「お昼、暇?もし良かったら、一緒に食べない?」
まさかの堀北から昼食の誘い。しかしオレは暇ではない、なぜなら陽キャだから。
「悪いね、洋介くんたちとの先約があるから」
「そう、なら断ってもらってもいいかしら」
でたよ、堀北クオリティ。凄すぎて尊敬の域に達しそうだ。
「嫌です。オレは洋介くんたちと食べる、鈴音ちゃんはぼっち飯だ。いいね?」
「随分と偉そうな口を利くようになったじゃない。眠りそうだったところを起こしてあげた恩を忘れたの?」
そう、オレはさっき堀北にコンパスで腕をぶっ刺された。ナイフで掌を貫かれても動じない自信はあるが、眠いところをコンパスで刺されればその限りではない。
「授業中に『たうわ!』って、とても滑稽だったわ」
「お前のせいだろ!」
おっと、語気が荒くなってしまった。ツッコミ役には回りたくないものだ。
「悪いけど、もう行くからね!昼休みが終わっちゃうから!」
「そう、でも平田くんたちはもう行ってしまったわよ」
「え?」
は、嵌められた!?時間稼ぎなんて卑怯な真似を!
「さて、行きましょうか」
「はい...」
意気消沈。すっかり抵抗する意志を失ってしまった。
「奢ってあげるわ。好きなものを頼みなさい」
「じゃあスペシャル定食で」
意趣返しにと1番高いのを頼んでやった。
「じゃあ、いただきます」
オレが食べるのを待っているのか、堀北はじーっと見つめている。
「どうしたの綾小路くん?早く食べたら?」
「う、うん」
怖いな。妙なプレッシャーを感じる。しかし冷めると勿体無いので恐る恐るアジフライを一口かじる。
「綾小路くんにお願いがあるの」
「お、お願いぃ?」
堀北の口から発せられたとは思えない可愛い単語。
「私は勉強会を開く。そこで須藤くんたちを集めて欲しいの」
「はぁ...」
「できるわね?」
「ちょっと...厳しいかもしれないですね...」
「スペシャル定食、美味しそうね」
「ポイントなら今すぐ返すよ!だから——」
「生憎と、奢ったものを取り立てるほど卑しいつもりはないから。お断りします」
こいつ...無敵か?何を言っても通用しないぞ?
「集められる保証はないよ?それでもいいの?」
「私、あなたのこと信じてるの。これ、私の携帯番号とアドレス。何かあったら連絡して」
はぁ...須藤たちを集める、か。随分と無理難題を押しつけてくれたもんだな。オレ、あいつらとはあんまり仲良くないんだよな...
それにしても堀北の連絡先、持ってなかったんだな。てっきりもう持ってるもんだとばかり思っていた。
もしかして...デレ期、来たのか?長い冬だったな...そう思うとやる気が湧いて来たぞ。がんばろう。
「須藤くん、ちょっといいかな?」
「あ?何だよ」
「中間テストの勉強、どうするのかな?」
「分かんねえよ、今まで真面目に勉強なんてやったことねーからな」
「だったら勉強会に参加しない?歓迎するよ」
「勉強会ぃ?教えんのはお前と平田とかだろ?誰が行くかよそんなもん」
こいつ...!平田がせっかく時間を割いてくれるのをそんなもん呼ばわりだとぉ?
もうキレた。オレ知ーらね。
いや、そうもいかないよな。そもそも教えるのは堀北だし。
「教えるのは鈴音ちゃんだよ。少人数でやるから安心して欲しい」
「鈴音?誰だよそいつ」
「ああ、堀北鈴音だよ。オレの隣の席の」
「あいつか...よく分かんねーしな、断る」
はい、そうですよね。オレも堀北のことはよく分からん。こればっかりは人との繋がりを絶ってきたあいつが悪い。オレのせいじゃない。
池や山内も誘いに行くか?いや、どうせ断られるし無駄かな。
よし、やれることはやったんだしもういいよな。すまん、堀北。
「ごめん、万策尽きたよ」
「使えないわね」
「そう言わないでよ〜」
「まだ時間はある。さっさと当たって砕けなさい」
砕けちゃうのかよ。ていうか無理そうだって分かってるよな?
オレでは無理だ。そう、オレでは。
「鈴音ちゃん、君の力が必要だ」
「何?」
「須藤くんたちがテストで良い点を取ったら鈴音ちゃんが彼女になってあげるんだよ!」
「シッ...!」
「ゴハッ」
殴られた。冗談じゃないんだけどな。実際池とか山内ならコロッと堕ちそうなもんだ。
さて、本当に万策尽きた。櫛田ならあいつらを集められそうなもんだが、堀北はそれを許さないだろう。
オレにだって須藤たちを助けたいという気持ちが少しはある。平田はクラスメイトの退学なんて絶対に望まないだろうしな。あいつの悲しむ顔は見たくないんだ...!
だがオレには平田との勉強会があるんだ。須藤たちの救済とどちらが大事かなんて言うまでもない。
というわけでオレはもう無干渉を貫くことに決めた。
放課後、平田主催の勉強会は大盛況だった。
これを機に他の男子とも仲良くなることができた。プールでの一件以降距離を置かれていたが、見事その誤解は解けたらしい。
誤解と言っても勝手に怖いイメージを持たれていただけだが、実際に接してみればそうでないことは明白だ。そうだろ、みんな?
ニコニコしながら話していれば向こうも分かってくれる。最初の頃はちょっとびびられていたが、オレのトークスキルを持ってすれば楽勝だ。
ギャル達に鍛えられたオレから逃げられると思うなよ?
危惧していた男友達の少なさも解消できたし、オレを悩ますものは無い。
———何か大事なことを忘れている気がするが多分気のせいだ。
櫛田ヴェっとり事件回避ィ
彼女になるのは誰なんーだい!
-
佐藤
-
軽井沢
-
堀北