俺氏、ループ系TS聖女様をいつの間にかメス堕ちさせていた模様   作:弐目

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帝国編、開幕でござい。

それはそれとして、今年も数時間で終わりですね。
皆様、良いお年を。





帝国編
祭りに向けて


 

 

 

「――此方には居なかった。そっちはどうだ?」

「こっちも見つかりませんでした。猟犬殿にも困ったものですねぇ、子供じゃないんだから……」

「彼らしいと言えばらしいがな……一応、弐ノ院の方も確認しに行くぞ」

 

 声の主である二人の僧の姿が視界から消え、その足音が遠ざかっていくのを聞くと、俺は天井の隅に張り付いていた状態から静かに床へと着地した。

 うむ、此処はもう駄目だな。他の人も探しにくるかもしれん。

 ……聖殿から出る事が出来れば一番手っ取り早いんだが、出口はがっつり見張られてたしなぁ……壁を越えるにしても人目が有り過ぎる。やるとしたら最低でも日暮れまで待たないとアカン。

 食堂の厨房にでも行ってみるか。芋の皮むきと薪割りを交換条件に、料理長に匿って貰えるように交渉してみよう。

 天井に移動する際に通路の隅っこに置いておいた木箱を回収し、頭からすっぽりと被って身を隠すと、周囲に気を配りながら移動を開始する。

 

 やっぱり木箱だと嵩張るな……地味に重いから被ったままの中腰移動も疲れるし。

 置いていくべきだろうか。これが段ボールだったら携帯性も高くて完璧だったんだが。

 そんな事を考えつつ、気配を殺してコソコソと中央区の渡り廊下――の、裏手を進んでいたのだが。

 

「……なにやってんのよアンタは」

 

 心底呆れた様な声が背後から掛けられ、暫し硬直した後、恐る恐る振り返った。

 銀髪の髪をサイドで括った騎士服の少女……副官ちゃんは、腰に手を当てて完全なる馬鹿を見る目付きで中腰の俺を見下ろしている。

 

 お、俺のスニーキング技術を容易く見破って来るだと……!?

 

「ただ木箱被って中腰移動するのが隠形法なワケがあるか。世の斥候系の技能持ちに土下座しなさい」

 

 ばっさりと此方の驚愕をぶった切ると、副官ちゃんは俺から木箱を取り上げ、襟首をむんずと掴んで来た。

 

「ほら、さっさと行くよ。全く、アンタ以外はとっくに全員集まってるっての」

 

 手間かけさせないでよねー、と面倒くさそうに言う彼女にずるずると引きずられながら、必死こいて手近な柱にしがみついて抵抗し、抗弁を試みる。

 嫌でござる! 行きたくないでござる!! 外交担当のシルヴィーさんと各国調停役だったトイルのおっさんが同時に呼び出してくるとか絶対国絡みの厄介事に決まっとるやん!

 

「そんなの言われるまでも無く分かっとるわ。私は立場上、無視なんて出来る訳無いでしょ――アンタだけ逃げるとかムカつくからふん捕まえに来たのよ」

 

 オイィ! 良い笑顔で堂々と道連れ宣言したよこの娘!?

 

「なんとでも言いなさい。そもそもレティシアとアリア様も呼び出されてる以上、二人が国外に行く可能性だってあるでしょう。そうなればアンタもどうせ付いて行くでしょうに」

 

 そらね、行きますよ当然。でもそれはこう、アイツら専属の傭兵――ひいては護衛として同行するって形でしょ。

 トイルに呼び出された時点で()()国に関わる何かをやらせる気なのは確定じゃないですかヤダー!

 駄々をこねて柱に齧りつくが、副官ちゃんは無情にも力づくでそれを引き剥がして再び俺を引き摺って歩き出す。

 

「ほら、いい加減自分の足で立って歩きなさい。私、参ノ院には殆ど出入りした事ないからあんまり中の道順とか詳しくないのよ」

 

 必死になって行きたくないと主張してる人間に道案内させるとか、アンナさんは鬼か何かでいらっしゃる?(真顔

 やかましい駄犬、と半眼の副官ちゃんに後頭部をチョップされつつ、流石にこの状況ではどうしようもないと観念した俺は、ぶちぶちと文句を垂れながらも参ノ院へと足を向ける事になった。

 

 ……行きたくねぇなぁ、本当によぉ!

