俺氏、ループ系TS聖女様をいつの間にかメス堕ちさせていた模様   作:弐目

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白百合と愉快な仲間達(後編)

 

 

 

 聖都の商業区、その端にある貸倉庫の一つにて。

 多くの人間――本来なら荷運びの仕事に従事する人夫の代わりに冒険者や傭兵らしき武装した者達が荷を馬車へと積み込み、出発の準備を整えている。

 

「もっとペースを上げる様に! あと二時間まで終らせれば今回の支給額に色を付けましょう!」 

 

 音頭を取るのは壮年の商人だ。

 やや恰幅の良い小奇麗な身形の男なのだが、慌ただしい空気の中、自身も倉庫内を忙しなく行き来しているせいか、その額は汗ばみ、服の襟も心なしかよれている。

 

(……クソッ、よりにもよって一番リスクの高い品を逃がした上、部外者に目撃されるとは……!)

 

 雇った者達の中でも一番に腕の立つあの斥候の言によれば、内二人はどうとでもなる子供だが、最後の一人が腕ずくでどうにかするのは難しい腕利きだという。

 よって、採れる選択肢は一つ――即ち、目撃者の口から衛兵、ひいては聖教会本拠地たる大聖殿にまで話がいかぬ内に、即座に都市から移動を開始する事だ。

 幸いにして問題の傭兵は名こそ知られているが、高位冒険者の様なしっかりとした身分保障は無い身の上らしい。ならば直ぐに聖殿へ話が通るといった事も無い筈であった。

 帝国領に入ってさえしまえば誤魔化しは利く。なにせ、件の品は帝国の何人かの貴族が複数のルートで所望し、おそらくは自分のみが仕入れに成功しているのだから。

 

(落ち着け……まだ挽回は出来る。そうだ、私はまだ終わらない、終わって堪るものか……!)

 

 今回は彼にとって初となる『商品』を扱う取引だ。

 ラインギリギリを掠めることは何度もあれど、曲がりなりにも組合の規範に沿った商売をしてきたこれまでとは違い、明確に法を犯した文字通りのハイリスクハイリターン。故に想定外の事が起きる事など覚悟の上である。

 発生した問題は予想以上のものであったが、まだ巻き返せる。というか巻き返せないと自分は終わりだ。

 何が何でもこの商いは成功に漕ぎ着けねばならなかった。

 

 そもそも順風満帆であった商売にケチが付き始めたのは、少し前に北方から聖都へ向かう途中、とんでもない疫病神と出会ってからだ。

 最初は寧ろ幸運だと、自分の商才とツキが呼び込んだ好機だと思ったのだ――なにせ、あの救世の聖女の片割れと偶然にせよ関りが持てたのだから。

 どうやらお忍びで北方方面に向かっているらしい彼女と、なんとか懇意になろうと躍起になり、そして……彼女の傍に侍る死神の逆鱗に触れた。

 

 あれは最悪にも程があった。

 

 あの大戦の終局に於いて亡くなった、或いは消息不明になったと言われていた《聖女の猟犬》が、あぁして何食わぬ顔で聖女と共に旅をしているなど、誰が予想出来るものか。

 主たる聖女に害為せば、邪神の軍勢はおろか大国の貴族相手ですら躊躇なく首を刈り取ると伝え聞く、戦場の生ける伝説。

 逸話の数々が話半分以下であったとしても、培ってきた商人として財力や有力者とのツテなど、何の盾にも嵩にもならぬ相手である。

 それどころか《猟犬》に眼を付けられたと知られれば、これまで上手く付き合えていた連中も潮が引くように周囲から消えていくのは明白だった。

 何より、物理的に自分の首が危ない――故に、彼の()()に従い、出会った契機となった一件を組合に報告した。自身が雇った冒険者達に半ば強要したグレーゾーンの行いも偽りなく、全て。

 虚偽の報告やコネを使った隠蔽を行なえば、死ぬ。

 そんな勘というには余りにも確信に近い予感に従い、一切の誤魔化しなく冒険者・商人の両組合に報告した御蔭か、こうして自分は五体満足で生きている。

 冒険者組合からは要注意人物としてリスト入りされ、商人組合からは小さくないペナルティを受けたが……思えば、この時点ではまだ巻き返しは可能だったのだ。

 

 泣きっ面に蜂と言わんばかりに次に起こったのは、大口の顧客であった北方諸国のとある伯爵家が失脚。そのまま御家断絶で潰れた一件である。

 取り潰す際に明るみになった罪状は多岐に渡り、その中でも最悪極まるのは、邪神の信奉者達を匿っていた事。

 貴族どころか王族であっても一族郎党縛り首で、最終的には国の名前が変わりかねない大罪だ。

 件の伯爵との取引では違法性のある品は扱っていなかったとはいえ、肝心の支払い金の出所に関しては素知らぬフリで受け取っていたのもまた事実。

 上客としてそれなりに懇意にしていた関係もあって、男自身も後に取り調べを受ける羽目になった。

 そこまで行くと、既に彼の商人としての評判には割と致命的な罅が入っている。

 そうでなくとも、商人という生き物――ましてや行商の機会の多い商隊を率いる者は、それなりに運気や縁起も大事にするものだ。

 短期間でこれだけ厄を浴びるが如き目に合い続ければ、商いの手腕以前に縁起の悪さを嫌って関りを断つ者も多かった。

 

 もうまともなやり方では立ち行かず、後がない。

 

 進退窮まった男が悩んだ挙句手を出したのが、今回の魔獣・霊獣を的にした密猟同然の取引である。

 この取引を成功させ、それを切欠として『商品』を所望した貴族達と太いパイプを作り出す。

 覚えが良くなれば、ゆくゆくは御用商人として帝都に店を構える可能性だって見えてくるだろう。

 

 本来、商いを行う者として過ぎた皮算用を弾くのは好まない男であるが、人間追い詰められれば希望的観測に縋りたくなるものだ。

 焦燥感を和らげる為に帝都での立身を夢想しつつ、運び終わった通常の商品とその中に紛れ込ませた『本命の品』の目録を確認していると、背後から苛立ち混じりの声が掛かった。

 

「まだ終わらないの? 必要な品以外は廃棄する事も考えるべきよ、時間が無いのは分かってるでしょう?」

「……ある程度は破棄するとも。だが、帝国に辿り着くまで本命を隠すダミーは必要なのだよ」

 

 振り向いた先に居たのは、問題を報告してきた斥候の女である。

 見目は良い部類なのだろうが、目の下に浮いた隈と身に纏う空気……何処となく病的――或いは危険な雰囲気が、敬遠したくなる要素となっているのは相変わらずだ。

 以前は冒険者だったが組合を除籍されたという眼前の若い女は、先に述べた通り距離を置きたくなる空気を放つ人物なのだが……それを差し引いても雇おうと思う程度には腕が良かった。

 今はフリーの傭兵擬きだというのも旨みが大きい。このレベルの実力者を冒険者組合経由で雇おうとすれば、本来は相当な額を出さねばならない。男が要注意リスト入りしている今ならば猶更に。

 

「……それはそうとあの丁稚、何処かで処分した方が良いわ。後がない状況だっていうのに、『商品』をミスで逃がしたばかりか、子供相手に取り戻すことすら出来ないのよ?」

「逃がした件に関しては、『商品』を消耗させておく為に檻へ設置した熱台(コンロ)への魔力補充を怠った魔導士の所為だよ。アレは弱腰で大した商才も無いが、小間使いとしてはそこそこに優秀だ。育成費、という視点から見ても切り捨てるのは聊か無駄が多い」

 

 彼が小間使いとして長年雇っている若者は、この女斥候から相当に嫌われている。

 この取引自体に対し『リスクが大きすぎる』『手を引きましょう、今ならまだ引き返せる』と、反対意見ばかりを口にしているからだろう。

 所詮は臆病故の保身から出た言葉だ。小僧の時分から面倒を見て来た商人からすれば、若者が口に出す程度が精一杯で何か余計な真似をする度胸が無いのは分かり切っている。

 が、それを知らぬ彼女からすれば、その内衛兵へと密告でもしそうな裏切者予備軍に見えるのだろう。

 

 角が立たぬ様にやんわりと提案を拒んで見せると、女は舌打ちして不機嫌そうに腕を組んだ。組んだ腕の指先で二の腕をたたく様は、彼女の荒れた心情をそのまま表している。

 少々情緒不安定の気が見えるこの斥候は、私的にはお近づきになりたいとは思わないが……今回の商売に関してはビジネスパートナーにも近い関係である。

 他の数雇いした二流・三流の元冒険者だの傭兵だのとは比べるべくもない、重要な人材だ。意識して丁寧な扱いをせねばならない。

 なにせ、北方の雪山にある霊獣の巣より『商品』を捕らえて来たのは彼女の手柄なのだ。

 調査の結果、巣の場所や到達ルートはある程度絞れていたとはいえ、現地に入って霊獣の仔を捕獲して帰還できる実行戦力を直ぐに雇用出来たのは、此処に来て漸くツキが巡って来た証だと思った程である。

 そんな諸々もあって、この斥候とは後の事も考えれば単なる雇用関係というより、既に一蓮托生に近い間柄だ。気を払うのは当然だった。

 

「最低限の積み込みはあと二時間もあれば終わる。君は倉庫内を見回ってくれ給え。何時もならば聖都(ここ)で雇う人夫の者達はともかく、傭兵共は直ぐに手を抜こうとするからね」

「……分かったわよ」

 

 宥める意味合いも兼ねて指示した仕事に、女は一応は頷いて踵を返した。苛立ちは消えていない様子だが、無事に聖都から出られれば多少は機嫌も良くなるだろう。

 

「……早く出発する事ね。前にも言ったと思うけれど――私はこの街に長居したくないのよ」

「それに関しては同感だとも。地理的に立ち寄るのが必須でなければ、私も滞在したいとは思わない」

 

