魔法使いが海賊になる話   作:柚村たか

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少し加筆修正しました。


第9話

「ハルクさんっ!!!」

 

 自分でも驚くほど大きな声でハルクさんの名前を叫んでいた。矢がお腹に刺さった状態でハルクさんがバタリと倒れる。ドームの上で倒れてしまったハルクさんの状態が今どうなっているのかは、ここからは確認できそうもなかった。

 

「おい! こっちからも来てるぞ!!」

 

 俺とウソップさんに気付いた海賊達が次々とこちらに向かって攻撃をしかけてくるが、正直一人一人を相手にしている余裕も時間もない。俺はすぐにでもハルクさんの元に向かいたいのだ。

 

「あー! もう邪魔!! ≪ヴェンタス・デュオ≫!!」

 

 魔法で突風を巻き起こし、俺の近くにいる海賊達を吹き飛ばす。飛んでいく奴らの悲鳴を聞きながら、俺の意識はドームの上に倒れているハルクさんに向いていた。

 というか、一体こいつらどこから沸いてくるんだ!?なかなかドームに近付けない!

 

 ハルクさんのことを気にしながらも、飛んでくる攻撃をいなしながら戦い続けていた麦わらさんは、横で倒れるハルクさんに向かって叫んだ。

 

「おい! 大丈夫か!?」

 

 それに応えるようにハルクさんがゆっくり手を挙げたのを見て、取り敢えず意識はあることだけは確認できた。だからといって全く安心できないけどな!

 そんなハルクさんに声を掛けようと息を吸い込んだ時だ。

 

 

「おや、まだ息がありましたか」

「っ!?」

 

 俺の背後からそんな言葉が聞こえて、驚きのあまり一瞬固まってしまう。え……いつの間に背後に!? すぐにその声の主から距離をとって傘を構えた。

 というかびっくりした、何の気配もしなかった……。

 

「コザトさん!!」

 

 他の海賊にコザトと呼ばれたその細身の男は、ペストマスクを被り、背中にごちゃごちゃと武器を背負っている。手にボーガンのような物を持っているということは、ハルクさんに攻撃したのはコイツで間違いない。さっきの発言から考えると、こいつは簡単に人を殺せる奴だ……。傘を持つ手に力が入った。

 マスクのせいで視線の先はわからないが、なんとなく目があっている気がする。

 

「君は、随分と面白い武器を持っているようですねェ」

 

 やはりマスク男の視線の先は俺だったらしい。男のほんの少しの動きも見逃すわけにはいかないと睨み付けた。

 

「いいですねェ……私のコレクションに加えたいものだ」

「…………」

 

 なぜか背中がぞわりとする。俺は今、生まれて初めて本物の殺気を向けられているのだ。

 冷や汗が頬を伝うのを感じながら、恐怖心を隠して口を開く。

 

「……残念ながら、この武器は特殊な訓練を受けた者にしか扱えないので、あなたには使いこなせないと思いますよ」

「おやおや、それは益々興味が湧きますねェ」

 

 そう言って男が一歩踏み出した瞬間、俺はすかさず呪文を唱える。

 

「≪ステューピファイ≫!!」

 

 男のマスクに向かって真っ直ぐ飛んだ光線だったが、それはギリギリのところでかわされてしまった。動きが早すぎる……!!一瞬にして距離を詰められたと気付いた時には、男が脚を振り上げている瞬間だった。

 

「遅いですよ」

「っ!!!」

 

 咄嗟に傘を構えて攻撃を受けたが防ぎきることはできず、蹴られた勢いそのままに木に叩きつけられる。

 痛さと苦しさで一瞬息が出来なくなるが、何とか意識を保つことができた。でもやっぱりめっちゃ痛い……。

 

 咳き込みながら顔を上げると、既に男は俺の目の前までやって来ていて、見下ろすように立っていた。すぐに立ち上がらなければいけないのはわかっているが、蹴られたお腹と木に叩きつけられた背中が痛い。そんな俺の動きが鈍っているのを見逃されるわけもなく、押さえ付けられる様に腹を思い切り踏みつけられた。

