俺氏、ループ系TS聖女様をいつの間にかメス堕ちさせていた模様   作:弐目

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わぁ、前話でかんそうがいっぱーい(白目
もう二度と感想乞食しないからユルシテ……許してクレメンス……。






祭りの準備 闘技会予選のお手伝い

 

 

 

 はてさて、到着早々面倒なトラブルもあったが無事……無事? 片付いて逗留先の屋敷に宿泊するようになってはや数日。

 

 手隙の時間に繰り出した城下で早速例の本を見つけて人知れずダメージを受けたり、ケントゥリオ侯爵家は彼の妹へと御家の後継ぎの座が移ったと聞かされたり、長男でありながら一切継承権を持たない部屋住みになってしまった当人は不満処か受け入れて頭を丸めたと聞かされたりとお腹いっぱいな追加情報もあるが無事だ、無事なんだよそういう事にしとけ(白目

 

 で、案内された屋敷の方なんだけど。

 高位の貴族が来た場合にも使われる屋敷な事もあってか、中々に豪華で広いんだが……ぶっちゃけ後でリアやガンテスが合流してくる事を考えても数人で使うには広過ぎる感はある。

 なので、俺達はもっぱら小さ目な客間を食事やらダベる為の場所として扱っている。

 

 今朝もその客間で派遣されているメイドさんが用意してくれた朝食を二人でつついていると、俺達が滞在してる間、ここの管理を任されいるナイスミドルな執事さんがやってきた。

 屋敷の人材は皇帝が直に選出しただけあって、めちゃんこ優秀な人達が多い。

 他人にプライベート空間に居座られると落ち着かない小市民な俺でも、二日目には彼らが部屋の隅に控えていても気にならなくなった、と言えば凄さが分かるだろうか?

 なんというか、単なる職業的な能力の高さとは違う一流の執事(バトラー)やハウスメイドの心遣いが感じられる立ち振る舞いだ。なんでもそうだけど、専門職の人ってしゅごいよね。

 

 俺とシアが食事の手を止めて軽く挨拶すると、執事さんは衣擦れの音一つ立てずに一礼して、穏やかに「おはようございます」と返してくる。

 

「お食事中失礼致します、来客があるのですが如何なさいましょう?」

「客? この朝っぱらから?」

 

 フレンチトーストっぽい品を口に運んで、気に入ったのか少し緩んだ頬になっていたシアの顔が不思議そうに傾げられる。

 初日に挨拶した際に、執事さんからは「聖女様との会談を望む方は相当に多いと思われますが、面識の無い方々は基本お断りほうがよろしいでしょうか?」と単刀直入に聞かれている。

 実際、結構な爵位の帝国貴族やら大手の商会の頭取やら、かなりの数の面会申し入れがあったみたいだ。大人気だねぇシアは。

 でも来る奴来る奴全員相手をしていたらキリがない。祭りの開催まで準備の手伝いがメインなんだから、基本屋敷は空ける時間が多いし、折角空いた時間は観光だってしたい。

 

「何が悲しくて、なんとか捻りだした自由時間に知らんおっさん共相手に延々営業スマイルでお喋りしなきゃならないんだよ」

 

 うんざりした顔を隠しもしない当の聖女様の言である。

 あんまり多い様なら自分の名前を出して良いと皇帝陛下も言ってたので、遠慮なくお断りさせてもらってるのが現状だ。

 

 当然、執事さんの判断で弾ける奴は全部弾いて貰ってるわけだが……朝もはよからの急な訪問にも関わらず、こうして話を持ってくるって事は知り合いが来たっつー事やろか?

 

「はい、帝国騎士のエンハウンス様がおいでになられております」

 

 副官ちゃんか。こんな早くに何の用じゃろ?

 俺の疑問に対して微笑みと共に返って来た答えに、シアと一瞬顔を見合わせると同時に頷く。

 

「アンナなら問題ない、通してやってくれ。あと、この時間じゃあいつも朝飯を食べてないかもしれないし、軽いモノでいいから用意してやってくれないか?」

「かしこまりました――では応接間では無く、この部屋に直接お通ししても?」

 

 それでよろしくオナシャス。あと昨日出た燻製肉(ベーコン)下さい、厚切りで。

 ついでにおかわりのリクエストを出すと、執事さんは「ではお客様の軽食と同時にお持ちします」と、やはり音一つ立てずに一礼したのだった。

 

 

 

 

 

 

「要は、今日一日だけこいつを貸してもらいたいのよ」

 

 朝飯は軽く食ってきたけど、それはそれとして軽食は頂く、と仰ってもりもりサンドイッチを頬張っている副官ちゃんから、そんなお言葉と共に親指で指し示された。

 えー、今日はシアがズィオロ枢機卿こと地質オタのスカラのお仕事を手伝いに行くんだけど。

 

「ンなことは知ってるわよ、隊長を筆頭に《刃衆(ウチ)》からも何人か護衛に出てるし。帝都周辺に地脈と接続する形で浄化結界の基点を設置するんでしょ?」

 

 いや、だから。俺も着いて行くんだってばよ。ぼく、護衛。聖女の側、いるの当然。OK?

