「ふっ...!ふっ...!」
ドーベルマン教官の早朝の訓練を終えた後、私は火照った体を持て余し訓練を続けていた。
私、メランサは行動予備隊A4のリーダーを務めさせてもらっている。
行動予備隊A4のみんなは、個性的な子も多いが皆秀でた才能を持った人達だ。
他の隊の人達もそうだ。そんな中で隊長を務めるのだから、やはり強くあることは、重要な要件の一つなのだと思う。
「ふぅ...」
「あれ?まだ残ってたの?メランサちゃん。」
一息ついたところで、隊のメンバーの1人であるメイリィ...いや、カーディに声をかけられた。
「また悩んでたりしないよね?」
「あ...うん、大丈夫だよ。ただ、もっと強くなって皆の役に立ちたいと思って...」
「なら良いんだけど!」
以前彼女に、私は隊長にふさわしくないのではないかと話したところ、凄い勢いで怒られたり褒められたりしたことを思い出す。
また彼女に心配をかけてしまっただろうか。
「それで、どう?成果はありそう?」
「うーん...中々、実感するのは...難しいかも。」
こうして剣を振るったりすることで体力や技術にも影響はあるだろうけど、その成長を実感することは中々難しい。
「あら、どうしたの?」
2人して頭を悩ませていると、また声をかけられた。
彼女はフランカ。BSW所属で、ロドスの駐在オペレーターをしている人だ。私はよく彼女に剣の稽古をつけてもらっている。
私達は彼女に、私の悩みを相談することにした。
「そうねぇ、そういった訓練でも成長はあると思うけど...」
ふと、彼女は何かを思いついたようだ。
「たまには、他の人の剣技を見てみるのはどう?技術の面で新しいことを吸収することができれば、自分の成長も感じやすくなるんじゃないかしら?」
他の人の剣術を...?
「なるほどぉ!ロドスって結構剣を使うオペレーター多いもんね!やってみようよ!」
確かにロドスには剣使いが多く、またそのどれもが独自の剣技によって成り立っているように思える。その中から自分が活かせるような技術を見出すことができれば、自身の剣技の変化も感じられるだろう。
「よし!そうと決まれば早速行こう!」
「ま、待ってメイリィ...!」
私はカーディに引っ張られ、ロドス剣技修行の旅へと駆け出すのであった。
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「まずは1人目!じゃん!」
「なるほど。そういうことなら、存分に見てもらって構わないぜ?」
最初は隣の訓練場で剣を振るっていたミッドナイトさん。
「はい、よろしくお願いします。」
「オーケー。そうだな、俺の剣技は、元々護身用だったもので...」
彼の剣技は入り組んだ場所であっても問題なく振るうことのできるものだった。複雑な状況であっても自身の身を守るのはもちろん、アーツによって的確な場所へ剣を振るうことのできる、繊細な剣技のように感じられる。
「例えばこういった状況であっても、このように体を動かして剣を振るったなら...」
後ろから肩に手を置かれて指導を受ける。
「あっ...あ、ありがとうございます...」
「ふっ、良いのさレディー。さあもっとこちらへどうぞ?俺の剣技で良ければ、いくらでも手取り足取り...」
「あっ...その...」
「ミッドナイト。そこまでにしなさい。というかあなた今日の報告書まだでしょ。」
そこに行動予備隊A6の隊長であるオーキッドさんが現れ、ミッドナイトさんの首根っこを掴んだ。
「おっとオーキッドさん?情熱的なお誘い嬉しいのだけれど、彼女との訓練がね...」
「あ...もう十分教えていただきました。ありがとうございます。私のことは気にしなくて大丈夫ですよ。」
「そう?訓練の邪魔しちゃってごめんなさいね。さあ行くわよミッドナイト。」
やれやれといったポーズのまま引きずられていくミッドナイトさんを見送る。
「どう?何か掴めた?」
「うん。護身用の剣技は学んだことがなかったから、意識してないところが見つかったかも。」
ミッドナイトさんの剣技は技術による部分も大きい。同じアーツが使えなくとも、得られるものはあった。
「やったね!じゃあ次行ってみよー!」
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「なるほど...私の剣術を...ですか?」
「そうなんだよ!バイビークさん!」
その後、私達はバイビークさんの部屋を尋ねることにした。
彼女はよく服飾の頼み事を受けてくれることで有名なので、場所はすぐ分かった。
「バイビークさんの繊細な剣技、見せていただければと思いまして...」
「せ、繊細だなんてそんな...でも、分かりました。なにかお役に立てるのであれば、お手伝いさせていただきますね。」
ーーーーー
彼女の剣技は聞いていた通り、踊るように華麗な剣技だった。
「ふぅ...ど、どうでしたか?」
「わぁ...!凄い綺麗だったね!」
