俺氏、ループ系TS聖女様をいつの間にかメス堕ちさせていた模様   作:弐目

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正月休みが終わった途端に更新ペースが落ちる(白目






各国各々(魔族領)

 

 

 

 魔族領は人口の少なさに反し、その面積は広大だ。

 正確には、南部に点在する小さな集落や村など、殆ど領地としての管理からも外れた地域も一括りで領内としてカウントされているので、対外的にはそうなっている、というだけの話だったりする。

 当然、そういった場所には税なぞ殆どあってない様なものだ。その分、大陸北端にある霊峰に次ぐレベルで危険な魔獣やらが跋扈している土地も多いのだが。

 

 他の人類種の運営する国家であれば、身も蓋も無い話、税を徴収する代わりに安全な暮らしを約束する、という関係が国と人との基本にある。

 

 だが、元々独立独歩の気質が強く、戦闘民族な気質を持つ魔族の民は自助努力に余念の無い者が多い。特に南部の辺境域に住む土着の魔族の民は。

 

 例えば、村の近くで危険な魔獣が出たとしよう。

 本来ならその土地を治める領主などに嘆願し、討伐の為の騎士を派遣してもらう、と言った方法を選ぶ。

 村にある程度以上の蓄えがあり、また近くに街があるのならば、冒険者に依頼を出すという手もあるだろう。

 だが南部の集落などでは、住民が自力でなんとかしてしまう場合が多い。

 

「ばっかおめぇ自分でやった方が早ぇべ! 行ぐど!」

 

 などと言って、普段は畑を耕してる腰の曲がった老人が鍬を担いで意気揚々と出掛け、普通に魔獣をぶっ殺して帰って来るのは割とよくある光景だ。

 民からしてそんな感じなので、行政側――《魔王》率いる領軍や筆頭補佐が管理する政務機関各種も、辺境に対しては良くも悪くも大らか……ぶっちゃけ他国と比べれば相当に緩い。

 

 危険も多いが、その分肥沃で広大な大地が広がり、そんな地で生きてゆけるだけの逞しい者達が多く住む。

 南部における辺境、と呼べる地域は概ねその様な場所であった。

 

 逆に、魔族領の本拠たる南部中央――王都にあたる場所は南部を縄張りとして纏めた当代最強の魔族……即ち《魔王》の庇護を頼りに集まった者も少なからずいるので、辺境と比べれば随分と穏やかな気質の者が多い。

 彼らの多くは他の地方から流れて来た者であったり、魔族としては少数派ではあるが争いを苦手としている者であったり……雑な言い方をすれば南部の流儀に『染まっていない』者が中心だ。

 それも数年も経てば、ある程度は図太く生きていける様になる場合が殆どだったりするが。

 

 中央は住民に非戦闘員が多い反面、戦いを生業としている者は総じて腕利きが多い。

《魔王》の武威に惹かれて兵士・戦士を志した者達が中心な故か、実力の平均値は間違いなく人類種で最も高いと言って良いだろう。

 先にも触れたが、長命種の為に個体数――人口が少ないので、頭領たる《魔王》を除けば総戦力としてはそこまで突出している訳では無いのだが、それでも人類種でも有数の戦力を誇ると言って良い。

 

 そんな戦力の中核たる、魔族領における最高幹部の集まり《災禍の席》。

 普段は広大な土地に対して少ない人員で巡回や視察を行っている為、一堂に会する機会の少ない彼らは、珍しく半数ほどの人数が王城へと集っていた。

 

 国主の城というより、巨大な城塞といった風情の剛健な建物の中、幹部会議を行う為の円卓が設けられた部屋にて。

 

 黒塗りの鎧に身を纏ったフルフェイス……身内ですら素顔を知る者が殆ど居ない男――魔族領筆頭補佐である《亡霊》が、卓に着いた同僚達をぐるりと見渡す。

 

「さて、取り敢えずは皆、集まってくれてありがとう。今日の会議に過半数が集まる事が出来ただけでも僥倖です」

「俺は医務室のベッドから引きずり出されて出席するハメになったんだが?」

 

