結とかのんの始まり物語   作:cinnamon

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第十三話 キミは1人じゃない

 

「またねっ!」

 

そう言ってゆいちんの病室から出た僕たちは廊下を並んで歩いていた。

 

もう、ゆいちんが倒れたって聞いた時は心臓が止まるかと思ったけど、無事そうで正直安心しちゃった。

 

「結サン、思ったより元気でよかったデスね」

「それね〜。もしかしたら寝たきりじゃないかとか本気で思ったもん」

「それはちょっと言い過ぎじゃない?」

 

じゃないじゃない。実際、先生から聞いたときはHR抜け出そうとしてすごく怒られちゃったもん。

 

「ゆいちんもゆいちんで、疲れがたまってたのかな」

「うん……」

 

なんかかののん、浮かない顔。

 

「どしたのかののん?」

「ううん、なんでもない」

 

首を横に振ってぎこちない笑顔を浮かべるかののん。

これはゆいちんのことかなー?

 

「率直に聞くけどかののんってさー」

「な、なに……?」

「ゆいちんのこと、好きだったりする?」

「なっななななななな何言ってるの!?」

「好き、ラブ、月が綺麗、伴侶になりたい」

「いいからそんなに詳しく言わなくて!」

「ナツキナツキ、月がキレイとは?」

「んー?我愛你ってことだよ、クーちゃん」

「あ、やっぱりかのんちゃんってそうなの?」

「さぁー?ちさとんはどう思う?」

「かのんちゃんが手の届かない存在になるようで……シクシク」

「まって色々言いたいことある!」

 

すごい目つきで次々ツッコむかののんをまぁまぁとちさとんがなだめる。

 

 

「で、どうなの?好きなの?」

「それは……ない、と思う」

「言い切らないんだ」

 

意外だ。女の子っていうのは自身の恋愛感情に聡いところがある。特にかののんのような鋭い子は。

 

「結に普通以上の想いはあるんだけど、それは好きとは違くて……なんていうか……私を見てるみたいな……」

 

ふーん、なるほど。恋愛感情とは違う何かね。

なるほど、ちさとんはこの子をゆいちんに任せたのか。

なんていうか……ちさとんらしいや。

よーし、なら僕も余計なお世話しちゃおっかなぁー!

 

「かののんはさ、歌すき?」

「え?まぁ……うん」

「ゆいちんも同じぐらいアクセサリーが好きなんだよ。休み時間に遊びに行ったらしょっちゅう新しいアクセに気付いてその話ばっかり」

 

なんの話と首を傾げるかののんたち。

 

 

「好きなものに拒否されるのって、どんな気持ちなんだろうね」

 

 

その一言で、ハッと空気が張り詰めた。

僕には分からない。そんな経験がないから。

僕は恵まれた世界にいる。

きっと、僕の慰めはゆいちんへの侮辱になるだろう。

 

──でもたった1人、似たような経験を持つ子がいる。

 

「わたし、行ってくる」

「行くって……どこにデスか?」

「結のところ」

「かのんちゃん、今言ったら結くん傷つくかも……」

「ううん。いまだから行かないと。私きっと後悔する」

 

意思を固めた彼女の視線は、既にゆいちんの病室を目指してた。

 

「おっけー!僕らは先に帰っておくから、ゆっくり話しておいで!」

「ありがとう!行ってくる!」

 

いよいよ我慢できなくなった体が駆け出すように向かうかのんの姿を後ろ目に

 

「行かせてよいのデスかナツキ」

「なにが?」

「かのんちゃんを向かわせたら、きっと結くん、また心の傷が開くと思うよ」

「大丈夫だよ」

 

隠すにしろさらけ出すにしろ、それをするエネルギーをかのんに対して使うゆいちんはきっとしんどいだろう。

 

でも、それを含めて僕はゆいちんを信じることにした。

 

いや、ゆいちんと、かののんを信じることにした。

 

千砂都さん風にいうなら、

 

「『任せた』から……かな」

 

ゆいちんと同じように、ね。

 

