俺氏、ループ系TS聖女様をいつの間にかメス堕ちさせていた模様   作:弐目

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ここから暫く、シリアスさんは行方不明になります。







隊長ちゃん、襲来

 手に取った果物にかじりつく。

 梨っぽいけどリンゴの風味がするソレは、自分の世界の果物を覚えている身には脳がバグってるような不思議な感覚を与えてくれる。美味いけど。

 或いは俺が知らないだけで、似たようなモンがあっちにもあったのかもしれんけどね。

 

 二人の献身的な『治療』のおかげで、やっとこ聖殿で缶詰状態から聖都内なら外出が許可されるようになってはや数日。

 俺は街に降りて、久方ぶりに市場巡りをして道行く人々を眺めながらぶらぶらと歩いていた。

 

 我ながら、今までいい子にして勝手にお外に出ないようにしてたと思うの。

 いや、一回だけ街の酒場に行こうとしたらシアに凄い剣幕で止められた上に、凄い綺麗に笑ってるのに何故か全く笑ってないように見える不思議なスマイルを披露されて、それ以降はすっぱり諦めたんだけど。

 酒は夜になったら『治療』がてら飲む場合も多いし、中途半端になってしまった《武器掛け棚亭(ウェポンズ・ラック)》の片付けや修繕経過が知りたかっただけなので、人伝でもどうにかなる事だったしね。

 

 決して懐に突っ込まれた手の中からジャラッて音を聞いたからではない。くさりなんておれはみていない(白目

 

 それにしても、一人で行動するのは久しぶりな気がする。

 外出許可が出てからも、必ずシアかリアのどっちかが付いて来てたし。

 一緒に出掛けるのは構わないし、それはそれで楽しめるんだが、どうやっても注目を浴びるし自然と『お出掛け中の聖女様とそのお供』になるので、気侭なブラリ時間とは言い難い。

 昨日一緒に街を歩いたリアが「これも楽しいけどもっと気軽に一緒に散歩したい」とブーたれてたので、そのうち変装でもしてお忍びのお出掛けとかに付き合わされそうな気がする。

 そうなったらそうなったで、ちょっと面白そうなので俺的には問題無いけど。

 

 そんな二人も、今日は帝国から出向してくる人員の受け入れ準備の最終チェックでどうしても抜けることが出来ないと、渋々俺を送り出す事になったわけですが。

 変なことに首を突っ込まない、日が暮れる前には帰ってくること、人気の少ない処には行かない、安易に誰かに喧嘩を売らない、困ってる人が居たらまず衛兵を呼ぶ、あと厄介事に首を突っ込まない。

 はじめてのお使いをする幼児か、俺は。

 もう二人揃って口を酸っぱくして言うわ言うわ。信用なさすぎワロタ。特に最初と最後なんて同じやろ。

 

 とはいえ、俺の体調を心配しての怒濤の注意喚起なので無下にするつもりはない。

 本日の予定は人通りの多い場所をのんびり散歩するのみとなっております。

 オススメの穴場を開拓して二人を連れていくとかもしたいが、それは追々でえぇやろ。

 

 謎の果物を味わいながら、改めて二年前と今との違いをあちこち見つけては感心したり、首を捻ったり。

 これはこれで小さな発見の連続で、良い暇潰しになる。

 だが、それも心置きなく、という訳にもいかんかった。

 

 先にも触れたが、帝国からの出向員が近々――それこそ早ければ明日にでも到着する予定だ。

 派手にぶっ飛ばした後、抱き上げると意識を失っているのに此方の外套を掴んで離さなかった黒髪の少女の事がどうしても頭を過る。

 

 あー……どんな顔して会えばえぇんじゃぁ……。

 

 果物を食いきると、並ぶ露店の隙間に置かれた樽に腰掛け、唸り声をあげた。

 ただ商売の邪魔になるのも悪いので、樽の持ち主らしい串焼きの露店のおっちゃんに二本ほど肉串を注文して、ちょっと硬い塩味のソレをガジガジと噛みながら頭を悩ませる。

 