 

 

 

 

 

 

「ふむ、思ったより大分早く捕まったな……騎士アンナ、見事なお手並みだ」

 

 参ノ院、共同執務室。

 

 枢機卿が集まって意見交換をしつつ、議題に上がった書類などを同時進行で処理する為に作られた部屋に入室すると、全員揃ってる、と聞かされた通りに部屋には数人の先客がいた。

 コの字に配置された執務机の中央奥部分、そこに陣取った神経質そうに顰めっ面をした片眼鏡(モノクル)の壮年男性の言葉に、副官ちゃんが「恐縮です」と軽く頭を下げる。

 

 最高位を示す赤いカソックに身を包んだその人物は……まぁ今更言う迄もないが、枢機卿の一人、トイル=ストラグルその人だ。

 

 最近、次代の教皇の話をさりげなく現教皇(ジイさん)から振られることが増えて、それを死ぬほど嫌がってる苦労人でもある。

 俺がいうのもなんだけど、それって前に爺さんとオセロで勝負したときボッコボコに負かした事への意趣返しだと思うぞ。

 最初は何時もみたいに奥ノ院で俺と教皇の爺さんで遊んでたんだけど、偶々トイルがその場に書類片手にやってきたんだよね。

 そんで、爺が気紛れに彼を誘い、珍しい事にトイルもそれに乗った。

 ……あとはまぁ、言うまでもない。そこから始まったのは盤上遊戯の場を借りた蹂躙である。

 普段ストレス掛けられてる分、発散するように容赦ない打ち筋だったからなぁ……盤面を真っ白にされて爺も燃え尽きた灰みたいに真っ白になっとったし。

 

 いやぁ、アレは酷かった。なんて思い出してしみじみとした気分になっていると、執務室の先客である聖女二人の(あに)の方が何故か唇をとがらせて副官ちゃんに面白く無さそうな眼を向けていた。

 

「……他の探してる人達が空振りに終わってるのに、なんでお前はそんなに早くコイツを見つけられるんだよ」

「よく訓練から逃げ回ってる隠密行動が得意な部下がいたから、見つけるのに慣れてるってだけよ。しょーもない事で嫉妬しないの」

「し、嫉妬とかじゃねーし」

「もー、レティシアはちょっと余裕無さ過ぎ。ここはこんなに早くにぃちゃんを見つけて来たアンナに感謝しておこうよ、下手すると日没まで見つからないなんて可能性だってあったし」

 

 妹の方(リア)も加わって三人が仲良くそんなやり取りをしていると、この場の最後の一人であるマゼンタの髪を伸ばした派手目の美女――三枢機卿の紅一点であるシルヴィーさんが揶揄いをたっぷり含んだ声色で混ぜっ返す。

 

「さり気なく隠れてそうな場所にアタリをつけるアンナちゃんも、慣れてるってだけじゃなく何気に彼の事分かってるわよねぇ……あー、やだやだ、若いコの青春模様を見せられてお姉さんお酒飲みたくなっちゃうわぁ」

 

 トイルの左手側の執務机から飛んだ言葉に、副官ちゃんが欠片も動揺を見せずに否定を返した。

 

「勘弁して下さいよ枢機卿(カーディナル)……というか、普段から何しなくても飲んでるじゃないですか」

「酒は百薬の長にして命の水よぉ、飲むために存在しているものを飲まないのは摂理に反するわぁ」

 

 何気に仲が良いらしいシルヴィーさんと副官ちゃんが、互いの立場に比べれば遥かに気安いやり取りをしていると、参ノ院の主が仏頂面を崩さずに同僚に釘を刺して来た。

 

「仕事中くらいは自重し給え、トランカード枢機卿……そろそろ本題に入って良いかね?」

 

 最後の一言にシルヴィーさんが肩を竦め、他の面子は自然と居住まいを正し。

 場の空気が幾分か真面目なものになったのを確認したトイルは、今回このメンバーを集めた本題を語り出す。

 