 会話の最後、首だけ振り返って告げられた言葉に、男もこればかりは心からの同意を示して首肯する。

 彼女が聖都を嫌がる理由は知らないが、彼にとっては、こうして違法な商売に手を出さざるを得なくなった疫病神(きっかけ)が住む街である。例え商売を抜きにしても、長期滞在は避けたいと思うのは当然であった。

 

 

 

 

 

 

 女斥候は現在の雇い主である商人の指示に従い、荷運びを行う者達が忙しく歩き回る倉庫内を見て廻る。

 彼女が監督役代わりに見回っているのを察した傭兵や冒険者崩れ――商人が雇った者達は、露骨に仕事が丁寧、または手早くなった。

 眼の下に隈が浮き、やや不健康そうな印象を与えるが、美人の部類に入る若い冒険者くずれの女。

 彼女を見た雇われ――荒くれ者やゴロツキと大差ない品性の者も多い自由契約の傭兵連中の中には、あわよくば帝都までの道程の間に何人かで囲んで……等と考えた愚か者もいた。

 だが、それも最初にちょっかいを出した傭兵が半殺しにされて川に放り込まれるまでだ。

 粗暴なその男が、無遠慮に伸ばした手で身体に触れた瞬間、徹底して無視を決め込んでいた女は凄まじい激昂を見せて執拗に男を切り刻んだ。

 実力差を考えれば一撃で終わるであろう相手を、手にした短剣(ダガー)で時間を掛けて何度も何度も抉り、突き刺し。

 急所だけは避けて、だが全身を刻まれ、出血とショック症状で痙攣を始めた男の身体は躊躇なく北方の冷たい川へと蹴り落とされた。

 死にはしなかったが、それは偶々だ。そのままその男は治療院に入院と相成った。多分、今でもベッドの上だろう。

 自分達にどうこう出来る相手では無い、と理解したのもあるが、それ以上に狂態とすら評せる異常な爆発っぷりに脅えを抱いたのか。

 以降は雇われた面子の中でもリーダー的な立場に収まった女に、ちょっかいどころか文句を言い立てる者すらいなくなった。

 

 尤も、女斥候当人からすればどうでも良い話だ。

 静かになったのならば良い、精々真面目に仕事をしてろ、と思う程度である。

 みだりに自分に触れた男に関しては、当然の報いを受けさせた、という認識でしかない。殺さなかっただけ温情である、とすら考えていた。

 

「クソが……私に触れて良いのは一人だけよ」

 

 怨嗟すら滲ませて呟かれた声は、ドロリとした何かしらの感情の煮凝りが口から溢れ出た様である。

 零した言葉だけでなく、その瞳にも粘性を湛えた執着の光を灯し、女は内心で独り言ちる。

 

 もう少しだ。

 この取引が成功すれば、顧客である帝国貴族との繋がりを得られる。

 自分の実力があれば歓心を買うのは難しくない、貴族の口添えがあれば組合に登録した正規の冒険者に戻れる筈だ。

 それでも組合が渋る可能性があるのならば、名前や髪色を変えて別人として登録する事も厭わない。

 その程度ならば、()なら一目見れば自分だと気付いてくれる。またやり直せる。

 きっと自分がいなくなって辛い思いをしているだろう。だって、自分がこんなにも辛いのだ、きっと()も同じ気持ちの筈だ。

 

(あぁ、でもどうしようか。私が傍を離れている間に()の周りで発情した臭い雌猫みたいな匂いをばら撒いている連中は)

 

 まだ()のパーティーに所属してた頃、それとなく雌猫同士で不和が起こる様に種を蒔いてやっていたというのに、結局は完全に芽が出る前に自分が除名(こんなこと)になってしまった。

 無事、()のもとに戻れたらいっそまだるっこしい真似は止めて、冒険中の事故でも装って直接消してしまっても良いのかもしれない。

 あの死神も、聖女と関わらない遠く離れた帝都での話なら腰を上げないだろう。

 一党の人数は大幅に減ってしまうが、きっと()も分かってくれる。自分達が結ばれる為には必要な事なのだ、邪魔者が居無くなれば、二人三脚で頑張っていけば良い。

 

 ガリガリと親指の爪に歯を立てて齧りながら、何処か恍惚とした光を双眸に映して女は虚空を見上げる。

 危うい――ともすれば狂気じみた雰囲気を纏う彼女であるが、今は一層それが助長されていた。

 この状態のときに迂闊に話しかけると凄まじい眼付きで睨み付けられるので、雇われた傭兵や冒険者くずれ連中は女斥候を極力視界に入れない様に努めつつ、立ち尽くす彼女がさっさと我に返ることを祈って荷運びに精を出す。

 

 大まかに仕事が終わる迄の二時間弱。下手をすればその間、神経をすり減らしながら荷物の運搬を行わねばならないかと思われた男達だが、()()()()()、直ぐに彼女が我に返る時間はやってきた。

 倉庫内を反響し、響く轟音。

 鍵を掛けて閉められていた大扉――馬車も出入り可能な大型のソレの隙間から巨大な刀身が飛び出し、そのまま閂が外側から強引に叩き斬られる。

 

「――ッ、な、なんだ!? 何があった!?」

 

 ざわめきや小さな悲鳴に混じり、動揺するこの場の者達の雇い主の声が屋内にて反響し。

 

 

 

「わんわん号、しゅつじーん!」

「わふ。ヴォフフ。(うむ。出陣だ)」

 

 

 

 ゆっくりと開け放たれた金属製の大扉の向こう、肩車の体勢で現れた幼女と獣人の宣言が、場違いな程陽気に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 幼女――オフィリを肩車したブライシオが、得物である特大剣(グレートソード)を一振りして右手にぶら下げ、倉庫内へと足を踏み入れる。

 

「あっち!」

「ワウッ。(応)」

 

 幼い少女の指し示す方向へと首を向け、そちらへと更に踏み出す獣人傭兵であるが、応じる声は少しくぐもっていて言葉になっていない。

 理由は肩にバイルダーオンした幼女の装備にある。

 先ずは背中。本日はお使いの為に持ってきていた鞄は外され、代わりに円形の小盾を背負っていた。

 小盾といっても背中に装備してるのはちいさな女の子だ。ベルトで胴に固定されたソレは、肩車される彼女の背面をしっかりと覆っている。

 更にその手が握るのは、短い手綱。

 しっかりと握りしめた革製のそれはブライシオの顎周りに固定されており、騎乗用の馬具よろしく(はみ)まで存在している。彼の声がくぐもっているのはこれを噛んでいるからだ。

 

 人馬一体ならぬ幼女わんわん一体。

 肩車合体した二人が進む先には、未だ馬車に積み込まれていない幾つかの木箱が重ねられている。

 ――そしてその木箱の中にある『商品』は、商人の男にとって何が何でも顧客に届けねばならない最重要の品であった。

 

「止めろ! 商品に近づかせるな!」

 

 悲鳴にも近い叫びに、呆気に取られていた倉庫内の者達が一斉に我に返る。

 慌てて運びかけの荷物を置き、次々に武器が抜かれた。

 

「お、おい! 止まれテメェ! 近づいたらブッこべふ!?」

 

 合体コンビの進路上で最初に接敵した傭兵が戸惑いながらも怒声を上げるが、特大剣(グレートソード)の腹でバチコーンとばかりに張り飛ばされて錐もみしながら宙を舞う。

 

「ちょ、滅茶苦茶強ぇぞコイツ!? 馬鹿みたいだけど!」

「なんでこんな馬鹿みたいに腕の立つ奴がいきなりカチ込んで来るんだよ!? いや本当に馬鹿みたいだけど!」

「てかなんでガキ乗せて轡噛んで操縦されてんだよ!? 馬鹿か!? 馬鹿だわ!」

「ワォン、グルルッ。わふわふ、わふーん(失敬な連中だ。馬鹿と言う方が馬鹿なんだぞ、知らんのか)」

「「「畜生マジで何言ってるか分からねぇ!?」」」

 

 至極真っ当なツッコミを入れつつ他の雇われも立ち塞がるが、馬鹿馬鹿連呼されたわんわんの怒りのスイングでベチーン、バチーンと引っぱたかれ、地に転がる。

 当然、彼らも手を拱いて見ている訳では無い。

 接近戦は無謀だと理解したのか、弓やクロスボウでの矢、魔導士による魔法が撃ち込まれるが、それすら手にした分厚く長大な大剣によって防がれ、甚だしいと籠手に包まれた腕ではたき落とされる。

 無人の野を行くが如く、とまでは行かないものの、圧倒的な武力差による進撃がそこにはあった。

 が、流石にそのままオフィリが指示した地点へゴール、とはいかない。

 進む幼女と傭兵コンビに向かい、横手から投擲が投げ放たれる。

 一息に放たれたのは六本。四本はブライシオに、二本がオフィリへと放たれたそれらは、下手な矢を遥かに上回る速度を有していた。

 

「ウォフッ(来たか)」

 

 頭上――即ちオフィリへと放たれた二本は剣で叩き落とし、残りは体捌きで躱すか鎧の装甲部分で受け止めると、獣人の傭兵は足を止めて投擲の放たれた方向へと向き直る。

 

「……まさか即日、しかもあのときの子供を連れて殴り込んでくるなんてね。頭が弱いのはケダモノ混じりだからなのかしら?」

 

 表面上は冷え冷えとした、だが激情の発露を感じさせる台詞と共に進み出て来たのは、言う迄も無く商人側の最大戦力である女斥候であった。

 わんわんはおりこうさんなんだよ! と憤慨する肩上の幼女の言葉に、気持ちドヤ顔になりながら獣人は胸を張ってみせた。

 

「バウッ、ワフフッわふん、わふバフッ(ふむ、聖女に害為そうとして除名処分を喰らうのは頭が良いのか?)」

「何を言ってるのかサッパリよ。付き合ってられないわね」

 

