俺氏、ループ系TS聖女様をいつの間にかメス堕ちさせていた模様   作:弐目

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Q:イヌ科に属する傭兵の駄犬率を求めよ

 

 

 

『勝者はジャック=ドゥ選手! 見慣れない、だが見事な剣技で準決勝へと勝ち進みました!』

『あれ程の技術を握り手を変える事で巧みに隠していた手腕といい、お見事ですな。拙僧としては、技量的に明確に上手であった相手にあれ程に食い下がってみせた御令嬢の健闘も称えたい処です』

『深手では無いとはいえ、あちこち斬られながら全く怯んでませんでしたからね。華奢なお嬢さんなのに物凄い気迫でした』

 

 今しがた終わった試合の熱が、未だ名残りを残す闘技場(コロッセオ)

 実況席の三人がコメントしているのを聞きつつ、俺は席から腰を浮かせる。

 隣を見れば、案の定リアも席を立った処だった。

 

「ローレッタさんのお見舞いに行って来る。治療スタッフに手当は受けてたけど、流石に治り切って無いみたいだったし」

 

 おう。まぁ、お前さんならそう言うだろうと思った。

 負けた直後に誰かと会うのは嫌がる場合もあるが、実況でサルビアが言ってる通りに腕やら肩やら斬られたせいで半身真っ赤っかだったしな、大丈夫だとは思うんだがやっぱ心配になるわ。

 今までの試合にはあんまりなかった出血目立つ戦いだったので、子供達に見せるのは如何なものか……とか思ったりもしたんだが、怪我を心配してる子はおれど、気分が悪くなった子とかは居ないみたいやね。

 孤児院とかだと手に入れた鶏や食肉用の小動物を自前で絞めたりする処も結構あるし、なによりつい最近まで生存戦争やってた世界の子供達だ。タフなのも当然か。

 そんな事を考えつつ一緒に行こうと提案すると、(おとうと)分も「うん!」と笑顔で了承してくれる。

 

「見舞いか……折角だからオレも行っておくか。負けはしたけど健闘したのは確かだし、後の試合も無いからオレ達が治療に関わっても問題ないだろうし」

 

 で、俺とリアが立てば、当然シアも反応する訳で。

 大体予想通りに、いつもの三人で縦ロールちゃんの様子を見に行く事となった。

 肩やら膝上やら、あちこちに乗っていたお子様達を順番に下ろすと、ミラ婆ちゃん達にパスしてゆく。

 

 そんな訳でちょっくら友達のお見舞いに行ってきます。なるべく次の試合までに戻って来る様にはするんで。

 手をシュタッと挙げて宣言すると、我が姉弟子は軽く頷いて子供達を俺達が座っていた席に座らせた。

 

「敗戦直後です、知り合いとは顔を合わせたくないかもしれません。彼女の様子を見て辛そうなら早々に戻って来るように」

 

 まぁ、その辺はね。流石に心得ておりますよ。

 シアリアもおるし、残った負傷自体は一瞬で治るだろうけど……危険域ではないだろうが、結構出血してたからね。傷が治っても暫く安静にしてた方が良いのは確かだ。

 ミラ婆ちゃんが言う通り、縦ロールちゃんの体調も考慮すれば早めに切り上げた方が良いだろう。

 お子様連中にもちょっと行って来るぜ! と挨拶しておくと元気に「いってらっしゃーい!」という唱和が返って来る。

 うむ、元気も良いが礼儀もきちんとしておる。流石はシスター・ブランが運営して、ミラ婆ちゃんが懇意にしてる孤児院なだけあるな。

 白熱した試合だったが、舞台の損壊は割と控え目なので次の試合までの間はそう長くはないと思われる。

 俺達は早速、闘技場(コロッセオ)の下部エリアにある選手控室へと移動を開始した。

 下部エリアは関係者以外は立ち入り禁止なのだが、そこは教国来賓たる聖女様。

 外注ではあるが俺が警備関係者なのも手伝って、警備の騎士はあっさりと控室への扉が幾つか並ぶ廊下へと通してくれた。

 

「えーと……ローレッタさんの控室は……あった、ここだね」

 

 扉が並んでいると言っても十も二十も部屋がある訳でも無し――リアを先頭に、順繰りに扉を巡って見ていくと直ぐに縦ロールちゃんの名前が書かれたプレートの掛かったドアを発見。

 

 観客席からパッと見た感じでも、彼女に深刻な負傷は無かった。

 それでも隊服である外套(コート)の下に来ていた白地の服が中々派手に赤く染まっていたので、リアは内心で結構な心配具合だったみたいだ。

 実際、ここまで来るのにも少し速足だったし、それに合わせる形で俺とシアもちょい急ぎ足になったしね。

 基本優しい子な(おとうと)分らしいので、ほっこりすれど悪い気になんぞなる筈もない。

 でもまぁ、心配で気が急いていたのか……リアはちょっとだけやらかした。

 

