性癖が複雑骨折しているトレーナーと、男性観が複雑骨折したライスシャワーのお話 作:社畜だったきなこ餅
と言っても二人が共に歩んだ三年間の後の話、ではなく前回の話で端折った二人の日常の話をお送りいたします。
【大学生だった頃のトレーナーと、小学生のライスシャワーのとある日】
太陽が強く大地を照らすとある夏の日。
夏休みを迎えた学生達が山や海に繰り出しひと夏の思い出を作る、そんな時期の事である。
「おにいさま!さんすうドリルおわったよ!」
「どれどれ……うん、全部合ってる。頑張ったねライス」
「えへへ」
ぬいぐるみや可愛らしい小物が並ぶ冷房の効いた部屋の中で、黒鹿毛の幼いウマ娘ことライスシャワーを膝の上に乗せた青年が少女の書き上げた算数ドリルを確認すると、全問しっかり合っている事を少女へ告げて敏感な耳に配慮しながら少女の頭を優しく撫でる。
撫でられたライスシャワーがどんな反応をするかと言えば、嬉しそうにはにかむと兄のように慕っている青年の胸に後頭部をすりつけて心の底から甘えている様子を見せている。
二人が何をしているのかと言うと、ライスシャワーが小学校で出された夏休みの宿題を青年が教えているというだけの話で。
じゃあ何故ライスシャワーが青年の膝の上に座っているのかは、青年も当初は対面する形で座っていたがライスシャワーが青年の膝の上に座りたいとおねだりし、当初は断ろうとした青年が少女のおねだりに負けたというだけの事である。
兄のように想っている大好きな青年が傍に居てくれて嬉しそうに尻尾を振るライスシャワー、一方青年はライスシャワーから見えないのを良い事に若干渋い顔をしていた。
その表情の理由は嬉しそうにぱたぱたと動いているライスシャワーの耳や尻尾がこそばゆいから、と言う事ではなく。
時折飲み物の差し入れをしてくれるライスシャワーの母親、平たく言うと青年の破れた初恋の女性と顔を合わせる度に心の底に沈めた慕情と葛藤が疼くという事に尽きた。
高校生の頃に木っ端みじんに初恋が砕け散った傷は、未だ青年の心に強く残り癒えていなかったという話である。
【トレセンで再会したトレーナーとライスシャワーの、一年目のとある休日】
ライスシャワーと中央トレセン学園で再会し、少女の担当となったトレーナーが最初に痛感した事がある。
それは、ライスシャワーと言う少女は自身の期待に応えようという意思を強く見せておりトレーニングの意欲も十分だったが、その意欲があまりにも過剰だと言う事だ。
自身が学びサブトレーナーとして過ごした日々で、休む事の大事さを叩き込まれているトレーナーはライスシャワーに頑張りすぎない事を教える事に苦心する事となったのである。
「お兄さま、今日はどんなトレーニングをするの?」
「ライス、今日のトレーニングはお休みだよ。折角だしお出かけでもしようか」
「ふぇ?!」
幼い頃に比べて距離感を感じさせる程度に遠慮しながら、学業を終えた放課後にトレーナー室へやってきたライスシャワーに笑みを向けながら告げるトレーナー。
驚いたのはライスシャワーである、突然トレーナーからかけられた寝耳に水と言わんばかりの言葉に耳をピーンと立てて全身で驚きを示す。
多感な少女にかけるにはデリカシーに欠ける言葉であったかと反省し、距離感を感じる今となってはむしろ行き過ぎた言葉であったかと内心反省するトレーナー。
一方ライスシャワーは再会できて嬉しくもどうしたらいいか未だ悩んでる中に、兄のように慕っているトレーナーの言葉に嬉しいやら恥ずかしいやらでてんてこまいである。
その後、色々あった末にトレーナーは精一杯のおめかしをしたライスシャワーと町へお出かけし……。
「お兄さま、どこへお出かけするの?」
「そうだね、今日は本屋へ行こうか。絵本の品揃えが良い本屋をこの前見つけたからね」
「本当!? えへへ……ライス、とっても嬉しいよ」
子供の頃のようにトレーナーの腕に全身で抱き着き、トレーナーは初恋の女性の面影を一瞬重ねてしまいライスに気取られないよう苦慮しながら笑みを浮かべて少女のエスコートを始め。
その日から暫くの間、ライスシャワーは絶好調と評すにふさわしいほどに上機嫌となるのであった。
結論から言えば、この日から徐々に二人の気持ちのすれ違いは是正され始めた。
【トレセンで再会したトレーナーとライスシャワーの、二年目のとある休日】
トレーナーとライスシャワーが二年目、クラシック期を迎えたとある日の休日。
ミホノブルボンとライスシャワーがダービーで死闘を繰り広げ、結果敗北をして少しばかり日が過ぎた夏合宿より前の時期の事。
