俺氏、ループ系TS聖女様をいつの間にかメス堕ちさせていた模様   作:弐目

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更新! 頻度を! あ"げだい"!!(切実






道交わる各々 1

 

 

《大豊穣祭》四日目。

 

 最大の催しである闘技大会も開かれ、いよいよ盛り上がって来た大祭に、朝も早くから帝都は喧噪と活気で溢れ返っていた。

 

 そんな賑やかさから少々離れた、裏通りに面した――言ってしまえば治安のあまりよろしくない区画にて。

 武装した四人の男女……身形からして冒険者の一党であろう者達が、周囲に気を配りながら歩みを進めている。

 

「例の居なくなった子供達らしき目撃情報はここで最後だよな? 昨日と一昨日は完全に空振りだったし、此処で何か痕跡だけでも見つかると良いんだが……」

 

 行く道や建物同士の間の狭い道、そういった場所を意識的に選びながら移動する一行だったが、その中の一人――ブラウンの髪を短く刈り込んだ剣士、アザルが難し気な顔で呟く。

 

「……ごめんね、皆。折角帝都まで観光に来たのにこんな事に付き合わせちゃって」

 

 四名の中でも一際集中して周囲を見ていた、弓を担いだ斥候役らしき女性が表情を陰らせて仲間達に頭を下げた。

 

「頭を上げて下さいイルルァ。仲間の知人――家族にも近い間柄であった子供達が悪漢共に攫われたという話を聞いて、手掛かりを探しもせずに祭りを満喫できるほど私達は薄情では無いつもりですよ」

「まぁ、残念といえば残念だけど、来年以降も帝国教国で交互に開催予定、って話ではあるみたいだしね。次の《大豊穣祭》を楽しむためにも、此処できっちりアンタの身内を助け出しておきましょ」

 

 神妙な様子の弓手――イルルァに対して、聖職者の若者が生真面目に応え、気負わせない為か、敢えて軽い調子で女魔導士が肩をすくめる。

 イルルァは仲間二人の言葉に、何処かくすぐったそうに苦笑を浮かべて後頭部をかいた。

 

「ありがと、エクソン、ウェンディ。今度なんか奢るから」

「おいおい、俺は除け者か? 流石にそれは寂しいものがあるな」

「はいはい、リーダーにも感謝してるってば」

 

 混ぜっ返す様にアザルが問いかけるとそれに適当に返され、「ひでぇ」と態とらしく嘆いて笑う。

 釣られる形で、他の面々も苦笑や笑顔を見せて顔を見合わせる。

 身内である孤児の少年……カイルから、他の子ども達が妙な連中に攫われたと聞いてから張り詰めた表情で帝都内で情報を集め出したイルルァであったが、数日振りに少しだけ笑顔を見せた事に他の三人は内心で安堵を覚えていた。

 なにぶん、家族の関わる事だ。力が入るのも無理からぬことではあるが、何事も肩の力が入り過ぎた状態では十全に力を発揮できるものでは無い。

 ましてやイルルァは弓手兼斥候。探知・感知も求められる役割だ。敵や罠を見落とす事の無いよう、集中力を維持したまま適度に脱力して視野を広く保つという、中々に慣れを必要とする状態を求められる。

 自身が気負い過ぎていた事を自覚して、彼女は気合を入れ直すように軽く両頬をたたく。

 

「よし。それじゃ続けるとしますか……この辺りでオルカン達を見たっていう路地住みの連中の話が確かなら、他の目撃情報もあるかもしれないし」

「そうだな、痕跡調査(トラッキング)だけじゃなくて路地裏の住人達にも聞き込みをしてみるか」

「そういった連中にイルルァの顔が広いのは不幸中の幸いだったわね。御蔭で断片的にでも子供達の情報が手に入ったんだから」

「良い形で結んだ縁が巡り巡って己の助けとなる。如何な出自や立場であろうとも、こればかりは当人の努力無くして成り立つものではありませんからね。良き事です」

 