「さて、其処の酔っ払いは勿論だが、聖女の御二方も断片的には聞き及んでいると思われる――前々から帝国と協議していた、大規模な戦勝記念祭の開催がいよいよ近づいている」

 

 尤も、開催地である帝国は既に随分と前から準備に余念が無かったようだがね、と珍しく眉間に寄せた皺を苦笑の類で緩めて彼は手元の分厚い書類の束を指先で叩いて見せた。

 この場にいない枢機卿最後の一人であるスカラは、既に少数の使者と共に帝国入りして共同開催の為の会議を現地で行っているらしい。

 大森林から帰還後、お土産に界樹周辺の土を渡したら大喜びで調査するってはしゃいでたのに、即行で国外行きか。不憫やなぁ。

 

 しかし、戦勝記念のお祭りとな。そういえば以前、副官ちゃんがそんなことを言っていたような……。

 月日を考えると記念日、と言うにはやや間が空いてる気もするが、トイル曰く、戦後処理と各地の一定ラインの復興を優先した結果、開催が今となったという事らしい。

 そりゃそうか。都会やデカい都市でお祭り騒ぎの一方で、僻地じゃ復興物資が足りなくて日々の暮らしにも困窮してます、じゃ反対する奴だって大勢出て来るだろうしね。

 この二年、小さなお祭りや祝い事、パレードなんかは世界各地で各々に開催していたみたいだが、大々的に周知してぶっちぎりの最大規模の祭りにするみたいだ。

 

「あー……そういえばそんな話もあったな……アリア達が霊峰に向かう前くらいだっけ? オレ達にも話が届いたの」

「概要だけ聞いた話だと、規模が大きいから準備期間も相当に長くなりそうだったけど……帝国側が前もって準備してたってどれくらい前からなんだろうね」

 

 金銀(シアリア)が顔を見合わせて小首を傾げ合っていると、疑問に答えたのは書類を片手にしたシルヴィーさんだった。

 

「本腰入れた準備を始めたのは猟犬クンが帰って来て少し経った辺りからじゃないかしらぁ。帝国としても、自国で開催する戦勝祭に人類種の旗印だったレティシアちゃんとアリアちゃんは絶対に招きたかったでしょうけど、教国的には以前は突っぱねる気だったのよねぇ……現状なら、問題無く承諾を貰えるっていう皇帝陛下の判断だと思うわぁ」

「あ、私が本国にコイツが帰って来たのを報告した後、陛下が『これで幾つかの案件が片付いた』って笑ってたので、今回の件も間違いなくそれに含まれていると思います」

 

 副官ちゃんの追加情報を切欠に、俺に視線が集まる。

 注目されたのはタイミングが重なっただけだろうが、折角なので俺のほうからも疑問をあげてみた。

 以前は突っぱねる気だったと仰ってますが、なんぞ問題でもあったんですかね? 二人の体調でも思わしくなかったとか?

 俺的には気になって当然の部分を質問すると、珍しくシルヴィーさんがなんだか意地悪気な表情を浮かべて片頬を吊り上げた。

 

「そんなの決まってるわぁ。貴方g「そ、それはもう解決したから! 今は話に上げなくても良いんじゃないかなうん!」

 

 おぉっと、リアに割り込まれてカットされてしまった。

 俺との間に飛び出す様にして話を遮られ、口を噤む酔いどれ枢機卿殿。

 その御顔は強引に言葉を中断させられたというのに妙に楽しそうだ。珍しく素面なのに良い肴を見つけた、と言わんばかりの表情はどうかと思う。

 ともあれ、主題は分かった。トイルが軽く咳払い一つして、皆の言葉を纏めるように引き継ぐ。

 

「うむ……時期的な難しさと招待必須の賓客、両方の問題がこの二年という歳月を経て一気に片付いたことで、戦勝祭開催と相成った訳だ。時期的にも豊穣祭と被るので、併せて行うと考えれば差し詰め《大豊穣祭》といった処かもしれん――正式な名称は帝国と協議して数日後に決まるがね」

 

 片眼鏡(モノクル)の位置を指先で調整すると、次期教皇――本人クソ程嫌がってるけど――と各国から目されている男は、眉間に皺の入った表情のまま、呼びつけた四名の内、聖女様二人に視点を当てる。

