翌日。夏樹の家に呼び出された僕らは一度集まっていた。
メンバーは僕、かのん、可可さん。千砂都さんはダンスのレッスンがあるらしくお休み。
夏樹は早めに帰って準備をすると言っていたので既に家で待ち構えているだろう。
「そういえば結って夏樹くんの家に行ったことあるの?」
「いや、僕も初めて」
僕らが今いるのが池袋の中心に近い場所だ。結構人通りも多く道も入り組んでいる。物価も高い所だし、一人暮らしってわけではなさそうだ。
「どんなだと思う?」
「一軒家だな」
「アパートとかかもね」
まぁここでグダグダ言ったって始まらない。
夏樹からもらった情報によると、この角を曲がってすぐらしい。
百聞は一見にしかず。
さて、どんな家なのか……な……?
「でっ……えっココ????」
「結サン、ここであってマスか??」
「あってる……はずなんだけど……」
「すごい大きなマンション……!」
そこにあったのは大きなマンション。
俗に言うタワマン。30階くらい……か?
「と、とりあえず……入ってみる?」
「私、こういうところに入るの初めてなんどけど……」
「声震えてるぞかのん」
「結だって……!」
だって、こういうのって富裕層が住むところじゃないか。だってさぁ……そりゃ震える。
「ん?LINE?夏樹からだ。えっとなになに?…………は???????」
ナニイッテンノコイツ?
「どうしたの結?夏樹くんなんて?」
「その……『登ってきて。最上階』、だってさ……」
「さ……」「さ……」
「「「最上階ぃ!?!?」」」
チーン、とエレベーターがついた音が鳴る。
扉が開くとそこには僕らが訪ねてきた主がいた。
「待ってたよみんな〜!ようこそ!」
「夏樹お前金持ちかよ……先に言っとけ心臓に悪い……」
「まぁね〜。あ、入って」
「入って、ってお前、部屋三つあるけどどれ?」
「何処でも。全部僕のだし」
「はぁ〜っ!?」
タワマン最上階3部屋独占??
ちょっ金持ちすぎるだろ……!
「私もう無理….…帰る……!」
「しっかりしてくだサイかのんさん!」
「かのんが金持ちオーラに当てられて倒れてる!?」
僕ももう倒れそう。
「衣装作りの事だよね。こっちで話そ」
そう言った夏樹がおもむろに開けた扉に入る。
すると、
「な、何この部屋……」
「衣装でいっぱい……!」
「ここ、僕の父さんの部屋なんだ」
「夏樹のお父さん……?」
「そう。S&Tってブランド知ってる?」
「超有名ブランドだよね?」
「それのデザイナーが僕のお父さんなんだ」
えぇ〜!?どおりで金持ちなわけだ。
「ここは僕の父さんの衣装部屋なんだ。いろいろ参考にしてよ。もちろん布もあるよ」
「マジか……金銭面と衣装面の両方を一気に解決してしまった……!」
「これなら早速作り始めても良さそうデス!」
確かに材料面は揃ってるけど……。
「肝心のデザインはどうするか決めてるの?可可さん」
「モチロンデス!既にデザインは完成していマス!」
「これは……凄いくいい!夏樹!ミシンとかいろいろある!?」
「もちのロン!用意してるよ!」
「じゃあ早速作ろう!」
「ここはこうして……」「デシタラこっちの方が……」と僕と可可さんで盛り上がっているとかのんが
「あの〜……私は何をすれば……」
と聞いてきた。
「かのんさんはそこにいてくだサイ。してもらうことがありマス!」
「なに?」
「採寸デス!」
あぁ確かにしないといけないな。
「さぁ脱いでくだサイかのんさん!」
「わぁっ!?ちょっと待って可可ちゃん!まだ結たちいるから!」
唐突にかのんの服を脱がし始めた可可さん。
流石にこの場には入れなくなったので僕は夏樹と共にさらに一つ隣の部屋に逃げ込むことにした。
「アイツら……時と場所をだな……」
あやうくラッキースケベ展開になるところだった。
「ゆいちんは紳士だねぇ」
「僕は僕の身を守りたいだけだ」
「キャー!!」バチン!なんて王道展開主人公になった日には今のご時世ろくなことにならない。
あらためて部屋を見回すとさっきの一面衣装だった部屋とは違い、机や椅子、時計などが置いてあって生活感がある。
「ここはお前の部屋?」
「そうだよ。勉強したりご飯食べたりはこの部屋」
なるほど。1人にしては持て余しそうだ。1人部屋なのに僕の家のリビングぐらいある。勉強とかすると集中切れそうだ。
「へぇ〜。いろいろあるなぁ」
あらためて金持ちの家とは面白い。結構いろんな設備がある。
このデザインのインテリアとか結構珍しいのでは?
