死んでくれよAFO 作:コヨーテ
『君はヒーローになれる』オールマイトにそう言われてから少しばかりの日々が経って、今は海岸のゴミ掃除という名のトレーニングをしている。そんな中突如後ろから声が聞こえてきた。
「あれ?緑谷出久さんですか?」
「あひっ⁉︎」
ここには自分しかいないと思ってたのに、急に話しかけられたのでびっくりして変な声が出てしまった。後ろを振り返ってみると、そこには少年がいた。フードを深く被っていて顔はよく見えない。声質から辛うじて変声期前の少年であることが読み取れる。
「ああ、驚かせてしまいましたか。申し訳ないです」
「いや別に大丈夫だけど・・・どこかで会ったことあったっけ?」
目に前の少年に見覚えはない。なのになんで僕の名前を知ってるんだろうと気になった。
「ええ・・・・・・ずっとずっと昔から僕は貴方を知っている。邪魔して悪かったです。では」
感慨深そうな声で少年は言う。こっちからしたらなんのことかさっぱりわからないのだが。
「あっ、ちょっと─────」
言い終わる前に少年はゴミ山の向こうへと消えていった。意味がわからない、思わせぶりな言葉だけ言って何も説明せずに帰るなんて。
「なんだったんだ・・・」
ここは深夜の東京歌舞伎町。もう丑の刻も過ぎた頃だというのにその活気は収まるところを知らない。
繁華街というところでは毎日のように個性を持て余した酔っ払いが事件を起こしたり薬の売人が売り捌いたり、まあ色々な奴がいる。
そして今夜の舞台はとあるクラブ。薬の売人が今日もいつものように大麻を売っていた。
男は大学生で遊ぶ金欲しさに薬の売人をしていた。昔はインターネットで注文を受けていたが最近売人仲間から電脳系の個性を持つヒーローが売人を捕まえまくってるという話を聞いたため、多少の危険を犯しながらも現地にて販売を行っていた。
とはいうものの男に危機感などない。それは単純に今までの人生で一度も大きな失敗をせず大学生になったことと、男には自分の個性に絶対的な自信があったことが原因している。
男の個性は液状化、自らをヘドロのように流動的にし、自在に操ることができるというものだ。
例えば換気扇からでもすぐに逃げられるし、掴まれる心配もない。男は自らを最強とは言わぬものの、そこらのヒーローに捕まるわけないと自負していた。
そして今、クラブのトイレで目の前のフードを深く被った中学生くらいの少年に大麻を売っていた。
こんな中学生まで大麻を使うなんて世も末だなんて考えながら、いいカモになりそうだとも考えていた。
まっことクズの思考である。フードのせいで顔は見えなかったものの、慎重な奴だと思っただけで特には気にしなかった。
「はいじゃあ二袋ね。金は持ってるよね?」
「持ってますけど・・・もし僕がヒーローだと言ったらどうしますか?」
「ヒーロー?」
唐突な質問に男は一瞬うろたえる。しかしそれも一瞬だけ、次の瞬間には余裕綽々の表情を浮かべていた。
何故なら目の前の少年がヒーローのはずはないからだ。この町でよく見かけるもの、それはヤクザに麻薬に酔っ払い、そしてそいつらを逮捕するのは警察の仕事だ。
もちろん警察には個性の使用は許されていない。だからあらかじめマークしておいた売人の検挙など、相手が暴れやすいケースではヒーローが付き添うのだ。
路上での薬の販売なら通りかかったヒーローが捕まえることはある。しかし俺は道端で麻薬を売っているわけではない。
ネット販売時代は個人営業だったが今は違う。捕まりにくい場所で売るためにきちんとヤクザと取引して、クラブのトイレで売っているのだ。
そしてヤクザがバックに着いているこの現状、一斉検挙するとしたらクラブの外に警察が張り込んでるはずなのだ。
ヒーロー単独ではなく警察もいるはず。何故なら事前に色々調べなければ逮捕まで持っていけないからだ。
しかしここ最近警察を見かけたことはない。尾行された覚えも男にはなかった。
それに外に警察がいるならば仲間から連絡があるはず。それもなかった。
以上の理由から目の前の男がヒーローであるはずはないと男は考える。
つまりは売人に対して警察とヒーローはタッグを組む、目の前の少年がヒーローだとしたら警察もいるはず。