「ローレッタさーん、怪我は大丈夫? ちょっと治しにきたよー」

 

 軽くノックすると、そのまま扉の向こうからの反応も待たずにドアノブを捻って開ける。

 控室は広さの割には端っこに長椅子と机、その上に水差しが置いてあるだけの簡素な部屋だった。

 待ってる間に武器を抜いて軽く素振りできるスペースを作った、って事なんだろう。その代わり、長椅子は結構なサイズだ。肝の太い奴なら試合開始まで昼寝でも出来そうなくらいには大きい。

 

 その長椅子に、あちこち包帯だらけの縦ロールちゃんは寝転んでいた。

 ――ただし、膝枕されて。

 

 膝の主は、俺達も交友のあるひょろりとした壮年の日本人男性――我ら転移・転生者の食事事情の希望の星、コウジ=マメイ氏である。

 

「う"ぅう"う"う"う"ぅ"ぅ"ぅ"……負けてしまいましたわぁ……決勝にてアンナ副隊長と武を交すと大見得切っていたというのにダメダメですのぉぉぉ……」

「気を落とすものじゃないよローレッタ。最低ライン、と言っていた本戦出場はクリアしてる訳だし……負けはしたけど凄い試合だったじゃないか。正直、僕としてはあちこち血濡れになる君を見るのはしんどかったけど……それと同じ位には誇らしいよ」

「先生ぇ……」

 

 特徴的な巻毛の金髪を優しく手で梳かれ、縦ロールちゃんはゴロゴロと喉を鳴らしながら猫みたいにマメイさんの膝に頬を摺り寄せる。

 口調こそ落ち込んだトーンだが、その顔は幸せそうに緩んでいた。

 というか、多分これ俺達は見ちゃだめな表情や。紅潮した頬にとろんとした瞳は、特定の『誰か』だけに見せる類のものであると一目で知れた。

 

 やっちまったなぁ……どーすんだこれ(白目

 

 イチャイチャするのに夢中なのか、リアの軽いノックには全く気が付いていないみたいだ。

 相手がマメイさんだというのは驚きだが、それよりも意図せずして無粋な闖入者となってしまったこの状況が問題である。

 ちらりと隣に眼を向ければ、リアは啞然とした顔で固まり、シアは「おぉぅ……」とか小さく漏らしながら同じように硬直中。

 濡れ場とまではいかないが、明らかに部外者お断りな甘味の強いプライベート空間を目撃して、聖女様二人の顔はちょっと赤らんでいた。

 

 んで、だ。

 

 ドアを開けて正面の光景がこれだ。三人も入って来て棒立ちになってりゃ、真正面の長椅子でイチャコラしてる二人も流石に延々気付かない筈も無い訳で。

 恩師の膝にスリスリしていた縦ロールちゃんの瞳にアホ面晒してる俺達が映り――桃色に霞んで茫とした双眸が焦点を取り戻す。

 僅かに顔を上げた彼女の視線を辿り、マメイさんもこっちに漸く気付いた様で……二人揃って此方を見つめ、妙なお見合い状態になった。

 

「………………」

「………………」

 

 重苦しい訳では無いが、ただ只管に気不味い沈黙が俺達の間に降りる。

 シーン、と静まり返った控室の空気をぶち破ったのは、縦ロールちゃんだった。

 眼を見開いてウチの聖女様と同じく固まっていたお顔からブワっと汗が噴き出て、色付いていた頬が桃色を通り越して真っ赤に染まる。

 

「……ほ、ホアアアアァァァァァッ!?」

「「お、お邪魔しましたー!!」」

 

 相変わらず良い意味で貴族の御令嬢らしくない、面白素っ頓狂な叫び声が上がると同時、慌てたシアリアが俺の襟首を引っ掴んで回れ右をして部屋から飛び出した。

 

 引き摺られて部屋を出る直前、耳を塞いでいるマメイ氏と視線が交わる。

 以前に出会った旅の道中、彼が教え子に対して娘の様な感情を抱いているという話は聞いた。

 

 ――が、先程の空気は親子のソレとは聊か以上に類が異なるものであるのは言うまでもない。

 

 マメイさんの気質やカッツバルゲル家の先代当主へ向ける忠義・義理堅さを考えれば、彼がどうこうと言うより、おそらくは縦ロールちゃんが()()なる事を望んだ、という事なんだろう。

 どうあれ、以前出会った頃より関係が変わったのは確かなんだろうが……きっとそれは悪いモンではなく、祝福できるものの筈だ。

 

 それを証明する様に。

 慌てたリアの手によってドアが勢いよく閉められる直前、俺が無言で学者先生へとサムズアップを贈ると――マメイさんは照れ臭そうに後頭部を掻いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さぁ、第二回戦も大詰め、最終試合となりました、この試合の結果によって準決勝進出の選手――ベスト4が決まる事となります!』

 

 今日から急遽代役で実況解説に就いているキャリーラ女史の宣言と共に、試合合間の小休止程度では下がらないボルテージのままに観客席からワァァァッっとデカい歓声が上がる。