「あ、それ結構お高いから変に触って壊さない方がいいよ」
「先に言えバカッ!」
あぶねー!そりゃそうだ。金持ちの家はこうなんだ。
採寸が終わるまでじっとしてよう。
「それで、ゆいちんにとってかののんはなんなの?」
「かののん?」
またコイツ特有のあだ名人だろうけど、かのんはかののんなんだ。法則性が全くわからん。
「なんなのも何も、ただの友達だよ」
「へぇー!何処で知り合ったの?」
「路地裏で急に『ダンス教えてください!』ってせがまれた」
「それで?」
「それでって……それからはいいよってなって今になるけど」
「え、受けたの?」
「悪い?」
「悪くはないけどさ、ゆいちんってそういうの、『僕に得がない』とかいって断りそうじゃん」
ギクッ!確かにそんなこと思ったし言ったけど。
「もしかして一目惚れとかした?」
「してない」
「今は?」
「しつこいな。かのんに対しての恋愛感情は一切ない!」
「ふぅーん。つまんないの」
「可愛いとは思うけどな。いい男が見つかるのを祈るばかりだ」
「じゃあ結局、なんでお願いを受けたの?」
「…………ケジメかな」
「……….何それ」
言葉を選びに選んだ結果、夏樹に少し笑われた。
そうはいっても過去との折り合いをつけるためのケジメなんだ。
表現としてはこれ以上ない。
「あ、お茶いる?」
「頼む」
お願いすると夏樹はスタスタと冷蔵庫の方に歩いて行った。
にしても怖すぎる。この机、傷つけるだけで1万ぐらい価値下がるとかないよね?
そんなしょーもないことを考えていると、机の上の一つのものが目に留まった。
「写真立て倒れてる」
なにかの衝撃で倒れたんだろうか。
せっかくなので立ててあげる。
これは……。
「家族写真か。いいじゃん」
小学生ぐらいの夏樹が入学式と書かれた今の前で父親と母親の2人に挟まれてVサインをしている。
アイツにもこんな可愛い時期があったんだな。
「お待たせ〜。はいお茶」
「あ、ありがとう」
ちょうど戻ってきた夏樹が机の上にお茶を置く。
せっかくなので椅子に座ってそれを人すすりして一息つく。
「はぁ〜。なんにしろ、衣装面の問題を解決できたのは大きい。ありがとう夏樹」
「ううん、僕はただ部屋を貸しただけだから」
「お父さんの部屋を貸してもらっただけでも十分助かった。資金面は困ってたからな」
「うん……父さんのね」
「父さんの」そう言った夏樹の顔は少し曇った。
なにか……あるんだろか。
でもまぁ……人には知られたくないことの一つや二つあるだろう。もちろん僕にだって。
だから友達として、ここは言わない。
夏樹もタブーに触れられたくないだろう。
「かのんたち遅いな」
「そうだね」
「…………」
「…………」
「…………お茶、下げてくんない?」
「……うん」
すごい気まずい雰囲気になった。
やっぱ地雷踏んだか?
こっちのコップを回収しようと手を伸ばした夏樹はさりげなく、机の上に置いてあった写真立てを「コトッ……」と倒した。
「結サーン!ダイジョーブデスよー!」
その瞬間可可に呼ばれたので立ち上がって部屋を出る。
この痛々しい雰囲気には勝てない。
すぐ横の扉を開けて衣装部屋に入る。
「おーい。採寸終わったかぁー?」
「ハイバッチリデス!」
「そりゃよかった……」
「こちらかのんのスリーサイズになりマス!」
「ちょっと可可ちゃん!?!?」
いや何驚いてるの……採寸して、僕らが作るんだからそりゃスリーサイズ僕が教えてもらうでしょ。
「可可さんどうも。……恥ずかしがるほど?太ってはないしいいとは思うけど」
「そういう問題じゃなくて〜っ!」
「可可さんのスリーサイズは?」
「エッ?……ク、可可は自分で作りますノデ……!」
……まぁそれならそれでいいんだけど。
「可可ちゃぁ〜ん??ちょっとそれはズルくなぁ〜い???」
「ヒェッ!?かのんさん!目がコワイデス……!」
「覚悟ぉ〜っ!」
「わぁ〜っ!助けて下サーイ!」
今度はかのんが可可さんの衣装を脱がし始めたのでまた僕らは部屋を出ることにした。
衣装作り、こんなにグダってて大丈夫なのかな。