 あの時、あの瞬間。

 俺は隊長ちゃんの決意に応じる形で、一瞬とは言え本気になって彼女を打倒した。

 来るべき邪神との戦いの前に、明確に区切りを入れたのだ。

 彼女に、では無く、シアとリアに。

 元から優先順位という点では不動の同率一位のつもりではあったが、同じように輝いた魂を持つ仲間や戦友の間に越えられない線を引いた。

 アイツらの為――というか二人を優先したいと思う俺の勝手な気持ちの為に、立ち塞がる者は誰であろうと――焦がれた彼ら彼女らであっても力尽くで押し退けると。

 

 勿体つけずに言うと、こちらの身を心配して隊長ちゃんが伸ばしてくれた手をひっ叩いて、俺は二人が笑ってるであろう結末を選んだのだ。

 

 ――まぁ、それも最後の特大ガバで目の前でくたばって大泣きさせるというアホ極まりないオチになったわけですが(白目

 

 誤解を恐れず言ってしまえば、手酷くフった女の子の前にノコノコ現れる糞野郎になった気分である。生まれてこの方、そんな浮いた話はひとっっつも無いが……無いが……!!

 

 どの道、聖女であるシアとリアのもとに戻った以上、帝国の要人である隊長ちゃんとは関わる事になるのは確定事項だ。

 再会するのが遅いか早いかの違いなだけで、心証的には早いほうが良いに決まってる。

 本当なら土下座を通り越して五体倒地で地面にめり込むまで謝罪したい処ではあるが……土下座されても嬉しくないって言ってたからなぁ……止めておいた方がいいか。その程度の学習は俺でもするのだ。

 

 肝心の謝罪の方は、しっかり眼を見て、謝って、あとはお詫びの品でも贈るくらいしか思い付かないけど。

 許してくれるのなら、また以前の様な良好な関係に戻りたい。

 良い奴等だけど尖った個性の持ち主ばっかの周囲の人間の中で、彼女は本当に貴重な癒し枠なのだ。最後の大喧嘩のときに大分尖った部分も見えた気もしたけど。

 

 うん、良し。大体方針は固まった気がするぞ。

 今日に限っては、外出すんの一人で良かったかもな。気分転換しつつ、明日以降の行動も決められた。

 シアとリアとの再会で学んだ。こういうのは勢いと早さが大事なのだ。

 なんなら、明日以降は城門近くで出待ちしてもいい。きちんとした品は後日選ぶとしても、再会時に渡す詫びの品でも見繕ってみるか。

 

 そんな風に思い立ち、何か良さげな物を探そうと樽の上から飛び降り、串を一気に頬張って刺さった肉を空にした。

 よし、いくべ。花や食い物は……日持ちしないからダメだな。何が良いかね?

 手近な処を廻ってみるかと、記憶からそれらしい店を引っ張り出して歩き出すと。

 

 ――背後から、相当な速度で突進してくる気配を探知して瞬時に振り返る。

 すわ、逃走中の物盗りか何かか、と腰を落として身構え――

 

 

 

「――――――先輩っ!!」

 

 

 

 叫びながら、一気に飛び付いてきた懐かしい姿と声に思わず硬直して、その突進を正面から受け止めるハメになった。

 

 ウゴッフ!? み、鳩尾に……!?

 

 飛び込んできた黒髪の頭部が、いい具合に腹に入ってたたらを踏む。

 あ、アカンこれ、踏ん張れない。

 衝撃を逃がす意味もあって、そのまま受けきるのは諦め、飛び付いてきた人物ごと後ろに倒れ込んだ。

 うぉー……痛てて……倒れた先に小石とか無くて良かった……アレ地味に痛いねん。

 

 仰向けになったまま、腹にタックルしてきた人物――隊長ちゃんを改めて見ようとして、

 ガバっと顔をあげた彼女は、そのまま馬乗りになって俺の顔を両手で挟んで、至近距離で覗き込んでくる。

 お人形さんみたいに整った顔が間近で瞬き一つせずに俺を見据え、それに鼻白んでいると頬を挟んでいた両の掌が、ペタペタと俺の顔や首、肩を触りはじめた。

 