 

「戻って来ましたか……レティシア様とアリア様はどうなさったのです?」

 

 試合開始前には戻ってこれた俺達を見て、ミラ婆ちゃんが訝し気に鉄面皮を崩して片眉を上げた。

 未だに動揺抜け切らない聖女二人――特に不用意にドアを開けるという直接的なうっかりをやらかしたリアの、頭を抱えそうな雰囲気を見ればその疑問も当然だ。

 あー……まぁ、ちょーっと手違いがあったというか……問題ってレベルでは無いんで、まぁ気にしないでもらえると。

 子供達も居る手前、下手をすればそのままR指定シーンに突入する直前だった部屋に乱入しました、とぶっちゃける事も出来ないので姉弟子の質問には言葉を濁して答える。

 

「うぅっ……気まずい……次にローレッタさんと顔を合わせるときにどんな顔をして会えば良いんだろ……」

 

 席に座ると、本当に頭を抱えて項垂れてしまったアリア君であるが……まぁ、しゃーない。珍しくやらかしたからな、後で時間とってきちんと謝るしかあるめぇよ。

 

「お前らはまだ良いだろ、明確に友好関係があるんだから。オレなんて現状、かろうじて顔見知り程度のレベルだぞ、どーすんだよコレ」

 

 そうえいえばそうだったな。シアと縦ロールちゃんは前に北区の工房でちょっと挨拶した程度だったか。

 当然、マメイさんとはさっきが完全な初対面。ファーストコンタクトとしては割と酷い部類になる。

 ……少なくとも次に会うときは俺かリアと一緒の方が良いだろうな。シア単独で謝罪&仕切り直しとか罰ゲームレベルの気不味さやろ。

 

「……だな。正直に言えば、あの学者さん――マメイ氏とは良い関係を構築しておきたいし、三人揃って後で謝りに行くのが無難か」

 

 元・日本人全員が渇望する代物を、現状で唯一生産成功してる人だからね。世の中、胃袋を掴む者は強い(確信

 ちなみに確認はしてないが、縦ロールちゃんの怪我自体は多分完治してる筈だ。部屋から飛び出してダッシュで離れる際に、シアが部屋丸ごと包む範囲で回復魔法をぶち込んで来たので。

 傷の箇所や深さなんかを把握して癒した方が効率が良いのは確かだろうが、よほど洒落にならない重症でも無い限りは膨大な魔力と聖気のごり押しで綺麗さっぱり治せてしまう聖女様パワー、おそるべし。

 

 席に戻った事でやっぱりちょろちょろと集まって来た子供達を相手にしつつ、気分を切り替える。

 次の試合も縦ロールちゃんに引き続き、知り合いが出て来る。しっかり応援しようかね。

 他の子には譲らんとばかりに真っ先に膝によじ登って、満足気に鼻を鳴らしているオフィリの頭を撫でてやりつつ武舞台へと視線を向けると、本日最後の試合の出場者達が東西の入口より進み出て来た処だった。

 

『さぁ、先に現れたのは名の知れた傭兵コンビの片割れ、ブライシオ選手! 初戦から相方とぶつかる不運を発揮した彼ですが、御本人としては楽しかったので特に問題は無いとの事! 参加者側としてお祭りを楽しんでいる様で、運営側としては有難い話です!』

『両の脚の負傷は無事に治癒した様で何よりですな。ブライシオ殿の回復力もあってのものでしょうが』

『私も試合の後に治療をお手伝いしたんですが、魔法の効きが物凄く良くて驚きました。再生力の高い種族の方に回復魔法かけるとあんな風になるんですね……』

 

 実況トリオの言葉通り、特大剣(グレートソード)を背負った獣人の折れていた両脚は既に完治してるっぽい。

 サルビアの言葉に心なしかドヤ顔で胸を反らすと、その場で何度もジャンプして二本のあんよの健康っぷりをアピールしている。子供か。

 ぴょんぴょんと上下動する傭兵を見て、膝の上のオフィリが座ったままその動きを真似して喜んでいる。ヘイちびっこ、危ないからやめなさい。

 

「……一回戦のときから思ってたけど、なんとなく似てるよなぁ」

「あ、レティシアもそう思った? ボクも。なんだろ、犬系の獣人だからかな?」

 

 キミたち、今なんで俺を見たの? 聞こえて来る台詞が不本意すぎて物申したいんですけど。

 ……オイ、今ミラ婆ちゃんまで小声で「確かに」って言わなかった!? ブライシオには悪いけど俺あそこまでアホっぽくないでしょ!?

 聖女二人は顔を見合わせて笑ってるし、姉弟子は眼鏡の位置を指先で調節して表情を隠してしまう。もうそのリアクションで返答してるも同然なんですがねぇ!

