オレが最後だったため、この後は自然解散となった。
各々が席を立ち、動き始める。
よし、平田のところへ行くぞ!
「やぁ洋介くん。さっきは自己紹介を提案してくれて助かったよ」
「綾小路くん、話しかけてきてくれて嬉しいよ。僕もみんなと仲良くなりたかっただけだからね、大したことはないよ」
「いや!なかなか出来ることじゃないよ!オレは感激した!」
「はは、そうかな...」
オレの熱意は伝わったようだ。言葉を交わしてものの数秒で友人となることができた。
「平田くんと綾小路くん、もう仲良くなったんだー」
「まあね」
明るい茶髪をポニーテールにまとめたギャルが話しに入ってきた。
こいつは確か軽井沢だったか。
「私たちさぁ、これからみんなでカラオケに行くんだ〜。2人も一緒にどう?」
私たち、と言うのは軽井沢の近くに控えている佐藤と松下のことだろう。
どちらも見るからにギャルっぽい。将来的にはこのグループがクラスカーストのトップに立つのだろう。
陽キャとして、彼女達との友好関係は確保しておきたいところだ。
「いいの?じゃあ、是非ご一緒させてもらおうかな。洋介くんはどうする?」
「僕も行かせてもらうよ」
よし、オレが行くと言えばきっとついてきてくれると信じていたぞ、平田ぁ。
しかし入学初日から爽やかイケメンとイケイケ女子3人と一緒にカラオケとは、陽キャだな。
うん、まごうことなき陽キャだ。
これでオレの学校生活は順風満帆間違いなし。
カラオケに着いた。軽井沢の取り巻き2人は佐藤と松下。松下は大人びていて落ち着きがある。佐藤はちょっとバカっぽい。これがチャームポイントになるんだから、女子って不思議だな。
「綾小路くんピアスえぐいねー」
「うん、めっちゃ痛そうなんだけど」
「開けた時は結構痛かったけど今はどうってことないよ」
「私も開けてみよっかなー、せっかく10万もあるんだし」
フッ、そうだろうそうだろう。オレの両耳には計10個の穴が空いている。痛かったかと聞かれればそうでもなかったが、評判が良いのならわざわざ開けたかいがあったというものだ。
そろそろオレの歌う番が来るな。当然カラオケは陽キャの必修事項。何度も練習を繰り返してきた。「カラオケの盛り上がる定番曲TOP30」その全てを平均95点以上取れるようになるまでな。いよいよその成果をここでお披露目できるわけだ。
「ハイ、次綾小路くんの番だよ」
ふぅ...別に緊張してるわけじゃないが念の為喉を潤しておこう。
大丈夫だ...ただ歌を歌うだけ、音階をなぞるだけなんだ。それなのに、どうしてこうも心臓はうるさいんだ...
オレならやれる、オレならやれるんだっ!
〜綾小路歌唱中〜
「綾小路くん上手ー」
「そ、そうかな?それならよかったよ」
「佐藤さんなんか顔赤くない?」
「え!?そ、そんなことないよ!」
———まだ心臓がバクバクいってる...だが、ミスはなかったぞ。とりあえず最初の関門は突破できたな。何だかどっと疲れた気がする...
ホワイトルームのカリキュラムにはどうして歌が無かったんだ...!ピアノはあったくせに。
こんなにも恨めしく思ったのは初めてかもしれない。
その後何曲か歌ってカラオケを出た。
陽キャとしての道は険しいらしい...
寮に行く前にみんなでコンビニに寄った。そこでオレは初めてのカップ麺を購入した。Gカップのやつだ。
ギャルたちにGカップをアピールしてみようか迷ったがやめておいた。常識的に考えてこれはセクハラだからな。
こんなことを平気で言える奴はよっぽど空気の読めない陰キャくらいだろう。
いくら陽キャというフィルターがかかっていてもやっていい事と悪いことがある。そこら辺の分別がつく陽キャなのだ、オレは。
...無料コーナーがあったが、ポイントを使い過ぎた人への救済処置だろうか。やはりこの学校には何かあるようにしか思えない。
寮に着いた後カップ麺の味に感動したのは皆には秘密にしておこう。
カップ麺は陽キャ高校生の昼ごはんの定番だからな。
〜翌日〜
…知らない天井だ。
なんてくだらないことを考えながら目を覚ます。オレは本当にこの学校に入学したんだと再び喜びを噛み締める。昨日は大分疲れたからな...慣れない寝床だったが、ぐっすり眠れたようだ。
昨日の晩に続いて今朝もカップ麺だ。
勘違いしてほしくないが、オレは料理ができないわけではない。最近のトレンドは料理男子なのだから、当然オレも抜かりはない。
女子にねだられればサッと女子の喜ぶ料理を作ってやれるし、そのまま胃袋を鷲掴みにすることだってできる。
しかし今日は食材が無いのでカップ麺で妥協しているだけだ。こんなに味の濃いものなんて好きでもなんでもないんだからねっ!
