チャラ男小路清隆   作:ウェンバンヤマ

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チャラ男のメンター

 

 

 昨日の一件を経て堀北は考え方を変えたようだ。またコンパスを向けられるんじゃないかと思うと夜も眠れなかったが、杞憂だったようだ。

 

 朝から櫛田に協力を依頼し須藤達を集め、勉強会を開いた。何度も衝突したようだがなんとか上手いことやれているらしい。

 

 オレが参加している平田主催の勉強会は相変わらず盛況だ。テスト範囲も大方終わったし、これなら赤点は出ないだろう。

 そう思っていたのに——

 

 

「先生、テスト範囲が変更されてたってどういうことですか!?」

  

「すまんな、伝えるのをうっかり失念していた」

 

 

 この教師、本当にふざけている。

 昨日クラス全員が所属しているグループチャットに櫛田からテスト範囲について伝えられたが、酷いもんだった。

 本来ならもっと早くに担任から伝えられていたはずだったのだからそれも当然か。

 女子達は変更された範囲の勉強そっちのけで茶柱への愚痴にご執心だった。

 

「そう悲観するな。変更された範囲は全て授業で教えているし、お前達ならこのテストを必ず乗り切れると信じているぞ」

 

 

 ふむ、少し引っかかる言い回しだな。しかしこれで確信が得られた。

 前に受けたあの異様な小テストと示し合わせれば答えは1つだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 という訳でやってきました生徒会室。過去問をもらおうと思い立ったは良いものの、上級生の知り合いなんて堀北兄しかいない。

 こんなことなら部活に入っておけばよかっただろうか。

 コンコン、とノックをする。

 

「入っていいぞ」

 

 

 堀北兄の声ではない。知らない上級生と話すのはハードルが高いが仕方がない。腹を括っていざ突撃だ。

 

「失礼します。1年Dクラスの綾小路です。堀北先輩はいらっしゃいますか?」

 

「あの人なら今は席を外してるぞ。こんな時期に生徒会入りを希望するってわけでもないだろうし、何の用だ?」

 

 

 ———ッ!?なんだこいつは!?

 金髪、着崩した制服、耳元で輝くピアス。間違いない、ガチの陽キャだ!雰囲気に当てられてクラクラしてきた。

 

「あー、いらっしゃらないなら出直すことにします。失礼しました」

 

「待てよ。洋介から聞いてるぞ、頼りになるやつだってな。世間話でもしてけよ」

 

 

 ひ、平田!?平田がオレの話をしていたのか!?天にも昇る気持ちだ。脳内麻薬がドバドバ出ているのを感じる...!もし今退学を宣告されても満足して受け入れてしまうかもな...!

 

 平田と話す機会があるってことはサッカー部なんだろうか。部活動と生徒会は両立できないはずだが。

 あんまり平田が他の人と仲良くしてる話とか聞きたくないな。これがNTRってやつか...?心がモヤモヤしてきたぞ。

 

「ああ、自己紹介がまだだったな。俺は南雲。副会長をやってる。なあ綾小路、お前堀北先輩とどういう関係だ?」

 

「い、妹の方と仲が良くてですね。それ繋がりで少しお話ししたことがありまして...」

 

 

 初対面にして堀北兄の浮気を疑っているみたいだ。オレと南雲パイセンはキャラが被っているし、後輩ポジションを奪われたくないんだろうか。

 

「そうかい。で、用件はなんだ?俺でよければ代わりに答えてやるよ」

 

「えーっと、過去問が欲しいんです。テスト勉強の参考にできればなと」

 

「へぇ、過去問に気付いたのか。中々面白そうなやつだな」

 

「それはどうも...」

 

 

 やばい、会話が苦しい...

 陽キャとして圧倒的格上である南雲パイセンにビビっているのかもしれない。

 女遊びとかしまくればオレもこんな風になれるのだろうか。

 

「いいぜ、特別にタダでくれてやるよ」

 

「マ、マジっすか?ありがとうございます!南雲先輩!」

 

 

 ふふっ、『マジっすか?』だって。普段のオレなら絶対に出てこないワードだ。陽キャ界の王みたいなやつと話していたら素で陽キャっぽいことを言えたぞ。

 南雲パイセンについて行けばオレは陽キャとして更なる高みへ辿り着けるんじゃないか?