 

「主導は開催地である帝国だが、聖教国(こちら)も少なくない人手と資金を出資している――故に、猊下を筆頭に我ら枢機卿も日程をずらして順に出席する予定だ。聖女の号を持つ貴女方にも帝国に顔を出して頂きたい」

 

 今回の帝国での大祭が成功すれば、年度ごとの一大イベントとして定着する可能性もある。

 その場合は帝国と教国、交互に開催地を変える事になるので、そこら辺を踏まえて是非ともシアとリアには両国の友好アピールの一助となって欲しいと彼は言葉を結んだ。

 要は開催の挨拶とかの式典に参加しつつ、適度にお祭りを楽しんでその様を民に見せてやってくれ、という話だ。

 

「了解、ストラグル枢機卿。帝国に向かうのも久々だし、折角だからその祭りとやらも楽しんでくるとします」

「戦争とか関係のない、もっと和やかな目的で行ってみたいとはボクも思ってました! 二年で帝都がどう変わってるのかも楽しみだなぁ」

 

 二人が特に悩む事もなく快諾すると、トイルは「うむ、よろしくお願いする」と顰めっ面のまま、どこか満足そうな声色で応え……いよいよ俺と、隣の副官ちゃんに視線を向けた。

 遂に俺の番が来ちゃったかー……何を言われるのやら。あぁ、聞きたくねぇなぁ……!

 

 警戒しながら彼の言葉を待っていると、俺の緊張など知らんと言わんばかりにトイルは淡々と口を開く。

 

「さて、猟犬殿。実質教国所属とはいえ、正式な役職を持たない君をこの場に呼びつけたのは他でもない――大祭で幾つか開かれる予定の催し物、騎士アンナもそうだが、その一つへと関わって欲しいと帝国の方から要望があったのだ」

 

 帝国からのアプローチか……皇帝陛下からの差し金か、はたまた隊長ちゃんあたりが推薦なんてしちゃったりしてくれたのか……。

 内容にもよるが、どっちかだろうと適当にアタリをつける。一体何やらせるつもりなんや。

 

「うむ、一種の武道大会――」

 

 全速離脱ぅ!!

 不吉過ぎる単語が聞こえた瞬間、俺は全力で共同執務室の扉へと跳躍した。

 

「逃がすかぁ駄犬!」

 

 俺の動きを読んでいたのか、即座に反応した副官ちゃんのキレの良すぎる低空タックルで足を捉えられる。

 やめろぉ! HA☆NA☆SE!! 絶対関わらねーぞ! 参加なんてしないからな!!

 

「そんなん私だって出たく無いわぁ! でもこれ絶対陛下の案だから断れないのよ! 死なば諸共だぁっ!」

 

 冗談じゃねぇぞ! これ下手したら魔族領あたりから《災禍》の連中がウキウキで参加してくる奴やん! 一人でも御免なのに連戦とか絶対にノゥ!

 唯一自由な上半身を使って必死に這いずり、扉という名の平穏への入口へと進もうとする俺と、行かせまいと此方の腰に抱き着く様にして動きを封じようとする副官ちゃん。

 後から思い出すと我ながらアホ極まりない光景だったと思うんだが、今現在はそんな事を思う余裕なんぞ無かった。

 

「死ぬほど見苦しいなオイ」

「うーん、にぃちゃんはやっぱり嫌がるよね、そういう力試し的なの」

 

 ギャーギャーと叫びながら執務室の床の上でドッタンバッタン大騒ぎを続ける俺達を見降ろして、シアとリアの口からめっちゃ他人事です、と言った感じの無情な感想が零れる。

 そらお前さん達は今回のメインVIPだもんな! 聖女という肩書も加味すれば寧ろ出ようとしても止められる側ですよね糞ァ!

