ホワイトルームで鍛えられた脚力を遺憾なく発揮し、佐藤の元へ向かう。
いた、佐藤だ———
「ま、麻耶ちゃんっ!遅れてごめん!」
「綾小路くん凄い汗だね...でもギリギリセーフだよっ」
よかった...間に合ったんだな...
息を切らすなんて久しくなかったぞ。
「そ、それじゃあ行こうか。美味しいイタリアンがあってね、そこのピザが絶品でさー」
「うんっ。楽しみにしてたんだ〜」
走ってきた理由とか聞かないんだな。ちょっと顔が赤いし、佐藤も緊張しているのかもしれない。
「美味しいねー」
「でしょ?きっと口に合うと思ったんだ〜」
「私ちょっとお手洗いに行ってくるね」
「うん、行ってらっしゃい」
ふぅ...なんとか場を繋いでいけてるな。話題選びとか、不自然じゃなかっただろうか。
それにしても、食事中にお手洗いに行くとは、メイク直しってやつか?
だいぶ気合いを入れてるんだな。オレは嬉しいぞ、佐藤。
ん...?なんか凄い形相で佐藤がこちらに向かってくる。
「ちょっと綾小路くん!これどういうこと!?」
「え?」
そう言って向けてきた端末にはニッコニコの椎名と堀北が写っていた。
「さっきまで堀北さん達とお茶してたの!?」
「い、いやそれは...」
「それで遅れそうになるなんてサイテーだよっ!」
「うわっ...!?」
「もう帰る!」
「あ...ちょっと麻耶ちゃん!?」
伸ばした手は空を切る。
あぁ...なんてこった...急展開すぎてまともに弁明できなかったがどうすれば良かったんだろう。
去り際に水をかけられた。フッ、水も滴るいい男だねえ! とオレは高円寺のようにはできない。
どうしたもんかな...女子へのフォローの仕方なんて習ってないぞ...?
明日にはオレが浮気ヤローとして学校中に知れ渡っているのだろうか?
急転直下、お先真っ暗だ。店内からの侮蔑やら面白いものを見るような目線がキツい...
見せ物じゃないんだぞ!
はぁ...学校へ向かうのがこんなに億劫な朝は初めてだ。
いつもメッセージのやり取りをしている女子達も昨日は全く音沙汰が無かった。
腫れ物扱いseason2といったところか...
いや、他人事じゃないんだからふざけてる場合じゃないな。
なんとかして信頼を取り戻さなくては...!
「おはよう、綾小路くん」
「あぁ...おはよう」
やばい、思った以上に元気が出ないな。作り笑いもまともにできてない気がする。
「聞いたよ、昨日の件」
「うっ...」
当然知ってますよね...交友関係の広い平田さんのことですし...さながらオレは死刑執行を待つ罪人だ。
「まずは佐藤さんに謝らないとね」
「え...?」
「大丈夫、僕も精一杯フォローするからさ。そもそもこの騒動の原因を作ってしまったのは僕だしね」
平田よ...お前はこんなオレを見捨てないでいてくれるのか...?やっぱり持つべきものは友だな!
教室に入ると雑談の声はピタリと止み、オレにしばし注目した後ヒソヒソと話し始めた。
「ねぇ、綾小路くん来たよ...」
「堀北さんとCクラスの椎名さんを侍らせてたんでしょ...大胆だよね」
「やっぱり遊んでるんだー」
オレは逃げるように席に着く。
くっ、やっぱりキツい。だが幸い渦中の人達はまだ来ていないらしい。
こんな状況で堀北が黙ってるわけないだろうし、佐藤と顔を合わせるのも控えているし、前途多難だ。
「…おはよう」
「あ、ああ。おはよう」
堀北が来てしまった。ヒソヒソ話は更に加速する。
というかお前、挨拶とかできたんだな。椎名と仲良くなって丸くなったのか?
「これは一体どういう事?」
「それは...その...」
やはり気付くか。クラスの関心がオレたちの方に向いていることに。
オレは昨日あったことをあらかた話した。
「気に入らないわね」
「なんというか...申し訳ありません...」
「別にあなたは悪くないでしょう。気にする必要なんてないわ」
ふえぇ、堀北が優しい...あまりのギャップに風邪をひいちゃいそうだ。
あ、佐藤が来た。よし、声をかけるぞ——
「ま、佐藤さん...ちょっといいかな?」
「な、何?」
「昨日は本当にごめん!オレ、あんなことするつもりはなくて...」
「いいよ、別に...っていうか私もやりすぎたし。そもそもまだ付き合ってるわけでもないし...その...悪いって思ってるなら、いつもみたいに呼んでよ」
「うん...ありがとう、麻耶ちゃん」
なんかあっさり方が付いたな。やっぱり佐藤は女神なんだ...このことは深く胸に刻んで生きていきます。
それにしても女子の情報網ってのは恐ろしいな。たった一晩でこんなにも噂話が浸透するものなのか。
そういえば、平田と軽井沢が付き合いだした。
確かに軽井沢は平田にべったりだったし、付き合うのは必然だったと言えるのかもな。
だがそんなことも言っていられない。オレとしては平田と過ごす時間が減るかもしれない。このことをめちゃくちゃ危惧している。だってオレ、平田以外に男友達がいないもん。
池たちのグループからは多分嫌われているし、幸村や三宅といった単独行動を好む奴らからは、やかましい奴と思われて避けられているかもしれない。
平田との関係はオレの生命線なのだ。彼女にうつつを抜かすなんてオレは許さないからな!
3時間目の社会。担任の茶柱先生の授業だ。
授業開始のチャイムが鳴ったが、生徒たちの喧騒は止まない。
「ちょっと静かにしろー。今日は小テストを行うことになった。後ろに配ってくれ」
「えぇ〜聞いてないよ〜。ずる〜い」
「そういうな。今回のテストはあくまでも今後の参考用だ。成績表には反映されることはないから安心しろ」
妙に含みのある言い方だな。普通テストってのは成績表の参考にするためにやるものだ。しかし先生は成績表『には』反映されないと言った。まるで成績表以外のものに反映される、と言っているように思える。
まぁ、そんなことを気にしていてもしょうがないのでさっさとテストを解いてしまおう。
なんだか拍子抜けしてしまうな。大半の問題は中学レベルのものであまりに簡単だ。
そう思っていたら最後の3問、ありえないほどの難問が現れた。
ふむ、これは解いておくべきか...?恐らく大半の生徒はこれらの問題は解けない。
もしオレだけが正解したなんてことになれば、オレはガリ勉のレッテルを貼られてしまうかもしれない。
別に不名誉なことではないが、いつものグループからは一歩引かれてしまうかもしれないな。最後の3問は無視することにしよう。
「終わったー」
「あたし半分ぐらいしか分かんなかったよー」
テストが終わるとすぐに教室内は騒がしくなる。
その様子をどこか冷めた目で見回す茶柱。しかし、何か言うでもなくすぐに出て行ってしまった。
なんだか不穏だな。
オレンジジュース→避けれる
水→避けれない
彼女になるのは誰なんーだい!
-
佐藤
-
軽井沢
-
堀北