 

「フィン!!」

 

 ウソップさんの心配そうな声が聞こえる。まるでその声に反応するように男の踏みつける力が強くなったような気がした。肋がみしりと音を立てる。

 

「いっ……!!」

「おやおやおや……君の武器は魅力的ですが、君自身は随分とお粗末ですねェ」

 

 グリグリと靴の裏を擦り付けられ、その部分が熱くなる。痛くて辛いという最悪な状況だが、ここで弱気になるわけにはいかないと無理矢理口角を上げた。

 

「……俺は、まだまだこれからの男なんで……大器晩成型なんですよ……」

 

 痛みでよく回っていない頭だが、勝手に口が動いていた。

 俺のその言葉に、マスクの中からくぐもった笑い声が聞こえる。

 

「おやおや、そうだったんですね。それは失礼しました。でも残念、君の楽しみな将来を拝むことはできなさそうですねェ」

「…………」

「まぁ……私が終わらせるんですけどね」

 

 再びあの肌に刺さるような殺気を浴びながら、視界の端で何かが動いているのに気付いた。そのことに男はまだ気付いていないらしい。

 なるべくそちらには意識を飛ばさないようにして小さく呟く。

 

「……それはどうでしょうね、だって」

 

 俺が言葉を切った時には男の後頭部に“それ”が当たる瞬間だった。

 

「“火薬星”!!」

「≪インセンディオ≫!!」

 

 ウソップさんの攻撃に続いて俺もすぐに杖から炎を出す。

 

「っ!!」

 

 俺たちの攻撃でよろけているマスク男におまけで炎を浴びせてから、先程の続きを口にした。

 

「だって! 今の俺は幸運の持ち主ですからね!!」

 

 蹴られたお腹の痛みに耐えながら立ち上がりすぐに体勢を立て直した俺に、ウソップさんが駆け寄ってきてきてくれる。

 

「ウソップさん、ナイス!!」

「ま、まぁな!」

「……脚震えてる」

「バ、バカ言え!! このキャプテン・ウソップにかかれば造作もねェぜ!!」

「ありがとうキャソップさん!!」

「キャソップってなんだよ!!」

 

 そんな軽口を叩く余裕まで出てきたが、正直蹴られたところはまだめちゃくちゃ痛い。しかし、このチャンスを逃すわけにはいかないのだ。

 すかさず俺は自分に目眩まし呪文をかける。

 

「!? フィンが消えた!?」

「居るよ、ウソップさんの隣に」

「ど、どうなってんだ!?」

「だから手品(マジック)だって」

 

 キョロキョロとしながら俺の姿を探すウソップさん。まぁ俺は一歩も動いてないけど。あ、そうだ。どうせならウソップさんにもかけちゃえばいいのか。

 その考えに行き着いた俺は、すぐにウソップさんの頭に傘の先を向けた。頭からどんどんと見えなくなっていくウソップさん。どうやらしっかりと目眩まし呪文が成功したらしい。

 

「!? なんだ!? なんか冷てェ!!」

「俺の手品(マジック)の影響だね。ウソップさんも今消えてるよ」

「うぉーー!! すげェ!!」

 

 姿は見えないが声だけで驚きが伝わってきたところで、気を引き締め直すように口を開く。

 

「このチャンス無駄にはできない! 行きましょう、ウソップさん!!」

「おう!!」

 

 俺が目指すはハルクさんの元である。なぜかマスク男がフラフラしながらも静かに佇んでいるのは少し気になるが、襲ってこないなら放っておこう。まずはハルクさんの安否確認だ。

 

「なんだ!? 何も無いところからなんか飛んでくるぞ!!」

「くらえ!秘技!インビジブル弾!!」

 

 どうやらウソップさんもうまくこの状況を利用してくれているらしい。魔法のかけがいがある。……でも折角見えてないんだから喋らない方が良いと思うよ、ウソップさん。

 

 心の中でそうツッコミを入れながら、海賊達の間を縫うように進みドームの上へと登る。そこには未だ戦い続けてくれている麦わらさんと、バタリと仰向けに倒れているハルクさんの姿があった。すぐに目眩まし呪文を解いてハルクさんの横にしゃがみこむ。

