俺氏、ループ系TS聖女様をいつの間にかメス堕ちさせていた模様 作:弐目
例によって文字数が伸びたので(ry
「よっしゃ、それじゃ行くか! 先ずは点呼とr「あ、それオレ達が先にやってるから省略で」あ、そう……」
勢い込んで拳を振り上げた《魔王》の発言をオレがさっくりと却下すると、膨らみきって破裂しそうに高いテンションだった奴の調子が少しだけトーンダウンした。
挨拶、というにはやたらとドタバタとバイオレンスが混じっていた顔合わせが漸く終わり、初日のメンバーが集って現地に出発する時間がやってきた。
教国、帝国、魔族領の各面子は、城の門前へ移動して各々の荷物を手にすっかり準備を終えている。
大森林――サルビア達からも一応参加するという旨は届いたらしいが、流石に初日からは無理らしい。予定を組んで数名が順次日替わりになるそうだ。
魔族領からは言い出しっぺの《魔王》は勿論、《災禍の席》からブレーキ役として《万器》と《赤剣》も同行するらしい。
確か《亡霊》や《狂槍》みたいな比較的常識枠とは違って、この二人は《魔王》寄りの我が道を行くタイプだったと記憶してる。ブレーキ役として機能するのかよこれ。
せめて《不死身》が居ればまだマシだったのかもしれないけど、参加は午後から。しかも現地周辺を巡回してる幹部と連絡を取りに行くという事で、単独行動との事だ。
あとは、何人かの彼らの部下にあたる人達が参加するんだけど……。
「わ、
「南部はこの時期でも気温はほぼ夏に近い……あちらではこれが適温だろう。飲むのもそうだが、日差しがきつい様であれば水筒を首筋にあてるようにしなさい」
その中に《虎嵐》とリリィまで含まれているのは、まぁお察しというやつだ。あの変態不死鳥がリリィを誘わない訳が無い。
魔法瓶――こっちの世界の場合は本当に魔法で中身の温度保護がされてる物だな――を、父親から手渡されたエルフの少女は、その冷たさにびっくりして水筒を眺め廻している。
そんな彼女の頭部に、《虎嵐》はそっと麦わら帽子を被せてやっていた。寡黙で顰めっ面、巌の様な戦士、というイメージの強い男なんだが、義娘を見るその目はひどく柔らかく、優し気だ。
以前に行動を共にしたときは、見た事が無かったくらいに目尻も下がってる。良い親子関係を築けているみたいで何よりだよ。
そんな《虎嵐》だが、流石に今回の義娘の泊りがけ旅行は嫁のシグジリアと共に相当に渋ったみたいだ。結局は同伴し続けるって条件で折れたみたいだけど。
そうでなくともリリィはついこの間まで祭り中の帝国に滞在してたし、定期的に
当たり前だが、今から普通に移動では南部に着く前に日が暮れる。現地へは《門》を使って移動する事になっていた。
泊まり組は向こうにある宿泊施設に、日帰り組は夕方にもう一度《門》を起動させるので其々の出身都市に帰還する事になっているらしい。
初手の挨拶も相当にグダったし、最初から現地に繋いどけ、と思わなくも無かったけど……相棒から聞いたっていう"由緒正しい魔王ごっこ"をやってみたかったんだろうな。
詳細を聞かなくてもなんとなく想像はつく。『玉座の間で勇者を待ち受ける』『決死を予感させる圧倒的な戦力を見せつける』『世界の半分をやるから手を組めとか言う』――相棒が言いそうなのはこの辺りか。
それを自分なりのスタイルに弄ってごっこ遊びに転用したという処だろう。戦争終わってから本当にフリーダム過ぎるだろこの鳥。
何はともあれ、ようやっと目的地に出発だ。
「忘れ物はねぇな? 小遣いは持ったか? ――ちなみに俺はカットされすぎて銅貨三枚しかねぇ! 誰か向こうで飯奢ってくれても良いのヨ!」
堂々とタカるなよ、魔族領筆頭。
切実だが情けない宣言に「ヤなこった」「えぇからはよ《門》開け」といった笑い交じりの野次が飛び、声を上げない面々も苦笑したり肩を竦めたりと反応は芳しくない。
奢ってくれそうな反応が誰からも返ってこない事にもめげず、元気一杯の《魔王》が城の前に設置した魔道具に向けて魔力を注ぎ込む。
――って、多いわ! 量が多すぎてオーバーフローしかけてる。あんな雑に注いでおいて、なんで魔力を馬鹿喰いする《門》に過剰供給現象が起こるんだよ。
使用されてるのは転移の魔導具のタイプとしては一番多い、縦横の幅が2メートル程度の《門》が展開される物だ。今はその5割増しぐらいのデカさになってるが。
過剰供給は魔導具自体に負荷が掛かるから、次からは気を付けて欲しいものである。数回でどうこうなるような強度はしてないだろうが、もし貴重な代物を雑な使い方で壊したら《亡霊》が怒るぞ。
「いよいよかぁ……向こうに行ったらビーチバレーとかしようね、にぃちゃん。ボク、革張りのボール買ったんだ!」
肩に引っかけた荷物の入った袋を掌で叩きながら、アリアが笑う。
こっちの世界にも、本格的なサッカーやバレーに使えそうな品質のボールがあるにはある。大量生産品じゃなくて革製の手作りだから大分値が張るけどな。
普段はほぼ散財する事の無い
――バレーも良いけど釣りもな。大物が俺を呼んでいる……!
