俺氏、ループ系TS聖女様をいつの間にかメス堕ちさせていた模様   作:弐目

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夏だ、海だ、水着だ!(中編)

 

「さて、全員着替えたし。そろそろ行こうぜ、あんまり男連中を待たせるのもなんだしな」

「そうね。全日程でみれば長い旅行だけど、日帰りの人達もいる訳だし」

 

 オレの言葉に自分の鞄の傍に屈みこんでいたミヤコも首肯し、手荷物の中から浜辺で使用しそうな物だけを取り出して立ち上がった。

 

「リリィ、これ。店長さんが浮き輪貸してくれたよ。確かしっかり泳いだ経験はないよね?」

「水浴びの際に湖で浮いていた程度でした。泳法の類は未習得ですので、リリィは今回の旅行でしっかりと泳げるようになるのが目標なのです」

 

 アリアの奴がリリィの胴に浮き輪を通してやり、水着姿に麦わら帽子、浮き輪と完全装備になったエルフの少女は、気合も十分とばかりにフンス、と両拳を胸元で握っている。

 転移・転生組のオレ達は言うに及ばす、軍属のアンナ達も河で水練くらいは経験した事がある。泳ぎを教えられる人は多いだろうし、頑張れよリリィ。

 

「よっしゃー、いよいよ本格的なバカンスの開始ってやつ? ちょー楽しみ! あとふくちょーはいい加減あきらめろし」

「無理。ぜったいむり。なんで皆そんなに平然としてるの……」

 

 まぁ、泳ぐところか、水着に着替えてから頑なに大きなタオルを肩から被って頑として脱がない奴もいるが。

 本人の価値観とかもあるしな。水着を着ただけでもアンナとしては限界まで譲歩したのだろう。ミヤコとシャマの手による半ば強引なお着換えではあったが。

 

 各々、選んだ水着を身に着け、必要な小物だけを持って相棒たちの待つ砂浜へと向かう。

 

 いや、アンナじゃないけど、やっぱり実際に着てみると少し恥ずかしいものがあるな。

 デザインとしてはそんなに際どいものじゃないんだけど、やっぱり前世(かこ)の意識が羞恥心を喚起してくるのだ。

 下着なんかはとっくに割り切ってるんだけど、見えない部分だしな。こうして人目につきやすい形となると未だに完全には開き直れないらしい。

 帝都の舞踏会でノリと勢いのままドレス着たときも、アリアと二人でちょっと後悔したもんなぁ……その後に相棒が本当にダンスに付き合ってくれた御蔭で、メンタルの収支的には圧倒的にプラスだったんだけど。

 

 大きな木陰の下に建てられた店から出ると、やはり冬とは思えない強い日差しと気温が出迎えて来る。

 普通なら日焼けなんかも心配しなきゃいけないんだろうけど、あれも大きな枠でみれば肌の火傷みたいなもんだ。ぶっちゃけちょっとした回復魔法が使えるなら、数時間に一回行使しとけば気にしなくて良い。

 ……いや、うん。こう、お約束というか、アイツにサンオイルとか塗ってもらうシチュに心惹かれるものはあるんだけど……。

 今さっき言った通り『回復魔法使えよ』で終わる話だからな。こればっかりは仕方ない。塗った後に海に入るのもあまり良くないと元の世界でも言われていたし、そこら辺の問題をクリアしてる分良しとしておこうか。

 

 女性の服選びは時間が掛かる――今更だけど、自分達もその御多分に漏れなかったらしい。

 アリアとどんな水着を選ぶか話し合ったのもそうだけど、リリィの物も選んでやったりしたせいで思ったより時間を食ってしまった。

 五分と掛からずサイズだけ調べて適当な品を購入していった男連中は暇を持て余しているかと思ったけど、意外とそうでもなかった様だ。

 

 等間隔に並べられた数本のビーチパラソルの下に、魔法で防水処理をしたシートが拡げられている。

 更にグラッブス司祭が其々のシートの隣に一つずつビーチチェアを設置している最中だった。その脇には小さなサイドテーブルまである。

 

「うわ、凄い。準備バッチリになってる……」

 

 隣でアリアが驚きと感嘆混じりの呟きを漏らすのが聞こえた。

 だな。相棒と二人で店から色々レンタルしていたのは見たが、予想以上にきっちりと場を整えていて驚いた。

 アイツはこういうの意外とマメだし、司祭もこういった方面では細やかな気遣いが出来る人だからなぁ……二人揃って準備したらそりゃこうなるか。一番凄いのはコレを事前に用意してる店長なんだけど。

