俺氏、ループ系TS聖女様をいつの間にかメス堕ちさせていた模様   作:弐目

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再会 駄犬の場合(後編)

 

 

 

 店の外で待つこと小一時間。

 決まりが悪そうな、恥ずかしそうな表情でクインが手に小さな布袋を抱えて出て来た。

 

「お、おまたせ……」

 

 ……おう、お帰り。

 

 服飾に限らず、一部のガチの大商会が直営してる店だと俺達転移者が居た世界の販売システムを真似てる処が結構ある。

 衣類関係の既定のサイズを複数種用意しておいて、試着可能、なんていうのもその一つだ。

 いうて、この手の売り方は縫製作業の大部分が手作業か簡易な裁縫機械(ミシン)であろうこの世界じゃ人手も金もかかる。

 なので資本力と固定の太客――ざっくりいえば貴族とかの後押しがある様な高級店オンリーなんだろうけど……ざっと店内を見た限りではこの店はその高級店に該当する、するんだが。

 

 特にクインの場合、こう、ね? 

 

 サイズがサイズなので既製品手直しじゃなくて完全オーダーメイドになるから数日掛かります、なんつーオチも有り得たのだが……。

 

「と、とりあえず胸元は落ち着いたよ……でも、今のはピッタリとはいかないから後日、きちんとした品を受け取りに来て欲しいって……」

 

 とりあえず代用品くらいはあったって事か。良かったよかった……マジで良かった(迫真

 一安心で胸を撫で下ろしている俺を、眼前の友人は申し訳なさそうに上目遣いで見上げて来る。

 

「お金まで出してもらったみたいで、本当にごめんよ。後日の品は僕が払うし、あとで支払いした分も返すから」

 

 いらん心配ですわよ。店を出る前に店員さんに釣りはいらねぇ! 一番いいのを頼む! と金貨を渡してきたので後に出来る品も余裕っすわ。

 

 この手の高級店の相場周りは以前、シアやリアと行った変な店長が経営してる高級店で学んだ。渡した額なら確実に足りんという事は無い筈だ。

 金を返してもらう必要も無いぞ。高い買い物ではあったが、引っ張って強引に連れて来たのは俺だし……()()()()()()()()()()に贈る品が下着ってのはアレだが……まぁ、再会祝いってやつだ、黙って奢られてくれ。

 

 そんな風に肩を竦めて言ってやると、クインは袋を抱いた腕にギュッと力を込める、やはり上目遣いのまま――今度は悪戯のバレた子供みたいな顔になった。

 

「あはは……やっぱり、気付いてる?」

 

 そらね。というか気付かねー訳ないでしょ。顔合わせ一秒で把握余裕ですわ。

 顔を合わせるのが二年ぶりとはいえ、戦場でも肩を並べた事のあるダチやぞ。女神様の加護(下駄)を使って『視る』迄もないわ。

 雰囲気やぱっと見の身体つきは確かに変わったけど、その程度で俺がクインに気付かない筈も無い。

 

 本人が隠したがってるのかも、と思って配慮しようとはしたが……ランジェリーショップに放り込んだ時点で気付かないフリは無理やろ、ということで互いにカミングアウトとなった。

 つーか気付いてないとしたら、俺が初対面の女の子をちょっとアダルトなお店に引きずり込んで下着プレゼントするやべーやつになるでしょ!

 

 ……まぁ、あれです。友人面しておいて再会するまで性別を勘違いしていたせめてもの詫びも兼ねてる、って事にして頂きたいです――マジで今までスンマセンでしたぁ!

 

 身体を直角に折り曲げて深々と頭を下げる俺の後頭部に、クインの慌てた声が降ってくる。

 

「待って、待ってよ! それに関しては気にしてない……というか、僕も敢えて口にしなかった部分があるんだ! 同性の友人、っていう事で接して来るキミの距離感が心地よくて、つい……」

 

 場合によってはそのまま土下座からの五体投地コンボに移行する構えであったのだが、男友達のノリで接していた過去の経験故か「土下座とかはやめてくれよ本当に!」と、こっちの行動を先読みして俺の肩を掴み、上体を起こさせようとしてくる。

 いや気付かなかった俺が、いやいや黙っていた僕が、と二人揃ってやいのやいのと自分に責があると不毛な謝罪合戦を一分ほど繰り返したが、ここはランジェリーショップの目の前である。

 道行く人から見れば痴話喧嘩ですらない微笑ましいやり取りにでも映ったのか、ぬるーい視線が向けられている事に気付いて、俺もクインも同時に咳払いして一旦ストップした。

 

 ……とりあえず、お互いに非があったということで。

 

「……うん、そうだね」

 

 そそくさと店の前から離れ、移動を開始する。

 ややあって気恥しさも薄れたのか、同行スタートした時の上機嫌に戻ったクインが自身の蜂蜜色の髪を指先でくるくると弄りながら笑う。

 

「店の人達にも怒られてしまったよ。正直、肌着の類にはあまり頓着していなかったから、あんなに洗練された品があるというのは驚きだった」

 

 あー……あぁいう店で働いてるプロ意識高い人達からしたら、めちゃくちゃ上等な素材の持ち主が使い古したさらし巻いてるっていうのは歯がゆく感じるだろうしなぁ。

 

「うん。その……『見えないところのお洒落』というのもあるんだね、目から鱗というやつだったよ」

 

 まずクインくんさぁ、下着とか見えないところのお洒落とか、友達っつっても男相手に気軽にその手の話題を振ってくるのやめよう?

 気不味くて反応しづれぇんですよぉ! 男だと思ってた頃の絡み方は流石に厳しいんですよぉ! 偶にノリでやっちゃいそうだけど!

