日が落ちかけた頃、完全に暗くなる前に僕らは会場についた。
今日は代々木スクールアイドルフェスの本番。
僕らの命運を分ける日だ。
代々木スクールアイドルフェス。
代々木周辺のスクールアイドルが集まるお祭り。
お祭りといってもトップ3は出るらしく、出場すると思われるチームの子は優勝を狙っているようだった。
「なんか……すごいピリピリしてるね」
「そうデスカ?お祭りって感じでワイワイしてマスケド」
「ちぃちゃんは大会とかよく出てるからそういうのに敏感なのかも」
僕も少しだけなら感じる。
大半のスクールアイドルが仲良く、和気藹々といった感じだ。
なかには他校のスクールアイドル同士で交流しているところもあるが
「優勝はあげないけどね☆」とか時々聞こえてくるあたり、お祭りではあるが本気のところもあるんだろう。
ましてあのサニーパッションが出るんだ。ラブライブの前の腕試しに来ているところもありそうだ。
「私たち、ここで歌うんだ……」
「前に見ただろ?」
「そうだけど、こんなに人がいるなんて……」
「可可も少し緊張してキマシタ……!!」
2人ともガチガチだ。
どれ、少し緊張をほぐして……
「かののんクーちゃん、コレいる?」
「……何コレ?」
「鹿肉。そこの出店で売ってた」
「いらない!なんでそんなもの持ってるの!?」
「え〜美味しいのに〜」
「あ、可可にはくだサイ」
出店。
確かに見回すとフェスティバルと名打つ通り、わたあめや焼きそばなどまるで夏祭りのような出店が開かれている。
それでなんであの中で鹿肉をチョイスしたんだ!?
「あ、猪肉もあるよ。ゆいちんどう?」
「いらない!!さっさとお前が食え!」
「なーんだ」と肩を落とした夏樹は串についた猪肉を口に入れる。
「なんだか力抜けちゃった」
「鹿肉美味しいデス」
2人の緊張は解けたらしい。
夏樹の能天気さはこう言う時に助かる。
『代々木スクールアイドルフェスに参加のスクールアイドルは、ステージ裏までお越しください』
会場にアナウンスが流れる。
「じゃあ行ってくるね」
「頑張りマス!」
かのんと可可さんの2人は手を振ってステージ裏へ走っていった。
僕らができるのはここまで。
あとはあの2人がどこまでやれるかだ。
さぁ、幕は上がった─────
『ただいまより!代々木スクールアイドルフェスを!開演します!!!」
ステージ上から高らかに司会のお姉さんが宣言する。
『さぁまずは代々木のスクールアイドルといえばこのグループ────』
と司会のお姉さんが喋っているうちに千砂都さんと夏樹に出演順を確認する。
かのんたちは後ろの方だ。
まだまだ時間はある。
「うーん、ここからだとちょっと遠いね」
夏樹が言った。
ここはステージから近すぎず遠すぎず、という中団の距離だ。
『LaLa──LaLaLa──La La La♪』
ひとグループ目のパフォーマンスが始まる。
…………悪くない。可可さんの歌だけでいけるか?
顔が思わず強ばる。
いけるか……これ?
「結くん」
「なに千砂都さ……痛い痛いなに!?」
急に頬を引っ張られて声が出てしまう。
「結くん、そういうのダメだよ」
「な、なにが?」
「あの子たちはアイドルなんだよ。そんな怖い顔をしてみちゃダメ!」
「そうは言っても彼女たちに勝たないとかのんたちは……」
「そんな顔で見られてかのんちゃんたちは嬉しいと思う?」
……それ……は……。
「ゆいちん、思うんだけどさ」
「夏樹」
「楽しめないお祭りなんかないよね!」
そう言った夏樹はその言葉と共に大きく手を叩き始めた。
俗に言う手拍子。
いまの流れているクラップ曲にピッタリだ。
「…………そうだよな。楽しまないとな」
「そうそう」
難しいことは後にしよう。
大丈夫。どんなグループでも、かのんたちならなんとかしてくれるさ。
今は信じて……手を叩くことにした。
「あ、ごめん2人とも。トイレ行っていい?」
6グループ目が終わりすっかり日が落ちて暗くなった。
グループの合間の時間で夏樹が催したらしい。
「かのんたちの番には帰ってこいよ」
「は〜い!」
元気よく返事をした夏樹はふらふらと場を離れた。
屋外だからトイレは近くのお店を借りるしかないから少し時間がかかるかな。
間に合うといいが。
「にしても凄いな。どこもレベルが高い」
てっきりお遊びレベルのところもあるかと思っていたが、どのグループも人前に出ても恥ずかしくない。