 

 どうやらビーチチェアで全てのセットが完了らしい。相棒の方は既に手遊びとして《魔王》と一緒になって砂の城を作成していた。

 

「右の塔作仕上げとくぞ。そっちは?」

 

 ――門のアーチやるわ。曲線ムズいからちょっと掛かり切りになる。

 

「おう。じゃ、窓部分の削り出しは俺がやっとく」

 

 二人は砂で出来た城を挟んで真剣な顔でやり取りしつつ、合作の完成に励んでいる。

 相棒が小器用な奴であるのは既に言うまでもないが、《魔王》がこの手の細やかな作業が得意なのは意外だな。素人目に見る限りだと二人とも相当に手際が良い。

 にしても地味に上手いなおい。既に砂遊びのレベルじゃないぞ。

 サイズはそうでもないが、その細かさと精巧さは既にサンドアートの一種と言えるのではないだろうか?

 ディティールの細かさも凄いが、早さもおかしい。ほぼ完成間近じゃねーか。

 水着選びに時間を掛けたとはいえ、流石に一時間も二時間も掛かった訳じゃない。数十分でこのレベルの砂の城を作るとか普通にそっち方面の才能ないか?

 

「わぁ……凄いです、砂で出来たお城なのです」

「あー、リリィ。今は話しかけない方が良いよ。《魔王》陛下が今のリリィを見たら興奮して手元が狂いかねないし」

 

 瞳をキラキラと輝かせたリリィが早速傍に行こうとするも、アリアに止められていた。

 実際、詰めというか最後の仕上げに入ったのか、二人とも結構な集中具合だ。下手に声を掛けたらグシャっとやってしまう可能性はありそうだな。

 他の皆も、アートにも近いレベルのガチの"砂遊び"を見て感嘆の表情をしている。そりゃそうだ、普通に写真とかにとっておきたいぞコレ。

 

 初っ端は女性陣の水着のお披露目になるかと思いきや、ウチの犬と《魔王》によるちょっとした芸術作品のお披露目になってしまった。

 とはいえ、文句のある奴はいないみたいだ。もうちょっとで完成しそうなので皆その瞬間をジッと注視している。

 

「え、アレマジで全部砂なの? ヤバくない?」

「普通に精巧な模型に見える……器用だね、《魔王》陛下もアイツも」

「うむ。猟犬殿が砂山を削り始めた際、陛下が興味を示されましてな。簡単な説明と手法の見取りを経て、後はあれよあれよという間でありました」

 

 シャマとアンナが小声でやり取りし、各種レジャーアイテムの設置を終えたグラッブス司祭も常より声量を抑えて会話に加わり、深く頷いていた。

《災禍の席》の二名も素直に感心し、茶々を入れる事なく眺めてる、といえば凄さが伝わるだろうか?

 時代背景や最近までの情勢もあって、砂遊びといえば子供が砂山にトンネル開通させる、位のものだしな、この世界。

 サンドアートの概念自体が無いので、初見の衝撃は相当なものだったらしい。生まれも育ちもこの世界の奴にとっては、立派な模型にしか見えない城が全部砂、というのはちょっとした感動を覚える新鮮な体験だったみたいだ。

 一方で、ある程度はそういった物への知識のある転移・転生組――オレ、アリア、ミヤコであるが、それでも生でこうった物が見れる機会はそうそう無いし、十分に感嘆に値した。

 

 が、オレ達にとって重要なのはそこじゃない。

 

 物作りには集中する性質(タチ)なのか、相棒がとても真剣な顔をしている事が大事なのだ。

 普段はあんな感じの奴だし、偶にこの表情を見る機会があるのは、戦場とか戦いに関する事柄ばかりだった。

 命の危険や差し迫った状況の無い――有り体に言えば、じっくりたっぷり心置きなくその表情を眺める事ができる機会は極稀、レアなのである。

 流石に有事の際とは真剣の度合いが違うとはいえ、いつものとぼけた表情を引き締めて砂山と向かい合う横顔は、大変に結構なお点前というやつなのだ。もう直ぐ城が完成してしまうのが残念なくらいに。

 