 

 当然と言うか、今回スカラのおっさんが主導して行っているこれらの作業は、邪神の信奉者――その残党への対策だ。

 既に奴らの崇める対象は消滅し、散り散りになってこの二年間で容赦なく狩られ尽くしているものの、今回行う戦勝祭も兼ねた一大イベントに無謀な横やりを入れようとしてくる可能性もゼロじゃない。

 なので、スカラが専門に研究している大地の自浄作用と魔法を組み合わせた理論を用いる事で、広域の浄化結界でぐるりと帝都を囲む予定なのだ。

 邪神の加護……という名の呪を身体に注がれている連中にとっては、浄化の性質を持った魔法は毒に等しい。

 ましてやそれが聖女の聖気を用いたものであるなら猶更だ。苦痛を堪えて帝都に侵入しようにも、日がな一日二十四時間、口とケツからガンガンに灼けた鉄の棒を突っ込まれて(はらわた)を焼かれ続ける様な痛みを味わう羽目になるだろう。

 万が一にも信奉者達が《大豊穣祭》の妨害を企んでいた場合、今日から祭りの終日まで帝都を囲む事になるこの広域結界が張られると、その瞬間に全てが頓挫する。

 つまり、連中にとっては本日の結界構築作業が終わるまでが正念場という訳だ。何かしてくるとしたら今日をおいて他に無いとも言える。

 

 いや、散々に最悪のケースを想定して並べたてたけど、可能性としては本当の本当に低いのは分かっとるんよ?

 必死こいて逃げ散った奴らが自分達にとっての最悪の殺し屋集団である《刃衆(エッジス)》のお膝元に戻って来るとか、万が一どころか億か兆かはたまた那由多の彼方か、みたいな可能性ではあるんだよ。

 おそらくは幹部に相当するであろう、残った数少ない実力者ですら、大陸の果てにある霊峰で隠れ潜んでコソコソしてたくらいだし。

 

 でもさ、ゼロじゃ無いならこう……やっぱ心配になるじゃん?

 動員される護衛の数と質を考えたら、杞憂を通り越して妄想だと言われても仕方ないけど、先に上げた様に、霊峰で戦った屍使い(ネクロマンサー)みたいな鬼札を持ってる奴が生き残ってる可能性だってある訳だし。

 いや、シアの援護を受けた隊長ちゃんならあの手の切り札は発動する前に相手の首どころか四肢も飛ばして胴も四分割くらいに出来そうではあるけど。

 

「隊長とレティシアが揃ってる時点で何を警戒するんだか。騎士団からも護衛の人員が出てるし、邪神の上位眷属相手でも余裕で討滅可能な戦力だっての。レティシアとアリア様に関してはアンタほんっとう過保護ね」

 

 こちらの予想を肯定する様な発言をしつつ、タマゴサンドを飲み込んだ銀髪サイドテールの少女が、呆れた目線をこっちに向けながら俺と自分との間にあった皿を引き寄せる――ってオイ。それ俺の燻製肉(ベーコン)なんですけど。

 この場の面子では一番小食なので、一足先に朝食を終えて優雅に食後のお茶を楽しんでいたシアが「ふむ」なんて呟きながら、思案している顔で視線を宙に彷徨わせた。

 

「貸してもらいたい、とは言うけど一体何をさせるつもりなんだ? 色々と小器用だから雑用全般に地味に強い奴ではあるけど……態々朝から来て頼み込むくらいだ、何かコイツじゃないと駄目な事でもあるんだろ?」

「私が今日担当する場所でちょっとね――ぶっちゃけ、闘技大会の予選関係が少しゴタついてるの。ある程度参加条件を付けた筈なんだけど、それでも予定人数を大分超過してるらしくて」

 

 聖女様の疑問に、言葉通りぶっちゃけて答えた副官ちゃんが分厚い豚の肩肉にフォークをぶっ刺して豪快にかぶりつく。俺の燻製肉(ベーコン)は一口で三分の一ほどが無くなった。

 頬を膨らませてもっきゅもっきゅと口の中のものを咀嚼した彼女は、嚥下の後に手元のコップに満たされた果実水で口内の脂を洗い流すと、満足そうに一息つく。

 

「ふー……まぁ、そんな訳でね。ゴロツキ紛いな連中や血の気の多すぎる奴が大勢予選に押しかけてるせいで、周辺の治安維持に人手がかかり過ぎてるのよ。勝手にそこかしこで乱闘騒ぎ起こされるのも困るし、近隣住民とのトラブルなんてもっと駄目。だから今日と明日で殆どを篩いにかける予定なの。こいつにそれを手伝ってもらおうと思って」

「片っ端からぶっ飛ばしでもするのかよ? 相手が下級の冒険者やそれに毛が生えた程度の奴らなら、別に相棒じゃなくても《刃衆(エッジス)》の誰かにやらせりゃいいだろ」

「ンなワケあるか。聖女の癖になんでその辺りの思考が脳筋仕様なのよアンタは」

 

 シアの割と物騒な疑問に、半眼になってビシッとツッコミを入れる副官ちゃん。

 

「もっとスマートに片付ける予定よ、だからアンタの相棒が必要になったの」

 

 そう言って、彼女は再び口を開けて燻製肉(ベーコン)を嚙み切った……もう半分も残ってないんですけどぉ!

 

「さっきからしつこい駄犬。こっちは日の出から仕事漬けでパンをミルクで流し込むだけで済ませてるの。朝に必要な活力(エネルギー)の足りないアンナちゃんに、お肉を分けるくらいの甲斐性は見せなさいよね」

 

 七割方食っておいて分けるって言葉はおかしいだルルォ!? 比率を考えろ!