 大変にご立派なメロンもやばいがその下のくびれもやばい。上にデカいもんついてる分、メリハリがえげつない事になってるから視覚の暴力になってる。

 

 二年前は常時賢者モードみたいなもんだったし――何より、最終的に自分が辿る末路を考えると誰かにそういった眼を向ける、そういった感情を抱くという事も不毛な気がして、その手の話題はふざけて語ることはあっても何処か自分を切り離してる部分があったのだが……。

 

 今では再度の転生アフターライフを満喫中。年単位で引き籠っていた我がジョンも一部放棄していた役目を再び粛々とこなす様になってきた。

 過去の姿からのギャップも手伝って、クインのガバガバな距離感はこう、非常によろしくない。男同士だと思ってた頃はそう気にもならんかったが、今はヤバい。

 正直言えばシアやリアにもキミタチ自分の容姿を自覚した距離感にしてくれない? って思うときが無いでもないが、アイツらの場合は元の性別が性別なのでしゃーない。色々とよろしくないのは確かだが。

 

 無防備が過ぎるのは将来的にも色々と心配になる。やんわりとその辺りの事を注意してやると……それに気を悪くする処か、寧ろ嬉しそうにして。

 彼女は一緒にいるときによく見せていた、はにかむ様な笑顔を浮かべる。

 

「髪も伸ばしてるし、職務の時間以外はあんまり男の子っぽい恰好はしなくなったし……見た目はそれなりに変わったとは思ってるよ」

 

 でも君は直ぐに気付くんだね、と穏やかに眼を細めて言って来るが……いやさっきも言ったやろ、戦地を共にした友達(ダチ)やぞ。寧ろ気付かない訳が無い。

 一目みてクインだと確信した分、とんでもねぇスタイルの美人さんになってた衝撃も緩和されずにダイレクトに脳天に届いたんですけどね!(白目

 

「あははっ、やっぱりキミはキミだなぁ……でも、そっか。急に大きくなって邪魔だ、くらいにしか思ってなかったけど……役に立ってるんだなぁ、コレ」

 

 役に、って何の話……ってオイ、嬉しそうに掌で持ち上げるな!? 話聞いてたのかそういうとこだぞお前ェ!

 はいこっそり《地巡》《地巡》! 足裏を通じて大地に巡らせる魔力の流動に併せ、血流も引っ張る様にして操作する……お師匠とミラ婆ちゃんにバレたら怒られそうな使い方してんなぁ我ながら!

 

 ……とにかく! こうして再会して、そんで互いに初対面のフリもやめたんだ、先ずはすべき事があるだろう。

 

「……! そうだね、僕とした事が浮かれて一番大事なことを忘れていたよ」

 

 名案だと言わんばかりにパァッと笑顔を咲かせて頷く友人と揃って足を止め、俺達は向かい合う。

 

 

 

 ――ただいま、クイン。色々とあったけど、こうして戻って来れたよ、またよろしく。

 

「うんっ……! おかえり! またよろしく!」

 

 

 

 そう笑い合って、俺は右手を差し出して――それをスルーしたクインは両腕を広げて満面の笑みのまま熱烈なハグを決めて来た。

 

 うわー、かおがちかい、いいにおい。そしてそれいじょうにいろいろとやわらかい(白目

 

 お前ホンマいい加減にしろよ。そういうトコだぞ(二度目

 

 

 

 

 

 

 再会の挨拶も終え、改めて友人の用事を聞いた処……どうやらクインは彼女の主たる女公爵の命で、帝国の兵装――特に上位の騎士や精鋭が使用する魔装関連を扱う工房へと見学に来たらしい。

 

「僕達は種族からくる生来の魔力の高さや耐久・再生力もあって、武装を必要としない者も多い。その分、各国に比べて武具全般の水準が低くなりがちだからね。主もその辺りを改善したいとは思ってるみたいだよ」

 

 魔族領でも《魔王》がケツを下ろしてる中央の方は、魔装と強力な魔獣の甲殻や骨格なんかを組み合わせたどっかの狩猟ゲームみたいな独自の武具製法が発展してるみたいだが……性能優先で見た目などは洗練されているとは言い難く、貴族主義の吸血鬼(ヴァンパイア)達の嗜好からは大きく外れている。

 出来ることなら帝国の魔装関連の技術を参考としたい、って事だろう。

 後は、単に女公爵が《魔王》に頭下げて技術者を招聘するのを嫌がった、という可能性もあるが。

 本当に必要になればあのおねーちゃんは躊躇わないだろうが、邪神との戦争も一段落ついた現在、急速な安定期に入りつつある人類種国家群では軍事力の維持・拡張ってのは大戦期と比べて大きく優先順位を下げている。

 今回のクインの工房見学も、技術を見る云々というより顔見せと繋ぎを得る為の一歩って事だろう。

《魔王》が嘴を突っ込んでくるであろう魔族領の王都に交渉するより、多少遠回りな手段になっても帝国から同等の成果が得られるならそうする、って事なのかもね。

 頼んだら頼んだで、《魔王(アホウドリ)》が調子にのって「ヘイ、土・下・座! どーげーざ!」とか煽って女公爵が普通にブン殴り、そのまま大喧嘩が始まるのが目に見えるし(確信

 

 うん、ちと脇道に逸れ過ぎたな、話を戻そう。

 帝国の方から発行された紹介状は何枚かあって、今日はその内の一つ、一番大手の工房へとお邪魔しに行く予定なのだそうだ。

 

 ……で、帝国で今現在一番の大手かつ腕利きの職人集団といえば、当然決まっている訳で。

 クインが見せてくれた紹介状には案の定、ドワーフ族の代表たるファーネス率いる、マイン氏族の武具工房の名が記されていた。

 言う迄も無く俺は彼女達とは見知った間柄だし、工房のほうにもこの間顔を出したばかりなので道案内するにはうってつけの場所だ。

 いうて、ファーネス自身は丁度留守にしてたので、工房にいた他のドワーフに用件を頼む事になったんだけどね。

 