 オレ達三人は誰ともなく頷き合い、相棒の邪魔にならない程度に距離をとりつつもその横顔がバッチリ眺められる位置に並んで陣取る。

 

 うん、良いな。いつもの騒がしいのも相棒らしくて良いが、真面目な顔はレア度も手伝って更に良い。何より心配や杞憂もなくそれを眺められるこの状況が良い。

 

 ……あー、なんかもうまだるっこしいのは抜きにして押し倒してーな、コイツ。

 砂浜か……汚れるのもそうだけど、砂入ると痛いとか聞いた事あるしな……シチュとしては良いんだけど。

 

 ジッと見てるとこの日差しにやられたのか、思考の方も大分茹って来る。

 ……『水着姿で悩殺しちゃったりして!』なんてアホな想像もしてたんだけどな。予定外に良い物が見れているせいで、悩殺どころかカウンターを喰らった気分だぞ。

 とはいえ、内心で文句を飛ばしても、自分の顔がちょっと締りのないものになっているのが分かる。

 うん、相棒の格好が下は長丈トランクスタイプの水着と、上は帝国で買ったらしい"とりかわ"とデカデカ書かれたダッサいTシャツ姿で良かった。

 これで水着一丁、上半身裸とかだったら色々と危険なのだ。店長風に言うなれば『心のジョンへの栄養過多』というやつである。

 

 もう暫く眺めていても良かったのだが、さっき言った通りもう砂の城は出来上がる寸前だ。

 数分とかからず最後の仕上げを終えて完成した作品を前に、《魔王》と相棒が満足気に一息ついて立ち上がる。

 バカンス始まって早々に、やり切った様な顔で額の汗を腕で拭った馬鹿たれは、鼻歌混じりでこっちを振り向いて――そこで漸く全員の視線が集まってる事に気付いて、ビクリと身じろぎして仰け反った。

 

 ――うぉっ……ビックリした! なんだよ、来たなら声掛けておくれやす!

 

 何時も通りのすっ呆けた表情に戻ってそんな事をいう奴に、緩んだ表情を悟られない様に敢えて意地悪そうに口の端を吊り上げ、答える。

 

「誰かさんが全力で砂遊びに没頭してるから、完成まで待とうと思って見てたんだよ。それより、デコが砂でコーティングされてるぞ?」

 

 オレが見てたのは、作ってるもんじゃなくてお前だけどな――別に今回に限らず。

 砂まみれの手で汗を拭って額が横一文字で愉快な事になってる相棒に向け、笑いかける。

 

 さて、相棒と《魔王》の合作の完成を待ったせいでちょっと変なタイミングとなったが、いよいよ皆の水着のお披露目となりそうだ。

 男連中も着替えてはいるんだよな。帝国と魔族領の面々は思い思いにアロハを着たりサングラスなんかを掛けていて、鍛えた体躯も相まってその筋の集団に見える。皆、中身はその百倍超えの武闘派なんだけど。

 逆に教国――相棒は先に挙げた焼き鳥ダサTと海パンだし、グラッブス司祭に至っては普段の僧服の上衣をはだけて腰で結んでいるだけだ。

 尤も司祭の場合は単純にサイズが無かったのかもしれない。店長も魔族は大柄な種族が多い事を考慮して品を作ってはいるんだろうけど、10Lとか12Lなんてサイズは流石に拵えてないだろう。と言うか、そのサイズは既製品じゃなくて特注品の域だ。布製魔装がある程度の自動サイズ調整可能だとは言っても、やはり限度はある。

 

「はっはっはっは! お気になさらず! 元より拙僧はレティシア様とアリア様の警護兼目付ですからな! 旅の良き想い出となる皆様の装い、眼に映すは既に過分な程の光栄と喜びを頂いておりますとも!」

 

 相も変わらず豪快な声量で「あろは、とやらも少々鍛錬には不向きな衣裳ですからな!」なんて付け足しながら自身の禿頭をバシンと叩いて大笑するグラッブス司祭。やっぱりこっちでも筋トレを欠かす気はないらしい。

 

「いやはや、しかし女衆の皆様がたは実に華やか! 此度の"ばかんす"なるを彩るに相応しき可憐さかと!」

 

 そのままさり気なく相棒の方を見ながら「何か感想を述べてはどうか?」と言った感じに首を傾げる。ナイスパスです司祭。

 水を向けられた当人は、え、俺? 女の子の水着褒めるとかハードルが……なんて尻込みしてるが、他の男連中はニヤニヤしたり苦笑するばかりで助け舟を出す気は無いみたいだ。