 

「あーもう、仕方ないわねぇ……ほれ、返すわよ」

 

 面倒くさそうに溜息をついた副官ちゃんは、フォークで突き刺したまんまの燻製肉(ベーコン)をそのまま俺に向けて来る。

 なんで自分の飯を食われた側の俺がこんな扱いを受けねばならんのだ、解せぬ。

 くそぅ、端の焼き目のついたパリっとした部分は全部食われちゃってるじゃねーかよ。

 シアに同行するにしろ副官ちゃんの要望に応えるにしろ、今日の手伝いが終わったら晩飯にもう一回だしてもらおうと心に決めつつ、燻製肉(ベーコン)の残りを大口開けて一気に頬張ろうとして。

 

 ――横手からシアの手が突然伸びて、副官ちゃんの手からフォークを奪い取るとそのまま先に刺さった肉を自分の口に放り込んでしまった。

 

 あ"ー! 俺の燻製肉(ベーコン)ちゃんが!? 何してくれてんのシアさん!

 

 抗議の声もなんのその。朝から重たい食い物は好まない筈の聖女様は、凄い速さで口内の肉を噛み砕くとそのままの勢いで呑み込む。

 口の端についた脂をナプキンで拭いながら、何故かシアは副官ちゃんに向かってギン! と音を立てそうな程の目付きでガン飛ばした。

 その強烈な視線を受けて鼻白んだ様に仰け反る副官ちゃんではあるが、口が少しばかり開いて「あ」と小さく声が漏れた処から察するに、メンチ切られる理由に心当たりがあるみたいだが……。

 

「……あー、はいはい。そういえばそうね。悪かったわ、以後気を付ける」

「……本当だろうな? 前にもサラっと二人で飯食ってたし、なんとなく油断ならないんだよお前は」

 

 えぇ……なに、何の話? 唐突に二人だけで通じる会話始めるのは疎外感で心にクるからやめて欲しいんですけど。

 割と切実な俺の言葉をスルーして、更に二人は声を潜めて目の前でコソコソ話を始めてしまった。そういうのは誰かが目の前にいるときにやるもんじゃないと思うんですけどねぇ!

 

(帝国に戻ってくる前に枢機卿(カーディナル)にも揶揄われたけど、勘弁してよ。戦場でだって水が足りなかったら回し飲みなんて普通にするでしょうに)

(今は戦いの最中でもなんでもないだろ、偶に一緒に食い歩きしてるのは知ってるんだぞ。友達っていうには距離が近いんだよお前達二人は)

(いや、友人ならそれくらいするでしょ……あと交際相手に定期的収入の無い傭兵という名の無職はちょっと……)

(そ、それは大した問題じゃねーだろ。いざとなったらオレが養うからいいんだよ、教会の看板職の収入舐めんな)

(手遅れ感がひでぇこの聖女)

 

 蚊帳の外感半端ない。泣くぞコラ。

 よろしい、ならばこちらも今を好機と判断してやる……! 執事さーん、俺の口に一欠けらも入らなかった燻製肉(ベーコン)ちゃんのお代わり下さい。

 

「私見となりますが、こういった女性(レディ)の密やかなお話がなされている場合は、間違っても内容を耳に入れる事無く、且つ最後まで静かに待つ事が肝要かと――それが所謂、男の甲斐性というやつなのではないでしょうか」

 

 む、そう言われてしまうと一理ある気がするぞ。

 

 控え目に告げられた言葉に、ちょっと考え込む。

 そっかー。甲斐性かー……執事さんがそういうのなら大人しく待つかなぁ。さらば俺の燻製肉(ベーコン)、夕食になったらまた会おう。

 

 分を弁えぬ言葉を聞き届けて頂き、感謝致しますと微笑んで一礼するナイスミドルに、いえいえ、逗留中助かってますと手をひらひらと振って返して。

 俺はシアと副官ちゃんの内緒話が終わるのを、卓に頬杖ついて待つ事にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 友人達の逗留する屋敷に訪れ、無事予定していた人材の確保に成功したアンナは、本日の業務――闘技会予選が行われる区画での巡回へと向かっていた。

 闘技会の予選は、祭りの開催に合わせて開かれる本戦の場……即ち闘技場(コロッセオ)の周辺で行われる。

 

 本来なら本戦の出場者である彼女は闘技会の警備関連については除外される筈であったのだが、予想以上に参加者が多いのと、多数の荒くれ者が集った事で起こる大小様々なトラブルに人手が足りなくなったと言う事で、急遽彼女も巡回のメンバーへと捻じ込まれる運びとなった。

 

 いきなりな話ではあったが、特に不満は無い。

 何分、今回の祭り自体が初めて尽くしだ。様々なイベント各種、手探りで進行を確かめている点も多い。

 他所の国の人間が大量に出入りするということで、治安維持の為に駆けずり回っている騎士団を筆頭に、武官も文官も全員大車輪で稼働中だ。大変なのには違いないが、この程度のトラブルは予定の内である。

 取り敢えず、確保した人材――聖女大好きなワン公には一旦所定の場所に待機してもらって、後は予選参加者を集めてその場に連れて行くだけだ。人数が人数なので半数程度になるだろうが、どのみち明日も同様の()()にかける予定なので問題無い。

 レティシアにはなんとか納得してもらえたものの、当のワン公――アンナの友人でもある青年に交換条件を出されたのは意外ではあったが。

 

「……マイン氏族の工房ねぇ……あれだけ嫌がってた癖に、何しに行くんだか」

 