 皮肉をたっぷりと染み込ませた口調で混ぜっ返したのは、転移者以外では珍しい黒髪の長髪を伸ばした男だ。

 細身ではあるが獰猛な肉食獣を彷彿とさせる雰囲気を放つ彼の言葉に、《亡霊》は怯む処か呆れた声色でピシャリと返答した。

 

「いや《狂槍》、元はと言えばその怪我も君が頭領との喧嘩で食い下がったせいでしょう。普段なら踏み止まれるだろうに、今回は熱くなり過ぎですよ」

「……チッ、少しばかり事情があったんだよ」

「奥さんと子供が大好きマンな事なんて今更じゃないですか、なんで猟犬殿に知られてる位でそこまでキレたのやら」

 

 何処かバツが悪そうに舌打ちする《狂槍》に対し、補佐と同じく呆れを含んだ声で横やりを入れたのは、この場で一番年若いであろう青年だ。

 円卓に用意された緑茶を片手に、お茶請けの漬物を摘まんでいる青年は《不死身》という通称で呼ばれており、実際、比較的古参の面子が集まったこの場では年若い部類に入る。

《災禍》に名を連ねる前からつるんでいるので、彼自身もそれなりに付き合いは長いのだが……席次的に末席である事も手伝って苦労を背負いこむ事も多く、何気に《亡霊》とは苦労話を語り合ったりと仲が良かったりした。

 

「あ"? 何か言ったかよ《不死身》くぅん」

「――って《赤剣》さんが言ってました!」

「え? 俺?」

 

 チンピラみたいなウザ絡みをしてきた《狂槍》の機嫌が常より一段荒れていると一瞬で判断した《不死身》は、即座に隣に座る同僚へと発言を擦り付ける。

 一方で、擦り付けられた同僚――赤毛の髪をバックに撫でつけた軽装鎧の青年――《赤剣》は、きょとんとした顔で漬物に伸ばしていた手を止めた。

 自身に集まる視線に対して首を傾げながら、茶では無く自前の瓢箪に口を付ける彼から漂って来る香りに、《狂槍》が顔を顰める。

 

「一応幹部が集まった会議だろうが。なんで酒飲んでんだテメェはよ」

「え? いや、だってほら。今日は休肝日だし」

「おい、誰か通訳呼んで来い。意味が分からねぇ」

 

 真顔で宣う赤毛の同僚の言葉に、同じく真顔になって円卓の他の面子にヘルプを求めるチンピラ。

 だが、水を向けられた《亡霊》と《不死身》の常識人コンビの反応は無情だった。

 

「酒絡みで《赤剣》さんの言動を翻訳できるのって教国の枢機卿殿(紅紫の薔薇)くらいですって。少なくとも領内での心当たりは僕には無いです」

「酔っぱらってるのは何時もの事だし、もうこの際出席してくれてるだけでも良いかなって」

 

 肩を竦めて苦笑いする《不死身》は兎も角、フルフェイス越しでも凪いだ表情が透けて見えるような筆頭補佐の声色は、慣れというよりは諦観が染み付いている様であった。

 そんな哀愁漂う補佐殿の様子にも「やっぱ補佐って大変そうだよね」と他人事みたいに笑いながら漬物をツマミにして瓢箪を呷る《赤剣》を改めて見ると、《狂槍》も何処か疲れた様子で溜息を吐き出して卓に頬杖をついた。

 

「そもそもなんで漬物なんだよ。緑茶はまだ分かるが普通は茶菓子だろうが」

「いや、どうせこの面子では長話にはならないと思ったので、茶請け自体を用意してませんでしたよ。《万器》殿の持ち込みです」

 

《亡霊》の言葉に、他三名が「え、そうなの?」と言わんばかりの表情でこの場にいる最後の一人を注視する。

 視線の先にいるのは白灰色の短髪に同じ色の顎髭を伸ばした壮年の男だ。

 この場に居る者達の中で最も大柄であり、その五体は本人の陽気な雰囲気が無ければ酷く威圧的に見える程に鍛え上げらている。

 自身の持ち込み品であるという漬物を丼に盛ってボリボリと頬張っていた男は、注目されている事に気が付くと茶を飲み干して口の中の物を流し込んだ。

 

