私がロドスへやってきたのは数ヶ月前のこと。
あの密林から飛び出て、外の世界を知るということは必ずしも良いことばかりではないことを知った。
そんな世界であっても、このロドスという場所は、私の感性でいっても正しくあろうとしているように思える。
私のような世間知らずなどではなく、最初からこの世界を知っていたというのにここまで信念を貫き通すというのは、私が考える以上に、難しいことなのだろう。
そして...今ここに、その素晴らしさの一つとも言える存在がいる。
「Lancet-2姉様!」
「ユーネクテスさん、お疲れ様です。」
Lancet-2姉様。
麗しく丸みを帯びたボディに、頭脳明晰なAI、そして怪我人の治療に全力を注ぐその献身的な姿は、まさにこの世に舞い降りた天使のようだ。
その外装には何やら落書きがある。
私には読むことはできないが...なんだか悪いことは書いていない気がするし、Lancet-2姉様に聞いても問題ないとのことなので気にしないことにする。
「姉様、今日はどちらへ?」
「はい、今日は特に何か任務がある訳ではありませんので、見回りも兼ねて皆様の健康観察を予定しています。」
「では、私もお供します!」
今日はクロージャ師匠のお手伝いもないので、姉様について行くことができる。
まあ私には医学の知識がないため、医療品を持って姉様を眺めているだけになるのだが。
姉様はほんの少しの、愛おしい駆動音を鳴らしながら前進を始めた。
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「こんにちは。今日の体調はどうでしょうか。」
「ああ、ちょっとまだ痛むかな...」
ロドスに入院している一般の患者の部屋を巡回する。
「ユーネクテスさん、新しい包帯を。」
「はい。」
よく分からないが、姉様は迷うことなく処置の指示を出す。なんとも手際がいい。
次に、戦闘オペレーター達の部屋へ。
「こんにちはケオべさん。今日の体調はどうですか?」
「あ、こんにちはロボットさん!おいらは大丈夫だよ!」
ロドスには私のように、戦闘オペレーターとして働きながら治療を受ける人も多く在籍している。
「...?」
「どうかされましたか?ケオべさん。」
ペッローの術師オペレーターが小首を傾げる。
「なんか...変わったにおいがするね?」
「におい...?何か感じますか?ユーネクテスさん。」
「いや、特には...」
なんだろう?そういえば、ペッローという種族はよく鼻が効くらしい。この少女は何かを感じ取っているのかもしれない。
「あ!そういえばこの後、ヴァルカンお姉ちゃんとクッキーを焼く約束してたんだ!もう行っていい?」
「はい、大丈夫です。お疲れ様でした。」
彼女は早足で去っていった。
「念の為、後で報告をしておきましょうか。」
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その後もいくつかの部屋を巡回していると、すっかりお昼時だ。
「後はこちらの区間で最後ですね...」
その時、向こうの区画から大きな声が聞こえた。
「ど、どうしたんですか!?あ、あの!」
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声の方向に向けて駆け出す。
「こ、これは...!」
そこには、極寒の世界が広がっていた。
廊下は氷に覆われて、一人の女性一般オペレーターが、靴を凍りつかせて動けなくなっていた。
「...はあっ!」
私は飛び出し、彼女の足回りの氷を破壊して助け出す。
彼女を抱えて一旦氷のない場所へと着地をした。
(チリン!チリン!チリン!)
鈴の音が聞こえる...?
冷気の発生源...そこに目を向けると、顔を赤くして目を回しながら出鱈目に鈴を鳴らす少女が立っていた。
「あれは?」
「彼女はプラマニクスさんです!彼女は鈴を使って風雪の力を操るのですが、ついさっき急に目を回して鈴を鳴らし始めちゃって...!」
彼女は明らかに正気ではない。一体何が...
