中学三年生の雛菜とオリ主です。
キャラ崩壊してるかもしれません。



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市川雛菜と嫌われチビくん

 

 その最悪の出会いは幼稚園時代まで遡る。少年が泥団子を作ることに心血を注いでいた時期のことだ。いつものように良質な土を求めて地面を掘っている少年の背中を突く者がいた。

 

「ねえ、なにしてるの?」

 

 少年が聞いたことのない声だった。

 

「一番いい土を探してるんだよ」

「ふーん。ねえ、雛菜そこでお城作るからどいて〜?」

 

 少年は驚いた。さくら組のガキ大将へそんな振る舞いをするのは一体どこの組の者かと。振り返ると、そこに居たのは自身より少しだけ背の大きい少女だった。

 

「ん〜? どうかした〜?」

 

 ――――世界が制止した。

 少年の視界の中で、少女の姿が眩く光っていた。唇は震えるばかりで、出そうとしていた暴言は喉の奥に引っ込んだ。

 

 端的に言うと、恋をしたのである。

 

 だが、少年はその事実を認めなかった。ほら、よくあるだろう。恋のコの字も知らぬ男児が気になる子に意地悪してしまうアレだ。少年は全くそのタイプの悪ガキで――――溢れ出した恋慕の処理方法が分からず、その淡い感情が暴走した結果、少年は少女のズボンをずり下げていた。

 

 後はまあ想像通りというか。可愛らしいパンツがあらわになった少女はギャン泣き。少年は駆けつけた先生にこっぴどく叱られ、今度は自分の親にボコボコに殴られ、腫れた顔で少女の家まで謝りに行くことになる。

 

 客観的に最悪の出会いと言っていいだろう。

 だが少年は感謝していた。きっとこんな出会いでもしなければ少年は少女と――――市川雛菜と話すようことはなかっただろうし、喧嘩する仲にもなれなかっただろうから。

 

 

 ◯

 

 

 少年は強い身体の揺れで目を覚ました。いつから寝ていたのかも、どんな夢を見ていたかも思い出せない。ただ隣の少女――――雛菜が夢に出てきたことだけは、なぜか確信できた。

 ゴトン、とバスが揺れる。その拍子に肩にある雛菜の頭が跳ね、彼の顎を打ちぬいた。

 雛菜は頭を押さえて半面で少年を睨む。

 

「い、いた〜……」

「俺はもっと痛いぞ、この石頭!」

「え〜、雛菜の頭は石じゃないです〜」

「とりあえず俺の顎よりは硬かった。なあ、俺の顎割れてない?」

 

 少年は産毛も生えていない顎を手でさする。

 

「あは〜、変な顔〜」

 

 カシャリと音がした。雛菜の手にはいつの間にか携帯が握られている。

 少年は慌てて雛菜の携帯を奪う。古い付き合いでパスワードは知っていた。撮られた写真を削除してから携帯を雛菜に返すと、雛菜はむすっと頬を膨らませた。

 

「やっぱりチビくんきらい〜」

「モデルに許可を取らないお前が悪い」

「じゃあ写真撮ろ? いいよね、はい、ピース!」

「え? ピース……っておい! 撮るなっての!」

 

 雛菜は素早く自撮りした。早撮りもさることながら、写真が一切ブレていないのだから恐ろしい。雛菜の腕か携帯の進化か。兎にも角にも少年がその写真を消そうと揉みくちゃになり、先生に怒られたのは余談である。

 

 

 

 ホームルームが終わる。いつもであれば教室に「駅前の喫茶店で〜」だの「カラオケに〜」だのと誘いが溢れるが、今日は粛々と帰宅する生徒ばかり。

 というのも今日は遠足で、年甲斐なく張り切った学年主任の所為で、皆疲れていたのだ。

 雛菜はそんな生徒たちを尻目に、椅子から飛び出した足をぷらぷら揺らしながら、少年を見つめていた。

 

「ね〜、チビくんまだ帰らないの〜?」

「……一人で帰れよ」

「あ〜! そんなこと言うと、チビくんのお母さんに言いつけるよ〜」

「――――モタモタすんなよ。さっさと帰るぞ」

 

 少年の態度が一変する。というのも、園児時代の過ちの後、少年は母から雛菜への絶対服従を命令されていたのである。破ると後が怖い。

 

「やは〜。はい、どうぞ」

 

 雛菜は少年に両手を伸ばす。

 少年はその手を掴んで椅子から立たせる。

 

「あは〜。ありがと〜」

「無理やりさせてる癖に……」

「え〜。チビくん嫌だった〜?」

「別に。ほら、行くぞ」

 

 少年は雛菜の手を取って教室を出た。周囲の生温かい視線が不快でしょうがなかった。

 

 

 

 少年の家は雛菜と斜向かいだ。昨年までは透や円香といった雛菜お気に入りの先輩が居たので一緒に登下校するのは減っていたが、彼女たちが卒業してから、殆ど毎日一緒に通っていた。

 