「うはは、槍のは相変わらず仕事に関しちゃ真面目だのぅ。家庭円満の秘訣も見た目に反した細やかさ故かもしれんなぁ!」

 

 会話自体は聞いていたのか、ゲラゲラと大笑しながらその男――《万器》は再び漬物に箸を伸ばす。 

 

 魔族領最高幹部、《災禍の席》、総勢九名。

 

 筆頭である《魔王》の元に集う形で、今回の会議の為に招集されたのはその内の五名であった。

 

 力、技、速さ、或いは持ち得る何某かの能力。

 其々に得手とするものは違えど、各々が人類種の壁を越えたとされる人外級の武力の持ち主である。

 とはいえ、それらしい威風や威厳と言ったものはこの場には微粒子すら存在せず、鉄火場でもない日常においてはどいつもこいつも癖とアクの強さしか無い駄目な大人の集団と言った風情であった。

 

「……《万器》さんよ、その手に持ったドンブリは何なんだよ」

「んぁ? メシだが」

「見れば分かるんだよンなこたぁ! なんで普通に飯食ってんだアンタはよぉ?」

「まぁ、落ち着け。ホレ、以前猟犬のが力説しとっただろ――米と漬物、あとミソシルなるものは黄金に勝る組み合わせだと」

「おい、通訳要る奴が身内に二人もいるぞ。どうなってんだ」

 

 会議中だというのに飯食ってるオッサンと、それに絡むチンピラ。

 そんな二人を眺めていた筆頭補佐であるが、《万器》の手にある丼――そこに山と盛られた湯気を上げる薄茶色の米を見て当然の疑問が湧く。

 

「転移してきた者の多くは、ライスが主食の国出身であるという話は聞いた事がありますが……《万器》殿、食品として適う米なぞ、一体何処から入手してきたのですか?」

「いや何、ちぃーとばかり霊峰に行って自生してるやつをな?」

「「「「何やってんだアンタ!?」」」」

 

 悲鳴に怒声、種類こそ違えど心は一つとなって他四人の叫びが円卓の間に木霊する。

 

「この間の長期休暇はそれが理由ですか!? って言うか普通に国際問題ィ!!」

「食道楽にも限度があるだろうがオッサン!」

「流石に《半龍姫》様絡みで問題起こすのは不味くない!?」

「あ、僕なんだかお腹痛くなって来たんで帰って良いですか?」

 

 国家間で取り決められた霊峰への不可侵条約。

 例外である一部の者でなければ、前持った許可が必要となる禁足地へと出入りしたとほざく最古参の《災禍》に向け、容赦の無い同僚達の叱責が飛ぶ。

 年の功、と表現出来る様な褒められた事では無いが、見ていて腹が立つほど泰然とした様子で《万器》は米と漬物を再び口に掻き込んだ。

 

「んぐ……大丈夫だって。あそこの姫さんに侍っとる霊獣とは顔見知りの奴がいてな? 流石に頂上は近寄れんが、そやつらの監視下で稲をちょいちょいと頂く位は目溢ししてもらったからの」

「かの龍姫が穏やかな方であった事をこれ程天に感謝した事は無い……とにかく、以降は控えて下さい、絶対に」

「ぇー……思ったより美味かったからもうちょい量を採って来たいんだがのぅ……」

「自重しろっつってんだよ食い倒れオヤジ」

 

 基本穏やかな口調の筆頭補佐から罵倒が飛び出したのを聞いて、流石にマズイと思ったのか食い倒れオヤジは「あ、ハイ」と呟くと丼に残った米を噛みしめるように味わい始めた。

 会議の本題を話題として挙げる前から疲労感に襲われた《亡霊》は、深い――それはもう深い嘆息を肺腑から絞り出して、手元の湯呑に口をつけて喉を潤す。

 

「……取り敢えず話を進めましょう。今回集まってもらったのは他でもない――帝国で開催されるという大規模な祝祭についてです。全員、というのは現実的ではありませんが、頭領を始めとした幾人かには出席してもらいたいと思いまして」

 

