俺氏、ループ系TS聖女様をいつの間にかメス堕ちさせていた模様 作:弐目
七割方書き終えた処で
「あれ、これ一人称視点で書いた方が面白くなりそうな気がする」
そんな風に思ってしまった瞬間、リテイクってレベルじゃねぇ書き直しが決定した(白目
「……困りました……これはいわゆる、迷子というものでしょうか」
不覚です。十秒も目を離していない筈なのですが、あっという間に人込みに呑まれて皆さんを見失ってしまいました。
申し遅れました、リリィはリリィ=エルダと申します。
大陸中央は大森林、エルフの聖地で産まれた大氏族エルダの子です。
身寄りの無いリリィはそこで祖母様に引き取られ、長老様方に、『次代のエルフに相応しき教育』というものを受けて育ってきました。
ところがなんと、少し前に聖地に降臨なされた聖者様のとりなしで、外界で暮らす
故郷である聖地の暮らしに不満はありませんでしたが、今なら何となく理解できます。
そんなリリィですが、なんとなんと、現在は家族と離れて外国に来ているのです。
大陸で一番大きい国であるという帝国で開かれる『お祭り』というものを体験する為に、
……正直に言えば、『お祭り』を体験するならば
ですが、現在
『お祭り』は一年か二年ごとに行われるだろう、というお話なので、リリィとしては
「……お前には、今まで体験する事の出来なかったものの多くに、触れてもらいたい……そして叶うのなら、生まれて来る子に、お前自身の言葉でそれを教えてやって欲しい」
いつものように、ぎこちない手つきで頭を撫でてくれながら伝えてくれた言葉に、頭に乗せられた暖かい感触にふわふわしていたリリィは衝撃を受けました。
考えてみれば当然の事です。
そうです、身重ということはもう一人、家族が増えると言うことなのです。
男の子か、女の子か、どちらなのかはまだ分かりませんが、それはつまり――リリィがおねぇちゃんになるという事を意味していました。
おねぇちゃんである以上、リリィには新たに出来る家族をお世話したり、色々と教えてあげる使命があるのです。
ですが、リリィは外界にやってきて数ヵ月と経っていません。お勉強する事も多いのは自覚しています。
外界の一般的な教養にすら穴がある状態です。そんな中、来年には生まれているであろう新たな家族に対して、おねぇちゃんとして立派に務めを果たすことが可能でしょうか?
答えは否です。その結論に至ったとき、自身の不甲斐無さにリリィは愕然としました。
よくよく思い返せば、
このままではいけません。
おねぇちゃんとしても、
そんな訳で見聞を広めるべく、この度帝国へと招かれた魔族領の幹部の皆さんに同行する形で、リリィも『お祭り』を体験しにやってきたのです。
『お小遣いとは別に何かあったときの為に金貨を一枚、巾着に入れておくから隠し持っておきなさい。あと祭りは屋台や出店の類が大量に出る。食べ過ぎない様にな。それともし何かあったら《狂槍》殿か《不死身》殿に直ぐに言うこと。《魔王》様に何時ものように構われるとは思うが、一人の時は相手をしないように。あぁ、遠話の魔道具も貸し出してもらえたし、日に二回は連絡するんだぞ? それと……』
『……シグジリア、その様に一度に言われても、リリィも覚えきれないだろう……一番大事な事を先ず伝えるべきだ』
出発直前、リリィの肩に手を置いて気を付けるべき事を教えて下さる
嗜める様に言われた言葉に
『あぁ、もう。兎に角、怪我をしたり危ない目に合わない様に気をつけてな――いってらっしゃい、リリィ』
『うむ……未知に触れる事も重要だが、一番はお前の心身の健康だ……それを忘れずに行動しなさい』
『はい、
そんな風に、リリィは送り出してもらえたのです。
思い出すだけで胸がぽかぽかしてくる記憶ですが……現実は非情です。迷子となった状況が解決する訳ではありません。
事前に概要は教えてもらいましたが、やはり知識はあくまで知識、という事なのでしょうか。リリィは『お祭り』というものを侮っていました。
まさか開催前の準備の段階でこれ程の人の多さ、活気だとは予想以上です。人の多さに関しては一番大きな国の首都、というのもあるのかもしれませんが。
人の数もそうですが……何より、本番に向けて忙しく準備をする街の方々の、楽しそうな表情。
なんというか、これから楽しい事をするのだ、とこれ以上なく感じ取れるうきうきとした空気を多くの人達が纏っているおかげか、こちらの気持ちまで浮足立ってきます。
その結果、あちこちに視線を奪われて魔族領の皆さんとはぐれてしまったのですから、自身の未熟を痛感しますが。
「……確か、はぐれた際は何か目立つ物の側で待つか、そうでなければ手近なお店に入るように、と仰っていましたか」