 しかしなぁ……あの場所にもう一度か。

 

 紆余曲折あったが、今日は再会した友人に付き合うと決めた。

 彼女と一緒にファーネスの処に行く事に否は無い。無いのだが。

 正直、しょぉーじきっ、気は、進まない。

 前回で済んだと思ったのに、また行く事になるとは思ってなかったわ……。

 

 俺のテンションが露骨に下降したのを察したのか。

 クインが心配そうに眉根を寄せると、下から覗き込む様に様子を伺って来る。

 

「大丈夫かい? キミが嫌な事に付き合わせるのは本意では無いんだ、何か問題があるっていうのなら……」

 

 いや、大丈夫だいじょーぶ、一緒に行くよ。

 嫌って訳では無いのよ。なんだかんだいってあそこのドワーフ達は良い奴らだし、俺は使わないけど高性能でかっちょよい武器がずらーっと並んでる工房は見ていて飽きない。男の子なら丸一日くらいは余裕で入り浸ってられる空間やぞ。

 

 ただ……俺が行くとファーネス達の反応が"怖い"のだ。

 

 あと心配してくれるのは嬉しいけど、その身を屈めて上目遣いするのをやめなさい。アングルのせいで谷間がヤバいくらいに見えるんだよ、そろそろワザとやってんじゃねーかって勘ぐっちゃうぞマイフレンド……!

 抗議の意味も込めてデコピンしてやると、「あ痛っ……え、なんで額を弾かれたんだい僕は?」なんつって何も分かって無さそうに首を傾げる友人を先導し、俺は帝都の北区を進む。

 

 マイン氏族の工房は、北区の端――外壁沿いの角地を一際大きく使った土地に建てられている。

 地図上では帝都の隅っこにあるが、当然冷遇されてこの配置、なんて訳もなく、寧ろドワーフ達の要望を最大限に応えた工房にする為にこの場所になったんだとか。

 間違いなく大陸でも最大規模の鍛冶場は、超大型の炉とそれを日夜可動させる為の機構で中々に喧しい。それこそ、住民区の中に存在したら騒音クレーム待った無しな程度には。

 通常の鍛冶だけでなく、機械的な構造の絡繰りなんかを実験的に作る施設もあるため、中には国の依頼を受けて手掛けているであろう国家機密に掠ってそうな物も混ざっている。といっても、見た目からは用途とかサッパリ分からない物ばっかだけど。

 

 長い戦争の間、高品質な武具や兵器の開発を担ってきたマイン氏族を中心としたドワーフは、既に鍛冶職として盤石にして不動の地位を確立している。

 ドワーフという種族からして鉄ぶっ叩いたり石削ったりして何か作ってるのが生き甲斐みたいな連中なので、地位や立場にかまけて腐るなんて事もほぼ有り得ない上に、持ち得る政治的な発言力なんかも自分達の領分に嘴を突っ込まれない限りは基本、行使する事が無い。

 存分に腕を振るえる環境を整備してやれば、文句の声も殆ど上がらず成果はきっちり上げて来る超一級の職人集団……そら便宜を図りまくりになりますわ。

 いうても、工房に勤めるドワーフ達が艶々した良い笑顔になる様な、とんでもねぇ設備を揃えられる国は帝国くらいのもんだろうが。

 

 本日、クインが見学に向かう工房はそんな場所なので、立地的な不便さなどものともせずに色んな客がやってくる。

 

 優れた武具を求める戦士、一級の魔法発動体を欲する魔導士、実験に必要な複雑な絡繰りなんかを作って欲しい研究者、国の依頼を持ってくる役人。

 数多く来る客も求められる仕事も玉石混交。全員を相手に出来る筈もないので、基本工房に入るには紹介状ありき――そうでなければ、余程ドワーフ達の興味を惹く仕事を持ってくるか、だ。

 武装を欲しい、っていう場合には、腕利きだと紹介状無しでも通るケースが多いみたいだけどね。

 極論、人外級やそれに近い領域の戦士や魔導士ならドワーフの方で「俺が作る!」「いや儂が!!」って担当の奪い合いが始まるらしい。隊長ちゃんの湾刀なんかも喧々囂々すったもんだの末に結局ファーネスが族長権限まで利用して打ったみたいだし。

 

 まぁ、なんだ。

 長々と説明したが、要は物見遊山や気軽な一見客が入れるような処では無い、という事なのよ。

 

 だというのに、先日訪れた俺はノーアポな上に頼む仕事は半分相談みたいなもん、残った時間で工房見学なんかもしたいなーとかも考えていたので普通に舐めた客だった。

 本来なら相手にもされないか、下手に食い下がっても叩きだされて塩撒かれても可笑しくない筈だったんだが――。

 

 

 

「おぉ! また来てくれたのか坊! さぁさぁさぁ遠慮するな! 上がれ上がれ!」

「今茶を淹れてやろう! そちらの嬢ちゃんはお前さんの連れか? ならかまわんかまわん! 一緒に待っとれ、この間王城のモンが届けに来た菓子があった筈だから出しちゃる!」 

「この間は土産の一つも受け取ってくれんかったからのう! 今日はなんぞ持ってけ! ワシの作った剣と鎚なんぞどうじゃ? 他の武具でもえぇが」

「あ、ズルいよ! ちょっとちょっと坊や! コイツのじゃなくてあたしの! あたしのにしときなって! この間話してた火薬を使った杭打ちの試作が――」

 

 

 

 工房前にある門に近づいた途端、俺に気付いたドワーフが凄い勢いでスッ飛んできてあれよあれよという間に囲まれ、気が付いたら内部の食堂っぽい場所で大勢の職人連中に茶だの菓子だのと散々に進められている。

 この間来た時と全く同じ流れに笑うしかない。クインなんて紹介状を出す前に工房に引きずり込まれて唖然としとるし。

 前回同行してもらった副官ちゃんはこの展開を予想していたのか、開き直って出されたお茶菓子もりもり食べていたけどな!