「ユーネクテスさん!ポーチの内ポケットのカプセルを装填してください!」
「分かった!」
私は素早く液体の入ったカプセルを、姉様の3番スロットに嵌め込んだ。
「鎮静剤です!少しチクッとしますが我慢してください!」
姉様は巧みなドリフトで彼女に接近し、鎮静剤を打ち込んだ。
「きゅう...」
彼女は倒れ込み、周囲の氷が溶けていく。
「姉様、どうしましょう。」
「とにかく容態を見ます。運んでいただけますか?」
私達は、彼女を近くの空き部屋のベッドに寝かせることにした。
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「とりあえず落ち着きましたね...助かりました、ありがとうございます。」
「いえ、間に合ってよかったです。結局原因は分かりませんでしたが...」
彼女の様子はどう見ても異様だった。
「酒で酔っていたのでは?うちの部族にも、弱いくせにやたらと飲みたがる奴がいてな。」
「いえ、私が最初に話しかけた時は普通の対応でしたので、お酒を飲んでいたわけではないかと...」
一体何があったのかさっぱりわからない。こういうことは苦手だ...
「とにかくクロージャお姉様やドクター様に報告をしなければいけませんね。」
私達が頭を悩ませていたところに、また外から大きな声が聞こえた。
「あ、彼女はお任せください!二人はそちらをお願いします!」
二人して廊下へと飛び出す。
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そこには、プラマニクスと同じく顔を赤くしてオペレーター達が暴走していた。
「ブレイズさん!ロスモンティスさん!」
「彼女達も同じ症状なのか?」
「ブレイズさんは...お酒に酔っている可能性もないとは限りませんが、ロスモンティスさんはないと思います!とにかく二人を止めなくては!」
彼女達が飛びかかってくる。
「ぐっ...!この二人、凄い力だ...!」
密林での件でブレイズさんの実力は知っているが、ロスモンティスという少女もかなりの力を持っている。
ガヴィルほどではないが、このままではどうにもならない...!
「仕方ない!『アイアンハイド』!」
そう叫ぶと、進化した我がマシンが早急に駆けつける。
このアイアンハイドは、かつて私が搭乗し、損壊してしまったあの機体「ビッグアグリー」をロドスの技術で再現したものである。
私は素早くアイアンハイドに乗り込み、二人を押さえつけた。
気を抜くと押し返されそうだ。機体がギシギシと軋む。仮に彼女がチェーンソーを持っていたならば、どうなっていたか予想もつかない。
とにかく、私はもう動けそうにない。早くこの動乱を解決しなければ...!
「姉様、先に行ってください!ドクター達と連絡を!」
「...!はい、分かりました!二人をよろしくお願いします!」
姉様が駆け出す。
さあ、二人とも。ガヴィルのようにいくかは分からないが、大人しくしてもらおうか...!
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全力でエンジンを回す。
これは緊急事態だ。エリートオペレーターが二人も暴走している。
ドクター達にメッセージを送りつつ、とある回線に接続する。
『聞こえる!?Lancet-2!』
「クロージャお姉様!」
クロージャお姉様からの通信が入ってきた。
「現在一部の人が急に暴れ出してしまって、その対処をしているところです!」
『そのことなんだけど、一部の人を強く酔わせる香りが、ロドスの地下から上がってきているらしいの!その対象は、【フェリーン】だけみたい!』
フェリーンだけを酔わせる香りが?
そういえば、ケオべさんが何かを感じ取っていたことを思い出す。
この騒動が終わったら、お姉様に嗅覚センサーを取り付けていただくよう打診するべきだろうか。
「分かりました!ロドスの地下方面へ急行します!」
『お願い!あ...それと、レッドが地下で、レユニオンの残党を名乗る奴を捕まえたらしいの!気をつけて!』
レユニオンの残党...!?ともかく、急行しましょう!
駆け出す私の目の前に、二人のフェリーンが立ち塞がった。
ーーーーー
「ドクターぁ...!!!なんでこんな時間までぇ!!!起きてるんですかぁ!!!」
「お嬢様...!お嬢様捨てないで...!」
やはり彼女達も正気を失っているようだ。
もう鎮静剤は残っていない。まともに戦闘能力のない私が彼女達を突破することは不可能だ。
万事休すか...!
その時、頼もしい駆動音が二つ、この廊下に響き渡った。
「間に合いましたか、Lancet-2!」
「加勢しますよ!うぉぉぉおおお!」
そう。私は先程彼らとの回線を繋いでいたのだ。
「来てくれたのですね!Castle-3!THRM-EX!」
本来通信には、個人差はあれど多少のタイムラグは存在する。
だが、そんな中でもストレートに通信が繋がる彼らに、情報共有の速さで勝るものはいないだろう。
彼らはそれぞれに体当たりを行って怯ませる。これで道ができた。
私達は全力でエンジンをふかし通り抜ける。
「二人とも、行きますよ!」
「了解です!下の階ですね!」
「爆発して床をブチ抜くというのはどうでしょう!?」
それは...やめておきましょう!