今回同行する事となった魔族領の方々――その中でも、
リリィも魔力の感知に関しては聖地にいる頃から得意な分野だと思っていたのですが、幹部の方々にとっては高い領域で修めていて当然な技能の一つな様です。エルフの聖気混じりの魔力は独特なので、直ぐに分かるからはぐれても慌てない様に、との事でした。
特に、同行者の中で一番偉い方である《魔王》様は、その気になればこの街全域くらいなら個人の魔力を個別に認識可能である、と仰っていました。スケールが違い過ぎて想像が付きづらいです。
『――万が一はぐれてもご安心を、姫! 立ち塞がる全てを薙ぎ払って一直線(物理)に駆けつけますので!』
『そこのオツムも常識も女の好みの年齢も足りてないアホウドリの言う事は聞き流せ――だが、まぁ……迷子になってもビビんなってのは確かだ。直ぐに拾いにいってやるから精々大人しく待っとけ』
何故かリリィの前に跪いて力説する《魔王》様のお言葉に対して、《狂槍》様が付け足す形で仰って肩を竦めていたのを思い出します。
……以前から何度も疑問に思っていたのですが、何故《魔王》様はリリィを姫と呼ぶのでしょう? 大氏族エルダの血族ではありますが、祖母様に引き取られたとはいえ、リリィは血筋的には特に長老筋の近親という訳ではなかったのですが。
そんな事を考えつつ、『お祭り』の準備に追われて多くの人達が忙しく歩き回る街中を見回します。
リリィにとっては色々な目新しい物に溢れている帝都ですが、おそらく目立つ物――シンボルマークというべき物は不幸にもこの周辺には見当たりません。
ただ、不幸中の幸いな事にお店の類はそれなりに多いです。《狂槍》様曰く、妙な店だと面倒なので分かり易い飲食店などが待つ場所としては望ましい、との事でしたので、すぐ目の前にある看板にシンプルに"飯処"と書かれているお店に入るとしましょう。
あまり見た事のない、引き戸の様な扉を開けると、お腹を刺激する良い匂いが店内から漂って来ました。
席数は少ないですがお掃除の行き届いた店内は、何処となく
先程も述べましたが、お店の良し悪しを判別できる程にリリィは外界での経験を積んでいません。
ですが、何故でしょう。勘が告げていました、この店は良いお店であると。
「いらっしゃい――おや、可愛らしいお客さんだ。お嬢ちゃん、一人かな? お父さんかお母さんは?」
「こんにちわ。保護者の方と待ち合わせをしているので、待たせて頂いてもよろしいでしょうか?」
お昼の時間には少し早いのですが、既に半分程の席がお客で埋まっている店内から、年嵩の柔和な雰囲気の男性が出迎えてくれます。
挨拶を返して一礼。お店に入った目的を告げたのですが……とっさに見栄を張って迷子では無く待ち合わせであると言ってしまいました。
不覚です……迎えに来て下さる方と合流すれば、直ぐにでも真実が明らかになるというのに。
"おねぇちゃんとしての沽券に関わる"などと頭を過ってしまったが故の軽率な行為です。真に胸を張っておねぇちゃんたらんとするのならば、反省せねばなりません。
お店の方は少し驚いた様な顔を見せたあと、笑いながら空いてる角の席へと案内してくれました。
「そうかい、混みだすにはまだ早いからゆっくり待ってると良い――その間に何か食べるかい? 字が読めるならそこの壁にメニューが貼ってあるよ」
ごはんを食べる場所で席を利用させてもらうのに何も注文しないというのは、多分あまり良い事では無いのでしょう。
幸いにしてお小遣いは
以前、
壁に貼ってあるお品書きをじーっと眺めて、注文する品を吟味します。
むぅ……今まで食べた事のある品から、リリィにとって未知である品まで、品目は様々です。パスタ一つとっても、掛かっているソースによって複数の種類があります。
そして何より、ハンバーグがあるのです……! 一番は
本音としては、是非とも食べてみたいです。
ですが、リリィは絶賛迷子のエルフなのです。
今もリリィの魔力を辿って探しに来てくださっている《災禍》の方々の事を考えれば、自分だけしっかりと美味しいごはんを頂くのは、不義理が過ぎるというものでしょう。
なので、断腸の思いで特製ハンバーグの文字から視線を引き剥がし、お値段も手頃なスープだけを注文します。
魔族領の方々に対しての礼を失わないため、というのもありますが、お財布の中身を減らしたくないという判断もあっての事でした。
貨幣の価値基準は未だお勉強中な部分もあるのですが……お小遣いは多めに持たせてくれた事は分かります。それでも、無駄遣いは極力避けねばなりません。
なぜなら、お小遣いの半分は家族のお土産に使う予定なのです。
残り半分の使い道はきちんと吟味しなければ、あっという間にお財布は空になってしまうでしょう。
