オレは高校生陽キャ、綾小路清隆。
親友で幼なじみで兄弟の龍園が仕切る浜辺に遊びに来ていたら黒ずくめの怪しい女が現れた。
龍園との談笑に夢中になっていたオレは背後から近づいてくるその女の存在に気付かなかった。
オレは女に後頭部をBBQ用のトングでぶっ叩かれ気を失い、目が覚めたら体が縮んでしまっていた!
なんて夢を見ていた気がする。
体を包み込むのは太陽の光を蓄えた砂浜の心地よい感触。天然の掛け布団やー。
「鈴音さん、綾小路くんが起きましたよ」
「あら、随分早いお目覚めね。できればもう少し、いえもう一生ぐらい眠っていてくれてもよかったのだけれど」
この前TVで寝ている芸人に冷や水をぶっかけるというドッキリをやっていたがあれがどれだけ悪趣味なものなのか理解できた。
心地よい微睡から一気に覚醒させられることの不快さ、常日頃から受けている堀北の罵倒。それが合わさると最悪のマリアージュが生まれるというわけだ。
隣に椎名がいなければ今すぐ堀北はリタイアとなっていたことだろう。
「…えーっと...これ、どういう状況?」
「はい、あんまりにもぐっすりだったので埋めてみました♪」
「あー...まあ定番だよね」
オレの砂浜でやりたかったことの一つ、寝っ転がって砂を寄せ集めてもらい、埋まるやつだ。
律儀におっぱいもついてる。
できれば意識のある時にやってもらいたかったが...
「それでオレはなんでこんなところで寝てるのかな?」
「あなたの無駄に重たい体を私に拠点まで運べとでも言うつもり?とんだ鬼畜ね」
「龍園くんは今あんな感じですし、しばらくはここにいても大丈夫だと思いますよ。お肉でも取ってきますか?」
椎名の目線の先にはまるで無限の情報を流し込まれ脳がキャパオーバーを起こしてしまったかのような廃人同然の龍園がいた。
傍に佇む山田アルベルトもピクリとも動かない。一体何があったのだろうか...
「…いやそうじゃなくてね。妙に頭も痛むし、なんでオレは気を失ってたの?まあ大方検討はついてるけど...」
そう言いつつ堀北の方に目線をやる。
「ふふ、見事な一撃でした。音もなく忍びより後頭部をゴーン...!推理小説の犯行シーンみたいで興奮しました」
…?こいつは何を言ってるんだ?
椎名、初対面の時にも感じたが大分ぶっ飛んだヤツだな。この学校に来て初めて"引く"という感情を覚えた。
「…その目は何?完全にトリップしていたあなたを現実に引き戻すにはああするしかなかったのよ。まさか龍園くんに同情することになるとは思ってもみなかったわ」
ああ、忘れてた。こいつにはいつもドン引きしていたな。いつの間にやらすっかり日常と化していたらしい。
どうして人の頭を殴ってそうもあっけらかんとしていられるのか。
道徳とか受けてこなかったのだろうか。ホワイトルーム生でももう少しまともな倫理観をしていると思うが。
「起きたのならさっさと帰るわよ。時間は有限なの。1秒たりとも無駄にはできない」
「…嫌だ!」
オレの脳は人付き合いでかなり疲労を溜めこんでいる。
思えば顔を合わせている時はもちろん家で1人の時にもずっとチャットをポチポチしていた。常にコミュニケーションをとっていたわけだ。
情報社会の荒波を必死にサーフィンしてきたんだ。
今のオレにはのどかな自然、もとい陽キャエネルギーに満ちたこの砂浜での休息が必要なんだ!
「…あのね、辛いのはあなただけじゃないの。私だってひよりさんといつまでもこうして話せていたらと思う。でも私たちは崖っぷちのDクラスなのよ?休んでいる暇なんてない。今は死に物狂いでポイントをかき集める時よ」
…まさか堀北に諭されることになるとは。
なんだかんだで堀北も成長しているんだな。ただのコミュ障陰キャぼっちという認識は改めなければならないのかもしれない。
…でもなあ...どうにも体が動いてくれないんだ...だからもう少しだけ、後5分だけこうしていさせてほしい...
「それに平田くんたちも心配しているわ。急に飛び出してきてしまったもの。あまり遅いと何かトラブルでもあったかと誤解を———」
「鈴音さん、もう行っちゃいましたよ。綾小路くん」
堀北の口から"平田"と発音されてから綾小路が駆け出すまでの間、0.1秒を切る。
恐ろしく速いスタートダッシュ。椎名でなければ見逃していただろう。
ドシャっ、と綾小路の身体を固めていた砂が崩れ去ったころには彼はもう木の上。森の中を飛び回る系陽キャと化していた。
「…彼には首輪でもつけておくべきかしらね...」
「ふふ、鈴音さんのキャラクターにピッタリだと思います」
———と、冗談めいて言った椎名だったが、堀北は割と本気で思案していた。
疾風迅雷やね
彼女になるのは誰なんーだい!
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佐藤
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軽井沢
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堀北