うんうんと頷きながらまだ見ぬ海を夢想しているのは相棒だ。
内陸部じゃ需要の関係で海釣り用の竿なんて見掛けないから、向こうで一式揃えると息巻いている。
はしゃぎ過ぎるな、と普段なら釘を刺すところなんだけど……今回は出発直前に醤油が手に入ったからな!
是非とも相棒には刺身に適した大物をゲットしてもらいたい。生で喰う文化が無い土地だと、店売りは加熱が前提なので鮮度が心配なのだ。漁場が近いなら捕れたてを買い取るなんて事も出来そうだけどさ。
こうなると知ってたら、せめて
「もうちょっと量があれば色々な料理に使えたんだけどねー」
「まぁ、マメイ氏も突貫で用意してくれたみたいだし、届けてくれただけでも心底感謝しないとな」
――だな。今回の旅行に縦ロールちゃんと一緒に来たりしないのかねぇ。
相棒とアリアも交えてこれからの食事情について語り合いつつ、光溢れる《門》を潜る。
白んだ光がオレ達を包み、一瞬眩しさに眼を閉じて。
通り抜けた先にあったのは、青い空と、刷毛で佩いた様な白い雲――そして、久しぶりに鼻腔を擽る潮の香り。
季節柄、そろそろ冬も近いというのに《門》を越えた途端にカラリとした強い日差しが全員に等しく降り注ぐ。
ほぼ常夏と言ってよい気候の御蔭か、暑さに強い植生が青々と生い茂り、ヤシ科らしき樹々があちこちで旺盛に背を伸ばしていて。
綺麗な砂浜に押し寄せるのは白い波と、空に負けない程に青く、美しい海。
ざざーん、と穏やかな水しぶきを上げる広大な海と、その圧倒的なスケールに初見の連中から感嘆混じりの歓声が上がったのであった。
今回の目的地、魔族領南部に到着である。
この世界の自然やそこに棲む生物は旺盛な生命力に満ちている。
その所為か、眼前の海は転生前に肉眼で見たそれより遥かに綺麗で透明度が高い。
単純に環境汚染なんかとは無縁というのもあるんだろうな。将来的には流石になんとも言えないけど、少なくとも今の時代では。
――うーみぃぃぃぃぃっ!
「うーみぃぃぃぃー」
相棒とアリアが手を取り合って青い海に向かって万歳しつつ叫んでいる。どういうノリだよ。
「む、御二人が行うは何かの作法ですかな? で、あれば拙僧も……」
「いや、アレはしゃいでるだけだから。グラッブス司祭は真似しなくていいから」
万歳しようと荷物を下ろした司祭を止める。
というか、こんな近距離でこの人の渾身の叫びとか聞きたくない。耳が痛くなるというのもあるけど下手すりゃ音圧で吹っ飛ぶ。
偶に自前で障壁張って、大音声の叫びでそれを叩き割る訓練とかしてるんだよなぁ司祭。相棒じゃないけど、初見は意味が分からんと唖然としたものだ。
遮音性を高めた障壁でも普通に声が貫通するレベルなので、あんまり頻繁だとヒッチンさんに怒られるから頻度は高くないんだけどな。
なんでも昔、音を利用した攻撃で痛打を受けた事があるらしい。それで仲間の足を引っ張った事があるので、今でも対処法を鍛錬してるんだそうだ。
同種の攻撃を相殺する為に編み出した方法が只の全力咆哮ってのは、実にグラッブス司祭らしいけど……やっぱり意味が分からない。普通魔法とかで防ぐだろ。
ちょっと話が逸れたな。
「うわぁ……これが海かぁ……なんというか、自然の景色で感動するのって久しぶりな気がする」
「凄い……レティシアが沖縄かハワイか、なんて言うのも納得したわ。昔テレビで見た様なブルーオーシャンそのものだし」
アンナとミヤコの隊長格コンビも、海を見た事ある無しに関係なく眼前の空と海の青に圧倒されている。
「うっひょぉぉぉっ! 砂浜もちょー綺麗で砂金みたいだし、海の青さもヤッバ! 北方とかだともうちょっと暗かったり黒っぽいのに! ここで暫く遊べるとかマジ凄くない!?」
「落ち着けシャマ。海を見たことあるお前が、なんで《
「あたしもワンコ君とアリア様と一緒に叫んで来る! ――うーみぃぃぃぃぃっ!」
「聞けよ」
ひゃっほーいとばかりにシャマの奴が万歳してる二人の元に飛び込み、間を置かず海に向かって叫んでるのがトリオに変わった。
子供っぽいと言ってしまえばそれまでだが、旅行なんて楽しんだもの勝ちなんだからある意味ではアレも正しいのかもしれない。
あっ! あの馬鹿テンション上がり過ぎてアリアを抱き上げてぐるぐる回り出しやがった! ズルいぞ、オレも混ざっておけばよかった……!