 

「なら俺が最初に言うぞ! 姫ぇ! 大変におうぐぶふっ!?」

「うははっ、まーワシらも礼儀として感想は言うべきなんだろうが……こっちはあくまでおまけよ、最初に口火を切るのはお前さんっちゅーこっちゃ」

「そうそう、着飾った女子を褒める甲斐性くらいは見せなってね。終わったら遊び始める前に麦酒(エール)買いに行くから、はよ」

 

 空気読まずに真っ先にリリィに向けて超反応を示した変態を抑え込みながら、《万器》と《赤剣》が口々に言い募る。

 ちなみに《虎嵐》は即座に義娘の傍に寄り添ってガード。動作こそさり気ないが、その双眸は自国の頭領だろうがいざとなればブン殴るという気迫に満ちている。なんとも頼もしい父親だ。

 で、口を塞がれて当然の様に抵抗する《魔王》だが、抑えてる二人が無言で銅貨を一枚ずつ渡すと、いそいそとそれを着ているアロハのポケットにしまって一旦は大人しくなった。素寒貧に近いのは出発前に聞いたが、それでいいのか魔族領筆頭。

 この場で発言しなかったローガスは、素知らぬ顔で煙草をふかしている。口にこそ出さないだけで、その眼は「さっさと隊長達にリアクションしてやれよ」と相棒に訴えかけていた。

 オレ達にとってはナイスアシストなんだけど、自分にとっては薄情であろう態度な男達をみて、鈍ちん野郎は唸り声を上げる。

 

 サラっと似合う、可愛いくらいは言う奴だけど、やはり水着となると勝手が違うらしい。なんというか、こっちをじっくり見る事への気不味さみたいなものを感じた。

 それだけ視覚効果はあった、という事だ。

 勿論、それは嬉しい。なんならガッツポーズしたくなる位に嬉しい――でも、折角こっちも転生してからの初水着だ。もうひとこえ欲しい。

 そんな我儘と期待を込めて奴の顔を見つめてやると、相棒は若干眼を泳がせながら後頭部をボリボリとかいて、躊躇いがちではあるが口を開いた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 おっふ……シアさんの期待の眼がプレッシャーナリィ……。

 白眼を剥いて天を仰ぎたいところではあるが、金色の聖女様を筆頭に、水着に着替えた女性陣は殆どが俺の方をみてリアクションを求めているっぽい。

 なんで俺が男性陣代表で感想述べるみたいなポジになってんですかねぇ! 女の子の水着を的確に褒めるべき部分をピックアップして賞賛する、なんて高等技能は脳みそに搭載してねぇんだよぉ! シンヤ君連れてこい!(偏見

 

 似合ってる、可愛い。

 俺に言えるのなんぞ、その程度だ。馬鹿でも脳死で出力される言葉くらいしか出て来ないんですけど。どーすんのこれ。

 とはいえ、ウチの聖女様が感想を御所望である。精々足りない語彙を絞って求めているであろう言葉を捻り出すしかない。

 

「……で、どうだ! 自分で言うのもなんだけど、結構似合ってるだろ」

「ちょっとだけ恥ずかしいけど……折角の海だしね! どうかな、にぃちゃん?」

 

 ……まぁ、なんだ。皆、美人さんで更に華やかな装いになったのは確かなんだが、やっぱり俺が最初に眼を惹かれたのはシアとリアなんですよねぇ。

 腰に手を当てて仁王立ちになる(あに)と、持って来たボールを両手に抱えて上目遣いで見て来る(おとうと)は、やはりこの集団の中でも特に目立つ。

 ドレスのときもそうだったが、二人とも戦争が終わってちょっとした女の子らしいお洒落な格好にも手を出す様になってきた。御蔭様で視覚情報からの幸福度合いは最近上がりっぱなしである。

 強い陽の下で見る二人の髪はそれ自体が淡く光を放っているようで、もうそれだけで滅茶苦茶目を惹く上にドエラい神秘的だ。でも日差しの強さが気になるので、後で二人にもリリィみたいな麦わら帽子を買わねば(使命感

 

 あと姉妹(きょうだい)で併せたのか、水着が同じデザインやね。上はホルタートップ、下はパレオを巻いている。

 シアがライトブルー系でリアが薄いオレンジ――蜜柑色だ。イメージカラー的には逆な気もするが、髪色とのコントラストで寧ろ見栄えしとる……気がする。素人意見だけどな!