 余計な茶々が入ってまたもや会話が寸断されるのを嫌ったのか、招集を掛けた理由を一息で語る。

《亡霊》の言葉に対し、フリーダムに過ぎる友人共の反応は芳しくないを通り越して露骨に嫌そうであった。

 

「ワシぁ遠慮したいのぅ」

「俺もだ。闘技会とやらも俺達揃って出禁だしな」

「あ、俺もパスで。帝国の酒には興味あるけど……面倒さが勝るというか」

「お腹痛い事にして帰って良いですか」

 

 大方予想通りの反応だよ、畜生。

 悪罵を内心で留めつつ、黒塗りの面兜(ヘルムキャップ)に包まれた頭部が円卓の間の天井を仰ぐ。

 内容に関わらず、お祭り騒ぎを好む何時までも子供の様な男共が此処まで渋い反応を示す原因なぞ、一つしか無かった。

 

 ――頭領(ボス)の手綱を握るのが面倒くせぇ。

 

 単純明快至極当然。「ですよねー」としか返せない理由である。

 今回、《亡霊》は帝都の開催式にのみ出席して、後は魔族領にとんぼ返りする予定だ。

 行きも帰りも転移魔法による《門》を使う事を、帝国の皇帝から承諾を得ている。

 対戦が終結し、平和が訪れてからは趣味嗜好に走る言動が加速した《魔王》が暫くの間帝国に留まるので、同じく留まって何かやらかさないか目を光らせるか、或いはこれ幸いと帰って仕事を進めるか悩んだのだが……最近になって他種族との交流が活発化したせいで捌かねばならない書類が増えた為、後者を選ぶ事となった。

 

 当然、その間に《魔王》の面倒を見なければいけないのは出席した他の幹部だ。

 

 普段はほぼ《亡霊》に任せている、およそ魔族領において一番めんどくさい仕事を引き受ける事に、誰もが難色を示していた。

 だが、妥協する気は《亡霊》にも無い。

 というか此処で譲れば、近い将来自分は書類に埋もれて過労死する。魔族が頑丈だと言っても限度はあるのだ。

 なので即座に切り札を切る事にした。

 

「では、残る方には私の仕事を手伝って頂きましょうか。ちなみに拒否は二席の権限で却下します」

「マジかい。滅多に使わん序列まで持ち出してくるとはガチ過ぎる……しゃーないのぅ」

 

 この場で唯一、《亡霊》より古参であるが故に拒否も不可能では無い《万器》が髭に覆われた顎を指先で撫でながら嘆息する。

 普段は使いもしない序列を絡めた話を振れば、この男ならば妥協してくれるだろうという筆頭補佐の予想は見事に的中した様であった。

 

「槍の。今回はお前さんが行っとけ。ホレ、この前の虎坊主のトコの嬢ちゃん、祭りを体験させたいと坊主も悩んどっただろ。折角だから自分の息子も連れて遊んでくりゃえぇ」

「……チッ、《魔王(ボケナス)》の面倒見ながらガキ連れて観光してる時間なんぞ取れるかよ……だがまぁ、仕方ねぇか」

 

 面倒だ、という表情を隠しもせず舌打ち一つして《狂槍》が帝国行きを承諾する。

 当人はそう評される事が不満な様だが、なんだかんだといって誠実な男なのでこれもまた《亡霊》が望んだ通りの人選であった。

 

「じゃ、俺は書類仕事かな。魔族領(こっち)なら飲みながら仕事出来るけど、外交だとそうも行かないからなぁ」

「そうなると消去法で僕が帝国行きなんですね……まぁ、一人で頭領(ボス)の相手するよりはずっとマシか」

 

《赤剣》が相変わらず瓢箪を傾けながら軽く手を挙げて発言し、残った《不死身》も不承不承ながら首を縦に振った。

 一人決まれば後はトントン拍子というやつだ。

 面倒だというのは本心なのだろうが、件の祭りは各国との絡みも発生する大仕事でもある。彼らもその重要性は理解していた。

 

 先程までのアホなやり取りはなんだったのかと思う程、スムーズ且つ穏やかに会議は進む。

 