 提示された条件を思い出し、思わず呟きが漏れる。

 

 予選の会場へと向かう道すがら、青年が出した条件――というより個人的なお願いは、本日の仕事が一段落ついた後、現在帝国に腰を落ち着けているドワーフの纏め役、ファーネス=マインの取り仕切る工房へと同行して欲しい、というものだった。

 ファーネスとその氏族達が、彼の武装である魔鎧にドン引きするレベルで興味深々なのはアンナも承知している。どういう理由で顔を出すにせよ、一人で向かうというのは青年的に避けたいのだろう、その程度は予想が付く。

 

 ――が、しかしである。

 

『いや、私の必要ないでしょ、それこそレティシアと一緒に行きなさいよ』

 

 当然の如くそう言ったアンナに向け、首を横に振った青年曰く――今回の用事はレティシアと……あとミヤコ隊長も良い顔をしないから、現状だとファーネスにブレーキを掛けてくれそうな人材はアンナ一択なのだそうだ。

 引き受けてくれそうな他の誰か……聖女の片割れであるアリア様や護衛兼お目付け役のグラッブス司祭も後に帝都にやってくる予定とはいえ、祭りには直接関係の無い話なので早々に片付けてしまいたいとの事。

 ……聖女姉妹と心置きなく帝都観光をする為だとぬかしていたが、それを自分に言ってどうするというのだろう、本人達に言ってやれ駄犬。

 

 良い意味でも悪い意味でもブレないアホ犬(ゆうじん)の言動を思い返し、心なしか頭痛を覚えてアンナは軽く額に手を当てる。

 その間にも脚は止めなかった御蔭で、目的地である闘技場(コロッセオ)の独特の形状をした外壁が見えて来た。

 同時に、大祭の準備で賑わっている街中と比べても更に大きな喧噪が秋風に乗って耳に届く。

 喧噪というよりは半ば怒号であり、同時にそれらを囃し立てる様な声でもあるが。

 

 簡易な支柱にロープを張って、床代わりに木板を敷いた拳闘の舞台の様な仕切りが複数設置されているその場所では、武装した多くの冒険者や傭兵、果てはゴロツキにしか見えない連中まで、様々な荒事を生業にする連中が舞台上で武器を打ち合わせ、或いはその周囲で声援や野次の声を上げていた。

 

(ここだけ見るとただの野蛮な乱痴気騒ぎよね……)

 

 冒険者にせよ、傭兵にせよ、下位の等級に在る者は参加を非推奨としているが、こう数が多いのをみるといっそ禁止にした方が良かったのでは無いだろうか。

 とはいえ、それ以外の特定の組合や組織に所属していない者には特に制限を設けていないので、そっち方面でも問題があった。

 チンピラ紛いの者達がこっそりと行う賭け事の為に参加しているのも如何ともし難い。こういった連中はそもそも本戦に出る気も無く、あくまで賭けによるあぶく銭が目的だからだ。

 

 定員割れを危惧して制限を緩くしたが故に、予想より参加者の人数が膨れ上がったのは重要な経験だ――が、来年からはもっと参加条件を絞ると城の文官達も決意している事だろう。

 

 審判や場外乱闘などを防止する為の警備である騎士達がこちらに気付き、軽く礼をしてくるのに手を振って返して、アンナはさて、どう告知するかと思案を巡らせる。

 騎士達に協力してもらって一旦現行の予選を中止、その後、青年に待機してもらっている闘技場(コロッセオ)へとこの予選区域の者を移動させる、そんな感じで良いかと手近な警備の者に声を掛けようとして――。

 

 

 

「――ですから! 順番というものがありますでしょう! 貴方は先程試合が終わったばかり、後にも大勢の方がつかえているのですから、他の方に譲りなさいな!」

「はっ、貴族のお嬢様はお上品なこったなぁ。お綺麗な事言ってないで舞台(リング)に上がれよ、精鋭部隊だかなんだか知らんが腕前を見せてくれや」

「何回同じ事を言わせますの、そもそも貴方とは当面試合の予定はありませんわ! いいからおどきなさい、これ以上は予選進行の妨害と見做しますわよ!」

 

 

 

 様々な喧噪でごった返した予選会場で尚、よく通る部下の声を耳に拾い、再度頭痛を感じて額を押さえる。

 軽く首を巡らせると声の主は直ぐに見つかった。この予選に参加している為、自身と同じ部隊の外套(コート)は着ていないものの、特徴的な金髪の巻き毛だ。遠目に見ても直ぐに判別はついた。

 

「何やってんの、ローレッタ」

「あ、これは副長……見苦しい処を見せてしまい、申し訳ないですわ」

 

 何やら参加者と言い争いをしている少女――最近《刃衆(エッジス)》へと入隊した北方からやってきた新入り、ローレッタ=カッツバルゲルの背へと声をかける。

 口論に白熱していたせいか、アンナが背後に近づいた事に気が付かなかったらしいローレッタはバツが悪そうに首を竦めて一礼する。

 

「で、何があったのよ?」

「少々こちらの参加者とトラブルになりまして……(わたくし)はこの場では参加する側ですので、強引な真似も憚られるため、どうしたものかと……」

「おいおい、金髪のお嬢様の次は銀髪の小娘かよ! 帝国騎士ってのは随分と見た目ばかり重視した連中なんだなぁ!」

 