 本人にその気があるかは別として、ブライシオの言もきちんと発音できれば割と鋭い皮肉なのだが、銜のせいでわふわふ唸るだけなので通じる筈も無い。

 合体コンビの変なテンションに微妙にノせられていた他の雇われ達と違い、粘度高めのシリアスな空気の儘、唾でも吐きそうな口調で女斥候は言い捨てる。

 

「私と()の――シンヤとの再会を邪魔するつもりなら、誰であろうと敵よ。私達の幸せを邪魔しようとした事、その子供と一緒に後悔させてあげる」

 

 左手には毒塗りの投擲刃、右に鋼線を束ねた鞭を手に、彼女は低く構えた。

 

「全員、上に乗せた子供を狙いなさい――お優しい傭兵(わんわん)は必死に庇う筈よ、そこから切り崩せ」

 

 手にした刃に劣らぬ程に毒に濡れた言葉を耳にし、ブライシオは少し考え込む様な仕草をして……空いた手で銜を引っ張って僅かな間、口元を自由にする。

 

「お前があの一党を抜けた後、何があったのかは知らんが……シンヤは特にお前の事を待ったりはしてないと思うぞ?」

「死ね、犬っころがぁっ!」

 

 帝都でも仲間と祭りを満喫していたしな、と。

 含みも皮肉も無く、ただ不思議そうに事実だけを告げた台詞に対して、眦を吊り上げた女が咆哮し、殺意満点で鋼鞭を振りかぶった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんということだ……何故……!」

 

 半ば呆然とした呟きが商人の口から零れて落ちる。

 数名の護衛に守られて倉庫の端まで退避した彼は、今も木箱の壁の向こう側から聞こえる戦闘音が幻聴ではないのか、と手の甲を抓った。

 商人にとっては残酷な事だが、強く捻られた皮膚から伝わる痛みは紛れもなく本物。否応なしにこれが現実であると告げている。

 

「ただの傭兵、では無かったのか……まさか私に眼を付けていた何処ぞの手勢だとでも……」

 

 今現在暴れている獣人傭兵に関しては紛れもなくただの傭兵で、裏路地での遭遇時点では完璧な通りすがりだったのだが、それを察しろというのも無理な話だ。何より、現時点ではがっつり首を突っ込んでいるので既に意味の無い前提である。

 

「……あの女、何がただの子供と野良の傭兵だ……! どうする、どうすれば……?」

 

 忌々し気に唇を噛みしめ、どうにか状況を好転させる手はないかと思考を走らせる。

 

「旦那様、もう止めましょう! こんな荒事を聖都で起こした以上、例え何とか都市を出たとしても直ぐに追跡を受けます……!」

「……またそれか。あの女の台詞では無いが、逃げ出した『商品』を見つけるのに時間を掛け過ぎたお前にも、現状の責任がある事を自覚しろ!」 

 

 必死の形相を浮かべて二の腕を掴んでくる小間使いの若者を振り払い、ついつい苛立ちをぶつける様に怒鳴り散らす。

 

「旦那様!」

「くどい! 良案も出せずに喚くだけなら大人しく隅で伏せていなさい!」

 

 ただでさえ組合から外れた仕事の関係上、信用や実力に欠ける自由契約傭兵なぞを数雇いしているのだ。逃げ腰の台詞ばかりを吐く若者のせいで低い士気が更に下がりかねない。

 女斥候を除けば腕の立つ部類である、直の護衛を任せた者達に目配せすると、その内の二人が若者を引き剥がして壁際へと引き摺ってゆく。

 主と同じく荒事には全く向いていない小間使いは為す術無く引き離されるが、それでも必死に身を乗り出して言い募る。

 

「考え直してください! 今ならまだ間に合う! ()()()()()()()()()!」

「――待て、どういう意味だ?」

 

 身を持ち崩しかけているとはいえ、商人も商いの世界でそれなり以上に経験を積んだ身だ。

 無我夢中に吐き出された言葉が、その場の勢いや希望的観測で吐き出されたものではなく、何某かの根拠をもって口にしたものであると、すぐさま勘付く。

 若者は自身が失言をした事に気付いた様に、息を呑んで顔を強張らせた。

 

「だ、旦那さ……」

「抑えなさい」

 

 咄嗟に何かを口にしようとするが、主の低い声に応じた護衛が若者の肩を掴み、荒っぽく突き飛ばして壁に押し付ける。

 壁に勢いよく背がぶつかり、苦し気に肺の空気を吐き出して呻く彼を見て、商人は眦を吊り上げてゆっくりと近付いた。

 

「お前っ、まさか……!」

 

 憤激に声を震わせ、激情に任せて若者の胸倉を掴み上げる。

 その双眸に浮かぶのは怒りと――幾ばくかの失望と、湧いた疑念を否定して欲しいという僅かな希望だ。

 激昂した主と、その背後で物騒な目付きで手にした武器を握る護衛達を前に、小間使いの顔が青褪め――。

 

 ふわり、と。

 

 微かに甘い香りが鼻腔を擽った気がした。

 

「……? なんだ、甘いにお……」

 

 呟いた声は護衛の一人のものだ。

 だが、言い終える前にブツ切りにされた様に言葉は途切れる。

 悲鳴も上げずに突如バタバタと倒れ伏す男達。壁際で若者を囲んだ中心――彼と商人だけがギョッとした表情で目を見開き、狼狽えて後退った。

 

「なっ、なんだ!? 一体なにが……!」

 

 掴み上げた胸倉から手を放し、慌てて周囲を見渡す商人の前に、()から降って来た人影が音も無く着地。

 誰何の声を上げる暇すらない。

 あっと言う間に商人の腕を掴んで捻り上げ、倉庫の壁へと押し付けた人物は、手にしたナイフを彼の首筋へとピタリと当てる。

 

「動くな」

 

 冷たい声色で告げたのは、暗色で纏めた軽装に身を包んだ女だ。

 首に巻かれたマフラーで口元は覆い隠され、口調に劣らず冷えた眼光は油断なく商人の一挙手一投足を観察している。

 

「とうっ」

 

 そんな小さな掛け声が、やはり上から降り注ぐ。

 彼女からやや遅れて床へと着地したのは、年若い――それこそ幼い子供と言ってよいであろうエルフの少女である。

 商人を拘束した女は冒険者か傭兵らしき装備を纏った戦装束だが、この子供に至っては旅行客や旅人が来ているごく普通の旅装だ。

 エルフ、という事は女斥候の報告にあった『商品』を目撃した子なのだろうか? ならばこの女は何だ?

 

(何者……いや、それ以前にどういう組み合わせだ、これは)

 

 疑問、焦り、困惑、そして冷たい刃の感触。

 それらでメンタルを滅多打ちにされ、著しい混乱状態に陥りながらも、商人はごく真っ当な疑問を内心で呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 倉庫内で始まった大立ち回り。

 ブライシオを迎撃する者達の中に、練度は高くないが遮音や隠蔽効果のある魔法を使える魔導士がいたのか、倉庫の外は思いの外静かだ。

 それでも魔法自体の精度の関係で、内部での魔法の激突音や鋼の打ち合う音は微かに漏れる。

 

「始まったな。手筈通り行くぞ」

「はい。それでは行きましょう」

 

 聞こえて来る戦闘音を合図に、バイオレットブラウンの髪色をした猫毛の斥候とピンクブロンドのエルフの少女――ヘザーとリリィは動き出す。

 二人が待機しているのは倉庫の屋根の上だ。

 密猟した魔獣・霊獣を捕らえている以上、それを乗せた馬車を屋外に停泊という訳もない。

 ましてや生き物を運んでいるのだ。余程杜撰な管理しかしない三流でもなければ、一度は荷を下ろして『商品』の状態を確認する筈。

 そう判断したヘザーは、前もって貸倉庫を使用するであろうと予想。

 この密売を仕切る商人のこれまでの必要経費の使用感や率いている商隊規模から、空いている貸倉庫のどれが使われるか目星をつけ、馬車が搬入される前に倉庫の屋根に一部細工をしておいた。

 といっても、そう大仰な物では無い。屋根板の極一部に切れ込みを入れ、外して内部に侵入できる様にしただけである。

 

「……今更ですが、ここを管理している方に怒られないのでしょうか」

「事後承諾になるが、屋根の修理代含めた賠償くらいは経費で出る――切断面を(にかわ)なり膠泥(モルタル)なりで固めれば済むように切ったしな」

 

 そもそもそれを言うのなら、ブライシオが開幕ぶった斬った倉庫の扉の方が余程修理代が掛かる。

 あそこ迄派手にやると経費では全額落ちないかもしれない。足が出た分はあの駄犬(デカいの)に払う報酬分から差っ引こうか、とか考えているヘザーであった。

 空いた隙間は僅かなものだったが、細身な女性と小柄な子供である二人は滑り込むようにスルリと身を潜らせ、倉庫の内部に侵入した。

 着地先は梁の上だ。それなりに高さのある建物なので、上から見下ろせば現在の倉庫内の状況はよく見渡せる。

 

「おぉ、オフィリとブライシオ様は頑張っていますね」

「おチビちゃんもあの小盾の力、問題無く発揮出来てるな――本当に《精霊術士(エレメンタル・ウィルド)》の素質持ちとはね……将来冒険者になる様なら、今後とも懇意にしておきたいもんだよ全く」

 

 正面から乗り込んだ二人が気を引く間に、彼女達はこっそりと忍び込んだ形だ。

 会話も声を潜めたやり取りとなるが、友人の活躍を目の当たりにするリリィの語調はすこしばかり跳ねていた。

 