 

 髭面で小柄なムキムキのおっさん共(一部女性もいるけど)が愛想よく出してくれるお茶を啜りながら、彼らが食事を摂る場所なのであろうこの場をぐるりと見渡す。

 俺とクインが並んで座っている席周辺は、此処に勤めているドワーフ達にすし詰めで囲まれていた。

 なんなら食堂中のドワーフ達の視線がぶっ刺さってる気すらする。おい、今新しく食堂に入って来た奴、何でこっちを指さしてワクワクした顔で同僚に手招きしてんの? 絶対飯食いに来てねーだろアンタら。

 

 比喩抜きで工房に勤務してるドワーフがこの場に集結しつつあるので、収拾がつかなくなる前に用件を告げようと口を開いたときだった。

 

「えぇい、道を塞ぐでないわ馬鹿もん共が! 坊主は儂の客じゃぞ! ほれ、散った散った!」

 

 音割れしてるマイクから出てるような大音声が響き渡り、人垣を搔きわける様にして進み出て来たのは老齢のドワーフだ。

 マイン氏族共通の赤銅色の肌に、種族的には大柄であろう人間と然して変わらない体躯。年経て白く染まった長い髭は適当に剃られた髪と違って丁寧に手入れがされ、幾つもの三つ編みとなって揺れている。

 のっしのっしと重量感のある歩みで俺達の前にやって来た老人は、此方の向かいの席に座っているドワーフから席を奪い取るとドカッと腰を下ろした。

 当然の如く、周囲からブーイングの声があがる。

 

「そりゃないじゃろう先代! アンタはこの間、坊の相談を受けたばっかりだろうに!」

「後からやってきて客の相手役を奪うとか横暴じゃないか! 職権乱用は反対さね!」

「というか、王城からの依頼はどうしたんじゃ! 姐御はそっちに掛かり切りじゃろ! なんで補佐しとるアンタがこっちに来た!?」

 

 ギャーギャーと上がる抗議の声に、先代、と呼ばれる老ドワーフはギョロリと周囲を睨みつけて唾を飛ばして怒鳴りつけた。

 

「喧しいわぁ! こやつの求める事に儂以上の仕事が出来るようになってから文句を言え小童共が!!」

 

 ビリビリと空気が震えるような大喝にも全く怯まず「ざけんなこの爺!?」「おい、誰か姐御にチクってこんかい!」と更にヒートアップして上がる怒声を無視し、老人――マイン氏族の先代族長は卓に肘をついて此方に笑いかけて来る。

 

「おう、数日振りじゃのう猟犬の坊主――例の件になんぞ進展か変化でもあったか?」

 

 どうも、この間はお世話になりました先代……あー、実は今日の俺はただの付き添いでして。

 

「なんじゃ、つまらんのう。折角だからお前さんの相棒の整備くらいしていけ、復元機能があるっちゅーても一回くらいはじっくり腰を据えて確認すべきじゃぞ? ん?」

 

 軽い口調だが、相棒の整備、と口に出した瞬間の目付きがヤバい。控え目にいっても凄いギラギラした眼光で身の危険を覚える(白目

 先代だけでは無い。周囲の食堂に押し寄せたドワーフ達も我が相棒――鎧ちゃんの事が話題に出た途端、愛想良い表情をポイしてギラリとした目付きに変わった。

 

 ――珍しい事に……本当に珍しい事に、マイラヴリーバディから明確に嫌そうな感情が伝わって来て草も生えない。気持ちは解かるよ鎧ちゃん、だってコイツらこえぇもん。

 

 以前にも述べたと思うが、ドワーフ――取り分け武具の鍛冶に秀でるマイン氏族にとって、特級呪物にして魔装としては史上有数の性能を誇る鎧ちゃんは琴線に触れるどころかぶっ刺さりまくる武装らしく、俺が工房に現れると見せろ嗅がせろ触らせろ齧らせろと揃って同じ反応を示すのだ。

 その様はさながら、長年追い求めた宝物を目の前にした冒険者の如く……というのはまだ上品な表現で、実際の視線はもっとギラギラしつつもネットリしてるという非常に寒気を覚える代物である。

 

 鎧ちゃんの整備自体は、どうせやるなら最高の鍛冶師である彼らにやってもらった方が良い、というのは分かるんだが……前のめり過ぎて怖いんだよぉ! 

 あくまで使い手の俺ですらコレやぞ、当事者であるマイラヴリーバディが嫌がるのも当然だ。

 

 どうにかやんわりとお断りしたい、が、今回はぐいぐい来る先代や他のドワーフ達を何度も宥めてくれた副官ちゃんが不在だ。

 自身の得物のメンテとかでここの工房の面々とは面識のある副官ちゃんならともかく、今回初めて工房を訪れたクインにそれを求めるのは酷だろう。

 というか、元から今日のメインは彼女で俺はオマケだ。その辺りも含めてどうしたもんか。

 悩まし気に腕を組む俺と、紹介状を出すタイミングを完全に見失って大人しく出された茶をちびちびと飲んでいるクイン。

 

 期待でギラついたり輝いたりしてる眼に囲まれてにっちもさっちも行かなくなってる俺達を救ったのは、鼻息も荒く食堂の扉を蹴り開けて飛び込んで来た新たな人物だった。

 