「《万器》殿、ありがとうございます。貴方が最初に折れて下さった御蔭でスムーズに人選が決まりました」

「うはは、ぬかせ、此処迄の流れなんぞ予測済みだろうに――あ、来年以降に教国に開催地が変わるならば、そんときゃぁワシが行くぞ。久しぶりに顔を見たい奴らも多いしのぅ」

「えぇ、そのときはお願いします」

 

 細かい取り決めや予定の擦り合わせが終わり、最後に《災禍》の筆頭補佐と最古参の両名が、互いに笑いを含んだ声色で視線を交わし合うと、同時に部屋の奥席――円卓の一席目へと同時に首を向けた。

 

「――そういう事になりましたので、当日は行儀良く各国皆様の相手をして下さい、頭領」

 

 いやぁ特に揉める事無く出席する面子が決まって良かった、と。朗らかに呟いて、フルフェイスなのに普通に茶を飲むという不可思議な真似をしている《亡霊》の視線の先。

 そこには椅子の上にギチギチに拘束されて座らせされた魔族領の主……《魔王》が白目を剥いて鎮座していた。

 大型の魔獣や竜であっても繋ぎ止める特注の鎖で十重二十重に全身ぐるぐる巻きにされ、およそ医療用とは思えないぶっとい点滴針が首に直接突き刺さり、ドス黒い斑模様の混じった赤褐色のやべー液体がゴボゴボ音を立ててその体内に流し込まれている。

 

 偶にビクンビクンと小さく震えてる自分達のボスの姿に、《狂槍》が感心した様子でしげしげと点滴されている液体を眺めまわした。

 

「どうせ意識はあるんだろうが……スゲェな、会議の最後まで抑え込める毒って何気に初めてじゃねぇのか?」

「おう、そいつもワシのだ。霊峰に行ったついでに麻痺や弛緩効果のある毒草と毒茸も拾ってきてな」

「霊峰産かよ、どおりで……問題起こす癖にメリットも発生する様に動くから性質(タチ)がワリぃんだよ、アンタは」

 

 得意気に胸を反らす《万器》に、顔を顰めて嫌そうに吐き捨てる。

 

 "幹部達が揃う会議において、賛成者多数で本決まりした内容は後でゴネたり引っ繰り返したりしない"

 

 後になって異議あり! されると我が強く、喧嘩っ早い面子ばかりなので、その度に城の何処かが壊れる。

 故にこれだけは絶対に遵守すべし、と定めた《災禍》のルールの一つであった。

 

 つまり本決まりの前にゴネて押し通せば良いんだな! 腕づくで! というジャイアン過ぎる理屈をよく振りかざすのは、言う迄も無く今も痙攣してるこの特殊性癖持ちの似非不死鳥である。

 今回の会議でも、先ず間違いなく『闘技会に変装して出場しようぜ』とか、『魔族領(ウチ)の参考にしたいから帝国の孤児院を視察に行こう』とかクソみたいな発言をして場を引っ掻き回すのは分かり切っていたので、先手を打って一時的に無力化・拘束し、出席している『だけ』という状態を作り出したのだ。

 

 ちなみに流れとしてはこうだ。

 

 先ず、今回集まった面子を前に《魔王》が軽く挨拶をしようと口を開く。

 其処に、後頭部に向け《亡霊》がゼロ距離から弩弓(バリスタ)を撃ち込む。

 ほんの一瞬だけ意識が飛んだ隙に、他の《災禍》が躊躇なく追撃を入れ、一時的に無力化。

 あとは拘束して席に座らせ、会議の間だけでも大人しくしておく様に魔獣でも数滴で重篤になる麻痺毒の類をジャブジャブと点滴で流し込み続ける。

 

 ここまでやっても、大抵は途中で耐毒性能が麻痺を上回って元気に復活してくるのだが、今回は滅多に経験の無い霊峰の猛毒という事で解毒に時間が掛かっている様だ。

 それでもあと数分もすれば動ける様になるだろうが。

 

 更に補足すると、今回《亡霊》は他の誰とも無力化について打ち合わせていない。

 精々が事前に麻痺毒を用意する際、《万器》から良い品があると効果の高い麻痺毒を渡されたくらいである。蓋を開ければ霊峰に勝手に行ってとってきた品という特大のやらかしの証拠だった訳だが。

