俺たちは 気が合った.
とういうより、レイニャンさんが あわせてくれたと いったほうが 正しいだろう。
彼女の おきにいりの コーデは むらさきの キャップに、丈の長いスカートのオーバーオールで、ゆるふわミディの 金髪が そとに はねる たび 艶めいて、そばにいると天然の果物のような ラクトンの香りがして、そしてそれは、絶対に俺には手に入れられない事を知っていた。
...だから俺は...
「うわっ、きたな...。」
俺の血で汚れた手の平を見て、レイニャンさんは引いた。
「ブンブン音を立てるわ、血を吸うわ、小さい癖に生意気なんだよ、虫って。」
「蚊だって必死に生きてるのよ、潰すこと無いじゃない。」
「...なんだよ、西太母にでも なるつもりですか?レイニャンさんは。」
昼休みの学校の教室は、皆教室を出て二人きりだった。週に一度あるかないかの珍しいその ひとときは掛け替え無かった。
季節は夏の初めで、涼しい風が網戸から吹き抜けると、机に座って向かい合うレイニャンさんは、たなびく長い髪を手首で抑える。
「昨日の夜、蟋蟀の歌を聴きながら、月明かりで本を読んだのよ。とっても素敵な男の人が、沢山の女の人に好かれるんだけど、最後は雲隠れしてしまうの...。」
「え?雲?空に飛んで行っちゃうの?」
「...誰にも何にも言わずに、逃げ出しちゃうってこと。」
「なーんだ、それならそう言えばいいのに!ややこしいなぁ。」
俺がそう言うと、何故か彼女は笑った。
口に手を当てて、ころころ笑った。
何が可笑しかったのだろうか?
でも、彼女が笑っていると、俺も和やかな気持ちになる。
「ね、約束よ...。」
憂いを秘めた彼女の、振り絞るような笑顔が、周りの雑音を消し去る。
「どこにも、行かないでね.........。」
その瞬間、時間が止まった刹那、俺は、表せないのか知らないのか判らない言の葉に駆られる。
只、茫漠とした未来への憧憬だけが、その時の俺の世界の全てだった。
「シャオチン、息抜きに ゲームをしない?ちょっとくらい 融通が きいたほうが、勉強も捗るんだよ。」
「なるほど、そういう 考え方も あるんですね。わかりました、レイニャンさんと 結婚する ためなら!」
きっと俺の顔からは火が出ていたことだろう。
「(ちょろい...。)」
俺たちの学校、否、この世界では、夢の世界の妖精、ドリリーの力を使ったカードゲームが流行っている。
レイニャンさんがカードを取りに年長の教室に戻ってる間に、先に校舎の裏に向かって階段を胸躍らせながら駆け足で降りる。
ポケットには数枚のカード。
途中で授業の資料を運ぶ、見た目も中身も端正なシュウセン先生と鉢合わせる。
彼は何も言わずに、駆けていく俺を見て微笑んだ。
上履きをじれったく外履きに履き替え、グラウンドに出ると、ボール遊びや鬼ごっこ等、思い思いに戯れる生徒の群れ。
この中の誰よりもこれから自分のやるゲームが一番楽しいんだという自負を、皆が皆持っている筈だ。
「遅いぞ~、少年。」
校舎裏に息を切らせていくと、何故かレイニャンさんが余裕の表情で構えていた。
馬鹿な!貴方はカードを取りに戻った分、理論的に考えて俺より先にそこにいられるはずがない。だとしたら、今目の前に立っている貴方は幻...!?幻なら、スカートの中を覗いても良いし寧ろチャンス!?
...とか何とか、はしたない思惑まで脳裏によぎる。
「年上の生きる知恵さ。」
彼女がカードを下唇に構えて、元気よく宙に飛ばした矢先に、カードはドリリーを召喚する。
ユウロンだ。
所謂、西洋お化けのフードを被っており、狸の尻尾のようなものが頭の後ろについている。
口をにんまりさせた、何処か愛嬌のあるポーカーフェイスだ。
急いで俺もカードを飛ばす。
何のドリリーだって良い、こうやって彼女といるだけで、それだけで良いんだから。