 肌の色はここの大多数と同じ赤銅色だが、その髪は炎のような赤。

 二の腕に魔力導線を模した刺青を入れたそのドワーフの女性は、マイン氏族の長、ファーネス=マインその人である。

 彼女は直ぐに俺達を見つけると、ものも言わずに一直線に走り寄って来て――。

 

「――ふんっ!」

 

 目の前に座ってる先代の頭を鷲掴みにすると、そのまま渾身の力を込めて卓に叩きつけた。

 砕けるテーブル。飛び散る木片。

 大体予想してた俺はお茶と菓子の器を持ち上げて避難させており、クインは目を白黒させて「ぅえぇっ!?」なんて叫んで俺の片腕に取りすがっている。腕に素敵な感触が伝わってくるのでやめたまえマイフレンド(白目

 

「うぉい! なにするんじゃ馬鹿孫がぁっ!?」

「こっちの台詞だよ爺ぃ! 人が王城に呼ばれてる隙に坊の魔鎧を精査するなんつー抜け駆けをかました癖に、今回も似たような真似をしようたぁいい度胸じゃないか!!」

 

 頑丈な樫の卓を強制頭突きで爆砕した先代だったが、特に痛痒を覚えていないのか直ぐに背後を振り返ってファーネスに向かって怒鳴りつける。

 対するファーネスも負けていない。怒りと興奮で燃え盛る瞳で自身の祖父を睨み付けると、ついさっき蹴り開けた扉を勢いよく指さして吠えたてる。

 

「ここからはアタイが客人の相手をする! 年寄りは引っ込んで残った仕事を片付けてな!」

「ハッ、待望の機会がやってきたというに留守にしとったお前が迂闊なんじゃ! そもそも坊主が帝国に滞在しとる間、同じ様に何度も留守で相手を出来んのでは意味が無いわい! 族長は大変じゃのう! ざまぁ!」

「まだまだ現役の癖にアタイに族長の座を押し付けたのはアンタだろうがぁぁぁっ! ぶち殺すぞクソ爺ィッ!!」

 

 煽りちらかして中指立てて笑うという、孫にやるには余りにも根性悪な糞爺ムーヴを決める先代に対し、完全にキレたファーネスが雄叫びを上げて飛びかかる。

 眼前で始まったドワーフのお偉いさんの大喧嘩に、俺の顔と目の前のド突き合いを交互に見比べてクインがおずおずと口を開いた。

 

「こ、これは止めなくて良いのかい? 族長殿、壊れたテーブルの脚を使って先代殿の頭をブン殴っているけど……」

 

 この程度なら大丈夫やろ。肉体の頑強性って面ではドワーフは魔族にも劣らんし。

 というか、魔族領だともっと派手な喧嘩が日常茶飯事だろうに。主に《災禍》の連中絡みで。

 

「僕は主の側仕えだからね、あまり王都方面には近づく機会がないんだよ……今のキミの台詞で、外聞でしか聞かない《災禍の席》の方々の乱闘の酷さは、なんとなく理解出来たけど」

 

 腕に抱えたままの袋を抱き締めて苦笑いする友人に、避難させたお茶のカップを手渡す。

 ……そういえば、結局その袋は何が入ってるのか聞いても? あ、いや。あの店で何か自分で買ったってんなら不躾な質問か、忘れてくれ。

 

「いや、何か購入した訳では無いよ、単に代用の下着を付ける前に身に着けていた上下さ――野暮ったい品だけど、見るかい?」

 

 いや見ねーよ、チミは俺をなんだと思ってるのかね?

 こればっかりは揶揄うつもりで言ったのであろう、悪戯っぽく笑って上目遣いで見上げて来るクインに、再度デコピンしてやる俺であった。

 

 

 

 

 

 

「――いや、待たせたね。この爺、沈むならとっとと沈めば良いものを、往生際が悪くて困るよ」

 

 数分間の殴り合いの結果、先代を床に沈めたファーネスは動けない祖父を無造作に横へと蹴り転がして俺達の対面の椅子に腰を下ろした。

 

「……ぐぬぬっ……初手から卓の脚(凶器)使用は反則じゃろ……!」

「知るか――おい、誰かこの負け犬を仕事場に捨ててきな」

 

 ウーッス。なんていう気の抜けた返事と共に比較的若いドワーフ達が動き出し、二人がかりで未練たっぷりに呻く先代の脚を掴んでずるずると引きずって退場していく。

 同じく若手が砕けたテーブルの代わりに新しい物を設置し、何事も無かった様にファーネスは新しいテーブルに肘を付いた。いや、流石にノーダメとは行かなかったので彼女も少しボロっちくなってるけど。

 

「さて、何時ぞやの会議以来かね? 猟犬の。元気そうで何よりだよ!」

 

 祖父とのド突き合いに関しては即行で記憶の隅に追いやったのか、スッパリと空気を切り替えて笑う。

 お久しぶりー。やー、何か今更言い出すのは申し訳ない気がしなくもないけど、今回は俺はただの付き添いなんですよ、うん。

 こっちの彼女が工房見学に来たのがメインの目的です、とクインを掌で示すと、ファーネスは苦笑いして肩を竦めた。

 

「ありゃ、そうだったのかい。そいつは残念――だが、それなら猶の事アタイが変わって良かったね、爺さんじゃ途端に興味を失って誰かに押し付けるなんて真似をやりかねないし」

 

 あー、先代はそんな感じがするね。

 良くも悪くも鍛冶に人生を全振りしたドワーフらしい人だ。興味の無い事にはマジで視線すら向けなさそう。

 族長の座をさっさとファーネスに譲ったのも、種族を纏める、という点において彼女の方が遥かに適正があると判断しての事なんやろなぁ。

 まぁ、それはそれとして俺の友人にその対応されちゃうと、次からは鎧ちゃん関連のお話は先代に頼むのをご遠慮する事になるんですが。

 