 二人の会話に割り込んだ声――ローレッタと言い争っていた大柄な男の侮りの込められた大音声に、周囲の反応は二つに別れた。

 先ず、声の主とその傍にいる二人の少女……特にアンナを見てギョっとした後、顔を青褪めさせてそそくさと距離を取った者達と、男の言葉に釣られて笑い声を上げようとしたが、周囲の反応に気付いて口を噤んで困惑している者である。

 特に、その場で警備や審判としての仕事に従事している騎士達はなんとも奇妙な反応であった。

 男の発した言葉は帝国の騎士、ひいてはそれを率いる将軍を侮るものだ。

 本来なら厳重に注意――を通り越して叩きのめして失格扱いで放り出してもおかしくないのだが……その場にいる騎士全員が顔を引き攣らせ、男を憐みを込めた視線で眺めている。有り体に言って屠殺場の牛か豚を見る眼だった。

 

 当の銀髪の少女はサイドに垂らした自身の髪の先端を弄りながら、詰まらない物を見る視線で男をじろじろと見回す。ちなみに彼女と男の間に挟まれた金髪の方の少女は、騎士達とおんなじ表情になって即座に右に三歩分ほどスライド移動していた。

 

「その恰好からするに、北方の冒険者ね。他国まで来て随分と品のない発言をしてるって自覚はある?」

「品だぁ? 腕っぷしを競う大会で温い事言うじゃねえか、そこのお嬢様といい、精鋭部隊だのなんだの言う触れ込みも胡散臭ぇもんだ!」

「お、おい、止せよ。そこの銀髪……のお人は多分、《銀牙》だぞ」

 

 特に感情を見せずに淡々と問いかけるアンナの言葉に、侮りを嘲りに変えて敢えて周りに聞かせるが如く声を張り上げる男に、知り合いらしき他の参加者が諫めの言葉を掛けるが……男としては良い気分で地位だけの小娘を罵倒している処に水を差された、という認識なのか、その顔が不本意そうに顰められる。

 

「ハッ、こんな見てくれだけで皇帝の近衛の地位に取り入った連中の何にビビるってんだよ、俺は実力で北方で二級の地位を手に入れた! 次はこの国だ! お飾りの連中なんざ目じゃ――」

「あぁ、もういいわ――取り敢えず防御しなさい、腹よ」

 

 聞くに堪えない濁声を遮ると、やはりアンナは淡々とした口調のまま告げる。

 これみよがしにゆるりと持ち上がったロングブーツに包まれた脚を見て、鼻で笑おうとした男だったが――次の瞬間、その足に装填された凄まじい密度の魔力に眼を剥いた。

 咄嗟に両の腕を腹部に差し込んだ反応速度は、確かに二級――上位相当の冒険者か傭兵の実力を持ち合わせていたのだろう。結果は何も変わらないが。

 

 空気の壁をぶち抜く音と共に、ロングブーツの靴裏が男の腹に叩き込まれる。

 

 枯れ木が折れる様な音と共に男の両腕がへし曲がって関節を増やし、その体躯が血反吐混じりの吐瀉物と共に弩弓から放たれた矢の如く吹き飛ぶ。

 放物線すら描かずに一直線に地面と平行移動した男は、先月改修が済んだばかりの闘技場(コロッセオ)の壁に叩きつけられ、めり込んで漸く止まった。

 外壁の砕ける轟音が鳴り響き、それが空に吸われて虚空に消えると代わりに痛い程の静けさが降りて来る。

 

「あ、やばっ」

 

 壁に穿たれてしまった人間大の穴を見て、それを為した少女の表情が崩れてやっちまった、と言わんばかりに少々慌てたものとなった。

 これ、後で自分の給金から天引きとかされないかな、等と心配するアンナであったが、先程までの喧噪が嘘のように静まり返った予選会場の中、殆どの視線が自分に集まっていると気付き、丁度良いから仕事の続きと行こう、と開き直る事にする。

 

「――そこの壁に埋まった田舎者のゴロツキは失格で。あと、人品に著しく問題アリ、二級冒険者としての再審査を要求すると組合に伝えておいて」

 

 些事の後片付けについて、近くにいた騎士へとお願いしておくと、そのまま両の手を上に向けて上げてパン、と打ち鳴らして。

 

「ハイ、ちゅーもく! 闘技大会に向けて集まった皆さん、予選は勝ち抜き式の試合から変更になったわ。正午になる前には新たな方式の予選を開催するので闘技場(コロッセオ)の入口に集合しておくように! 後で係の騎士が集まった参加者を先導しに向かいます!」

 

 なにぶん、荒っぽい連中の集まりだ。こういった唐突なルール変更には苛立ち混じりの不満の声が上がるものと思われたが――少なくともこの場においては一切のブーイングの類は上がらず、非常にスムーズに事は進んだ。

 

 アンナ的には結果オーライである。

 

 

 

 

 

 

「――肝が冷えましたわ」

 

 闘技会予選参加者の一人として、闘技場(コロッセオ)内へと先導役の騎士に導かれるまま移動するローレッタは、さきほどの上司の一撃を思い返して呟く。

 

 壁にめり込んで生きたオブジェみたいになったあの参加者は、おそらく北方でも特に内陸北部に近い出身だったのだろう。

 一口に北方といっても、小さな諸国が連なって出来たその地域範囲は魔族領のある南部に劣らぬ程に広い。

 激戦区である大陸中央部と比べれば比較的、邪神の軍勢の進行も穏やかであり、更に北部ともなれば禁足地たる龍の住まう霊峰にも近いため、戦線と呼べるものは数える程しか発生していないと聞く。