楽しそうに回る奴と、それを上回る満面の笑顔で抱き上げられて回転している
シャマが背後から相棒の両肩を掴んで、奴の生み出す遠心力を利用して同じくグルグルと回っている……最初にちょっと恥ずかしがらずに一緒にやっておけば、最低でもあそこのポジションはオレだったのに。不覚だ……!
「いや、まるっきりはしゃいでる子供でしょうが。アレに嫉妬するとかやべぇこの聖女」
「拗ら聖女」
えぇい喧しいぞ、そこの騎士共! 特にミヤコ、お前今鼻で笑っただろ!?
ギャーギャーと騒ぐオレ達を尻目に、ある程度の歳か長命種の面々はそれなりに落ち着いた様子でこれからの予定を語り合ってるみたいだった。
「流石にこっちゃぁ暑いのぅ。なんで常夏地方にフル装備で来てんのワシら」
「
「それな。ごっこ遊びが終わったら流石に着替える時間くらいは欲しかったっちゅーの」
首筋や顎下に早くも浮かんできた汗を拭いつつ、《万器》と《赤剣》がボヤいている。
「ふむ。先の顔合わせもあり、皆々様共に正装に近い出で立ちです――先ずは着替えと荷物を置く為に、宿へ向かうのですかな?」
顎先に拳を添えて思案するグラッブス司祭の言葉に、この場で一、二を争う年長の癖に唯一全然落ち着いてない男が元気よく手を挙げた。
「宿も勿論手配してるが、このまま遊ぶ為に一旦荷物置く休憩所みたいな場所も当然あるぜ! さぁさ、俺について来な皆の衆!」
自信有り気に先頭を歩く《魔王》だけど、基本どんなアホな言動でも自信満々で発する男なので皆微妙に警戒して後を着いていく。
直ぐそこ、という言葉自体に偽りは無かったらしい。程なくして『休憩所』とやらが見えてきた。
「……ぇえ?」
「まぁ……」
アリアとミヤコの口から呆れと――だけど紛れも無く感嘆も含まれた呟きが漏れる。
設置された《門》のある砂浜から少しだけ歩いた場所。
元より手つかずの南国の海、といった感じの場所ではあったが、そこは岩や流木なんかも殆ど無く、広々とした砂浜の背後にはちょっとした密林にも見える樹々が広がる、絶好のロケーションだった。
けれど、驚くべきはそこじゃない。
アリア達だけじゃない、オレと相棒――即ち転移・転生組の受けた衝撃は結構なものだった。
一際大きなヤシの木が庇を作るその下に、一軒の建物があったのだ。
建物自体は風通しの良さそうな木造り。荷物を置くだけじゃなくてちょっとした飲食が可能なスペースなんかもあるみたいだ。
嘗て元居た世界でよーく見た事のある、赤で『氷』と書かれた青と白ののぼりや垂れ幕が掛かっている。
時折吹く潮風に揺られ、ちりーんと鳴る涼やかな音は――間違いない、風鈴だ。
ここまで言えば、もう大体分かると思う。
眼前の建物は、オレたち日本人がイメージする海水浴には付き物な場所――所謂『海の家』、そのまんまだったのである。
いやどういう事だよ。《魔王》の思い付きで作ったにしても時間が足りなすぎるだろ?