「でもかのんちゃん達も負けてないよ。今日のためにたくさん練習したもん」
流石千砂都コーチ。
彼女の生徒の出番が待ち遠しい。
実のところ、僕と夏樹は衣装作りで切羽詰まっていたため2人のダンスを最近見ていない。
僕が倒れていたせいで衣装作りがストップしていた時期があったからな。仕方ないと言えば仕方ない。
だから2人のステージが結構楽しみだったりしている。
「それではお次に登場するのはなんと結成から約1ヶ月!新人も新人の2人組!話題の新設校、結ヶ丘高校のスクールアイドル、クーカーです!!」
ナレーターが元気よく宣言する。
さて、とうとう2人の出番だ。
……というかクーカーってアレ本当に採用されたのか。
会場が拍手に包まれる中、クーカーの2人がゆっくりとステージの中央に登る。
……かのんは歌えるようになっただろうか。
結局ギリギリまで歌えないと言っていたが、ステージ裏でなにか心変わりするような出来事があればいいが。
ステージに上がったかのんの顔色はよいとは言えない。でも覚悟を決めたような顔をしている。
心変わりは出来なかったが、それでも可可さんを信じて委ねている、そんな感じか。
「……頑張れ」
横からボソリと小さな声でそんなことが聞こえる。
…………千砂都さんも不安みたいだ。
会場が静かになり準備体制に入る。
始まるんだ、2人のステージが。
バツンッ!
その瞬間、プツリとあたりが暗くなる。
最初は失明かと思った。
それくらい唐突だった。
それが停電であることに気づいたのは辺りの人が騒ぎ始めた時だった。
なんて間の悪い────!!
事態を飲み込めた瞬間そんな悪態が頭をよぎる。
落ち着け慌てるな。
今起こったことじゃない、これから出来ることを考えるんだ。
停電はスタッフが何とかしてくれるだろう。どれくらいかかるか分からないが少なくともその間はパフォーマンスは無理だ。
じゃあ何もしないで待つ?いやそもそも何もしなかったらこのイベント自体が中止になるかもしれない。
そうなったらかのんたちは部活として認めてもらえるだろうか。
ダメだ。どうする?
──っ!明かり……明かりさえあれば……!!
この際なんでもいい!懐中電灯でもいいからなんかないか!?
あたりを見回してもそれらしいものはない。
苦し紛れにカバンの中を探ると1つのものが僕の指に触れた。
────!!これなら!!
出来るか?いやコレしかない!ないならやるんだ!
となりの千砂都さんに目を合わせると彼女も鞄を探っていて同じようになにか気づいた顔をしていた。
…………同じ考えってことでいいんだな!
「千砂都さんはこの辺の人に!僕は前列に行きます!」
「わかった!お願い!」
後ろは────!!!
バッと振り向くと少し先には既に夏樹がいた。
距離があるので声は届かないが……!
僕らが行動に移れば察してくれるだろう。
素早くアイコンタクトを交わすと僕は前列に無理矢理割り込んでいく。
人混みをかき分けるその姿はとても注目されただろう。
────それがいい。
こっちを向いた人に片っ端からあるものを配る。
貰った人は最初は狼狽していたが、渡されたものの使い道を数秒考えた結果それを天高く掲げた。
そう、それでいい。
その光景を見た前列の人は意図を察したのか次々と僕に手を差し出す。
中にはすでに持っていたそれを掲げるものもいた。
……ホントに配ってたのかよ。
信じられない可可さんの行動を想像して笑ってしまう。
そう、僕が配っているのは可可さんが作っていたブレード。
その使い道なんてひとつ。
「頑張れー!!」「頑張ってー!」
自分の推しを応援するために光らせるに決まってる!
なんで顔を下げてるんだ。
キミはアイドルだろ。
キミが僕に言ったんだ。
僕は1人じゃないって。
ならかのんだって一緒なんだ。
だったら俯いてる場合じゃない!
ステージのかのんがこっちを見た。
目を輝かせて驚きの中に確かに喜びがあった。
僕はそれに応えるように彼女に対してブレードを振った。
色はもちろん、マリーゴールド。
彼女のイメージカラーだ。
「────歌える。1人じゃないから!」
明かりが一斉に付く。
それは僕らの瞳孔を縮め、彼女たちを明るく照らした。
『駆け抜けるシューティングスター』
『追いかけて星になる』
『煌めけ────────────』
次回更新は一度お休みを挟むので5/20金曜日になります