チャラ男小路清隆   作:ウェンバンヤマ

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1巻
陽キャへの第一歩


 

 突然だが、少し考えてみて欲しい。

 人は平等であるか否か。

 

 

 ──答えは 否だ。

 そのことを裏付けるように、この世界の学生は2つに分類される。

 

 そう、『陰キャ』と『陽キャ』だ。

 例えば昼休み、陽キャがグループで集まり昼食をとる際、陰キャの席はなすすべなく奪われ、

便所飯を強制される。

 少々極端な例だったかもしれないが、これに近しいことが形を変えながら、全国の学校で起きている。

 

 

 さて、ここで質問だ。

 自分が座席に座るバスの中でバスの中で辛そうに立つ老婆に気がついたとき、どう行動するべきだろう?

 倫理的に考えて、もちろん席を譲るべきだ。

 しかし、ここで席を立ち、

「この席どうぞ」と言える人間がどれだけいるだろう。

 

 譲るべきだと思っても、どうせ別の人が譲るだろうと考える者。

 席を譲りたくても、目立ちたくないから席を立てない者。

 そもそも譲ろうとも思わない者。

 

 こいつらはダメ。

 ここで進んで席を譲れる者こそ「陽キャ」と呼ばれ、カーストの頂点に立つのだ。

 だからオレは高らかに宣言した。

 

 「おばあちゃん、この席座っていいよ〜」

 

 

 …完璧だ。

 初対面の高齢者に対してもこの馴れ馴れしさ。当然のようにタメ口。

 しかし老婆は顔をしかめることもなく笑みを浮かべながらオレに感謝を口にする。

 これを陽キャと言わずしてなんと言うのか。

 オレの発する圧倒的なまでの陽キャオーラに周囲の同級生と思われる乗客も唖然としている。

 その証拠にバスが目的地に着くまで、バス中の視線はオレに釘付けだった。

 

 

 

 

「デカイな……」

 

 

 東京都高度育成高等学校。古事成語ではなく、オレがこれから通うことになる学び舎だ。

 日本政府の管理するその規模に圧倒されながら、校舎に向かい歩き始めると——

 

 「ねぇ...ちょっといいかな?」

 「ん?」

 

 

 振り返ると、そこには上目遣いでこちらを見つめてくる女子生徒が。

 

 「さっき、バスの中でおばあさんに席を譲ってた人だよね?」

 

 ふっ...そう聞かれては答えてやるしかないな。

 

「見られてたのか...恥ずかしいな」

「そんなことないよ!ああいうことできる人ってすごいと思う」

「そう?人として当たり前のことをしたまでだよ」

人として、いや陽キャとして当たり前のことをした。

 褒められたくてやったわけではないが、褒められると陽キャとして認められた感じがして嬉しい。

 

「私、櫛田桔梗って言うの。よろしくね」

「オレは綾小路清隆。よろしく、桔梗ちゃん」

 

そのまま流れで自己紹介へと移り、握手を交わす。たとえ初対面だとしても必ず下の名前で呼ぶのが陽キャ流だ。

 それにしても、入学早々こんな陽のオーラを放つ美少女とお近づきになれるとは、オレの陽キャ学園生活としては最高のスタートダッシュを切れたと言っていいだろう。

 

「…それじゃ綾小路くん、せっかくだし一緒に体育館まで行かない?」

「もちろんだよ。桔梗ちゃんみたいに可愛い子に誘われたならどこにでもエスコートするとも」

「あはは...お世辞でも嬉しいなっ」

 

 

 こんな歯の浮くようなセリフを詰まることなくスラスラ吐ける自分が恐ろしい。

 櫛田の反応...これはどっちだ?

 照れているのか、引いているのか。

 

 もしやいきなり距離を詰めすぎたか...?

