結とかのんの始まり物語   作:cinnamon

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第十五話 葉月恋という女の子

 

 

「初めまして。結ヶ丘女子高等学校で生徒会長を務めています。葉月恋です」

 

葉月恋───!!

かのん達から話は聞いている。

スクールアイドル部を認めない敵とも言える相手。

そんな奴が一体なにを……!!

 

「こちらをどうぞ。つまらないものですが」

「……これは……?」

「菓子折りです。そこまで良いものではありませんが……」

 

菓子……折り……??

 

「え、えっとぉ……お見舞い、ってこと……ですか?」

「はい」

「え、僕らどっかであいました?」

 

僕は彼女のことを知っているが彼女は僕のことを知らないはずだ。知らない僕のお見舞いなんて来るはずがない。何処かで僕を知る機会があったのか疑う。

 

「……もしかして忘れていたのですか?本日は結ヶ丘と紬ヶ河の生徒会の交流会です」

「…………あ」

 

思い出した。たしか姉妹校である結ヶ丘と紬ヶ河の生徒会の交流会。丸一日寝ていたからすっぽかしたってことになるのか。前まで敵情視察だのなんだの息巻いていたが、忘れてしまっていた。

 

「生徒会長として、すべての方に挨拶はしましたが、聞けばそちらの新一年生が欠席しているというので、お見舞いに来たのです」

「あー、それは……どうも」

 

なんていうか、すごい律儀だ。

普通他校の生徒会長でもないただのいちメンバーにそこまでするか?と疑ってしまう。

 

かのんから聞いてた意地悪なイメージとは違うような……。

 

「それで澁谷さんはどうして此方に」

「えっ!?あっ、あ〜!友達なの。この人と」

 

急に話を振られたかのんがしどろもどろに答える。

 

「はぁ……」

「どうも。紬ヶ河1年生徒会、雨宮結です。よろしくお願いします」

 

かのんとの間に不穏そうな空気が流れそうになったので流れを切って強引に自己紹介すると葉月さんは周りをキョロキョロと見回す。

 

「あの……もう1人の一年生は……?」

「あれ、もう1人は交流会行ってませんでした?」

 

夏樹が行っていないことに驚くと、かのんが耳元で

 

「夏樹くん、学校が終わった途端に私達にここに来るよう言ったから、多分結のことで頭がいっぱいで忘れてたんだと思う」

 

と補足した。

僕のことを思ってくれたのは嬉しいけど、それで人様との約束をすっぽかすとはなかなかいただけない。あとでしっかり怒るとして、僕は葉月さんに頭を下げる。

 

「ごめんなさい、アイツは……その、元気というか……時雨夏樹って言うんですけど……」

 

申し訳なさそうに戦犯の名前を言うと彼女の顔が固まった。

 

「夏樹……?」

「……ご存知なんですか?」

「えぇ……まぁ。先ほど廊下でお会いしました」

 

まぁ確かにどちらも目的地はこの病室なんだ。

すれ違うのは当たり前だ。

どこかのタイミングで名前を知る機会があったなら顔ぐらい覚えているだろう。

 

「にしても1年生で生徒会長とは凄いですね」

「いえ、そういうわけではありません」

「結、私たちの学校はこの春からできた新設校なんだよ。だから1年生しかいないの」

 

おっと。そうだった。

 

「新設校ということは色々大変でしょう?……部活の新設とか」

 

突如刀を剥いた僕にかのんが驚いて目を見開く。

もともと敵情視察のつもりだったんだ。それが今になっただけの話だ。

 

葉月さんは僕の発言に少し動揺したが、すぐさまポーカーフェイスに戻って

 

「勿論です。特に音楽に関するものにはレベルの高いものを期待しています」

 

とかのんをチラリと見て言った。

釘を刺されたかのんはたじろいでしまう。

 

へぇ……思ったより敵意あるじゃん。

怯えず僕の刀に鍔迫り合いを仕掛けてくるのには驚いた。

それだけの強い思いは認める。

認めるが……

 

「じゃあ楽しみですね。1週間後」

「1週間後?」

「代々木スクールアイドルフェス」

 

だからって引くわけにはいかない。

 