 解せぬ。犬で傭兵っていう肩書のキーワードが似通ってるだけやろ。そもそも直接の面識すらないんやぞ。

 残るシスター二人が気の毒そうに見てくるだけで留めてくれたのが救いか。いや、シスター・ブランの方はちょっと笑ってたけど。

 

『対するは今大会シード枠の一人! 優勝候補と謳われる一級冒険者、シンヤ=アイミヤ選手!』

『アイミヤ殿は極めて高い練度の魔法剣士ですからな。接近戦に特化したブライシオ殿をどう捌くかが勝利の鍵となるでしょう』

『水に特化した加護を得ているとお聞きしています。風と水に依った種族(エルフ)としてはその運用法が気になる処ですね』

 

 獣人の戦士とは逆方向から入場してきたのは、剣を背負った黒髪黒瞳の爽やかな雰囲気を纏うイケメン――シンヤ君である。

 一回戦で見せた強さと愉快な言動の御蔭か、ブライシオの登場時も中々の歓声が降り注いでいたのだが……はっきりと上回る量の声援が観客席から滝の如く武舞台へと降り注ぐ。

 いやー相変わらず大人気だね。声援の内、何割かが彼のハーレム体質を弄る声なのは草生えるけど。

 舞台上で相対した二人は、割と気安い感じで会話を交わしている。

 

「今日はよろしくお願いします、ブライシオさん」

「うむ、楽しみにしていた。良い戦いをしよう――処で、水は()()()()()()()? 無いなら樽を担いで持ってくるぞ」

「あはは、お気遣いなく。準備はしてありますよ」

 

 至極真面目な声色で敵に塩ならぬ水を贈ろうと提案する相手の言葉を、シンヤ君はやんわりと固辞する。

 ブライシオに他意は無い――多分、全力を出せる環境のシンヤ君相手の方が戦ってて手強いし、楽しい、というだけなのだろうが……。

 まぁ、なんだかんだいって負けず嫌いなトコあるからな、あのイケメン君は。これから喧嘩する相手に全力を出す為のお膳立てをしてもらうとか、絶対頷かんだろ。

 

「わんわん! がんばれー!」

 

 一回戦以降、選手の中でブライシオが一番の推しとなったらしいオフィリがいつも抱いている犬のぬいぐるみを掲げて声を張り上げる。

 うぅむ……年少組の幼女の一生懸命な応援に、周囲の子供達は勿論、大人の方もブライシオを応援する空気になってしまった。

 ミラ婆ちゃん達はあの獣人傭兵と知り合いみたいだし、まぁ分からなくはないんだが……シアとリアまでそれにあっさり乗っかっててワロス。隊長ちゃんもそうだったが、相変わらずシンヤ君に対して微妙に対応が塩いね君ら。

 嫌いとか苦手って訳では無いんだろう。

 ただ、下手に交流持ったり歩み寄った姿勢を見せると、シンヤ君のハーレム体質の御蔭であっという間に新たなメンバー扱いされるからね。

 そこらへんを回避する為にしっかり線を引いた態度を意識的に取ってるって事なんだろうが……彼にとっては自分に特に好意を向けない、完全に肩の力を抜いて会話できる女性こそ希少なので、そういう相手にこそ距離を取られるってのはちと気の毒ではある。

 ……まぁ、その分ハーレム満喫してるだろうから別にいいか! もげろ!(無慈悲

 

 そんなアホな事をつらつらと考えている間に、試合が始まるようだ。

 

『それでは、第二回戦、最終試合――始めっ!』

 

 初手の私情だらけの愚痴みたいな挨拶以降は、なんだかんだ真面目に実況解説やってるキャリーラ女史の号令と共に、両選手が背に負った剣の柄を握り、抜き放った。

 ブライシオが身の丈に迫る程の大剣を肩に担ぐ様にして腰を落とし、シンヤ君が両手剣の刃を寝かせて水平に構える。

 即座に手を打ったのは後者だ。

 軽く地を蹴って距離を離しつつ、魔力を練り上げて詠唱を開始する。

 

『おぉっと!? アイミヤ選手、試合開始と同時に魔法の詠唱に入りました! 一方のブライシオ選手は……動きませんね?』

『魔法の完成を待っているみたいですね。お知り合いみたいですし、どんな魔法を使うのか既に知っているのではないでしょうか』

 

 おそらくはサルビアの推測は正解だ。

 魔導士・魔法剣士のセオリー通りに先ずは魔法の発動から入るシンヤ君に対し、見た目ハスキー犬な獣人の戦士はワクワクと楽しそうな雰囲気を隠しもせずに相手の術の完成を待ち受けている。

 下手をすれば舐められてる、虚仮にされてると取られかねないブライシオの行動であるが、めちゃくちゃ期待に満ち溢れた表情で尻尾をバタバタと振っているのを見れば、悪意や侮りの類が一切無いのは馬鹿でも分かる。

 苦笑いしながらそれでもきっちり詠唱を終えたシンヤ君が、魔法を発動させた。

 魔力が迸り、小さなスパークと共に幾つもの魔法陣が虚空に浮かび上がる。

 

