「ハァ〜〜尊い………!!」
ハハ〜ッ!と将軍顔負けの綺麗な土下座をする可可さん。
その先にはとても大きな、僕の足先から首ぐらいまであるんじゃないかというような大きな額縁にサニーパッションのポスターが飾ってあった。
というわけでここは可可さんの家。サニーパッションのことを語るならここしかない。
「すごいクーちゃん!このポスターってあの数量限定のやつでしょ!?持ってる人初めて見た!!」
「そういえば夏樹もサニパファンだったか」
「クーちゃんほどではないけどね〜」
「そんなに凄いの?そのサニーパッションっていうの」
千砂都さんの何気ない一言に可可さんと夏樹は首をものすごいスピードで反転させた。
そして一瞬にして詰め寄り
「いやいやいや!サニパを知らないなんてあり得ないよ!彼女たちのステージは圧巻!次のラブライブ優勝候補とまで言われてる神津島が産んだスクールアイドル!」
「そもそも可可が日本に来ようと思ったノモ、この方々のライブを見たからなのデス!」
つまりは憧れの壁ってわけか。
僕が最初に見た時は渋谷の巨大スクリーンだったな。
それに映れるくらいの実力があるということは確かだ。
「このグループが2人の出るフェスに?」
「急遽参加デス!あぁ〜っサニパ様と一緒のステージに立てるなんて……!」
完全に浮かれている可可さん。
思わず僕らは顔を見合わす。
気づいてないのか?
「ま、百聞は一見っていうし、実際に見てみよ!」
夏樹は鞄からノートパソコンを取り出して素早く動画サイトを立ち上げる。
僕らは肩を並べてその前に触った。
……………………………………………………………………………………。
これは……。
「流石去年の東京代表……!レベルが違う……!!」
千砂都さんの言う通り、一見してわかる練度の違い。思わず悪態が出てしまいそうになる。
「この人たちが参加しちゃったら一位はきっと……!」
「トウゼンデス!今回程度のフェスであれば、一位は絶対にサニパ!…………?」
あ、やっと気付いた。
「可可とかのんさんがスクールアイドルを続けるためには……!!??」
「フェスで、一位を取らなきゃ、だよ?」
うわぁ!?可可さんがこの世の終わりみたいな表情を浮かべてる!?
「アアアアアア〜〜〜〜〜ッ!」
「……いま?」
「やっと気付いたんだ……」
「限界オタクちゃんさぁ……」
全員苦笑いだ。
「勝てる気がしないデスゥ〜〜!!」
言っちゃったよ!!
闘うの君たちだよ!?
「どうしまショウ……?」
「ライブまであと5日、いまから練習をハードにすればいいってわけでもないだろうし……。それに、可可ちゃんが全部歌うようにしないとだもんね……」
衣装作りは僕が多少負担してやれるとしても、可可さんの練習量はそれでも多い。
これ以上彼女に頑張らせるわけにはいかない。
「…………ごめん」
かのんが謝る。
「大丈夫デス。かのんサンのフォローは出来マス!見ててくだサイ!」
可可さんは突然その場に座って「イチ……ニーィ……」と腹筋を始めた。
へぇ……これは……!
「凄いな。最初に比べたら凄い進歩だ」
「えぇ!?まだ2桁いってないけど!?」
なんだよ夏樹、知らなかったのか。
「お前一緒にランニングとかしないもんな〜。可可さんの最初はそりゃ酷かったよ……。一桁でもう死にそうな顔して肩で息してるし……」
「よっわ!!!!!!」
多分可可さんはナイフとフォークよりも重いものを持ったことがないのだろう。
そんな冗談が本気に思えるほど弱かった彼女は、いまやこんなに成長した。
「本当、みちがえたよ」
「毎日やっていたら結構出来るようにナリマシタ!この調子で続けていれば、ライブの時にはキット、何もかもカンペキになっていマス!」
どこまで前向きでどこまでも楽観的で、それでいても現実から目を背けない。
可可さんは強い。
頑張る彼女を見るたびに、そう思ってしまう。
「じゃあ私は帰ろ」
え?千砂都さん?
なんで唐突に……?