 一党が口々に今回の捜索方針などをを語り、水路に掛かった小さな石橋を渡る。

 最初に気付いたのは、やはり斥候職でもあるイルルァだった。

 仲間達と会話しながらも、視界の端に映ったソレに気付いて、歩みを止める。

 

「どうしたイルルァ。何か見つけたか?」

「……あれ、見てよアザル」

「…………なんだありゃ? 不法投棄された粗大ごみか何かか?」

 

 弓手が指さした先にあったのは、橋下の水路に引っかかっている黒い布の包み……の、様な何かだった。

 一抱え以上はありそうなそれはひどく汚れ、パッと見にはアザルの言う通り、水に流れる内に塊になった投棄物に見えなくもない。

 今にも流されて再び水路に沈みそうな黒い布の塊を、弓使いや野伏特有の優れた視力でジッと注視したイルルァが、顔を強張らせると同時に駆けだす。

 

「ちょっと、何だっていうのソレ!」

「指先が見えた――あれ人間よ!」

 

 ウェンディがあげた疑問の声に端的に答え、時間が惜しいとばかりに石橋から飛び降りる。

 穏やかとは言い難い答えに、仲間達も一瞬だけ視線を交差させ、直ぐに後を追う様に走り出した。

 斥候職ほど身軽では無いアザル達が石橋を渡って橋下へと降りて来る間に、イルルァが黒い塊――水を吸って重くなった黒い外套(コート)を着た人間を水路からひっぱり上げようと試みる。

 

「うぐぐ……重い以上に足場がっ……!」

「待たせた! 手を貸す!」

「お願いリーダー、足元滑るから気を付けて!」

 

 ぐったりと脱力してるその身体をなんとか引っ張り上げようと四苦八苦していると、追いついたアザルが直ぐにフォローに入った。

 二人掛かり且つ片方が鍛えた前衛職という事もあり、水路にひっかかる形でかろうじて浮かんでいたその人物はすぐに陸へと引き上げられる。

 やや遅れてきた後衛二人に、頭目の青年が振り返って指示を飛ばす。

 

「エクソン、回復と治癒の準備を! ウェンディは(やっこ)さんの魔力精査を頼む!」

「お任せを」

「了解――折角見つけたんだから水死体でしたなんてオチは勘弁してよ……!」

 

 力無くうつ伏せになっている……若い男性らしき人物を引っ繰り返し、脈拍や呼吸の確認をしようと冒険者達が一斉にその顔を覗き込んで――全員が驚きで固まった。

 

「――ッ! こいつ、あの悪徳貴族の!? なんでこんな処で……!」

「……いえ、お待ちを。彼の着ている外套、これは……!」

「派手に切り裂かれてるけど……これ、帝国の紋章ね。おまけに外套(コート)自体も魔装処理されてるわ」

「《刃衆(エッジス)》の隊服……マジかよ、一体どういう事だ……?」

 

 明らかに息をしていない青年だったが、その何処か狐を思わせる顔が知己――あまり良いとはいえない関わり方をした人物で合った事と、着込んでいる装備の事も合わさり、咄嗟の処置も忘れて困惑した様子でアザル達は顔を見合わせる。

 だが、何某かの反応を示す前に土左衛門……の割には、蒼白の顔色以外は溺死した者特有の水分で膨れ上がった状態でもなかった青年の身体に変化があった。

 

 仰向けに転がされた彼の口からゴボッと水音がしたかと思うと、ピューッとばかりに勢いよく水が噴き出る。

 小さな噴水のごとく真上に噴き上がったそれは、勢いを失って本人の顔にビチャビチャと降り注いだ。

 セルフで顔に水をぶっかけた青年は小さく咳き込みながら呼吸を開始し、顔色こそ蒼白のままだが明確に表情を顰め、掠れ声で呻く。

 

「ぅ、う……ぐ……や、やめ……ふくちょ……もう……しごき……かんべ……」

 