《魔王》の後頭部に不意打ちで一撃ぶち込んだ瞬間、一瞬の停滞すら無く流れる様に袋叩きに移行したのは各々の判断が全く同じだったというだけの話だ。

 

 部下に嫌われてるのか、それとも、これだけやっても全然大丈夫! という一種の信頼なのか。

 自分達の頭領に対する彼らの容赦の無さは、他所の者が見れば判断が分かれる処ではあるだろう。 

 

 早くも理不尽なまでの耐久力で毒を捻じ伏せつつあるのか、白目を剥いた儘の《魔王》から断片的に呟きが漏れる。

 

「……ぉ、ォォォォオ……オレ、ヨウジョ、メデル。ショウゴロリ、サトリ……」

「毒を追加しておきましょう。《万器》殿、霊峰産の土産はまだありますか?」

「一応持って来とるが、加工しとらんから茸とかそのまんまだぞ? 食わせりゃえぇのか?」

「口に押し込んで俺の酒で流し込めば入るっしょ。はい頭領(ボス)~口開けて~」

 

 留守番組がノリノリで追撃を始めるのを横目に、今回帝国に向かう事になった《狂槍》と《不死身》は早々に席を立つ。

 

「先ずは俺ンとこの部下と顔合わせしに行くぞ。今回も道行きはガキのお守りを兼ねることになるからな」

「あぁ、リリィちゃん、でしたっけ? あの子のお母さんのシグジリアさん、ウチの隊に欲しかったんですけどねぇ……おめでたも含めて、お子さん二人じゃもう無理だろうなぁ」

「……今回は遠話の魔道具をあのガキに預けておけないか、後で《亡霊》に聞いとくか。前ンときは俺が持ってたせいであの夫婦への定時連絡までするハメになったしよ」

「御両親と好きな時に話が出来るようにしてあげられないか、って事ですね。万が一の紛失や破損時の補填を《狂槍》さんが負担するなら、許可も下りるかと」

 

 ざけんな、折半だ。という声に、そんな殺生な。と、嘆く声が返る。

 ともあれ、帝国で開かれるお祭りに参加と相成った二名は、同行するであろう少女の養父が勤務している練兵場へと足を向けるのであった。

 

 

 

 ちなみに十分後。

 急速に毒に適応したロ〇コンが拘束をぶち壊して暴れ出した為、会議室は吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 魔族領、西部。

 一口に魔族と言っても、種族様々に混然とした中央とは違い、此処は吸血鬼(ヴァンパイア)を主としたより"魔"の側面が強い者達が住む領域である。

 実用性一点張りの剛健な王都とは異なり、西部は何処か帝国を思わせる洗練された街並みが立ち並び、そこに住まう者達も吸血鬼(ヴァンパイア)を筆頭として品の良い者達が多い。

 

 とはいえ、気質としては正反対に近い中央の兵や辺境の民と折り合いが悪いという訳でも無く。

 互いに「なんかお高くとまってるけど面白くて良い奴ら」「粗野に過ぎるけど力強くて頼れる同胞」と、ややふわっとした友好的な距離感を保って上手く付き合っている。

 

 吸血鬼(ヴァンパイア)達の貴族主義は、ともすれば血筋や地位を重要視し過ぎて『下』を作る事で自尊心を満たす下地が作られかねないのだが、そこは長命種。

 その在り方を示し続けて来た彼らの頂点たる《宵闇の君》――女公爵が今も尚バリバリの現役として君臨している為、世代を経て歪む、腐敗するなどと言ったお約束を辿ることも無く。

 帝国のとある騎士が彼らをして評した、「人の十倍偉そうでその倍くらい責任・責務を果たす事が大好きな奴ら」と言う生き方を日々実践しているなんとも腹の決まりきった者達が多かった。

 

 そんな吸血鬼(ヴァンパイア)を纏める女公爵は、本日は早々に仕事を片付けて寝室で身を休めている。

 自室で美酒を片手に寛ぎながら、未だ日の高い日中であるせいか、少々気怠げな様子で手の中の杯を乾す。

 薄手の寝間着姿のまま柔らかな絹で包まれたクッションに身を投げ出し、濃藍の髪が寝台に広がる様は正しく人外の妖艶さであった。

 