 シルヴィーさんは執務机に突っ伏して無言の爆笑中。トイルは頭痛を堪えるように指先でこめかみを撫で擦っていた。

 

「……両人とも、早合点をし過ぎだ。今回、猟犬殿に求められているのは大会開催時の警備役と実況解説のゲスト出演――そもそも、大会規定的に君が出場出来るとは思えん」

 

 呆れと疲れが半々で滲んだ声に、俺と副官ちゃんの動きがピタリと止まる。

 なんでも、武闘大会とやらの開催場所は、帝都にある旧闘技場(コロッセオ)跡地。

 邪神がこの地にやってくる前は盛況であった闘争に関する見世物、催し物が行われていたその建物を修繕・改修して使うらしい。

 戦後初めての試みというのもあり、安全に配慮して舞台となる場所と客席を結界で隔てるにしても、どれだけの人員や魔道具が必要になるのか未知数な部分がある。

 なので、戦人達のカテゴリでいう人外級――早い話が想定や見積もりを容易くぶっちぎって来そうなヤベー奴らは基本、今回は除外。各地の将来期待の戦力達のアピールの場、という形にしたいのだそうだ。

 

 当然、鎧ちゃんがメインウェポンの俺は出場不可――教国だと嬉々として修練になると言って参加しそうなガンテスなんかも駄目だな。ミラ婆ちゃんはそもそも絶対出ないだろうし。

 帝国も隊長ちゃんはアカンし、なんなら《刃衆(エッジス)》顧問やってるネイトも引っ掛かりそう。

 魔族領なんて幹部連中は全滅だ。これ、当の《災禍の席》から凄いクレーム来そうだな。帝国と身内の間に挟まれた《亡霊》の胃がまたお労しいことになってしまう(確信

 

 明確な数値とかがある訳では無いので、その辺りの判定は魔力を感知したり実際の動きを見てみるしかないのだが……副官ちゃんならギリッギリのグレーゾーンでOKになるんだろうか? 正直怪しい気もするが。

 まぁ、帝国も開催地である以上、自国の者を優勝させたいだろうからね。規定にある限界ギリギリ引っ掛からない処で彼女に白羽の矢が立ったのかもしれん。

 単純だけど有効な手だよな。ちゃんと規定内に収まった出場者で開催出来るのなら、自然と副官ちゃんが優勝候補になるし。

 

 自分が出場しなくて済むと聞かされて安堵し、冷静になった頭で聞かされた内容を反芻していると。

 気の毒な事に出場が確定してしまっている副官ちゃんが、同じく考え込んでいた様子からふと顔を上げた。

 

「――よし、このアホ犬も鎧抜きで出場させましょう。私が推薦します」

 

 第一声がそれかコラァ!? 人外級を除いても世の一流処が集まるのは分かり切ってるでしょ! 死ぬわ!?

 というか、俺を何が何でも巻き込む必要は消えたやん。そっちの隊長ちゃんを筆頭に、教国(ウチ)の筋肉ゴリラやら最悪、《魔王》やらと試合する可能性は無くなったんだからさぁ。

 

「それはそうなんだけど……なんか納得が行かないわ……陛下と一度お話してみようかな」

 

 髭はやめたれよ、下手するとエルフの一件以降、また剃り落されてる可能性があるし。いい加減皇帝陛下の威厳が目減りするわ。

 不満そうにぶーたれる副官ちゃんと一緒にいい加減床から立ち上がると、咳払いと共にトイルが返答を求めて来た。

 

「それで、どうなのかね。あくまで向こうも要望の一つとして出してきた案件だ。断るとしても特に問題は無いが」

 

 んー……あちらの皇帝の事だから、傭兵を雇うっていう形で報酬も出してくれますよね、多分。

 俺のそんな言葉に、笑いの波から解放されたらしいシルヴィーさんが反応する。

 手元の書類に丁度情報が記載されていたのか、目を通しながら報酬内容について軽く教えてくれた。

 

「それなら、この間やり取りした書簡に載ってたわぁ。結構な枚数の金貨と、猟犬クン用の公式の場での服装を仕立ててくれるって話よぉ――礼服とかじゃなくて、《刃衆(エッジス)》の隊服みたいな戦闘衣裳も兼ねた物らしいから、お姉さん的には受けるのはアリだと思うけどぉ」

 

 おぉ、《刃衆(エッジス)》の外套(コート)と鎧の組み合わせみたいなやつかな?

