。
「なんだァ!? 勝手に開いたぞ!?」
「おれが開けた」
「このままじゃ中に入られちまうんじゃねェのか!?」
「安心しろ。これはただの穴じゃねェ」
そう言って担いでいたリュックからリモコンがいくつか付いているボードを取り出したハルクは、ガチャガチャと操作を始めた。
「いいもん見せてやるぞ麦わら! これがおれの本気ってやつだ!」
カラカラという何かが回っている様な音がドームの中から聞こえて来たかと思うと、先ほど開いた場所から現れたのは大砲の砲身だった。
「大砲が出てきた!!」
「すげェだろ! おれが作った! ポロウ草を狙うやつらの対策としてな!! その名も“ハルク砲”だ!!」
「すっげェ~なァ!!!」
目を輝かせるルフィの反応に満足気な表情でリモコンの操作を続けるハルクは、頭に着けていたゴーグルを顔に装着する。
「よし! じゃあこの上に登るぞ!」
「上?」
首を傾げるルフィを置いてハルクはスタスタと防壁に向かうと、防壁の一部に設置してある梯子を登り始めた。
「全方向見るには上から見渡すのが一番だからな」
「そっか」
納得したようなルフィはそのまま自分の腕をびよんと伸ばし、その反動で一瞬にしててっぺんに辿り着いてしまった。
「おお! それがゴムゴムの実の力か! 便利でいいな!
おれにもやってくれ!」
「おう、いいぞ」
先程と同じ様に伸ばした腕を、今度はハルクに巻き付けて、そのまま自分の方へと引き寄せた。初めての体験にハルクは大興奮である。
「ほぉ!! すげェなゴム人間!!」
科学者コミュニティの中では悪魔の実について研究している者からの情報も回ってくる。ルフィがゴムゴムの実を食べたという情報も既にコミュニティの中では有名な話であり、ゴムゴムの実の能力についても知ってはいたが、実際に目の当たりにすると想像を遥かに越えているとハルクは実感した。
漸くゴムゴムの実のことについて質問責めをしていたハルクだが、遠くで何か爆発したような音が聞こえ、すぐに話を止める。
同じくルフィもそれに気付いているようで、一気に緊張が走った。
「……なんだの音だ?」
小さくそう呟いたハルクの質問の答えは返ってこなかったが、ルフィはハッとしたかと思うとすぐに上を見上げた。
「上だっ!!!」
ルフィと同じく上を見上げたハルクの目に映ったのは、空に浮かぶ黒い点だった。しかし、その点の正体に気付いた瞬間、冷や汗が流れる。
「おいおい……嘘だろ……。何で人が降ってくるんだよ!?」
その黒い点の正体は、海岸で進行の準備をしていたはずの連中。
ポロウ草を狙う、例の海賊達の姿だった。