 うーむ。元から和風正当派美少女! って感じの女の子ではあったが、この二年で更に磨きが掛かった感じがする。

 前からスタイルも良かったが、更に出るとこ出て引っ込むとこは引っ込んでグレードアップしてるので、現状の体勢はあんまりよろしくないのだが、それより何より驚いた点があった。

 

 長く綺麗だった濡れ羽の様な黒髪が、ばっさりと肩の辺りで切り揃えられている。

 こちらでは貴重な黒髪ロングが失われてしまった、超勿体ない(童貞感

 髪型なんて個人の好みだし、これはこれでめっちゃ似合ってるし、可愛いけど。

 

 何処か不安気な面持ちで俺をペタペタしていた隊長ちゃんは、最後にもう一度俺の頬を挟み込んで持ち上げると。

 

「……あったかい……」

 

 そう、ポツリと洩らして、その顔をくしゃりと歪めた。

 

「夢じゃ、ない……! 生きてる……! せんぱい、い、き……っ」

 

 黒曜石みたいな綺麗な瞳からボロボロと涙が零れ落ち、呆気に取られた俺の顔を濡らした。

 必死に何かを我慢する様な表情のまま、涙をあふれさせていた隊長ちゃんだが、こらえきれなくなったのか眼をきつく閉じると、そのまま俺の胸元に顔を埋めて声を押し殺して泣き出してしまう。

 

 思わずその頭を撫でて、あやす様に軽くポンポンとしてしまって……そこでハタと思い至った。

 

 ――今は真っ昼間、ここは市場の通り道のど真ん中やん。

 

 周囲の視線に今さらながら気付いて、顔から身体からブワっと汗が吹き出すのを感じた。

 いや、悪い視線じゃないのよ。寧ろ温いというより、暖かというか、優しいモノが多い。

 多分、二年前から今にかけて、あちこちで散見された光景の一種と思われたのだろう。

 戦後、生死不明だった家族や親しい人間がひょっこり戻ってきた、みたいな感動エピソード的なアレだ。

 お互い黒髪黒目の転移者同士だし、大戦中に生き別れた冒険者のパーティーメンバーとか、そんな感じだと思われたのかもしれない。

 誰だって暖かい眼で見る。俺だってそーする。

 だが自分がそういった眼で見られるのがOKかどうかは――また別の話だ。

 

 気恥ずかしさに頬に血の気が集まるのを感じながら、俺は慌てて隊長ちゃんごと起き上がると、泣いたまま動こうとしない彼女を抱き上げて、市場からダッシュで離脱を開始した。

 

 ――駆けろ俺、雷の如く!(必死

 

 そんな俺の背に、「おめでとう!」とか「お幸せにな!」とか「彼女さんを泣かすんじゃないよ!」とか「末長く爆発しろ!」とか。

 口笛付きで幾つもの声が掛けられ、内心で羞恥の悲鳴を上げながら市場を駆け抜ける。

 まさか一人一人にそーいう関係じゃねぇから! と説明する訳にもいかず、只ひたすらに走るしかない。

 この恥ずかしさを分かち合ってくれるべき隊長ちゃんは、抱えた腕の中でぐすぐすとしゃくりあげている真っ最中。

 

 

 

 なにこの羞恥プレイ。新手の拷問かよ、しにたい(白目

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 逃げ出すように市場を抜け出して、噴水の設置された広場へとやってきた。

 この辺りまで来ると流石に人波も減り、隊長ちゃんも落ち着いて来たので噴水側に置かれたベンチに彼女を下ろすと一息つく。

 

「すみません……」

 

 さっきの状況を思い返して、流石に恥ずかしくなったのか小さな声で肩を竦めながら謝ってくる隊長ちゃん。

 いやまぁ、確かに悶死しそうなこっぱずかしい状況ではあったが、元はといえば喧嘩別れ同然でそのままおっ死んだ俺に原因があるので、ハイ。気にしないで下さい。

 

 死んだ、と言った辺りで彼女の肩がビクリと震え、恐る恐るといった様子で隣に座った俺に手を伸ばしてくる。

 

