『これにて代々木スクールアイドルフェスを!閉幕とします!!』
会場が拍手に包まれる。
結果発表が終わってしまい、やっとフェスは終幕した。
結局、かのんたちクーカーは一位をサニパに取られてしまった。
しかし新人特別賞を貰っていたので、もしかしたら、どうにかなるかもしれない。
「さ、かのんちゃんたちを迎えに行こう」
ステージからはけたかのんたちを見た千砂都さんがステージへ向かう。
僕もうしろから続こうとすると後ろから肩を叩かれた。
「少しよろしいですか」
「あぁはい、なんです……か……!?」
振り返るとそこにはひとつ結びの黒髪少女、葉月恋がいた。
「葉月さん……!?」
千砂都さんは……もうステージに向かっていてこっちに気付いてない。
夏樹も見失った。僕1人だけの状況だ。
「……な、何のようですか」
「雨宮結さん。端的に用件をお伝えします」
用件?結ヶ丘の生徒会長が僕に用件?
「今後一切、貴方の結ヶ丘高校の校門を許可なく跨ぐ行為を不問とします」
…………?言葉が使いが難しいな。
えっと、僕が結ヶ丘の校門から無断で入ることを許してやる……かな、噛み砕くと。
…………んん?んんんんんんん????
「ええええええええええええっ!?」
どどどどどどどどういうこと!?
僕は自由に結ヶ丘に入っていいってことだよね!?
「な、何が目的だお前ぇ!」
「……随分な物言いですが」
そりゃ俺が嫌いな奴が俺によくわかんない許可をくれたら警戒するだろ!
「…………はぁ。一から説明します」
大きくため息をついた葉月さんは姿勢をただしてこちらに向き直った。
「結ヶ丘は音楽を重んじる校風というのはご存知ですか」
「話くらいはかのんから」
「スクールアイドル部が認められた場合、顧問を付けなければならないのですが……なにしろ前例がないためその道に通じる顧問もいないのです」
「なるほど」
「それであなたに白羽の矢が立ったのです」
会話が急に飛んだ!?
「僕じゃなくてよくないですかそれ。そもそも僕もスクールアイドルに通じてるわけじゃないですけど」
「……?本日の2人の引率者は誰ですか?」
クーカーの引率者は……
「……僕です」
「でしたらお願いします」
「要は僕に顧問をしてくれってことですか?」
「顧問ではありません」
「じゃあ何ですか」
「…………恥ずかしい話、部活の引率をするにあたっても給与は発生するらしいのです」
「……あー分かった。そういうこと」
都合よく僕を引率にすることで経費削減をしろと何処かから言われたんだろう。
いやもしかしたらそういう案が出たが却下されたのをこの女が勝手にやってるのかもしれない。
「……分かりましたよ。納得する。納得してやります」
どっちでもいい。
立場が一つ増える、それだけだ。
有意義に活用させてもらおう。
ただし……
「ひとつ教えてください」
「なんでしょう」
「なんで今なんですか」
僕の問いに葉月さんが少し怪訝な表情をした。
「どういう意味かお聞きしても?」
「言葉の通り。それを話すなら今じゃないって僕は思います」
「……続けてください」
「葉月さんはスクールアイドルを……なんでか知らないですけど、敬遠してるそうですね」
「否定はしません」
「なら……今ここでの会話はつまり、『スクールアイドル部を私は認める』と同義。2人は1位を取っていないのに。……スクールアイドルを認めたってことでいいのか」
僕の問いに少しの間目を閉じ沈黙した葉月さんは考えが纏まったのかゆっくりと開眼し、
「結果が出たのは確かです」
とだけ言って踵を返した。
どこか寂しそうに見えたその背中に、僕は何も言えなかった。
僕と彼女は似ている。かのんが以前そう言ったことがあった。
僕が彼女を嫌っているのは同族嫌悪だと。
とても納得いかないが……少しだけ分かってしまう。
あの顔は……何かを1人で抱え込んでいる。
そんな妄想が頭に浮かぶ。
いや、だとしても、僕は彼女とは無関係だ。
かのんみたいに1人じゃないと言える立場じゃない。
でもそう──彼女がもし、もしも彼女が救いを求めていたなら。
救えたらいいなと。そんな傲慢なことを思ってしまうのは、アイドルという生き方に僕が触れてしまったせいなのだろうか。
「結く〜ん?」
「ん?」
「あっいた〜!どこに行ってたの?かのんちゃんたち待ってるよ」
僕がいないことに気づいてステージ側から戻ってきた千砂都さんが駆けてくる。
「……ちょっといろいろとね。夏樹は?」
「それが夏樹もどこにもいなくて」
えぇ?オイオイ……どこ行ったんだよアイツ────
「─────んー!よかったよかった!」
ググッと背伸びをして体を伸ばす。
いやぁかののんのライブよかったなぁ〜!
でもやっぱりサニパ凄いや。一位、逃しちゃった。
クーちゃんたち大丈夫なのかなぁ……?
