更木剣八に転生したら剣ちゃん(幼女)だったんだが   作:凜としたBTQ

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 茶渡の霊圧が……ついたり消えたりした……?

 唐突にふと閃いた! したので初投稿です。
 


剣ちゃんは剣を両手で握ると強くなるって言ってたけどそれってほんとにござるかぁ?

 「ぺぇいッ!」

 

 「あいたぁッ!?」

 

 ゴツンッ! と杖と頭が衝突した鈍い音が道場内に響き渡る。

 

 木刀が宙を舞い床に落ちたその先には、涙目で頭を抱えながら老人を睨みつける幼女がいた。

 

 そう、何を隠そう現在進行形で虐待を受けている幼女こそこの俺、更木剣八だ。

 

 ここは護廷十三隊一番隊隊舎にある一角、山本元柳斎重國が所有する道場の室内だ。

 

 そこで俺は週に一度無理やり習わされている剣道の修行に来ていたのだった。

 毎週毎週飽きもせず逃げる俺を無理やり拉致して連れていく山本の爺さんには怒りを通り越して最早呆れるほどだ。

 

 なーんで嫌がる幼女に無理やり習い事させるんですかねぇ?

 幼女虐待で訴えるよ? 訴訟も辞さないよ? あーそういやこの時期もう四十六室全員死んでるんだったか意味ねーや!

 

 そんな悪態を心の中でついても爺さんの鬼の修行が優しくなることはない。

 むしろこんなことを考えているなんてバレたら素振りの量を倍にされる可能性があった。

 

 だから俺は内心の不満を心に押し殺し、せめてもの抵抗として爺さんをキッと睨みつけた。

 オラァ! さっさと俺を解放しねえと現世の児童福祉法が黙ってねえぞ!

 

 けんちゃんは じじいに にらみつけるを した!

 

 「傲るなよ小童。おぬし程度の力でこの儂を斬れると思うてか」

 

 じいさんは なにか かんちがいをした!

 

 いやそういう意味じゃねーから!?

 全然木刀が当たんなくてイライラしてたのは確かだけど、俺が怒っているのは勝手に拉致して修行を強制させられていることに対してだから!

 

 そもそも俺の体質的に木刀なんて生ぬるいもんは合ってないんだよ。

 なんていうか、やる気:絶不調って感じになる。

 というかそもそも修行とか練習自体が性格的に向いていない。

 

 俺は実戦で強くなっていくタイプなんだ。

 言うなれば戦いの中で成長していく主人公系幼女。

 理論とか型とか小難しいこと考えるよりも本能に従って剣を振る方が性に合っているし強いのだ。

 

 「その獣のような野蛮な剣を少しは真面(まとも)なものにするつもりじゃったが……これは予想以上に骨が折れそうじゃわい」

 

 はぁ、と溜息をついてその長くて白い顎髭を触りながら呟く爺さん。

 

 溜息をつきたいのはこっちだわ!

 余計なお世話だっつーの!

 別に今までこのスタイルで困ったことなかったんだからこのままでもいいじゃんか!

 

 「山じいは更木隊長の剣に正義を教えたいのさ。僕らにそう教えてくれたようにね」

 

 そういって俺の頭にポンッと手をのせてきたのは、俺の修行を見学しに来たのだろう女物の羽織を着た中年の優男────八番隊隊長、京楽春水だ。

 

 俺は眼帯を付けていない方の目でジロリと、まるで変態を見るような目つきで睨みつけながら、頭にのせられた手を嫌そうに振り払い言った。

 

 「正義とかくだらねー。戦いに正義も糞もあるかよ。あるのは殺すか殺されるかの二つに一つだろーが」

 

 そう吐き捨てるように言う俺の姿を見た京楽は、いつもの飄々とした顔を崩し少し悲しげに表情を歪めた。

 そしてどこか哀れむような目で俺の方を見ると、少しの沈黙の後にゆっくりと口を開いて答えた。

 

 「そうだねぇ……確かに戦いは所詮殺し合いだからね。だけれど、剣を握るということはそれだけじゃ足りないのさ……そうだろ? 山じい」

 

 「…………」

 

 京楽の言葉に目を閉じながら沈黙を貫く山本の爺さん。

 その皺の多い巌のように厳格な表情は、言葉こそ発しなかったが京楽の問いに対して沈黙という形で肯定していた。

 