 多勢に無勢、四方八方を囲まれるもそれを物ともせずに暴れるブライシオであるが、やはり肩車したオフィリを明確な弱点と見做して狙って来る者はいる。

 密売人側の主力である女斥候などはその筆頭だ。手にした鋼の鞭は生半可な鎧ごと身を抉り取る程の威力を有しているが、生き物の様にうねり、波打つそれは、獣人の剛剣と打ち合う最中にもその肩上の幼女を襲う。

 本来、小盾では余程扱いに熟練した者でも無い限り受けきれない一撃だ。ヘザーも小盾を扱うが、鞭とは思えない重さを持つ打撃は凌げて数回だろうと判断している。

 ましてやオフィリは背負っているだけ。側面や頭頂から襲い来る鋼の蛇に打たれれば、幼い少女の身体は無惨に引き裂かれる事必至、なのだが。

 

「……ッ、クソがぁっ! なんで届かない!? どうしてそんな子供に霊具が扱えるのっ!?」

 

 小型の魔獣なら一撃で手足をへし折る自身の攻撃が通らず、苛立ちを吐き出すように叫ぶ女斥候。

 それに対し、ムフーとばかりに小鼻を膨らませて自慢げな顔になるオフィリ――と、ブライシオ。肩車されて縦二つに並んだドヤ顔を見て、更に苛立ちが募るのか鞭の殴打が荒々しさを増す。

 先の叫び通り、オフィリが背負った小盾はただの防具では無い。

 魔装の武具とはまた別種の代物――精霊が宿る霊具の一種である。

 特殊な条件や複雑な儀式を経て産まれるとされるソレらは、魔力を大量且つスムーズに通す事で武具としての基礎性能を高める魔装とは違い、何某かの魔法や特殊効果を発動させる物が多い。

 その能力・効果は、宿る精霊の性質に依って大まかに決まり、分類的には魔道具の上位互換に近いと言える。

 オフィリが背負っているのは、風の精霊の一種が宿った霊具である様だ。向けられる攻撃に対して圧縮された風を発生、相殺や減衰を行う効果を持っていた。

 

 ちなみにこの道具、ブライシオとその相棒であるボルドの持ち物である。

 霊具は内に宿る精霊が持ち主を選ぶ場合が多く、相性や魔力的性質が適応しなければその力を発揮しない。

 獣人傭兵コンビも以前に手に入れたは良いが全く適正が無く、素寒貧になった時の非常用資金源として荷の底に眠りっぱなしであったとか。

 

 だが、《精霊術士(エレメンタル・ウィルド)》――精霊やそれに類する霊獣との意思疎通し、心通わせる事を可能とするオフィリならば、殆どの霊具の精が力を貸してくれる。

 

 そう判断して幼女へと小盾を貸し与えたブライシオの予測は見事的中していた。

 オフィリの《精霊術士(エレメンタル・ウィルド)》としての才能がどれ程のものかは不明だが、風の精自体が彼女と相性の良い部類であったのか。

 本来ならば霊具に選ばれた持ち主であっても、使いこなすにはそれなりの月日を要する筈の魔法効果は、現在進行形でガンガン仕事をしている。

 幼女が背負っただけで霊具自体が積極的に力を発揮し、ほぼ全自動(フルオート)で風壁を発生させて攻撃を余さず弾く光景は……なんというか世間一般大多数の頑張って日々を生きている冒険者や傭兵、あるいは兵士の皆さんからすれば、正気が削れるレベルで理不尽な光景であった。

 

「むぅ……これはおねぇちゃんとして負けていられませんね」

 

 精進です、と胸元で両拳を握って気合を入れているリリィの頭をポンと一つ叩き、ヘザーは最初にオフィリが指示した木箱へと眼を向ける。

 

「おチビちゃんが聞いた『声』が確かなら、《雪精狐(スノー・フェネック)》はあの辺りの木箱の中だ――他の魔獣の幼体もな」

 

 どうやら密売人達は冬や氷雪に属する種族に的を絞って集め、木箱内やその周辺に魔道具を用いた熱源を置く事で逃げ出さない様に体力を削っているらしい。

 有効なのだろうが霊獣達への負担が大きい手法に、リリィの表情が憂慮で曇る。

 

「あれは寒い処に棲む仔達には辛い環境ですね……早く助けてあげましょう」

「焦るな。先ずは此処の連中を無力化してからでないと意味が無い」

 

 流石に場慣れしているヘザーが、落ち着き払った声で諫める。

 梁の上から戦闘の中心地と周囲の人間の位置取りを確認した彼女は、指先を軽く折り曲げて身振りだけでついてこいとリリィに示した。

 大きな倉庫という性質上、天井を走る梁は普通の家屋より幅広ではあるが……音も無く、まるで平地を移動するかの様に身を低くしたまま小走りで梁上を駆けるのは流石の技量である。

 一方でリリィも先を行く猫毛の冒険者程では無いが、中々に身軽な身のこなしだ。

 故郷に居た頃はどちらかと言えばインドア派だったとはいえ、彼女も深き森の中で暮らしていたエルフだ。木登りや樹々を渡っての移動には心得があった。

 二人は倉庫奥の壁際――積み上がった木箱の影に隠れ、大暴れするブライシオ達からなるべく距離をとって固まった者達の真上へと移動する。

 何やら言い争いをしてる恰幅の良い商人らしい男とその小間使い、それを囲む護衛らしき男達の頭頂を見下ろし、ひそひそと小声でのやり取りを始めた。

 

「あの方が今回の主犯、という訳ですね」

「あぁ、先ずは周りを片付ける。あの商人を中心に、奴の周辺だけを除いて八……いや、九歩分だ。やれるか?」

「オフィリの扱う霊具の御蔭でこの辺りの風の精霊も活発化しています。楽ちんです」

 

 軽く打ち合わせをすると、ヘザーが己の腰元へと手を廻し、小さな水筒を取り出す。

 入っているのは水ではなく、きめ細やかな粉末だ。そっと商人たちの頭上より撒かれたソレは、リリィの風の魔法による繊細な微風で渦を巻き、外周へと膨れる螺旋を描いて静かに降り注ぐ。

 

「……? なんだ、甘いにお……」

 

 護衛の一人が小鼻をひくつかせて呟いた瞬間。

 悲鳴も上げずに突如バタバタと倒れ伏す男達。その中で無事であった中心の商人だけがギョッとした表情で目を見開き、狼狽えて後退る。

 粉末の正体は言わずもがな、麻痺毒の一種だ。

 ヘザーも腕利きの斥候だ。あの女斥候に劣らず、こういった毒物に精通している様だった。

 今回使用した物は即効性の高さもあって、辺境などでは麻酔代わりに医療で使われる事もある。濃縮して粉末化させたソレは、大した魔力強化も出来ない手合いならば一息吸い込めば即座の無力化が可能な代物であった。

 

「なっ、なんだ!? 一体なにが……!」

 

 怯えて壁に周囲を見回す男の正面に、バイオレットブラウンの髪とマフラーを靡かせたヘザーが音も無く着地する。

 

「――! なにも……」

「動くな」

 

 誰何の声を上げて距離を取ろうとするも、背後は壁。

 そうでなくとも荒事は雇った者達に任せている商人が、一流の冒険者の動きに反応出来る筈もなく、一瞬で腕を捻り上げられ、首筋に小さなナイフが突きつけられる。

 護衛が倒れると同時、風の流れを操作して麻痺毒を無害な濃度になるまで散らしたリリィが、一拍遅れてシュタッとばかりに床へと着地した。

 倉庫内の他の誰にも気付かれず、速やかな主犯の鎮圧・確保、完了である。

 

「成功ですね。ナイスコンビネーションでした」

「あぁ、子供とは思えない良い腕だ。近年の火力偏重な若い魔導士なんかよりよっぽど基礎が出来てるよ、お前さんは」

「リリィはおねぇちゃんですからね。いぇーぃ」

 

 今もわんわんと一緒に暴れている友人そっくりのドヤ顔で、ムフーっとばかりにピースするリリィ。

 ヘザーはそのピースサインを視界の端に収めて苦笑し――直ぐに表情を削ぎ落して手にしたナイフをほんの少し押し込む。

 

「詰みだ。あのイカれ女やまだ立ってる護衛共に投降する様に呼びかけろ」

「……ッ、待てっ。今回の商談は組合上層部にも働きかける事が出来る方達が望んだものだ……! 君が誰に雇われたにせよ、この取引の邪魔をしたとなれ――」

 

 買収か、脅しか。

 口早に紡がれた言葉は、更に数ミリ、刃先が喉へと押し込まれた事で強制的に中断される。

 

「安い脅しが通じる様なヘボに見えたか? お前の喉をこの場で掻っ切らないのは、私なりの慈悲なんだがな。無下にされればその分だけ刃先の動きは軽くなるだけだと思え」

 

 淡々と告げられる言葉は抑揚に欠けており、それだけに、首に押し当てられた冷たい刃物の感触が寒気を誘う。

 ごくり、と慎重に唾を飲み込んだ商人は、眼前の冒険者らしき女の背後に佇むエルフの少女へと、慈悲を乞う様な眼を向けた。

 ――が、残念。リリィは既にでっかいわんわんと幼女コンビの活躍を木箱の影から窺い、小声で応援するのに夢中である。

 事前にヘザーから「脅し付けるから何か言われても無視な」と言い付けられているので、どのみち商人の一縷の希望は断たれているのだが。

 

(リリィもいる手前、実際に始末するのは避けたいが……さて、どうするか)

 

 ヘザーが思案をしていると、梁の下にいた男達の中で、商人を除けば唯一麻痺毒の効果範囲を逃れていた者が懇願の声を上げる。

 

「待て、待ってくれ……! 旦那様を殺さないでくれ……!」

 

 それは、子供達が最初に《雪精狐(スノー・フェネック)》と出会った際に声を掛けてきた、商人の小間使いである若者だった。

 必死の形相で詰め寄る彼が、勢いで凶行に走らないとは限らない。

 ヘザーは咄嗟にリリィを引き寄せると、商人に突き付けたナイフはそのままに、逆の掌を若い男へと向ける。

 服の裾から覗くのは、おそらくは射出型の暗器か。油断なく武器を向ける腕利きの冒険者を前に、男は怯えながらも言い募った。

 