 

「ハルクさん! 大丈夫!?」

「……フィン?」

 

 青白い顔のハルクさんは、俺が突然現れたことに驚いているようだ。お腹に刺さる矢がかなり痛々しいが、抜いて出血が酷くなるのは避けたい。

 ただの切り傷程度なら魔法で治せるのに、癒者*1ではない俺ではこんな大怪我を治すことができない。

 こんな時に何もできないなんて……。魔法が使えても無力であることが悔しくて顔を歪めた。

 

「……そんな顔すんな……おれは大丈夫だ……」

 

 俺の顔を見て笑いながらそう言うハルクさんの声色は優しい。でも、そんな怪我をした状態で大丈夫だと言われても安心などできるわけがなかった。

 

 とはいえ、いつまでもこんな敵の中心部にいるわけにはいかない。治療をするにしてももう少し静かな場所に移動した方が良いだろうと、戦い続けてくれている麦わらさんに声をかけた。

 

「麦わらさん! 今からハルクさんを移動させます! もう少しだけ一人でこのドームを任せてもいいですか!?」

「おう! 任せろ!!」

 

 頼もし過ぎる麦わらさんにお礼を言って、再び俺とハルクさんに目眩まし呪文を、それにプラスしてハルクさんには浮遊術もかけておく。

 

「ごめんハルクさん、移動するから少し負担をかける」

「……大丈夫だ……なんてことねェ……」

 

 その声を信じてゆっくりとハルクさんを浮かせ、なるべく高めに浮遊させながら、海賊達に当たらないようにドームから離れる。実際にハルクさんの姿は見えないが、浮かせているからだろうか。ハルクさんがどこにいるのかは感じることができた。

 

 なんとか流れ弾にも当たらずに林の中に到着してから目眩ましを解く。本当は海賊達に見つからないようにもっと離れたいところだが、浮遊術があまり持ちそうになく断念。さっき蹴られた痛みがあるからか、繊細な魔法を使うにも長いこと集中できないのが原因だろう。未熟だ…。

 あまり振動を与えないように移動させたつもりだが、ハルクさんは痛みに顔を歪めていた。

 

「ごめん……」

「謝ることねェだろ……、それより、これを……」

 

 ハルクさんが差し出して来たのは、手に持っていた鉄板。おそらく大砲を操作するためのリモコンだ。これだけはしっかりと持っているところが実にハルクさんらしい。

 

「ちと……腕が痺れてきてよ……上手く操作できそうにねェ……だが奪われるわけにも……いかないからな……」

 

 弱々しくそう言ったハルクさんの手からリモコンを受け取った瞬間、どこからか蹄の音のようなものが聞こえてきた。敵かと身構えながらそちらに視線を向ける。

 

「フィン!! やっぱり! 誰か怪我してんのか!?」

 

 林から現れたその蹄の音の主は、立派なトナカイだった。間違いでなければ、このトナカイから俺の名を呼ぶ声が聞こえた気がする……。え? トナカイ? トナカイに知り合いはいないはずだけどな。いや待て待て、そもそもトナカイって喋るんだっけ……?

 

 突然見知らぬトナカイに話しかけられ混乱していると、そのトナカイがみるみると小さくなり、先程のタヌキさんに姿を変えた。

 

「大丈夫か!? 矢が刺さってる!」

「……タヌキさんがトナカイに変身してた!?」

「元々トナカイだよ!!」

 

 盛大にツッコミを入れられてしまったが、タヌキさんが実はトナカイさんだったことに驚きを隠せない。だって俺はそんな生き物知らない! 魔法生物にもいなかったもん! 混乱する俺を気にすることなくトナカイさんはハルクさんの容態を確認し始めた。

そうだよ、それよりも今はハルクさんだ。テキパキと行動するその様子から、思ったことを口にする

 

「タヌ……トナカイさんは、医者なんですか?」

「そうだ!フィンの匂いに混じって血の匂いもしたからこっちに走ってきたんだ!!」

 

 やはり俺は運が良い。このタイミングで医者であるトナカイさんが来てくれるとは、幸運貯金はまだ続いているようだ。俺に気付いてくれてありがとうトナカイさん!