「あっはっはっは! そりゃ良い! それならもうちょいと我慢して様子を見ているべきだったかねぇ!」

 

 一頻り愉快そうに笑い声を上げた後、ドワーフの族長殿は俺の隣のクインへと視線を転じた。

 

「さて……見た処、獣人……いや、吸血鬼(ヴァンパイア)かい? ちと分かり辛いが、魔族領からお客人なのは確かみたいだね。名を聞いても?」

「あ、はい。魔族領西部を治める《宵闇の君》に仕える《陽影》と申します。今回は帝国の皇帝陛下より紹介を受けてこの工房へお邪魔しました」

 

 軽く頭を下げると懐から紹介状を取り出してファーネスへと差し出すクイン。

 ふむ、俺は本名の方を最初に教えられたから何気にクインの通称を知らなかったのだが……ひかげ……《陽影》か。吸血鬼(ヴァンパイア)らしからぬ明るいイメージを他者に与えるクインには中々合ってるんじゃなかろうか。読み方自体は彼女の所属を示唆するものだし。

 

 クインは少しばかり慌てて書状を渡したせいか、他の工房の紹介状まで渡してしまってファーネスが笑ってそれを返している。

 

「落ち着きなって、別に緊張する必要もないさね。紹介状は確かに受け取ったよ、炉と奥の区画(エリア)は流石に見せられないけど、それ以外は好きに見ていきな」

「は、はい、お手数をお掛けします」

「なに、気にしなくてもいいよ。ついでだ、他の工房にゃアタイの方から口添えしといてやろう。紹介状だけじゃ最低限の対応しかしてこない連中も少しは真面目に相手をしてくるだろうさ」

 

 おぉ、なにやら至れり尽くせり。クインもファーネスの気遣いは有難かったのか、表情を明るくして礼を言っている。

 とはいえ、無償の善意、って訳でもないんだろう。鷹揚に頷く赤毛の美人がチラチラと俺の方を見ているのに気付いて、内心で彼女が何を求めているのか察しがついてしまった。

 

 あー……うん。まぁ、仕方ないか。先代に相談した事も、魔装の魔力導線の取り扱いについて特に優れているファーネスなら別の切り口でアドバイスを貰えるかもしれんし。

 

 ――そんじゃ、友達が工房見学してる間、ちょっと相談に乗ってもらって良いデスカー、相棒……鎧ちゃんに関する事でもあるんで、ドワーフの鍛冶師の意見が欲しい処なんスよ。

 

「――! あぁ、任せときな! いやー悪いねぇ、なんだか催促したみたいで!」

 

 物凄い勢いで力強く頷いて、目をキラキラ……というかギラギラさせて早速とばかりに族長殿が席を立つ。

 同時に、マイラヴリーバディからちょっと抗議する様な不服そうな感覚が伝わって来た。

 

 

 

 スマン鎧ちゃん。なんとか頑張って舐めたり齧ったりはさせないようにするから堪えてくれ。必要な事ではある訳だし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――結局、俺とクインがお暇したときには陽は既に傾き、辺りは夕焼けの赤に染まっていた。

 いや大分長居しちゃったよ、今日はほぼ一日工房で過ごした感じだな。食堂で昼飯も頂いちゃったし。

 

「色々と貴重な技術や武具を目にすることが出来て貴重な時間だったよ――用途や実用性諸々で、ちょっと意味の分からないものもあったけど」

 

 確かに。いや、小型のパイルバンカーとかドリルっぽい槍とか、個人的には浪漫溢れていて大変に心惹かれるものもありましたが。

 後半は俺も混ざって二人で工房見学と洒落込んだのだが、やっぱ一人よりは二人で見て回った方が面白いよね。

 少し疲れた様子だったが、友人にとっては概ね満足できる時間だった様だ。

 俺の方も相談した内容についてはファーネスから先代とはまた違った意見を頂いたことだし、なんとか鎧ちゃんを舐めたり齧ったりされるのも阻止できたし、悪くない結果と言えるだろう……正直結構疲れたけど。

 

 夕日が照らす帝都に、昼の暖かさを残した秋風が吹く。

 風に乱される蜂蜜色の髪を押さえて、クインは目を細めて微笑んだ。

 

「うん、楽しかったな――今回は半分仕事だったけど、機会があったらまた二人で遊びたいね」

 

 おう、そうやな。今度はもうちょい気疲れする要素の少ない場所とかどうでしょう。

 

「あははっ、それに同意してしまうと歓迎してくれたドワーフの方達に申し訳ないから、黙秘するよ」

 

 夕焼け沈む街並みを背景にこちらを振り向いて朗らかに笑う美人は大変に絵になる光景なのだが……それを見た俺は、なんとなく引っ掛かるものを覚えた。

 いや、悪い意味とか予感がするって訳では無いのよ。

 ただ、なんだろう……こう、今日再会したこの友人に関して、何かを思い出しそうというか……うーむ、出てきそうで出てこないな、もどかしいぞ。

 

「一度くらいは母さんも帝都に連れて来てあげたいなぁ……母は魔族領での暮らしに満足してるのはいいけど、その分、遠出には積極的じゃないんだよね」

 

 あー、おふくろさん獣人なんだっけ。

 北方にいたときに苦労した分、安定・安心な今の環境が大事ってのもあるだろうし、獣人は住処から距離をとると落ち着かない気質の人もいるらしいからな……ん? 獣人……母……親子……。

 

 断片的なワードから、唐突に閃いたのは過去の記憶――何年か前に北方で戦った際の一瞬の映像だった。

 