「俺がなんとか説得する、そう言ったじゃないか……! 情報を渡す代わりに俺と旦那様の命は保障する約束だろう!」

「……! やはりそうだったか、この裏切者がぁっ……!」

「此処まで来たらもう無理ですよ、今からでも自首して協力しましょう! そうすれば、まだ!」

「何がまだ、だ! 孤児上がりのお前にどれだけの教育と世話をしてやったと……それを、こんな……!」

 

 若者と商人が、状況を忘れたかの様に言い争う。

 

 ここまでの会話から察せられる通り、この若者はヘザーに協力して商人側の情報を流していた内通者である。

 主に臆病と称された気性故か、この密猟取引に将来(さき)が無い、と判断しての英断であったのかは定かでは無いが、主にこの商いの取りやめを説く傍ら、外部の者に接触を持とうとしている事に気が付いたヘザーが取引を持ち掛けた形だ。

 捕縛の際、或いは捕まえた後、協力した若者自身の生命は保障したが……主犯である商人の方は、密猟商売を翻意させる事が出来たら、という条件で情報を受け取ったのだが……。

 既に捕り物は始まった。彼には気の毒だが、時間切れである。

 

 正直ヘザーとしては、説得自体が望み薄であるとは思っていた。

 会話を聞く限り、小間使いの方は分かり易く"旦那様"を心配しているが、どうやら商人の方も単なる丁稚以上の情は抱いていたらしい。

 彼からすれば裏切られたも同然なのでその分憎さ倍増しだろうが……そのせいで頑なになられると面倒だ、と内心で舌打ちする。

 

 降参を促す為に脅しこそしたが、実際の処は子供達に協力を頼んだ手前、安易に血生臭い方法は選びたくないのがヘザーの本音だ。

 絵本の中のお話でもあるまいし、勧善懲悪めでたしめでたし、などと行く筈も無い。

 無いが、幼子を鉄火場に巻き込んだ以上、出来る限り嫌な記憶や思い出にならない様に骨を折るべきだと、彼女の職業意識は訴えている。

 

(切り口にはなるか……)

 

 或いは、この協力者を使えば、商人を穏便に()()切欠になるやもしれない。

 そこまで考えた瞬間。

 それこそ素人でも分かる、背筋が粟立つ様な膨大な魔力の胎動。

 それを感じ取り、ヘザーのみならずその場の全員が倉庫の中心――今も続く戦闘の渦中へと眼を向ける。

 詰まれた木箱に遮られる事でこちらの状況を気付かれにくい位置取りだが、逆を言えばあちら側の戦況も確認しづらい。

 そんな中、種族的にも修めた技能的にも魔法的な探知に優れたリリィが焦った様に魔力を練り上げ、呟いた。

 

「これは……!? 不味いですっ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、の……! クソ餓鬼ィ! 調子に乗るなぁっ!」

「かきーん! ばーりあー!」

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"っ、クソがぁぁっ!?」

 

 何度目かになる叩き込んだ鋼鞭の一撃が風の壁に遮られ、鈍い音と共に弾かれたのを見て、女斥候の喉からヒステリックな絶叫が上がる。

 彼女の武装の中で最も威力のある武器でこれなのだ。毒を塗ってあるとはいえ、投擲用の小さな刃物など通じる筈もない。投げ尽くしてとうに残数ゼロである。

 

 年端もいかない幼女が霊具を扱う事に驚愕こそしたが、女斥候も戦闘者として一流の域にある。

 精霊を宿す武具は練熟には時間を要し、使用にも集中力を求められる上に、未熟な使い手ならば直ぐに消耗してしまうのは当然知り得ていた。

 所詮は子供。連続で霊具を使用させればたちまちに気力切れを起こして集中を欠く様になり、ただのお荷物に成り下がるだろう。

 そう判断して、改めて周囲の雇われ連中にも幼女――オフィリを狙う様に指示したのだが。

 

(どいつもコイツも……! 半端物の出涸らし共っ……!!)

 

 戦力・実力差を悟り、適当な牽制だけを繰り返す者。

 獣人傭兵の武力に怯まず攻撃こそ加えるが、女斥候への反発か、単に子供狙いを嫌がったのか、幼女ではなくその下のブライシオに狙いを定める者。

 命令通り幼い少女へと武器を向ける者もいるにはいるが……それも躊躇いがあるか、狙いも勢いも手ぬるいにも程があった。

 

 密猟品を取り扱う商人に雇われておいて、子供に武器を向けられない……女斥候からすれば、この期に及んで覚悟の足りない、甘ったれな三流以下の愚図の群れにも等しい。

 

 だが、そんな愚図でも数とそれなりの連携で獣人傭兵の動きを幾らかでも制限出来ているのは確かだ。

 ならば、戦闘の難度は多少上がるが自分が幼女の集中力を削り切ってしまえばよいと、手持ちの投擲を織り交ぜて狙い続けていたのだが……。

 

「なんで息切れしない! ただの子供の癖におかしいでしょうがぁっ!!」

「わふん。バフわうっ、ワォン(俺を忘れてもらっては困る)」

「――がっ!? ぐっ……何いってるか分からないのよクソ犬……!」

 

 手にした特大剣(グレートソード)で鋼鞭の打撃を打ち落しながら迫るブライシオが、身を翻しながら蹴りを叩き込んでくる。

 空になった左手に近接用の短剣(ダガー)を握り、女斥候はかろうじて丸太を打ち付けて来るような蹴り足を受け止めた。

 激烈に重たい衝撃に身体が後方に押しやられ、踏み留まるブーツの底が床を削って焦げ臭い匂いを発する。

 小盾から発生する風の防壁は、まるで出力を弱めない。

 それどころか最初は幼女に対する攻撃のみを弾いていたのが、今やその下の獣人の背中にまで護りの範囲が広がっていた。

 

「わふわふ。ウォン。バウウッ、バウッ(盾を渡して数刻後にはこれか。頼もしいな)」

「たてさんにね、ぎゅわーってしてーっておねがいするの! そしたらわんわんもたすけてくれるって!」

「わふん(うむ、逸材という奴か。将来が楽しみだ)」

 

 銜のせいでブライシオはまともに発音が出来てないのだが、何故か普通に会話が成り立っている二人である。

 獣人傭兵が余裕を見せている前提とはいえ、辛うじて拮抗状態に近いと言えた戦況。

 それはオフィリの霊具の扱いが向上したことで、どうしようもなく傾き始めていた。

 女斥候もそれは理解しているのだろう、益々苛立った表情となり、見開かれた瞳は血走っている。

 隈の浮いた顔色も相まって一層恐ろし気な顔つきだった。

 

「くそっ……くそっ! 畜生……! なんで邪魔するのよっ……! シンヤが待ってるのにぃっ……!」

 

 怨嗟の込められた独白と共に、短剣(ダガー)を握ったままの左手で髪の毛を掻き毟る。

 恨み骨髄の怨敵、と言わんばかりに幼女と獣人を睨み付けるその形相は、子供どころか大の大人――それこそ味方である周囲の雇われ傭兵や冒険者くずれであってもドン引きして怯む迫力があるのだが、視線をぶつけられている当人達はどこ吹く風と言わんばかりの余裕っぷりである。

 

「ウォフッ、バウワウッ、ワフフーン?(中々の眼力だな。大丈夫かオフィリ?)」

「……? しすたーとおばーちゃんが、めっ! ってしたときのほーがこわいんだよ?」

「ワッフ……(成程、納得だ)」

 

 元より、超一流に近いゴリッゴリの前衛であるブライシオ相手では、中衛である斥候は相性が悪い。

 周囲にいる者達に一定の質があるか、霊具の護りを抜けるだけの火力を持つ後衛が一人でもいれば、それらを見せ札にした立ち回り方もあったが……それらが欠けた戦力では、勝ちの目は最初から無かったのだ。

 或いは、女斥候がまだ正規の資格を持つ冒険者であった頃。

 その頃の……《水剣》の一党であったときの仲間が一人でもいれば、それだけでブライシオはもっと苦しい戦いを強いられる事になっただろう。

 だが、それも無意味な前提だ。

 あの頃の仲間がこの場に居たとしても、誰であっても女斥候を止める側に回っていた。それこそ彼女が求める青年であっても、当然の如く。

 何より彼女自身が、青年以外を只の邪魔者として認識していたのだから。

 

 身から出た錆、因果応報、自業の末。

 

 彼女の今の境遇は、そう評するに相応しい。

 恋敵である事と、仲間である事、友人である事は、きっと両立できた。

 ほんの少し歩み寄れば、ただ、それだけで……もっと違う現在(いま)もあった。

 自身も他者も傷つける、毒にも近い恋か愛を謳い立て――今尚その毒に身を浸し続ける女は、その事に気が付けない。

 

「もう、いい……」

 

 追い詰められ、煮詰まり、狂態を見せる者特有のギラついた眼が、相対する肩車コンビ以外の周囲まで憎々し気に睥睨する。

 

「……どいつもこいつも邪魔ばかりっ! 折角私がシンヤの隣に帰れるチャンスなのにぃっ!!」

 

 斥候としての技術を生かす為に必要な一握の冷静さすら放り投げ、髪を振り乱した女は腰のポーチから一つの筒を掴みだす。

 保護性の高い硬質の筒から引きずり出されたのは、一枚の呪巻物(スクロール)だ。

 規模や威力、効果の高い魔法である程、込めるのに掛かる時間や魔力、皮紙の素材価値が跳ね上がる為、基本流通しているのは低位から中位の物が殆どなのだが――振り回すように広げられ、発動した呪巻物(スクロール)から溢れる魔力は、紛れもなく最高位に近い、極大級のものであった。