 医者が見てくれるなら安心だと、ハルクさんの顔に視線を向けると、なぜか先程よりももっと顔色が青白くなっていた。

 

「……ハルクさん?」

 

 なんだか様子がおかしいような気がして、思わず名前を呼んでみる。汗も先程よりひどい。

 

「なんか……ハルクさんの様子が……」

「大変だ! 中毒症状が出てる! もしかして矢に毒が仕込まれてたのかも……!!」

「毒!? ハルクさんは大丈夫なんですか!?」

 

 トナカイさんのその言葉に再び焦りがやってくる。

 

「症状からして毒の量は少量みたいだけど……とにかく矢を抜かなきゃ!!」

「な、何か俺に出来ることありますか……!?」

 

 トナカイさんの指示に従いながらハルクさんの処置を施していく。なんとか矢を抜き止血はできたが、毒がどうなっているのかはわからなかった。きっともうここからは医者であるトナカイさんにしか治せない領域だ。

 

 苦しそうなハルクさんだったが、浅く息をしながら小さく口を動かし始めた。

 

「……フィン……すまねェな……」

「何が……?」

「こんなことに……巻き込んじまって……」

「何言ってんの今更、 俺がやりたいからやってるんだよ」

 

 急にそんなことを言い始めたハルクさんの意図がわからなくて眉根を寄せる。

 

「本当なら……お前が、この島の為に……動く必要ねェからよ……」

「……は?」

「おれたち……ポルカポロウの連中が……お前に恩なんて、売っちまって……それが逆に、お前を縛っちまってる……」

「は……なに? 急に……意味わかんないこと言わないでよ」

 

 ハルクさんの言い分が全くの的外れ過ぎて、段々と腹が立ってくる。そんな俺に気付いているのかいないのか、ハルクさんはそのまま続ける。

 

「だが……おれだけじゃ、この島を……守れそうにねェからよ……悪いがもう少し……頼まれてくれるか……?」

「っ当たり前だろ!? なんなんだよさっきから!」

「まァ……あれだ……おれが居なくなっても……みんなが守れれば、問題ないからな……」

「…………」

 

 本当に、何を言ってるんだこの人は……。

 ハルクさんのその言葉に全身がかっと熱くなる。胸ぐらを掴みたいのを堪えて強く拳を握った俺は、それをそのままハルクさんの顔の横に叩きつけた。地面を殴った衝撃で多少お腹にも痛みが響いたがそんなことは気にしていられない。

 驚きで目を丸くしたハルクさんから視線をそらすことなくそのまま口を開く。

 

 

「……居なくなるとか……そんな勝手は許さない」

 

 俺の呟いた言葉の意味がわかっていないらしいハルクさんは、力なく瞬きを繰り返していた。

 

「……というか、なんなの? さっきから勝手なことばっかり言ってくれてるけどさ……それ、全っ然違うから」

 

 一度溢れだしてしまった感情は、もう止めることはできそうになかった。

 

「いきなりこっちに来て……俺がどれだけ不安だったかわかる……? そんな中で……こんな得体の知れない奴のことを受け入れてくれて……優しくしてくれて、俺のことを信用してくれて、居場所を与えてくれたこの島の人達にっ……俺がどれだけ感謝してるかわかるっ!?」

 

 自分の声が震えているのがわかる。なんだか鼻の奥がツンとして、視界が歪んでいる気がする。

 

 ……俺は本当に不安だったんだ。世界が違うとわかった瞬間、絶望しか感じなかった。無理にでも笑っていないと、虚勢を張って強くあろうとしないと、何かが崩壊しそうだった。でも……サムさん一家やハルクさん、この島の人達が俺を笑顔で迎えてくれたから、俺もいつの間にか本当の笑顔で過ごすことができていた。

 