 あれは確か、お師匠のもとで短期師事した後の帰りだ。

 自らの陣営が《半龍姫》の住まう地を人類種と同じく不可侵としている事が不満だったのか、なんの戦略的価値もない小さな寒村……それこそお師匠の縄張りから少し外れる、程度の場所をこれみよがしに襲撃をかけた信奉者連中(バカども)と帰りがけにカチ合う事となったのだ。

 まぁ、奴らの御本尊である邪神の下した決定にすら不服を示すような出涸らしだ、数も質もお察しだったので普通に全員縦スパーンして地面の染みに変えてやったんだが。

 人的被害こそ少なかったものの、家屋や家畜を焼かれた住民達は散り散りになって別の場所に引っ越すなりなんなりしたらしく、そのまま村自体は無くなってしまったと後から聞いた。

 

 俺の脳裏に思い浮かんだのは、そのときの――。

 

「どうしたんだい、急に黙り込んで? お腹が空いたのなら、工房で夕食も御馳走になってもよかったんじゃないのかい?」

 

 不思議そうに小首を傾げて俺の顔を覗き込んでくるクインに、過去の記憶が重なる。

 今更な話だ。これをクインに確認した処で何が変わる、という訳でも無いのだが……。

 

 ――ヘイ、そこの美人なおぜうさん。

 

「なんだい? そこな素敵なおにいさん」

 

 女の子だと知った今でも、嘗ての男友達だと思っていた頃のノリで会話に応じてくれる彼女に、ついつい吹き出しそうになる。

 いやね、お前さんが女子(おなご)だと知って、改めて今、しっかりと姿を見直して思ったんだけど……。

 

「うん? どうしたの?」

 

 なんつーかさ、俺とお前さんって、魔族領で顔を合わせる前に会った事無い? 具体的には北方の更に北部の小さな村で。

 

 

 

「…………え……?」

 

 

 

 瞳を見開いて、クインは固まった。

 あまりに予想外の言葉を聞いた、とばかりに硬直したその手から、抱えたままだった小さな袋がストンっと落ちる。

 

 いやそんなに驚く様な事言ったかね?

 俺の記憶が確か……というには少々怪しいが、件の寒村――そこで助けた獣人の母親らしき女性と寄り添っていた女の子が、クインとそっくりだったんだが。

 元からうろ覚えの記憶な上に、つい先日まで友人の性別を誤認していたせいで、その記憶とクインの姿が連結する事は無かったんだが……いや、こうして思い返すと普通にクインだわ、なんで思いつかなかったんだ俺は。

 

 ……しかし聞いた当人の反応が悪い。まさか勘違いだった? 世の中似た顔が三人はいるとは言うし。

 

 俺は、あー、忘れてくれ、勘違いだ。と、口にしようとして――詰め寄って俺の手をとった友人の勢いにそれを飲み込む事となった。

 

「ち、ちがっ、いや、違くなくてっ! そうっ、そうだよ……! それは僕だ! あの日、あのとき、僕はキミにっ……!」 

 

 眼を見開いたまま、興奮した様子でぐいぐいと距離を詰めてくるクインの迫力に思わず後退りして、出たばかりの工房の門扉へと押し付けられる。

 お、おう? 勘違いじゃないのか、そっか。疑問は融けたよ、ありがとうマイフレンド。

 

「……覚えていて、くれたんだね」

 

 いうて、あのときの子とお前さんが繋がったのは今さっきなんですけどね(白目

 あんときゃそんなにしっかり見た訳じゃ無いけど、痩せっぽっちであんなにか弱そうだった女の子が立派になったなぁ……。

 ちと偉そうな物言いになってしまうが……それでも感慨深いものがある。

 

「~~~~~ッ!!」

 

 しみじみと頷く俺だったが、何か不味い対応をしてしまったのか、クインは唇を噛みしめて俯いてしまった。

 え、何か嫌な事言っちゃったか? ……ちょ、ちょっと何が悪かったのかわからんぞマジで。ごめんなさい、後学の為にも何が駄目だったか教えてくれるとありがたいんですけど。

 そんな言い訳染みた俺の言葉をスルーして、彼女は包む様に握っていた俺の手を一際強く――それこそ痛い程に強く握った。

 五秒経ち、十秒経ち……やがて唐突に顔をあげる。

 

「――行こう」

 

 いや本当に唐突ぅ!?

 此方の手を握ったまま、速足で歩き出すクイン。

 男装しているときでも見ない、大股の急ぎ足でズンズンと進むその歩みは迷いが無いが……行くってどちらにでしょうか?

 

「……大丈夫、二、三時間で済むから! 本当は二十時間くらいにしたいけどそれで終わる様に頑張るから!」

 

 いや何のお話!?

 というかもう日暮れなのに三時間て、普通に夜になってまうやん。お夕飯前に帰らないとシアに怒られるんですけど!

 

「大丈夫だいじょうぶ! 僕も一緒に怒られてあげるから! イこう! はやくシよう!!」

 

 おいちょっと待て、何かイントネーションに不穏なものを感じたぞ!?

 思わずブレーキをかけて踏ん張ろうとするが――ちから強っ!? 獣人との半吸血鬼(ダンピール)だもんな、そりゃそうだわっておいちょっと落ち着け止まれマジで! 

 

 抵抗する俺の方へと振り向いたクインは何と言うか、一目見て分かる位には錯乱――というか暴走していた。

 妙に息も荒く、大きなお目々とかぐるぐると渦を巻いている様にすら見える。相変わらず華奢な身体からは想像付きづらい腕力で此方をぐいぐいと引っ張りながらも、よくみると少しへっぴり腰という意味の分からない状態だった。

 

 絶対普通の状態じゃねぇ、よく分からんが今のクインに素直に従うのは危険だと俺の勘が告げている……!

 

 おい落ち着けぇ! ほんとお願いしますクインさん! まず手を離そう! 深呼吸しよう、なっ!?