 どの様な属性であれ、こんな屋内で高精度の魔力制御技能の無い……即ち魔導士でも無い者が発動させれば、敵も味方も関係なく全員を吹っ飛ばしかねない代物だ。

 下手をしなくとも使用者まで巻き込まれるのだが、発動させた当人は眼を血走らせて髪を振り乱し、口の端には涎まで垂らした状態だ。まともな判断の下使用した訳もない。

 

「――! ヴァフ!(いかんな!)」

 

 周囲――それこそ倉庫を消し飛ばして周辺区画にまで被害が出るであろう魔力の胎動に、ブライシオは咄嗟に飛び出した。

 被弾覚悟、ごり押しで女斥候を叩き斬ろうと剣の柄を握る腕に力を込める。

 完全に発動する前に呪巻物(スクロール)を破壊すれば、暴発の規模も最小限で済む。至近距離であっても己なら死にはしない――そう判断しての瞬間的な選択だったが、そこで彼は自分が肩車している存在を思い出した。

 迷いは一瞬。特大剣(グレートソード)を床に突き立て盾として翳し、防御の体勢に切り替え。

 同時にオフィリを下ろして小脇に抱え込み、自身の背に隠し、数瞬後には放たれるであろう破壊力に備えて牙を噛みしめる。

 

「オフィリ! ブライシオ様!」

「全員死ねぇっ! シンヤが私にくれた愛の力で、死んでしまえぇぇっ!!」

 

 リリィの切羽詰まった叫びと、狂気で裏返った女の叫びが、倉庫内の多くの者達が挙げた悲鳴に混じって大きく響き渡り――。

 

 

 

「――姫! ここにおられましたか!」

 

 

 

 そんな場違いな程に陽気な声がその場の全員の耳に届き、同時に極大クラスの魔法が発動した。

 

 

 

 

 

 

 目を焼く強烈な魔法の光が、其処にいた全員の目を灼いて。

 

「……な、な……!?」

 

 先程までの狂態がそれを上回る驚愕で塗り潰された様な、驚きで罅割れた女の声が、まず最初に耳に飛び込んでくる。

 

「びっくりした……ンだよいきなり。物騒なモンぶっ放そうとしやがって、姫と画伯が怪我したらどうすんだテメェ」

 

 次いで、不機嫌そうな、だが軽い口調の男の声。

 やがて光が収まると、全員の眼には魔法の発動地点であった空間に拳を突き出した、鳶色の髪と瞳をした男の姿が映った。

 男の握った拳。

 其処からまるで圧力に負けて上下に飛び出た様な形で、歪で巨大な氷の柱が屹立している。

 下は床を突き破って深々と大地を穿ち、上は倉庫の天井を悠々とぶち抜いて空に向かって伸びる氷柱は、本来なら倉庫とその一帯を氷結・粉砕する筈であった超低温の魔法の名残であった。

 倉庫の入口から文字通り瞬きの間に呪巻物(スクロール)の発動点に飛び込み、放たれた極大級の魔法を素手で()()()()()男――《魔王》は、微かに霜がへばり付いた自身の拳を開いてプラプラと振る。

 

「へぇ。俺に冷気を通すのか……良い魔法だな」

「……なんなのよアンタはぁぁぁっ!!」

 

 不機嫌から一転、楽しそうな表情(カオ)で開いた掌を眺める《魔王》に向け、ヒステリックな声が向けられる。

 認め難い、有り得ない光景を目の当たりにしたかの様に、口角泡を飛ばして女斥候は叫んだ。

 

「極大級の――シンヤがくれた、彼の本気の魔法よ!? なのに、なのに……!」 

「シンヤ? あぁ、アイツの後輩の……大会じゃ縛ってた様だが、そうか。マジでやればこのレベルなのか。一回遊んでみてぇな」

 

 益々楽しそうに笑うと開いた拳が再び握り込まれ、じゅっ、と音を立てて付着した氷が蒸発する。

 大戦真っ只中に呪巻物(スクロール)を作成した本人――シンヤが聞けば「とばっちりじゃないですか!?」と、白目を剥いて悲鳴を上げそうなセリフを吐いた魔族領の長は、そこで漸く背後の知り合いへと首を向けた。

 

「――で、だ。なんでお前がいんだよブライシオ。それよりなにより画伯を小脇に抱えるとか羨ましいので変わって下さいお願いします!」

「うむ、今日も平常運転だな陛下は」

 

 魔法の炸裂に備えて歯を食いしばった為、咥えた銜が砕けたブライシオが常のテンションに戻って頷く。

 おじちゃんだーと手を振るオフィリに向けて、ニッコニコで手を振り返した男の後頭部に鋼鞭が叩きつけられた。

 

「そうだ画伯! 外はちょっと天気が怪しくなってきたので傘をお持ちしました! 良かったらお持ち下さい!」

「おそと? あめふるの?」

「まだ確定じゃないですけどネ! ちょーっと妙な匂いだったんで、お洋服が濡れるのが嫌なら後で俺が()()()を見てきますヨ!」

 

 打ち付けられた衝撃ガン無視で平然と幼女との会話を続けるロ〇コンに向けて再び鞭が振るわれるが、今度は振り向きもせずに掴み取られる。

 

「そういえば陛下、何故聖都に? 補佐殿は知っているのか?」

「……あっ。いや、うん。これには深い訳があってだな……黙ってて下さいお願いします」

「む。そうか……補佐殿には世話になったので不義理はしたくないのだが……」

「お、俺も前に仕事の斡旋したり魔族領(ウチ)に来ないかって誘ったりしただろ! 黙っててくれたら塩分けてやるから!」

「塩」

「塩。肉とか焼いて喰うときに重要だろ」

「否定はせんが……」

 

 ブライシオと会話しながら無造作に引き千切った鞭を放り捨てると、今度は短剣(ダガー)が首の動脈を狙って突き込まれ――それを二本の指で挟み込んで止め、鬱陶しそうに《魔王》は振り返る。

 

「さっきから何なんだお前。構って欲しいなら後で遊んでやるから大人しく待ってろよ」

「糞、クソがっ! ふざけるなっ! ……彼が、シンヤが私にくれた切り札が、アンタみたいな訳の分からない奴に……!」

「話が通じねー……なんなのコイツ?」

 

 珍しく辟易とした表情になった《魔王》が幼女と獣人に向けて「誰なのコレ?」と視線だけで問い掛けると、二人はちょっと顔を見合わせた後、口々に答えを返す。

 

「元はシンヤの仲間だ。今は密猟者の一派だがな――街中でオフィリとリリィを襲っていたので、偶然俺が助太刀に入った」

「きつねさんにいじわるしてたひと。おふぃーはめっ、ってしにきたの!」

 

 次の瞬間、《魔王》の腕がコマ落としの様に消え、短剣(ダガー)が粉砕されて細かな破片となって宙を舞う。

 ベヂィ! という平手で肉を打つ様な――だが異様に重みを感じさせる音と共に、女斥候が砲弾の如き速度で射出された。

 悲鳴・苦鳴の類すら上がらない。

 一直線に吹き飛んだその身体は進路上にあった荷の残りを粉砕しながら倉庫の壁を突き破り、轟音響かせて外へと飛び出し、隣の倉庫の外壁へとめり込んだ。

 漫画みたいな人型の穴が空いた壁を見て、事の成り行きを呆けて眺めていた雇われ者達の顔が一斉に青褪める。

 

「一派っつー事は仲間がいるんだよな? 他は?」

「此処にいる連中は大半がそうだが」

 

 不機嫌そうな問いにブライシオが即答した瞬間、まだ意識のある傭兵や冒険者くずれの男達は一斉に武器を放り捨てた。

 

「「「降参します」」」

 

 一糸乱れぬホールドアップからの唱和である。

 腕前はともかくとして、生存本能とそれに伴う状況判断は中々に優れた連中であった。

 

「……無事、と言って良いのか分からないが終わった様だな。随分と肝が冷えた上に、予想外な事が連発したが」

 

 一気に片付いた状況を見て、遅ればせながら鳥・犬・幼女の下に歩み寄って来たのはヘザーだ。

 その両手は、拘束して襟首を掴んだ人間を一人ずつ引き摺っている――言う迄も無く、今回の主犯である商人と、その小間使いである若者だ。

 そんな彼女を追い抜いて、エルフの少女が前に飛び出してくる。

 

「お、姫! 傘をおm「オフィリ、無事ですか……!」」

 

 にこやかに手を挙げた《魔王》をスルーし、リリィは友人の傍へと駆け寄ってそのちいさな身体を抱きすくめた。

 

「ごめんなさい、リリィはお友達の危機を前に何も出来ませんでした……おねぇちゃん失格です」

「……? おねぇちゃんはおねぇちゃんだよ?」

 

 沈痛の表情で悔恨滲ませた呟きを発するリリィだが、オフィリは不思議そうに小首を傾げて"おねぇちゃん"の頭を背伸びをして撫でている。

 ちなみに無視されてやや所在無さげにしていた《魔王》だが、一瞬で切り替えて「幼女同士の抱擁……これはこれで尊い……」とか感じ入った表情で頷いていた。

 友人に頭をよしよしされて気落ちした精神を幾分か回復させたリリィが、その友人と手を繋いだまま、一度はスルーした《魔王》のもとへとやってくる。

 

「助けて下さり、感謝いたします」

 

 噛みしめる様に呟かれた言葉は端的であったが、その分、心からの想いが籠っている。

 一連の流れが一瞬過ぎて視認すら難しかったのだが、オフィリも先程の"こわいまほー"を潰してアート染みた氷柱に変えたのが《魔王》である事は理解しているのだろう。

 リリィに倣って「ありがとーおじちゃん!」と元気よく感謝を告げると、ペコリと丁寧に頭を下げる。子供ながらに礼儀正しい一礼は保護者(ブラン)の教育が窺えた。

 