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だいぶ地下まで進んだようだ。
クロージャお姉様が送信してくれた地図データによると、もう少しで目標地点である。
「...!Lancet-2、危ない!」
Castle-3が私を突き飛ばし、さっきまで私がいたところに銃弾が走る。レユニオン残党とやらがこちらを狙っているようだ。
私達は急いで柱の影に隠れた。
「助かりました、Castle-3。」
「いえ...しかし、どうしましょうか。どうにか突破しますか?」
「あまり安全とはいえませんね...」
「私が飛び出して爆発するというのは如何でしょうか!!!」
あまり時間はかけられない。
その時、突如私達を待ち構えていたレユニオン残党が次々と倒れていった。
そこにいたのは...銃を構えた、フェリーン特有の耳を持った女性だった。
「あ...Ashさん、助かりました。ありがとうございます。」
「えっと...ロドスの喋る機械達...?大変なことになっているみたいね。出来ることがあるなら手伝うわ。」
彼女はAsh。ロドスの正規職員ではない、いわば協力関係にあるといえる小隊の隊長を務めている女性だ。記録では、補給と移動のため数日間滞在するとの記載があった。
「あの、Ashさんは大丈夫なのですか?」
「...何が?」
彼女は涼しげな顔で返答をする。フェリーンにのみ効果のある現象らしいが、彼女には効かないのだろうか?
ともかく、オペレーターの協力が得られるのはありがたい。
「下にこの現象の原因と思われるものが存在します。一緒に来ていただけますか?」
「了解よ、援護するわ。」
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ここの区画は基本重要な役職の者しか入ることのない場所だが、緊急時のため許可を得て前進する。
地図の目標地点は...この扉の先だ。
「...足音が聞こえる。誰か中にいるわ。」
Ashが皆を静止させる。
「3、2、1で突入するわ。準備はいい?」
「了解です。」
「お任せください!」
「爆発の準備ですね!!!」
すぐ突入できるよう、エンジンを回しておく。
「3、2、1...Go!」
扉が開き、突入を開始する...!
「Freeze!武器を置き、動きを止めなさい!」
「ふん...ようやく来たか。だがもう遅いぞ!」
此度の騒動の原因、レユニオン残党のリーダーらしき男は、余裕の表情でこちらを見ている。
「ロボット三機と...フェリーンが一人?おいおい、なめられたものだな。」
「この装置は何?」
この部屋の奥、分厚い装甲に守られた大きな装置。
明らかにアレが元凶のように思える。
「知りたいか?教えてやろう!この装置は、サルゴンのロングスプリングで偶然拾い、改造したものだ!」
Ashがものすごい渋い顔をした。サルゴンに何か悪い思い出でもあるのでしょうか。
「この装置には、一部のものを増殖、分裂させる機能があった!これに、フェリーンの好む木、Matataviを濃縮して投入した結果がこうだ!」
「......」
「通常、フェリーンにのみ効く兵器など大して役に立たないが、ロドスは違う!レユニオンとして戦った時、とんでもなく強いフェリーンが二人いたのを覚えているし、トップのうち一人がフェリーンであるとも聞いた!」
なるほど。この機器は、現在のロドスに対してのみ有効な兵器となっている、という訳なのだろう。
「ふふ...もう解説はいいかな?ではもう終わりにするとしよう!この濃縮Matataviスプレーでその女を無力化すれば、もう私の勝利に揺るぎはない!」
そう言って男は突然スプレーを振り撒いた。
まずい...!いかにAshさんといえど、直接嗅いでしまえば...!
だが、彼女が正気を失くすことはなかった。
「あれ?なんで聞いてないの?」
「私フェリーンじゃないもの。」
そうなのですか。
そういえば、Ashさんのプロフィールには種族欄の記載がなかった気がする。
「じゃあなんだよその頭のやつは!?」
「これは...飾りよ。」
「......こんのコスプレ女がァ!」
「誰がコスプレよ!誰が!」
Ashさんが男に右ストレートをぶち込む。
今です!あの装置を破壊しなくては!