 「そうだな。確かに更木隊長は強い。護廷十三隊の中でも強さという点において右に出るものはいないだろう。……だがその強さは何のためにある? 敵を殺すためか? 敵に殺されないためか? あるいは、戦いそのものを楽しむためか?」

 

 一連の話を聞いていたのだろう。そういって京楽の後ろから出てきたのは、長い白髪を隊長羽織の先まで伸ばしたもう一人の優男────十三番隊隊長、浮竹十四郎だった。

 

 浮竹は俺と目線を合わせるようにしゃがみこむと、まるで聞き分けのない子供を諭すように丁寧に、しかし誤魔化しは許さないといった真剣な声色で問いかけてきた。

 

 「敵を殺すだけならば毒を使えばいい。敵に殺されないためならば戦場へ赴かなければいい。戦いそのものを楽しむためならば……そこまでの強さは必要ないだろう」

 

 「……オレは別に強さを求めて強くなったわけじゃねーよ」

 

 確かに俺は戦いそのものを楽しむ傾向がある。

 そしてそうするためには俺の強さが邪魔になっているということも皮肉にもまた事実だった。

 別に俺は強くなろうとして強くなったんじゃない。いつの間にか勝手に強くなったんだ。

 手加減するのも大変だし別に強さなんか必要じゃない。

 

 「────本当にそうかの」

 

 今まで沈黙を貫き京楽達の話を聞いていた爺さんが、薄っすらと目を開けて俺の目を見ながら尋ねてきた。

 

 その顔はやはり京楽や浮竹達と同じく幼子を叱る親のような優し気な表情で……その雰囲気に俺はどこかむず痒さと恥ずかしさを感じてぶっきらぼうに答えた。

 

 「そうだよ。だからオレが強くなったことに理由なんかねーよ」

 

 「おぬしが戦うときに、しないことが一つある」

 

 爺さんはゆっくりと移動して俺の少し前に立つと、()()()()()()()()()を正眼に構えながら霊圧を解放して続けた。

 

 「剣を捨てることだけは絶対にしないんじゃよ」

 

 「先生ッ!!」

 

 「山じいッ!?」

 

 瞬歩で懐まで迫り放ってきた一閃は、速く無駄のない斬撃だった。

 

 俺は咄嗟に腰に佩いていた斬魄刀を抜いて袈裟斬りを正面から受け止めると、抑えていた霊圧を解放し満面の笑みで爺さんに斬りかかるため前に出た。

 

 「ハハハハハッ!! そうだ!! それだよじじい!!」

 

 俺の笑い声を合図に、火花が散るような怒涛の連撃が爺さんと俺の間を舞い踊る。

 金属と金属が打ち合う轟音が道場に響き渡り、膨大な霊圧が重力のような圧力を伴って周囲一帯を覆った。

 

 「たまんねえなッ!!」

 

 蕾のような形をした鍔の俺の斬魄刀が縦横無尽に振るわれ、道場内に暴虐の限りを尽くしていく。

 

 水を得た魚のように歓喜と興奮を全身で表しながら、久々の格上との全力の殺し合いに本能が闘争の愉悦へと理性を誘っていく感覚に身を委ねる。

 

 しかし俺の斬撃を防戦一方とばかりに弾いている山本の爺さんは、ある一点のみをただ見据えて酷く冷静な目をして落ち着いていた。

 

 「……あぁ?」

 

 興奮冷めやらぬ俺とは対照的な落ち着いた爺さんの様子に疑問を覚えその視線の先を追うと、俺は爺さんの狙いに気づいてすぐに振りかぶっていた刀を止めた。

 

 同時に今までとは比べ物にならないほどの殺意と怒りを含んだ霊圧をぶつけ、どういうことかと射殺すような視線で爺さんに尋ねた。

 

 「どういうことだじじい……テメー、()()()()()()を狙ってやがったな?」

 

 爺さんは戦闘中ずっと俺の()()()()()()()()斬魄刀をじっと見据えて、一点のみ負荷がかかるよう守勢の動きに回り淡々と斬魄刀を折るためだけに動いていた。

 

 無論、超高密度の霊圧で刀を保護するように周囲を覆っている俺の斬魄刀を折ることなぞ容易にできることではないが、このまま斬り合い続けるうちに山本のじいさんが斬魄刀の解放を行った場合、それも絶対とは言い切れない。

 

 このまま最後まで戦い続けていたい気持ちはあるが、爺さんの狙いが俺の斬魄刀を折ることだと知った今その真意を問い質さずにはいられなかった。

 

