主人公は時雨なんだと思います。
Glasses Project(TwitterID:glasses_project)主催
グラプロ寒稲祭2019投稿作品
同名の作品をpixivにも投稿しております。
~此~
この水平線を初めて君と眺めた日から何回満月を見ただろう?そんな事を考えながら小石を力いっぱい投げる。水面に波紋がどこまでも広がっていく。
思い出せば確かその日はみんなでパーティーをした帰りの夜、ちょっと飲み過ぎてしまった僕がわがままを言ってこの海辺の広場まで君を引っ張ってきたのだったかな。
星がちらちら見える夜空を無邪気に眺めていた僕を見て笑う君の顔が今も僕の心に棲み付いて出ていってくれない。
あの笑顔を見てからいつも思っているんだ。あの時の君の笑顔はどうしたらまた見ることができるのだろう?あの心を正確に撃ち抜くような笑顔。
何度笑わせても笑われても見ることができない。あれが僕にとってのファーストインパクトというものだったのかもしれない。
そこから僕と君が友人以上の関係になるまでは友人の助けや冷やかしなどもあって長いようでとても早かった。それに僕が君の事を好きというのは既に君にはバレていたというのだから恥ずかしい限りだよ。
僕は多分誰かが喋ったのだと思っているんだけど、そうだとしたら今こうして君の隣にいられるのはその誰かのおかげでもあると思うから犯人捜しはしないであげようと思うんだ。
どうしてそう思うかって?君はとても鈍感だからさ。だからこそ高倍率の競争から僕が選ばれたんだ。
ありがとう鈍感な君へ。嘘つきな僕より。
~其~
その日の朝、僕は驚いた。久しぶりに君は遊びに誘ってきた。僕には断る理由も用事もなくてすぐに行くと返事をした。
着慣れない服を着て君を待つ僕は雑踏の色に浮いていた気もする。跳ね上がる鼓動を何とか抑えて君を
人の波の中から探す。見つけた。
走って来たのか髪の毛が少しはねている。それに着いた君はすぐにどこに行こうかと僕の服をちっとも見ていない。そういうどことなく抜けている所は出会った頃から全く変わっていない気がする、そして少しは見てほしかった気もする。
君とのデートはいつもしっかり予定を立てる訳でもなくただ気になった場所に好きな時間だけいる。それだけ。
君の周りは「会える時間が少ないんだからもっとあちこち行けばいいのに」なんて言ってくるらしいけど、これは僕と君だけの時間、あいにく僕と君以外に指図される気はないんだ。
で、今日はどこに行こうか?そういえば最近この近くでネコがよく現れるらしいんだ。それを見てからリニューアルしたお店も見てみたいな、全部回ってしまったら君と会うための口実がなくなっちゃうかな?
でも君と味わった全てを五感の全てに焼き付けておきたいんだ。君の姿も君の香りも君の味も、全部僕の中に仕舞い込みたいんだ。
だから君の向かう場所に何所でも何処までも付いていきたいんだ。君は僕に君をどこまで見せてくれるんだろう?
~彼~
あの日の僕はいつになく何かを考え込んでいた。もしかしたら自分自身の事かもしれないし君の事だったかもしれない。いや君の事だったに違いない。
そんな僕を見て君はまたどうかしたのかと訊ねる。大丈夫、何でもないんだ。ただ分からなくなる時があるだけなんだ。
そう言うといつも君は握っていた手を離して僕をじっと見る。そしてその視線が心の奥の小さな部屋の中のベッドの掛け布団の中に隠れている小さな僕の視線とかち合う。
僕はいたたまれなくなって離された手を強く握り直して「なんでもないよ」とまた嘘を吐く。
そして君は僕の嘘を信じて「なんでもないか」と言って僕を抱き締める。
いつもの事なのにいつも上着も服も肌着も、皮膚の厚さすらもどかしい。いっそ神経まで裸になって短絡回路になってしまおうか。
そんな事を考えながらあの腕に抱かれ続ける。
何秒抱かれても一瞬、そして何年抱かれてもきっと一瞬。もしこの時間を永遠にできるとしたら僕はどんな法を犯してしまうだろうか。
ただ抱き合うだけの時間、それが僕の一番大切な時間。そうしないと君が認識できないから。そして僕が分からなくなるから。君が僕を解ってしまうから。
その腕が緩むくらいならぎゅっと縊ってくれたらいいのにと言えず僕はまた笑ってしまう。
汚い傷痕も濁った涙の跡も、僕の笑顔で一生隠してしまおう。言えないまま癒える僕。
君への思いを伝えた冬から数えて三度目の冬。まだ僕は君を裏切らないための裏切りを繰り返していた。
~何~
いつか見た水平線を君と二人。海辺の風は僕と君との間を冷たく吹き抜けていく。
それが何故かってまだ僕と君の間に隙間があるからじゃないかな?ふふ、それは何年経っても変わらないね。ほら、もっとくっつこうよ。寒いし久しぶりのデートなんだから。
そういえば君は多分気付いていないと思うけどこの服もあの時のものなんだよ……って君もあの時の服装だったね。やっぱり覚えていたんだね。僕は好きだったんだけどな、君のどこか抜けているところ。
それで話したいことというのはね、実は先週で僕が想いを伝えてからちょうど五年って事なんだ。
うん、もうそんなに経ったんだよ、いや、別にプレゼントが欲しいわけじゃなくてね、ただ君に聞きたかったんだ、君は長いと思う?それとも短いと思うかい?
……うん、僕もそう思うよ、それが自然なのかもね。僕たちらしくていいと思うよ。
この時間の長さをこの先も同じように感じられたらそれは本当に幸せな事なんだろうなぁって、うん、そう考えたら僕は一生君の事を嫌いになれそうにないかな?
え?ここは好きって言うところじゃないかって?ざんねん、僕は安定が続く事じゃなくて破局が来ない事を願いたいんだ、それに君は僕の親友からも熱い視線を受けているみたいだからね。
全く困った子だよ、もしその子が君を盗ろうとしたら僕は君をどうしちゃうかわからないからね?
「……ねぇ、抱きしめていいかい?」
さっき抱き合ったなんてことは今は置いといてさ。
理由なんていちいち訊かないでほしいな、君がもっと欲しくなっただけなのだから。
それにたまには僕から抱きしめるというのも変化球で面白くないかい?
ぎゅ。
~当~
風は僕と君との間を冷たく吹き抜け、星と月は夜空を孤独に彩り、海は闇より暗く僕たちを手招く。それらはずっと変わることはない。
ただ雨に打たれながら笑い合い、雪を眺めながら笑い合い、芽吹きを眺めながら笑い合えたらいいと思うんだ。
永遠が存在しないなら一瞬を積み上げればいいと思うんだ。
「 ?」
僕の心から飛び出した声は抱きしめた君の胸に吸い込まれていった。
ああ。
僕は僕たちが生まれた海じゃなくてただ白いシーツに溺れていたかった。
幸せって何でしょうか?
この物語の起承転結、そして結末とはどこなのでしょうか。
解釈違いは大歓迎。
2020/01/02
約2年2カ月という期間を開けてハーメルンにも投稿という運びにいたしました。
あくまでも一次創作がメインの身なのでこの先二次創作を上げる予定は今のところございません。
2022/03/27
Glasses Project(TwitterID:glasses_project)主催
グラプロ寒稲祭2019投稿作品