「さぁーて、僕らは帰ろうか」

 

ふらっと踵を返すと、目の前に人影が見えて足が止まる。

 

隣の2人もそれに気づいて動きが止まる。

 

なんで……ここに……キミが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「話したいことがあるの」

 

そう言って入ってきたかのんは肩で息をしていてまるで走った後のような……。

 

「なに?もしかして代々木スクールアイドルフェスって学生が引率じゃダメだった?」

 

思い当たる節をとりあえず言ってみるも、かのんは無言で重ねてある丸椅子をだし、僕のベッドの横に置いて座った。

 

まるで長話をするかのように。

 

「あの〜かのん?」

「なんで」

「ん?」

「なんでアクセサリー作り、やめちゃったの?」

「だからそれはいじめが原因で」

「違う」

 

ピン、と緊張の糸が張る。

覚悟を決めたようなかのんはポツリポツリと喋り始める。

 

「おかしいなって思ってたの。私に好きなことはやめられないってずっと言ってるのに、自分はあっさり辞めちゃって。あるんだよね、別の理由」

「それ……は……」

「話してほしい」

 

真っ直ぐ目を見つめられ思わず顔を逸らす。

そんなことを構うもんかとかのんは変わらずこっちを見つめ視線で訴えかけてくる。

 

……かのんは眩しい。星のように輝いていて、常に前を向ける。

けど、僕は違う。

違うんだ。

かのんにはなれない。

前は向いてはいけない。

僕がするのは、するべきなのは、贖罪なんだ。

アクセサリーを作れるって浮かれて罰が当たったんだ。

そんなことも分かんないかのんが、話してくれ?

舐めるな。

 

舐めるんじゃない。

 

「……なんになるんだ」

「え?」

「言ったらなんになるんだよ!!!!!!」

 

かのんがすこしのけぞる。

僕は今、多分すごい剣幕をしている。

でもだからって、制御できない。

だって、今僕は、すごく怒っている。

 

「こっちの事情も知らないで話してみろ!?人の領域に土足で踏み込むんじゃねェッ!」

「…………ッ!イヤだ!意地でも話してもらうから!」

「そもそもかのんには関係ねェだろ!」

「ある!友達でしょ!話してよ!」

「友達だから話せねェことだってある!全部正直に言えてりゃ、楽だろうよ!」

 

安静に。そんなことも忘れてベッドから立ち上がろうとする。

 

もう実力行使しかない。

ここでかのんとの縁は終わりだ。

 

無理矢理にでも出て行ってもら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう思ってるじゃん!!!!」

 

 

 

 

 

 

これまで見たことのないくらいに張ったかのんの一声は、一瞬にしてこの病室の時を止めた。

 

 

「正直に言えたら楽って思ってるんでしょ!?でも、私たちに負荷をかけないように言わないって、そんなのズルイよ!!!!」

 

彼女の目尻には涙が浮かんでいた。

 

 

「ありがとうって言われなきゃ不安だし、任せたって言われたら頑張れる!歌えた時だってあの時キミが当たり前だって言わなかったら歌えてなかった!」

 

悲痛に叫ぶ彼女の顔は涙でぐしゃぐしゃで……

 

「話してよ!言葉にしないと分かんないよ!!!結が何思ってるかも、何があったのかも、一緒に背負いたいよ!!!」

 

情けなくて……

 

「友達でしょ!!!!!?????」

 

真っ直ぐで

 

 

 

 

 

だから胸を打たれた。

 

「う…………ぁ………ぁ…………あああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

涙が止まらなかった。

ずっと一人でもっていた積荷を下ろしていいよって言われた。

 

僕は……この罪を背負い続けて……

 

「大丈夫。辛かったよね。また、ここから始めよう。今度は、ちゃんと、2人で。みんなで」

 

そうだ────僕は1人じゃないんだ────!

 

 

 

 

 

涙が2人とも収まった後、僕はポツポツと話し始めた。

それは僕の過去。

暗い暗い、僕の罪。

 

「……僕が中学2年生の頃の話をしよう」

 

 

 




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