結とかのんの始まり物語   作:cinnamon

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第十二話 急転、物語は佳境へ

 

 

─────思い返せば。

幼いときは病床に伏すことが多かったように思う。

 

友達の男の子はみんな外で駆け回っているのに、僕だけは綺麗な石を探していた。

先生に不思議そうに行動の意味を聞かれて、綺麗なものを作りたいんだと答えた回数は数え切れない。

 

そのせいか昔から運動が苦手で体も弱く、すぐ病気になったりもした。

 

そんな僕を見かねた叔父さんがストリートダンスの世界へ誘ってくれて、僕は体力がついたんだったか。

 

ストーリーダンスは怖い見た目の人が一杯で、顔に刺青をしてる人を見たときは流石に心臓が止まるかと思った。

 

けどみんないい人で、「ダンスやってる人は仲間だ」って子供の僕に笑ってくれた。

怖い見た目の人は怖いわけじゃない、なんて思ったりしたんだ。

 

そんな日が数日繰り返されたある日、クラスのガキ大将が僕の机に来て、加工道具の箱を奪って「だっせー!」って言ったんだ。

 

覚えてる。忘れられない。頭が真っ白になってとにかく焦った。

悪い見た目の人はいい人だから、みんないい人のはずだ。なんでみんなそんなこと言うの?って。

むちゃくちゃな持論が崩れて考えがまとまらなくて黙っていたら、それがガキ大将の琴線に触れたのかまた怒っちゃって……。

 

 

それから……僕は────────

 

 

 

 

 

 

 

 

目覚めると知らない天井だった、という表現がある。

あれはとても的確だと思う。目が覚めてまず手に取った情報は布団の暖かさでもなく、無数の点滴でもなく、自分の位置を教えてくれる天井だった。

 

「ここは……?」

 

どうやら病院らしい。

なんで僕はこんなところに……?

 

思い出せ、最新の記憶を。確か夏樹の家に行ってアクセサリーを作るって話になって家に帰って……

 

「それで……倒れた」

 

あの事がフラッシュバックして。

 

事態を飲み込むと案外冷静になるものだ。

落ち着いて周りを見渡せば枕元にナースコールのボタンを見つけたので押しておく。

 

スマホを出そうとポケットを探るが、白い病院の衣服に着替えさせられており、スマホは見つからなかった。

ベッドの脇に置いてある目覚まし時計は15時半頃を指しているが、これは本当か定かではない。

僕が部屋にいたのは19時頃なので、これが本当ならほぼ1日寝たきりということになる。

 

そんなに重症ではないと思いたいが、病室は僕1人で大きなベッドで寝ていた。

こう言うのって大抵4人1部屋じゃないのか。

もしかして僕はそれぐらい思い病……

 

 

いやいやないないない!

 

すこしネガティブになりそうになったので頭を振って嫌な考えをかき消す。

 

暗いことばかり考えていてもしょうがない。

これからのことを考えよう。

 

そういえばかのん達にはもう連絡が来てるんだろうか?

まず倒れた僕を見つけたのはおそらく叔父さんだろう。それが朝か夜かは分からないが、どちらにせよ学校には連絡を入れていると思う。

そうなると夏樹は知ることになるから、あとは夏樹がかのんたちと連絡を取る手段を持っているかだな。

 

 

そんなことを考えると部屋の扉がガラガラと空き、40代ぐらいの看護師さんが入ってきた。

 

「起きましたか雨宮さん、おはようございます」

「おはようございます」

「意識はハッキリしていますか?なにか体に不調は?」

「意識は……多分ハッキリしてます。今が何月何日の何時か分からないので多少は混乱してますが。体の不調は寝過ぎのせいかちょっと気怠いかもです」

 

こちらの答えを「ふむふむ」と言いながらカルテ?のような紙になにかを書き連ねる看護師さん。

 

「はいありがとうございます。改めまして、東雲です」

 

この人の名前は東雲らしい。

 

「僕どれくらい寝てました?」

「丸1日ですね。昨日の20時頃、あなたの叔父さんが救急通報をされました」

 

20時……結構早い段階だったんだな。

それが命に関わるかはまだ分からないがリスクは減ったと思うと少しホッとする

 

「倒れた原因に心当たりは?」

「あー……ある……といえばあります……ね……」

 

こちらの言いにくそうな雰囲気を察したのか

 

「言えないようでしたら言える範囲でいいのでお伝えください」

 

と東雲さんは言った。

 

「その……多分、パニック障害……に、近いんだと思います。過去に……色々あって、工具が持てなくなって。昨日は克服したと思って不用意に工具を持ったら気分が悪くなって……そのまま」

 

納得したように何度か頷きながらカルテ?に筆を通す東雲さん。

その間なんとも言えない沈黙の時間が続く。

耐え切れず、

 

「あの、僕大丈夫なんですか?」

 

と聞くと、

 

「まだ断言はできませんがおそらく大丈夫です。1週間ほど検査入院はするでしょうが、特に後遺症もないみたいですし、すぐ出られますよ」

 