 意識の無いまま、魘されているらしい。

 胴と右腕には相当に深い裂傷が刻まれ、死体と見紛うばかりに青白い顔でありながらやけに余裕のありそうな寝言を零す青年に、我に返ったエクソンがとりあえず回復魔法を発動させる。

 柔らかな魔力光に照らされるその横顔を眺め、難しい顔をして黙り込んでいるアザルへと、イルルァが同じく眉根を寄せた顔で問い掛けた。

 

「……予想外に程がある拾い物をした感じだけど、どうするのアザル?」

「そのままにしとく、って訳にも行かないだろう。あの外套(コート)があいつ本人のものだっていうのなら猶更にな」

 

 唸り声を上げて悩まし気な様子を見せる一党の頭目へと、魔力による精査を終えた女魔導士が軽く診断結果を告げる。

 

「脈も呼吸も弱いし、傷からの出血も多量で体温も低い。普通だったらとっくに死んでるんだろうけど……かなり強力な魔法か霊薬を予め体内に仕込んであったのかもね。この場で出来る処置で十分に持ち直すと思うわ」

 

 彼女の魔力精査によれば、青年は身体のコンディションが一定値を割った場合に効果が発動する霊薬の類でも摂取していたのか、仮死に近い状態まで身体機能を落とすことで死を遠ざけているらしい。

 その効果の御蔭か、重症には違いないが安定しているのは確かなので、回復や浄化の魔法による処置を行えば問題無く一命は取り留めるとの事だった。

 

「そうか……それなら、決まりだな」

 

 それを聞いたアザルが厳しい表情でひとつ頷く。

 一刻を争う容体だというのなら、最寄りの教会に担ぎ込む必要もあったが……子供達への手掛かりを探しに来た場所で、この遭遇である。全くの無関係だとは思えない。

 幸いと言うようなものでもないが、今は大きな祭りの真っ最中だ。夜通し飲み明かして道端でダウンした酔っぱらいが、家族や友人に担がれたり背負われて家路につく様は、そこかしこで見られる光景だ。

 有名過ぎる帝国の精鋭部隊の外套(コート)さえ脱がしてしまえば、宿に連れ帰ったとしても特に人目を惹く事もないだろう。

 

「正直、混乱してる部分もあるが……こいつの本来の立場がどういうものであれ、今回の一件と関ってる可能性は高い。一先ずは宿に連れ帰って治療を続けてやろう」

 

 青年が人攫い・人買い共と繋がりがあるというのなら、無力化されている今が尋問のチャンスであるし、身に纏った隊服が彼本人のものであるのなら自分達は命の恩人、という事になる。

 どちらだとしても、目を覚ました彼との会話でこの件に関しての情報を手に入れる――尤も、全然全く関係が無かった、という可能性もゼロでは無いが、人命救助という点で見れば労力が無駄になる事もないだろう。

 

 頭目がその様に纏めると仲間達も異存は無かったのか、一斉に頷いたのであった。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 ――さて、闘技大会も二日目、初日に一回戦の前半を消化したので、本日は後半である。

 

 試合の進行がスムーズに進めば二回戦の初戦まで進める予定ではあるらしいが、実力伯仲の選手同士がぶつかれば長引く事もあるだろう。予定は未定というやつかね。

 人外級お断りな大会とはいえ、出場者達は間違いなく一流処だ。

 殺伐とした殺し合いの類なぞ、戦時中に腐る程見たし聞いたし体験したので見ていてなんも面白くない、というのが俺の個人的な感想なんだが……こういった殺し御法度のクリーンな試合はいいね、うん。

 安心して観戦できるというのもデカいが、素直に感心できる技術なんかも見れるし。なんなら非常に勉強になる時間だった。

 実戦形式に近いとはいえ、スポーツの試合を見ている気分で応援できる。ゆーても、贔屓するような知り合いが試合するのは今日からなんだけど。

 