「召喚系か」

「喚ぶのは魔獣や霊獣以外……というか生き物じゃないね。武器でも取り出したのかな?」

 

 瞬時に魔法の詳細を見て取ったウチの聖女様方から、端的な感想兼説明が語られた。

 その言葉通り、召喚されたのはセオリー通りの共闘する召喚獣の類では無く――大きな無数の水球だ。

 直径1メートル程の何の変哲も水の塊。ふよふよと球体を維持して浮かぶその数は、七つ。

 

 以前にも見た事あるな。リアの言う通り武器――()()か。

 

 シンヤ君は球体の一つに無造作に剣をぶっ刺すと、軽く捻りながら引っこ抜く。

 水球が少しばかり縮み……代わりに引き抜かれた刀身は、先程より二回りは大きく、そして長くなっていた。

 陽光を乱反射させて輝くのは、眼も覚める様な冷気を放つ、氷の刃だ。

 冷たい蒸気を吹き出すソレを再度構えつつ、常の柔らかなイケメンスマイルとは違う、どこか不敵さを滲ませた表情で彼は笑う。

 

「お待たせしました、と行った方が良いのかな?」

「うむ、待った。待ったが、俺が勝手にそうしただけなので問題は無い」

「ブライシオさんらしいですね……待たせた分、退屈はさせないと思いますよ?」

「シンヤとの戦いに退屈する時間があるとは最初から思っていない――では、戦ろう」

 

 冷静に言葉を紡ぎながら、しかしその雰囲気は待てを解除された(わんこ)の如く。

 もう我慢できねぇぜヤッホゥ! と言わんばかりに、獣人の戦士は投げられたボールを追いかける様な軽快な足取りで正面から突撃した。

 馬鹿でっかい剣を担いだまま身は低く、疾風の如く駆けるその様は、正に地を走る獣だ。

 対するシンヤ君は肉薄するブライシオへと向け、氷の刃を指揮棒の様に振るった。

 

 武舞台上に浮かぶ水球――その幾つかが、微かに波打ち、圧縮された水を撃ちだす。

 

 鉄砲水の如く吐き出されたソレは、殺傷力こそ低いが当たればその水圧で抜群のストッピングパワーを発揮する。()()()()、ね。

 正面と左右の三方向から発射された水弾を、長大な剣を担いだ巨躯が軽やかに跳ね、躱し。

 そのまま獣人の身体能力を如何なく発揮して一足飛びに間合いを詰めたブライシオの()が、水弾の指揮者を間合いに捉える。

 迎え撃つシンヤ君。鋼の刃と氷の刃が激突し、やや甲高い音を立てて氷の粒が砕け、宙を舞う。

 罅の入った冷たい刀身を見て、持ち主が苦笑いを浮かべた。

 

「――ッ、下手な魔装より硬度は上の筈なんですけどねっ……!」

「確かに硬い――が、砕けない程では無い。グラッブスの腕なぞはもっと硬いのに弾力もあって殆ど刃が入らんぞ」

「先輩とか司祭様とか、あの辺りの人達を比較対象にしないでもらえます!?」

 

 流石に力比べをするつもりは無いのか、抗議の叫びをあげたイケメンは振るわれる剛剣を受け流しながら距離を取る。

 その間にも断続的に水弾が発射され、回避に移るブライシオには追撃を行う余裕は無いようだ。

 

「うむ、水球の数も以前より増えている。やはり厄介だな、シンヤは」

「楽しそうに言われても反応に困ります、よ!」

 

 シンヤ君の制御の下、四方八方から放たれる水弾と彼自身の手によって振るわれる氷の刃。

 圧倒的な制圧力を以て襲い来るそれらを、野生動物みたいな身のこなしと振り回す特大剣(グレートソード)によって受け止め、叩き落とす獣人の戦士。

 武舞台を囲む様に浮遊する水球に遠距離から撃たれまくってるというのに、指摘通りにブライシオは楽しそうだ。

 出身は帝国らしいが、その喧嘩大好きな気質は紛れも無く純度の高い魔族のソレである。

《災禍》の連中とはウマが合いそうだな……実力も加味すれば、そら勧誘もされますわ。

 

『これは凄い! 本職の魔導士顔負けの魔力制御! 見た処ブライシオ選手は回避で手一杯に見えますが……!』

『試合ということで圧縮した水弾のみに種を絞っているみたいですね……実戦ならもっと殺傷力の高い攻撃方法を多用すると思われます』

『なるほど、ではアイミヤ選手は手加減をした状態で圧倒していると?』

『底を見せぬは両者ともに、でしょうな。ブライシオ殿もアイミヤ殿の手腕を満喫している様に見受けられます』

 