 

「僕は落ちついてる、あぁ冷静だとも冷静だから我慢できてる内に移動しようキミが外がいいならそこの路地裏でいいから入ろう」

 

 冷静な奴が魔力強化までして相手を引っ張る訳ねーだろ!? ちょっ、素だと魔力込みでも普通に力負けするぅ!

 夕暮れどきで人の気配が無くて助かった……! こんなアホな綱引きごっこを大勢に見られたら、俺も正気に戻ったクインもメンタルダメージが酷い事になるわ……!

 必死こいて踏ん張りながらも、ズリズリと引きずられて段々と路地裏に近付いていたのだが……クイン有利で進む綱引き状態は唐突に終わりを告げた。

 

「あぁもうキミのせいだぞ二年だ二年耐えてそのあとも何ヵ月も我慢したんだからもういいよねもうゴールしてもいいよねとりあえず終わってから考えれば――あっ」

 

 やっぱり冷静とは程遠い状態だったんだろう。

 俺を引っ張っていた彼女は、足元の小石に普通に蹴躓いて前のめりに身体を傾かせた。

 当然、引っ張られていた俺も巻き添えになる訳で。

 

 地面に倒れ込もうとするクインの上に倒れ込みそうになり――その瞬間、脳内に電流の如く思考が閃く。

 これはっ……倒れ込んだときに彼女の育ったってレベルじゃねぇ谷間に顔面ダイヴする流れっ……!

 

 判断は一瞬だった。

 ラッキースケベや破廉恥体質が許されるのは〇トさんだけなんだよぉ! 一般人がやったら普通に社会的生命がダストシュートされるんじゃボケェ!?

 

 クインの手を引っ張り、素の状態からかろうじて《流天》の発動に成功。彼女の崩れた体勢からついた勢いだけは掌握する事に成功する。

 倒れ掛かった身体が減速されたクインを追い抜く様に身を捻って倒れ込み、即座に身を翻して友人の細身(一部豊満)な身体を受け止める。

 

 ――セーフッ……! ふっ、唐突に訪れた死地を見事に潜り抜けてやったぜ……!

 

 額に浮いた汗を拭い、我ながらファインプレーだったと一息つく。

 まぁ友人とはいえ、女の子をお姫様だっこも大概だとは思うが、倒れかけた上に覆いかぶさって乳に顔を埋めるなんていう人生終了しそうなやらかしよりは遥かにマシだ。転ぶのを助けたっていうのもあるしね。

 

 あー危なかった……頭は冷えたかよマイフレンド。やっぱ冷静じゃなかったって自覚出来た?

 腕の中のクインを少しだけ叱る様に目を細めて覗き込んでやると――。

 

「――――――ひ、ぅっ……ぁっ……!」

 

 至近距離で目を合わせた彼女は、何故かビクンッと大きく身を震わせて数秒ほど身を硬直させた。

 虚脱するように呆、となった瞳が直ぐに像を結び、その顔がみるみるうちに真っ赤に色付く。

 どうやら変な暴走も収まって我に返った様だ、一安心である。

 俺が何か言葉を次ぐ前に、その身体がバネ仕掛けの如く跳ね起きて立ち上がった。

 

「ご、ごごごごめん、ちょっと取り乱したというか頭がおかしくなっていたみたいだ!」

 

 頭て。自分の事ながら凄い言い様やな。まぁ、暴走を自覚して羞恥を感じている当人としてはそう言いたくもなるか。

 立ち上がった彼女は、そのままギクシャクとした動きで後退るようにして俺から身を離す。

 

「ほ、ほんとうにごめん! きょ、今日はここで解散にしよう! 最後にかけた迷惑の埋め合わせは必ずするから!」

 

 え、あ、そう? そろそろ陽も落ちるけど……送っていかなくて大丈夫?

 

「だ、大丈夫だよ! ほら! 僕半吸血鬼(ダンピール)だし! 夜は寧ろ得意だし強いし!」

 

 そういえばそうだな。じゃ、今日は此処で。良かったら帝国滞在中にまた一緒に遊ぼうず。

 

「う、うん、またね……そ、それじゃ、僕はこれで……!」

 

 正気に戻ったが、何故かへっぴり腰はさっきより酷くなったクインが、ぎこちない――だが物凄い速さで背を向けて帝都中央に向けて歩き出す。

 

 

 

 ――ぶっちゃけ、中央広場の噴水くらいまでは同じ道な訳だし、一緒に帰ればいいとは思うんだが。

 なんとなく、今それを口にするのはマズいんだろーなーと察した俺は、なんかへこへことちょっと情けない歩き方をしている友人の背を見送り、夕闇迫る帝都の空の下、手を振ったのであった。

 

 

 

 

 

 ……あ、クインの奴落としたまんまの袋忘れとる……どうしようコレ(白目

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






オ チ が 酷 い 。



金銀聖女

パーティーという名のお仕事中。
噛み合う相手だとあっという間に仲良くなる犬っころが貴族の御令嬢をフィッシングしないようにと置いていった処、当の犬は洒落にならない強敵を釣りあげていた。
姉の方が謎のレーダーで嫌な予感をキャッチして仕事しながらヤキモキしてる。




再会して巨乳美人になってた友人とドワーフの工房で見学デートした男。金〇マ爆発しねーかなコイツ。
何気に貞操の危機だったのだが、本人は全く気付いていない。
友人が忘れて言った落とし物を回収して、どうしようコレ……と悩みつつも捨てる訳にもいかず持って帰った。


巨乳(クイン)ちゃん。

再会した自身の英雄との嬉し恥ずかしな時間にテンション超☆爆。
折角プレゼントしてもらったばかりなのに汚す羽目になった。




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