 まぁ、なんだ。昨日の試合は顔見知りは確かにいなかったが、それでも十分に見応えはあった。折角だし、勝ち抜き戦の一巡目――三戦行われたソレをちと振り返ってみよう。

 

 

 

 

 

 

 初戦は冒険者同士の対決。

 名の知れた一党の斬り込み役であるブラウィン=リヴハムと、最近頭角を現してきたという女冒険者ヘザー=バーコイドの試合だった。

 内容的には、オーソドックス且つ全体的に高い水準でまとまった剣士であるブラウィン選手が終始優勢。

 ヘザー選手は基本受けに回りがちだが、小盾とショートソードという軽戦士御用達の武器を巧みに使いこなし、合間合間に刺し込む鋭い反撃で相手の一気呵成を許さない。

 ソロメインの冒険者はパーティーと違って手札や戦力が不足する場面も多く、その分、機を読み取る勘やソレが訪れるまで耐え忍ぶ我慢強さも培われる。

 舞台四方を隅々まで使って距離を取るのも上手かった。身軽さではヘザーの方が上なだけに、ブラウィンは攻めつつも詰め切る事が出来ないという嫌な空気に晒されていた筈だ。

 とはいえ、流石は経験豊富なベテラン冒険者。あそこまで我慢を強いられたら焦りが出てしまいそうなもんだが、終始崩れなかった。

 おそらくは何某かの魔道具を伏せ札として、ブラウィンが強引に攻めてくるのを狙っていたらしいヘザーだったが、丁寧に立ち回って体力・気力を削りにくる相手に根負けし、最後は場外に落とされた。

 

「若いのに粘り強い、良い立ち回りだ……ソロにしとくのが惜しいぜ」

「……そいつはどうも。私も勉強になったよ……まぁ、負けはしたが観客の反応も上々だし、次からの仕事は実入りが良くなりそうだ」

 

 試合が終わればノーサイド、と言った感じで両者握手を交わして健闘を称え合う様は、やっぱりスポーツの如き一種の爽やかさを感じさせてくれたね。

 ヘザー選手が言っていた通り、両者ともにやや派手さにかける玄人向けの試合運びだったにも関わらず、観客は非常に白熱していた。

 初戦で開会式で盛り上がった熱を引き継いだ状態だったというのもあるが、実況のシャマダハル嬢とガンテスのおっさんが二人の試合巧者っぷりを上手く解説してくれたというのも大きいだろう。

 一見地味な攻防にも後から丁寧な説明が付けられれば、なるほど、と頷く者達も多かった。

 単純な剣腕は勿論の事、試合運びの上手さで観客の賞賛を集めた試合だったって感じやね。既に冒険者として大成してるブラウィンは勿論の事、この分ならヘザーも仕事にあぶれるなんて事はなさそうである。

 

 

 

 二戦目の試合はファルシオンとウェイロン=カーク。

 かたや冒険者や傭兵としての活動歴もない、自己申告では国外からの旅行者であるお嬢さんと、かたや帝都在住の教会関係者という、この大会ならではの異色の組み合わせだった。

 

「では、戦闘行動を開始。よろしくお願いします」

「……えぇ、こちらこそ」

 

 ファルシオン選手はなんとなく知り合いのエルフのちびっ子――リリィの出会った頃を思わせる、感情の起伏が少ない娘だ。

 淡々と、だが律儀に一礼する彼女に、カーク神父は少々やり辛そうだった。

 開会式の選手紹介の際に語られた事だが、そもそも神父の出場理由は優勝者及び準優勝、三位の選手に与えられる賞金の為らしい。

 どうやらこの神父様、帝都の戦災孤児や他都市からの避難民を相手に炊き出しなどを行って廻っている人らしく、賞金使って炊き出しの頻度や品質を向上させたいのだとか。

 そんな御仁であるからして、荒事に関連する職に就いてる訳でもない、年若いお嬢さんに得物の棍を向けるのにやや躊躇いがあるのはしゃーない。

 シアとリアも「神父を応援したいけど、その為に女の子をぶっ飛ばせとも言えない」と唸りつつ、なんとも悩ましそうに試合を見てたし。

 