何より再現度が地味に高い。元日本人の監修がなければ不可能なレベルだ。
「ようこそいらっしゃいました皆様ぁ! この日を一日千秋の思いで待ち侘びていましたとも!」
唖然として海の家を見上げていると、店の奥から《魔王》に匹敵するテンションの高さでスキップしながら出てきた人物が、一人。
それを見て、オレ達は更なる衝撃を受ける事となった。
「「店長さん!?」」
「「工房長!?」」
二種の叫びは前者がオレとアリア、後者がミヤコとアンナだ。
そう、既視感激しい海の家から出てきたのは、聖都にある日本由来の品も扱う高級服飾店――そこの経営者であるハーフエルフの女性だったのである。
確か元は帝国で一番デカい服飾系工房で責任者やってたんだったか? 今は双子の妹だという人が後を引き継いでいたみたいだけど……ミヤコ達は工房時代に面識があったって事か。
流石に場所が場所なので店で見た様なパンツスーツは着ていない。上はシンプルな黒のビキニらしきものに、丈の短いYシャツみたいなトップス。下はゆったり目のハーフパンツにサンダルを履いていた。
「――って、ちょっと待った! ビキニ……水着だって!?」
「そこに直ぐ気付くとはお目が高い! 流石は我が店に燦然と輝く一位の推したるお客様です!!」
驚愕して再び叫んだオレに、店長さんが顔に掌を押し当てながら腰に捻りと角度を付けてビシィッ! と指を突きつけて来る。
「以前から、美女と美少女に着せるありとあらゆる服を作り続けていた私ですが、残念ながらご時世も手伝って水着の類は売れ行き絶無。泣く泣く保管庫の肥しにするばかりでした」
「帝国の服飾工房にあった水着みたいなのって、やっぱり店長さんの作った物だったんだ……」
荷物を両の手に抱えて呟いたアリアの声を聞き逃さず、謎ポーズから更に身を仰け反らせて今度はそちらに向けて指が向けられた。
首の角度とかちょっとおかしいレベルで回ってないかアレ……アリアもそう思ったのか、僅かに頬を引き攣らせてビクリと震えて一歩下がる。
「いぐざくとりぃ! 戦争が終わり、聖都で店を構えてからも文化の違いからやはり販売数は伸びず……そこで私は考えたのです! "なら需要のある場所で布教すれば良いじゃない"と!!」
クワッ、とばかりに見開かれた眼は、若干血走っていた。
元が美人せいか、形相の齎す迫力が酷い。オレもあの眼を直に向けられたらビビると思う。
そんな事を考えてる間にも、店長の独白じみた語りは続く。
「偶の休みにはこの地方を訪れ、海水浴と言えば基本全裸! 漁は褌擬きを締めているだけな魔族領の皆さん――その中でも美人な方々をたっぷりと視か――ゲッフン! ゲェッフン!! 目の保養をしつつ、地道に水着の布教を行う日々っ……ついに転機は訪れました……!」
ここは店長の布教の拠点なんか……という相棒の台詞に納得がいった。
なるほど、今回のバカンスに併せて急遽拵えたものではなく、水着の布教とやらの為に前々から此処に造られていた建物だったのか。
身も蓋も無く言えば行動力のある変人って感じだしな店長……。
そこまで交流がある訳でもないので失礼な物言いかもしれないが、変態と言わないだけまだオブラートに包んでいるのではないだろうか。
そんな彼女の視線が再度、首の向きごと転じられる。
その先にいたのは、何だか後方理解者面で腕組みして頷いているロ○コンだった。
「こんな美女美少女だらけの一団をねっとり鑑賞――もとい、各国でも著名な皆様に水着というものに触れて頂ける機会を頂けたこと、感謝します同志よ!」
「気にすることはねぇよ
「その糞みたいな欲望、実にイエスですね!」
グッ、ガシッ、パシーン。と。
互いにサムズアップから腕を軽くぶつけ、最後に高々と掲げた掌をイェーイとばかりに打ち付け合う。
どう考えても水面下でひっそり事を進められるような二人じゃない。出会ったのは最近――《魔王》の奴がこっそり聖都に遊びにきていたときに出会ったんだろう。
――混ぜちゃいけない連中が出会っちまった……変態と変態の価値観悪魔合体っ……!