「あ、あの!」
「ん?」
後ろから呼び止められたから振り向いてみたらそこには金髪に緑色の瞳をもった女の子がいた。
「さっきはありがとうございました!」
「さっき……?あぁ!」
そういえばライブの前に!
────トイレ行ってスッキリしたことだし、クーちゃんたちのライブは〜あと3分後!?ちょっとゆっくりしすぎた!
ライブ会場に向けて走り出す。
幸いかなり遠いと言うわけではないからすぐに会場に着いた。
よし、あと……1分!ギリギリセーフ!
ステージを見上げるとちょうどクーちゃんたちが上がってきた。
ナイスタイミング!
バツンッ!
は?って停電!?
バッドタイミング!!なんでいま!?
周りを見回すと1人、座り込んでる金髪の女の子がいた。
「どうしたの?」
「えああっ……やっちゃったったらやっちゃったのよぉっ……!!」
だめだ、焦りすぎて僕の声が聞こえてない。
多分だけど、停電はこの子が原因。
どうにかして落ち着かせないと……。
落ち着かす方法……!落ち着かす方法……!
…………あっ。
「君可愛いね」
「可愛いっ!?私がっ!?」
反応した!
「うんうん可愛い可愛い。で、これはどういうこと?」
「これは……その、躓いちゃってなにがなんだか……!」
躓いて……見たところ彼女の手にある2本のプラグ。
焦って混乱しているから訳がわからなくなっているけど……!
「抜けたんでしょ。なら戻せばいいだけだよ」
そういうと同時に背中に視線を感じた。
振り返るとゆいちんが必死な顔でこちらを見ている。
ゆいちんがこっちをみる理由はなに?
すぐ顔を逸らしたということは……アイコンタクトのような……!
ポワッ、とステージ前方で光が灯る。
それはひとつ、またひとつと数を増やしていく。
「…………なるほどね、任せて!」
意図を察した僕は鞄の中に手を突っ込んでステージ後列を走り抜ける。
ペンライト、渡して回れってことでしょっ───!!
「……抜けたら……戻す……これったらこれ〜っ─────────!!!」
────みたいなことあったなぁ。
「律儀にお礼してくれてありがと。でも僕なにもしてないよ」
「そんなことはないです」
首を横に振って大きく否定をする彼女になんだか恥ずかしくなる。
「その制服……もしかして結ヶ丘?」
「はい、結女の一年生です」
「一年!同い年じゃん!タメ語でいいよ〜!僕時雨夏樹、よろしくね!」
「は、はい、私は……」
「タメ語っ!」
「へ、平安奈すみれよ。よろしく」
あ、いきなりグイグイ行ったからちょっと引かれちゃった。
僕の悪いところなんだよね〜。
前にゆいちんもコレ言われなぁ〜。
「すみれかぁ〜。すみすみ、すーみん、すみれん、すみみ、どれも違うなぁ〜?」
こう、いい感じにハマらないなぁ。
「なにそれ?」
「キミのあだ名。どうしよっか」
「ちょっと!もっとスター性のあるギャラクシー!な名前をつけなさい!」
「それだっ!」
「どれよ!?」
「ギャラ子!」
「ギャラ子!?」
決まった!ギャラ子!
「もっとまともな名前を」
「い〜やギャラ子!決めたったら決めた!」
腕を組んで屈しない姿勢を見せるとギャラ子は諦めたのかぐったりと「分かったわよ……」と項垂れる。
「とにかく!このお礼はちゃんとさせて貰うわ」
「お礼って……僕は何も……あっ」
そうだ。いいこと考えた。
「結ヶ丘だよね?さっきのライブ見てた?」
「え?えぇ。すごいライブだと思ったけど……」
「じゃあさ、入らない?どう?スクールアイドル部!」
「えぇ!?」
「お礼代わりにさ、ほんの少し頭に置いておくだけでいいから!」
「お願いっ!」と頭を下げるとギャラ子は考えるそぶりを見せた。
「その、入るわけではないけど体験でなら……」
「夏樹〜?どこだ〜?帰るぞ〜」
あ、ゆいちんが呼んでる。
油売りすぎちゃったかな?
「まぁそういうことだから!また会えたらその時にね!バイバイ!」
「え、あっちょっと!?」
僕はギャラ子の下を離れて人混みへ向かった。
「あ、いた。夏樹、どこ行ってたんだよ」
「うわっ、みんな揃ってる!」
「ごめんね、一位取れなかった」
「……にしてはすごくいい顔してるけど?」
「そうかな?そうかも!だって凄くいいライブが出来たから!」
「……そっか。なら大丈夫だろ」
「なんで結サンが保証するのデスか」
「ん?まぁさっき色々あったってコト」
帰路はゆっくりと。
暗闇の中へ。
街頭と星灯りが照らすその道は。
決して安心できるものではないけれど。
「素敵な事が始まる予感がする」
「違うぞ。始まってるんだよ。もうな」
希望は軽口と共に、夜空へ─────
次回更新は5/23月曜日19時になります。
感想や評価がモチベーションになるのでよければお願いします。