「先輩……身体は、もう大丈夫なんですか?」

 

 おう、もう大丈夫ですよ。ちゃんとタオルの色だって分かるし、隊長ちゃんが今つけてる髪留めの色もしっかり見える。翠掛かった落ち着いた良い色だね、ソレ。

 

 正確には、魂の消耗に引きずられてまだ不調な箇所はいくつかあるのだが、それもシアリアのおかげで段々と回復してきている。

 この分なら、そう遠くない内に完治も見えてくるだろう。ありがたいことだ。いやホントにね。

 

 俺の目元に触れるか触れないかといった近さで彷徨っていた指先が、安堵したように下ろされる。

 いや、実際に安堵したんだろう。明らかにホッとした様子で、肩から力が抜けるのが見てとれた。

 

 到着の報は来てないのに、なんで聖都にいるのかとか、副官ちゃんはどうしたのとか、色々と疑問はあるが。

 まずは言うべき事があるよな。

 

 ――隊長ちゃん……じゃねぇな、ミヤコちゃん。

 

 何気に名前呼んだの久しぶりな気がする。といっても、名前呼び自体が過去に一回か二回した位だけど。

 

 もの凄い反応があった。

 

 ババッと電光石火で顔を上げた彼女は、よっぽど驚いたのか目を見開いて顔が朱に染まっている。

 予想外に大きなリアクションが返ってきたが、それは今は気にない事にして、言葉を続けた。

 

 あのときも、今も、心配してくれてありがとう。心配掛けてごめん――そして、ブッ飛ばして本当に申し訳ありませんでした。

 

 土下座はNGなので、軽く頭を下げた後はしっかりと隊長ちゃんと目を合わせて謝意を口にする。

 

 恥ずかしながら、こうやって戻ってくる事ができました。もし許して貰えるなら、また仲良くしてやってくれませんか?

 

 割と真剣に、嘗ての友好関係に戻りたい。君は俺の貴重な癒し枠なので(真顔

 内心の懇願が通じたのか、隊長ちゃんは暫し呆けたように此方を見つめた後。

 

 何処か照れ臭そうな、だけど華が咲くような笑顔を浮かべて、俺の手をとってくれた。

 

 

 

「はい――おかえりなさい、先輩」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無事に関係修復が叶った俺達は、ベンチに腰を下ろしたまま、積もる話のまま二年ぶりのやり取りを続けていた。

 

 暖かな日差しの下、噴水の周りを駆け巡る子供達や、今日の予定を楽しげに語りながら道行く街の人々の声をBGMにして、穏やかに会話は続く。

 

 ――そういえば、まだ出向人員が到着するっていう先触れも来てなかったんだけど、なんで隊長ちゃんは聖都にいるんだろう?

 最初に頭を掠めた疑問を改めて彼女に問いかけてみると、少し恥ずかしそうにして答えてくれた。

 

「その……馬であと一日という処で、夜営をする事になりまして……その位なら走れば直ぐだと思ったので、夜が明けてからアンナちゃんにお願いして私だけ先行させてもらいました」

 

 走れば直ぐ(馬で一日掛かり

 うん、まぁ。隊長ちゃんの脚ならそうだね。

 

 しかし、来てくれたこと自体は嬉しいけど、《刃衆(エッジス)》のトップとその補佐が揃って帝国を抜けるって、良く皇帝陛下が許可したよなぁ。戦が終わったとはいえ、国防の観点から言っても難色を示しそうな人は多そうだけど。

 

 馬二頭を引きながら、今ごろ聖都にえっちらおっちらと向かっているであろう副官ちゃんに、たらふく奢ってやろうと思いつつ、素朴な疑問が追加で生まれたので更に質問する。

 隊長ちゃんはニコニコしながら、あぁ、それなら。となんでもない事のように口を開く。

 

「大丈夫です。ヒゲ(陛下)には直接()()()して短期ですけど、出向許可を貰ってきました」

 

 へぇ~……いや、ちょっと待って。今、自分の国の皇帝をすごい呼び方しなかった?