「もしかしたら結ヶ丘が優勝するかもですね」

「……ウチにスクールアイドル部はありませんが」

「それは残念です。でも僕は万が一を感じてますから」

 

万が一、出来立てのスクールアイドル部が優勝する可能性をね。

 

「…………本日の要件は以上です。お体に気をつけてください」

 

宣戦布告をしたにもかかわらず葉月さんは思った以上に落ち着いていて病室を出て行った。

 

ピシャリとドアが締め切った音がなったと同時、張り詰めた緊張の糸が緩む。

 

「いいの?あんなこと言って。生徒会の付き合いでしょ?」

「いいよ別に。かのん達を否定される方が腹が立つ」

 

僕ちょっとアイツ嫌いかもしれない。

なんか……嫌だ。

かのんを否定されたからとか、喧嘩を買われたからとかそういうのじゃなくて生理的にというか……!

見ててムカムカするというか……!!

 

「……結ってさ」

「ん?」

「似てるよね。葉月さんに」

「はぁ!?」

 

どこが!?!?

 

「雰囲気というか……」

「俺むしろアイツ嫌い」

「ふふっ、同族嫌悪ってやつ?」

「かのんさぁ〜!」

 

僕と!アイツの!何処が同族なんだよ!

 

「雨宮さーん、診察のお時間です」

 

おっと、30分。意外と早かったな。

扉の外から聞こえた声に「はい!」と返事だけしてベッドから起き上がる。

 

「この話は後。ひとまず練習頑張って」

「うん。結くんも安静にね」

 

僕はかのんと別れて診察室に向かった────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん、明日退院でいいよ」

「えっ、明日?」

 

診察室で特に凄い診察を受けたわけでもなく、いくつか質問されたあと、衝撃の言葉を告げられた。

 

「話では1週間の検査入院と聞いたんですが……」

「最初はそのつもりだったんだけどね。見たところ大きな後遺症もない。君が倒れた理由はパニック障害に近い。いわば心の病気だ。だから1週間ほどメンタルのケアをしようと思っていたのだが……表情が柔らかいのでな。なにかいいことでもあったのかい?いい顔をしているけど」

 

それは……多分、かのんのことだろう。

過去のことを話して楽になったから。

 

「なんにせよ君はメンタルのケアが必要なさそうだから明日にでも退院していいよ。勿論君がもう少しここにいたいというなら病室はあけよう」

「いえ、明日で大丈夫です!!」

「うんうん、元気があって何よりだ。だが一つ約束してくれ」

「え?あ、はい」

「また同じことをしないでくれ」

 

同じこと……?

 

「君の話では……工具を握る、だったかな?もう一度トラウマに触れないでほしい」

「なんでですか?僕はもう大丈夫だと思いますけど」

「心っていうのは本人が思う以上に弱い。君が克服したと思っていてもまた発症する可能性も十分ある。それに加えて問題は君の体だ」

 

体?さっき特に後遺症もないし、心の病気だと言ったと思ったが。

 

「後遺症のようなものはないが、吐いて倒れたというのは疲労として溜まっていて1日寝るだけじゃ治らない。その状態で再度倒れたら今度は今以上に危険なんだ」

 

なるほど……ってことは……

 

「勿論、疲れが取れたなら、トラウマの克服に再チャレンジしてもいい。大体1ヶ月ほど空けてくれると私としても安心かな」

 

体が回復するまで……1ヶ月。どっちにしろ今回はアクセサリー作りは断念するしかないか……

 

「ふふっ」

「えっ、どうしました?」

「いやね、初めてなんだよ。こういう検査でそんなに目を輝かさせる人は。みんな過去のことを思い出して暗くなるからさ」

 

過去のこと……あぁそれなら、

 

 

「僕にはいい友達がいるんで」

 

「…………だろうね」

 

ドンと胸を張った僕に先生はクスリと笑った。

 

「何があったか、また聞かせてくれるかな?」

「あぁそれなら代々木スクールアイドルフェスに来てくれませんか?」

「スクールアイドルフェス?」

「えぇ」

 

 

 

 

「一発、友達がかましてくるんで!」

 

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