「えっ、なにこれ嬉しい……俺今日死ぬの?」

 

 子供達から感謝と、ちょっと尊敬の混じったキラキラとした視線を向けられ真顔でアホな事を言い出す超越者。普段どういう扱いを受けているかが透けて見える反応である。

 

「……まぁ、なんだ。とりあえず話の擦り合わせをしよう。倉庫はこんな状態だし、何故か《魔王》陛下はいるし……依頼失敗かもなこれ……一月がかりだったのになぁ……」

 

 ヘザーが疲れた様子で長々と息を吐き出し、空の代わりに天井をぶち抜く氷柱を見上げる。

 不発に終わったとはいえ、あんな規模の魔法行使があったのだ。もう少しすれば衛兵が駆けつけて来るだろう。

 駄目押しとばかりに、この場には一応、一国の主たる男がいるのだ。何をどうやっても後日になって話がデカくなるのは確定だった。

 

「うむ、こういう事もあるだろう。そう気を落とすな」

「……言っとくがな駄犬(デカいの)帝国(依頼主)から失敗判定出たらお前も今回タダ働きだからな?」

「――! そういえばそうだった……不味いぞ、霊具まで持ち出したのに兄弟に叱られてしまう」

 

 ブライシオが肩を叩いてヘザーを慰めるも、タダ働きはお前もだと半眼で宣う彼女の言葉に愕然とした顔で硬直している。

 ワイワイと仕事終わりの雑談を繰り広げる愉快な一団を眺め、拘束されてヘザーの足元に座らされている二人――商人とその小間使いがなんとなく目を見合わせた。

 

「……結果的にあの魔法は不発に終わったが……あんな真似をしなければお前は縄を受けなかっただろうに……何故だ?」

 

 裏切られた、そう思って煮えていた感情がすっかり鎮火した様子で、商人が力無く呟く。

 リリィが全力で魔力障壁を展開するのと同時、若者はヘザーに飛びついて突き飛ばし、商人の男を押し倒して身を伏せようとした。

 当然そんな真似が成功する筈も無く、普通に避けられ、殴り倒されてこうして拘束を受けている。手加減はされたのだろうが、彼の頬は真っ赤になって腫れあがっていた。

 

「元から彼女に協力したのは、旦那様と俺自身の量刑を酌量してもらう為です……俺だけ無事でも意味がないんです」

「……牢屋入りしても構わない程に、この取引は受け入れられなかったか」

「……これは、旦那様が教えてくれた"商い"じゃない。阿漕な真似もする、汚い手だって使うけれど、それでも商人としての道筋だけは外れなかったアンタが、"犯罪"で金儲けをするのは我慢出来なかった、それだけですよ……」

 

 恩義か、敬意か。はたまた言葉に出来ぬ別の感情があったのか。

 やや投げやり気味ではあるが、胸の裡を吐露した若者の表情は、言いたい事は言えたとばかりにスッキリしたもので。

 その顔は痛々しく腫れたままだが、何処か満足気ですらある。

 

 臆病で行動力が足りず、幾らか教育こそ施したが肝心の商才にいまいち欠ける、孤児上がりの小間使い。

 

 そんな風に思っていた若造が見せた言動と、今回見せた行動力。

 それらを振り返った商人は、毒気を抜かれた表情で倉庫の天井を見上げ、溜息を洩らした。

 

「どうあれ、商人としての私は完全に終わりだ。密猟した霊獣の幼体を都市に持ち込んだ以上、牢から出てこれるのも何時になるか分からん」

「…………」

「情報提供者のお前は、牢屋入りしたとしてもそう長く掛からんだろう――出たら、以前に寄った南部の問屋に向かえ。多少の資金を預けてある、好きに使うがいい」

 

 素っ気なく告げられた言葉に、若者は眼を見開く。

 驚きと、幾ばくかの喜び――けれど小さくない困惑を抱いて彼は眉根を寄せた。

 

「……これから旦那様の資産は全て没収されると思うんですが……」

「法的には独立させてある。調査はされるだろうが手は出せんよ……それをやれば、非常用のプールをしている全ての商会に喧嘩を売るも同義だ」

 

 博打同然の真っ黒な商売に手を出し、賭けに負けて。

 打ちひしがれ、くたびれた様子の商人――否、商人だった男は……若者に己の最後の財を託したそのときだけは、嘗てのやり手な商い人らしい、太々しい笑みを見せたのであった。

 

 

 

 

 

 

「っと、そういえばリリィ。落し物だ」

「……? あ、落としていましたか。ありがとうございます、ヘザー様」

 

 猫毛の女冒険者が差し出した小さな、やや厚みのある棒状の物を、エルフの少女は両の掌で受け取って大事そうに眺め廻す。

 

「見た感じ、呼子か? あまり見ない意匠だが……」

「その様なものですね。これはリリィの最終兵器なのです」

「……その笛が、か?」

 

 訝し気な問いにこっくり頷くと、リリィはしっかりと上下左右から掌サイズの笛を見廻し、どこも壊れてない事を確認して。

 首から下げていた紐が切れてしまったソレを、ハンカチで丁寧に包んでポケットにしまう。

 

「先程、咄嗟に吹いてしまいましたが……結果的には《魔王》様の御蔭で事なきを得ていますし、必要の無い御足労をかけてしまいます。あとでごめんなさいしなければいけません」

 

 己の不甲斐無さに忸怩たる想いを抱き、だからこそ次はこの経験を生かそうと、少女は自身に固く誓う。

 

「今回は赤点でした、おねぇちゃんとしても従者としても、次はしくじりません。目指すはぱーふぇくとおねぇちゃんな従者なのです」

 

 明後日の方向をびしっと指さし、愉快な仲間達が「おー」とか言って小さく拍手する中、少女は誓いも新たにフンス、と鼻息荒く気合を入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 薄暗い路地裏を、ふら付く足を叱咤して女斥候が駆ける。

 

「ハァ……ッ、ハァ……。く、そ……! 薬の瓶まで割れてたらヤバかった……」

 

《魔王》の無造作な平手で胴を打たれ、人間砲弾となって倉庫の外壁に突き刺さった彼女だが、失神から直ぐに意識を取り戻したのは幸運だった。

 ポーチや身体の各処に仕込んだ様々な道具は大半が破損していたが、無事であった物を使って最低限の処置を行い、こうして必死に逃げを打っている。

 市販の物では最も優れた回復効果を持つ霊薬を服用してなお、じくじくと傷む全身の打撲に、自然と悪態が漏れた。

 

「あれが、魔族の王……とんだ化け物じゃない、なんで私ばかり……!」

 

 圧倒的、という言葉ですら生ぬるい力の差を叩きつけられた事で、多少は頭が冷えた。

 そうなれば、あの獣人傭兵が「陛下」と呼んでいた事も含め、乱入者の正体を察する事は容易い。

 同時に、重要な――恋人である青年のもとに帰る為の仕事の最中に、あんな怪物と遭遇してしまった自身の不幸を嘆く。

 もうどうしようもない。あの仕事から得られる貴族のコネは諦めるしかなかった。

 だが、あくまで今回の件に関しては、だ。彼の――シンヤの傍に戻る事を諦める訳もない。

 彼だってきっと待ってる。あの死神に無理矢理に一党を追い出され、正規の冒険者資格まで剥奪されてしまった自分を、きっと今でも待っていてくれている。

 彼女の中ではそれが真実であり、揺ぎ無い確信なのだ――現実がどうであれ。

 

「とにかく、聖都を出ないと……後は傷を癒して、装備の修繕を……あぁ、シンヤぁ……」

 

 一刻も早く冒険者として返り咲き、大切な青年の傍へと戻らねばならないというのに、今回の仕事が滅茶苦茶になった御蔭でやる事が山積みだ。実に忌々しい話である。

 あの場にいた連中――特にノコノコと首を突っ込んできた獣人傭兵と子供二人をまとめて縊り殺してやりたくなるが、今の状況や身体のコンディションでは無謀な話だ。

 なにより、愛する青年のもとへ帰る事の方が遥かに重要である。機会(チャンス)があれば消す、その程度に留めて頭の片隅に置いておくべきだろう。

 ボロボロになった格好のまま、狭い路を進む。

 

「先ずは住民区に……難民が使ってた空き家を……日が暮れるまで身を隠して――」

 

 痛みと体力の消耗で重くなる意識と身体。

 それを動かす為、声に出してこれからの行動を呟きながら、走る。

 何はなくとも人目を避けねばならない。その為に住民区への迂回路となる道順(ルート)を頭の中に書き起こそうとした、そのときであった。

 

 

 

 ――意外やな。聖都には絶対に近寄らないと踏んでたんだが。

 

 

 

 そんな、何処からともなく聞こえてきた声に、女斥候は足に杭を打ち込まれたように動きを止めた。

 同時に気配も何も無く、唐突に彼女の目の前に人影が舞い降りる。

 屋根の上から飛び降りて来たらしき()()は、全身鎧であるというのに音一つ立てずに着地し、深く膝を曲げた姿勢からゆっくりと立ち上がった。

 

「あ、ぁ……ひ、ぁ………」

 

 身体が、思考が、凍り付く。

 全身を巡る血液まで凍え、冷え切る様な感覚。

 だというのに、心臓の音だけは煩い。バクバクと脈打つ心音が耳に響く。

 

 ――いやー、知り合いから預かってる子がさぁ、もしもの時に渡した警笛を吹いたみたいでさー。

 

 軽い、彼女の愛する青年と比べればいっそ軽薄にすら感じる口調の言葉も、耳に入らない。

 薄暗い路地にカチカチと小さく鳴り響くのは、震えにより上下の歯がぶつかる音であった。

 手足の指先は冷え切っているというのに、女の背中は冷たい汗でぐっしょりと濡れそぼっている。

 

 ――いや、悪戯で吹いたりはしない子でね? こりゃいかんと慌てて笛音の場所に向かってたって訳よ。

 

 暗がりに沈み込む様な漆黒の装甲とは正反対の、場違いな程に明るい独白は続く。

 それを正面から見つめる女斥候の瞳には、涙が滲み始めていた。

 

 ――あ、ちなみにその子、エルフの女の子なんだけど。背丈はこんくらいの。

 

「――えっ……ぁ……ち、ちが……待っ……!」

 

 ――で、向かう途中で必死こいて走るボロボロなおたくを見掛けた訳だが……まさか関係あったりしないよな?