戦慄を滲ませて呟く相棒の言も宜なるかな。
眼前の二人を知る者達が同感だとばかりに一斉に頷く。なんでこんなどうでもいい処で心を一つにしてんだよオレ達は。
完全に危険物を見られる目付きを向けられているのだが、それを物ともせず、店長さんは生き生きと眼を輝かせて胸を張った。
「そんな訳で! さぁ皆様、よろしければ私の手掛けた
店長は間違いなく《魔王》の同類に近い人種だけど、その仕事が超一流の職人のものである事も疑いが無い。
水着の販売兼レンタルなんかもやってるらしい海の家擬き。
その店奥から引っ張り出されたハンガーラックとそこに下がった水着や夏服の数は相当なものだ。ラックの数は優に十を超えていた。
男用のはラック二つ分で、あとは全部女性用だったけどな。店長の嗜好が透けて見える比率である。
とはいえ実際、この場の男連中にも細かなデザインを気にする様な奴はいなかった。
皆、適当に好みの色の水着やアロハシャツなんかを選んで荷物だけ置いて外に出てゆく。女性陣が店内で試着と着替えを行うので、外で着替えて待つのだそうだ。
ちなみにリリィは一旦保留。本人は興味ありそうだし、《魔王》が是非にと推していたが、保護者である《虎嵐》が水着に関して知識が無いので、OKを出して良い物か一旦
店長と《魔王》――特に後者が露骨に肩を落としていたのを見る限り、その判断は正解だろうと言わざるを得ない。大変そうだがオレ達もリリィのガードには協力するので頑張って欲しいところだ。
店の貸し出し品だというビーチパラソルを数本担いで海辺に向かう男衆+エルフの少女を見送りつつ、オレ達はオレ達で大量にある水着や海辺に適した衣類を物色する事にした。
「品揃えは流石だねぇ……こんなにあるなら着替え持ってこなくても良かったかもね」
「《門》で移動距離は最低限とはいえ、手荷物が増えすぎるのもな。先に言っとけよこういうのは」
サプライズ優先なのは生きたビックリ箱な《魔王》らしいので、今更な話ではあるんだけどな。
アリアと一緒に適当なハンガーラックから水着を選んで手に取る。
うーむ……しかし水着、か。
女の子女の子した可愛らしい格好、というのには今でもちょっと抵抗があるのだが……帝国でドレスだの文学少女風の私服だのに袖を通す機会があった事で、昔より心理的な敷居が下がった自覚はある。
それでも、流石にあんまり派手だったり際どいのはな。なんせ水着だ、単純な露出面積は普通の衣類よりずっと多いし。
いや、ここで良い感じのを選んで相棒にアピールするのは良いんだよ、全然。寧ろバッチコイというやつだ。
ただ、やっぱり見るのはアイツだけじゃないからさ。アイツ以外の衆目に触れる以上、やっぱり塩梅というものは大事なのだ。
手に取ったのはパレオが付いてるタイプだ。というか、今更だけどこれ全部が布製魔装か? 相変わらず店長の作る衣類は品質がバグってる。
「市場価格はさておき、作る側としては同種で各サイズを揃えるよりも、魔力による伸縮である程度のサイズ調整を自動で行える布製魔装一着の方が楽なんですよねー。それを言ったら妹と陛下は頭を抱えていましたが」
「うぉっ、ビックリした!?」
ニュッと背後から突然湧いて出てきた作り手本人に、思わず仰け反って叫ぶ。
教国の店でもそうだったけど、なんでか全く気配を感じ取れないんだよな……どうやってるんだか。
「どの様な水着が良いか、お悩みですかお客様。よろしければ私めが全霊を以て選ばせて頂きますが。フヒッ」
キリッとした顔で言う店長さんだが、最後まで保てていない。語尾に漏れちゃ駄目な気配が表情と一緒に緩んで垂れ下がった。
それでもドン引きする程では無いのは元が美人だからだろうか? エルフの血を引く整った容姿を言動の相殺に使うというのも中々酷い話だが。
「……それじゃ、アドバイスだけもらおうかな」
「そうだね。参考だけ聞いて、もうちょっと自分で選んでみます」
アリアと顔を見合わせ、取り敢えずは店長の意見を聞いてみる事にする。
言動はアレだが、聖都の一等地で店を構えてるだけあってその目利きはこれ以上無い程に頼りになる。何より此処にある水着や夏服の制作者だ、お勧めがあるなら聞いておくのも良いだろう。