...1人でなにやってんだろ。
少し悲しくなってしまったが、オレは陽キャだ、気を取り直して行こう。
そろそろ平田との約束の時間だ。そう、オレたちは昨日、一緒に登校する約束をしたのだ。
もうこれ親友だな。よし、我が愛する学び舎へいざ行かん。
「おはよう綾小路くん」
「おはよう洋介くん。昨日は楽しかったね」
「うん、皆いい人そうで良かったよ」
———昨日のカラオケ、正直緊張しすぎて殆ど覚えていないが平田からは好評だったようだ。
なんかこう、平田と話していると安心するな。陽キャパワーは偉大だ。
「おはよう!平田くんっ、綾小路くん!」
朝から元気だな、櫛田。入学初日にしてクラスのアイドル的ポジションを確保しているだけある。
このぐらいの活発さがオレには必要なのかもな。
今日の授業は初日ということもあって、大半はオリエンテーションだけだった。
先生たちは進学校とは思えないほど明るくフレンドリーで多くの生徒が拍子抜けしたのが正直な感想だろう。赤髪のヤンキーに至っては既に大物ぶりを発揮していて、殆どの授業で眠りこけている。
かく言うオレも注意されないのをいいことに女子達とメッセージのやり取りに勤しんでいる。
昨日の3人と連絡先を交換しておいてよかった。平田は真面目に授業を聞いていたが、オレは女子達との距離をグッと縮められた気がする。
隣人からの冷たい視線が痛いけど...
チャイムが鳴る。
よし、昼食の時間だ!と立ち上がり、平田の元に向かおうとすると——
「えーっと、これから食堂に行こうと思うんだけど、誰か一緒に行かない?」
平田...オレというものがありながら、まだ満足しないのか。彼の友好の輪は広がり続けている。
「私も行く〜!」
「私も私も!」
すごい食いつきだな、ピラニアみたいだ。いやオレも人のことは言えないんだけど。
さて、あんまり出遅れると不自然だからな。こういう時はさっさと輪に入るに限る。
「オレもオレも〜」
ギャル達には感謝しなければならない。昨日までのオレなら、こんなに抜けた感じで突入はできなかっただろう。
オレは着実に進化しているぞ!
食堂では焼きさば定食を食べた。その設備からも分かる通り、学食のレベルはかなりのものだ。
0円の山菜定食を食べている生徒が意外にも多かったな。見たところ上級生が殆どだ。そんなにポイントに困窮しているのか...?
そんなことを考えながら、定食に舌鼓をうっていると、スピーカーから音楽が流れてきた。
「本日、午後5時より、第一体育館の方にて、部活動の説明会を開催いたします。部活動に興味のある生徒は———」
可愛らしい女性の声と共にそんなアナウンスがされた。
…部活動か。やはり王道のサッカー部かバスケ部か、テニス部もいいな。遊ぶ時間を考えれば帰宅部も選択肢に入ってくる。
「平田くん、部活動の説明会だって!行ってみる?」
「うん、サッカー部がどんなところなのか気になるからね。綾小路くんはどうする?」
「もちろんオレも行くよ。どの部活に入るか参考にしたいし」
平田よ...オレに話を振ってくるとは...お前もオレを頼りにしているのか...?
いつも女子に囲まれているのは大変だもんな。
オレのことをオアシスのように思っているのかもしれない。
やっぱりオレ達は親友だな!
「思ったより多いなぁ」
放課後、オレたちは頃合いを見て体育館へとやってきた。
既に一年生と思われる生徒たちの殆どは揃っていて、100人近くが待機している。
オレたちは少し後方の位置に立ち、体育館に入る際に配られたパンフレットを読みながら所定の時刻を待つことにする。
…ん?あれは堀北か?
なんというか、意外だな。あいつが部活に興味ありとは。誘ったら「私、部活動には興味無いから」とか言いそうだ。
部活動の説明はどれも同じような感じだった。どんなところ魅力があるか、未経験者でも歓迎するなど、オーソドックスなものばかり。
茶道や書道なんかのマイナーな文化系の部活も充実しているようだ。
一年生達は部活の説明が切り替わるたびに、どうするどうすると友達同士で話し合う。
それはうちのグループでも同じで平田は宣言通りサッカー部で、篠原という気の強い女子は料理部に入るらしい。
遠目から見ても分かる。堀北の顔が青くなっている。
貧血か?とも思ったが、どうやら違うらしい。
体も小刻みに震えているし、視線はある一点に固定されている。
その目線の先には知的な黒髪メガネの男が立っていた。
落ち着き払った様子で一年生を見下ろしている。
一体どんな部活なんだろうかと、興味が湧いたが、そんなオレの思いはすぐに裏切られた。
その生徒が一言も発しなかったからだ。
頭が真っ白になってしまったのか。
「頑張ってくださ〜い」
「カンペ持ってないんですか〜?」
「あはははは!」
そう笑い声が立つも、その生徒は動じない。
ピークが過ぎ、白けてしまったのか、「何だよ、あの先輩は」と呆れる生徒もでてくる。
そして弛緩した空気が徐々に予想外の方に変わっていく。話してはいけないと感じるほど、恐ろしい静寂。
「私は、生徒会長を務めている、堀北学と言います」
堀北?オレは隣の堀北を見る。偶然同じ苗字なのか、それとも...
「生徒会もまた、上級生の卒業に伴い、1年生から立候補者を募ることとなっています———」
口調こそ柔らかかったが、肌を突き刺すような緊張、空気だ。この堀北学と言う生徒の力は相当なものらしい。
演説が終わっても誰も何も話さない。雑談でもしようものならどうなるか分からない。そう思わせる気力があった。
「皆さまお疲れ様でした。これより入部の受付を開始します———」
のんびりした話し方の司会者のお陰で、張り詰めた空気は雲散霧消していった。
平田と何人かの女子達が入部の申し込みに行くというので、今日は解散となった。
オレはと言うと、かなり悩んだ末に結局帰宅部に決めた。
同じように部活に入らない女子達はこれからショッピングに行くらしい。
オレも着いてくるかと聞かれたので、着いて行くことにした。
———女子の買い物が長いってのは本当なんだな。
今日のことは深く胸に刻んでおこう。
彼女になるのは誰なんーだい!
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佐藤
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軽井沢
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堀北