 西日が道路に影を作る。少年の影より雛菜の影の方が明らかに長い。少年が雛菜と登下校したくない理由の一つだ。

 

「ん〜? チビくんどうしたの〜?」

「別に。雛菜には関係ない」

「ふ〜ん、それならいっか〜……」

 

 雛菜は少年の腕を組み指を絡める。まるで恋人同士のそれは、少年が雛菜と登下校したくない理由の二つ目だった。

 

「なあ、雛菜さ。なんで俺と一緒に帰るんだよ」

「え〜? 楽しいからだよ〜?」

「いや。だって、俺、雛菜に……」

 

 ――――振られたじゃんか。

 続きが言えないのはプライドからか、それとも事実を認めたくないからか。

 雛菜は少年の瞳を見つめて、そしてゆっくりと、一言一言確かめるように呟いた。

 

「チビくん、幼稚園の時のこと覚えてる〜?」

「ん、ああ。俺、悪ガキだったよな」

「あは〜、初対面の女の子を脱がすなんて大悪党だよね」

「そのことは散々謝っただろ」

 

 雛菜はけらけらと笑う。だが、ふいに真剣な顔で少年に質問する。

 

「じゃあ卒園式のことは〜?」

「え、卒園式? なにかあったっけ」

「…………やっぱり〜」

 

 雛菜はパッと腕を離した。その瞳は震えている。

 少年はその顔に見覚えがあった。去年、彼女に告白したときのことだ。振られたときはショックで何も考えられなかったが、その時の雛菜も、振ったというのにやけに寂しそうで、そして泣きそうな顔をしていた。

 

「やっぱり雛菜、チビくんきらい〜」

「あ、ちょっと待てよ」

「待ちません〜。それと、もう明日から雛菜のこと迎えに来なくて良いから〜」

 

 雛菜はくるりと回ると走りだした。少年もとっさに追いかけるが、いつまで経っても雛菜の背中は捕まらない。ぐんぐんとその差は開いていく。

 やがて体力の限界がきて、少年は人目も憚らず倒れ込んだ。胸が苦しいのは、走ったことが原因じゃなかった。

 

「なんだよ、それ。意味わかんねぇ……」

 

 息切れして呟く言葉に、返事はなかった。

 

 

 ◯

 

 

 少年は電信柱に背を預け、人を待っていた。待ち人が来る保証はない。だが、連絡先を知らないので直接家の近くで待つしかなかった。

 待ち人はしばらくして現れる。少年にとっては幸いなことに、いつも一緒に居る彼女の相棒はいなかった。

 少年は頭を下げる。待ち人――――浅倉透は少年に気づくと自らの眉間に指をあてた。

 

「あ、君は……ちょっと待って。名前、思い出せそう……えっと、伊藤……板垣……大隈?」

 

 整った容姿とミステリアスな雰囲気で、仕草がいちいち様になる。さながら難事件をたちどころに解決する高校生探偵のようだが、いつまで経っても正解が出ることはなかった。

 

「……あの、もう前みたいにチビで良いです」

「そう? それで、チビくんは何しにここへ?」

 

 少年は悪びれない透を見て苦笑する。雛菜繋がりで彼女と会うのは一度や二度じゃないのに、名前すら覚えられていないのは少しだけ寂しい。寂しいが、今はそんな感傷に浸っている場合じゃなかった。

 

「雛菜のことなんですけど」

「ああ。やっと付き合い初めた?」

「ちょっ! そんな話じゃなくてですね」

 

 顔に疑問符を浮かべた透は少年にズイと一歩近寄ると、彼の頭に手を置いた。そして、その手を自分の体へ並行移動させる。手は透の額辺りで止まる。

 

「確かに、これじゃまだ無理か。雛菜大きいし」

「今、俺の背のことバカにしました? 幾ら先輩でも喧嘩は買いますよ?」

「あ、ごめんごめん。そうじゃなくて。あれ? チビくんだよね。雛菜と同じ幼稚園だったの」

「そうですけど、それがなにか」

「雛菜が言ってたから。幼稚園の時プロポーズされたって」

「はぁ? え、雛菜が? 誰にですか?」

 

 透は少年を指差した。少年は後ろを確認するが、誰もいない。

 

「全く身に覚えがないんですけど」

「あー、そうなんだ」

「どんな内容か知ってますか?」

「普通だったらしい。俺と結婚してくれ~って」

「それで、結果は?」

「断ったって。自分より小さい男の子は嫌って雛菜が」

 

 透の言葉で少年の海馬に微弱な電気が走る。細かい粒のような記憶が少しづつ浮かび上がり、おぼろげな記憶がだんだんと蘇ってきた。

 

 

 

 あれは、卒園式の日のこと。少年はどうしようもない焦燥に駆られていた。

 雛菜と同じ小学校に入学が決まっていたが、それでも二人が今まで通りとはいかなくなることを子供心に理解していた。

 だから、少年は告白をしたのだ。その時は結婚の意味も深く知らなかった。それでも、確かな繋がりが欲しかったし、その言葉で繋がりが得られるかもしれないと知っていた。

 