それはいないと言うことはヒーローではない。そういうことだ。
ならば何故少年はそんなことを言ったのか?男の脳内では一つの結論が出された。
きっと正義感に溢れたヒーロー志望の中学生なんだと、お子ちゃまなのだと。確証はないのにすっかり男はそう決めつけてしまった。
男の悪い癖だ、すぐ決めつける。しかし男は相手はお子ちゃまだからといって油断はしなかった。
少年の個性がなにかわからないからだ。万が一のことに備えて、足元の排水溝から脱出できるように液状化の準備をする。
この男に戦う気などない。麻薬を売って大金を稼いで甘い汁を吸う、それが男の目的。戦う意味がない。
互いに無言のまま少しばかりの時が流れ、少年が先に口を開いた。
「やっぱヒーローには見えないですよね、まぁそんなことはどうでもいいんです。今金持ってます?」
「は?金?」
「そうです、金ですよ金。あなたが麻薬を売って得た金、全部出してくれませんか?」
「いや・・・出すわけねーだろ」
「うん、正論ですね。もしも僕がヒーローならヴィランの言葉なんて無視して逮捕できるんですが。あなたは麻薬を打ってるクズ、僕は人から金を奪おうとしてるクズ、法的優位はどちらにもないです」
「何グダグダ言ってんだよ、ぶん殴られたいか?」
大声を出してこそいないものも、男はイラついていた。いきなり金出せと言われたのだから当然も当然、あとは麻薬の取り引き最中でなかれば完全に男が被害者だったであろう。
「殴られるのは嫌ですね。では」
瞬間、悪寒が全身を覆った。何かヤバい予感がした。すぐさま液状化しようとするも、すでに
ありえない、あり得るはずがない。彼はそう思った、それもそのはず少年がスタンガンを取り出すのを見た覚えがないのだ。
いきなりスタンガンが現れた。そしてこの状況は男にとってはピンチ、少年にとってはチャンスだ。
液状化してもスタンガンのスイッチを押されて仕舞えば感電して終わり。しなくてもスイッチを押されて終わりだろう。気絶させられるだろう。
金だけ持ってかれるだけならまだいい、麻薬まで持ってかれたら仲間に責任追求される。
更に警察に突き出されでもしたら終わりだ、人生設計めちゃくちゃだ。故に男は賭けに出る。
少年がスイッチを押すより早く
「マジですか⁉︎」
電気を通す液体が手にかかっている状態で、スタンガンを使用することなど出来はしない。
だが少年は男の体が電気を通すかどうかなど知りはしない。
しかしこの土壇場でこんな行動に出たと言うことはブラフで無ければ通電するということだ。
少年はそう思ったのだろう、液状化してから5秒以上経っても経ってもスタンガンのスイッチを押しはしなかった。
しかし男の目には少年が焦っているようには見えなかった。
そのことに若干苛立ちを覚えるも、この場を収めるために男は少年に話しかけた。腕に絡ませた液体から口を出して。
「なぁ坊や、スタンガンには正直驚いたよ。マジでビビった、正直人生終わるかと思った。でも終わりだ、俺の個性は液状化。お前がどうやってスタンガンを俺の首に突きつけたなんてどうでもいい。お前がなんで俺から金を奪おうとしたかもどうでもいい。このまま口と鼻を塞げば気絶する。後はヤクザに突き出すだけだ。俺のバックにはヤクザがいる。ヤクザに喧嘩売ったんだ、お前はもう終わりだよ。死ぬぜ」
液状化しているせいで顔は見えないが男はきっとニヤニヤしている、勝ちを確信している。
「そうですね。確かにヤバいです、ピンチです。でも僕を気絶させる前にちょっとだけ話を聞いてくれませんか?」
無表情で少年は言う、いつのまにか被っていたフードは脱げていた。男はそれを承諾しなかった。まだ少年の個性が何かわかっていないのに油断することなどありはしない。
「はっ!聞くわけねーだろ!さっさと気絶しろ!」
「嫌です、あなたが気絶してください」
その時、男の視界から少年が消えた。瞬きをしたわけではない、目を離してもいない。むしろ少年を凝視していた。なのに消えた、綺麗さっぱり消え去った。そして液状化していない背中に衝撃が走った。
「うぐっ!」
「感電するのは貴方だけ」