 しかし、そのファルシオンも紛れも無く予選を通過してきた実力者だ。

 実際に試合が始まると、大人しそうな見た目や言動からは想像つきにくい、見事な動きを見せた。

 片刃の曲剣と体術を用いる戦闘スタイルは、彼女がかなりの高い技術を有していることを伺わせる。

 動作や技の一つ一つは速く、鋭く、いっそ機械的な程に正確。

 その分、なんというか動きの繋ぎや咄嗟の判断がやや硬い気がしたが……これは実況の二人も同じ意見だったのか、指摘してたな。

 比較的安全な地域のどっかの道場やら、或いは元後方支援の軍属とかで、修業や訓練はしっかり積んでいた類なんやろか? 要所要所のぎこちなさは実戦や対人戦の経験が少ない奴がよく見せる感じそのまんまだし。

 基礎能力は高いがそういった脇の甘さがある以上、歴戦の武僧らしきカーク神父が隙を突く事は難しくない筈なんだが……彼女の実戦経験の少なさが、堅気の娘さんというイメージを神父の中でより助長してしまったのか、流麗とすら言って良い棍捌きも、攻撃に転ずる際に一転してキレが鈍くなってしまうという状態に。

 流石にそんな消極的な立ち回りが長く続く筈も無く、最後はファルシオンの振るった剣に棍を弾き飛ばされ、カーク神父が降参して終了、という形に終わった。

 やや盛り上がりに欠ける試合内容になってしまったが、帝都の人達からは神父は中々に高評価な人物であるらしく、ファルシオン嬢相手に動きが鈍ったというのも彼らしい、と多くの人々が好意的に捉えていたのが幸いか。

 まぁ、他国からの観光客なんかにはブーイング飛ばした奴も少しはいたんだけど《魔王》が「無粋だな」とか言ってウザそうに視線を向けた瞬間にバタバタとぶっ倒れて直ぐに静かになった。

 気持ちは解かるが一般ぴーぽーに向けてアンタの威嚇はやめたまへ焼き鳥。気絶だけならまだしも心不全とか起こったら洒落にならんから。

 

「……半ば勝利を譲られた形ですが、非常に良い経験を蓄積できました。ありがとうございます」

「はは、譲ったなんてとんでもない、負けたのは私の未熟が故だよ。二回戦以降も頑張っておくれお嬢さん」

 

 表情は崩れないままだったが、思う処はあったのかほんのり複雑そうな気配を漂わせるファルシオン選手に対し、「平和になって腑抜けていたようだ、鍛え直すとするよ」と苦笑で応じた神父様の言である。

 やっぱりこの世界の坊主はストイックな修羅擬きが多すぎるやろ。時代背景的には当然なのかもしれんが。

 

 

 

 んで、三戦目。これは個人的に初日の試合で一番見応えがあった。

 

 初日最後の対戦カードは、大森林に近い都市群の方からやってきた武芸者ラン=オーチェンと、大聖殿所属のシスター、チェルシー=ミンスタである。

 

「教会の本拠地の聖職者か……腕利き揃いなのは知ってるぜ! よろしく!」

「あ、はい。どうもよろしくお願いします。ご期待に沿える様に頑張ります」

 

 快活に笑うラン選手に対し、ペコペコと物凄い腰の低い態度で何度も頭を下げるシスター・ミンスタという、これから腕を競い合うというよりミスをして平謝りする部下と鷹揚に許す上司みたいな光景から、三戦目は始まった。

 俺はシスター・ミンスタに関しては聖殿で見た事があるかもしれない、程度の認識なんだが、シアは顔を合わせればちょっと話をする程度には交流があるらしく、のんびりと応援の声を上げていた。

 