 ハイビスカスっぽい花の髪留めも南国、って感じで良い。流石にこれは生花じゃなくて造花みたいだけど、これから海で遊ぶことを考えればその方がえぇやろ。

 うむ、写真に一枚くらいは残したいな、マジで。味噌も醤油も水着も出来たんだからカメラ誰か作ってくれよ、金なら出すぞ! 貯金の四割くらいまでなら大放出してやらぁ!(他力本願

 

「ははっ、服や食い物みたいな文化方面とは別ジャンルだろー、それ」

「でもあったら良いよね。思い出の記念撮影とか、出来るならしたいし」

 

 眼福過ぎて割と真剣にカメラ欲しい……と無い物強請りしただけなんだが、シアとリアは顔を見合わせてハイタッチしている。何処に喜ぶ要素があったのかはさっぱり分からんが、ご機嫌なのは確かだから失敗ではなかった模様。

 

 で、その隣にいる《刃衆(エッジス)》の女性陣なんだが……先頭に立つ隊長ちゃんはワンピースタイプ――ただし、競泳用に近いシルエットの水着だった。

 デザイン自体もエッジが利いてるというか、鋭い流線みたいなデザインが模様として入っとる感じだ。

 少しだけ照れの入った表情で耳元に掛かる髪をかき上げる彼女の声色には、何処となく懐古が滲んでいる。

 

「泳ぎは昔から得意なんです……転移前に持っていた水着に似ていたし、懐かしくてこれにしました」

 

 大分以前に近い長さになってきた黒髪をアップにして纏めた隊長ちゃんは、首にはゴーグルらしきものも下げていた。

 なるほど、確かに砂浜や波打ち際で遊ぶというよりバリバリ泳ぐ気満々なスタイルだ。女性としては長身なのもあって実にかっちょいい。

 あと、身体のシルエットラインがモロに出るから、別のスタイルの良さが際立っとる。近距離で見上げられると実によろしくない。こっそり《地巡》使わなきゃ(隠密感

 こればかりは聖女様二人に無いものだ。隊長ちゃん本人にもシア達にもセクハラになるので絶対言わないけど。

 しかし、水泳か。浜辺でわいわい遊ぶイメージが漠然とあったが、そういう事なら一回隊長ちゃんとガチで泳ぐのもいいかもな。

 魔力強化ありだと開始一秒でぶっちぎられる未来しか見えないが、素なら俺も泳ぎは得意な部類なのよ。ゆーても競泳じゃくて遠泳――距離を泳ぐ方だけど。

 

「良いですね。それなら波の穏やかなときに一緒に遠泳してみませんか?」

 

 おー、それもえぇね。ぶっちゃけ、波荒れたり途中でトラブルおこったら魔力強化解禁すればいいだけだし。

 

 その時は是非、と笑顔になる隊長ちゃんに頷きを返す。個人的に釣りもしたいし、いやぁ、やりたい事目白押しで日程が忙しいことになりそうだ!

 同じ過密スケジュールでも戦時と違って神経削る要素が全くないけどな! やっぱり平和って素晴らしいですハイ。

 

(あに)様、(あに)様、リリィもお着替えしました。このうきわ、という遊泳用の道具も早く試してみたいです」

 

 ピシッと手を挙げて背伸びまでしてアピールしたのはリリィだ。

 青地に白い水玉模様のワンピースか。うむ、似合ってる。あしらわれた小さなフリルも相まって実に可愛らしい。

 水着もそうだが麦わら帽子と浮き輪、水筒や各種小物を入れたちいさな肩掛け鞄と海辺のフル装備。隙がないな、花丸をやろうリリィ君。

 

「やりました義父(とと)様、花丸です」

「……うむ、今のお前は大変に愛らしい。それも当然だ」

 

 力強く頷く《虎嵐》が義娘の頭に手を伸ばし、褒める様に帽子ごと頭を撫でてやっている。

 親バカムーヴがすっかり板についとるなぁ……とはいえ、見ていて和むので悪いことは全くない。寧ろガンガンやってくれてよいぞ。

 

「大変にお似合いです姫! 全くイイ仕事をしてくれるぜ店長(同志)も! 控え目にいって最高かよ!」

 

 あー、変態(ロ○コン)がとうとう我慢できなくなったか。

《万器》のオッサンと《赤剣》の拘束を振り切った《魔王》が、リリィの前にスライディング土下座で滑り込む。

 そのまま眼前にあるちびっこの脚に手でも伸ばせばこの場の全員で袋叩きが始まるのだが、変態という名の紳士を地で行く男なのでそこら辺の一線は越えないという信用はあった。

 それはそれとしてお子様の教育に悪い言動なのは確かなので、監視も必須だけどな!