「この剣技は...私は見たことがないです...!」
噂によると、彼女の剣技を受けたものは、その可憐な動きを目の当たりにして一瞬動きを止めてしまう...らしい。
「ありがとうございます。この剣技は元々、教養というか...マナーと気品を学ぶ、といった目的で習得したもので、実戦向きのものではなかったのです。」
バイビークさんは、この剣技について色々なことを教えてくれた。
「でも...この剣技は実戦で、ちゃんと私や皆の命を守ってくれたんですよ。」
花のように美しく、戦うためではない剣技。そういったものも、自らの意思を貫き通す武器になり得るのだろう。
それからしばらく彼女の剣技の詳細を観察させてもらい、時間は過ぎていった。
「今日はありがとうございました。とっても参考になりました。」
「お役に立てたなら嬉しいです。剣の修行、頑張ってくださいね。」
バイビークさんとお別れをする。彼女はこれから依頼を受けた服の生地を探しに行くのだと上機嫌に去っていった。
「凄かったねぇ...どう?あの剣技使えそう?」
「あ、あれを習得のはちょっと難しいかもしれないけど...でも、あの複雑な技術、活かせるところがありそうかも...!」
「うんうん、順調だね!よーし、このまま行ってみよう!」
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「かくかくしかじかなんだけど!どう?」
「そうか...わかった。俺が出来ることであれば力になろう。」
次に尋ねたのはソーンズさん。
...え?
「俺の『至高の術《デストレッツァ》』、習得にはかなりの時間を要したものだ。その一端であっても吸収することができれば、必ずやおまえの糧となるだろう。」
「だって!頑張ろうね、メランサちゃん!」
え、ええ...!?色々な剣術を見るとは言ったが、まさかソーンズさんのデストレッツァを参考にするだなんて...
確かにソーンズさんの剣術は凄まじいものである。しかし、あまりにも凄まじ過ぎて一片であっても吸収できる気が...
「即戦即決。そうと決まれば、早速訓練場に向かうぞ。」
は、はい...
ーーーーー
「目を凝らせ、これこそがイベリアのデストレッツァ!」
彼は無駄のない動きでその大剣を振るう。今回は訓練のため神経毒はナシだ。
「うぉお...なんか凄いね!」
「う、うん...剣をあれほど大振りしているのに、全く隙がない...!」
ソーンズさんは一連の動きを終え、一息つく。
「デストレッツァは攻撃の角度、回避の軌道、防御の姿勢といった全ての動作が計算されている。」
もう一度剣を振るう。さっきの動きとは違うものだが、やはり隙が生まれることはない。
「凄いですね...!このような剣術を使う方がイベリアには多くいるのですか?」
「......いや、今振るっている剣技は俺のアレンジが加わっているものだ。元のデストレッツァを使用している者からしたら、俺の剣技は紛い物だと感じるだろう。」
「そうなんですか...?でも、ソーンズさんの剣技は完成されたものだと感じます。」
彼の眉が少し動いた。
「そうか...。俺はこの剣術もデストレッツァの一つであると考えている。俺達が戦う相手は試合をするような剣術使いだけではない。伝統的な剣術から技術を吸収し、より実用的なものへ変化させる...そういった剣術も、『至高の術』と呼ぶことに不足はないのだと...俺はそう思っている。」
先人の積み上げてきた伝統的な型にはまることなく、自らに合う実践的な技術も組み込んで昇華させる...これは、剣士の振るう剣術としての到達点の一つではないか...私にはそう考えられた。
ーーーーー
それから少しの間ソーンズさんの剣術を見させてもらってから解散となった。
「あ!ソーンズ!あなたまた実験室を爆発させて...!」
廊下で何か聞こえたような...
「これでメランサちゃんも今日から至高の術使いだね!これこそが行動予備隊のデストレッツァ!」
「いや、それはちょっと....」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「私の剣術を...?」
「そうなの!お願いします!」
次に尋ねたのはチェンさん。ちょっとメイリィ...!?待って...!?
「す、すみませんご無理を言って...!」
「いや...問題ない。私で良ければ力になろう。」
了承されてしまった。
OKを貰った後でお断りを告げる勇気などないのだが、本当に私が赤霄剣による剣術を見てどうこうできるのだろうか...?
さっきから緊張の止まらない体で訓練室へ戻る。
ーーーーー
チェンさんは、堅実で且つ鋭い太刀筋でその剣を振るう。
彼女はヴィクトリア王立の前衛学校を優秀な成績で卒業し、その後も龍門近衛局の特別督察隊隊長を務めていた人物である。
その剣術で多くの悪党を懲らしめてきたという話はよく耳に入ってくる。
噂では水鉄砲を使っても凄まじく強いとか...いや、流石に...?どうなのだろう?