「チェルシーさんは普段からあんな感じだし、人見知りするタイプだからこういった大会に出るってのは予想外過ぎるけどな」

 

 周りの歓声に気圧されまくって挙動不審になってるシスターを見るに、シアの言葉は説得力しかない。

 とはいえ、聖殿勤務の彼女は一応は俺にとっても同僚に近い立場のお人だ。応援する事に異議があろうはずもなしってな。シアと一緒に声援を送っとこう。

 

 見た目は気弱そうな美人のシスターって事で、少し笑い交じりの応援の声もあちこちから上がっていたんだが、そんな声にいちいち反応して全方位にお辞儀を繰り返している彼女を対戦相手と実況が揃って試合に集中する様に窘めるという、なんとも珍妙な流れで試合が開始される。

 

 ……正直、あんまりにもオドオドしてる感じで、試合どころかそもそも戦えるのか、みたいな危惧を抱いていた人達は多数いたと思うのだが……いざ戦いが始まると、そんな心配は一瞬で消し飛んだね。

 

 頑丈そうな脚甲の爪先で足元を軽く蹴りながらリズムを取るランに対し、シスターが腰帯に吊るしていた二本の棒――横手に握りの付いたト型の武器、旋棍(トンファー)を構えると空気が変わる。

 最初に強烈な震脚で武舞台が踏み鳴らされ、石畳が罅割れて彼女の靴裏が沈み込む。

 表情こそ相変わらずめたくそ不安気で、まるで初陣の新兵みたいな顔をしてるってのに、首から下の構えは迷いなく、ピタリと得物を構えたまま静止した様は堂に入るってレベルじゃない。

 言動からして荒事に向いて無さそうなキャラしてる癖に、中身はしっかりこの世界の聖職者(修羅勢)仕様とか詐欺やろ。ギャップがエグ過ぎて吹きそうになったわ。

 

 相対してるラン選手は、誰よりもそれを強く感じた事だろう。

 軽く口笛を吹いて「こいつはスゲェ」と笑って見せる胆力は大したもんだったが、彼我の実力差をはっきりと感じてしまったのか、その額には一筋の汗が浮かんでいるのが見て取れた。

 それでも、彼も本選に残るだけの実力を持った強者だ。武を交える前から諦めるという選択を取る筈も無く、練度の高い魔力強化で脚力を高め、シスター・ミンスタを中心として武舞台を廻りだす。

 緩急をつけてステップを踏み、小刻みに間合いを詰めては離し。

 合間にその長い手足を活かして打撃を繰り出す様は、お手本の様なヒットアンドアウェイだったのだが……中心のシスターは軸足の位置を変える事無く、舞台の中心にどっしりと根を生やしたまま、攻撃の全てに対応してみせた。

 側面からの拳打は丁寧に魔力強化された腕や肩で受けられ、背後に廻っての蹴りは体捌きだけで躱される。

 長丁場になれば、体力もそうだがそれより先に精神(こころ)が折れそうになる実力差を改めて実感したランの決断は速かった。

 

「こりゃ勝てねぇ、な――だが、一矢報いるくらいはさせてもらう!」

 

 言うや否や、舞台のギリギリ端まで跳躍し、距離を取って。

 あくまで受けて立つ構えのシスターに対し、全開の魔力強化と共に突撃を開始。一直線に吹き抜ける疾風と化した。

 気合の入った雄叫びを上げながら、加速の乗った――半ば体当たりにも近い突きを叩き込んでくるランに向け、シスター・ミンスタは手にした旋棍(トンファー)をしっかりと握り直し。

 両者の間合いが重なった瞬間に僧衣の裾が跳ね上がり、白いオーバーニーソックスに包まれた脚線美が披露されたと思いきや、若き武芸者の胴へと強烈な突き蹴りがカウンター気味に突き刺さった。

 壁に投げて跳ね返ったゴムボールみたいに再び武舞台の端まで吹っ飛んだランの意識は、その時点で遥か彼方に飛び去っていたらしく、受け身も取れずに石畳の床の上を滑って転がり、最後は大の字になってダウン。