「お兄さま、入るね……あ」
遠慮がちにトレーナー室を開いたライスシャワーが目にしたのは、いつものデスクに座り仕事をしているトレーナーではなく。
部屋に備え付けられているソファの背もたれに体を預け、寝息を立てているトレーナーの姿であった。
「お兄さま、最近忙しそうにしてたもんね……」
その日は休日であり特に二人で予定を立てていなかったのもあり、トレーナーを起こすのも悪いとライスシャワーは思いつつも。
いつも自身が座っているトレーナーの隣が空いている事に気付くと、いつもみたいにソファの場所を空けてくれているトレーナーにライスシャワーは暖かいモノを感じ、足音を立てないようソファへ近寄りそっとトレーナーの隣へと腰掛けた。
隣に座った事でトレーナーの寝息を特に強く聞き取れる事に、ライスシャワーはほにゃりと表情を緩めるとトレーナーの身体に体を預け。
大好きなトレーナーの寝息と心音を聞きながら、ゆっくりと瞳を閉じて微睡始め……不意に体に体重を預けられたトレーナーが薄っすらと目を開き、隣で微睡んでいるライスシャワーに気付くとゆっくりと少女の頭を撫で始める。
暖かな日差しが差し込む部屋の中、穏やかな時間だけが流れていた。
余談であるが、トレーナーが目を覚ました時には寝ぼけたライスシャワーがトレーナーの手を掴み幸せそうに頬ずりをしていた事に肝を冷やした上。
その瞬間に部屋に響いた扉をノックする音に、ライスシャワーを起こさない程度に飛びあがりそうなほど驚く羽目になった。
もしもノックに気付かず、そのまま理事長秘書の駿川たづなが二人の様子を見てしまった場合、相応に大変な事になっていた事は想像に難くない。
【トレセンで再会したトレーナーとライスシャワーの、三年目のとある休日】
時が流れるのは早いモノで、トレーナーとライスシャワーの関係も三年目を迎え宝塚記念を終えて夏合宿の準備にトレセン学園全体が慌ただしくなってきた頃の休日。
トレーナーとライスシャワーも他と同様慌ただしいかと言えばそう言う事もなく、既に段取りよく準備を終えていた二人であったが……。
「ね、ねぇねぇお兄さま!」
「どうしたんだい? ライス」
いつものようにトレーナー室で二人きりの時間を過ごしていた中、何か意を決した様子で口を開いたライスシャワーの様子に読んでいた本から顔を上げて少女へと向き合うトレーナー。
最近とみにライスシャワーに少女の母親、初恋の女性を重ねる事が多くなったことにトレーナーは表情に出すことなく苦悩している中。
ライスシャワーは一瞬トレーナーが見せた表情にその内心を察しながらも、だからこそ自身の胸と瞳に炎を宿して同室の本好きな友人から受けたアドバイスを元に建てた作戦を始める。
「え、えっとね。来年のお正月に向けてのお着物のレンタルとか、見に行きたいんだけどどうかな?」
「ああ、確かにそうだね。今の時期なら混まないだろうし良い案だね、ライス」
「うん! それとね、ついでって言ったら何だけど……お祭に行く為の浴衣とか見に行きたいの、いいかな?」
意を決したライスシャワーが告げた言葉にトレーナーは読書用の眼鏡から、普段使い用の眼鏡につけかえつつ賛同を示す。
トレーナーの言葉にライスシャワーは花開いたかのような笑みを浮かべ、トレーナーの隣にいつものように座りながら浴衣も見に行きたいとおねだりし……普段我儘を言わない少女の珍しい我儘に、トレーナーは笑みを浮かべると少女の頭を優しく撫でて同意を示した。
そうと決まれば話は早いと、二人はいつものように待ち合わせの時間を決めてお出かけの準備を始めると。
最近特にライスシャワーが有名になっている事もあり、ばっちり変装を決めて中央トレセン学園の生徒達御用達のショッピングセンターへと足を運ぶのだが……。
ライスシャワーの変装は割と早い段階でバレたらしい、その理由は少女の変装が不完全であったなどと言う事ではなく。
記者会見でバッシングを受けるライスシャワーを理路整然と庇ったトレーナーの変装が不十分だったせいで、あの男の隣にいるウマ娘と言う事は……という連想からバレてしまうという、聊か片手落ちな話であった。
当初の目的である着物のレンタルの予約と、夏休み用の浴衣の予約を達成出来たのでライスシャワーとしては目的達成だったらしい。
ライスシャワーって、一度ターゲット(意味深)を決めたら全力かつじわじわと詰めて確実に目標を達成(意味深)すると思うんです。
アプリ版ストーリーでの「ついてくついてく」や、原作アニメ2期の鬼気迫る自己トレーニングでもそうでしたし。