1週間。それなら代々木スクールアイドルフェスに間に合う。

 

あっ、でも……。

 

「衣装は……間に合わない……」

 

可可さんがいるので完成自体は出来るだろう。

けどそれは、かのん達が望んだ完成かは別だ。

 

「なんにせよ一度このまま安静にお願いします。1時間ほどすれば再検査しますのでその時にお呼びします」

「あぁ……はい」

 

かのんたちに謝らないといけないな。

あれだけ大口叩いておいてこんなザマとは。

 

「では、お大事に」

 

そんな僕の気持ちもいざ知らず、東雲さんはさっさと部屋から出て行った。

 

 

 

…………1人部屋でいると寂しいな。

安静にしている分にはこれで正しいのだけど。

なんか……凄く、心細い………。

 

 

 

「結起きたの!?」ガラッ!

「大丈夫デスか結さん!?」ドタン!

「ゆいちん僕のこと覚えてる!?」バタンッ!

 

 

あーうるさくなった。そう言うことじゃないんだ。

もっとちょうどいい感じで頼む。

あと夏樹の入院のレパートリーは記憶喪失しかないのか?

 

「3人とも病院なんだから少しは落ち着いて」

 

部屋に流れ込んできた3人の後に扉からヒョコッと顔を見せる白髪。

こういうのでいいんだよ。流石だ。

 

「うぃーす結くん。具合はどう?」

「うぃーす千砂都さん。問題ないよ。記憶もあるし体も元気」

「ホントに!?ホント!?」

「お、おう……大丈夫……かのんどうした?」

 

なんかいつもより凄く焦ってるというか……

 

「だって……アクセサリー作ってる時に倒れたんでしょ?それって……」

 

あー、かのんが言い出したから、とか後ろめたく思ってる?

 

「別にかのんのせいじゃないよ。こういうのは慣れなんだ。そのうち治って作れるようになるよ。それより、こっちこそごめん。1週間ぐらい入院しないとだから、衣装作れなくなった」

「それは大丈夫デス。原案を通して作りマス。それより目下の問題は……」

 

目下の問題?また生徒会長にでも絡まれたんだろうか。

僕がいなくなって困ること……なんかあるか?

 

「それが……」

 

小さく挙手をするように手を挙げたかのんが目を逸らして僕に一言とあることを呟いた。

 

 

 

 

 

 

「歌えないぃっ!?」

 

「うん、今日の朝、歌おうとしたんだけど声が出なくて……」

 

なんだそれ……逆戻りか……。

いや、逆戻りよりもまずいかもしれない。

なにせスクールアイドルフェスは待ってはくれない。

 

「困ったことが次から次へと……」

 

思わず頭を抱えてしまう。

 

「かのんちゃんの件はこっちでなんとかするよ。だから結くんは早く退院して」

「うん。任せた」

 

かのんの件が気になるのはやまやまだが、そもそもこの病院から出られないんじゃ仕方がない。

 

「それより曲はどうなった?出来たの?」

「それはバッチリ!」

「作ったかのん本人がいうなら大丈夫だな。千砂都さん、ダンスは?」

「間に合うと思う。一位だって実力的には取れるくらいには仕上げるよ」

 

と言うことはあとは衣装とかのんの歌だけだ。

なんとかなると信じて僕はここで安静にしておくしか無い。

 

「雨宮さ〜ん」

 

扉を開けて入ってきた東雲さんはなにか白いカゴを持っていた。

少しするとかのん達に気づき、軽く会釈をしてからこちらを向き直して

 

「30分後、再検査を始めます。ご衣装はそのままでよろしいですので30分後に扉を出て左の突き当たりの部屋にお入りください」

 

と言いながら白いカゴを僕の近くに置いた。

 

「こちら私物になります。なにか足りないものがあったら言ってくださいね」

 

確かに中身を見ると僕のスマホやら携帯してる鍵など結構いろんなものが入っていた。

 

 

僕が籠の中身を確認するのをみた東雲さんは「失礼します」と一礼をして出て行った。

 

「あんまりいると迷惑になっちゃうね。私たちはもう帰るからゆっくりしててよ」

 

潮時だと言わんばかりにかのんさんが荷物をまとめ始める。

 

センターが決まっていない分、ダンスでみんなを纏めている千砂都さんがよく仕切る。

 

「ごめん、お邪魔しちゃったね。またくるね」

「覚えてろヨ!」

「可可ちゃんそれ使い方間違ってる。別れの挨拶じゃないから……またね結」

「宿題は毎日持ってくるからね〜っ!またねっ!」

 

……最後まで騒がしいが、扉が閉められるとその声がピタッとやみ再び静寂が訪れる。

 

全く……元気な奴らだ。お陰でちょっと。ほんのちょっとだけ、元気が出た。

 

 

「さて、30分後か。何をしようかな」

 

誰にいうわけでもなく、静寂を破るために大きく独り言をいう。

 

その瞬間。

 

 

ガラッ!

 

病室の扉が開いた。

 

「…………かのん?」

 

 

 

 

 

 

「話したいことがあるの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、4月29日金曜日
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