……あぁそうか。
「じゃあ僕も帰ろ。もう遅いし。夏樹、一緒に帰るぞ」
「ほえ?いや僕はもうちょい」
「察しろバカ。可可さんとかのんの2人でしか話せないこともあるだろうよ」
そんなことを耳打ちすると夏樹も気づいたように手をたたいて「あー!じゃあかーえろっ!」とドアの方へ向かう。
かのんたちへは千砂都さんが「ステージに立つのは君たちなんだから」と説明しているので分かってくれるだろう。
「じゃあね」
「また明日」
「バイバーイ!」
ギギッ、とドアがしまる。
「というかボクとゆいちん帰る方向逆じゃん!一緒に帰ろはなくない!?」
「確かに。まぁ細かいことはいいだろ」
階段を降りながら夏樹をなだめていると階段の上、僕らの後ろから
「千砂都サン!」
と呼び止める声がした。
振り返ると可可さんがこちらを見下ろしていた。
「どうしたの?」
「あの……こんなこと、急にいうのは変だと分かっているのデスが……千砂都サンは……スクールアイドルに興味ありまセンカ?」
勧誘?サニーパッションが出るとなったら、やっぱり強力な戦力増加を……っていや、可可さんはそこまで策士じゃないな。
これは普通に、おせっかいだろうな。
「……あるよ」
「……!!ホントデスカ!?」
……!?へぇ、意外だ。
てっきり千砂都さんはダンス一筋だと思っていた。
「でも」
とその後すぐに千砂都さんは続ける。
「私にはダンスがあるの。ダンスで結果を出すことが、今の私の1番の目標。掛け持ちできるほど……余裕はないんだ」
スポーツマンなら納得せざるを得ない。
そんな感想だった。
2つのことを完璧に、なんて、どんな超人でも無理だ。
千砂都さんの感想はとてもただしい。
「かのんちゃんも真剣だし、生半可な気持ちではやれない。……ごめん」
「イエ、こちらこそ千砂都サンが加入してくれたら、かのんサンすごく喜ぶかと思いまして……」
落胆する可可さんに千砂都さんは「ありがと」とだけ言い残して階段を降りた。
僕らはその後に続くことしか出来なかった。
「僕だけ逆方向で1人……悲しいよぉ〜!」
「ハイハイ、どうせ明日会うだろ。迎えに行ってやれるからさっさと帰れ」
少し歩くと交差点になり逆方向の夏樹と別れることになった。
「じゃあね夏樹」
「ちさとんも絶対迎えに来てね!?」
「お前はガキか。いいからはよ行け。信号変わるぞ」
夏樹の背中を押してやると手を振ってしぶしぶ離れる夏樹だった。
「結くん、わたしたちも」
「あぁうん。信号変わるもんな」
千砂都さんに急かされて横断歩道を隣になって歩きだす。
「にしても千砂都さんはダンス一筋だと思ってたからスクールアイドルに興味あるってきいて驚いた」
「え〜そう?」
茶化すように微笑む千砂都さん。
「そういえば夏樹とは同じダンス教室にいたんだっけ」
「小学校の頃だけどね」
「へぇ〜ってなると結構続けてるんだ。始めた原因とかあるの?」
「……それは……」
急にどもり始める。
あ、あれ?なんか言っちゃったか?
「平たくいうと、かのんちゃんに勧められたんだ」
「なるほど。幼馴染の絆ってやつか」
「それは言い過ぎだよ」
もう、笑ってこちらを小突いてくる。
そんなことはないと思うけど。
「かのんに勧められただけでそこまで熱中するなんて……やっぱり絆じゃないか?」
「……かもね」
意外にも2回目の茶化しには少し間こそ空いたものの千砂都さんは頷いてくれた。
「それに……」
と今度は逆に、千砂都さんは真剣な表情を浮かべた。
それに……なんだ?
「かのんちゃんって可愛いじゃない?」
「え?あ、おう。そ、そうだな」
「可愛いかのんちゃんのためなら頑張れるんだよね〜」
あ、あれ?千砂都さんってこんなキャラだったか?
「結くんも今日のかのんちゃん可愛かったでしょ?」
今日の……?あぁ、そういえば昼に歌えるようにするとか言って衣装屋に転がり込んだな。
タキシード来たの忘れてた。
「まぁ可愛かったけどさ」
「どの辺が!?」
「うわっ!?」
千砂都さんにしては珍しく手を後ろに回して顔を目と鼻の先のような距離まで近づけてきた。
千砂都さんこんな積極的だったっけ!?
「どの辺がって……全体的に……?」
「もっと具体的に!」
「ええっ!?……その、かのんがあぁいうフリルとかの可愛い系を着るのは初めて見たからそのギャップが良かった……とか……」
「うんうん、それで?」
「肩とかが出てるのが正直露出多くて好きだったとか……これは本人には秘密だけど」
「うんうん」
「まずかのんは大前提にスタイルと顔がいいから何着てもいいと思うけど……」
って何言ってるんだ僕は。
これじゃ千砂都さんのペースに….
『ピッ!』
……ピッ?
「いまの何の音?」
「よし」
後ろに回していた手を解いてスマホを出す千砂都さん。
…………あっ!
「もしかして録音してた!?」
「かのんちゃんに送ろ〜っと!」
「おいコラ!!消せ!今すぐ消せ!!」
「やだよ〜っ!」
猛ダッシュで人混みを駆け抜ける千砂都さんを僕は追いかけた。
後日談、というかオチ。
結局スポーツマンとの走力の差は歴然で僕は千砂都さんに逃げ切られた。
その夜、僕には2件のラインが来た。
1つはかのんからの「ありがと」という短くもしっかり照れが伝わる、何が起きたかわかるもの。
ホントに送ったのかよ!と千砂都さんのラインをひらくと2つ目、上目遣いやセクシーポーズを決めた昼の可愛い衣装を来たかのんの写真が数件送られてきたのに気付いた。
僕はその写真の処理に散々迷った挙句、保存しておくことにした。
かのんのラインには「ありがと」という一文を添えて。
次回、5/16月曜日19時