 その分、何と言うか……身も蓋も無く言ってしまえば未開のド田舎であり、良くも悪くも中央の情報が入って来ない。

 そのせいか、戦時中であるというのにひどく穏やかというかのんびりした人柄の者達が多い、という話なのだが……逆にあぁいった狭い世界の中で偏屈になったり、増長する者もいる、という事なのだろう。

 

 ローレッタとしては、帝国にやってくるまでに巡り合った冒険者達が人品実力共に優れた者達だった為、自然と彼らを基準にしていた部分もあるだけに、二級冒険者でありながらあのような者もいるという事が少なからず衝撃だったのだが。

 土地が変われば品も変わる。冒険者や傭兵の所属する組合の規範や規律への基準もまた、そうであると実感を以て経験出来たと思い直した。

 

 にしても、アンナ副長の蹴りは凄まじかった。

 

 技も糞も無い、その場で足を持ち上げて靴底を叩きつけただけの喧嘩キックだというのに、圧倒的な練度の魔力強化と足腰のバネを生かして放たれたそれは、ローレッタをして戦慄を覚える程の速度と威力である。

 あんな適当に蹴りつけました、みたいな動作であの一撃だ。戦いともなればそこにどれ程のキレや巧さが加わるのか。

 

 訓練の際に味わった悪鬼の如きしごきも併せて思い返せば、冷や汗と共に全身が震えそうなものだが――カッツバルゲルの血筋故か、ローレッタの身体に走ったそれは武者震いに近いものであった。

 

 そうでなければ。

 そうであるからこそ、己は《刃衆(エッジス)》に憧れた。そうであるからこそ、こうして彼女達の下で拳を振るう事を選んだ。

 

 闘技会で副長と戦うかもしれない、と聞かされた際にはトラウマレベルの訓練を思い出して意識を飛ばす等という醜態を晒したが、敬愛する上司にして憧れの戦士である《銀牙》の実力の一端をこうして直に目の当たりにすれば、恐れや緊張よりも先に血が滾るというものである。

 

 かの大戦で武勇を馳せた英傑達の一人に、己の拳が何処まで通じるのか、何処まで食い下がれるのか。

 勝てるとは正直、思ってはいない。だが、叶うことなら全身全霊を叩きつけて挑んでみたい、と。少女は大会本戦に向けて意気を燃やす。

 

 その為にも、先ずはこの予選を突破せねばならない。

 予選免除(シード権)を得ている副長とは違い、ローレッタは自身の他にも数多くいる参加者を打倒して勝ち上がらねば、彼女と同じ舞台にも上がれぬのだ。

 推薦してくれた隊長や顧問に報いる為、応援してくれる恩師の為、自身の将来の為――そして憧れる目標の人物、その一人へと挑む為。

 素手ゴロ令嬢の勝利への気炎はこれ以上ない程に高まっていた。

 

 他の多くの参加者――他の予選区域からも集められた、百名を優に超える様々な戦武を生業とする者達が、ゾロゾロと連れ立って闘技場(コロッセオ)内の通路を進む。

 改修されたとはいえ、歴史ある建物だ。一般公開は武闘会開催までされていないため、これを機に先んじで内部を歩けるのはちょっとしたお得感がある。

 そんな風に考える少女と同じ気持ちの者も多いのか、皆、興味深そうに周囲を見回していた。

 

 やがて、長い石造りの通路を大人数の集団で抜けると、屋根の無い開けた中心部――即ち本選を行うであろう舞台が設置された場へと辿り着く。

 

 見事な造りだ。元より思い思いに知人同士で喋りながら移動していた一団であったが、開けた空間から見回せる光景に騒めきが大きくなった。

 予選が行われていた拳闘の野試合用に作られる様な簡易な舞台では無く、頑強な土台に石畳を敷いて作られた武舞台。

 ローレッタ達が入って来た入口の向かいには別の入口――其処には見事な竜の彫刻が設置されており、振り向けばこちらの側には獅子の彫刻が鎮座していた。

 階段状に作られた膨大な数の観客席が円形に中心を囲む様は、否が応でもこの場で戦うことでの高い注目性を予感させる。

 

「おぉ……凄いな、こんな場所で試合するのか……!」

「こりゃスゲェぞ、予想以上だ。本選で良い処見せられりゃ、一気に名を馳せるのも夢じゃねぇ」

 

 観客席が埋め尽くされ、大量の視線と歓声が舞台へと降り注ぐ様を想像したのか、他の参加者達から興奮した様子でそんな声が漏れ聞こえる。

 

(同感ですわ、これは……戦場とはまた違った種の高揚感を誘われますわね)

 

 金髪巻き毛の少女も内心でそれに同意し、深く頷いていると。

 

 

 

 カツン、というブーツの踵が石畳をたたく音が奇妙ほどに響き、武舞台に上がった一人の人影に全員がそれを注視する。

 はたしてそれは、先程この場に集まる様に指示を出した彼女の上司――《刃衆(エッジス)》副隊長ことアンナ=エンハウンスであった。

 

「はい、再度ちゅーもく! 割とスピーディーに集まってくれて感謝します。早速だけど簡単に説明するわね」

 

 つい先刻もそうであったように両の手を頭上にあげてパン、と打ち鳴らすと、アンナはこの場に集まった予選参加者達を舞台の上から見下ろした。

 