 いや、嫌悪感を抱いている様子は無いし、少なくとも名前呼びは許されたのだろう。

 

 

 

 そんなことを考えながら、他愛もない世間話をしつつも、歩みを進めていると体育館にたどり着いた。

 

 

 

 入学式、お偉いさんの長話をただ聞き流しているだけでは退屈なので、何故オレがここまで陽キャにこだわっているのかをご説明しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 ———オレはホワイトルームという特殊な環境で人生の大半を過ごしてきた。

 そこでは厳しい英才教育が施され、娯楽やエンタメといった類いは一切許されなかった。

 しかし訳あってそのホワイトルームの魔の手から逃れこの高校に入学することができ、今に至る。

 

 せっかくの自由の身だ。オレの人生を豊かにする、今のオレに欠けたピースを埋めるためにこの時間は使うべきだろう。

 そうして徹底的に分析した結果、悲しいことにオレに欠けているのは青春の2文字だった。

 

 …といった感じでオレはこの高校生活を、青春を全力で楽しむことに決めた。

 しかし困ったことにオレは『楽しむ』とは具体的にどういったものなのか知らなかった。

 ならばとインターネットを駆使し、高校生活の楽しいところとは何か、調べまくった。

 その答えは友情や恋愛といった人間関係のものが多かった。

 つまり、人間関係を制する者が高校生活を制する、という訳だ。

 

 

 

 ———もうお分かりいただけただろう。

 オレは人間関係を制するために陽キャを目指しているのだ。

 

 オレは陽キャに近づくためなら何でもした。

 まずは見た目からということで、ピアスを開け、刺青を彫った。

 学園物の小説やドラマ、アニメを身漁り陽キャの話し方を学んだ。

 これでオレに死角は無い———と言いたいところだったが、どうしても完璧な笑顔を作ることができなかった。

 ホワイトルームでの生活に笑顔など無かったためか、表情筋がガチガチに凝り固まっていたのだ。

 まぁ、櫛田の反応からして大した問題にはならなさそうだ。

 

 

 

 

 

 ——ついにオレの高校生活が始まる...ホワイトルームではこんなワクワクは得られなかっただろうな...

 

 

 

 

        〜1ーD〜

オレが教室内に足を踏み入れると、既に半分程度の席は埋まっていた。

 座席表を確認し、自分の席に向かうと...

 

「あっ!綾小路くん、同じクラスだったんだね!」

「桔梗ちゃん、さっきぶりだね。同じクラスになれて嬉しいよ」

 

 櫛田の周りには既に何人か女子がいて、早くもグループができつつあった。

 

「櫛田さん、知り合い?」

「バスが一緒だったんだー」

「それにしては距離が近くない?」

「そうかな?普通だと思うけど」

「えー、でも綾小路くん?はチャラ男っぽいもんねー」

「確かにー」

 

 チャラ男?陽キャではなく?

 

 まあいい、第一印象は悪くなさそうだな。

 と、あまり女子の会話に混ざり続けるのも何なので、自分の席に着くことにした。

 オレの席は窓際の一番後ろ。

 どうやら当たりの席を引いたようだ。この席からならクラス中を視界に収めることができる。

 陽キャにはクラスメイトの情報は必須だからな。

 そんなことを考えていると、隣にクールな雰囲気を纏った美少女が座ってきた。

 

 

「あ、バスでも隣の席だったよね?ここでも隣なんて縁があるね」

「.......」

 

 おいおい、いきなり無視かよ...人を寄せ付けない毅然とした態度だな。

 お高く止まりやがって...!

 いや、ここで諦めては陽キャの名が廃るというものだ。

 

 

「おーい、聞こえてる?君に言ってるんだけどな」

「なに?」

「オレ、綾小路清隆。君は?」

「......」

「オレ、あや———」

「聞こえているわ」

「なら名前を教えて欲しいな」

「拒否しても構わないかしら」

 

 えぇ...見た目だけでなく性格もツンツンしているらしい。ここは一旦ひくか...?

 だが、いつ席替えがあるか分からない。

 一度離れてしまえばいつ仲良くなれるのか分からない。

 こいつの性格からしてもそれは明らかだ。

 陽キャとしてはクラスメイト全員と仲良くなっておきたいところだからな。

 ここで諦めるわけにはいかない。

 

 「そんなこと言わないでさ、仲良くしようよ」

 「...堀北鈴音よ」

 

 露骨に顔をしかめながらも名前を教えてくれた。陽キャには多少のしつこさも必要ということだ。

 

 「鈴音ちゃんか、よろしくね」

 「勝手に名前で呼ばないでくれる?」

 「まぁまぁ、オレと鈴音ちゃんの仲じゃない」

「はぁ...」

 

 

 どうやら呆れられてしまったらしい。

 

 

「オレさ、クラスのみんなと仲良くなりたいんだ。鈴音ちゃんみたいな可愛い子とかは特にね」

「馴れ馴れしい上に軽薄ね。私は好きになれそうも無い人種だわ」

「辛辣だな〜。ツンデレってやつ?」

「......」

 

 おっと、怒らせてしまったかな?