ちなみに『お祭り』本番の前ではありますが、まだ
あの絵本はよい物です。おねぇちゃんが読んであげれば、喜ぶこと間違いなしなのです。
我ながら良い買い物をしたと、こればかりは自画自賛します、ふふん。
などと考えていると、直ぐにスープがやってきました。
お店の方がリリィの座る卓に置いてくれた品は、幾つかの野菜を煮込んだ中に、
値段としてはお店のなかでも安いものを選んだのですが、良い香りで美味しそうです。
ただ――。
「申し訳ありません、お小遣いの問題でパンは頼んでいないのです」
「ははっ、子供がそんな事を気にしなさんな、パン一つくらいはおまけしといてあげるよ」
「おまけ、ですか……では、頂きますね。ありがとうございます」
スープの器の脇にある、小皿におかれた小さ目のパンと店員さんの顔を見比べて。
しばし悩みましたが、ご厚意に甘える事にしたリリィは座ったままですが丁寧に頭を下げて御礼を述べました。
手をひらひらと振って厨房の奥へと戻っていく店員さんを見送ると、手を合わせてお食事の挨拶をします。
「いただきます」
"いただきます"と"ごちそうさま"は、食べ物への命を頂く事への感謝と、お料理を作ってくれる人への感謝、二つの礼を込めるものだというお話です。
御祈りの言葉としては短いのでしょうが、そこに込められた意味についてはとっても説得力がある、とリリィは感じました。
まだ見ぬ弟か妹にも、普通のごはんが食べられるようになったら教えてあげたいですね。
少し硬いパンを指先で千切るとスープに浸して、柔らかくします。
ついでに匙でスープをひと掬いしてお口に含むと、リリィでも理解できる位には、良い意味でお値段不相応であろう豊かな旨みが口内に広がりました。
舌で感じた限りでは、そう変わった食材を使っている訳ではありません。
ただ、あり触れた材料でも切り方一つ、煮込みの時間一つとっても入っている食材に合わせた丁寧が仕事が窺えます。
お野菜の旨みを丁寧に引き出している為、塩気が控え目でもこれ程に豊かな味わいになるのでしょう。
以前、別のお店で飲んだスープは材料は似たり寄ったりだったのですが、具材の火の通り方にもばらつきがあり、もっと塩辛かった記憶があります。
勘働きなどしたことが無かったのですが……最初に感じた『この店は当たりである』という予感は正解でした。
あぁ、それだけに……本当に食べたいものを選べないこの状況がうらめしいです。元はと言えば迷子になったリリィの自業ではあるのですが。
美味しいスープによって急速に空腹感を訴えて来たお腹は努めて意識しない様にしつつ、噛みしめる様にスープを味わっていると、お店の入口である引き戸が開いて、新たなお客さんがやってきました。
「あー、お腹空いた……おじさーん、久しぶりー」
「おやおや、こりゃ副隊長さん。とんとお見限りだったじゃないか、また来てくれて嬉しいよ」
お腹を擦りながら、慣れた様子で店内に足を踏み入れて来たのは、騎士の装いをした銀髪の女性でした。
年の頃は愛し子御姉妹の姉君の方と同じか少し上、くらいでしょうか。魔力による何某かの処理が為された黒地の外套を羽織り、相当に業物であろう二種の短めの剣を腰に佩いています。
以前は顔馴染み――常連客というものだったのでしょう。
店員さんとお互いに気安い口調で挨拶を交わす様は、一見客のリリィよりもずっとお店に馴染んでいるように見受けられます。
「いやぁ、ここ一、二年くらいは主に国外にいたのよ。久しぶりに長めに戻って来れたから、やっぱりこの店に来ないとね」
「嬉しい事言ってくれるねぇ。それじゃ、注文はいつもので良いのかい?」
「うん、お願い――ただし二人前でね」
スラリとした、
店員さんから水の入った杯を受け取りながら、銀髪の人はリリィから見て斜め前の席に腰を下ろしました。
「あいよ、いつもの二人前ね。にしても、この後も仕事なんだろう? そんなに食って動きづらくないのかい? ウチとしちゃ沢山注文してくれるのは有難い話なんだが」
「二人前くらいなら問題ないない。それに……来月と再来月はちょっと懐具合がピンチになりそうなの……だから、今の内に美味しい物を食い溜めしておこうかなって」
「なんだい、散財でもしたのかい? それとも何かやらかして減給でも喰らったとか?」
「あー……後者よ。ちょっと仕事の最中に公共の建物の壁をぶっ壊しちゃって……」
そりゃ大変だ、と相槌を打って笑いながら手早く調理を始める店員さんと、腹を蹴るんじゃなくて股でも蹴り上げてやればよかったわ、とボヤいて杯に口を付ける銀髪の人ですが、お給金が減らされるというのなら今から節制した方が良いのでは、と思うのはリリィだけでしょうか?