 感動と興奮でキッショいテンションになってる《魔王》を見て、保護者である《虎嵐》は勿論の事、《万器》達も奴の吐き出す台詞によっては再度拘束を試みようと微妙に重心が低くなっている。

 

「あの興奮の仕方を見るに、リリィの水着を選び直したのは正解だったな……」

 

 うん? 最初は別のやつだったんか?

 ポツリと呟かれたシアの言葉に、首を捻って聞き返す。

 自身の髪をかき上げる我が友人の声色には、多分に苦笑の色が滲んでいた。

 

「店長がオススメした水着は幾つかあったけど……リリィが手に取ったのってスク水だったんだよ」

「素っ気ないデザインだけど機能美を感じる、って言ってたね、リリィ。流石にアレを着させるのは不味い気がしてレティシアと一緒に今の水着を勧めたんだ」

 

 続く(おとうと)分の台詞も苦笑い混じりだった。そら正解だわ、お疲れさんだな二人とも。

 シアによると旧スク水だったらしい。胸の部分にもしっかり白地の氏名記載する布地がついてたとか。《魔王》とジャンルは違えど、やっぱあの店長も変態だわ(確信

 ちなみにその店長だが、流石に店を無人にするつもりはないのか憑いてきてはいない。いや、店自体がすぐそこだし、今もオペラグラスみたいなの使ってこっちガン見してるけど。

 

「……わぁ、本当に全部砂ですね。どうやったらお砂でこんなに立派な模型が造れるのでしょう。魔法より魔法です」

 

 リリィは俺と鳥の合作である砂の城に興味があるみたいで、近くでマジマジと見つめている。含みの無い素直な賞賛は嬉しいね。

 

 ゆーても短時間でこさえる為、砂を固めるのにちょっとだけ《三曜》を使ったりしたので純粋なサンドアートって訳でもなかったりする。物としては反則品って感じだ。

 推しの幼女からキラキラした敬意の視線を向けられた《魔王》は昇天しそうな表情で喜んでるけどな。アロハに海パンの筋肉質の男が歓喜で身を捩っている姿は普通にキッショ! ってなるからやめて欲しい。

 

 さて、お次は副官ちゃんとダハルさんなんだが……。

 うん、何で君はてるてる坊主なん?

 

「やかましい駄犬」

 

 かなり大きめのタオルを肩からしっかり被ってがっちり前を閉じている副官ちゃんが、半眼で唸り声をあげる。

 

「せめてリリィちゃんや隊長みたいな臍が出ないタイプならまだマシだったのに……」

「ふくちょーも往生際がわるーい。男連中も皆普通に水着穿いてるじゃん、この場じゃ普通だってフツー」

「無理だって言ってんでしょーが。手をわきわきさせんな、それ以上近寄ったら本気でぶっ飛ばすわよ」

 

 ケラケラと笑いながらタオルを剥ぎ取りたそうにしてるダハルさんに対し、副官ちゃんはマジトーンで警告して一歩後退る。

 

 あー……察するに水着が無理って事か。

 

 まぁ、普及率から見てもそう考える人の方が多いわな。バリバリこの世界育ちなのに普通に着てるダハルさんの方が順応性高すぎってのはあるかも。

 副官ちゃんは先にも述べた通り、タオルで膝まで隠したてるてる坊主だが、ノリノリで楽しそうなパツキンギャル騎士様の方は白のビキニで腰に長丈のパレオだ。褐色の肌に白地の水着が映えてこちらも非常に似合っている。

 

「このパレオっていうのも最初はいらないかなー、って思ったんだけどね。昔めんどー見てくれてた人がこんな感じのをよく腰に巻いてたから付けた感じ」

 

 ほう、成程。流浪の民の民族衣装的なもんかね? 思い出に寄せたってんなら水着に抵抗がないのも納得だわ。

 あんまり関わった事ないから詳しくはないんだよね。大分昔に大陸外から来た人達の子孫だっつーのは聞いた事あるんだけど。

 ちなみに聞いた処によれば、流浪の民の踊り子衣裳なんかはこの世界基準では結構過激なデザインらしい。各地の劇場とかで見れる場合もあるらしいので、機会があればちょっと一回見て見たくは、ある……!