「本来なら参加者同士で既定の人数になるまで勝ち抜き戦を行う……っていうかさっきまではそうだったんだけど……参加してる皆さんも感じている通り、予想以上に参加者が多いです。このままだと進行に問題が出ると言う事で、急遽、違った方式での簡易な"選抜"を行うことになりました」

 

 そこで一旦言葉を切り、ニッコリと浮かべるその笑顔に。

 何故だかローレッタは既視感と共に嫌な予感を覚えて、一人、顔を引き攣らせる。

 舞台の上に立つ上司が説明を続ける中、此処迄の先導役だった騎士や最後尾で集団を見張る役目を担っていた騎士達がそそくさとその場から離れるのが見えて、益々その予感は強くなった。

 

 あぁ、そうだ。この笑顔は以前、地獄のしごきで石を抱えたまま走らされた際、副長が自分の倍のサイズの石を担いで後ろから追い立てて来たときのスマイルであった。

 

(参加者の一人として公正を期す為、新たな予選方式についての事前情報はお断りしていましたが……これ絶対ダメな奴ですわぁ)

 

 天を仰いている部下の心情など露知らず、彼女の上司は実に良い笑顔のままで説明を続ける。

 

「選抜を残った者が本選にそのまま出るかもしれないし、予想以上に多いのならその面子で本来の勝ち抜き戦を行って本選出場者を決める事になります――じゃ、皆、覚悟は良いかしら?」

 

 不敵に笑いかけて問われる言葉に、その場の参加者達から応! と気合も新たに声が上がる。

 ちょっと待って、あと五分くらい心の準備をさせて下さいまし。なんて言える空気でも無く。

 ローレッタも下っ腹に力を入れて、覚悟を決めて次のアンナの言葉を待ち受ける。

 

 冒険者、傭兵、流浪の戦士、只の流れ者――人種職種様々ではあるが、皆、戦意に満ちた頼もしい返事が返ってきたことに、銀髪の少女も満足そうに一つ頷いて。

 

「その意気や良し、って処ね。じゃ、早速始めますか――おーい、始めるから降りて来てー!」

 

 そんな風に、闘技場(コロッセオ)()に向かって声を張り上げた。

 

 

 

 間を置かずに、中天に近い位置にあった太陽が、一瞬陰る。

 

 

 

 陽光を遮ったのは、雲でもなく、鳥でも無く、上空から降って来た人影であった。

 ローレッタ達が背を向けている観客席側の上方から、彼女達の頭上を越える形でとんでもない距離を跳躍してきたその人物は、相当な高度からアンナの隣へと着地したというのに石畳に罅一つ入れず、音すら立てずに着地してのける。

 

 立ち上がったその姿は、漆黒の鎧姿だった。

 既存のソレと比べれば細身といえる形状のその全身武装は、ひどく攻撃的で禍々しい。特に頭部など、悪鬼を思わせる程に凶悪なデザインである。

 何より、装甲に魔力を流す為に彫り込まれた魔力導線――そのふざけた量と深さは絶句の一言であった。控え目にいっても狂っているとしか思えない。

 

 導線から深紅の光を明滅させる様に洩らし、ただ立っているだけで周囲の者達の肌を刺すような凄まじい攻性を伴った魔力。

 

 その姿に、伝聞のみではあるがローレッタは覚えがあった。

 というか、この場にいる殆どの人間はそうであった。

 数少ない、全く知らないという者であっても一見しただけで滅茶苦茶ヤベー奴が来た、というのは察せられたし、目の前の全身鎧が誰であるのか、正確に把握している者に至っては既に白目を剥いて失神しかけている者すらいる。

 

 やや離れた位置にいるローレッタの肌が粟立つような魔力を放つ漆黒鎧――その直ぐ隣にいるというのに、平然とした様子で副長がかの人物の肩をたたいた。

 

「大体は知ってそうだけど、一応紹介しておくわね。こちら、教国の聖女姉妹の守護者という事で名の知られている《聖女の猟犬》さんでーす」

 

 ざけんな、知っとるわ! という視線が少なからず銀髪の少女の顔へと抗議を込めて突き刺さるが、声に出せる胆力……というか無謀な怖いもの知らずはこの場には居なかった。

 視線だけで不満が届く筈も無く、肩を竦めてローレッタの上司は今回の"選抜"について詳細を語る。

 

「別にコレと戦えとは言わないわ――ただ、これから数分間、()()()()()()選抜は通過です。じゃ、早速始めますよー」

 

 よーい、スタート。という、上司の気の抜けた声と共に、棒立ちだった鎧姿――《聖女の猟犬》が軽く腰を落とした。

 

「……ははっ、俺の眼がおかしいのか……黒い鬼の隣に銀髪の鬼が立ってる様に見える……」

 

 参加者の一人から漏れた、乾いた笑いを伴ったその声に。

 ローレッタのみならず、その場に居るほぼ全ての人間が一斉に頷いて。

 

 ――邪神の眷属すら怯ませる、凄まじい威圧と魔力が豪風の様に叩きつけられ、百人以上いる参加者の内、六割が一秒で意識を飛ばした。

 

(……当人である《猟犬》様まで頷いている様に見えたのは、(わたくし)の気のせいなのでしょうか)

 