 キャリーラさんがそうと判断した様に、素人目には魔法で周囲を囲んだシンヤ君が押してるように見える。

 が、その優位性は薄氷の如き脆さだ。というか、わんこ(ブライシオ)が水遊びを楽しむのを止めてからが本番といって良いだろう。

 サルビアが述べた通り、シンヤ君が試合用の戦闘方法という自身に課してる枷を外せば流石に今の様な余裕は無くなるんだろうが……まぁ、お祭りの催し物だからね。

 二人に限らず、出場者には戦士のプライド的なものもあるだろうが、個人的には互いにこのスタイルのまま決着まで行くというのもそれはそれで正解な気がする。

 浮遊する水塊の数を減らしてみようと思ったのか、舞台を縦横無尽に駆け回っていたブライシオが手近な一つに肉薄し、剣を叩き込む。

 魔法で浮いているとはいえ、それ自体はただの水だ。右から食い込んだ刃は抵抗なく潜り込み――普通に左側から抜けた。

 当然ながら水塊には傷一つ付いてない。というか水だから付く訳が無い。

 

「――む?」

「水は斬れもしないし、砕けもしない。簡単に壊せはしませんよ」

 

 戸惑う獣人に対して水弾と剣での波状攻撃を一旦止め、ちょっと自慢げにシンヤ君が笑う。

 返答の代わりにブライシオは手首を返し――刃ではなく、分厚く幅広な特大剣(グレートソード)の腹で水塊をぶん殴った。

 パァン! と風船が割れる様な音を立てて弾け飛ぶ飛沫。斬れも砕けもしないが破裂はした模様。

 一撃で破壊、とまではいかなかったが、ビチャビチャと石畳の上に飛び散った分、水塊の大きさは半分程にまで小さくなっていた。

 

「うむ、良し」

「良しじゃないが!? 何この先輩相手に訓練してるときみたいな理不尽感……!!」

 

 おう、言ってくれるね後輩。

 そもそも会って間もない頃、手合わせしたいとか言い出したのはチミの方だろうに。

 しゃーないやろ、近くに大量の水源があるなら話は別だろうが、今回みたいに水塊を召喚してそれを運用する戦い方は《三曜の拳》のカモなんだってばよ。

 水塊を召喚した直後に《流天》で全部掌握して地面にバッシャーンってしたらシンヤ君白目剥いてたっけ……俺は悪くねぇ! ちゃんとリクエスト通りに実戦に近いノリでやっただけだし!

 

 水塊を破裂させるのが思いの外楽しかったのか、斬り結びながらブライシオが手近な水源を破壊しに掛かる。

 徐々に浮遊する水塊達が吹き飛ばされて小さくなっていくが――やられる側が、どうせ壊されるなら一気に使い切ろう、と考えるのは当然だった。

 激しく移動を繰り返し、氷の刃との剣戟音を響かせる傍ら、獣人の戦士が何度目かになる近く水塊への一撃を加えようとした、そのときだ。

 

 剣が届く前に、水球が自ら破裂する。

 

 弾け飛ぶ飛沫――ただし、その全てがこれまで放たれて来た水弾とほぼ同等の威力を持っていた。

 咄嗟に剣を翳して盾とし、受け止めるブライシオ。槍衾か、はたまた矢雨の絨毯爆撃を受け止めたみたいな連続した着弾音が刀身から響く。

 大量の散弾じみた攻撃をきっちり防いでみせたのは流石だが、動きが止まったその一瞬をシンヤ君は見逃さなかった。

 膂力が遥か上の相手と幾度も打ち合ったことであちこちが欠けた氷の刃が、飛沫の一部を浴びて瞬時に復元する。

 飛沫を防いだ事で身体に掛かる衝撃を捻じ伏せ、ブライシオが強引に身を翻すが、流石にこのタイミングだと完全な回避は無理があった。

 斜め下から切り上げられた斬撃が、獣人傭兵の肩を抉る。

 

「――む?」

 

 傷としては浅い……魔族の頑丈さを考慮すれば大した痛痒にはならないであろう一撃だったが、喰らった本人から困惑した声が漏れる。

 

「……肩と肘が鈍い。まるで雪の日にうっかり外で昼寝をしたときの様だ」

「人間だったら凍死してるんですけどそれ。というか、僕の剣の冷気が入ってそれで済むんですか」

 

 ツッコミをいれる側まで困惑してて草。

 だが、言葉の通り、ブライシオの肩口は出血が無く……代わりに霜がおりて白く染まっていた。

 

「へぇ……相手の馬鹿デカい剣と打ち合う為の手段だと思ってたけど……冷気の付与効果(エンチャント)も兼ねた代物だったか。器用だな」

 

 隣のシアが、感心した様子で呟いている。

 刀身に自身の魔力を通した氷を纏わせることで武器の強度自体を上げ、更に力負けしてしまう相手と打ち合っても氷が砕けることで腕に返って来る負担を軽減する事が出来る。

 ブライシオみたいな剛剣の使い手と正面切って戦う為の対策だと思われた氷の刃だが、見た目通りの冷気による付与効果もあったみたいだ。

 実質、一つの魔法に二つの付与効果(エンチャント)を乗せてる様なモンだ。水属性に関してはマジで得意ってレベルじゃねーなシンヤ君。

 