二人でお願いすると、彼女は何故かその場でクルッと一回転してキメ顔で謎の構えを取る。
「お任せ下さい! では先ず――基本的にお二人共に肌も白く、髪の色も美しく淡い色合いです。濃色の生地でお肌とのコントラストを狙うのもよろしいですが、その場合はスタイルを強調するのがセオリーになります。お客様方の儚げな雰囲気を生かす為に、此処は淡色系がよろしいかと」
さり気なくスタイル――胸元を強調するのは不可能だと言われた気もしたが、一切の含みないソレはあくまで似合うものを選ぶ為の選別・区別として語られたものだ。なのでオレもアリアも頷くに留め、それに対しては特に反応を示す事は無い。
要は持ち味を生かせ、って事だよな。聞く側としては参考になるアドバイスなので有難く耳を傾け続ける。
「パレオに関してはある無しは好みですが、付けるのならば膝上程度のこちらがオススメです」
隣のハンガーラックから店長さんが取り上げたのは、薄手のやや丈が短めの織布だった。
「裾に近い部分や腿の辺りは生地を薄く仕上げていまして。水着ですので元来パレオの下を見られても問題は無く、ですが腰に巻いた生地越しにうっすら透ける太腿。どうしても目が吸い寄せられてしまう……!」
そんなコンセプトで作りました。という彼女の言葉に、感心した顔で店長からパレオを受け取り、しげしげと眺めるアリア。
「へぇ~……そう言われるとなんだか凄そうな品に見えてくるから不思議だなぁ……」
しかし肝心の発言者が「あとシースルーって良いですよね! 心のジョンに栄養が注がれる!」なんて続けたせいで台無しである。
なんというか、癖は《魔王》に近いと感じる店長だけど……所々、相棒に似た部分もあるな。とぼけてたりアホっぽかったりする言葉のチョイスが特に。
「まぁ、なんだ。アドバイス自体は本当にためになるよ、参考にさせてもらいます」
「だね。ありがとう店長さん!」
「あ"ぁ"~、推しの眩い笑顔から豊潤な滋養が供給されるんじゃぁ~」
そのキャラの濃さはともかくとして、彼女の助言が非常に有用だったのは確かだ。
水着の布教、その為の販売と貸し出しという目的があるとはいえ、趣味丸出しの半ばプライベートという状況の所為もあるんだろう。
聖都の店舗での言動も高級店の経営・責任者としては大概だったが、今は輪を掛けてぶっ飛んでいる。開放的な土地で弾けてるというより、箍が外れてる感があるな……。
取り敢えずは助言の通りにパレオ付きの淡色系から選んでみよう、という事でアリアと二人で色とりどりの水着達を再度物色していると……少し離れた場所で別のハンガーラックを漁っていた《
「ンほーっ! あちらでも素晴らしい光景が見れそうな気配!」
オレ達がそっちに視線を向けるのと、店長が奇声を上げながら華麗なダッシュフォームで走り出すのは同時だった。
声からするに、悲鳴っぽいのはアンナだな。笑ってるのはシャマか?
見てみれば、スタンダードなタイプのビキニを手にぐいぐいと迫るシャマと、その顔面を掌で押し退けているアンナの姿がある。
珍しい事に普段の二人の力関係とは真逆――ニヤニヤとめちゃくちゃ楽しそうに笑っているのは金髪褐色肌の部下の方で、銀髪サイドテールな上司は引き攣った顔で後退りしていた。
ミヤコは傍観……というより、焦ってるアンナを見て少し楽しんでるなあれ。珍しく自分の右腕である副隊長に対して悪戯っぽい笑顔を向けている。
「これとか良くない? ふくちょー結構スタイル良いし、絶対
「いや無理無理ムリむり! こんなの着れるか!?」
「アンナちゃんの髪と肌ならこっちのターコイズカラーの方が良いんじゃないかしら? 瞳の色との併せにもなるし」
「隊長まで!?」
敬愛してやまない上司ですら味方では無い事を知り、アンナの喉から再度悲鳴染みた声が飛び出た。
一瞬その碧色の視線を彷徨わせ、直ぐにオレ達に固定されて「助けてくれ」と眼力だけで訴えて来る。
しかし、助けると言ってもなぁ……正直、状況が良く分からないぞ?