 シスターの見事な守りを見せた技巧派な立ち回りから一転、豪快かつ鋭い体術による一撃に、観客達が唖然として沈黙した。

 

「あっ、す、すすすみません、凄い速かったので手加減とか全然出来なくて! 大丈夫ですか!?」

 

 そんな空気など気付かないとばかりにぶっ飛ばした張本人が物凄い慌てた様子で駆け寄り、意識の無い相手選手に回復魔法をかけるという意味の分からない状況の中、盛大なノックアウト決着に一拍遅れて賞賛の歓声が爆発する。

 キョドりながらも抱き起したラン選手に回復魔法を行使し続け、且つ全方位に再びお辞儀を繰り出すシスター・ミンスタ。

 本人の性格と実際の武力のギャップがひでぇのなんの。いや、見た目や気性にそぐわない実力者ってのが居ない訳じゃ無いが、彼女の落差は俺の知り得る限りではぶっちぎりである。

 

 やっぱりこの世界の聖職者ってどっかおかしい奴多いわとか、蹴りも見事だったが白ニーソ&白ガーターとか大変に素晴らしいかったですとか。

 初日の最後の試合に相応しく、色々と言いたい事やら感想やらの多い試合ではあったが……敢えてどれかを選んで述べるとしたら一つだけだ。

 

 これに関してはシアとリアも同感だったのか、俺達は顔を見合わせ、力強く頷く。

 

 まぁ、なんだ、うん。

 

「「得物(トンファー)使えや(よ)!!」」

 

 攻防には結局武器を使わず、最後の〆はまんまトン〇ァーキックだからね、仕方ないね。

 

 

 

 

 

 

 ――そんな感じで、闘技大会のスタートは順調な滑り出しだったと言って良い筈だ。

 

 試合も盛り上がってるし、観客も大入り、まだまだ序盤とはいえ、大きな怪我を負った選手もなし。

 入場や試合開始前の警備を手伝っている身としては、会場となっている闘技場(コロッセオ)内で幾つか行われていた今回のトーナメントを対象にした賭け事なんかは取り締まって良いものか悩んだんだけど……良くは無いがグレーゾーンってことで御目溢しするのが国側としての判断らしい。額にせよ、金銭トラブルにせよ、話がでかくなってきたら別みたいだけどね。

 

 ……そうだな、昨日の試合もざっくりと反芻したし、いい加減話を現在へと戻そう――現実逃避しても状況は好転しないし。

 

 闘技場(コロッセオ)の観客席、武舞台を中心として階段状に拡がる、その中程にある席の一つに、俺は腰を下ろしている。

 ちらりと左隣に視線を向ければ、そこには最近再会した魔族領の友人――クインが座っていた。

 

「ん、どうしたんだい?」

 

 眼が合うと屈託のない顔で笑い、小首を傾げる彼女に、何でもないぞい、と返して右隣に視線を向ける。

 

「今更ですが、先日のチェルシーさんの立ち回りは良かったですね。彼女とは久しく模擬戦をしていませんが、今戦えば少々厳しいかもしれません」

「謙遜はおよしなさいブラン。あの子もこの二年、修練は欠かしていませんが……それでも現時点では貴女にはまだ届かないでしょう」

 

 沢山の子供達に囲まれて座っているのは、二人のシスターだ。言う迄も無く、二人とも見知った顔な訳で。

 ちなみにお子様共はシスター二人だけでなく、俺とクインの方にまで群がって来ている。

 

「あんちゃんもおまつりにきてたんだなー、おれたちといっしょにこればよかったのに!」

「ねーねー、まえのおねえちゃんは? あたらしいコイビトなの?」

「すげー、ねーちゃんおっぱいでけー!」

「はい、おっきいわんわんにアメあげるね!」

 

