『植物図鑑』片手に過ごす辺境伯生活※現在十六話まで改訂済 キャラ挿絵追加 作:とおりすがりのふに族団長
6年前特例で12歳での魔術アカデミーへの入学を許された少女『アイリーン』はただひたすらに戦闘力の向上を求める修羅だったらしい。
魔法の才能もさることながら、体術と絡めた1 on 1で無類の強さを誇った彼女は在学4年中3年間は魔法戦技術の部門の主席。最後の年度では総合の主席を獲得するという快挙を果たした。
アカデミー内の誰もが、王国軍か宮廷魔術師になると確信していたが、彼女は、唐突に辺境伯家に連れていかれ、後にメイドとして働くことになったという知らせに皆が驚愕したそうな。
「うわ~、我ながら良く今日まで生き永らえて来たな俺。流石はアカデミー時代『氷の鉄槌』として恐れられてたアイリーンさんや!」
殿下の近衛兵によるレフリーストップに救われて、仲間に抱えられて去って行くアルベルトさんの背中を見送りながらしみじみと呟く。
「本当っぽい嘘は止めて下さい。そんなあだ名付けられてません!!それにしてもヤな感じの方々ですね。非礼も詫びずに去って行くなんて」
「謝罪出来ないでしょあの有様じゃ・・・確かに彼の取り巻きも全員ガラ悪かったけど・・・」
スゲー睨まれたせいで誰かの陰に隠れたくなる衝動に駆られたが、よくよく考えれば、アイリーンの鬼パウンドの恐怖に比べればどうという事はないので堂々振舞う事が出来た。
「ヴァネッサちゃん好きにしても行き過ぎただろ・・・どこの世界も厄介なファンは居るもんだな」
(そんな身持ちお堅い女の子と思わなかったからな~)
「あの時は時間が無いからすぐに出発しましたけど・・・一晩あったら絶対にヴァネッサの部屋行ってましたよね」
ジト目で言ってくるアイリーンの視線が痛いけど、俺は動じずにはぐらかす。(ローキックははぐらかせないので泣きそうだけどorz)
「まぁ、恭介さんはピンと来ないでしょうけど、凄い人気なんですよ。でも気にすることもありませんよ。本人も当主も乗り気な縁談なんですから」
「あの子煩悩そうな子爵さんが乗り気!?」
「いやいや、ヴァネッサ嬢も17ですから、認めた人間が居れば即決しますよ。ちなみに父が王家との縁談の話を宣言しなければ大量の縁談が来たと思いますよ」
あれ?そう言えばメルバーン邸行った時は俺はまだ正式に就任してた訳じゃないのに、せっかち過ぎない?さらに言えば・・
「何で殿下がそんな情報をご存じなのか・・・ってまさか!?」
王国諜報部驚異の調査力なのかと戦慄する構えをとったが、殿下のため息を見るに違うらしい。
「そんな力あったら先日の一件は起きてませんよ。単純に侯爵家以上(辺境伯も含む)の婚姻には王都の貴族院でチェックが入るから聞いただけです。王都でも嘆いている人多いですから、正式な叙勲で王都来た際は気をつけてくださいね」
気を付けろと言われても・・・どうしろと言うのか。アイドルや可愛い娘にいきなり好かれるなろう系主人公に憧れた事もあったけど命の危険はノーサンキューでござる。
「叙勲を待たずに襲われたりしないだろうな俺」
「それは無いでしょう。彼らだって爵位は欲しいですから貴方を暗殺や襲撃して全部おじゃんなんてお間抜けしませんよ。きっと酒の勢いでしょう」
その後は特にトラブルも無く、夜通し宴は続いた。
「あれ?第三軍の司令官のにアイリーンさんスカウトされそうになって『彼女は私の婚約者なのでご遠慮下さい』とか言ってキスして盛り上がってのはトラブルに計上しないんですか」
うちの屋敷の連中の影響受けて『エンダァァ~!』を習得した殿下の近衛連中が喧しく歌い上げて、影響された出来上がってる騎士や街のみんなに囃し立てられたなんて事は無い。いいね?
兎も角、叙勲式が行われるのは2か月後らしいからゆっくりと『図鑑』を利用して落ち着いた実験が出来る・・・そう思ってた時期が俺にも有りました。
『何?この依頼書の山』
「あ、お帰りなさい。旦那様!これ全部植物関係で困ってる街や貴族からのお手紙だそうです。国外の貴族からのものも有ったよ♪」
赤を基調にした(多分この時代にしては珍しい)メイド服に身を包んだヴァネッサちゃんの姿と抱き着いてきた感触を楽しんだり姿にツッコミを入れる暇も無く、眼前の依頼書の山がもたらす仕事量に頭を抱える俺とアイリーンであった。