 

「やめた方が良いし。最高級になるとお貴族様相手の娼妃みたいな位置に収まる娘もいるけど、地位とか財力とか住んでる地域の社会的な信用とか、そーゆーの高い男も十分()()()にされるよ?」

 

 なら俺には関係ないじゃないですか。なんでその話題だしたんですか(真顔

 何故か急に呆れた目付きになったダハルさんだったが、ちょっと思案する様に視線を彷徨わせ――直ぐにニヤリと悪戯っぽい笑顔になった。

 なんとなく嫌な予感を覚えたが、俺が何かリアクションを取る前に彼女は腰に巻いたパレオを摘まみ上げ、その下にある脚の膝を曲げて突き出す。

 褐色の健康的な脚線美が腿の付け根まで露わになり、下の水着もチラ見えしてしまう。

 ……あ、結構レッグカットの角度が凄いの着とる。

 隊長ちゃんの水着も競泳用っぽいデザインなので少し大胆な腰回りだったが、こっちは更に際どかった。

 ぶっちゃけ男としては非常に嬉しい光景ではある。それは否定できない。

 ――が、それに何かの反応をする前に俺の背筋に電流が如き寒気が走る。アカンやつやこれ(白目

 判断は一瞬、電光石火で首を真横にひん曲げようとしたが、隣にいたシアの方が早い。

 ベチィン! という掌というより鞭の打撃みたいな良い音と共に、俺の視界が聖女様の平手で塞がれた。

 

 ほ、ホアアアアッ!? め、眼がぁぁっ!?

 

 め、眼に火花が散った気がした……!

 地味に痛いやつを喰らい、思わず悲鳴をあげて顔面抑えて仰け反る。

 

「あっ……わ、悪い。つい反射的に」

 

 幸いな事にシアの慌てた声と共に俺の顔面に回復魔法が飛び、痛みは直ぐに消えてなくなった。

 何してくれはるんダハルさん! やめてよこういうの! おめめどころかいのちのきけんがあぶないでしょ!!(錯乱

 迂闊に眼を開くと同じ事の繰り返しな可能性があるので、顔を掌で抑えたまま抗議の声を上げる。

 それに対し、声からして悪びれてないギャル系騎士様はやはりケラケラと笑いながら言葉を返して来た。

 

「ほれこうなったー。もし行ったら行ったで今より痛い目見るのは確実だゾ☆ やめとけーワンコくん」

「おまっ、それなら口で言えばいいだろシャマ! なんでわざわざ下を見せてんだよ! つーかハイレグかよ!? なんてもん穿いてんだ!」

「フッ……実はあたしちゃん、何をかくそう脚にはちょっと自信がある!」

「開き直んな!? この手のエグいのを躊躇なく着れるとか本気で順応性高いなコイツ!」

 

 掌で封じた視界の中、シアが詰め寄り、けどダハルさんにサラっと流されてる声が耳に届く。

 ちょっと長引きそうなのでそのまま右脚の踵を回転させて身体を反転。身体ごと視界を逸らしてようやっと顔を覆っていた手を下ろす。

 そうなると自然、俺達のやり取りを眺めていた連中と眼が合うことになる。なんか皆、全体的に視線が温かった。《万器》のおっさんだけは腹を抱えて爆笑してるけど。

 

「ぶっははははっ、はははは! うははっ! ゲホッ、ヒー……ブフゥッ!! いやぁ青春っちゅーやつだのう! ウチの大将とは別種に見てて飽きんわ!」

 

 おいコラおっさん、笑い過ぎやろ。どこにえずくほどツボに入る要素あった。

 奇妙に柔らかいトーンな隊長ちゃんの声と、彼女の声を聴いてさっきまでの余裕が剥ぎ取られたダハルさんの声をBGMにしながら笑い上戸みたいにゲラゲラと声を上げ続けるおっさんにツッコむ。