 クインの方は精々隣に座って話しかけられたり、小さな子が膝に乗り上がる程度だが、俺の方はなんかもう膝に乗られ頭に登られ、耳を引っ張られ、おかしあげるー、とか言われて頬っぺたに飴をぐりぐりと押し付けられ……鏡でみたらさぞかし変顔になっとるやろなぁ(諦観

 

 何時ぞやの孤児院での時間と同様に、元気過ぎるキッズ達に集られながらも、更に前方――舞台を挟んで向かいの観客席の最前列に設けられた、前日は俺も座っていた仕切りのある特別席に眼を向ける。

 今日もそこに並んで座ってる聖女様二人は、どっちも笑いを堪えた表情で俺を見て手を振っていた。

 おいコラ、リアはまだイイとしてシア。お前さん俺がクインとここで遭遇して相席したら直ぐに席立ってこっちに移動しようとしてたやろ、見てたぞ。

 知り合いとエンカウントしたらそっちで観戦するかも、とは予め言ってあったが、それでも不機嫌丸出しで隣のリアに宥められていたレティシアさんなのだが。

 後からやって来たミラ婆ちゃん達がここに座った途端、普通にその場に腰を落ち着けましたよねぇ!

 ウチの聖女様が楽しそうなのは大変に結構なんですが……クインとミラ婆ちゃん達に挟まれてなんとなく居心地の悪い俺を見て、ってのは素直によころべない! ふくざつ!

 

 席の肘掛けに頬杖ついてニヤニヤと笑ってるシアに露骨に顰め面を向けてやる。お前あとで覚えてろよ、次に買って来るお好み焼きはお前の分だけ辛子たっぷりマヨになると思え。ふははは。

 辛いのが得意ではない金の聖女様が好物を頬張って悶えるシーンを想像して溜飲を下げていると、右隣――ミラ婆ちゃんが「さて」と、場の空気を改める様に切り出した。

 

「子供達も一旦落ち着いてきた事ですし……少々遅れましたが互いに自己紹介を行うとしましょう――レティシア様とアリア様があちらの席におられ、貴方がそこのお嬢さんと此処で相席している理由も聞きたい処ですね」

 

 あ、はい。分かりました……で、では僭越ながら。

 

 この場の淑女三名、互いに互いを知った関係、知らなかった関係が大分ややこしいが……共通の知り合いである俺が音頭を取るべきなんだろう、この場合。

 なんやろ、この謎の緊張感。

 こう、なんというか、変な例えになるが……かあちゃんに色々と複雑な複数の異性との友人関係について説明せねばならんような、この感じ。

 

 クインは状況が掴めていないのか、不思議そうに再度小首を傾げ。

 なんだか眼鏡をギュピーンと光らせて「虚偽や誤魔化しは許しまへんでぇ」と言わんばかりに俺の顔に視線をぶっ刺してくるミラ婆ちゃん。

 以前、シアと一緒に遊んだときに知り合った孤児院の運営者――シスター・ブランが「あらあら」なんて言って口元に手を当てて笑っている。

 シアとリアは相変わらずこっちを見て指さしたりして楽しそうだし、なんなら何故か我が相棒、鎧ちゃんの調子まで変になってきた。いや、『悪い』感じじゃなくてあくまでなんか『変』な感じなんだが。

 どういうことなの、マジでどういうことなの。誰か説明して、本気で(白目

 

 早く一回戦後半が開始される事を祈りつつ、闘技場(コロッセオ)の上に開けた空を見上げる。

 

「ぼくしってるー、これしゅらばってやつでしょ!」

 

 わー、よくしってるなー、ぼうずー。でもそれ以上言うとおにいさんちょっと泣いちゃうかもしれないからやめとこうなー。

 

 肩に登って来て肩車の体勢となったお子様の一人が、ものっそい無邪気に色々と抉りに来たのを為す術なく受け止め、俺は深々と溜息をついたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







???
「わたし、しーらない」(目を閉じ、耳をふさいでしゃがみ込む防御の構え


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