 

 しょわー、と。

 極小さな水音を立てて、女の内腿を液体が伝う。

 精神的負荷が臨界を超え、ガクガクと身体が痙攣を始めるも、眼前の死神はそれにはなんら頓着する事無く。

 答えは聞いた、と言わんばかりに、無言の儘、全身に深紅の魔力光が奔る。

 死神がゆっくりと片手を挙げ、こちらに向けた光景を最後に、彼女は限界を迎えて視界が暗転――綺麗に意識を飛ばしたのだった。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

「バイバーイ! またねおねーちゃーん!」

 

 元気に手を振るオフィリへと応えて手を振り返し、リリィは家路につきます。

 陽が沈む前には終わる予定のお使いでしたが、予定外の冒険を挟んだ事で既に時刻は夕方に差し掛かろうとしていました。

 リリィはおねぇちゃんなので問題ないですが……予定時刻より大幅に遅れた事で、オフィリを待つ孤児院の皆は大層心配している事でしょう。

 幸い、ヘザー様がオフィリを送り、保護者であるシスター・ブランにも事情を説明するとの事でしたので、お任せした形です。

 やはり今回の一件は事が大きくなったので、後日に冒険者組合と聖都の衛兵詰め所の両方に報告書を提出するのだとか。お疲れ様ですね。

 ブライシオ様は「兄弟に消化の良い物を見繕ってやらねばならん」と仰って、倉庫前でお別れする事に。

 相棒であるボルド様と共に、暫くは聖都で仕事を探すそうなので、また御一緒する機会があるやもしれません。

 

 そして、今回窮地にて助けて頂いた《魔王》様ですが。

 

 現在、聖都にはいらっしゃいません。

 かといって、魔族領にお帰りになった訳でも無いのです。

 切欠は、囚われていた《雪精狐(スノー・フェネック)》や他の魔獣の赤ちゃんなどをご覧になった際の話でした。

「あぁ、これの所為か」と頷く《魔王》様によると、聖都より北に見える山脈に、《雪精狐(スノー・フェネック)》――子狐さんのお母さんがやって来ているとの事です。

 なんでも、このまま放置していれば二日もしない内に冷たい雨や雪を撒き散らしながら聖都に突撃してくるとか。

 今回の一件、時間的に相当にギリギリのものであったのだと、皆で胸を撫で下ろした次第でした。

 

「ついでなんで、子供届けるから山で大人しく待ってる様に俺が言いつけてきますヨ!」

 

 親指を立てて軽い口調で仰り、そのまま物凄い速さで北のお山へと走り去った《魔王》様には頭の下がる思いです。

 今回は本当にお世話になったので、出来れば《亡霊》様や他の《災禍》の方々に《魔王》様を叱らない様にお願いしたい処ですね。あの方がいなければ、リリィもオフィリも少なからず怪我を負っていた可能性が高いのです。

 あ、問題の霊獣・魔獣の仔達ですが、オフィリのお願いを聞いて、現在はあの倉庫内に留まっています。

 水や氷、冬に関わる種族が殆どで、高温を保った木箱や檻に閉じ込められて衰弱している仔が多かった為、野に帰すにしても体力を回復させてからにするのだとか。

 あの魔法を《魔王》様が強引に抑えつけた事で、今、倉庫内は彼らにとって濃密な氷結の魔力漂う非常に居心地の良い環境となっています。

 それもあって、オフィリのお願いはあっさりと受け入れられました。種族問わず氷柱の周りに陣取って寝転がる様は、とっても可愛らしい光景でした。皆がお家に帰る前に、もう一度くらいは見ておきたいですね。

 

 さて、この後は一旦大聖殿へと戻り、更に設置してある《門》を通ってお家に帰る予定です。

 色々とあった今回のお使いですが、義母(かか)様は今日のお夕飯はハンバーグだと言ってしました。一日の〆に一番美味しいご飯が待ってると思えば、疲れも吹き飛ぶというものです。

 

「おや、あれは……」

 

 ハンバーグと義母(かか)様のお顔を交互に思い浮かべて足取り軽く家路を急ぐリリィですが、向かう方角より歩いて来る方の姿に気付いて、小走りに駆け寄りました。

 

 ――リリィ。

 

(あに)様。迎えに来てくださったのですか」

 

 ――笛が聞こえたからなぁ……まぁ、なんも無かったなら良かったよ。

 

「……申し訳ありません、鳴らした直後に解決したのです。お手数をおかけしました」

 

 苦笑して頭を撫でて下さる(あに)様を見て、なんとも申し訳ない気分が湧き上がります。

 従者の身でありながら御迷惑をかけてしまったリリィですが、特段気にした様子も見せず、(あに)様は掌を差し出してくれました。

 聖者様たる御方に対して不敬では無いかと少々躊躇いましたが……以前にも経験があるので今更です。結局は自分の掌を重ね、聖殿までの道程を手を繋いで歩き出します。

 (あに)様の手は大きくて暖かくて、ちょっとごつごつして、義父(とと)様の手と似ていました。

 ……むむっ、手を繋いで歩いていると、なんだかホワホワしてくるのもおんなじですね。これは重要な知識です、あとで忘れずにメモしておきましょう。

 

 ――御機嫌やなぁ。今日は楽しかったか?

 

 隣を歩く(あに)様の言葉に、リリィはちょっとだけ考え込みました。

 正直に言ってしまえば、色々と未熟を痛感した事も多いですが……。

 

「はい。とっても楽しかったのです」

 

 こればかりは本当であると確信して、リリィは力強く断言したのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






後日、ある日の聖都にて



「オッスお義理兄(にい)さん! リリィちゃんを僕にくだしぁ!(挨拶」


銘名(リネーム)》。




リリィ

友達とお買い物の筈が都市内でちょっとした冒険をすることに。
あわやお友達が怪我をするかもしれない、という状況で何も出来なかったので、益々精進すべしと意気を燃やす。
駄犬がくれた呼子を所持している。偶に受け狙いで買う意味の分からない魔道具に手を加えた品なので予備もなく、今の処オンリーワン。吹けばたちまち完全起動で飛んでくるぞ!
ちなみに二人でのお使いは後日、きちんと再チャレンジして問題無くこなしたらしい。



オフィリ

特異な才能を持つ事が判明したわんわんだいすき少女。ぅゎょぅι゛ょっょぃ。
多分、今の時点でももう一つくらいなら霊具を平行使用できる。同系統の技能持ちのなかでも天才の部類。
精霊との契約、貴重・希少である霊具を手に入れる、といった前提の難易度が高い技能ではあるが、全部クリアした状態で冒険者になろうものならふっつーに特級の道が見えてくる。
尚、本人に今の処その気は無い。冒険者を目指す兄貴分の少年が妹分の才能知ったら滅茶苦茶複雑な気持ちになりそう。


へざーちゃん

普通に優秀な一級冒険者。
直接戦闘よりは潜入とか調査とか、調査を元にした下準備とか、そっち方面が得意。
才気あふれるが同じ位に個性的な幼女や傭兵と行動を共にし、色々と気苦労の多いポジションに据えられた。お疲れ様である。
大事になりかけたし、聖殿の方にも話がいったので依頼失敗かと思われたが《魔王》が関わった割には被害規模が小さいということで、多少差っ引かれただけの報酬金をゲット。
以降、偶にわんわん傭兵コンビと一緒に仕事をする事になってるかもしれない。


ブライシオ

聖都に来た途端に面白いゴタゴタに巻き込まれた。ご満悦。
そこそこ暴れたし、臨時収入も支払われたし、今回、ほぼほぼ得な目にしか合ってない良い空気吸ってる勢。


ボルド

トイレの住人だった。
飯を買って来てくれたのは有難いが、面白そうな事を自分抜きで楽しんで来たのはひどいぞ兄弟。


《魔王》

今回は割とファインプレーが多かったロリコン。
帰ったら怒られたし、小遣いも一旦99パーカットになったが、エルフ娘の両親の要望もあって直ぐに七割カットになった。
後日、エルフ娘からお礼として手作りクッキーを貰ったらしい。
永久保存しようと聖女に時空凍結使ってくれと頼みに行ったが、当然断られる。


商人と小間使い

実は霊峰編の序盤で出てきた連中。
鉄拳お嬢様との出会いの一件で成敗された悪徳貴族とも商売していた、グレーゾーン系商人。
犬とエンカウント以降、転がり落ちるように落ちぶれていった結果、明確な犯罪である密猟商売に手を出した。
それも幼女と冒険者と傭兵と超越者という、意味の分からない一団に邪魔され、失敗。
実質弟子にも近い関係だった若者の奮闘に絆される形で、大人しくお縄に。
諦め半分ではあるが、一応最後の最後に踏み止まれた感がある。
多分、小間使いの方は将来魔族領で細々と堅実な商売を行う行商人とかになってる。


女斥候

ヤンデレでメンヘラ。ストーカー気質も備えた核地雷。
普通なら周囲にとんでもねー被害をばら撒いた末に血生臭い事件を引き起こすタイプなのだが、ヤンデレの狂気が全く通じないメンタル鋼な一団を相手にしたのが運の尽きであった。
敵対状態の鳥と犬に連続で正面から相対という、邪神でも体験しなかった希少な経験をした人類種。末路? 察しろ。

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