全身に電気ショックが走り、液状化が解除される。
「これでも悪いとは思ってるんですよ?自分より弱い相手から金をぶんどるなんて。でも貴方が悪いんですからね。麻薬なんて売ってるからこんな目に遭う。後、麻薬は全部捨てておきますね」
徐々に意識が遠のく、そして男は気絶した。最後に思ったことは今後の人生への不安、そして少年への怒りだった。
「あ、ちなみに坊やじゃないです、今世での性別は女です」
「40万ってトコか」
とある廃ホテルの一室、コンビニで買ってきた明太子おにぎりを食べながら僕は口を開いた。ずっと一人でいると頭がおかしくなりそうになる。だから独り言は大事だ、生きてるって実感を感じ取れる。もちろん一人のときはですます口調じゃなくなる。素の口調になれる。
「まぁ流石に液状化はヤバかったよ、時間停止可能時間が3秒残ってたお陰で助かった」
そう、僕の個性は『時間停止』一見万能な強個性に見えるかもしれないが違う。クソ個性だ。条件はあるしクールダウンにかかる時間も長い。しかも止められる時間も長くない。そして何よりこんなクソ個性を持って生まれたせいで学校にも行けなかった。
「そういえは色々あったなぁ・・・」
そう言いながら僕は今までのことを思い出していた。脳裏に映し出される記憶の再上映は前世にまで遡る。
なに、そんな大した経験をしてきたわけじゃない。高校二年生の時に色々あって死んで、生まれ変わったと思ったら別の世界。しかもその世界は個性なるものが存在する世界。雄英高校が存在する世界。
紛れもなく僕のヒーローアカデミアの世界だろう。元から異世界としてヒロアカの世界が存在してたのかもしれない。
二次元の中に入り込んでしまったのかもしれない。ヒロアカの作者はこの世界を観測しながら僕のヒーローアカデミアという漫画を描いたのかもしれない。
だけどそんなことはどうでもいい。赤ん坊の時にそれを考えるのはやめた。
なんであろうと僕がこの世界で生きてるという事実は変わりないからだ。
それから個性が発現してさ、時を止められるなんてすごい個性だと思ったよ。あの頃は。
そのせいでAFOに目をつけられてさ、一気に転落人生まっしぐらだ。そりゃAFOも欲しいよこんな個性。
これ単体ならそこまで役に立たない、だがAFOが持つ複数の個性と併用すれば一気に最強クラスの個性だ。
そんなクソ個性のせいでAFOに怯えて裏社会の片隅でひっそりと暮らしてる。薬の売人から金を分取ったりして。
学校に行くこともできず、そんな人間がまともに働けるはずもなく、外国語は喋れないから国外逃亡も無理。警察に助けを求めたって一生守ってくれるわけじゃないしね。クソかよ。
「よくよく考えてみなくとも僕の人生クソだな。笑えもしない。しかも今は最低の犯罪者、終わってる。でもあと少し、あと少しで怯えることもなくなる」
拳を握りしめて、僕は呟く。少女の声帯から発せられたにしてはやけに低い声がコンクリートの壁に反響する。
数年前に裏社会でできた友人に言われたことがある。いくらAFOが強大だからってそこまで怯えることはないだろ?そう言われたんだ。
わかるはずがない、噂でしか存在を知らない人間にわかるはずがない。
「もうすでにオールマイトと緑谷出久が出会ったことは確認済み。彼が雄英に入学して困難を乗り越え、AFOを倒してくれるのを待つだけだ」
前世ではヒロアカは途中までしか読めていなかった。しかしあれは王道少年漫画。最終的にはハッピーエンドで終わるだろう。
「そしたらどうしよっかな・・・・・・まぁそん時考えればいいか」
今は今を精一杯生きよう。あと一年、一年でAFOに怯えることは無くなる。その時ブーブーという音がした。スマホのバイブ音だ。
「はいもしもし・・・・・・あぁ!あなたでしたか、義爛。はい、ええ、成る程。では詳しくは明日そちらに伺います」
義爛、裏社会において違法サポートアイテムを売り捌いたりさまざまな悪事を働くブローカー。彼から連絡があった。
「あぁ、忙しくなりそうだ──────最悪だ」
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