彼女は一通り剣を振るった後、その剣を鞘に収めて構える。
彼女の剣術の真髄は、ここからである。
「赤霄、抜刀!」
その刹那に赤霄が鞘走る。
斬撃...の残像が一瞬見えるが...
「メ、メランサ...今の見えた?」
「す、少しだけなら...」
チェンさんはもう一度剣を鞘に収め、一呼吸置いた。
「凄いです...今の抜刀術、どれほどの研鑽を積んだのでしょうか...」
「...ありがとう。だが、私の父親には到底及ばないものだ。ヤツは手刀でこれをやるから...」
手刀で...........? 冗談か何かだろうか。
「それに、まだ力不足を感じることも多い。」
そう言ってチェンさんは腰に下げたもう一つの剣に触れた。
「いくら力をつけたとしても、その度手の届かないと感じるものも増えていく。メランサ、君は自らの力と自分のやりたいこと...その力関係についてどう考えている?」
「私は...」
私が力をつけて目指すもの、それは...
「私は、隊やロドスのみんなを守れるような力が欲しいと...そう思います。そして、それは私1人では達成できないこともわかっています。それでも、その時が来て、皆と共に立ち向かう時に私の力不足があってはいけないと...そう思っています。」
「...そうか。」
チェンさんは少し微笑んだ。
「君のその心構え、尊敬に値するな。自らのできる範囲を考えてなお、そこへ全力を注げるのは才能だと私は思う。」
「あ...ありがとうございます...!」
褒められてしまった。
「私の力が届く範囲、か...」
チェンさんが何かを呟いたが、聞こえることはなかった。
ーーーーー
「凄かったね抜刀!ジャキン!」
「う、うん。」
抜刀は...その、流石にどうにもならないが、通常時の剣術はヴィクトリアの学校で教えられているものだからか、少しは参考できるような気がした。もちろん、あの完成度に届くとは思っていないけれど。
それに、剣を取って何を成すのかという心構え...そういったものも、剣士の強さの一つになるのだと、なんとなく感じられた。
「よーし、次で最後だよ!頑張ろー!」
「お、おー...!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ほう、私の剣技を?」
迂闊だった。
これまでの人選から予測を立てるべきであったのだ。
私に...優秀レベルの戦術立案があれば...!
「そうなんです!お願いします!」
「あわ...あわわ...」
「ふむ...」
目の前にいるのはイェラグの軍閥、カランド貿易のトップ、シルバーアッシュさん。彼の立場はロドスという組織と完全に対等であり、ロドスに協力をすることによってこの企業の価値を見定めているといった噂も立っている。彼の頭脳は、いつも私達を勝利へと導いてくれるあのドクターにも勝るとも劣らないと言われている。
...メイリィに怖いものはないの!?
「シルバーアッシュ様、今日の予定は全て終了しているようです。」
隣にいたクーリエさんがそう告げる。
「そうか...ならばいいだろう。ロドスのオペレーターよ、我が剣技、とくと見るがいい。」
ええ!?いいんですか!?
ーーーーー
緊張とか通り越してガクガク震えながら訓練室へ戻る。
もうどうにでもなれといった感じだ。少なくともこんな距離であの剣技を見られる機会など二度と訪れることはないだろう。
メイリィはもう剣技の理解を諦めたのか、シルバーアッシュさんが飼っている?鳥の「テンジン」と戯れている。
「では...いくぞ。」
「は、はい...!」
唾を飲み込む。
そもそも戦場においても、彼が剣を抜くことはあまりない。
通常時はテンジンに指示を出して敵に攻撃を行なっているのだが、ここぞという場面において、彼の剣術は絶大な効果を発揮する。
真銀斬。
彼が剣を振るったならば、たちまち広範囲に衝撃波が放たれ、その戦況を瞬きのうちに塗り替えていく。
──汝らが誇示せし武勇、何人も語り継ぐこと叶わん──。
「...!!!」
彼は顔色一つ変えずにその剣を振るった。
空気が震える。
ソーンズさんは究極の技巧を、チェンさんは凄まじい速さの抜刀と爆発的なアーツを。そういったものであることはかろうじて理解ができるのだが、真銀斬はまるで原理が掴めない。
あれは...そもそも剣技なのだろうか?