アリアも同感だったのか、小首を傾げて不思議そうだ。
「見た感じ、普通の水着に見えるけど……アンナは何がそんなに嫌なのさ? 変な処に切れ目でも入ってるとか?」
「アリア、それはもう水着というより特定の状況でしか使わない特殊な衣裳だぞ」
オレの言葉に、アリアの奴は益々不思議そうな顔になった。
どうやら適当な冗談だったみたいで、分かっていて口にした訳では無いようだ。
今のやり取りを聞いて、なんとかシャマを押し返している最中のアンナが迫る相手の手の中にあるビキニを指さして叫ぶ。
「いやいやいやちょっと待って下さいアリア様! そもそもこれが普通ってのがおかしいですよ!? この水着とやら、デザイン的には殆ど下着と同じじゃないですか!」
「「あー……そういう……」」
オレもアリアも納得がいって、思わずといった感じで頷く。ミヤコは気付いていたらしく、口元に手を当てて小さく笑っていた。
質に差こそあるが、衣類のデザインなんかは結構
「下着姿で人前に出るのと大差ないっての! ドレスなんかよりよっぽどでしょ!? アリア様もレティシアもなんで普通に選び始めてるんですか!?」
「なんで、と言われても……」
「水着ってそういう物だしなぁ」
「あ、駄目だコレ文化が違う……これが異世界の価値観……!!」
可愛らしい水着を着る事に少しばかり躊躇いがあっても、水着自体に特に思う処は無いオレ達の台詞に、アンナが空いた手で頭を抱えて天を仰ぐ。
「ひっひっひ。さぁ、観念してふくちょーも水着デビューするのだ! 大丈夫、あたしちゃんも初めてだから!」
「逆になんでシャマは普通に着ようとしてるの。アンタ生まれも育ちも
頬に掌でつっかえ棒をされながらもアンナへとにじり寄るシャマは、普段とは立場が逆な事にご満悦だ。現状、アンナに共感する奴がいない事が更に拍車をかけている。
「別にこの位の衣裳ならアリじゃね? てか、あたしの古巣の
「そういえばアンタ元は流浪の民の出だっけ……み、味方がホントにいない」
再度周りの面子を見廻し、途方に暮れた様子でジリジリと後退してゆくアンナ。そのうち壁に背が付くのも時間の問題だろう。
登場時から常時イイ空気吸ってる店長なんて、その様子を見て恍惚とした顔で小刻みに痙攣している。
「普段は勝ち気な少女騎士が未知の文化に面食らって羞恥に頬を染める……これもまた素晴らしい光景ですね本当にありがとうございます!」
漸く戦争が終わり、やっと望む道や生き方を歩み始めた人達も大勢見て来たけど……その中でもぶっちぎりで人生エンジョイしてる感があるなこの人。
身をくねらせてシャマに追い詰められるアンナを見つめ続ける店長は、絶好調といわんばかりのテンション最大値である。
自分の店でやらかしたらそれだけで客足が三割減しそうな動きを続ける彼女の言に、一部ではあるが賛同を示したのはミヤコだ。
「工房長……今は店長、って呼んだ方が良いのかしら? とにかく、彼女の言葉も一理あるとは思うわ――今の恥ずかしがってるアンナちゃんは可愛いもの」
「否定はしないけどさ……お前意外とSっ気あるよな」
うんうんと頷く最近はまたロングヘア―に戻りつつある恋敵に向かい、オレは呆れた目を向けてやった。
ミヤコが仲の良い相手が困ってるのを見て、助け舟を出さないのは珍しいと思っていたが……コイツ、実は結構いい性格してる部分もあるんだよ。今回は珍しくその面が出てきた様だ。
相棒を相手にしてるときはめちゃくちゃしおらしいけどな! そんなんだからエ清楚だのエ清純派だの言いたくなるんだよ。
そんなやり取りをしている間にも、シャマとアンナの攻防は続いている。
「ふはははは! 良いではないか良いではないかー!」
「良くないっての!? ちょ、やめっ……ってどさくさに紛れて何処触ってんだコラ!」
「あ"
悪代官みたいな台詞を吐いて上司の服を剥ぎ取ろうとするシャマだが、悪ノリで胸を鷲掴みにしたせいで、押し退けるだけだったアンナの掌がアイアンクローに変化して悲鳴を上げていた。
ぶっちゃけ強引に服を脱がせようとしても、アンナが本気になって抵抗を始めたら上手くいく訳も無い――シャマの奴だけなら、という前提だけど。
見てるだけだったミヤコがツツーッと滑る様な動作で二人に近づいてゆく。手にした青緑系の水着からして、どちらに味方するつもりなのかは一目瞭然だ。
彼女達の部隊の長が動いたことでほぼほぼ確定したであろう結末を最後まで見届ける事もなく、アリアとオレは互いに顔を見合わせて肩を竦める。
「アンナは御愁傷様……って程でも無いか。海で泳ぐなら普通の服より絶対水着の方が良いし」
「ま、そうだな。あんまり相棒たちを待たせるのもなんだし、さっさと自分のを選ぶとしよう」
姦しいやり取りを続ける《
またアンナの悲鳴が上がった気もするが、後だ後。先ずはこう……相棒にクリティカルヒットする感じで且つそんなに大胆じゃない水着をチョイスせねば。