「祝祭か。戦の終結より少々間が空いたが、二年足らずでこの規模の催しに漕ぎつけたのは、寧ろ上出来と言って良いであろうな」

 

 ワインボトルが載せられたカート……そこに置かれている数日前に届いた招待状を指先で摘まみ上げ、女公爵は薄っすらと笑みを浮かべる。

 

「スヴェリア坊――皇帝も中々に律儀よ。あのアホウドリと我が身……どちらの顔も立てる為に態々同日に書状が届く様に日を整えたか」

 

 賢しい、と言ってしまえば其れ迄だが、人類種最大の国家の主としては中々に可愛らしい心遣いだ、と上機嫌から笑みが深くなった。

 どこか謡いあげる様な、少しばかり態とらしさを滲ませた独白は続く。

 

「とはいえ、あの慮外者と出先で関わるなど御免被る。折角の祭りを、煮ても焼いても食えぬ鶏の血で汚すも無粋であろうしな」

 

 彼女が、慮外者と称した《魔王》と仲が悪いのは周知の事実であるが……その口ぶりから察するに、賓客として招待された他国であっても、顔を合わせれば堪えが利かずに手が出る、と彼女自身が確信している様子であった。

 ある意味では唯一と言って良い、貴族としての責務より私情が前に出てしまう相手……他者がイメージするより三倍は物騒な間柄である腐れ縁の幼馴染の事は一旦頭から追い出し――女公爵はそこで初めて言葉を切り、部屋の扉脇で控えていた従者に眼を向ける。

 

「――故に我が従者よ、皇帝への謝辞の文を貴様に預ける。一時的にだが名代としての権も与えよう。彼方が望むのであれば、この身の代わりに責務を果たしてくるがよい」

 

 文を渡して終わりであれば、大祭にて見聞を広めよ。と続ける主の言葉に、従者である吸血鬼(ヴァンパイア)――男装の麗人は前に進み出ると跪き、深く、本当に深く、頭を垂れた。

 女公爵が彼女を見出した際、肩口に届く程度で切り揃えられていた蜂蜜色の癖っ毛は、今では背にかかる程に伸ばされている。

 

「……私の我儘を叶えて頂く為に、この様な形を整えて下さった事、感謝いたします、主よ……!」

 

 欠席を伝える書状を手ずから渡され、それを恭しく受け取る従者の少女の声は、焦がれた機会が巡って来た歓喜によって微かに震えていた。

 この二年、多大な喪失を味わったにも関わらず、腐る事無く精進してきた側仕えの感激の様を見て、彼女の主は上機嫌に声を上げて笑う。

 

「ククッ、よい。貴様がこの二年あまり、心痛堪えて貴種足らんと過ごしてきた事は知れておる。健気な従僕に褒美を与えるも我が身の責務の一つよ」

 

 手酌で葡萄酒を注ぎ、慌てて酌をしようと立ち上がる従者を手振りだけで押し留め、女公爵はそう遠くない未来に帝国で繰り広げられるであろう光景を想起し、愉悦に片頬を吊り上げた。

 

「なに、相手は当の神子共にすら秘して事を為した、こと色情に関しては木石の如き愚鈍よ。存分に貴様の()()を叩きつけてやる程度で丁度良い。精々己が英雄に思いの丈と猛りをぶつけてくるが良い」

「……は、はい……今度は、必ず」

 

 焚き付けるを通り越してニトログリセリンを放り込む主の言葉に、この二年で随分と物理的な重みの増した自身の胸部を押さえて従者の少女――クインは頬を染めてはにかむ。

 

 嘗て、彼女の太陽(英雄)に向日葵の様だ、と評されたその笑顔はその太陽を喪ったことで、咲かなくなってしまっていたが。

 二年の時を経て再び大輪の花を咲かせたその笑顔は、焦がれる英雄との再会を夢見て輝いているようであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







クインさん、富める丘の住人になる。
そのおっぱいで男装は無理でしょ。


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