そう大きくは無いお店です。他のお客さんとの会話が聞こえて来るのは仕方ない面もありますが……聞き耳を立てるような真似も良い事では無いでしょう。
そんな風に考えて、取り敢えず目の前のスープとパンに集中しようと思ったリリィですが、それも長くは続きませんでした。
「ほいよ、おまちどうさま。御注文の当店特製ハンバーグセットだよ――おかわりは最初のが減ってきたら出すからね」
「きたきた。やっぱこの店にきたらコレよね」
…………!
店員さんの言葉と銀髪の人の嬉々とした声に、思わずリリィは顔を上げてそちらを注視してしまいます。
じゅうじゅうと美味しそうな音と湯気を立ててお皿に乗っているのは、今まで見て来た物と違ってやや平たいハンバーグです。
上にかかっているのは赤茄子をベースとしたソースでしょうか。香味野菜や薬味を含む、主張が強めですが香ばしい香りがこちらにまで届いてくるようでした。
付け合わせのお芋と人参も美味しそうです。
何時も最後までお残ししているので、貰って良いかと聞いたときは目を輝かせて頭を撫でてくれたのです。
けれどその後、
特に
勿論、リリィもお咎め無しという訳にはゆかず、次に
綺麗で優しくて、自慢の
漂って来る、お肉とソースの暴力的なまでの食欲をそそる香りから意識を逸らす為に、過去の苦い記憶に思いを馳せますが……成功しているとは言い難く、リリィの視線は銀髪の人がナイフとフォークを使って切れ込みを入れているハンバーグに張り付けられたままです。
「いっただきまーす……んーっ、んまぃっ! 久しぶりに食べると美味しさも一入ってやつだね」
その口に切り分けられた挽肉の塊が放り込まれると、分かり易い位に銀髪の人の表情が笑み崩れました。
本当は食べたいけれど食べれない物を前にして、スープを啜る。
これは一体、何の罰……否、拷問なのでしょうか。
迷子になったのはリリィの責であって、間違っても《災禍》の皆さんに悪い点は無いのですが……それにしたってこれはあんまりな気がします。
少し平たい形状ですが、お肉はどんな味と食感なのか、ソースは甘めなのか塩気が強いのか。
それらをリリィがじっくり一口一口を吟味して味わいたいと思える品を、バクバクとあっという間に平らげている方が目の前にいると、その想いも更に強くなろうというものです。
八つ当たりに近い思考なのですが、スープによって空腹感を刺激され、更に届いてくるハンバーグの香りでお腹がきゅうきゅうと鳴っているリリィは、それらの感情を押さえ込むのに苦労しました。
その間にも、銀髪の人はセットのパンとスープもあっという間に食べ尽くしてしまい、二つ目のパンにも手を伸ばしています。
健啖なのは騎士として良い事なのでしょうが、主食であるパンをああも早いペースで消費しては、ハンバーグが丸々一つ余ってしまいそうですね。
リリィとしては、お肉そのものも大好きですが
この世界にも漠然と一緒に食べると美味しい、程度の概念はあるのでしょうが、明確な知識としては転生・転移していた方々の世界のものらしいので、おそらく銀髪の人はそれらを知らないのでしょう。
少々意地が悪いとは思うのですが、目の前でハンバーグセットをもりもりと食べている方に対し、そのお決まりになる程の好きな品に、別の楽しみ方がある。リリィだけがそれを知っているという状況に、少しだけ胸がすく思いです。お腹の方はさっきから空いてるのですが。
案の定、こっそりと盗み見ている間にも二人前のパンを消費してしまった銀髪の人ですが、ここで彼女はリリィの予想外の行動にでました。
「はーっ、相変わらず美味しい……あ、おじさん、パンのおかわりお願い。次は丸パンにしてくれる? あと次のハンバーグはソースじゃなくて乾酪で」
「はいよ。珍しいね、副隊長さんは前っからソース派だったのに」
……おかわり……! そういう手段もありましたか……!