 

 

 

 

 

 何はともあれ無事過去問ゲットだ。オレはみんなのために問題を作り配って回るようなキャラではないので平田にお願いする。

 へへ、またオレの好感度が上がっちゃうな。親友の更に上って、もう恋人じゃん。

 

 そんな冗談はさておき、勉強会で過去問の解説をする。今日のオレは一味違う。女子との距離が格段に近い。普段なら女子の肩に触れることすら躊躇してしまうのに。

 南雲パイセンと話しただけなのに、何だこの溢れ出る余裕は。

 さりげないボディータッチの精度が段違いに上がっている。こりゃあ彼女ができるのも時間の問題かな、なんて。

 

 

 

 

 

 過去問の助けもあって中間テストは無事に終わった。

 

 勉強会をしていたメンバーでカラオケに集まろうという話になったが、ポイントに余裕がない生徒が多かったため白紙となった。

 しかし少人数なら部屋に集まれるということで平田とギャル3人がオレの部屋に集まった。

 

「綾小路くんの部屋ってなんにも無いんだねー」

 

「そ、そうだね。ちょっと意外かも...」

 

 

 軽井沢に容赦なくディスられ、松下はニヤニヤしていた。佐藤はオレの部屋に集まることが決まってからずっとソワソワしていたし、部屋に上がった後も落ち着きなくキョロキョロしていた。

 

 こうなることが分かっていたら陽キャ部屋のレイアウトを勉強しておいたのに.... !

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ——————————

 

 

 

 

 あたしには気になっている人がいる。

 その人は耳に見ているだけで痛そうなピアスを開けていて水泳の授業では刺青もお披露目した。

 正直引いたし、他の人たちも皆白い目で見ていた。

 

 そんなチャラチャラした彼だが案外勉強はできるらしい。勉強会では勉強を苦手としているDクラスの男子たちに上手いこと教えていたようだ。

 勉強があまり得意ではないあたしからすればその要領の良さが羨ましい。

 だって4月の間は授業中に携帯をいじって私たちとメッセージのやり取りをしていたし、放課後は皆で遊んでいたのだから、あたしと勉強している時間はそう変わらないはずだ。

 それなのに点数がいいってちょっとずるいと感じてしまう。

 

 カラオケも上手かったし、運動神経も良いようだし、女子の間で行われたイケメンランキングでも堂々の3位。

 スペックは相当高いようだ。

 

 しかし一見欠点の無いように見える彼だが、注意深く観察してみると案外そうでもない。

 彼は世間知らずなのだ。例えばコンビニでのこと。

 なんとか誤魔化そうとしていたが、めちゃくちゃはしゃいでいた。キョロキョロと店内を見回したり、商品をいちいち手に取って物珍しそうにしていたり。

 恐らくコンビニに来たことがなかったのだろう。カップ麺も食べたことないって言うし、お坊ちゃんなのかもしれない。

 まあ、大した欠点というわけではないし、むしろ可愛らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ———しかしあたしの彼氏候補、否寄生対象の候補からは外れた。

 理由は簡単、信用できないからだ。

 

 彼は自己紹介を提案し、クラス内で注目を集めていた平田くんの元に真っ先に近づきその立場を固めた。

 ニコニコと語りかけているがその笑顔はどこかぎこちない。初めは高校デビューで無理してキャラを作っているのかもと思ったがそうではない。

 

 それに気付いたのは放課後に遊んでいるときだ。

 私たちと楽しそうに話す彼だが、その目は酷く冷たい。品定めでもしているのだろうか。

 昔私をいじめていた奴らの悪意あるそれよりもむしろ恐ろしい。

 その無機質な瞳に思わず機械を連想した。

 

 かと言ってあたしたちに何の興味関心も無いというわけでもなさそうだ。

 水泳の時なんかはテンションがおかしかった。

 その体に刻まれた刺青のせいで周囲のクラスメイトからは距離を置かれていて心なしか寂しそうに見えた。

 しかし佐藤さんに声を掛けられてからはやたらとやる気を出して泳いでいた。

 高円寺くんを凌ぎ、1位を取った時には感情を爆発させていたし、よく分からない。

 

 

 彼の部屋には必要最低限のものしかなかった。引っ越してきた当初から内装はほとんど変わっていないのではないだろうか。

 普段の彼のキャラからすればそれはかなり不自然。

 やはり彼のチャラチャラした感じはあくまで演じているものであって、その本質は無機質なものなのかもしれない。そんな彼に恐怖がついて回ってしまうのは仕方ないことだろう。

 でもあたしたちに部屋のことについて言及されて、慌てふためいているのは中々おもしろかったな。

 

 

 




やっと1巻が終わった...

彼女になるのは誰なんーだい!

  • 佐藤
  • 軽井沢
  • 堀北
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