 それが俺にはどれだけ嬉しかったか、どれだけ救われたか……。重荷になんて思うはずがないのだ。俺にとっては、絶対に離したくない繋がりなのだから。

 

 俯いた瞬間俺の瞳から水滴が落ちた。その落ちた水滴は、ハルクさんの血だらけの洋服の上で少しだけ染みを作る。その時初めて自分が泣いているのだと気付いた。人前で泣くとか恥ずかしすぎる……。

 それを誤魔化すように乱暴に目元をぬぐってから、叫ぶように言い放った。

 

「だから! 俺が大好きなこの島が! この島の人たちが! 何であろうと誰であろうと!! 勝手に居なくなるなんて!! 俺は絶対に許さないっ!!!」

 

 まるで子供の我儘のような言い分になってしまったが、これが俺の本心なのだ。

 パチパチと瞬きを繰り返していたハルクさんは、眉毛を下げてくしゃりと笑った。

 

「ははっ……なんだそれ……どっちが勝手なんだよ……」

 

 確かに。俺の方が勝手なこと言っているような気がしてきたが、深く考えることを放棄してそれに答える。

 

「いいんだよ。これが感謝の現れだから」

「やっぱり勝手な奴だなァ……」

 

 ハルクさんの言葉は聞かなかったことにして、トナカイさんに視線を向ける。

 

「トナカイさん! ハルクさんを頼みます!!」

「うん! わかった!」

「ハルクさん! 絶対に勝手に……居なくならないこと! もし約束破ったら呪ってやる!!」

「……それは勘弁……」

 

 小さく笑ったハルクさんに俺も笑顔を返してから、すぐに立ち上がる。

 周りから見えないようにと部分的に目眩ましをかけておく。これでしばらくはトナカイさんが治療に専念できるはずだ。

 

 取り敢えずハルクさんは大丈夫。次はこの島の為に動かなくては!

 しっかりと傘を握り直してから、またあのドームへと駆け出した。

 

 

 

 そして、状況は俺がその場を離れている間に変わってしまったらしかった。

 

 ドームを囲む海賊達の数はかなり減っている。これは間違いなく麦わらさんとウソップさんのお陰だろう。

 しかし、変わった状況はそれだけではなかった。

 

「……なに、どうしたんだ……?」

 

 なぜか戦いは止まっていた。しかし、ピンと張り詰めている緊張感は先程よりも増しているような気がする。

 その緊張感を生み出しているのは、静かに佇んでいるマスク男だ。その様子になぜか仲間であるはずの海賊達の方が慌てているようだった。

 

「コ、コザトさん!! 落ち着いてください!!」

「替え!替えのを今持ってこさせてますから!!」

「…………」

 

 マスク男の周りにいる海賊達は、まるで宥めるように男に声をかけている。本当にどうしたというのだろう……。

 

「私の……マスクが……」

 

 どうやらペストマスクに傷がついてしまったことを怒っているらしい。ごめん、それ俺が燃やしたからだ。

 心の中でそう謝ると、急に空気が変わった気がした。

 

「これを……これを傷付けるなんて……絶対に許さんっっっ!!!」

 

 ビリビリとする殺気を含んだ叫びに、一瞬身体が固まってしまう。もしかして俺は触れてはいけない逆鱗に触れてしまったのかもしれない……。

 

「ぶち殺す!! 絶対にぶち殺してやるっ!!!」

 

 右手にボーガン、左手にライフル。両手に武器を持って叫ぶマスク男は、正気を失っているように見えた。

 

 

 

「何をそんなにはしゃいでやがる」

 

 そんな時だった。低く重い声が聞こえたのは。林の中から現れたのは、片目に眼帯をした筋骨隆々の男だった。

 

「イザーク船長!!」

 

 船長と呼ばれたその男は、全体の状況を把握するように周りを見回してから、マスク男に視線を合わせた。

 

「マスク一つで取り乱しすぎだ、バカ野郎」

「せ、船長……すみません、私としたことが……」

 