「行きますよ二人とも!」
「了解!突撃します!」
「ようやく爆発ですか!?」
3人揃って前進する。しかし、部屋に控えていたレユニオンの残党達が進路を塞ぎ、装置に近づくことができない。
どうすれば...!
『合体だよ!』
クロージャ姉様!
『万が一の為にその機能を搭載しておいたんだ!前と後ろのジョイントを使って!』
「了解しました!皆さん、行きますよ!」
「合体ですね!」
「爆発ですね!」
私とCastle-3をジョイントで縦列に接続し、タイヤ部分を天井へ向けて擬似カタパルトを形成する。
その上にTHRM-EXが接続され、射出の準備を始める。
「エネルギーショックスタンバイ!」
彼の爆発でなければ、あの装置の装甲を破ることはできないだろう。
彼のチャージが最大になる前に、発射を阻止しようと横槍が入る。
しかし...そんなレユニオン残党達を薙ぎ払うように、トマホークが飛来した。
「Lancet-2姉様!」
「ユーネクテス!ありがとうございます!」
「チャージ完了!いつでもいけますよ皆さん!」
「Lancet-2!射出のタイミングを合わせますよ!」
「はい!
我々機械といえど、ロドスのオペレーターとして全力で戦って見せます!」
さっきのトマホークによって射線は既に空いている。
Ashさんは男をボコボコに殴っている。
後は我々の一撃で...!
「決めます!」
「「「はああああああ!」」」
一直線にカッ飛んだTHRM-EXは、その機械に触れる直前に、見事な大爆発を披露した...
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「Lancet-2姉様!」
「ユーネクテスさん、こんにちは。」
ロドスに、いつもの日常が戻ってきた。
レユニオンの残党は全てレッドさんによって捕縛されたようだ。
Matataviで正気を失っていた人達は何も覚えていないらしい。まあきっと、その方がいいのだろう。
「臨時にしてはいいチームだったわ。また会いましょう。」
Ashさんはそう言って、レインボー小隊を連れてロドスを旅立っていった。
そして私は...変な充足感に包まれて日々を過ごしている。
「この戦いで、何か変化でもあったのですか?」
「私は...戦うと言っても、私達はオペレーター皆様のような戦力になることはできません。少しのサポートをすることしか...そんな中でこの事件を経験しました。」
最後の戦いを思い出す。私達は、力を合わせてロドスを危機から救ったのだ。
「まるで皆様のようなオペレーターの一員になった気分です。」
「え?元からそうではないですか?」
「元から?」
「はい。戦闘能力が低いとか、ロボットだとか。そういったことではなく、同じ正しさを貫いていく仲間...私はここに来て日は浅いですが、ロドスがそういったものを重要としていることは分かりますよ、姉様。」
「そうですか...」
勝利した後の皆を思い出す。
大戦果だと私達を抱きしめるクロージャ姉様。勝利を祝い合うユーネクテスさんにAshさん。Castle-3にTHRM-EX、そして私。
「ふふ...そうですね。ありがとうございます。ユーネクテスさん。」
「?...よかったです!じゃあ今日はお祝いにバーベキューでもしましょうか!」
そうですね。私は食べることはできませんが...香りだけでも堪能するとしましょう。
新たに取り付けられたパーツが、返事をするようにキュインと音を立てた。
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「大惨事じゃん!日常が見えるんじゃなかったのか?」
「うーん、まあ一応機械同士だから、その辺の判別難しかったのかもしれないね。」
「というか全然知らなかったんだが...私は何してたのさ。」
「君は岩集めで1-7を二十周ちょいした後だったから、理性0でぶっ倒れてたよ。」
「そ、そんな...ベロベロに酔っ払ったケルシーとか見たかったなぁ...」
「というかドクターに事後連絡行ってなかったんだ...もしかしてケルシーが隠したがったのかな...?まあ元気出しなって。今なら『変形合体 DX ロドスキャノン』、3種類同時購入で15%オフだからさ!」
「...買います。」
ロボ同士の絡みが見たい。