「馬鹿にしないでください、飲めますよアイスコーヒーくらい!」
「当たり前だ馬鹿、ちゃんと栄養バランスを考えて食ってるのか。」
「お、お前何なんだよ!?点心なら、よそで食べろよ!」
涙ぐんでいたシャオチンは、不審者相手に活気付いていく。
「どんなに落ち込んでも現実は変えられない。シャオチン、お前の言う正義とやらは、女の子一人守れない、机上の空論に過ぎなかったのさ。」
「どうして知ってるんだ!?」
血糖値を回復し終えた男は、逃げるように土管から飛び降りた。
シャオチンも釣られて日向に出、男の背後につく。
顔だけ振り返るその男のたれ目は、シャオチンを見つめるようで、虚空を見つめているようで不気味だった。
「俺はホロウ。ゲーム...するか?」
「臨むところ!」
シャオチンとホロウは火花を散らした。
"幻素"。
遥か古代、人と夢の世界のフェアリーの間を取り持つ聖職者が、フェアリーの力を借り自然現象を御した事に起源を持つその力は、禁じられた儀式から子供の娯楽まで幅広く用いられている。
ドリリーゲームは只のカードバトルではない。
フェアリーの持つ力、主に、クラブ、ダイヤ、ハート、スペード、エース、ジャック、クイーン、キングの、八種類の幻素を駆使して戦わせる、夢の賭博だ。
シャオチンの選んだフェアリーはミニハチ。
ホロウの投げたカードから出てきたのは、マキキン。
片目と、足の無いひび割れた下半身が包帯で巻かれている、マネキンのフェアリーだ。
ホロウの表情に闘志が宿る。
「先手を打つぞ、マキキン!」
すると、垂れ下がった包帯が、意思を持っているかのように身構えた。
「気を付けろ、ミニハチ!」
二人の間で緊張が走ったかと思った瞬間、一瞬で包帯はミニハチの足を掴んだ。
遠心力をつけ、そのまま勢いよく地面に叩きつける。
面長なマキキンの小さな穴の眼に、冷ややかな嘲りが表れる。
包帯は更に伸び、ミニハチの首まで、ぐるぐる巻きあげ拘束する。
マキキンの木の手から放たれた幻素弾が、ミニハチに直撃し、吹っ飛んだ。
ホロウは勝利を確信した。
「ミニハチ、しっかりしろ!」
「!?」
ミニハチは弱い部類のフェアリーであるにも関わらず、立ち上がった。
ホロウとマキキンの動揺をシャオチンは見逃さなかった。
「すぐに反撃!」
ミニハチは、マキキンの放った倍はある幻素弾を撃った。
凄い勢いの爆発。
「どうだ!」
「幻素弾、それはフェアリーの持つ力を消費して放つ、捨て身の攻撃...シャオチン、今のでミニハチは力を使い果たしたんじゃないのか?」
「っ...!?」
ミニハチの背後に浮かぶ、冷ややかな木隅の影。
「マキキン...‟スペードスラッシュ"。」
幻素で出来た刃が、ミニハチを切り裂き、光を爆散させる。
光はシャオチンの掲げたカードに戻って行った。
「本来は負けたフェアリーの、光のような幻素が、勝ったフェアリーの物になり吸収される筈だ。
シャオチン、よく本物のミニハチを手懐けたな。」
「友達だよ!」
ドリリーゲームは飽くまでも、フェアリーの力を幻影として戦わせるゲームだが、本物と仲良くなってしまう少年もいるらしい。
「わざわざ若谷区から来た甲斐が有るってもんだ。」
「えっ、あの東京省の!?」
若谷区は、俗に若者の町と呼ばれる、流行の最先端が集まる都会だ。
と同時に、表沙汰にならない犯罪や貧困が横行していると言う。
「手合わせ有難うございます。ただ、どうしても分からないんです。ホロウさんがどうして俺なんかに親身になってくれるのか...。」
「...スパルタ教団。
ここ最近、奴らに取り込まれて、帰らない子供が増えている。
お前も用心するんだな。」
シャオチンは、その教団の噂だけは聞いたことがある。
そういえば学校では、何日も欠席している子もいるが、まさか...?