 周囲と同じように半ば白目を剥きそうになりながらも、なんとか耐えきって現実逃避気味にそんな事を考えていたローレッタである。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 気分は完全にF.O.E――どうも、本日は延々、意気揚々と大陸各地から武闘会参加目指してやってきた人達にガン飛ばす作業に従事していた《聖女の猟犬》です(白目

 

 結局、人数が多いと言う事で数回に分けて集められた参加者達に向け、全開モードの鎧ちゃんで威嚇するという畜生ムーヴを繰り返した俺だが、その甲斐あって予選の人数は大分絞れたらしい。

 最初に連れてこられた面子に知り合いの娘が混ざっていたが……彼女は無事、最後まで立っていたので予選通過はほぼ確定だろう。ちょっと顔色悪くて脚がプルプルしてたのには申し訳無さが半端ないが。

 

 我がラヴリーバディは伊達に災害レベルの特級呪物扱いされてはいない。

 実際の戦闘機能もさることながら、未起動状態でも使い手が騎乗動物全般に嫌われる程度には物騒な空気を垂れ流す代物だ。

 こと威圧・威嚇や気当たり的なものに関しては、人外級の中でも更に群を抜く。故に、今回の件は鎧ちゃんの特性を充分に生かした仕事ではあるんだが……この方法を思いついたアンナ先生はやはり鬼か何かでいらっしゃる(確信

 

「失礼ね、普通に予選試合をやるより怪我人も出ないし、寧ろスマートな解決方法でしょ」

 

 メンタル面を考慮してあげて、予選登録した人達もそうだけど俺も。顔面蒼白になってる人とか泡吹いてる人相手に全力威嚇とか心が痛いんですけど!

 

 一仕事終えた帰りの道を、副官ちゃんと連れ立って歩く。

 思ったより早く済んだので、時間的にはまだ日も傾き始める前だ。この分なら、今からファーネスの処に顔を出しても夕飯前には屋敷に帰れそうである。

 隣を歩く副官ちゃんが、軽く伸びをして上機嫌に頷いた。

 

「ま、今回は助かったわ。今日で半数は片付いたし、明日に終わらせられれば大分人員的に余裕も生まれそうだし。これからマイン氏族の工房に付き添うくらいはしてあげるわよ」

 

 おう、ありがとさん。しかし、明日も、って事は俺、また手伝う事になってんの? 初耳なんですけど。

 首を傾げて問い掛けると、パタパタと軽く手を横に振って彼女は否定を返してくる。

 

「いや、明日は大丈夫。別の人が名乗りを上げてくれたから。アンタはいつも通りレティシアの仕事にくっついて行くなり、休みがとれるなら一緒に観光するなりしときなさい」

 

 隊長と出かけろ、と言いたいけど、私以上に予定が詰まってるのよねぇ、と。悩ましそうに続けるその台詞に、新たに疑問が生まれたのでついでに聞いてみた。

 

 別の人って……はて、誰じゃろ? 同じ様な真似を同じ様なペースで出来そうなのは……立場的に無理であろうレーヴェ将軍くらいしか思いつかんぞ。隊長ちゃんやネイトは単純に大勢に威圧をバラまくタイプじゃないし。

 

「あぁ、《魔王》陛下よ」

 

 一応国賓じゃないのあの鳥!? 大丈夫なのかそれ!?

 

「偶々耳に入ったらしくてねぇ……当人が「面白そうだからやらせろ」って食い付いて来たんで断る方が難しかったのよ。御付きの《災禍》の人達も顎で使ってくれて構わないって言ってくれたから、問題無い、と思いたいわ……」

 

 相変わらず自重しねぇなぁあのロリ〇ンはよぉ! 今回は珍しく役に立つ方向ではっちゃけてるけど!

 ファーネスの工房――ドワーフが主に居を構える区画へと足を向けながら、二人であれこれと今後の予定について語る。

 今日の仕事内容もあってか、自然と武道会とそれに参加する彼女に関しての話となった。

 

「今日、アンタに付き合って工房に行くのも渡りに船ってやつではあるのよね。折角だから武器(エモノ)の方も本選前に見て貰っておきたいし」

 

 腰に吊るされた二刀に手を当てて言う副官ちゃんに、特に気負った様子は無い。

 頼もしい限りだ、流石は暫定優勝候補だね。

 

「そりゃ各国のトップクラスが軒並み出場しない状況じゃぁねぇ……油断するつもりは無いけど、下馬評としては自分が一番人気程度の自覚はあるわよ」

 

 部下も出場するし、あんまり情けない処は見せられないのよね、と、不敵に笑って見せる横顔がクソ格好良い。見た目は線の細い美少女なのに、歯を剥いて唇を吊り上げる笑いが似合うって不思議やねんな。

 

「……だから、そういうのはレティシア達やウチの隊長に言ってあげなさいっての」

 

 なんか急に半眼になったと思ったら、溜息交じりでそんな言葉を吐き出されてしまった。解せぬ。

 

 そこは理解しなさいよ駄犬、なんて額にチョップされつつ。

 まだまだやる事の多い祭りの準備と、開催されてからの予定に思いを馳せて、俺達は帝都の街中を並んで歩みを進めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






ロ〇コン
「よし、行くぜ! テメェらの意地と根性見せて見ろ!!」ブワーッ。

残りの予選登録者
「」


髭陛下
「流石に改修終わったばっかの会場の壁ぶち壊すのはNG。来月と再来月の給料から天引きで」

副官ちゃん
「う"ぇっ!?」



次回、ハラペコ達の邂逅。


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