 しかしこう、美人が睨むと凄みがあるな。

 

 

「中々設備の整った教室じゃないか。噂に違わぬ作りになっているようだねえ」

 

 なんか凄そうな奴が来たな。そういえば、バスで見かけた気がする。

 堂々と優先席に座っていたが、その大物っぷりは教室内でも変わらないらしい。

 

 気がつくと堀北は視線を机に落とし、私物らしき本を読んでいた。

 タイトルの方に目をやると、『罪と罰』だった。

 有名なだけあって面白いんだよな。オレと堀北の本の趣味は似ているのかもしれない。

 会話の取っ掛かりにできるか、と思案していると始業を告げるチャイムが鳴った。

 それと同時に、スーツを着た女性が入ってきた。厳格そうな雰囲気を纏っているが、長い髪をポニーテール調に纏めているのが可愛らしい。

 

 

 「えー新入生諸君。私はDクラスを担当することになった茶柱佐枝だ。普段は日本史を担当している。この学校には学年ごとのクラス替えは存在しない。卒業までの3年間、私が担任としてお前たち全員と学ぶことになると思う。よろしく。それでは早速この学校の特殊なルールについて書かれた資料を配らせてもらう。以前入学案内と一緒に配布はしてあるがな」

 

 

 長いな。その後の説明も回りくどいものが多かったので、要点だけ掻い摘んで教えよう。

 

 ・全寮制で外部との接触は禁止。

 ・カラオケや映画館等あらゆる施設が揃っている

 ・卒業後は好きな進学先、就職先に行ける

 ・あらゆるものをポイントで購入できる

 ・ポイントは毎月1日に配布

 ・今月は10万ポイント

 ・10万はこの学校に入学できたことに対する報酬のようなもの

 

 

 なるほど...10万って多いな。茶柱は今月は10万と言っていたので、来月以降はそうでは無い可能性が高そうだ。

 クラスメイトの多くは、10万という額に驚きを隠せていない。

 

「思っていたほど堅苦しい学校ではないみたいね」

 

 独り言かと思ったが、堀北はこちらを見ている。話しかけてきたようだ。

 ツンデレの凍りついた心をもう溶かしてしまった。やはりオレは間違いなく陽キャと言えるだろう。

 

「確かに、何というか物凄く緩いね」

「優遇され過ぎていて少し怖いくらい」

  

そんな堀北の言葉を聞き、オレも同じものを感じた。

 この学校の詳細は、あまりにヴェールに包まれていて分からないことだらけ。

 望みを叶える学校と謳っているからこそ、そのためには何かリスクがあるとしか思えてならない。

 

「ねぇねぇ、帰りに色んなお店見て行かない?買い物しようよ」

「うんっ。これだけあれば、何でも買えるし。私この学校入れてよかった〜」

 

 先生がいなくなり、高額なお金をもらって浮き足立ち始めた生徒たち。

 

「皆、少し話を聞きてもらっていいかな?」

「僕らは今日から同じクラスで過ごすことになる、らだから今から自発的に自己紹介を行って、1日も早く皆が友達になれたらと思うんだ。どうかな?」

 な、何...だと...?大半の生徒が思いつつもできなかった自己紹介を提案した!?

 

「賛成ー!私たち、まだみんなの名前とか、全然分からないし」

 

 ああ...アイツは紛れもなく『陽キャ』だ。

オレはアイツに取り入る、もとい仲良くならなければならない。

 それこそがオレの楽しい高校生活の第一歩となる......はずだ。

 

「僕の名前は平田洋介。中学では洋介って呼ばれることが多かったから、気軽に下の名前で呼んで欲しい。趣味はスポーツ全般だけど、特にサッカーが好きで、この学校でも、サッカーをするつもりなんだ。よろしく」

 

 なるほど、陽キャの洋介か。趣味はサッカー、

陽キャ御用達のスポーツニ大巨頭の一角をしっかり履修済みというわけだ。

 それでこそオレの友人に相応しい。待ってろ、

自己紹介が終わったらすぐに声をかけに行くからな!