 「言うたじゃろう。おぬしは剣を捨てることだけは絶対にしないとな」

 

 その言葉を聞いて、止めにかかろうと動いていた京楽達は納得の表情を浮かべて元居た位置へと戻っていく。

 

 後に残されたのは不完全燃焼で放置され訳もわからず状況を理解できていない不機嫌な俺と、物わかりの悪い教え子に呆れたといったような様子で溜息をつく山本の爺さんだけだった。

 

 「その手入れの行き届いた綺麗な斬魄刀を見ればわかると思うんだけどねぇ……。少し言いかえてみようか。更木隊長にとって大切なものってなんだい?」

 

 京楽は女物の着物を揺らし肩を竦めると、やれやれといった態度で俺の頭に手を置き尋ねてきた。

 

 京楽のこういうところが嫌いだ。いつもいつも俺のことを子供扱いして保護者面で接してきやがる。

 護廷のためなら悪行に手を染めることすら厭わない冷徹さを持ちながらも、常日頃の彼は誰よりも人の心の機微を見抜くことが上手く、女子供には特に優しい情の厚い男であることをよく知っている。

 だからこそ余計に質が悪い。

 その優しさは俺にとって甘い毒のようなものだ。

 俺がこの手で護ると決めたのはただ一人(一刀)。これ以上瀞霊廷(ここ)にいたら大切なものが増えてしまいそうで、この小さな手から大切なものが零れ落ちてしまいそうで怖かった。

 

 「オレは……」

 

 「強さというのは何かを護るために手に入れるものだ。それは秩序であったり、友であったり────誇りであったりと人それぞれだが……自分だけの正義がそこにある」

 

 目線を合わせるようにしゃがみ込み俺の目を見つめながら言う浮竹の言葉には何処か重みがあった。

 ……浮竹の正義もそこにあるのだろうか?

 

 ふとそんなことを考えていると、斬魄刀を杖に戻した爺さんが杖でコツコツと床を叩き注目を集め、ゆっくりと奥の椅子に腰かけておもむろに口を開いた。

 

 「確かにおぬしは噂に違わぬ悪童よ。じゃがそれだけでないことなぞ、一度(ひとたび)刃を交わせばわかるもの」

 

 伊達に千年生きておらぬ、と呟きながら静かに目を閉じる山本の爺さん。

 先に攻撃されたとはいえ、総隊長に対し殺意を含んだ剣を向けることなど護廷の隊士として到底許されることではない。

 それなのに爺さんはまるで子供の悪戯をいなしたかのような軽い態度で話を続け、それどころか俺の顔を見つめると険のない柔らかな視線を向けてきた。

 

 「正義を(ないがし)ろにする者を儂は許さぬ。じゃがおぬしの剣からは確かな信念────おぬしだけの正義が伝わってきた。……(ようや)く少しは自覚できたようじゃの」

 

 椅子に腰を下ろしそのダンブルドアみたいな髭を撫でながら、静かだが不思議と場に通るその老齢な声を響かせて爺さんは言った。

 

 ……俺だけの正義? そんな大層なもん、俺の剣にはない。

 俺はいつも斬りたい物だけを斬り、斬りたい者だけを斬ってきた。

 

 もし俺の剣に何かあるのだとしたらそれは……剣八としての、やちるの剣八としての……矜持だけだ。

 

 「なるほど……矜持ねえ。いやはや、草鹿副隊長は更木隊長に愛されてるようで羨ましいよ」

 

 「ふむ。誰かのために剣を振ることは誇らしいことだ。俺は更木隊長のその正義を応援するぞ」

 

 どうやら思っていたことが口に出ていたようだ。京楽と浮竹が矢継ぎ早に俺の言葉を肯定してくる。

 

 というか正義じゃねーって言ってんだろ!

 正義とか信念とかそんなむず痒いもんじゃないっつーの!

 俺はただやちるの剣八として強く在りたいってだけで……あれ?