この圧倒的な現象を、彼は涼しい顔で放ち続けた。
「...どうだ?何か見出したものはあったか。」
「えっと...」
ハッキリ言って、何もない。
彼女に連れられたとはいえ、なんとか得られるものを探ってきたが、やはりどうにもならないものは存在するのだと思い知らされる。
「...すみません...やはり私では難しそうです。」
「......」
並々ならぬ、恐ろしいほど強大な力。私が進む先にこれほどの力を手にすることなどないのだと確信できる。
「その、せっかく見せていただいたのに...やっぱりただ剣を振っている私では、届くことのない領域みたいです...」
「そうか。」
ああ...このような状態で、訓練などできそうもない。チェンさんにはあのように言ったけれど、自分の力の限界を知るということは、やっぱり堪える。
「......」
シルバーアッシュさんは鋭い目でこちらを見つめている。
「...それで、どうするのだ。」
「え?」
「手に余る強大な力を前に敵わぬと知った時、何を選択する?」
「そ、それはどういう...?」
彼は一呼吸置いてから、さっきよりも少し大袈裟に剣を振り上げた。
メイリィの方向へ。
...!?
背筋が凍る。
ただの斬撃であればまず届くはずのない距離。だがその剣技の特異性はたった今目の当たりにしたばかりだ。
何故、どうして、そんな事を考えている時間はない。
メイリィはテンジンの頭を撫で回しており、全くこちらに気づいていない。
咄嗟に飛び出そうとして、一瞬止まる。
当然だ。真正面から喰らえばタダでは済まない。それでも...!
恐怖を理性でねじ伏せ、メイリィの前へ出て剣を構える。
来る...!!!
ーーーーー
剣が振り下ろされる。
衝撃に備えてお腹に力を込める...が、いつまで経っても衝撃が来ることはなかった。
「...え?」
「抗えぬ力に晒され、何も出来ずに耐え忍ぶ。遠い昔には、私にもあった。」
彼はただ虚空へ振り降ろしただけの剣を収め、訓練所の出口へ足を向けた。
「止まるも進むも自分次第だが、自らの全てを決めるような選択の場合、お前の先程の決断と同様に、その決断に戦力の差は関係しないものだ。」
戦力の差は...関係ない...
「力の差を見極めることは戦術においても重要だろう。だが、それに影響を受けて自らの目指す道を違えてはいけない。」
彼はそのまま出口へと向かった。
「あ...ま、待ってください!」
彼が足を止める。
「あの...ありがとうございました...!」
「...ああ。」
その後ろ姿が見えなくなり、私はその場にへたり込む。
彼は私を引き戻してくれたのだろうか。真銀斬を目の当たりにして自己喪失に陥りかけた私を。
こちらから頼んで見せて貰ったというもに...シルバーアッシュさんは噂よりもいい人なのかもしれない。
「メ、メランサちゃん?どうしたの?」
テンジンにお別れをしたメイリィがこちらへ駆け寄ってくる。
...とりあえず、この自由すぎる彼女には流石にお説教が必要な気がする。隊長として。
そんな事を思いながら、私の長い長い修行の1日は終わりを告げたのであった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ふっ...!ふっ...!」
「あ、メーちゃん。ねぇ、昨日のツアーどうだったの?何か掴めたかしら?」
次の日。いつも通りに訓練をしていると、フランカさんに声をかけられた。
「あ、そうですね...いくつか参考になりそうなテクニックはありましたが、やっぱり私のスタイルが一番みたいです。」
いくつか戦い方に取り入れることはあったが、基本のスタイルはやはり私のものがしっくりくる。
「ふふっ。いいんじゃない?合っているのか迷っていた剣が、これが合ってるって感じられる剣になったのなら、同じ剣技でも違いはあるはずよ。」
フランカさんはそう言って微笑む。
剣を振るう手にも力が入る。剣筋は変わらずとも、あの軽々によって心持ちは大分変わったように思える。
きっと、前よりも訓練に身が入るだろう。
「良いわねぇそういうの。今度剣士の集いでも開いてみようかしら。どう思う?」
「それは...」
昨日の濃厚な時間は、私の成長に大きく繋がったと、そう感じている。
だけど...
「その...私はやめておきますね...」
流石にしばらくは遠慮したいと苦笑いしながら、今日も私は剣を振り続けるのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「メランサ...私が駆け出しの頃はそれはもうお世話になったオペレーターだが、その強さの元には弛まぬ努力があったんだな。」
「うんうん。真っ直ぐな子でほんと眩しいよね...ところでさドクター。結局、真銀斬ってなんなの?」
「...分からん。」
「え、知らないの?あんなに使ってるのに?」
「分かんない...でも強いから使っちゃう!怖い!」
「...ケルシーがシルバーアッシュの参入に反対だったのって、もしかしてドクターのIQ低下を懸念してのことだったのかな...?」
「シャイニングさん!剣技をメランサちゃんに教えてください!」「杖です...」