 

「わ、私は井の頭、こ、こ———っ」

 

 

 と、その他多数の自己紹介が進んでいく。大嘘かましてスベってる奴もいたが、気にしなくていいだろう。

 

「じゃあ次は私だねっ」

 

 お、櫛田の番が回ってきたらしい。

 緊張気味の女子を助けていたりと、存在感を放っていたが、いよいよその名が明かされるわけだ。

 

「私は櫛田桔梗と言います、中学からの友達は1人もこの学校に進学してないので1人ぼっちです。だから早く顔と名前を覚えて、友達になりたいって思ってます」

 

 大体の生徒が一言で挨拶をおえていく中、櫛田は言葉を続けた。

 

「私の最初の目標として、ここにいる全員と仲良くなりたいです。皆の自己紹介が終わったら、ぜひ私と連絡先を交換してください」

うーん、素晴らしい。櫛田もまた、平田と同じく本物の『陽キャ』だ。

 自ら一人ぼっちをアピールする。これは一見陽キャの対極に位置する行為に思えるがその逆。自分はすぐに友人の輪に囲まれることを確信しているからこそできる自信の表れなのだ。

 この様子だとすぐにクラスメイトみんなと打ち解けることだろう。既に仲良くなれているアドバンテージは無いに等しいのかもな。

 

「じゃあ次———」

「オレらはガキかよ。自己紹介なんて必要ねえよ、やりたい奴だけでやれ」

 

 そう言い放った赤髪のいかにも不良といった外見をした生徒は平田を睨みつけた。

 やれやれ、そんなんじゃ陽キャにはなれないぞ?赤髪君。

 

「僕に強制することは出来ない。でも、クラスで仲良くしていこうとすることは悪いことじゃないと思うんだ。不愉快な思いをさせたのなら、謝りたい」

 

 さすがは陽キャの平田。反発する不良にも神対応は欠かさないようだ。

 

「自己紹介くらいいいじゃない」

「そうよそうよ」

 

 恐るべき陽キャパワー、出会って数分なのに女子を完全に味方につけてしまっている。

 ただ、その反面男子生徒からは半分嫉妬に似た怒りを買ったようだが。

 オレか?オレは怒りなんて微塵も無い。むしろ尊敬の念でいっぱいですよ、平田さん。

 

「うっせぇ。こっちは別に仲良しごっこするためにココに入ったんじゃねえよ」

 

 赤髪は席を立った。それと同時に数人が続くように教室を出る。隣の堀北もまたゆっくりと席を立つ。

 まぁ、確かに堀北は馴れ合いとは無縁と言った感じだが。

 

「悪いのは彼らじゃない。勝手にこの場を設けた僕が悪いんだ

「そんな、平田君は何も悪く無いよ。あんな人たちほっといて続けよ?」

 

 そうだそうだー、とは言えないものの概ね同意だな。

 それにしても平田はすごいな。反対派のフォローも欠かさないとは。

 

「えーっと、次の人———そこの君、お願いできるかな?」

 

 そんなこんなで遂にオレの番が回ってきたらしい。

 今後の学校生活を左右する自己紹介、バッチリ決めてやるとするか。

 

 「チョリーッス★!オレ綾小路清隆!趣味はボウリングとカラオケでオールすることでーっす!どの部活に入ろうかはまだ考え中。これから3年間よろぴくね〜」

 

 

 

 

 完璧に決まったな。この日のためにホワイトルームで得た知識を総動員して熟考を重ねた甲斐があったというものだ。

周囲からの羨望の眼差しが痛いぜ...

 

 「よろしくね。綾小路くん」

 

 パラパラと拍手が起こる。

 これは歓迎を示す拍手であって、上手くいかなかった者への同情の拍手などでは決してない。

 

 

 ......そうだよな?




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彼女になるのは誰なんーだい!

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