更には二皿目をソースから
流石に常連なだけはありますね、侮れません。
このお店のみならず、外界のお食事に関してはまだまだ初心者のリリィでは知り得なかった方法です。
お小遣いに余裕があるのが前提の手段ではありますが、覚えておきましょう。
今更ですが、店員さん――この場合は店長さんと言った方が良いのでしょうか。彼のお手並みも相当なものです。
それほど席数の多くないお店とはいえ、一人で切り盛りしながら時折、銀髪の人や他のお客さんとも気軽に談笑しています。
その間にも、手は止まらずに注文された品をてきぱきと作り上げていく様は、熟練の職人芸と言っても良いのではないでしょうか。
その様に考えている間にも、二つ目のハンバーグのお皿を受け取った銀髪の人は、おもむろにおかわりの丸パンにナイフで切れ込みを入れました。
そして、二つに割ったパンの断面に、セットのサラダに入っている葉物野菜を乗せると、更にその上に
最後に一つ目のお皿に残っていたソースを匙で掬い、その上にかけるとそれらをパンで挟み込みました。
――空のお皿を下げようとした店長さんを止めたのはこれが理由ですか、益々侮れませんね銀髪の人……!
「テリヤキもいいけどやっぱりダブチは正義、だったっけ。アイツに力説されてからちょっと気になってたのよね……それじゃ、先ずは一口……」
あーん、と、音を聞こえてきそうな程に口を大きく開けると、彼女はハンバーグをサンドした丸パンにかぶりつきました。
口いっぱいに頬張った為に、声に出した感想こそありませんでしたが……その満足気な表情をみれば結果は一目瞭然です。
想像に過ぎませんが、普通に食べるだけとはまた違った美味しさがある筈なのです。
パンとお肉の相性は言うに及ばず、そこに
それらを一度に口にする事で得られる美味しさ――サンドイッチに代表される口内調味の妙を、注文した品を利用して自らの手で作りだした銀髪の人に対して、リリィは謎の敗北感を覚えました。
とうに空になった自身のスープの器に眼を落して、未熟さによる敗北を受け入れていると。
「――これ、あっちの常連のお姉さんからね。遠慮しないで食っておくれよ」
やってきた店長さんが、そう言ってリリィの前に置いたのは……蜂蜜のかかったパンケーキでした。
「ウチは基本飯屋だから、甘味なんてこれしか無いけどね。まぁ、その分出来は悪くないと思うから」
そう柔らかく笑いかけると、直ぐに厨房に戻っていた店長さんの背を目で追い――次に、彼が先程指さした相手である銀髪の人へと視線を転じます。
注文した品をあらかた食べ終えた彼女は、リリィが見ていることに気付いたのか、口元をハンカチで拭ってヒラヒラと手を振ってきました。
ふ、ふふ、そうですか。リリィの様な未熟者の子供はお肉では無く甘味を食べているのが相応しい、という事ですか。
もちろんパンケーキも好きなのですが、只でさえ敗北感に打ちひしがれている処に、それを感じさせてくれた当人からの謎の施しです。
スープによって食欲を増進され、他人がお肉を食べる様に空腹をこれ以上無く刺激され、最後に目の前に甘味を置かれたリリィのお腹と口の具合は、控え目にいって大混乱でした。湧き上がる色々な感情の波を併せれば猶の事です。
――良いでしょう、貴女の善意は感謝して頂くことにします、銀髪の人。
その上で、リリィは貴女を好敵手として認定します。今は"食"に関する事で後塵を拝していますが、何れは貴女を凌駕してみせましょう。
甘くて柔らかいパンケーキにフォークを突き刺しながら、そんな風に決意して。
リリィは目の前の
副官ちゃん
「なんか行きつけの店に、ご飯食べてるところを凄いガン見してくるエルフの美少女が居たから甘味奢ってあげたら涙目で睨み付けられた」
ほぼ全部書き直してまで一体何の話を書いてるんやワイは……。