 リリィに砂で像や建物を作るコツを教え始めた《魔王》と、それを見張っている《虎嵐》は置いておくとして……他の連中もなんでそんな目やねん、そんな視線を向けてくれるなら最初からフォロー入れて、どうぞ。

 

「まぁ頭領(ボス)と違って主に自分で被害を被ってるしね。笑って見ていられるのは良い事だよ――辛口の酒が欲しくなるけど」

「実に穏やか、心温まる光景ですな! この様な時間が永く続かんと、創造神への祈りと鍛錬に益々熱が入る思いです!」

 

 ブレないアル中と楽しそうと言うより嬉しそうな筋肉ゴリラ。こちらも二人並んで妙に生暖かい視線と共に頷いている。顔面に鞭打喰らうのは穏やかと言わないと思うんですけど!

 ローガスだけは魔法で生成したらしき氷をタオルで包み、俺に手渡してくれた。

 

「ホレ、一応やるよ。レティシア様が癒したみたいだが……」

 

 うん、痛みとかヒリヒリ感は綺麗さっぱり消えたけど、その心遣いは嬉しい。ありがたく受け取っておきます。

 

「おう、持っとけ持っとけ。なんとなく、この一回で終わらない気がするしな」

 

 うぉい、不吉な事言うのやめてくれません!?

 実は俺もちょっとそんな予感がしてるけどね! 杞憂で済ませたいのに予感を補強してくるのやめてくだしぁ!!

 実際、何時の間にやら自分以外の女性陣に囲まれ、もう完璧に引き攣った感じになってるダハルさんの声が背後から聞こえてくる。

 絶対振り向かんぞ、迂闊に振り返ろうものなら予感が現実になる未来しか見えん(確信

 

 だが、この手の予感というのは、何をどうしようが向こうの方から強引に視界に入って来るものらしい。

 

 

 

「――ほう? この時期に観光客の類などなんとも珍しいと思うたが……随分と愉快な一団よ、各国剛の者が揃い踏みではないか」

 

 

 

 妙にヒートアップしてる女性陣が一旦落ち着くまで、極力そっちを見ないようにして会話をしていた俺含む男共は、海の家の方向から唐突にかけられた声に驚く事となった。

 

 砂浜を優雅に歩いて来たのは、従者に大きな日傘を翳させた長身の女性だ。

 

 従者の娘の方は、その役柄のせいか、このクソ暑い中でも正装に近い格好をしている。流石に上着は脱いで白い襟高のシャツではあるけど。

 以前に見た時にも陽の下が似合うと思った蜂蜜色の髪は、快晴の日差しの下だと思った通りにキラキラと輝いて綺麗だ。とはいえ、彼女の種族的にこの陽光の強さは大丈夫なのかとちょっと心配になる。

 

 ――で、主である女性の方だが……その服装は以前に見たワインレッドの豪奢なドレスじゃ無い。場に合わせたのか、身軽そうな白いサマードレスだった。

 濃藍の髪は足首に届きそうな程に長く、豊かで、同時にこの日差しですら吸い込みそうな程に色濃く、艶やか。

 肌は白い。いっそ病的な程に。だというのに不健康なイメージは全く受けず、髪色とのコントラストが鮮烈ですらあった。

 切れ長の紅い瞳と、黄金比という単語をそのまま顔面に変えたような白皙の美貌――と、蠱惑的な笑みを浮かべる口の端から覗く牙。

 人外染みたレベルで整った容姿と、それに見合うだけの傲然とした女王の如き立ち振る舞い。

 

 まぁ、此処まで言えば分かるだろう。唐突に現れたやべぇレベルの美人とその従者の少女は、俺の知り合いだ――そしてほぼ間違いなく、魔族領の面々にとっても。

 

「久方ぶり、と言うべきであろうな《聖女の猟犬》よ。我が従僕から壮健であったとは聞いたが、死出の旅の終着先より還った者を見るは、此の身をして初めての経験よ」

 

 ゆっくりと見せつける様に片手で長髪をかき上げ、女性――吸血鬼(ヴァンパイア)の長にして魔族領西部を統括する公爵様は、空いた手を腰に当ててふんぞり返ったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 







本筋とは全然関係ないんですが、活動報告の方にボツにしたネタをちょいちょい供養したりしてます。
小ネタ程度の文量ですが、興味のある方は覗いて頂ければ。
タイトルに話数と供養って単語入ってるやつは大抵それです。

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