 ぐりぐりと動かし辛そうに肩を廻したブライシオが、ノってきたとばかりに獰猛に笑う。

 

「やはり強いな、シンヤは。後に控える者達も強者揃い――帝都まで脚を伸ばした甲斐があった」

 

 傷を負った事で遅まきながらスイッチが入ったのか、初戦の最後の打ち合いの時と同じ、ビリビリとした闘争心を露わにする獣人の戦士。

 それを正面から受け止めながら氷を纏った両手剣をしっかりと握り直し、普段は女の子受けする柔和な笑顔がデフォルトのイケメン君は、凛々しさと不敵さの入り混じった笑みで以て応える。

 

「後の人達も強そうだって言うのは同感ですけど……ブライシオさんが戦えるのはこの試合までですよ? 準決勝に進むのは僕なので」

 

 わぉ、流石ハーレム主人公。発言までイケメンや。

 両者を称える歓声が降り注ぐ中、年若い女性の黄色い悲鳴が殊更に多く混じる様になる。

 ミーハーというなかれ。実際、今のシンヤ君は普通にかっこいいぞ。普段は弄りがてら野次を飛ばす同業者(やろうども)ですら、素直に彼の勝利を応援しとるし。

 普段はあんまり見せない自信有り気な表情のまま、彼は数と大きさを減らした水塊全てを武舞台の真上に移動させた。

 

「本気になった貴方と思いっきり戦ってみるのも悪くないんですが……勝っても消耗しすぎて途中棄権(リタイア)になりそうですし、そろそろ決めさせてもらいます」

「秘策あり、といった表情(カオ)だな?」

「えぇ、まぁ。この間、変わってるけれど試す価値はありそうなアドバイスを貰ったんですよ、絶対変だけど」

「うむ、楽しみだ――では、手並みを拝見といこう」

 

 穏やかな問答はそこまでだった。

 凍り付いたままの肩をものともせず、ブライシオが身を低くし、全身を撓め――一気に前へと飛び出した。

 同時にシンヤ君の剣が掲げられると頭上の水球が全部破裂し、武舞台にバケツを引っ繰り返した様な豪雨が降り注ぐ。

 

 ――その全てが先の如く水の弾丸であっても、突き進み、突き破る。

 

 おそらく獣人の戦士はそんな覚悟を以て、止まる事なく前へ出た。

 だが、術者ごと巻き込む勢いで降り注いだソレは石畳に当たっても食い込むこともなく弾け、舞台全体を満遍なく濡らすのみ。

 この局面で水源全てを使って降らせたのが只の雨――その事実に、普通なら警戒か困惑を抱いて動きを止めるか、鈍らせそうなものだが――。

 

「喰い破る――!」

 

 なんであれ、全て捻じ伏せて見せる。

 そんな気概を感じさせる声色で牙を剥き出して吠えると、刹那の躊躇も無くブライシオは更に加速。

 瞬きの間に両者の間合いは詰まり、特大剣(グレートソード)が渾身の打ち下ろしに備えて掲げられ。

 それを支える強靭な脚が石畳を砕いて踏み込まれんとした、その瞬間。

 

「"凍れ(コールド)"」

 

 シンヤ君の静かな声が響くと同時、ずぶ濡れとなった武舞台の全てが凍り付いた。

 当然、剣を振り上げたブライシオもその対象――だが、濡れた鎧や毛皮に包まれた体表が凍った程度で、この獣人の戦士が止まる筈も無い。

 一瞬の停滞すらなく、攻撃の動作は実行される。

 

 ――そう、()()()()()()()()()()()()()()()()、スケートリンクばりにツルッツルの路面凍結(アイスバーン)状態となった石畳に、ブライシオは踏み込んだのである。

 

「ぬぉぉぉぉっ!?」

 

 慌てた様な素っ頓狂な叫び声が上がり、巨剣を構えた長躯がジャックナイフみたいな軌道で吹っ飛んだ。

 相対していたシンヤ君を飛び越し、明後日の方向に宙を舞う。

 それでも空中でぎゅるんと一回転すると、瞬時に体勢を立て直して着地したのは流石の身体能力だ。

 だが着地した先でも待ち受けるは、いい具合に摩擦係数が減少した石畳である。

 カーリングのストーンかホッケーのパックみたいに、場外へ向けて容赦なく滑るブライシオ。踏ん張り自体が利かない足場では埒が明かないと判断したか、握った得物をブレーキ代わりに突き立てようとして――。

 

 

 

「そーれ、とってこーい!」

「ワフッ! ――――ハッ!!?」

 

 

 

 シンヤ君が場外へ向かってぶん投げた……骨付き肉を丸ごとジャーキーにした様な物体に気をとられ、そのまま武舞台から落っこちた。

 

 

 

 

 

 