 

 ……そうか。

 俺は強く在ろうとして、その結果強くなっていたのか。

 

 原作の剣八のように強く、本物の剣八よりも強く。

 そう在りたいと願って、俺は剣を握り続けていたんだったな。

 

 ……俺が覚えている原作知識は、この千年の放浪生活のせいでもうその殆どが朧げなものとなっている。

 

 だけど一つだけ。

 とある未来で起こり得る別れの出来事だけは、鮮明に覚えていた。

 

 「……おぬしがその刀を大事そうに扱うのも……その斬魄刀の“名”を決して呼ばぬことも、その矜持に関する故……ということかの」

 

 俺は自分の斬魄刀の名を知っている。

 それが原作知識から来る反則的なものだったとしても、知っていることはまさしく事実だった。

 

 ……おそらくやちるも、俺が彼女の本当の名前を知っているということに気づいている。

 それでも俺が何も言わない様子を見て、やちるも何も言わずにただの“草鹿やちる”として生きてくれていた。

 

 ────怖かったのだ、俺は。

 

 原作では更木剣八が斬魄刀の名を叫んだ出来事の後……“草鹿やちる”という少女は尸魂界(ソウルソサエティ)の何処にも居なくなっていた。

 

 そう、居なくなっていたのだ。

 

 おそらく、彼女は更木剣八の斬魄刀として還るべき場所に還ったのだろう。

 

 それが彼女の望みだったのかもしれない。

 彼女の名を呼ぶことが、彼女にとって本当の意味での幸せになるのかもしれない。

 

 ……俺のやっていることは唯の我儘だ。駄々を捏ねる子供の言い分でしかないのだろう。

 

 それでも俺は……オレは……。

 

 ────やちるとずっと一緒に居たいと。そう思わずにはいられなかったんだ。

 

 「────オレの斬魄刀に、名はねえ。これから先も、呼ぶつもりはねえ。だから……だからこそオレは……強くならなきゃいけないんだ」

 

 未熟な己自身に誓うよう、一言一言自分が紡いだ言葉を噛み締めながら、俺は山本の爺さんの目を見て宣言した。

 

 そんな俺の言葉を受けた爺さんは、暫く俺の瞳をじっと見つめた後にフッと穏やかに微笑むと、まるで孫を見るかのような優しげな表情をして口を開いた。

 

 「────その言葉、嘘偽りなしとこの山本元柳斎重國が受け取った。ほれ、いつまでそこに突っ立っておる。稽古の続きじゃ。そこな棒を早く拾わんか」

 

 そういっていつもの調子に戻った爺さんは、杖で床に落ちた木刀を指しながら俺に素振りの続きをしろと目で促してくる。

 

 柄にもなく熱く語ってしまった俺は、先ほどまで怒っていたことも忘れて、羞恥に顔を赤くしながら渋々と木刀を拾い片手で構えた。

 

 「ぺぇいッ!」

 

 「あいたぁッ!?」

 

 そして再び頭を杖で殴られるのだった。

 

 「何度言えばわかるのじゃ! 剣は両手で構えろと()うとろうに!」

 

 「るせーじじい! 別に片手も両手も変わんねーだろうが!」

 

 言い争う俺と爺さんの声が道場に響き渡る。

 それを見て酒を飲みながら笑う京楽と、微笑ましげに頷く浮竹の両名が俺の視界の端に映った。

 

 

 

 

 ちなみにブチギレた俺が斬魄刀を両手に構えると霊圧が倍くらいに膨れあがった。

 何で斬魄刀を両手で握ったときにだけ霊圧が上がるのかと爺さんに聞くと、俺が両手で触れることで斬魄刀が喜び、無意識の内に力を貸してくれているかららしい。なんだよそれ可愛いかよ。

 

 その日、隊首室に戻った俺はなんかやたらと機嫌のいいやちるにせがまれてお風呂で一緒に洗いっこしていると、敷居を挟んだ男湯の方から弓親らしき人物の叫び声と一角らしき人物の悲鳴が聞こえた気がしたが……まぁ気のせいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 




 というわけで剣ちゃん剣道編でした。
 剣は両手で振った方が強い(確信)

 この小説では勝手な解釈として、剣を両手で握ると剣ちゃんがいつもよりたくさん斬魄刀(やちるちゃん)を触ってくれた結果、やちるちゃんが喜んで剣ちゃんの霊圧が跳ね上がる、という解釈をしています。
 原作の剣ちゃんは何で両手で剣を握るとギアが上がったんだ……?

 原作でいう剣ちゃんと一護が戦ったときの最後のような現象ですね。
 斬魄刀と共に戦うというやつです。始解はしませんが()
 光(やちるちゃん)と闇(剣ちゃん)が合わさり最強に見える。

 閃きとチャドの霊圧が消えたので失踪します。

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