 思わず隊長ちゃんの顔を二度見するが、相変わらず上機嫌なまま、凝視してきた俺を不思議そうに見つめ返してくる。

 気のせいかな……うん、そうだ。気のせい、気のせい、聞き違い。

 

 お、そうだ(震え声

 一連の出来事のお詫びも兼ねて、何か隊長ちゃんに贈り物がしたいんだけど……なんか欲しい物ってある?

 

「え!? いえ、そんな。先輩が無事でしたし、こうしてまたお話が出来るようになっただけで、私は」

 

 控えめに謝辞するであろう事は予想出来ていたので、恐縮した様子で竦められたその肩を軽くたたいて、俺はまぁまぁ、と彼女の言葉を遮った。

 俺としても隊長ちゃんの事を気絶させた事は未だにモヤモヤしてるし、ここは俺の気持ちを救うと思って受け取ってくれると助かるんだよなぁ。

 

「でも……それをいうなら私は先輩の、その、手足を斬ってしまえ、なんて思ってた訳ですし……」

 

 いうて、隊長ちゃんが斬ったもんなんて皮膚を薄皮1枚程度だし、決戦前なのに鎧も破損させて気絶までさせた俺の方が圧倒的に有罪なので、天秤に乗せるまでもないやん。

 現状、収入の無い身なのであまりお高いものは無理ですが、俺を助けると思って何かリクエストして頂けるとありがたいです。

 

 当時の行動にうしろめたさを感じているのか、ちょっと歯切れの悪い隊長ちゃんの言葉をやんわりと否定しながら、言い募る。

 俺の屁理屈のゴリ押しでも納得してくれたのか、少し笑ったあと上目使いでこちらをみて、それなら、と彼女は続けた。

 

「どうしても……という訳では無いんですけど、ついさっき欲しくなった物がありまして」

 

 ほう、ついさっきとな。何なのか聞いても?

 

「はい――櫛です」

 

 櫛? ヘアブラシとかじゃなくて、日本のアレ?

 

「はい。また、髪を伸ばそうかと思って」

 

 それは――うん、いいな。いい。実に良い判断だと思います(食い気味

 

「そうですか? それなら、良かったです――でも、この世界に日本みたいな櫛があるかどうか分かりませんし」

 

 残念そうに言う隊長ちゃんだが、俺には心当たりがある。

 以前、シアとも話したが、振り袖を織っているという服屋さんなら、日本風の櫛もあるのではなかろうか。

 女性の服飾なんてさっぱり分からんが、髪を纏めるワンセットとしてありそうな気がする。

 

 渡りに船という奴だな。丁度良いので、今度シアに連れていってもらったときに探してみるか。

 

 アテがあるのでなんとかなるかも、とだけ隊長ちゃんに告げると、彼女も予想外だったのか眼を輝かせて喜んでくれた。

 確定では無いので、ぬか喜びになったら申し訳ない。が、件の店なら他にもよさげな物がありそうだし、完全空振りになるという事はなさそうだ。良かった良かった。

 

 そのまま、会話が盛り上がって互いの近況について話すことになる。

 といっても、俺の方は大枠ではそんなに話すことは無いんだけど。

 

 俺達がこっちに来る前に会った、神様っぽい人にもうワンチャンあるで、とアフターライフを貰ったこと。

 帰ってきたことを言い出せずにゴタついたこと。

 なんとか再会を経て、現在は半分療養生活みたいになってること。

 纏めるとこんなもんだしね。

 

 穏やかに、互いの事を話合ってたんだけど。

 

「……『治療』ですか?」

 

 おう、詳細は分からんが、魂の消耗を直すとかいう大仕事を毎夜やってもらってるおかげで、大分体調は良い感じやで。

 

「毎夜……? 先輩、差し支えなければ詳細を聞いてもいいですか――あ、教会の秘技が関わるというのであれば、無理にとはいいませんが」

 