 アレいいよね。機能も文句なしに高いんだろうけど、それでいてカッコイイし。

 隊員によって外套下の装備は個人差があるみたいだが……俺的には副官ちゃんやトニー君みたいな軽装型が良いかなぁ。やっぱ重厚な金属鎧だと鎧ちゃんを使うのに不便そうだしね。

 

 ちょっと興味を惹かれる報酬内容に食い付いていると、何故かシアの目付きがスゥッと細まって「なんだか嫌な予感がする」なんて言い出した。

 なんやねん、予感って。服を仕立ててもらうだけでなんぞ面倒事でも起きるってのか? 皇帝の紹介ともなれば、面子もあるから変な事にはならんと思うんだが……。

 

「いや、そういうんじゃなくてな。なんかこう、オレの勘に引っかかるというか……受けるのは構わないけど、仕立てのときにはオレかアリアも同席するぞ。スケジュール的に両方は難しいかもしれないけど、なんとかどっちかの予定は空けるから」

 

 えぇ……聖女の勘とか馬鹿にならんからちょっと不安になって来たな……。まぁ、一緒に行く事自体に否は無いんですけど。

 姉貴(アニキ)はこう言ってるけど、アリア君的にはどうなのよ?

 

「ボクは別に変な予感なんてしないけどなぁ……でも、にぃちゃんと一緒に帝都観光はしたいな。時間が合えば一緒に出てみようよ」

「ちょっ、オレも行くぞ! その仕立ての一件は別としてじっくり観光はしてみたいからな!」

「うん、でも先約はボクだから。言い出したのはこっちが先だしね!」

「最近、(おとうと)が抜け目なさ過ぎる……!」

 

 俺と副官ちゃんの大騒ぎが終わったと思ったら、今度はこっちの二人がきゃいきゃいと騒ぎ出してしまった。

 

 あー……とりあえず、裏方というか警備員の方は受けます。ただ、解説の方は鎧ちゃん無しの俺だと普通に試合内容が眼で追えない場合もあるので、遠慮させて下さい。

 

 話が中座しまくるのも申し訳ないので、トイルに手早く返答だけはしておく。

 片方しか受けられない分、それで報酬が差っ引かれるのはしゃーない。そこら辺は向こうさんが良い塩梅に調整してくれるやろ。そこは無条件で信用できる。

 解説の方は……そうだな、俺ならガンテスのおっさんを推すね。

 実力的にも一瞬の攻防をしっかり捉えられるだろうし、アレで周囲をよく観察してるタイプなので試合運びに関しても良い実況をしてくれそうだ。なにより、筋肉関係を除けば至極真面で社交性も高い。

 

「ふむ、確かに言われて見ると中々に適材適所な人選ではある……分かった、グラッブス司祭には私の方から話をしてみるとしよう」

「猟犬クンが警備に関して受けるって話は、私の方から帝国に書簡を送っておくわぁ。実況に司祭様を推薦するって話も通しておきたいから、早めにお願いねぇストラグル枢機卿」

 

 二人の枢機卿が互いに手元の書類に目を落としながら、細々とした祭りに向けた決め事の優先順位を付けてゆく。

 

 大規模な祭りだ。今回は試験的な要素も多いので、開催期間は相当長くなるって話だ。

 出来る事なら、成功させて。

 どんちゃん騒ぎの楽しい祭りが毎年行われるような、そんな平和な時代を長続きさせる事が、これからを生きていく俺達の共通したお仕事、ってやつなんだろう。

 

 未だ来たらぬ、イベント目白押しのお祭り本番に思いを馳せて。

 同じ様な事を考えていたのか、どこか共通した表情を浮かべたシアやリア、副官ちゃんと目が合って、俺達は楽し気に笑い合ったのだった。

 

 

 

 

 

 







報酬は服の仕立て

実は隊長ちゃんの案。
鎧ちゃんは嫌いだけど、それはそれとして自分のコートは《猟犬》のイメージカラーである黒と赤ラインにしてる娘。今回も狙うは変則的ペアルック。


武闘大会

駄犬さん、今回は出場しなくていいから気を抜いてるが、次の年に教国でも開催とかになると結界担当が聖女になるので人外級が混ざっても安全面がほぼ担保されてしまう事に気付いていない。
さっさと気付いて来年まで震えて眠れ。



次回、開催国含めた各国の反応。






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