 あんなに取り乱していたマスク男が一瞬で落ち着きを取り戻していく。なるほど、この海賊達は船長が全てを支配しているらしい。それはつまり統率が取れているということになるが、俺からしたら嬉しくない事実だ。この場面でそんな海賊達の長が出た来たということは、嫌な予感しかしない。

 

「というかテメェらよォ……一体いつまで遊んでやがるんだァ!?」

 

 ギラリとした眼孔が海賊達を捉える。それによって恐怖が周りを支配したことを悟った。

 

「おれたちゃ何のためにこの島に来たか、忘れてるわけじゃあねェよなァ!?ああ!?」

「ひィっっ!!!」

「さっさと占拠しねェかクズども!!一番働いたやつにはしっかり褒美をくれてやるからよォ!!!」

 

 眼帯男のその言葉で、海賊達の雰囲気が変わった。

 ……これは、やはり俺たちにとって良くない方向に向かっている気がする。

 

 先程よりも更に殺気が込められたその空気に、傘を持つ手が汗で少しだけ滑った気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 北の海岸に向かったナミとロビンはというと、大砲で島の中心に向かっていった海賊の他にも、次から次へと出てくる海賊達をなんとか倒しながら、段々と疲弊してきている最中だった。

 

 

「もう!一体何人いるの!?」

 

 ナミがそう悪態を着いた時、聞き馴染みのある声が聞こえる。

 

「ナミさん!ロビンちゃん!」

 

 海賊たちを蹴り倒しながら近付いてきたのはサンジだ。なぜか後ろに数名の男達を連れている。その男達は武装はしているものの、持っている武器で海賊達を殴り飛ばしているところをみると、どうやら海賊の仲間ではなさそうである。

 

 サンジの活躍もあり海賊達が全員砂浜に倒れたところで、漸くお互いの状況を確認することができた。

 どうやらサンジは海岸をぐるりと周りながら海賊達を蹴り倒し、この北の海岸にたどり着いたらしい。

 

「2人が無事で良かった!!」

 

 ナミとロビンの無事を確認し胸を撫で下ろしたサンジ。しかしナミは別のことが気になっていた。

 

「この人たちは……?」

 

 サンジの後ろに立つ武装した男達に視線を向けると、その中の一人が口を開く。

 

「おれたちはこの島のもんだ。あんたら他所もんが手助けしてくれるってのに、おれたちが何もしないわけにはいかないからな!」

 

 そう言って力強い視線をぶつけてくる島民達。この島の為に何かをしたくて、居ても立ってもいられなかったようだ。

 

「おれたちも戦うぞ!!」

「ここはおれたちの島だからな!!」

「わけのわからん奴らにこの島を盗られてたまるか!!!」

 

 その島民たちの団結力に、良い島だと自然と笑顔が溢れた三人。しかし、それも()()()()の出現ですぐに破られることとなる。

 

 

「……おい、あれを見ろ!!」

 

 双眼鏡を除きながら周りを警戒していた一人の男が、海を指差しながら別の男に双眼鏡を渡す。その方向に双眼鏡を向けた別の男は、同じように驚いた表情を浮かべた。

 

「タイミングが良いのか悪いのか……!!」

 

 様子がおかしい島民たちを疑問に思い、ナミも双眼鏡を借りてその方向を覗き込んだ。

 

 そして、見たくなかったものが見えてしまった。

 

 

「え!? 嘘っ!! なんでこんなところに……!?」

 

 そんな驚きの声を挙げてしまうのも無理はない。

 

 

 双眼鏡を覗くナミの目に写ったのは、象徴であるカモメのマークを掲げた、海軍の船だった。

 

 

 

*1
医者のような職業の者。魔法の世界では傷や精神を魔法で“癒す者”とされているためこういう名称となった。




【イザーク】
・ポット海賊団船長。
・眼帯をした筋骨隆々の男。
・お金や財宝、財源となるものが好きで、情報網も広い。
・手に入れるためなら手段は選ばないらしい。


【コザト】
・ポット海賊団のNo.2。
・ペストマスクを被り、様々な武器を背負っている男。
・武器コレクター。
・マスクを傷付けられると怒る。大事なマスクなのか、顔を見られたくないのかは不明。
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