「雨宮、雨宮結くん」
「……はい?先生?」
入学式も何事もなく終わり、直後のHRも特になにもなく、自己紹介すらないまま今日は解散、下校。
そんなことを先生に言われ、14時という学校にしては早い時間に帰ろうと下駄箱までの廊下を歩いていると後ろから呼び止められた。
「キミ、髪は地毛?」
「……?はい」
「あぁそうか。すまんね、茶髪だから染めてるのかと」
「あーなるほど。母方が外国人なので少し茶髪混じりなんですよ」
この学校では髪染めは校則違反。
入学早々、校則違反するはずもないが、念のために声をかけたのだろう。
僕がハーフだと知った先生は納得したように数度頷いて
「へぇー、だからそんなに背も長いんだねぇ。今いくつ?」
「えっと、ひゃくななじゅう……6か5だと」
「ハーフいいな。モテるだろう」
「えぇ、まぁ……」
モテる……のだろうか?
顔は整っている方だと自覚はしているが、別に身だしなみに気をつけたことはないし、告白だって受けたことはない。
なんとも返事に困る微妙な反応をしていると先生は僕の方に手を置いて
「学校の地毛登録はしておきな」
といって立ち去った。
トラブルを避けるため、あらかじめ地毛の色を報告しておくことだったか。仕方ない、行っておこう。どこの教室だったか。
案外早く終わるかと思った地毛登録だが、その後先生から明日配る書類の整理を手伝ってくれと言われて帰る頃には17時と普通の高校と同じぐらいになっていた。
社会人も帰宅している人がチラホラみられ、三角交差点で立ち止まれば、横のスーツを着たおじさんが正面のビルのスクリーンを凝視していた。
せっかくなので僕も視線を移すとそこには橙色と紺色の髪の二人組の少女が踊っていた。
「サニーパッション……」
今話題沸騰中のスクールアイドル。その人気の秘訣とは。
とスクリーン端の文字を目でなぞる。
どうやらスクールアイドルの一線級を入るコンビらしい。
僕はスクールアイドルをよく知らないが、ストリートダンスの経験からすれば、2人のパフォーマンスの凄さがよくわかる。
こんなの、遊びでやってる人が行き着くレベルじゃない。
僕でもギリギリ再現できるかどうか……。
(どうだ、久々にストリートダンスするか)
朝の叔父さんの言葉が頭をよぎる。
──出来るだろうか?今の僕に。これが。
気になってしまった。
体が今にも踊りたいと思うような高揚感に満ちている。
何かの縁だ。
そう思って僕は近くの人がいない路地裏に転がり込んだ。
そしてスマホを使って動画アプリを開く。
念のために持っておいたワイヤレスヘッドフォンを鞄から出し、装着する。
あのチームの名前は確か……。
「サニーパッション……曲……『HOT PASSION!!』これか」
検索で出てきた1番上の動画を再生すると間も無く、『hot hot ハッピーデイ ようこそワンダーランド♪』と流れ出す。
もちろん初見なので振り付けは知らない。
のでアドリブで、体を動かす。
ステップ、ステップ、ターン、キック、ステップ、ターン。
『グングンGO!キラキラとはじけてきらめく ON, ON and ON (No stopping)』
ステップ、ステップ、ターンして……欲張ってバク転!
『HOT PASSION!! 騒げもっともっと!盛り上がってトロピカルに染まれ』
回って、蹴って、しゃがんで……ステップ、ステップ。
『ハハハハーモニー 行くぞ準備オーライ♪』
ザッ!
曲が終わると同時に地面を蹴り決めポーズをする。
すると後ろからパチパチパチパチと、小さな拍手が聞こえた。
振り返るとそこには今朝見た歌う少女の姿があった。
「……拍手どーも」
たった1人の観客に対してお礼を言って動画を止めてヘッドフォンを外す。
「あっ、勝手に見ちゃってごめんなさい!」
「いーよ。ストリートダンスってそういうもんだから」
オレンジ髪の少女は頭を下げたがダンス終わりで制服なのだ、暑くてそれどころじゃない。
ぼーっとする頭をなんとか動かし、その場に立ち止まって会話を続ける。
「キミこそ、今朝の歌、凄かったけどね」
「えっ、見てたんですか!?」
「見てた。よくあんな大勢の前で歌えるね」
何気なくその言葉を放つと、彼女の顔は曇り、
「大勢の前で……歌えたらいいですよね」
と小声で呟いた。
いや事実歌っていただろうと指摘をしようとすると今度は彼女が口を開きこう言った。
「あの、私澁谷かのんっていいます」
「はぁ……雨宮結です……」
「あの、雨宮さん!私の友達にスクールアイドルになりたいって子がいて、それで、その子にダンスを教えてくれませんか?」
「は?」
……なにこれ?新手のナンパ?
「お願いします!」
少女に深々と頭を下げられてしまった。
どうやらナンパではないらしい。
無下にするのもどうなのかと思い僕は彼女の頭を上げさせ、話を聞くことにした。
「要するに、キミがスクールアイドルに誘われていて、でもキミはスクールアイドルになる気はない。だからせめてものお詫びに僕という存在を与えようと」
「はい」
「なにそれ、僕の利益ゼロじゃん」
ナンパにしても酷い。
win -winの意味を知らないのだろうか。
「そもそも僕はダンサーじゃないし。本業の人に頼めば?」
「えっ、違うんですか?」
「キミねぇ……」
どう見ても学生服……あぁ、ストリートダンサーの服なんてあんまりアテにならないからか。
コスプレして踊る人だっているわけだし、確かに一見しただけでは断言できないかもしれない。
「というか、友達がーって何。まずその友達から僕に直接来なよ」
「確かに……」
言われて納得したような顔をした澁谷さん。
見切り発車だったのか、本当にいま気づいたのか?
「まぁというわけでご縁がなかったってことでね。それじゃ」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「…………なに?」
「実はこの後その友達と会う約束をしてまして……」
してまして。
後に続く言葉は簡単だ。
「よければ来ませんか?ってこと?えぇ……」
図々しいな。
どれだけ僕を巻き込みたいんだ。やっぱり新手のナンパじゃないだろうか。
うーん……嫌だ、といっても諦めなさそう。
すごい食いつきだったし、ここで断るより、その友達の前で直接断った方が話は早そうだ。
「いいよ。行ってあげる。でも、その友達から話を聞くだけだから」
「……!ありがとうございます!」
僕に深々をお辞儀をする彼女の姿に僕はちょっとだけ意地悪な自分へ、罪悪感を感じた。
これが彼女、澁谷かのんとの出会いだった。
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次回は4月1日です。