『俺と結婚してください!』

『え~チビくんと雛菜が~?』

『雛菜は俺のこと嫌い?』

『きらい~』

『うっ……ど、どこが?』

『背は低いし~手は汚いし~忘れっぽいし~直ぐ雛菜から目をはなすし~』

『全部なおすから。全部なおすから、だから、お願い!』

『あは~、それなら――――』

 

 

 ――――結婚してもいいよ。

 

 

 〇

 

 

「…………大丈夫?」

 

 少年は気が付くと透に顔を覗き込まれていた。額に彼女の冷たい手を感じる。

 

「思い出しました」

「何を?」

「全部です……すいません。透先輩。俺、行かなくちゃ。俺、謝んなくちゃ」

「あー、えっと、行ってらっしゃい?」

「はい。ありがとうございました!」

 

 少年は走った。悲鳴をあげる肺と心臓に鞭をうち、走り続けた。許せなかった。昔の大切な約束を忘れている自分が、雛菜に振られて拗ねていた自分が、雛菜にあんな顔を二度もさせた自分が――。

 

 汗だくで訪れた少年を、雛菜の母親は何も聞かずに家へ入れた。そして無言で雛菜の部屋に促す。

 少年は部屋の前で深呼吸をしてから、足を踏み入れた。

 

「……なんで来るかな~」

 

 インターホンの声が漏れていたのか、雛菜は少年が部屋に来たことにさして驚いた様子を見せない。ベッドに横になったまま、暗い声を上げる。

 

「雛菜に、謝りたかったから」

「今日は帰って~。チビくんのこと、もっときらいになるから~」

 

 少年は躊躇した。雛菜が本心を語っていると分かってしまった。自分が雛菜の幸せを『楽しい』を邪魔している。早く帰らないと嫌われる。大好きな人に。

 それでも、言わないといけないと思った。たとえ二人の関係がゼロに戻っても、マイナスになっても、自分の気持ちを伝えないとダメだと思った。この機会を逃したらもう二度と彼女と思いを通わせることはないと感じた。

 

「雛菜。ごめん。俺、忘れてた。幼稚園の、卒園式の時の約束」

「…………」

「俺、雛菜に振られてから、いや告白しようと思った時から自分のことばっかりだった。雛菜がなにを考えてるのとか、どう思ってるのとか、なんにも考えてなかった。だから俺、雛菜と一緒にいる資格ないかもしれない」

 

 雛菜はなにも答えない。

 

「本当にごめん。とにかく、雛菜に謝んないといけない気がしてさ。ごめん、俺もう帰るから」

「また自分のことばっかりだね~……」

「え?」

 

 立ち去ろうとした少年の足が止まる。

 

「一緒にいるのに資格なんているの~? チビくんが傍にいて雛菜のことを見てくれるなら、雛菜はそれでしあわせ~だよ?」

「俺もそうだけど、でも俺バカだし、また雛菜を傷つけるかもしれない」

 

 少年は顔を伏せる。雛菜の顔を直視することが出来なかった。

 

「……え~い!」

 

 そんな雛菜の掛け声が聞こえたと思うと、少年の視界はぐるりと回っていた。柔らかい感触と優しい匂いに包まれる。ベッドに押し倒されたのだと気がついた時には、もう四肢は絡めとられていた。

 雛菜は密着したまま掛け布団を被る。まるで児童の遊びのように。

 

「ちょっ、雛菜っ! お、俺たちまだそういうのは――!」

「ねぇ、雛菜の音、聞こえる?」

 

 雛菜が囁く。密着した肌から少年に鼓動が伝わる。それは少年のと同じか、それよりも早く聞こえた。

 

「……聞こえる」

「もしまた雛菜を怒らせたら、こうやって雛菜をぎゅ~ってして、お菓子をあ~んってすること!」

「そんなことで良いのか?」

「うん! 雛菜はそれでしあわせだよ~!」

 

 薄暗がりでも光る満面の笑み。

 トクン、と少年の体が脈打った。お互い言葉は発さない。でも、二人の心は鼓動を通して伝わっている気がした。

 落ちる花びらのようにゆっくりと、じれったく二人の顔が近づいていく。しかし、その距離がゼロになる瞬間、少年の顔は横に向いた。雛菜の唇は少年の頬にあたる。

 少年は慌てて起き上がり、雛菜の体を引きはがした。

 

「やっぱり俺たちにはまだ早いって! そ、そういうのは!」

 

 少年の顔は雛菜の顔よりも真っ赤に染まっていた。

 雛菜は少しだけ頬を膨らませて、だがそれは直ぐに笑顔に変わった。

 

「あは~。やっぱり、雛菜チビくんきらい~」

 

 少年が心奪われた、あの花のような笑顔を。

 




「知らないの~? ”恐怖”こそが”神”なんだよ~♡」
「やはは~、エネル凄い~?」
みたいな二次創作待ってます

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