『……勝負あり――って、えぇぇぇっ!? ちょっ、えぇぇぇぇっ!? ありなんですかコレ!?』

『はっはっはっはっは!! アリですな! 戦場では通じぬでしょうが、場外ありき、祭りの催したる試し合いなればこその勝利への手法! お見事!』

『予想外の決着の付き方でしたね……見逃しそうになりますが、ブライシオ選手を滑らせた氷の生成も凄い精度ですよ。鏡として使えるレベルじゃないですかアレ』

 

 キャリーラ女史の困惑甚だしい叫びに、余程ウケたのか爆笑しながら手を打ち鳴らして答えるガンテス。

 そんなおっさんを見てご満悦な表情のサルビアが、一応の補足とばかりにシンヤ君の魔法について解説を入れている。

 観客席の反応も似たり寄ったりだ。予想外にも程がある結末に唖然としている者もいるが……笑劇(コント)みたいなオチに爆笑してる奴も多い。

 相変わらず来賓用の特別席に座ってる魔族領の連中とか特にな! 《魔王》なんて腹抱えて笑って……あ、笑い過ぎてえずいとる。

 

 いやー……勝っちゃったなシンヤ君。

 うん、まぁ、勝敗自体はどっちが勝っても可笑しくない実力者同士だし、不満も問題もある筈も無いんだけど。

 

 頭から落っこちた体勢のまま、流石に釈然としない顔で――だが投げられたジャーキーはしっかりと手にして齧っているブライシオを見て、なんとも言えない気分になった俺は武舞台からそっと目を逸らす。

 

「――最後の()()、お前の仕込みだろ」

 

 ギクッ。

 

 半眼でこちらを見つめて断言なさる聖女様の言に、思わず反射的に首を竦めてしまった。

 ……なんのことでしょう、ぼくはここでおうえんしてただけのいちかんきゃくですけど。

 

「いや、あのアホな方法はどう考えてもアイミヤの奴が考える作戦じゃないだろ。あんな斜め上な入れ知恵しそうなのはお前くらいだし」

「というか、にぃちゃんこの間アイミヤさんと足湯に行ったばっかりじゃん。絶対そのときにアドバイスとかしたでしょ」

 

 シアの追及にリアまで加わり、更に俺達の会話を聞いたミラ婆ちゃん達、膝の上で「わんわん負けちゃった……」としょぼくれていたオフィリの視線まで加わって、いよいよ以て逃げ場が無くなる。

 

 ……俺だってマジで実行するとは思わなかったんだってばよ!

 

 氷でこかす、或いは滑らせて場外落ちを狙う、位までは割と真面目に考えてアドバイスしたんやぞ!

 シンヤ君が「場外狙いならもう一手欲しいですね……」とか真剣に検討してた脇で、足湯につかってふやけた思考でポロっと漏らした言葉まで真に受けるとか思わねーだろ!

 ブライシオさん犬っぽいしアホっぽいし、めっちゃ美味しそうな骨投げたら咄嗟に反応しそう、とかその程度の考えで口にしたモンが実際に起用され――あまつさえ完全に的中するとか予想出来るやつおるか!? いやいない!(反語

 

「うーん……やっぱり似てる気が……」

「それな。同類の思考を予想した感がある」

 

 おい、犬と傭兵繋がりで似てるってのはこじつけが過ぎるだろ、さっきも言ったが物申すぞ、その評価には。

 一生懸命自己弁護する俺をひっじょーに温い目付きで見て来る姉妹(きょうだい)に、不服を申し立てようと身を乗り出すと。

 下から伸ばされたちいさな掌にべちんと顎をたたかれ、視線を下げてみればそこにはふくれっ面のオフィリ嬢。

 

「わんわんなのにわんわんをおうえんしないの、ダメなんだよ、めっ!」

 

 あ、はい。すいません。

 

 聞き分けの悪い子を叱るようにぷんすかとお怒りになる幼女に、気勢を殺がれて思わず謝ってしまう。

 なんか全体的にブライシオ(わんわん)推しとなっていた子供達にも続けざまにお叱りを受けて――空を見たくなって天を仰いだ。

 

 ……曇ってるなぁちくしょう。こんな気分のときくらい青空を見せてくれ。

 

 愚痴を垂れた処で空が晴れる訳でも無し。

 溜息をついて視線を外していた武舞台に再び目を向けると、ブライシオがやってきた相棒――ボルドの手を借りて身を起こす処だった。

 

「流石にアレは無いんじゃないか、兄弟」

「面目無い。負けた事に言い訳はしない――だが、これを見てくれ兄弟」

「む……これは、まさか……竜の腿か?」

「うむ。燻すのは軽くに留め、風味と旨みを閉じ込めている。逸品だ」

「成程、これは眼を奪われるな――処で兄弟、ものは相談だが……」

「断る。敗北の代わりに得た品だ、今日一日、負けと共に噛みしめるとする」

「ケチくさいぞ、兄弟」

 

 うん、絶対似てないだろ(確信

 

 やっぱりアホっぽい会話を繰り広げている傭兵コンビを見て、俺はひとり、静かに頷いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






A:現状、100%である。



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