 慌てたように付け足す隊長ちゃんだが、安心して欲しい。先に言ったように俺にも詳細はガチで分からんから。

 なんせ、霊薬飲んで朝まで寝てるだけだからね! 世の長く苦しいリハビリに耐えて復帰を目指す人々に申し訳なくなるレベルの温さやぞ。

 

 

 

 

 

「――――――――は?」

 

 

 

 

 

 なんか隊長ちゃんの口から聞いたことのない低い声が漏れた。

 

「先輩」

 

 はい。

 謎の圧力に押され、居住まいを正して背筋を伸ばし、神妙に答える。

 

「朝まで寝てるって、霊薬とやらを飲んで、ずっと、ですか?」

 

 はい。そんな感じです。良い具合に酩酊感が来て、あとはぐっすりです。

 

「それを毎晩?」

 

 毎日って訳ではないです、たまにお休みの日もあります。

 シアが昨日は頑張りすぎたから今日は無しとかいうと、中止になったりする感じです。滅多にないけど。

 

「――まとめましょう。先輩はほぼ毎晩、朝まで眼を醒まさず、その間、レティシアが好き放題に『治療』とやらを行っている、と?」

 

 あ、いや。シアだけじゃなくてリアも手伝ってくれてるし、治療行為なんで別に好き放題って訳ではないかと、思うん、ですが。

 治療開始まえに酒盛りしたりもするけど、アレは俺も楽しんでるし。

 

 メキィっと。

 

 座ったベンチから嫌な音が響いて、なんでかビビってしまって俺は首を竦める。

 金属で出来た肘掛け部分が、ねじり切るようにしてむしり取られ、地面に落ちた。

 

 わぁ、すごい。鉄作りのパーツが絞った雑巾みたいになってる(白目

 

「先輩」

 

 はい。

 

 隊長ちゃんが恐い。

 なんなら二年前の大喧嘩のときより遥かに恐い。どうなってんのこれ。何が起きたの。

 さっきまでとっても楽しそうにしていた彼女は――今は能面のような無表情だった。

 

「出向してきた身として、大聖殿に挨拶に伺わないといけません。なので、名残惜しいですがお話の続きはまた今度、ということでいいでしょうか?」

 

 はい、全く問題ないです。いってらっしゃいませ。

 立ち上がって、ビシッと敬礼する。

 

「ありがとうございます、では」

 

 言葉短かに、一つ頷くと、隊長ちゃんは静かに立ち上がってそのまま足早に聖殿の方向へと歩き出した。

 俺は将官を見送る新兵の如く、不動のままその背を敬礼状態で見送る。

 

「――あぁ、そうでした」

 

 10メートル程進んでピタリ、と、その歩みが止まる。

 

「贈り物、楽しみにしてますね。先輩」

 

 振り返った隊長ちゃんは、それはそれは綺麗な笑顔で。

 

 はい! 粉骨砕身で良いものを選ばせて頂きます!(迫真

 

 と、もう殆ど条件反射みたいな速度で俺は返答した。

 

 ふふっ、なんですかソレ。なんて、ちょっと可笑しそうに吹き出して。

 今度こそ、振り返らずに隊長ちゃんは広場から歩き去って、人混みの中に消えていった。

 

 敬礼したまま、動かずに一分経ち、二分経ち。

 三分経った時点で、噴水近くで遊んでいた子供達の使っていたボールが足元に転がってきて、ようやっと俺は動き出した。

 

 緩慢な動作でボールを拾い上げて、此方へ手を振っている子供の処へ放ってやる。

 力無く転がっていくボールを拾って元気よく礼を言ってくるおチビ達に軽く手を振り返して、肘掛けが片方無くなったベンチへと崩れ落ちるように座り込んだ。

 

 ――どうしてこうなった(白目

 

 もうお家帰って寝たい。

 でも今のおっかない隊長ちゃんが向かった先は、俺の今のお家である。

 もう一度、言おう。

 どうしてこうなった。いやマジで。

 

 ぐったりとした心持ちでベンチに背を預けて、空を見上げる。

 先刻までは清々しい快晴だと思っていた空が、今は腹立つくらいに青いなコンチクショウ、と感じた。

 

 

 

 

 

 







次回、修羅場回。













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