「条件付きですが、
ふんす、と自慢気に吐息を漏らして胸を張り、ピースサインを決めたのはリリィだ。
遠話でシグジリアと連絡とるとは言っていたが、思ったより早く結論が出たみたいだな。先にも言ったが本人が興味ある素振りだし、悪い事じゃないだろう。
あのロ○コンバードに関しては、皆でスクラム組んでがっちりガードしてやるさ――ぶっちゃけ《魔王》は幼女好きではあるけど、同時に子供に無体を働く奴でもないので、深刻な警戒とかは必要ないしな。言動がひたすらにリリィの情操教育に悪そうっていうだけで。
何はともあれ、先ずはリリィも加わって水着選びだ。
「OKでたか。なら丁度良い、オレ達もまだ選んでる途中だから、一緒に見るとしようか」
「うん。こっちにおいでリリィ。あ、でも子供用はこれとは別のハンガーラックかな? ……店長さーん、この娘に合う水着ってどれくらいありそうですかー?」
オレが手招きして幼いエルフの少女を傍に来させ、アリアが喜色混じりの奇声を上げている店長を再度召喚する。
海の家、という性質上、それ大きな店では無いとはいえ、シュバッと瞬きの間に眼前にやってきた店長が両手の指を胸元で絡み合わせて鼻息も荒く咆哮した。
「お任せくださいちいさなお客様ぁッ! 同志の最推しでもある以上、手抜かりなく様々な水着や夏服を用意してございますとも!」
感極まった様に天を仰いだ彼女の顔から、透明な雫が零れ落ちる。歓喜の涙だったらまだ良かったが、口の端から垂れた涎だ。台無しである。
「あぁ、右も見ても左を見ても美女と美少女……! しかも帝国の推しと教国の推しが居並ぶ天国っ……! やっべアガり過ぎて暫く下がらないですコレ!!」
……今更だけど、何気にこの人もハーフとはいえエルフにあるまじきスタイルの持ち主だ。
胸前で組んだ腕にぐにぐにと潰されて割とボリュームのあるバストが変形しているのだが――凄いな、言動のせいか全く羨ましくもなければ妬む気持ちも起きないぞ。実際、この段階になるまで気づきもしなかった。
「みずぎ、という物を着用するにあたって、
「では、先ずお母様から提示された条件の細部を! 完璧にクリアしつつも、ちいさなお客様の魅力をしっかり引き出す組み合わせを導き出してみせましょう! いちお針子としての
「あ、これ同じデザインで色違いだ……レティシア、カラー違いの御揃いにしても良さそうじゃない?」
「ふむ、それも有りだな。
そんな感じで、和気藹々とこの旅行の手始め、急遽始まった買い物の時間は続く。
背後でとうとう剥かれ始めたアンナの何度目かの悲鳴が響くが、リリィの教育に悪いので後ろは見ない様に言い含めつつ。
あーでもないこーでもないと、オレ達はこの旅行で着る機会が多くなるであろう品の吟味を行うのであった。
店長
水着を布教すべく、魔族領南部に偶に出没していた模様。その甲斐あって多少は認知される様になってるし、実は去年、魔族領におけるパトロンもゲットしている。
店を構えている教国からは頻繁に行ける距離ではないのだが、個人用の《門》の魔法を習得しているのでそれで行き来していたらしい。
職人としての技量、最高位に近い魔法の習得とマルチな天才。その代償とばかりに常識と自重が脳からオミットされている人種でもある。
規模やレベルが違えど、その性質は分類的には《魔王》の同類に近いので、出会えば意気投合するのは必然であった。
駄犬のいう通り、その邂逅は混ぜるな危険。教皇は苦笑いし、帝国皇帝は頭痛を覚え、《亡霊》の胃は絞った雑巾みたいな事になる。
聖女姉妹&エルフ幼女
どっかの犬がグラっと来るような水着を選ぶべく、相談中。
姉の方は他人の目も気にして選んでるが、妹は姉がいなかったらかなり攻めたものをチョイスした可能性があった。でも着た後で「そういえばにぃちゃん以外も見るじゃんコレ!」と気付いて羞恥で悶絶する。
エルフ娘は様々な経験をして、好奇心強めな子になりつつある。自分もお着換えの許可をもらって御機嫌。《魔王》は親御さんと女神に感謝の五体投地を捧げた。
《刃衆》女性陣
鬼の副隊長がなんだか初心い反応をしているぞ! 面白いからイジっとけ!
そんな感じで戯れている最中。尚、隊長の方はともかく部下は帰ったら地獄の訓練に連行される事に思い至っていない。
非常時や戦闘時のスイッチが入ってれば下着姿で大立ち回りもしてのける副隊長だが、どうやらプライベートでは下着レベルに露出の多い格好とか絶対無理、という認識だったらしい。
ちなみに共感してくれる相手はその場にいなかったものの、現時点だと異世界現地人としては彼女の意見の方がまだまだ多数派である。
他、男性陣。
アロハだのグラサンだのを面白がって買ったせいで、スジ者の集団みたいになってる。
その中で一人だけ焼き鳥の品名が書かれたダサTを着ている男が異彩を放っているが、誰かは言う迄もない。