結とかのんの始まり物語   作:cinnamon

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第十七話 クーカー

 

 

「そんなに簡単に歌えたら今までだって苦労はしてないよ〜」

 

ベッドに倒れこむようにぐったりと腰を落とすかのん。

 

結局あれから僕らはさまざまな策を講じたがかのんが歌えることはなく、いつもの家に戻ってきたのだった。

 

「フェスも近いし、ゆっくりはしていられないのは確かだ。どうしたものか……」

「もうわたしはダメなんだ〜ごめん可可ちゃ〜ん」

 

泣きべそを掻きながら投げやりにかのんが放つ。

 

どれだけダメージを負っているんだ。

 

「かのんサンは絶対歌えマス!その瞬間を可可は見てマシタ!」

「たまたまだよ。今の姿が本当の私なんだよ……きっと」

 

だとしたらみっともなさすぎるだろ。

涙目でやさぐれてる姿が本当のかのんでいいのか。

 

「クヨクヨしないでクダサイ!かのんさんが居てくれたから可可は今、頑張れているんデス!」

「可可ちゃん……」

 

さすが可可さん。良いことを言う。

 

「でも、一度は歌えのにまた戻ったんだよ?どうしたらいいか……」

 

それは……まぁ分かる。

僕も克服したと思ってアクセサリーを作ろうとしたらあのザマだ。

かのんがいなかったら塞ぎ込んでいたかもしれない。

 

それだけトラウマというものは扱いが難しい。

 

「分かりマシタ。では今は無理に歌おうとするのは辞めまショウ。今回のライブは可可が1人で歌いマス」

 

……は?

 

「かのんサンほどの歌唱力はありまセンが、だからかのんサンはステージに立つだけでいいんデス。一緒に全力のライブをしまショウ。それが終わったら再び歌えるよう頑張ればいいんデス」

 

……参ったな。

彼女は……可可さんは僕の思ってる以上に強い。

自分の立場を理解して、どう立ち回るべきなのか分かっている。

現状から逃げるわけでもなく、ただひたすらに前向きに、でも楽観的にではなく、それでも希望を持って挑戦をする。

 

それはなかなかに出来るものじゃない。

特に僕らのような、過去の失敗に呪われているものには。

 

「可可、約束しまシタ。かのんサンが歌える様になるまで、諦めないっテ」

 

自分にも他人にも厳しく。

彼女の優しさは甘やかしではない。

転んだ相手には手は差し伸べるが、あくまで相手の足で立たせる。そんな姿に、かのんは惹かれたんだと思う。

 

……正直、今の言葉は僕にも思うところがあって可可さんを見直した。

 

「ほら、可可さんがここまで言ってるんだから。やるしかないぞ、かのん」

 

挑発的にベッドで座っているかのんを見下ろす。

すると彼女は意を決した様に立ち上がった。

 

「…………そうだよね。まずは2人で1位取らなきゃだもん。いいライブが出来るように頑張る!」

「ハイ!そうと決まれば、可可、皆さんに見せたいものがありマス!」

 

見せたいもの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジャッジャ〜ン!!!」

 

……なにこれ。

Kuu……Kaa……と書かれた……看板?

 

「……なに……これ……?」

「初ライブを行うにあたって用意したグループ名付きの看板とブレードデスぅぅ!」

 

いやあるけど。そう言うのってもっと知名度出てからやるもんだから。

 

「ブレードってファンが持つものなんじゃあ……」

「配りたいと思いマス!私達を応援してくれそうな方達に!」

 

それ賄賂とか投票推進とかで規則違反にならない?大丈夫?

 

「このクーカーっていうのは……?」

「可可が考えたグループ名デス!可可のクゥと、かのんさんのカーを合わせてクーカーァァァァ!」

「どうだろ……」

「僕はイケてると思うけどなぁ。クーカー。覚えやすいじゃん」

 

だとしたら夏樹、お前のセンスの方が問題だ。

安直すぎる。

親子丼が鶏肉卵丼とかで許されると思ってるのか。

 

「でもトレーニングの合間にこんなもの作るなんて!」

「好きデスノデ!」

「看板はちょっと考えようか……」

「えっ、持っていかないの?何とかするよ?」

「夏樹はちょっと黙ってろ」

 

夏樹の頭を押さえて叱ると3人があははと笑い出す。

 

「だってあのステージで踊るんでしょ?看板のひとつやふたつ!」

 

夏樹の声に合わせてステージを見る。

桜の花びらが風に押されて頬を撫でる。

 

「……ここで、ライブするんだ……!」

「改めてみると圧巻だな。満席となると観客は相当多くなるぞ」

「全部で10グループぐらい参加するみたいデス」

 

10グループ。

その中で……

 

「……その中で、1位、か」

 

かのんが呟く。

僕はその言葉の意味を図りかねた。

不安や期待と言っていいのだろうか。

彼女の気持ちがこもったその呟きは、コレから始まる物語に対しての挑戦の意思だったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

「うぃっす!」

「「「「うぃっす!」」」」

「「「「「うぃ〜っす!」」」」

「ではまたアシタ」

「バイバ〜イ!」

「じゃあな。夏樹明日の課題わすれんなよ」

「またね〜!もち忘れないから任せて〜」

 

かのんを中心にそれぞれが帰路につく。

僕の帰路は誰にも被ってないから1人寂しく帰るわけだ。

別に嫌ってわけでもないが、友達と別れた後の帰り道はなんとなく寂しいものだ。

ずっと一緒ってわけにはいかないから、仕方はないが。

 

コンビニで晩飯買って帰るかぁ……。

 

「ええっサニパが!?」「嘘!」

 

ん?あそこの女子高生サニパって言った?

サニパっていうとアレだよね。

可可さんがいつも言ってるサニーパッション。

僕が1番最初に見たスクールアイドル。

 

思い出すだけで鳥肌が立つ。

電光掲示板であの日見た彼女たちの圧倒的パフォーマンス。

流石は東京代表格だ。

 

「かのんサァ〜〜〜ン!」

 

その時、後ろから可可さんの声が聞こえた。

……なんかあったのか。

 

僕は踵を返して帰路を逆走した。

間も無くすると同じように帰ってきた夏樹と会いながらもかのんが見えた。

そしてそこにはとっくに帰ったはずの可可さんと千砂都さんがいた。

 

「どうしたのちさとんもクーちゃんもそんなに焦って?」

 

夏樹が問いかけると肩で息をする可可さんに変わって今話を聞いたと思われるかのんが、自分でも信じられないような顔で一言。

 

「サニーパッションが……」

 

サニパが?

 

「私達のフェスに……!」

 

…………え?

 

ええええええええええええええええええっ!?

 




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